遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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第五部の~、第一話~。
先に言っておく。新章だからって、一話目からかんなり長くなってしまったよ。
おまけに、今回主役は梓じゃないんだ。
なら誰か。まあ、タイトル見りゃ大体分かるだろうけれど。
それらのこと踏まえて、読んでやるか、と言う人達へ。
行ってらっしゃい。



第五部 一年目の終わり
第一話 学園祭


視点:十代

「おはようございます。十代さん、翔さん、隼人さん」

「おっはよー、梓!」

「おはようございます」

「おはよう」

 

 梓が帰ってきて、何日か時間が経った。

 最初は、みんなが待ってた梓が帰ってきたもんで、授業中も中々生徒達の興奮が抜けなくて、今みたいな登校時間や、休み時間、あとは帰る時間になる度に梓の周りに生徒が集まってきて、こんなふうに言葉を交わすどころじゃなかった。

 けどまあ、数日もすればさすがに慣れたもんで、みんな大人しくなって、今じゃ、いなくなる前くらいの日常を一緒に過ごしてる。

 ただ、いなくなる前とじゃ、変わったこともあるんだよなぁ……

 

「おはよう、梓、十代」

 話しながら並んで歩いてると、後ろから、そんな明日香の声が聞こえてきた。

「よう、明日香」

「おはようございます。明日香さん」

「おっはよ~、十代くん達~」

「おはよう、あずさ」

「……おはようございます」

 明日香と並んでたあずさが挨拶した時、梓は露骨に視線を逸らして、それ以上は何も言わなくなった。

「……じゃあ、また後で教室でね」

「お、おお……」

「ええ……」

 顔は笑ってるけど、声はかなり暗い。そんな梓を見ながら、あずさは変わらない笑顔のまま、明日香と並んで歩いていった。

 

「……やっぱりわたし、嫌われてる、よね……」

「そんなこと、無いと思うけど……」

 

「……」

「梓?」

 ずっと顔をしかめたままだ。

 あの日以来、梓はずっと、あずさに対してこんな態度を取ったままになってる。

 その理由は、あずさ以外の全員が知ってる。

 それは……

 

「……ぶぁっはあ!!」

 

『……っ!』

「いや~~~~~~~~~~~~~んんん!!////////」

 話し掛けた瞬間その場に伏せて、顔を隠してそんな喘ぎ声を上げやがった。

「どお~しましょぉ~~~//// 彼女と言葉を交わしたいのにぃいぃ~//// まともに顔すら見られないぃいい~~~~////」

「……」

 まあ、言わなくても分かるよな。

 要するに、いなくなる前と一緒で……むしろそれ以上かな、あずさのことが好き過ぎてまともに会話ができねえってことだ。

 話しを聞くと、結局あずさのことは忘れたままになってるらしい。けど、そんなあずさのことが好きだって気持ちはあの頃と全然変わってなくて、あの頃はフラれたと思ってたから普通にしてたけど、それすら忘れた今じゃこの有様ってわけだ。

「そんなに好きなら、いっそ告白してみたらいいんじゃない?」

「それは無理です」

「どうして?」

 この問答も、何度もしてきたけどな。

「なぜでしょうか……彼女を見ていると、私にはそんな権利が無いように思えてしまって……」

『……』

 その理由は、本人も言った通り、分かってないらしい。

 フラれたことも何となく覚えてるのかな?

 ってか、正確にはフラれてると思っただけで、実際にはフラれてないんだけどな。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そんな感じの毎日が続いて、気が付くと、アカデミアの学園祭の日がやってきた。

 三つの寮それぞれが、露店だったり何だったりで色々と出し物してるけど、俺達レッド寮での出し物は、『コスプレ決闘大会』ってやつらしい。

 それを、どういうわけか、イエローのはずの翔が全部仕切ってる。

 

「それで、肝心の翔はどこへ消えたんだ?」

 俺にそう聞いてきたのは、『アマゾネスペット虎』にコスプレした三沢。

「あいつは今、梓に会いにブルー寮に行ってる」

「梓に? 梓も参加するのか?」

 三沢とは逆から聞いてきたのは、万丈目。そのコスプレは、『XYZ-ドラゴン・キャノン』。間違いなく俺達の中で一番目立ってる。素人の仕事じゃねえ。

「いや。梓は他に出し物があるってさ」

「ならば何をしに行ったのだ?」

「それがさぁ……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 梓もどうにかコスプレ決闘大会に誘えねえもんかって、張り切って行ったは良かったんだけど……

 

「こすぷれ……?」

「コスプレ」

「……お茶か出汁でもこすのですか?」

「じゃなくて……簡単に言うと、梓さんが『ブラック・マジシャン』なんかの格好をして決闘する、みたいなことっス」

「ああ、仮装ですか」

「……うん、まあ、ちょっと違う気もするけどその理解でいいよ」

 

 それで、誘ったんだけどな……

 

「ええ? どうしてもダメなんスか?」

「ごめんなさい。既に当日に行うことは決まっておりまして、協力して下さる方々も集まって頂いているものですから。今から中止、というわけには、どうしてもいかないのです」

「そうなんだ。残念だなぁ、当日はあずささんも参加するのに……」

 

 ガタッ

 

「あずささんも……?」

(あ、食いついた……)

「そう。平家あずささんも」

「ほう、そうですか……ちょっとした興味でお尋ねしたいのですが、ちなみに、あずささんは、どのような、こ、こ……仮装で?」

「コスプレね。あずささんは、『地霊使いアウス』だって言ってた」

「地霊使い……確か、地属性で、四人の中で唯一眼鏡を掛けた……」

「そう。そのアウス。髪の色とか体型とかが似てるからって」

「あずささんが地霊使い……杖を持って、眼鏡を掛けて……」

 

「あ、あずささん、鼻血が……(あとどこ押さえてるんすか……)」

「(ズリ……)あ、いや……お誘いは嬉しいのですが、やはりこちらもむげにはできません。残念ですが……」

「そうっすか……(義務が欲情に勝った……)」

 

 それで、諦めたんだけど……

 

「そうだ。それでは、私から一人、紹介しましょうか」

「紹介?」

「ええ。私よりもずっと可愛らしい人ですよ」

「へえ、そんな人がいるの?」

「はい。学園祭の当日、私の部屋へ来てください。ああ、私の出し物の準備もありますので、できるだけお早くお願いします」

「分かりました」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「それで、今はその可愛い子を迎えに行ってるってわけだ」

「ふむ。あの梓が、自分以上に可愛いと認める女子がいるとは……」

「だが謙虚な梓のことだ。言うほどの美人とは限らんぞ」

「ああ、確かに」

「ちなみに今の話しは、あずさには内緒な」

「分かっている」

 ならいいんだけど……

 ちなみにそのあずさは、さっき話した通り、杖と『デーモン・ビーバー』の風船持って、眼鏡を掛けた『地霊使いアウス』の格好して、端の誰もいない所で六人組と話してる。

 まあ、その六人が見えてるのは俺と万丈目くらいだけど……

 

