遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

88 / 175
んんん~第六部!
第一話ですじゃ、行ってみよー!!
行ってらっしゃい。



二年目 第一部 二年目の始まり
第一話 変化と始まり


視点:外

 

 とある暖かい日の休日のこと。彼らはいつものように、レッド寮の十代の部屋へ集まっていた。

 十代、翔、万丈目、明日香、そしてあずさという、五人のメンバーである。

 本当は梓も呼ぶつもりだったのだが、珍しいことにまだ目を覚ましていないようで、この五人のみで集まっていた。

 

「さあ、兄貴のターンだよ」

「じゃあ、俺はこいつ、フォース!」

 

 己の好きなことでくつろぎつつコーヒーで一息入れる、そんな、平和という言葉が相応しい日常の一風景。

 

 しかし、ちょっとしたことで簡単に崩すことができることもまた、平和という日常の常であり……

 

 ダダダダダダ……

 

 今回の常は、そんな足音と共に、彼らの前に姿を現した。

 

 バタンッ

 

「大変です!!」

 

「ど、どうした!? 梓!?」

 慌てた様子で息を切らしながら、勢いよくドアを開き、入ってきた梓の姿に、五人の間に緊張が走る。

「あ……しに……」

「……はい、お水」

 明日香から差し出された水を受け取ると、それを一気に飲み干した。

 そして、息も絶え絶えに、慌てながら、上手く発音できない声で、それでも、顔を上げて、その事柄を叫んだ。

「朝起きたら、私の体が女子になっておりました!!」

 

『……』

 

「じゃあ、俺は『4』の(カード)をゾーンに出すぜ!」

「じゃあ僕は、先に出した『9』にバースト!」

「げっ! あと一枚で完成だったのに……」

「ちょっと! 十代さん、翔さんも無視しないで頂きたい!」

「体が女子も何も、顔も服装も女子な貴様が今更何を言ってるんだ……」

「いや、準さん、顔や服装の問題ではありませんから!」

「心配しなくても、体も十分に女の子っぽいわよ」

「いや、明日香さんね、それでは私が女子になりたがっているように聞こえるんですが」

「……そう言えば、なんか今日、胸元の辺りが膨らんでない?」

「あずささん、それは……」

「まあ、着物だし、そんな日もあるよね」

「ありませんから! いくら重ね着してもそんな不自然な形にはなりませんから!」

「じゃあ、僕は『A(エクストラフォース)』を捨てて、『J(ジャック)』をゾーンへ。DRUMP(ドランプ)!」

「げ! 揃えやがった……」

「次の兄貴のターンで、DRUMPを揃えられないと僕の勝ちだ」

「いや、俺のドローは奇跡を呼ぶぜ」

「だーかーら!」

 

 バラァッ

 

「お疑いなら、しっかりその目に焼き付けなさい!!」

 

『……』

 

 ブゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウッッッッ!!

 

 その場で全ての着衣を脱ぎ捨て、全裸になった梓の姿を見た瞬間、五人全員、口に含んでいたコーヒーを吹き出してしまった。

 そしてその直後、全員が決闘ディスクを取り出した。

 

「『六武の門』!」

「『摩天楼-スカイスクレイパー-』!」

「『スチームロイド』!」

「『魔の試着部屋』!」

「『サイバー・エンジェル-弁天-』!」

 それぞれがカードをセットして、瞬時にそれらの効果が表れる。

 『六武の門』が梓の身を隠し、スカイスクレイパーの夜が視界を阻み、『スチームロイド』の蒸気が空間を包み、試着部屋のカーテンに門が隠れたところで、その前に弁天が立つ。

「おい、今の見たか……?」

「見間違い……だよな……」

「見間違い、に、してはやけにリアルだったような……」

「あずさの言った通り、大きかったように見えたけど……」

「ていうか、無かったよね……」

「ええ。無いんです」

 

『うわぁー!!』

 

