できれば書きたかったけれど、展開の都合上カットせざるを得なかったエピソードです。
三本の催醜と同じく、興味があれば読んでやってくださいな。
てことで、行ってらっしゃい。
視点:梓
「準さんが消えた!?」
いつも通り授業を受けていると、明日香さんからそんな内容のお話を聞かされました。
「消えたって……そりゃ、今日は授業に出てなかったけど、それだけじゃないの?」
「ええ。授業にも出てないし、部屋にもいないらしいの」
「では、大地さんとの約束通り、そのまま退学して……」
「そういうことになるわね」
先日、準さんは大地さんのブルーへの昇格を賭けた決闘を行った。しかし、それは昇格だけでなく、準さん自身の提案で、お互いの退学を賭けた決闘となってしまった。
なぜか。何でも決闘を行われる前に、大地さんのデッキが海に捨てられていた。そして、その犯人が準さんであると。
彼はそんなことはしない。私はそう信じていた。しかし、明日香さんはその光景を見ていたらしく、準さんも半ば認めているようだった。そして、明日香さんの発言以前に準さん自身の提案した確約事により、敗北した方の退学と言う条件で決闘が行われた。
その結果は、大地さんの勝利。準さんの敗北。
「……」
ガタッ
『うわぁ!』
「探します!」
立ち上がりながら叫ぶのと、驚いた明日香さん達の声が重なりました。
「探すって、万丈目くんを?」
「はい!」
あずささんに返事をしながら、走ろうとしましたが、
「ちょ、待って、落ち着いて……」
あずささんに着物の裾を握られ、それ以上前に進むことができなくなりました。
「ちょ、梓さんの生足が……////」
「着物を被った純白の太ももと、足袋と履物の上に輝くくるぶし……エロい!!////」
「ジュンコ……?////」
明日香さん達のよく分からない発言はともかく、その後大徳寺先生に話を聞いて、準さんの姿を目撃した、という話しを聞き、その場所へ向かおうとしたのですが、どうせなら人手が欲しいということで、翔さんと隼人さん、そして、現在罰でテニス部の練習をさせられている十代さんをお誘いすることになりました。
テニスコートに来てみると、何だかんだで十代さんは苦戦しているようです。
「立て! 立つんだ遊城十代君! これくらいで挫けちゃいけない! 今頑張らないでどうするんだ! 今日と言う日は今日しかないんだぞ!」
「当たり前じゃないか。何なんだこの暑苦しい奴は……」
「そして明日という日は明るい日と書くのだ! さぁ、明日の為にあと五十球!」
「五十球!?」
「どうだい! 元気が出てきたろ! 僕と一緒に頑張るんだ! 汗と涙は明日の糧になる! 美しき青春万歳!」
「元気な人ですね」
「元気、というか、ああいうのは暑苦しいって、いうんじゃないかな……」
「テニス部部長の、綾小路ミツルさんよ」
あずささん達とそんな言葉を交わしている間に、
「……終わったぁ!!」
十代さんはノルマを達成することができたようです。それと同時に倒れ伏してしまいました。
話し掛けるなら今でしょうか。
「十代さん」
名前を呼びながら、十代さんに近づきました。
「おや? やあ、これは梓君。嬉しいなぁ、僕に会いに来てくれ……」
「十代さん、実は……」
私が事情を説明すると、十代さんは快諾の表情を見せて下さいました。
「分かった。ならすぐに万丈目を探そうぜ」
「ええ」
「待ったあ!!」
「はい?」
「何だ?」
「今すぐ梓君から離れろ!!」
「私から?」
「離れろ?」
いきなり叫んだかと思うと、綾小路さんは更に叫んできました。
「あまりこういうことは言いたくないが、梓君、雪の妖精のような君に、オシリスレッドは似合わない! 君には、この僕のような男が相応しい。さあ、悪いことは言わない! 早くそのレッドから離れたまえ!!」
「……」
「……」
「離れればいいのですか?」
よく分からないまま、とりあえず二、三歩十代さんから離れてみました。
「これでよろしいのですか?」
「それでいい。そして……」
今度は何やら、言葉を溜めて、
「君は今日から、僕のフィアンセになるんだ!!」
「ふぃなんしぇ?」
「フィアンセだ!!」
「ふぃあんせ……?」
「そう!! すなわち婚約者だ!!」
「ああ、婚約者ですか……はい?」
『……』
『はああああああああああああああああああ!!』