「それで、あんた達はなにその格好……」

『なにって、見て分かんだろう。『六武衆-イロウ』じゃねえか』

『どこからどう見ても、『六武衆-ニサシ』だが』

『『六武衆-ヤイチ』だよ』

『『六武衆-カモン』です』

『『六武衆-ザンジ』だ』

『『六武衆-ヤリザ』……』

「そんなこと見たら分かるよ。なんでそんな格好なの?」

『そりゃあ祭りだからなあ。楽しまねえと損じゃねえか。だから私らもコスプレだ』

「コスプレって、着替えただけじゃん……何も後輩の格好することも無いでしょうに。それもしっかり自分と同一属性の人物だし……」

『良いじゃないか。見なよ、僕の奥さん。男の鎧や爆弾が似合う女性もこうはいないよ』

『やだ、シナイ//// シナイも弓矢がとても似合っています////』

『ありがとう。もっとも僕は弓矢は使えない。射抜けるのは、いつだって君のハートだけだ』

『シナイ////』

『ミズホ……』

「……仲が良いのはいいけどさ、場所くらい選びなよ。いくらわたしと一部の人しか見えないからって、見てるこっちが恥ずかしくなるから」

『僕の得意の武器は、弓矢でなく金棒だ。君が望むなら、今すぐ君の中に僕の金棒を……』

「言わせねーよ!!」

『はい////』

「はいじゃないから!! 朝っぱらからなに考えてんだあんたらは!?」

『せいこ……』

「だから言わせねーよ!! 時間を考えて!! つーか他の四人は見てないで止めてー!!」

『……諦めろ。私達は諦めている』

「おいキザーン!! 真六武のナンバー2どうしたー!?」

『まあそう硬くなるなよ。緩く行こうぜ緩くよ』

「原因はあんたか!? 真六武の長のあんたかシエンこら!!」

『ミズホ……』

『シナイ////』

「さり気にお互いの鎧に手を掛けるんじゃない!! こら脱ぐな!! 私の前でふしだらな真似はやらせねーよ!!」

 

「……」

 相変わらず騒がしいな。あずさがあいつらを率いるようになってから、毎日あんな感じなんだよな。

 とまあ、話しは翔のことに戻って、

「けどさ、何でか後でカミューラまで呼ばれたんだよな」

「カミューラも?」

「ああ」

 梓が戻った後、ケガが全快したカミューラは、その料理の腕を見込まれてレッド寮での炊事を手伝わされてる。その日以来、毎朝の飯が少しだけ豪勢なった。

 そんなカミューラが、何で梓の元へ行くことになるんだ?

 

「……あ、カミューラが来たわよ」

 と、ジュンコやももえとで『ハーピィ・レディ三姉妹』の格好した明日香がそう言って、指さした先には、『ヴァンパイア・レディ』にコスプレしたカミューラが歩いてきてた……て、何度見ても、コスプレの意味ねえだろう、元がヴァンパイアなんだからさ。

 けど、

「あれ? 翔は?」

 て、疑問に感じたけど、よく見たら、カミューラが何かを後ろに背負って歩いてる。それも人だ。体型からして、女の子か?

 

「待たせたわね。お待ちかねの美少女よ」

 

 その言葉で、レッド寮に集まってる全員の視線が集まった。そんな中で、背負ってた誰かを下ろすと、それは……

「うお!?」

「おっ!」

「ぬ!?」

 

「え?」

「まあ……」

「な……!」

「おお!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 集まってた、俺達以外の男子全員の声が唱和した。

 そこにいたのは、『カードエクスクルーダー』。ピンク色のローブとブーツを着て、右手には先に丸い宝石の付いた杖。緑の髪と紫色の帽子を被った、背の低い幼女は、その格好が恥ずかしいのか、赤面しながらはにかんでる。

「梓以上の美少女……」

「確かに、人によっては梓以上だな……」

 『カードエクスクルーダー』の精霊って言われても納得できるくらいのクオリティだ。

 と、そんなことを思ってるうちに、その子はカミューラに手を引かれて、何だか歩き辛そうにこっちまで歩いてきた。

「さあ、確かに送り届けたわよ」

「……」

 そう言ったカミューラも、少し赤面してる。まあ確かに、俺から見てもめちゃくちゃ可愛いからな。

「よう、俺は遊城十代。お前の名前は?」

「……」

 聞いてみると、何だか口をぼそぼそ動かしてる。恥ずかしがり屋か?

「何だって?」

 そう聞きながら、耳を近づけてみた。見てみると、三沢に万丈目、おまけに、あずさと、明日香達四人まで。

「……」

 と、また声が聞こえてきた。

『……』

 

「兄貴、僕だよ……」

 

『……』

 

『はあ!?』

 やべ、全員で声出しちまった。周りの視線が集まってる。

「え……翔、なのか……?」

 俺達にしか聞こえないよう、声を落として聞いてみた。

「そう、僕だよ、僕……」

「翔……何だってお前が、そんな格好を……」

「……梓さんてば……」

 

 ―「誰も女子だとは言っていません。あなたではないとも」

 

「……て、ニヤニヤ楽しそうに無理やり僕にこんな格好させて……」

 

『……』

 梓らしいな。けどまあ、三沢と万丈目以外、翔の眼鏡の下がどうなってるかは分かってたことだけど。

「翔く~ん……////」

 て、ももえはまた赤くなってるし。

「それで翔、眼鏡はどうした?」

「カミューラが持ってる……」

「カミューラが?」

「掛けたらばれちゃうからって。お陰でほとんど何も見えないんだ」

 それでカミューラを迎えに呼んだってわけか。

「では、私が翔くんを導いて……」

「私が手を繋いでおくわよ」

 て、横からカミューラがその手を握った。

「あ、ありがとうカミューラ」

「いいのよ。気にしないで」

「……」

 あれ? 何か、ももえの顔がえらく不機嫌だな。

 

「ちょ、翔君たらいつの間に……」

「おぉ、これは修羅場だね……」

 明日香とあずさはよく分からないこと言ってる。

「ふぅむ、私的には、ももえ頑張れとしか……」

 ジュンコまで、そう言った、その時、

 

「誰か、このセットの設置手伝って欲しいんだな」

 

 隼人の声が聞こえた。

「あ、は~い//// 今そっちに行くわ~////」

 て、ジュンコが声色変えながら、隼人の所へ走っていった。何か、さっきまでのももえに似てる。

 

『……』

「三沢」

「何だ? 万丈目」

「……いや、やはりいい。語らうだけ虚しいだけだ」

「そうか……そうだな……」

 

 ポン……

 

『……!』

「そう気を落とすことはないさ」

「な……」

「吹雪さん……?」

「君達は二人とも恋を知っている。そんな二人にもそれぞれ魅力はある。だから自信を持て」

「あぁ、どうも……」

「そうですか……」

「では、僕は愛する妹の晴れ姿を写真に納めてくるよ!」

『……』

 

「……?」

 あの三人は何を言ってるんだ?

 けど、改めてみると……

 やっぱ、翔って女装が似合ってるなあ。可愛いぜ。

 

「十代……(フルフル)」

(おや明日香、君もかい?)

 

 

 とまあ、そんなこんなで、コスプレ決闘大会の準備も完了した。あとは、翔の司会で始まる。

「そう言えば、梓は結局、何するって言ってたんだ?」

 始まる前に、疑問に思ったことを聞いておくことにした。

「よく分からないけど、一品料理のお店出すって言ってた」

「いっぴん料理?」

「うん。何人かのメンバーと一緒に、ブルー寮でお店出してるらしいよ」

「へぇ。行ってみたい気もするな」

 けど、ブルー寮で露店はたくさん出てるって話だし、客が来るのかは疑問だけどな。

 

 

 

視点:外

 

 ところ変わって、ブルー寮の、とある一角……

 

「三番テーブル、『揚げ出し豆腐』、『とろろ飯』、『ハモのお吸い物』、『筑前煮』、『さんまの塩焼き』です!」

「三番、『揚げ出し豆腐』、『とろろ飯』、『ハモのお吸い物』、『筑前煮』、『さんまの塩焼き』、了解です」

 

 食事処『梓』。

 そう書かれた看板が掛けられた出店の前には、大勢の生徒達が集まっていた。

 始めの方こそ、梓目当ての生徒が数人集まる程度だったのだが、

 

「やばい、ここの料理美味すぎる」

「ほっぺたが落ちそう……」

「はぁ、うちの専属コックよりもずっと美味しい……」

 

 といった評判がブルー生徒を中心に広がり、やがて列は行列となり、行列は混雑と変わり、中には自分達の露店や出し物を放り出して並ぶものまで現れる始末だった。

 

 そして、そんな食事処で、梓と共に働く者達は……

 