 完全に姿が隠れていたはずの梓が、瞬時に目の前に現れた。

 だがそれも当然のこと。所詮は仮想立体映像、映像による幻に過ぎない。実体を持つ人間がそれに囲まれ、隠れたところで、歩けば通り抜けて終わりである。

 そして、通り抜け、再び五人の前に姿を現した、梓の一糸纏わぬ裸体。

 スカイスクレイパーによって夜にはなっているが、むしろ、その夜景の中に輝く少ない光がその姿を扇情的に見せ、周囲を包む蒸気はその姿にある種の妖艶さを加えていた。

 雪のように透き通った純白の肌は、柔らかくも張りがあり、艶やかながらどこか逞しい。

 そんな白に包まれた肢体は、醜い傷一つ、不快な無駄毛一本、無様な贅肉さえ見られない。かと言って、程よい肉付きのくびれは痩せすぎることも無く、誰の目も惹きつける見事なプロポーションを確立している。

 胸元の膨らみもまた目をそそるが、ただ大きいのでは無く、それぞれが両手の平で包み込めるほどの程よい大きさがより母性を掻き立て、そこに包まれることの幸福を想起させ、中心にそそり立つ桃色の突起がその場所に向かうことへの欲求を駆り立てる。

 そんな上半身を支える下半身。その中心に輝く穢れを知らぬ聖なる割れm……

 

「検閲削除!!」

 

 あぼっ……

 

 

 

視点:あずさ

「あ……ありのまま今起こったことを……」

「言わなくていいよ、みんな見てたんだから。素数を数えて落ち着いて」

 混乱してる明日香ちゃんをなだめつつ、

「うぅ……う……もうお嫁に行けない……」

 とりあえず、明日香ちゃんと一緒に、脱ぎ捨てられた着物をもう一度梓くんに着せた。ただ、二人とも着付けなんてできないからかなり崩れてはいるけど。

 そんな、着崩した事後みたいな格好で、梓くんはそう嘆いた。

「いや、お嫁には行けるだろう。ていうか、元々性別的にお嫁には行けないし……」

 十代くんのそんなツッコミの後で、六人で顔を見合わせた。

「それにしても、下手くその書いた小説でもあるまいに。なにがあったんだというんだ?」

「心当たりは無いの?」

 万丈目くんと明日香ちゃんのその質問に、梓くんは首を横に振った。

「ありませんよそんなもの。今朝はすっかり寝坊をしてしまって、とりあえず着替えようと寝間着を脱いだ時には、既にこんなことになっていたものですから……」

「えー……」

 梓くんのそんな答えに、翔くんがそんな声を漏らした。

 翔くんだけじゃなくて、他の四人も似たような顔してる。

「原因が分からないのでは、元に戻しようがないぞ」

「お湯を掛けたら戻るんじゃない?」

「……仮にそれで戻っても、水を掛けたら同じことよ」

「あ、そっか……」

「じゃあ、くしゃみしてみるとか?」

「バカ者。それで変わるのは性別ではなく性格だ」

「あれ、そうだっけ?」

「……ならば、好きな人のキス、というのは?」

「それで元に戻るのは性別じゃなくて年齢だよ……」

「そうだった……」

「みんなさっきから何の話し?」

 何かわたし達二人を置いてけぼりにして盛り上がってるけど……

「それにしても、全然違和感ないよな……」

「……ああ。それは同意だ」

「え?」

「むしろ、昨日までより綺麗に見える……」

「確かに……」

「ちょっと?」

 話し合った後で、今度は梓くんを見ながら、そんなことを言ってきた。

「もうさ、いっそそのままで良いんじゃねえか?」

「は……?」

「そうだよ。そのまま女子になっちゃいなよ」

「うむ。それも一興かもしれんぞ」

「明日から梓が女子寮に住んでも、誰も咎める人なんていなさそうだしね」

「……」

 そこから先は、誰も何も言わなくなった。

 目の前に座る梓くんの身から立ち上る、紫色のオーラと、無表情のおでこにくっきり浮き出てピクピク動いてる血管を見れば、そりゃふざけられないよねこれ以上。

「ま、待て、梓、すまん、冗談が過ぎた……」

「ちゃんと、ちゃんと話し合って考えるから、な、暴れるのはよせ……」

「……」

 万丈目くんと十代くんがそう言って謝ったけど、紫色のオーラは消えない。

「……」

 

 ガバッ

 

「いい子いい子……」

 なんだか見てて可愛そうになっちゃったから、抱き寄せて、頭をさすってあげた。

「……」

「おお、機嫌が治った……!」

 明日香ちゃんの声。梓くんを見てみると、確かに力の抜け切った顔で笑ってる。

 もう怒ってないみたい。

 何か一言言ってあげるべきかな?