私以外の、大勢の人達の声が唱和しました。
「いやー……」
色々と言いたいことはあるのですが……
「その、お気持ちは大変嬉しいのですが……」
「そうか!! なら決まりだね!!」
いや、そうでなくて、というか、どさくさに紛れて手を握ってこないで頂きたい……
「いや、あのですね、そのお気持ちは嬉しいのですが、私は男子なのですが……」
「ああ、分かっているとも」
あ、分かっているのか。
「分かっているのなら、私があなたとお付き合いできないということも……」
「性別なんて関係ない!!」
「は?」
「君のような美しい人は、僕にこそふさわしい!! たとえ、その性別が僕と同じ男であっても、性別を超越した愛を二人で育てていけばいい!! そして、僕達ならそれができると確信している!! そして、それは僕一人ではなく、君と二人でなければできることではない!! だから、婚約者になってほしい!! そして、将来結婚してほしい!! 二人で暖かく、永遠の幸せに包まれた家庭を築いていくではないか!!」
「……」
「無論タダとは言わない!! 今から僕は君に勝負を申し込む!! それに僕が勝ったなら、君は僕のフィアンセだ!!」
「……」
視点:あずさ
「相変わらず暑苦しいな……」
「あわわわわ、どうしよう、梓くんが、あの人のお嫁さんにされちゃう……」
「大丈夫よ。梓も呆れてるみたいだし……」
「そこまで私が欲しいと?」
……え?
『え?』
「そうだ」
「性別という垣根を越えた愛を私と共に育みたいと?」
「そうだ!」
「私と言う伴侶を持つことで訪れるであろう苦難と試練の日常を前にしてもなお私をあなたのものにしたいと!?」
「そうだ!!」
「それだけの苦難と試練の全てを受け入れ、乗り越え、共に歩んでいくだけの覚悟があなたにはあると!!」
「そうだ!!」
「そこまで言うのなら仕方がありません!! その勝負、受けて立ちます!! これであなたが勝てば、私はあなたのものだ!!」
『えぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!?』
「梓君」
「綾小路さん」
「梓君」
「綾小路さん」
「梓君!」
「綾小路さん!」
「梓君!!」
「綾小路さん!!」
「ぅ梓くぅん!!」
「ぅぅ綾小路さぁん!!」
「ぅぁぁああああ梓くぅううううん!!」
「ぅぁぁああああ綾小路さぁああああん!!」
「……何だあの二人?」
「暑苦しくて敵わないわ」
「ああ、そんな、どうしよう……」
このままじゃ、梓くんが……
それで、肝心の勝負の内容は、まあテニス部ということで、テニスになりました。
現在、二人はラケットを持って、コートに向かい合って構えています。
「梓! お前テニスやったことあるのかよ?」
十代くんの質問に、梓くんは笑顔で答えました。
「ええ、数えるほどですが。点を入れたら決め台詞を言えばいいのですよね」
「決め台詞?」
みんながその単語に引っ掛かった直後、
「さあ、行くぞ梓君!!」
と、試合が開始されました。
「サーブは僕からだ。遠慮なくいくぞ!」
もお、素人相手にいきなりサーブなんて、ずる過ぎるよ!!
「それ!!」
バッ
「うわ!!」
「速い!!」
そうかな? わたしにははっきり見えるけど……
その球が、梓くんに向かって飛んでいった。
(まずは一本目だよ、梓君)
「急くな、彦星」
バンッ
「……へ?」
梓くんが何か言ったと思ったら、ボールは綾小路さんのコートに飛んでいった。
「
(えっと、ここで決め台詞ですね)
「さー!」
「梓くん、それスポーツ違うよ!!」
「え? テニスの決め台詞ではないのですか?」
「テニスはテニスだけどテニス違いだよ!!」
わたしと翔くんの言葉に、梓君は首を傾げるだけだった。
「ま、まだ勝負は終わっていない。二本目行くぞ!!」
ちょ! 話してる最中になに打ってるの!?
(今度こそ! そして、このサーブこそが、正真正銘必殺の一撃……)
ドッ
(かつて、テニスと決闘のために山籠もりをしていた時、空腹で行き倒れていたところを助けて下さった破戒僧から、命を懸けた修行と引き換えに授かった破壊の極意。それをサーブに応用した、究極のサーブ、その名も……)
「二重の極み唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖!!」
ドオン!!