「では麗華さん、五番が空きましたので、お皿を下げて布巾を掛けて下さい」

「はい! ……て何で私がウエイトレスを……?」

「取巻さん、山芋は?」

「今全部擦り終えました! すぐに出し汁とウズラ混ぜちゃいますね!」

「ではそれが完了したらそのままご飯に掛けて出して下さい。あと、三番の炊飯器がもう少しで炊けるので、そちらもお願いします」

「分かりました!」

 

「慕谷さん、お皿は?」

「たった今全部洗い終えました」

「では糠床(ぬかどこ)からきゅうりを二本お願いします。切る前によく洗ってください。その後すぐにお皿も来ますのでお願いします」

「ラジャー!」

 

「追加注文! 四番テーブル『ずんだ餅』一つ!」

 

「四番『ずんだ餅』、了解です、アズサ。井守さん」

All(オー) right(ライ)!! ずんだは任せな!! たった今全部擦り終わったところだぜ!!」

「ではお餅に絡めてそのまま出して下さい。それと、『ハモのお吸い物』もお願いできますか?」

Of(オフ) course(コース)!! 任せときな!!」

 

「まだまだお客さんが来ますので、皆さん頑張って下さい!」

 

『はい!!』

「うん!!」

Year(イェアー)!!」

 

「『揚げ出し豆腐』、『筑前煮』、『さんまの塩焼き』、上がりましたー」

 

 

 

視点:翔

 

『さあ! 今ここに、コスプレ決闘大会の開会を宣言するぜー!!』

 

『おおおおおおおおおおお!!』

 

 マイクで拡大された兄貴と、他の生徒達の声が聞こえた。

『司会はこの俺、遊城十代。そして解説は、これは凄えぜ、『XYZ-ドラゴン・キャノン』!』

「イエーイ」

 本当は僕が司会のはずだったけど、結局よく見えないから、司会の役は兄貴にやってもらうことにした。

『さあ、早速決闘してもらうぜ。まずは……』

 

「はい!」

 

『お! そこの『ガーディアン・デスサイズ』』

 

「俺、そこの『カードエクスクルーダー』と決闘したい!」

 

 え?

『え?』

 

「俺も!!」

「俺だって!!」

 

 と、そんな声が段々広がってきてる。

『いや、えっと……』

 

「決闘させてくれ!」

「『カードエクスクルーダー』!」

「カードエクスクルーダー!!」

 

『カードエクスクルーダー!!』

 

「……何これ、モテ期?」

「違うと思います」

「違うと思うわ」

「あ、そう……」

 左右に立つカミューラと、ももえさんがそう言った。

 ちなみに、最初カミューラだけだったのが、その後すぐにももえさんも近くまで来た。

「……(バチバチ)」」

「……(バチバチ)」」

 二人の顔が見えなくて、シルエットしか見えないけど、さっきからそんな音が聞こえるんだよね。何だろう、この花火というか、火花というか、そんな音……

 

『カードエクスクルーダー!!』

 

 ……て、そんなこと言ってる場合じゃない。

「……仕方ない」

「翔!」

「翔君?」

 

『うおおおおおおおおおおお!!』

 

 かろうじて見える目の前の光景を頼りに、どうにか決闘場まで歩いた。

(おい翔、大丈夫なのか?)

(こうなったら仕方がないよ)

(けどお前、いつものデッキ使ったら正体がばれるぞ)

 ばれたらそんなにまずいんだろうか……

(大丈夫。この格好のためのデッキもあるから)

(マジ? 何でそんなもの……)

(……梓さんからもらった)

(……また梓かよ)

 

 ……

 …………

 ………………

 

「翔さん、これを」

「なんスか、これ?」

「『カードエクスクルーダー』の使用するデッキです。あなたに差し上げます」

「差し上げるって……貸してくれるんじゃなくて、貰っていいの!?」

「ええ。どうせ余ったカードで組んだデッキなので、惜しくはありません。もちろん調整は自由ですよ」

「そうなんだ、ありがとう……」

 それで、まあ期待はしてなかったんだけど、

「……すごい。ファンデッキではあるけど、ちゃんと戦えるよう構成されてる。これならすぐにでも決闘できそう」

 

 ……

 …………

 ………………

 

(まあそれでも、お祭り用の域は出ないんだけどね……)

(相変わらず、梓は用意が良すぎだろう……で、その目で決闘できるのか?)

(大丈夫。ぼやけてるけど、何のカードかは見たら分かるし、デッキのカードは全部把握してあるから)

(……)

 

 

 

視点:外

 

『まあいいや。それじゃあ、この『カードエクスクルーダー』と決闘したい奴はいるかー!?』

 

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 十代の呼び掛けに、また観衆がざわついた。

 そして、そんな光景を、遠巻きに見る三人の男。

「ふうむ、あれがセニョール翔とは、本当なノーネ?」

「ええ。お二人には言っておきますが、他には内緒にしておいて下さい」

「それは良いが……だが、翔がな。眼鏡を外して女装するだけで、ああも変わる物か……」

「確かに……」

 

 そんな、三沢に真実を知らされるクロノスと亮の反応などつゆ知らず、十代はただ、頭を掻く。

『参ったなぁ。こう希望者が多いんじゃ、誰か一人には……』

 

「あの……」

「え?」

「私も、決闘してもいいですか?」

 

「おい、あれ……」

「『ブラック・マジシャン・ガール』だ!」

「可愛い。そっくりじゃん」

 

「決闘か。させてやりたいけど、他にも希望者が多いし……」

「良いだろう。ならばお前がカードエクスクルーダーの相手だ」

「えぇ、いいのかよ、万じょ……XYZ?」

「構わん。このコスプレ決闘実行委員長、『XYZ-ドラゴン・キャノン』が許す」

「そうだったの……?」

 けど、あのブラマジガールって……

 

『まあいいや。それじゃあ、カードエクスクルーダーの相手は、この『ブラック・マジシャン・ガール』だー!!』

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 彼女が翔の向かいに立ち、更に歓声は沸き立つ。

 

 そして、そんな光景を唯一まともに見ることのできない男は、

(相手は『ブラック・マジシャン・ガール』か。シルエットと声からして、トメさんじゃなさそう……まあ、それより……)

 別の思いを抱いていた。

(『カードエクスクルーダー』は幼女だし、梓さんも、格好に合った演技を努力して下さいって言ってたしな……よし)

 

『それじゃあ、早速決闘してもらうぜ! 決闘、スタート!!』

 

『決闘!!』

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

カードエクスクルーダー

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

『先行は、ブラマジガールだー!』

 

「いっきまーす! せーの!」

 

『カードドロー!』

 

 大勢の歓声を巻き込みながら、カードをドローする

 

ブラック・マジシャン・ガール

手札:5→6

 

「私は、モンスターをセット。これで、ターンエンド」

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    無し

 

 

『さあ、ブラマジガールは静かな立ち上がり。どう読むよ、XYZ』

『まあ、無難な一手ではある。あそこからどんな戦略が広がるか、今は何とも言えんな』

『うん……さあ、次はお待ちかね、カードエクスクルーダーのターンだー!!』

 

「はぁ~い、頑張りまぁ~ス」

 

『……え?』

「む?」

 

「あら?」

「はい?」

 

「お?」

「ん?」

「ニョ?」

 

 それは、先程まで十代と会話していた翔の声とは、明らかに違っていた。

 

「けど、カードエクスクルーダーじゃ長いでスから、エクスのことは、『エクス』って呼んでくださぁ~い」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおお!! エクスちゃあああああああああん!!』

 

 声は必要が無いほど高く、口調は実年齢に伴わない幼さを交え、顔は満面の笑みと愛着。おまけに可愛らしいポーズ。

 カードイラストの通りの幼女が、そこに姿を現した。

 

「いきまスよ! ブラマジガールのおねえちゃん」

 

「おい、XYZ……」

「ああ。目がほとんど見えていないにも関わらず……だが翔は、弾けた」

 

「翔、君……?」

「やだ、あの子ったら……」

 