「大丈夫。もし元に戻らなかったら、その時はわたしがお嫁さんに貰ってあげるから」

「……あずささんが?」

「うん」

 慰めではあるけど、一応、本音。

「あずささんが……」

「うん」

「私を、お嫁に……」

「うん」

「……」

 

「ダメだ!!」

 

「うわあ!!」

 突然大声を上げたから、思わず飛び退いちゃったよ。

「私が、あずささんの嫁など、そんなこと!!」

「えぇ? 嫌なの?」

「嫌です!」

「……」

 私のお嫁さんになるの、そんなに嫌なことなの……?

「何で嫌なんだよ? あずさの嫁がそんなに不満なのか?」

「不満ですよ!!」

 十代くんの質問に、そう力強く断言した。そんなに嫌なの?

「私は今、女子なのですよ」

「ああ。だからあずさはお前を嫁にもらおうと言っているのだろう」

「だから嫌なのですよ。私とて……」

「私とて?」

 

「私とて!! あずささんとの子供が欲しいです!!」

 

『……』

 

「……////」

 拳を握って、力強く、とんでもないことを宣言しちゃったよこの人は……////

 

 ポン

 

「梓……」

 そんな梓くんの肩に、明日香ちゃんが苦笑しつつ手を置いた。

「それは、大きな声で宣言することじゃないわよ」

 だよねぇ、恥ずかしい……

 まあ、そりゃあ、わたしだって、どっちかと言えば、欲しいかなあ、とは、思うけどさあ……梓くんとの子供……////

「……」

(明日香さんは、十代さんとの間に子供は欲しくないのですか?)

「私は……そりゃ、いたら楽しいとは思うけど……て!! 何言わせるのよ!!////」

 

 ゴンッ

 

『あっ!』

 明日香ちゃんの鉄拳が、梓くんの顔面に!

「あ~あぁ……」

「天上院君がそこまで怒るとは、一体何を言ったんだ……?」

 確かに……

「……」

 と、梓くんは、殴られた顔に手を当てて、何だかぼんやりしてた。

「どうした? 梓?」

「……十代さん」

「ん?」

 十代くんが聞き返したところで、梓くんは、右手を差し出してきた。

「すみませんが、私の手を本気で握って下さいませんか?」

「梓の手を?」

「ええ。私も握り返しますので」

「えぇ!?」

 そりゃ叫ぶよね。

「嫌だよ! お前に本気で握られたら右手が潰れるだろう!!」

「大丈夫です。そうならないよう加減はしますから」

「けど……」

「お願いします」

「……分かったよ」

 で、渋々ながら、二人は握手し合った。

「では、せーの……」

 で、握ってみると……

「……あれ?」

 十代くんが本気で握って、梓くんの手は開いたまま。梓くんも握ろうとしてるけど、全然握れてない。

「梓?」

「……」

 いつもの梓くんなら、多分、この中じゃわたしくらいでしかこうはならないはずなのに、全然力が籠められてない。

「……やはりそうだ」

「やはりって?」

 右手を握られたまま、何かを納得したような声を出した。

「先程受けた、明日香さんからの一撃、私は全く目で追えなかった」

「追えなかった?」

 十代くんが聞き返した後、二人は手を離して、梓くんは自分の手を見つめた。

「……私の力が、弱くなっている」

「……え?」

「どういう、こと……?」

「今の私なら、あずささんは愚か、翔さんにすら喧嘩で負けてしまう、ということです」

『……』

 

『なにー!?』

 

 そんな……!?