「げえ!!」
「何あれ!?」
おお、さっきよりちょっとだけ早く強くなった。
「幸よ……福よ……塵と消え」
バシッ
「ぐふぅ!?」
梓くんが、何か言いながら返したボールが、綾小路さんのラケットにぶつかって、ラケットごとお腹へぶつかった。
ギュルギュルギュルギュルギュルギュル……
「ぐ、おおおおおおおおおお……」
何とか押し返そうとしてる、けど……
「我の望む世となれば」
バァンッ
「おおおおおおおおああああああああああああ!!」
ガシャァアアッ!!
そのままボールに押されて吹っ飛んで、金網に貼り付けになった。
「
(よし、今度こそ……)
「ですが……涙が出てしまう。女子ですから……」
「色々間違ってるけどとりあえずそれもうテニスじゃねえ!!」
今度は十代くんが叫んだ。
「これも違うのですか?」
「全然違う!!」
さっきから何が言いたいのかなぁ。
「ぐ、うぅ……」
と、そんなことを話してるうちに、綾小路さんは何とか立ち上がった。
「う、うぅ……」
うわぁ、ボロボロだぁ。テニス、これ以上できるのかな……
「ぐふっ……あ、梓、君……」
「はい?」
「よく分かった……君相手に、テニスは無理だ……決闘で勝負しよう!!」
うわぁ、明らかに負けてるくせに、この期に及んで決闘ですかい……
「良いでしょう」
まあ、梓くんなら受けるよね。
ということで、今までと同じコートの上で、お互いに構えました。
「梓、頑張れー!」
「梓さーん!」
「フィアンセはダメだよー!!」
わたし達も、必死に応援します。
「いくぞ! 梓君!!」
「参ります! 綾小路さん!!」
『決闘!!』
梓
LP:4000
手札:5
場 :無し
綾小路
LP:4000
手札:5
場 :無し
「先行は私です。ドロー」
梓
手札:5→6
「魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚ドローします」
梓
手札:5→7
先行からいきなりそれ!? 手札事故かな……
「……済みませんが、少々時間を取りすぎたので、速攻で終わらせていただきます」
「なに?」
速攻? どうやって……?
「『アメーバ』を召喚」
『アメーバ』
攻撃力300
「『アメーバ』?」
「何だ? あの弱そうなモンスター」
十代くんと翔くんは、そしてわたしも、疑問に感じてる。今まであんなモンスター使ったことないよね。
「……」
あれ? 綾小路さんは、何だか渋い顔してるや。知ってるのかな?
「更に速攻魔法『トラップ・ブースター』! 手札を一枚捨てることで、手札から罠カードを一枚発動できます。私は手札を一枚捨て、罠カード『ナイトメア・デーモンズ』を発動!」
梓
手札:5→3
「『アメーバ』を生贄に捧げることで、あなたのフィールドに三体の『ナイトメア・デーモン・トークン』を特殊召喚します!」
『ナイトメア・デーモン・トークン』
攻撃力2000
『ナイトメア・デーモン・トークン』
攻撃力2000
『ナイトメア・デーモン・トークン』
攻撃力2000
「攻撃力2000のモンスターが三体……何を狙っている?」
「魔法カード『死者蘇生』。この効果で、墓地の『アメーバ』を再び特殊召喚します」
『アメーバ』
攻撃力300
「そして、魔法カード『死のマジック・ボックス』! 私の場の『アメーバ』と、綾小路さんの場の『ナイトメア・デーモン・トークン』一体を選択し発動。『ナイトメア・デーモン・トークン』を破壊し、『アメーバ』のコントロールを相手に移します」
「くっ!!」
あれ、余計に顔をしかめた。
「やるわね、梓」
へ? 明日香ちゃんは知ってる?
ももこちゃんとジュンコちゃんは分かってないっぽいけど……
「なるほど、そういうコンボか」
えぇ!? 翔くんも分かったの?