「じゃあ、エクスもいきまぁ~ス! エクスのターン、カード……」

 

『ドロー!!』

 

カードエクスクルーダー

手札:5→6

 

 ガールがそうしたように、人心を掴むのも忘れてはいない。

「エクスは、永続魔法『次元の裂け目』を発動しまス。これで、エクスと、ガールのお姉ちゃん、お互いの墓地に行くモンスターは、ぜぇ~んぶ除外されちゃいまスよ」

 

『おおっと! どうやら、カードエクスクルーダー、もとい、エクスのデッキは除外中心のデッキみてーだ!』

『除外か。エクス自身が除外効果持ちだからな。だが、非常に複雑なデッキでもある。ここからどうするのか……(もっとも、翔の一番得意とする戦術だがな……)』

 

「エクスは手札より、『ピクシーナイト』を召喚しまス!」

 

『ピクシーナイト』

 レベル2

 攻撃力1300

 

『おお、見た目の通り可愛いモンスターが出てきたな』

『可愛い、か……?』

 

「ばとるでス! 『ピクシーナイト』で、その守備モンスターを攻撃しまスよ!」

 その宣言で、『ピクシーナイト』がセットモンスターに向かい、両手をかざしながら呪文を唱えた。そこで、セットモンスターが表になったが、

 

『ファイヤーソーサラー』

 レベル4

 守備力1500

 

「『ファイヤーソーサラー』の守備力は1500。『ピクシーナイト』の攻撃力では、戦闘では破壊されない」

 

カードエクスクルーダー

LP:4000→3800

 

「うぁぁ、やっちゃいましたぁ~……」

 

「ドンマイ、エクスちゃん!!」

「まだまだこれからこれから!!」

「だから泣かないでー!!」

 

(まあ、普通こんなことで泣かないけど……それにしても、『ファイヤーソーサラー』か。ということは、彼女の狙いも僕と同じってことか……)

 

『さあ、戦闘破壊はならなかったぜ』

『そして、『ファイヤーソーサラー』には特殊能力がある』

 

「『ファイヤーソーサラー』の、リバース効果発動。手札のカードをランダムに二枚、除外することで、相手ライフに800ポイントのダメージを与える」

 

ブラック・マジシャン・ガール

手札:5→3

 

「あうぅ……」

 

カードエクスクルーダー

LP:3800→3000

 

「ごめんね」

「いいえ……」

 

「あぁ、エクスちゃんが……」

「ブラマジガールも、可愛い顔して中々えげつねえな……」

 

「う……」

「……では、めいんフェイズでス。エクスは魔法カード『手札抹殺』を発動しまス!」

「え!」

 

『おおっと! お互いに手札総入れ替えのカードだ!』

(バトル前ではなく、バトル後に発動だと……)

 

(こういうプレイミスも、幼女ならするよね)

「お互いに、手札を全部捨てて、捨てた枚数分ドローしまス。そして、『次元の裂け目』の効果で、モンスターを全部除外しちゃいまス!」

「分かった」

「エクスはもう一枚、『天使の施し』を発動します。カードを三枚ドローして、二枚を捨てます……来ました! 速攻魔法『ディメンション・マジック』! エクスのフィールドの『ピクシーナイト』を生贄に、手札の魔法使い族、『カードエクスクルーダー』を特殊召喚しまス!」

 

『カードエクスクルーダー』

 レベル3

 攻撃力400

 

『来たああああああああああああああああああああああ!!』

 

「うぉ、うるせ……」

「……まあ、無理も無いが……」

 

「先に呼ばれちゃったかぁ……」

「更に、お姉ちゃんの場の『ファイヤーソーサラー』を破壊しちゃいまス!」

「ありゃりゃ……」

 『カードエクスクルーダー』を召喚した棺が、今度は『ファイヤーソーサラー』を棺に納めてしまった。

 

「いいぞー! エクスちゃーん!!」

 

「最後に、カードを一枚伏せまして、ターンえんどでス」

 

 

カードエクスクルーダー

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『カードエクスクルーダー』攻撃力400

   魔法・罠

    永続魔法『次元の裂け目』

    セット

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:4000

手札:5枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

『エクスの手札はゼロか』

『『手札抹殺』の発動タイミングのミスが響いたな(まあ、翔のことだからわざとだろうが……)』

 

「じゃあ、私のターン、行っくよー!」

 

『おおおおおおおおおおおおおおお!!』

 彼女の声で、再び歓声が起こるが、先程よりも遥かに少なくなっていた。

 

「カード……」

 

『ドロー!!』

 

ブラック・マジシャン・ガール

手札:5→6

 

「私は、永続魔法『魔力倹約術』を発動。これで、魔法カードの発動に必要なライフコストが無くなる。そして、魔法カード『次元融合』を発動。2000ポイントのライフを払い、お互いにゲームから除外されたモンスターを、可能な限り特殊召喚する」

 

『おお! ブラマジガール、ここで一気にモンスターの展開だー!!』

『しかも、エクスの発動した『次元の裂け目』と『手札抹殺』によって、おそらく大量のモンスターが除外されている。かなりのモンスターが来るな』

 

「私は、この五体を特殊召喚!」

 

『ブラック・マジシャン・ガール』

 レベル6

 攻撃力2000

『マジシャンズ・ヴァルキリア』

 レベル4

 攻撃力1600

『マジシャンズ・ヴァルキリア』

 レベル4

 攻撃力1600

『マジシャンズ・ヴァルキリア』

 レベル4

 攻撃力1600

『ファイヤーソーサラー』

 レベル4

 守備力1500

 

 

「おお!! 美魔女軍団!!」

「凄いぞー!! 色っぽいぞー!!」

 

「みんなありがとー!」

「……じゃあ、エクスはこの四体を特殊召喚しまス」

「おぉ?」

 

『白魔導士ピケル』

 レベル2

 攻撃力1200

『黒魔導師クラン』

 レベル2

 攻撃力1200

『マジシャンズ・ヴァルキリア』

 レベル4

 攻撃力1600

『マジシャンズ・ヴァルキリア』

 レベル4

 攻撃力1600

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

「美魔女、いや、美魔幼女ぉぉぉおおおおおおおおおお!!」

「凄いぞ!! 可愛いぞおおおおお!!」

 

「ピケル……!!」

「どうした、三沢?」

「いや、何も……」

 

『おお! エクスもさり気なくあれだけのモンスターを除外してたのか』

『しかも、一見お互いのモンスターはほぼ同じだが、エクスの場が圧倒的に有利だ』

 

「あっちゃ、これはまずいなぁ……私はこれで、ターンエンド」

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン・ガール』攻撃力2000

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『ファイヤーソーサラー』守備力1500

   魔法・罠

    永続魔法『魔力倹約術』

 

カードエクスクルーダー

LP:3000

手札:0枚

場 :モンスター

   『カードエクスクルーダー』攻撃力400

   『白魔導士ピケル』攻撃力1200

   『黒魔導師クラン』攻撃力1200

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『次元の裂け目』

    セット

 

 

「いいなぁ、このフィールド……」

「ああ、眼福だ~……」

 

『確かに可愛いけど、こいつはお互いに動けないな』

『ああ。互いの場の『マジシャンズ・ヴァルキリア』は、場に存在する限り他の魔法使い族を攻撃できない』

 

「それが二体、三体と場にいることで、他の魔法使い族、つまり二体目以降の『マジシャンズ・ヴァルキリア』をも守っているというわけか」

「これでお互いに攻撃できない。だがしょ……エクスの場には、『白魔導士ピケル』と、『黒魔導師クラン』の二体がいる」

「あの二体にはそれぞれ、場のモンスターの数によって発動する効果がありますーノ」

 

「エクスのターン、せえの……」

 

『カードドロー!!』

 

カードエクスクルーダー

手札:0→1

 