「……そう言えば、ここに来た時も、かなり息が乱れてたよね」

「そう言えば……梓が走った後で息を切らしたところなんて、今まで見たことないのに……」

 ブルー寮からここまでは結構距離があるけど、梓くんにとっては十秒もあれば到着する距離なのに、それが、どうして……

「なぜだ!? 女体化したせいで力まで女体化した、ということか!?」

「そのようですね……」

「梓くん、ちなみに結界や治癒は?」

「……できません」

「うそ……」

 女体化して、体力や身体能力まで下がって、特殊な力まで無くなるなんて……

「一体、なにが起きてるっていうんだ……」

「梓が、普通になるなど……」

「女子ですけど……」

『……』

「どうしよう……」

「え……?」

 そう言ったのは、梓くん。とても、悲しそうな顔を見せてた。

「強くなりたくて、必死に鍛えてきた力が無くなるなんて……異世界で身に付けた力も、私一人の力ではない。大勢の人達の怒りや悲しみ、憎しみを背負って、手に入れた力です。それを、私の都合で失うなど、あってはならないのに……」

『……』

 思ってた以上に、かなり動揺して、落ち込んでる。

 今までずっと、強い梓くんばかり見てきたけど、こんな、誰よりも弱々しい梓くんを見る日が来るなんて……

「……」

 

 ガッ

 

「行こう、梓くん」

「え?」

「おい梓、行くって?」

「こうなった理由に、一つだけ心当たりがある」

「本当に!?」

「うん。みんなはここで待ってて。二人だけで行ってくるから」

「え? 俺達も行くぜ」

「ダメ。これは、わたし達二人じゃなきゃダメなことなんだよ」

「何だよ、それ……」

「今はとにかく、わたし達を信じて」

『……』

「……分かった」

 万丈目くんが返事をした後、他の三人も、頷いた。

「じゃあ、行こう。梓くん」

「え、ええ……」

 そしてわたし達は、部屋を出て、歩き出した。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 とりあえず、適当に歩いて森の中まで来てみました。

「あずささん、心当たりとは、まさか……」

「うん。君も気付いてるでしょう」

「ですが、こんな時に、そんなことが……」

「けど、他に心当たりある?」

「……」

「じゃあ、せーの、で一斉に名前を呼ぼう」

「……ええ」

 そういうわけで、二人で並んで立って、

 

「せーの……」

「……」

 

「外ー!!」

「外ー!!」

 

 

 

視点:外

 

 はーい!

 ……痛てて。

 

「やっぱりか……ていうか、さっき殴ったとこだし……」

「なるほど。道理で今回は、アズサや、シエン達真六武衆がいないわけですか」

 いやー、人数多過ぎたらそれだけで書くの大変なんだわ。そうでなくとも精霊って立場的に面倒くさい存在だし。

「それは知りませんが、どうしてあなたが? あなたは正式タイトルでは解説しかできないはずでは?」

 そだよー。こうして会話したりお話に介入したり悪戯してみたり、それができるのは特別編だけだよ。

「今回は、そんなものではないはずだ」

 日付。

「日付?」

「……は!」

「あずささん?」

「まさか……エイプリルフール……」

「頴娃腐離琉不卯流?」

「エイプリルフール。四月馬鹿。四月一日のこの日は嘘を吐いても良い日なんだよ」

 そだよー。そんな面白えー日に俺が何もしないわけねーじゃんよ。

「いや、それは知らないけど……」

「はあ、嘘を吐いてもいい……そんな日が……」

「知らなかったんだ……」

 まあ、無理もねーやな。

「てことは、梓くんが女の子になったことも、力が無くなったことも、嘘なんだね」

 どうだろうねー。

「は?」

 確かに、このまま嘘でしたー、の一言で元に戻すことは簡単だけっどもや、逆に、このまま本編に反映させちまうこともまた簡単ではあるってこったら。

「では、私は、このまま元に戻らないと!?」

 左様だー。

「……」

 あ、キレた。

「ふざけるな貴様!! 作者とて、そのような全てを無視した強行がまかり通ると思っているのか!?」

 通るもクソも、決めることができるのは俺だし……

「バカな……貴様……」

 ねえ、そんなに嫌かい? その状態。

「嫌に決まっているだろう! 女子な上に戦う力も無い! 苦難と苦境を乗り越え、得た力のことごとくを失ったこの状態を、受け入れることなど!!」

 そこは考えようじゃんよ。

「……なに?」

 今の君は、走ったら疲れる、攻撃されたら避けられない、力は弱い。その上今まで散々人々に恨まれるようなことして手に入れた力もまるでない。その辺のどこにでもいる、普っ通ーのか弱い一人の乙女に過ぎん。分かる? 普通の女の子。