なんて思ってるうちに、『アメーバ』と『ナイトメア・デーモン・トークン』が変な箱に入った。そして、『アメーバ』の入った方にたくさんの剣が突き刺さった。
けどその後で箱が開くと、中にはたくさんの剣で蜂の巣にされてる『ナイトメア・デーモン・トークン』がいて、もう一つの箱には、無傷の『アメーバ』が……
「ここで、『アメーバ』の効果発動! このカードのコントロールが相手に移った時、相手に2000ポイントのダメージを与えます!」
に、2000ポイント!? だから綾小路さんは顔をしかめてたんだ。
「あ、あぁ……」
梓くんの宣言の直後、『アメーバ』はどんどん大きくなっていった。うわ、ちょっと不気味な光景。
そして、綾小路さんの背丈より大きくなった後、そのまま綾小路さんを飲み込んじゃった。
「あば、もご、ぶご……ごばぁ(ブクブクブク……)」
綾小路
LP:4000→2000
ああやってダメージを与えるんだ。見るからに苦しそう……
「ぜえ……ぜえ……」
「更に『ナイトメア・デーモン・トークン』が破壊された時、そのコントローラーは一体につき800ポイントのダメージを受けます」
「えぇ!?」
『アメーバ』の中から出てきたばっかの綾小路さんに、容赦なく『ナイトメア・デーモン・トークン』から出た白い魂が襲い掛かった。
「うおおおおおおおおお!!」
綾小路
LP:2000→1200
「そして最後です。魔法カード『ブラック・ホール』! フィールドのモンスター全てを破壊します!」
「なにぃ!?」
綾小路さんが叫ぶと同時にフィールドに真っ黒な渦が生まれて、その中へ残り二体の『ナイトメア・デーモン・トークン』が、楽しそうに飛び込んでいった。
「一体につき800ポイント、合計1600ポイントのダメージです!」
「バカな……バカな!!」
そしてさっきと同じ、二体のトークンから出てきた白い魂が、綾小路さんに向かって……
「先行ワンターンキル、だと……僕の十八番がああああああああああああああ!!」
綾小路
LP:1200→0
「あ! 思い出した!!」
決闘を終えた後、梓くんは急にそう叫んだ。そして、満面の笑みを綾小路さんに向けて、
「まだまだだね、です!」
「……いや、確かにそれテニスの決め台詞だけど……」
「これ決闘だし、テニスじゃないし……」
「……まあ、本人が満足したからいいじゃん」
「けど、それを差し置いても、すごかったわ。決闘もテニスも……」
十代くんや翔くんと違って、明日香ちゃんは純粋に決闘やテニスに驚いてる。
周りで見てる人はどっちのこと考えてるのかな……
「よき決闘を、感謝致します」
あ、それも言うんだ一応……
「それでは、行きましょう」
と、梓くんはわたし達の方まで歩いてきて、そう言いました。
わたし達は黙って頷いて、歩き始めました。
綾小路さんは……
「……」
何か呆然としてるし、放っておいていいよね。
「……ねえ、梓くん?」
「はい?」
「その……さっき、梓くんは本当に、綾小路さんの、フィアンセ、に、なってもいいって、思ってた?」
「……まさか。ただ、綾小路さんの本気の気持ちは伝わってきたので、それは汲み取らなければならないと思っただけです。勝負には最初から勝つ気しかありませんでした」
「そ、そうなんだ……」
「もちろんです。私が婚約者として望むのは、この世にただ一人……」
「……え? なに?」
「いえ、何でもありません……」
「えぇ、なになに?」
「いえ、お気になさらず……////」
「どうして赤くなってるの?」
「……////////////////」
(よく分からないけど、可愛いからいっか……)
『(ニヤニヤ……)』
お疲れ~。
いやぁ、久しぶりにネタでしかないお話が書けて楽しかったよ。やっぱたまにはこういうのも書かなきゃね~。
では、オリカ。
『トラップ・ブースター』
速攻魔法
手札を1枚捨てて発動する。手札から罠カード1枚を選択して発動する。
遊戯王GXにて、ミスターフランツが使用。
物にもよるけど、手札一枚ってのが地味にきついかな。
そこまでのコストを要して発動する必要があるカードと言うのもそんなに思いつかない。
アニメじゃフランツは『血の代償』を発動していたけれど、他に何かあるかね。まあ悪用はできそうだが。
以上。
これで本当に第四部は終了です。それじゃあ今度こそ続きを書いていきます。
つってもいつになるかねえ。
けど今はこれしか言えないから、言わせてもらおう。
ちょっと待ってて。