「ここで、スタンバイフェイズ、エクスの場のピケルちゃんと、クランちゃんの効果が発動しまス!」

「うわ、やば……」

「ピケルちゃんは、エクスの場のモンスター一体につき、エクスのライフを400ポイント回復してくれまス!」

 

カードエクスクルーダー

LP:3000→5000

 

「クランちゃんは、お姉ちゃんの場のモンスター一体につき、300ポイントのダメージを与えちゃいまス!」

「くぅ……」

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:4000→2500

 

「メインフェイズ、エクスは、エクスの効果で、お姉ちゃんの墓地にある『次元融合』を除外しちゃいまス!」

「ありゃりゃ……」

「お姉ちゃんのフィールドの、『マジシャンズ・ヴァルキリア』の効果で攻撃できません。エクスはこれで、ターンえんどしまス」

 

 

カードエクスクルーダー

LP:5000

手札:1枚

場 :モンスター

   『カードエクスクルーダー』攻撃力400

   『白魔導士ピケル』攻撃力1200

   『黒魔導師クラン』攻撃力1200

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『次元の裂け目』

    セット

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:2500

手札:4枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン・ガール』攻撃力2000

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『ファイヤーソーサラー』守備力1500

   魔法・罠

    永続魔法『魔力倹約術』

    セット

 

 

「ちょっとまずいなぁ……」

 

「頑張れー、ブラマジガール!」

 

「みんな……」

 

「幼女に敗けたら情けないぞー!!」

 

「う……私のターン、ドロー!」

 

ブラック・マジシャン・ガール

手札:4→5

 

「……来た。私は、速攻魔法『トラップ・ブースター』発動! 手札を一枚捨てて、手札の罠カードを発動する」

 

ブラック・マジシャン・ガール

手札:4→3

 

「手札から、永続罠『スキルドレイン』発動! ライフを1000ポイント支払い、場の全ての効果モンスターの効果を無効にする!」

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:2500→1500

 

『おおっと!! ブラマジガールが逆転の一手だー!!』

『効果が使えなくなるのはお互いに同じだが、これで攻撃することはできるな』

 

「『ファイヤーソーサラー』を攻撃表示に変更」

 

『ファイヤーソーサラー』

 攻撃力1000

 

「そして、装備魔法『魔術の呪文書』を『マジシャンズ・ヴァルキリア』に装備」

 

『マジシャンズ・ヴァルキリア』

 攻撃力1600+700

 

「バトル! 『ファイヤーソーサラー』で、『カードエクスクルーダー』を攻撃! ファイヤー・マジック!」

 

『ああああああああああああ!! エクスちゃあああああああああああん!!』

 

「させません! 罠カード『ドレインシールド』! その攻撃を無効にして、攻撃力分のライフを回復しまス!」

 

カードエクスクルーダー

LP:5000→6000

 

『おおおおおお……』

 

『何とか防いだけど、まだ攻撃は残ってるぞお』

(使うタイミングは明らかに違うが、敢えて『カードエクスクルーダー』を守ったか……これも翔なりのエンターテインメントか……)

 

(ファンサービスも意外に疲れるなぁ……)

「なら次は、『マジシャンズ・ヴァルキリア』でピケルを攻撃! マジック・イリュージョン!」

「うぅ、ピケルちゃん……!」

 

カードエクスクルーダー

LP:6000→5600

 

「ピケル……」

「さっきからどうした? 三沢」

「いえ、何でも……」

 

「続いて二体目のヴァルキリアで、今度はクランを攻撃! マジック・イリュージョン!」

「あぅ、クランちゃん……!」

 

カードエクスクルーダー

LP:5600→5200

 

「今度は、攻撃力のアップしたヴァルキリアで、そっち場の『マジシャンズ・ヴァルキリア』を攻撃! マジック・イリュージョン!」

「ヴァルキリアのお姉ちゃん、うぅ……」

 

カードエクスクルーダー

LP:5200→4500

 

「これで最後だよ! 『ブラック・マジシャン・ガール』で、最後のヴァルキリアを攻撃! 黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)!」

「お姉ちゃんがまた、あぅ……」

 

カードエクスクルーダー

LP:4500→4100

 

『やるぅ! エクスのフィールドのモンスターを全滅させたぜ』

『元々攻撃力が低めのモンスターで構成されたエクスのデッキにとって、『マジシャンズ・ヴァルキリア』の効果を無効にされたのは痛かったな』

 

「ふふ……」

 逆転に、表情がほころんだ、ブラック・マジシャン・ガールに、

 

「こらー! 幼女相手に大人気ないぞー!!」

 

「えぇ!?」

 周りから、容赦ない苦言が浴びせられた。

 

「エクスちゃんが可愛そうじゃないかー!!」

「エクスちゃん泣いてるぞー!!」

 

(泣いてない泣いてない……)

 

「謝れよ! 年上だろおおおおお!!」

「そうだそうだ! エクスちゃんに謝れええええ!!」

 

「え、えー……」

「あっちゃあ……」

 

『おいおい、お前ら落ち着け……』

『そうだ、決闘の邪魔になっているぞ……』

 

「司会と解説は黙ってろ!!」

「お前らはブラマジガールの味方するのかよ!!」

 

「そういう問題かよ……」

「まったく、先程はブラマジガールだとあれだけ騒いでいた連中が……」

 

「あわわわわ……」

(うーん、仮にも僕のせいだし、助けた方がいいかな……いいよね……)

 

「謝れよ!!」

「謝れー!!」

 

「やめて下さい!!」

 

『……!!』

 それは、エクスの発した声だった。

 見ると、体中をフルフル震わせ、目に涙を溜め、頬を染めながら、叫んでいた。

 

「皆さん、これは決闘なんでスよ。決闘はいつだって、しんけん勝負するもののはずでスよ。エクスは確かに子供だけど、それでもしんけん勝負はしたいでス」

 

『……』

 

「だから、エクスはむしろ、しんけん勝負してくれた、お姉ちゃんのことが嬉しいんでス。悪いのは、そんなお姉ちゃんの実力についていけない、エクスです。だから、お姉ちゃんのこと、怒るのは、やめて下さい……お願いしまス……」

 

『……』

 

(……ちょっと、やりすぎちゃったかな……)

 自分の演技に対し、翔が反省した直後、

 

「分かったよ、エクスちゃん!」

 

(え?)

 

「こちらこそごめん! 真剣勝負の邪魔して!」

「もう謝れなんて言わないよ!! だから、泣かないでくれー!!」

 

「みんな……」

 

『頑張れー!! エクスちゃあああああああああああああん!!』

 

「……はい!! (よし、上手くいった……)」

 

「翔、すげえな……」

「あそこまでになると、もはや本当に演技なのか疑わしいレベルだがな……」

 

「翔君、可愛い////」

「素敵よ、翔////」

『……!!』

「……(バチバチ)」

「……(バチバチ)」

 

「カイザー、あれは演技か? それとも……」

「……俺にも分からん。できることなら演技だと思いたいが……」

「まあ、可愛らしいから良しとしますーノ」

 

「みんな、ありがとーございまス! さあ、ガールのお姉ちゃん、続きをお願いしまス!」

「……うん。なら私は速攻魔法『魔法効果の矢』を発動! 相手フィールド上の表側表示の魔法カード全てを破壊し、破壊した数×500ポイントのダメージを与える。あなたの場の、『次元の裂け目』を破壊、500ポイントのダメージを与えるよ!」

「あぅ……」

 

カードエクスクルーダー

LP:4100→3600

 

「あぁ、エクスちゃん……」

「頑張れ……」

 

「……私はこれで、ターンエンド」

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:1500

手札:1枚

場 :モンスター

   『ブラック・マジシャン・ガール』攻撃力2000

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600+700

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『マジシャンズ・ヴァルキリア』攻撃力1600

   『ファイヤーソーサラー』守備力1500

   魔法・罠

    永続魔法『魔力倹約術』

    装備魔法『魔術の呪文書』

    永続罠『スキルドレイン』

 