「それが、何だと……」

 だからさ、このまま普通の女の子として、普通の人生を、この決闘アカデミアで過ごしては見ませんか? てことだよ、俺が言いたいのはや。

「普通……普通?」

 そ。

「何を……私はこれまでも、十分に普通に……」

 普通って言えるって、思ってるの?

「は……?」

 のお、あずさちゃんや。

「……えぇ? わたし?」

 そ。細かい説明は面倒だから省かせてもらうけどや、梓君の人生、君から見て普通って言えるアレかね?

「それは……」

「あずささん……?」

 まあ、そんな人生しか知らない輩からすりゃ、普通ってなんぞや、つー話ではあるところだろうがよ、少なくとも梓君よ、俺を含めそこらの普通(・・)の輩から見りゃ、お前さんの人生、壮絶、凄絶、波瀾万丈、過酷、苛烈、陰惨、理不尽、そんな意味合いの言葉がグワーって出てくるような、凄い人生ってこったら。

「……しかし、それを決めたのは……」

 ああ、そうだよ。君にそんな人生を歩ませちまったのは、他でもない、俺だ。

 何でもかんでも決められる立場に物を言わせて、話しを面白くしたいがために、とにかくきっつい仕打ちを君にアレさせてよ、それで君がどんだけ傷ついて、人格が変わっても遠慮なしにアレしまくってさ……

 まあ、さっきからアレばっかり言うてるけど……

「……結局何が言いたいの?」

 だからや、アレだよ。もうそろそろや、梓君を、普通のアレにしてあげようかいや、てなことだよ。

「普通の……アレ?」

 そ。

 普通に親の元に生まれて、普通にご両親の愛情を受けて、普通の家庭で育って、普通に決闘に出会って、普通に成長して普通に受験して普通に学生生活を炎上してる、そんな普通の学生になりたかないかい? てことだよ。

「エンジョイ、じゃない?」

 あぁ、そお、エンジョイエンジョイ。炎上させちゃダメだわ。

「普通に……」

 そ。引き換えに性別を返させてもらったけど。

「性別の変更には何の意味が……?」

 おもろいから。

「それだけ!?」

 ごめん。嘘。

 今まで起きたことをゼロにして何もかも新しくするには、そのくらいの代償が必要なんだわ。今回の代償は、君の性別の反転化ってなこったら。お分かり?

「……それは分かりましたが、ですが……」

 嫌かい?

「……嫌、です……」

 あずさに目を向けながら、そう、呟くように言った。

 まあ、確かにその性別じゃ、少なくともあずさとの恋仲にゃあなれねーや。

「……」

 まあ、ぶっちゃけそれもある意味俺のさじ加減なんだが。

 ……百合なんて書けるかな? BLなら経験あるんだけど……

「何か言った?」

 いや、こっちの話し。

 それよか、本当に嫌? 普通の人生、嫌?

「……」

 君だって、ぶっちゃけ何度も思ってたっしょ?

 毎日毎日、虐待を受けて、親戚連中から恨まれて、かと思えば一番誰かを恨んでるのは自分自身で、そんな自分自身が何よりも信じらんなくて、結果自分を誰よりも恨んで、そんな苦しみから解放される喜びを知ったのがつい最近の話しで。

「……」

 本当は、もっとみんなと普通に接して、普通で平凡な、けど幸せな日常を送りたい。そう思ってたんじゃあねーかいや?

「……」

 ねえ。もう今日まで十分苦しんできたじゃないよ。ここらでギブアップして、普通になってもいんでねーかい? 君のこと知ってる輩からすりゃ、だーれも咎めやせん。仮にいたとしてもそれは俺への文句であって、君が文句言われるわけじゃねーや。

「……」

 どうよ?