カードエクスクルーダー

LP:3600

手札:1枚

場 :モンスター

   『カードエクスクルーダー』攻撃力400

   魔法・罠

    無し

 

 

「まだです……エクスは、エクスは諦めません!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

「……」

(……とは言ったものの、僕のモンスターは、『カードエクスクルーダー』が一体。それと手札のこれだけじゃ、逆転は無理だ。まあ、梓さんも勝つことを想定した組んだわけじゃないんだろうけど、やっぱり、勝ちたいよね……幸いなのは、『スキルドレイン』の効果は彼女のフィールドにも及ぶから、ヴァルキリアがいても攻撃することはできる。けど次のターンには総攻撃が来るだろうし、このドローで、逆転の手を引くしかない……)

 

「エクスのターン、いきますよ! カード……」

 

『ドロー!!』

 

カードエクスクルーダー

手札:1→2

 

「魔法カード『強欲な壺』! カードを二枚、ドローしまス!」

 

カードエクスクルーダー

手札:1→3

 

 ドローしたカードを一瞥しながら、

「……」

 笑った。

「来ました! エクスは、『サイレント・マジシャンLV(レベル)4』を召喚しまス!」

 

『サイレント・マジシャンLV4』

 レベル4

 攻撃力1000

 

「サイレント・マジシャン……!!」

 

『新しい幼女きたああああああああああああああああああ!!』

 

『サイレント・マジシャン……けど、あいつじゃブラマジガールのモンスターは倒せないぜ』

『ああ。だがあれはレベルアップモンスター。そしておそらく、エクスの手札には……』

 

「魔法カード『レベルアップ!』! エクスの場のレベルモンスター一体を墓地へ送って、そのモンスターに記されたモンスターを手札、デッキから特殊召喚しまス! 『サイレント・マジシャンLV4』を墓地へ送って、『サイレント・マジシャンLV8』をデッキから特殊召喚しまス!!」

「あ……!!」

 

『サイレント・マジシャンLV8』

 レベル8

 攻撃力3500

 

『グラマラス美女きたああああああああああああああああああああ!!』

 

「美女と幼女、どっちが好きなんだ……」

「同じ男ながら、情けない……」

「げんきんなのーネ……」

 

「サイレント・マジシャンのお姉さんは、ガールのお姉ちゃんの発動する魔法の効果をうけません」

「おぉ……」

「……」

 関心している『ブラック・マジシャン・ガール』に対し、エクスはただ、ジッとサイレント・マジシャンを見つめていた。

「……エクスは……」

 そして、静かに語りだした。

「エクスの夢は、いつかこんなお姉さんみたいな、立派な魔法使いになることなんでス……」

 

「……」

「エクスちゃん……」

 

 静かな口調で言葉を紡ぐ、純粋な夢に希望を抱き、見えない未来に恐怖する、その姿は、誰の目から見ても男子ではない、未熟なる、美少女の姿だった。

「……エクスもいつか、こんな立派な魔法使いになれるかな……?」

 

 そして、そんな姿を見た者達は、

「なれるよおおおおおおおお!!」

「絶対なれる!!」

「自分を信じてー!!」

 そんな声援を送った。

 

「みなさん……ありがとうございまス! それじゃあ、きっとなれることを祈りまして……魔法カード『受け継がれる力』! エクスは、お姉さんを墓地へ送って、その攻撃力分、エクスの攻撃力をアップしまス!」

 その宣言と共に、サイレント・マジシャンの体が光に包まれる。そして、その輝く体で、『カードエクスクルーダー』を優しく抱き締めた。

 

『カードエクスクルーダー』

 攻撃力400+3500

 

 そのままサイレント・マジシャンは光へと変わり、代わりに、『カードエクスクルーダー』の総身から、力強い光が湧きだした。

「わあ……」

「エクスの夢を力に変えて……ばとるでス! 『カードエクスクルーダー』で、『ブラック・マジシャン・ガール』のお姉ちゃんを攻撃します!」

「あは……」

 

「エクスクルード・バーニング!!」

 

 『カードエクスクルーダー』の杖から放たれた光が、『ブラック・マジシャン・ガール』を包む。その光の中で、攻撃された『ブラック・マジシャン・ガール』は、そして、プレイヤーである『ブラック・マジシャン・ガール』もまた、笑顔を浮かべていた。

 

ブラック・マジシャン・ガール

LP:1500→0

 

『勝者は、カードエクスクルーダーだー!!』

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! エクスちゃああああああああああああああああああん!!』

 

「やりましたぁ~!」

 エクスが、観衆に手を振っていた時、

「エクスちゃん」

 そう、声を掛けられた。そちらに目を向けると、ブラック・マジシャン・ガールが、目の前に立っていた。

「ありがとう。とても楽しかったよ」

「あ、いえ、こちらこそ、楽しかったでス……」

「それと、さっきは庇ってくれて、ありがとう」

「そんな、決闘者として当然でス」

「……」

 そして、手を差し出してきた。

「……」

 エクスも、いや、翔も、ぼやけた視界の中でも、それが握手だということは分かった。

 だから、その手を握り返した。

 そして、周囲からの声が大きい中、彼女にしか聞こえない声で、エクスではなく、翔として、

「ありがとうございました。良い決闘でした」

 

「すっげー幸せな決闘だったな。万丈目」

「そうだな」

 

「翔君、最高です////」

「翔、あんた最高////」

 

「見事に逆転してのけたな」

「ああ。おまけに、演技も絶やすことなく」

「スプレンディ~ド。見事なのーネ、セニョール翔」

 

(何にしても、これでようやく終われるな……)

 

『さあ!! 次にこのエクスと決闘したい奴はどいつだー!?』

 

「……え?」

 

「俺だ!」

「いや俺だ!!」

「俺だあああああああ!!」

 

「ええ? またぼ……エクスが決闘する、んでスか?」

『そりゃあこれだけ希望者がいるんだからな。相手してやれよ』

「……」

 

(えー!?)

 

「俺も!!」

「僕も!!」

 

「いや、ちょ……」

 

「私もですわ!!」

「私もよ!!」

 

「ちょっ」

(ももえさんにカミューラまで!?)

 

『エクスちゃああああああああああああああああああん!!』

 

「ちょ……」

(ちょっと待ったあああああああああああああああああああああ!!)

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:翔

 

 パチパチ……

 

「はぁ……」

 あれから、結局五十人の相手をさせられた。

 すっかり暗くなった今は、コスプレは脱いで眼鏡も掛けて、みんなでキャンプファイヤーをしてる。

 

「ハーピィ・レディ三姉妹」

 

 向こうじゃ、明日香さん、ジュンコさん、ももえさんの三人が並んで写真撮ってるし、

 

「はい、チーズ」

 

 向こうじゃ、カミューラがファンの男子生徒達と撮影会してる。カミューラって美人だから、普段から男子のファンが多いんだよね。

 やっぱ僕も、またエクスの格好でみんなみたいなことした方が……

 いいや。また着るの大変だし、また見えなくなっちゃうし、何より決闘はともかく、慣れない演技のせいでクタクタだよ。

 

『……』

 

 

 

視点:外

 疲れ果てた様子で座る翔の前にもう一人、『ブラック・マジシャン・ガール』が立った。

『ありがとう。とっても楽しい決闘だった。それに君も……初めて会った時は、顔とか、すごく怖い人だと思ってたけど、今日は……とても、素敵だった……////』

 そう言いながらひざまずき、翔の顔に、自分の顔を近づけ……

 

 

 

視点:翔

 

「……え?」

 

「……む!?」

「どうしかした? ももえ……」

 

「……ぬ!?」

「カミューラさん?」

「どうしました?」

 

「今、何か……」

 

「翔」

 

 疑問に感じてると、兄貴が隣に座ってきた。

「どうしたんだ? ボーっとして」

「兄貴……いや、何でもないけど……」

「そうか? 俺はてっきり、ブラマジガールにキスされたのかと思ったぜ」

「え? どうして分かったの? ……けどまあ、確かに、ぼくの唇にチュってされた、ような気がしたけどね……」

「良かったな」

「良かった、かなぁ……?」

 まあ確かに、昔の僕なら大喜びしたかもだけど、今は別に、ねえ……

 

「……(フルフル)」

「ももえ、どうしたの、震えて……」

「……いや、なぜかたった今……」

 

「決して許しがたい、妬ましいことが起こった気がして……(フルフル)」

「か、カミューラさん……?」

「大丈夫ですか……?」

 

「それにしても、エクスのコスプレ凄かったなあ」

「うぅ……あんまり言わないで。こっちはただ演技に必死だっただけなんだから……」

「演技だったのか? てっきり素だと思ってた」

「そんなわけないでしょう! からかわないでよ!!」

「照れるなよ。誰に聞いたってエクスは最高だったって」

「……そんなに気に入ったなら、兄貴にもあげるよ」

「あげるって?」

 聞かれた後で、貰ったデッキを取り出して、そこから『カードエクスクルーダー』のカードを取り出した。

「はい」

「え? いいのか?」

「うん。三枚入ってるし、一枚くらいいいよ」

「サンキュー! 翔だと思って大事にするぜ」

「くぉら! やっぱり返して!」

「やだー!」

 そんな感じで、しばらく話してたんだけど……

「まったく……ああ!!」

「ど、どうしたいきなり……?」

「忘れてた!!」

 

 立ち上がった後、ポケットから使い捨てカメラを取り出した。そして、大急ぎで走って、

 

「あずささん!!」

「はい?」

 『地霊使いアウス』、平家あずささんの元へ。

「その、写真を撮ってもいいっスか?」

「写真? うん、別に良いけど」

「ありがとう。ポーズは自由に取って下さい」

「……分かった」

 

 疑問に思いながら、答えてくれたあずささんを、写真に納めていく。少し周りは暗いけど、キャンプファイヤーで明るいし、後はフラッシュで十分だ。

 それを、言われた通り、あずささんは色んなポーズを取っていって、使い捨てカメラのフィルムが切れるまで撮り続けた。

「ありがとう。助かったよ」

「ううん。けどそれ何に使うの?」

「それは、内緒です。それじゃあ」

 

 疑問に思ってるのを振り切って、兄貴の元へ戻った。

「どうしたんだ? あずさの写真なんか撮って」

 兄貴の疑問ももっともだ。まあ、あずささん本人ならともかく、兄貴なら話しても大丈夫、かな。

「それが……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「翔さん、これを」

 カミューラが来るまでの間に、梓さんが僕に渡してきたんだ。

「使い捨てカメラ? どうして?」

「特に意味はありません。ただ……」

 そう言うと、顔を真っ赤にして、

「できるだけたくさん『地霊使いアウス』の写真を撮ってきて下されば、翌日あなたに素晴らしい贈り物が届くかもしれませんよ////」

「……分かりました」

 

 …………

 ………………

 ……………………

 

「……てことがあって」

「あはは、梓らしいな」

 

 

 

視点:外

 

 ところ変わって、ブルー寮の、とある一角……

 

「疲れた……」

「ふいぃ……」

exhausted(イグザスティッド)……」

「はぁ……」

 

 食事処『梓』。

 その中で、取巻、慕谷、井守、麗華の四人は、クタクタな様子でテーブルに突っ伏していた。

「大丈夫?」

 そんな四人とは違い、アズサは一人、ピンピンした様子で四人に問い掛けた。

「大丈夫……じゃ、ない」

「みたいだね」

「君は大丈夫なのか?」

「まあね。これでも体力はある方だよ」

「……ていうか、結局君、だれ?」

「梓の友達。それ以上は気にしなさんな」

「……分かった」

 

「……まあ、疲れたけど、けど楽しかったな」

『……』

 慕谷のその発言に、突っ伏していた四人に笑顔が浮かんだ。

「確かに、それに関しては同意です」

「決闘に挫折したら、料理を目指してみるのも悪くないかもな」

 

「ハン、てめぇらにできるかよ」

『む……!』

 井守のその言葉に、取巻と慕谷が顔を上げる。

「まあ、デザートと汁物全部任された俺ならともかく、てめぇら二人揃って大した仕事してねえじゃねえか。そんなお前らが、料理なんて無理な話しだぜ」

「はぁ!? お前はデザートとか言ってるけどずんだ餅だけだろ! 汁物だって、梓さんが作り置きしておいたものを温めてただけじゃないか! それよりご飯物を全て作った俺の方がよく働いたっての!!」

「お前だって炊いた米に乗せるもの作っただけだろう! 俺なんか皿洗い全般と材料の仕込み全部だぞ!!」

「何が仕込みだ!! ほとんど野菜と漬物刻んだだけのくせによ!! 皿洗いくらい誰でもできるだろうが!!」

「何だと!?」

「何を!?」

Shut up(シャラップ)!?」

「落ち着いて、三人とも」

 顔を近づけにらみ合う三人に対し、アズサが声を掛ける。

「そうですよ。第一、まあウエイトレスをしていた私が言うのも何ですけど、どの道、煮物、焼き物、揚げ物、前日の仕込みの全てを一人で約二百人分一人でこなした梓さんには敵わないのですから」

『……』

 麗華のその指摘に、三人ともが押し黙った。

「……そりゃあ、まあな……」

「まあ、梓さんと比べちゃ、なぁ……」

So(ソー) useless(ユースリス)……」

 押し黙りながら、空気が重くなった。

「まったく……」

(けど、料理か。確かに、興味はありますね……)

 麗華がそんなことを考えていた時、

 

「お疲れ様です。賄いですよ」

 

 梓の声が響いた。

「賄い!?」

「すみません。余り物の食材ですが、簡単に打ち上げをしましょう」

「やった!!」

「梓さんの食事!!」

Great(グレート)!!」

 三人は元より、

「そう言えば、お腹ペコペコでした」

「わーい!」

 

 レッド寮と同じように、こちらも人数こそ少ないが、明るい声が響いていた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 暗い場所だった。

 ただでさえ時間が夜であるというのに、六畳にも満たない広さのその部屋は、中心に光る小さな照明だけを灯りとしている。

 部屋全体に畳が敷き詰められ、壁には掛け軸が掛けられ、窓には障子が貼られている。

 そんな、絵に描いたような和室に集まる、数人の男女。

 全員がその部屋に似つかわしい、着物姿だった。

 

「それで、どうする?」

 誰かがそう切り出した。低く暗く、だがどこか楽しげな、なのにまるで邪悪が宿ったような、そんな声だった。

 そして、その切り出しに応えた声も、同じだった。

「当然、連れ戻すに決まってるだろう」

「連れ戻す? 回収する、の間違いじゃなくて?」

「そうだな」

 

『あははははは……』

 

 声の調子をそのままに、話しは進んでいく。

「あれだけ頭首やお兄さんに迷惑を掛けたんだ。そのことを指摘すれば、あれだって嫌だとは言わないさ。むしろ泣いて反省しながら、喜んで学校を辞めるかもな」

「ああ。約八ヶ月か。人間としては短いが、ゴミとしては、よくもまあのうのうと、それだけ人間の学校に通えたものだよ」

「聞いた限り成績だけは良いらしいが、所詮はゴミだからな」

「まったくだ。これ以上、ゴミを学校に通わせるなんて無駄金は使わないでほしいもんだ」

「そうだな。それにまさかとは思うが、むしろそれでゴミが活躍してプロになって、有名になって、挙句、あのゴミが、水瀬家を継ぐ、なんてことになったら……」

『……』

 

 ガタンッ

 

「冗談じゃないわよ!!」

 