「……」

「梓くん……?」

 

「……下らない」

 

 ほお?

「梓くん……」

 あずさの、歓喜のような、安堵の声と共に、梓は顔を上げた。

「普通……平凡……平和……確かに、それは誰もが普通に得るべきものかもしれない。そして、私にはてんで縁の無い物であったことも否定はしない。辛かった。苦しかった。逃げ出したかった。しかし私は、一度も逃げ出すことなくここに立っている」

「例え普通とは言えない、艱難辛苦の日常であったとしても、そうして積み上げ、紡いできた人生に立つのが今の私だ。それは、あなたの勝手な同情や親切心で、否定されていいものではない」

「無論、全てはあなたが考え、あなたが課した、私の人生だ。あなたが決める権利も確かにあるのでしょう。だとしても、私は、私の人生を、あなたには絶対に渡さない。辛くとも、苦しくとも、後悔しかなくとも、それは私という、水瀬梓という人間を生み出した、紛れもない道程なのだから」

「……うん」

 かっくいー。

 ま、君ならそう言うとは分かっておったがや。

「分かったのなら、早く私の性別を戻していただきたい」

 可愛いのに……

 よかろう。ただし、普通に戻したんじゃー面白くない。

 ……ここから先の言葉は、分かっちょろーな?

「……」

 刀出してみ。それだけは使えるようにしてあるから。

「……」

 言われた通り、梓は刀を取り出す。そして、それを上に放り投げ、再び手元へ落ちてきた時、それは、決闘ディスクを形作った。

 ほんじゃら、やるかいや。

 そして、互いに決闘ディスクを構え、距離を取った。

 

「梓くん!」

 

「はい」

 

「頑張れー!!」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 んじゃ、そいうことで……

「……」

 

「決闘!!」

 決闘。

 

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

 何か、毎回俺が先行だな。

「では、変更しますか?」

 嫌だ。ドローフェイズ。

 

手札:5→6

 

「甘んじてやるのではないですか……」

 先行有利さ。スタンバイ、メイン、モンスターと、カードを二枚伏せて、お終い。

 

 

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「私のターン、ドロー」

 

手札:5→6

 

「速攻魔法『サイクロン』。このあなたの魔法・罠カード一枚を破壊します」

 相っ変わらず引きよるな、こいつ……破壊されたのは、通常罠カード『強制脱出装置』。

(ふむ、この手札なら……)

「永続魔法『ウォーターハザード』を発動。この効果により、チューナーモンスター『氷結界の守護陣』を特殊召喚」

 

『氷結界の守護陣』チューナー

 レベル3

 守備力1600

 

「更に、『氷結界の舞姫』を召喚」

 

『氷結界の舞姫』

 レベル4

 攻撃力1700

 

『やっと出番だー!!』

「バトルです。舞姫で、その守備モンスターを攻撃します。雪斬舞踏宴!」

『出番の恨み!』

 激しく歪ませた形相でのアズサの攻撃が、伏せられたモンスターにぶつかる。そして、表になり、現れたのは……

 『ガスタの巫女 ウィンダ』の効果発動。こいつが相手モンスターの攻撃によって破壊された時、デッキから『ガスタ』と名の付いたチューナー一体を特殊召喚できる。

 

「チューナーを!?」

 

 シンクロを使えるのは、あんたらだけじゃねーやさ。

 デッキからチューナーモンスター『ガスタ・ガルド』を特殊召喚する。

 

『ガスタ・ガルド』チューナー

 レベル3

 守備力500

 

「リクルート効果ですか……私はこれでターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『氷結界の舞姫』攻撃力1700

   『氷結界の守護陣』守備力1600

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

 

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『ガスタ・ガルド』守備力500

   魔法・罠

    セット

 

 

 さて、んじゃ俺のターンね。ドロー。

 

手札:3→4

 

 ……俺は、『ガスタ・ガルド』を生贄に……うんにゃ、リリースして、『ガスタの疾風 リーズ』を召喚。

 

『ガスタの疾風 リーズ』

 レベル5

 攻撃力1900

 