『……!!』

 その甲高い奇声に、全員が驚愕し、視線を一様に集めた。

 その奇声を発した女性は、そんな視線など意に介さず、勢いよく立ち上がった。

「あのゴミがこの家を継ぐ? そんなふざけたこと二度と言わないでちょうだい!! ただでさえゴミが家元の息子だってでかい顔してるのがむかつくのに、よりによってそれが次期頭首? あたしらのことどれだけバカにすれば気が済むのよあの頭首は!?」

「わ、分かった。分かったから、落ち着いて……」

「その気持ちは全員同じだ。ここにいる全員、あのゴミには腹を立てているんだ」

「……」

 二人の言葉に、その女性は冷静になったらしく、その場へ座り直した。

「そうだよ。代々続く由緒正しき家系に異物を取り込んで、梓なんて名前までつけて、挙句息子として育ててる。そんなことする頭首の勝手には、ここにいる全員が怒ってるんだ」

「もっとも、悪いのは頭首じゃない。どうやったのかは知らないが、そんな頭首に取り入って、上手いこと拾ってもらった、あのゴミが諸悪の根源だ」

「まったく、捨てられたなら大人しく朽ちてればよかったのに。むしろ、捨てられるくらいなら、最初から生まれてこなければよかったのに、私達に迷惑を掛けないでほしいものだ……」

 言葉を紡ぐ度、全員の顔に憎悪が宿っていった。

 具体的な理由は無いに等しい。ただ、気に入らないから、その存在を良しとせぬという、絶対に許しておかぬという、邪悪なる憎悪。

 たった一人の子供、梓に向けられた、そんな憎悪を、この場の全員が抱いていた。

 

「これ以上、あんなゴミの思い通りになどさせるか。自分が通いたいと言った学校を退学したとなれば、いくら頭首とてあのゴミのことを見捨てるはずだ」

「そうするとどうする? やっぱり、そのまま家から追い出して、捨ておく?」

「だが、ゴミでも顔だけは素晴らしいからな。いらないと言うなら、私にくれ。娘や、男色家の息子が喜ぶ」

「おやおや、それなら僕を忘れないでもらいたいね。頭首の手前、手が出なかっただけで、僕だってあのゴミのこと、ずっと欲しいって思ってたんだから」

「もう、嫌らしいこと。まあ、あんな肉人形が欲しいと思ってたのは、私もですが……」

 

『あははははは……』

 

 そんな、いつからか皮算用へと変化した話し合いをしばらく進めた後で、本題に入る。

「さて、そうなると、誰が梓の迎え……いや、ゴミの回収に向かう?」

『……』

「はっきり言って、責任は重いよ。頭首にばれたら、まあ追放は無いだろうけど、お仕置きくらいされるかも……」

 

「私が行くわ」

 

「……ほう」

 立ち上がったのは、先程奇声を上げた女性。

「あのゴミだけは、あたしがこの手でぐちゃぐちゃにしてやらないと気が済まないのよ。人の形で踏ん反りやがって……生まれてきたこと、後悔させてやる……」

 それは、他の者達を遥かに凌ぐ、強烈な怒りの含まれた声だった。

 

「……分かった。じゃあ、この件はあなたに任せる」

「よろしくお願いしますね」

 

「双葉さん」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:翔

 

 ……チュン

 ……チュン

 

「……くぅ!」

 目が覚めて、ベッドから立ち上がって、眼鏡を掛ける。

 昨夜、キャンプファイヤーを終えた後、僕はブルー寮の梓さんにカメラを渡して、そのままイエロー寮の部屋まで戻った。

 そして、今は朝を迎えたってわけ。

「……今日は振替休みか……」

 そう思い出して、二度寝しようかと思ってたけど……

「……あ、そうだ」

 昨日の、梓さんの言葉を思い出して、玄関へ歩いてみる。

 そして、ドアを開いてみると、

「……あった」

 梓さんの言ったように、贈り物がそこに置いてある。少し大きめな、縦長の厳かな木箱が置いてある。

 『丸藤翔 様へ』って達筆な文字を見ると、誰が置いたものかは明白だった。

 

「何だろう」

 疑問に感じながら、とりあえず開けてみると、

「……うわ!?」

 思わず、変な声がでちゃった。

 一瞬何だか分からなかったけど、取り出して、よく見てみると、

「『ブラック・マジシャン・ガール』……それも、木彫り……」

 大きさは、普通に売ってる大き目なフィギュアくらいかな。

 色は塗ってないけど、木や木目の感じが、素朴だけど生物的な暖かさを引き出してる。

 遠くから見たら呪いの人形に見えなくもないけど、近くで見たら、間違いなく女の子の人形だ。

 かなり細かく、リアルに彫られてる。服の皺や肌の感じ、髪の毛や指先の一本一本……うわ、スカートの中まで……

「梓さん……すごい……」

 好きな人に売り出せば、大金が貰えるくらいの腕前だよ、これ。

「……」

 ただ、昔ならともかく、今はそれほど嬉しいものじゃないんだけどな……

 

『あの……』

 

「……へ?」

 何だか、女の子の声が聞こえた気がした。

 気のせいかと思いつつ、一応振り返ってみると、

「……え?」

『おはよう』

 そこにいたのは、今手に持ってる木彫りの人形、そのままの人物。

「えっと……『ブラック・マジシャン・ガール』?」

『そう! 『ブラック・マジシャン・ガール』の精霊だよ!』

「精霊?」

『『マナ』って呼んで!』

「マナ? いや、だから、えっと……」

 色々と言いたいことはあるんだけど、

『まずは、これを受け取って』

 て、僕が何か言う前に、マナ? は、カードを一枚差し出してきた。

 受け取れって言われたから受け取ってみたら、

「これ、『ブラック・マジシャン・ガール』……」

『翔さん』

「はい?」

 また呼ばれて、見てみると、何だか何かを期待してるような顔をしてた。

 何かと思ってると、ズイッと顔を近づけて、

 

『私をあなたの精霊にして下さい!』

 

「……は?」

 あなたの精霊……

 僕の精霊!?

「え、いきなり、なんで……?」

 普通に理由を聞いたら、なぜだか赤い顔になった。

 赤い顔のまま、僕の顔を見て、

 

 ……ス

 

「……消えちゃった」

 夢……?

 ……いや、現に、木彫りのブラマジガールも、たった今貰ったカードも、手にある。

「ブラマジガールが……マナ、が、僕の精霊……?」

 ……

「……まあ、いっか」

 とにかく今は、眠いや。

 二度寝しよう。

 考えるのはそれからでいいや。

 

 

 

視点:外

 

『私、翔さんのことが、好きになっちゃった!!』

 

 翔が寝静まった後で、初めてマナは、理由を叫んだ。

 

「……」

 

 無論、眠っている翔に、その声は届かない。そのことは、そうなるよう仕向けた彼女が一番よく分かっている。

『……』

 ただ、その寝顔を見ている。それだけで、幸せだった。

 そんな寝顔に向かって、昨夜そうしたように、顔を近づけ……

 

 

「……!!」

 

「……!!」

 

 それは、偶然か。

 マナが昨夜と同じ行為を繰り返した直後、全く別の、離れた場所にいる、二人の女が目を覚まし、飛び起きた。

 

「翔君……?」

 

「翔……?」

 

 

 

 




お疲れ~。

っさあ! てめえらどれが見たい?

きっかけは顔。
付き合いの中で顔以外にも惹かれていった、付き合いだけはもっとも長い同い年。
種族は人間、
『ももえ』ルート。

きっかけは決闘。
実力を認め合い、お互いの手料理をご馳走し合った仲。大海的には一番脈あり。
種族は吸血鬼、
『カミューラ』ルート。

きっかけは顔(芸)と決闘。
決闘創世記より万人に、かつての翔をも虜にした、決闘モンスターズ看板娘。
種族は精霊、
『ブラック・マジシャン・ガール=マナ』ルート。

大穴、
『十だ……
ごめん、うそ。


まあいいや。
さて、展開が動きますぜ~。
どんな展開になってくかはぁ……
ちょっと待ってて。

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