 ここで、『ガスタ・ガルド』のモンスター効果。こいつがフィールドから墓地へ送られた時、デッキからレベル2以下のガスタを特殊召喚できる。デッキから、『ガスタ・スクイレル』を特殊召喚する。

 

『ガスタ・スクイレル』チューナー

 レベル2

 攻撃力0

 

「またチューナー……」

 

「外の狙いは、シンクロ召喚か……」

 違うよ。

「え?」

 リーズのモンスター効果。手札を一枚、デッキの一番下に戻すことで、相手フィールドのモンスター一体と、自分フィールドのガスタを選択して発動できる。選択したモンスター二体のコントロールを入れ替える。

「何ですと!?」

 

手札:3→2

 

 こっちは『ガスタ・スクイレル』。そっちからは、『氷結界の守護陣』を選択しましょうかい。

「く……」

 選択された、緑の小鳥と氷の獣は、互いに走り、または羽ばたき、飛び上がり、その立ち位置を入れ替えた。

 ではここで、罠カード『サンダー・ブレイク』で。

「な……!」

 

手札:2→1

 

 手札を一枚捨てて、そっちの『ガスタ・スクイレル』を破壊しましょうかいの。

「え、アズサでなく、『ガスタ・スクイレル』を……」

 そ。そんで、効果で破壊された『ガスタ・スクイレル』の効果。デッキからレベル5以上のガスタを特殊召喚する。『ガスタの賢者 ウィンダール』を特殊召喚。

 

『ガスタの賢者 ウィンダール』

 レベル6

 攻撃力2000

 

 さーらーに、手札から墓地へ送られた『ガスタ・グリフ』の効果発動。デッキからガスタを一体、特殊召喚できる。『ガスタの静寂 カーム』を特殊召喚。

 

『ガスタの静寂 カーム』

 レベル4

 攻撃力1700

 

 カームの効果。一ターンに一度、墓地のガスタを二体、デッキに戻すことで、カードを一枚ドローできる。墓地に眠る『ガスタの巫女 ウィンダ』と、『ガスタ・グリフ』をデッキに戻して、一枚ドロー。

 

手札:1→2

 

 ……違うとは言ったが、いいや。

 ここで、レベル4の『ガスタの静寂 カーム』に、レベル3の『氷結界の守護陣』をチューニング。

「合計のレベルは、7……」

 

 シンクロ召喚! 『ダイガスタ・イグルス』!

 

『ダイガスタ・イグルス』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2600

 

「これが、外のシンクロモンスター……」

 

 さて、削りきるにはこれで十分かな。

 

「まずい、梓くんのフィールドはがら空き。でも、外のフィールドは……」

 

『ダイガスタ・イグルス』

 攻撃力2600

『ガスタの賢者 ウィンダール』

 攻撃力2000

『ガスタの疾風 リーズ』

 攻撃力1900

 

 残念。ワンキル確定だなこりゃ。てことで、バトル。

 

「梓くん!!」

 

 まずは、『ガスタの賢者 ウィンダール』で、アズサ、もとい『氷結界の舞姫』を攻撃。

『ちくしょう、出番はこれだけか……』

「アズサ……」

 

LP:4000→3700

 

 ここで、ウィンダールの効果。こいつがモンスターを戦闘破壊した時、墓地からレベル3以下のガスタを特殊召喚できる。

 てことでおいで、『ガスタ・ガルド』。

 

『ガスタ・ガルド』チューナー

 レベル3

 守備力500

 

 続いて、『ガスタの疾風 リーズ』で攻撃。

「通しません。手札から、『バトルフェーダー』を特殊召喚!」

 

『バトルフェーダー』

 レベル1

 守備力0

 

 ちぇー。二枚伏せてー、ターンエンドー。

 

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『ダイガスタ・イグルス』攻撃力2600

   『ガスタの賢者 ウィンダール』攻撃力2000

   『ガスタの疾風 リーズ』攻撃力1900

   『ガスタ・ガルド』守備力500

   魔法・罠

    セット

    セット

 

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『バトルフェーダー』守備力0

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

 

 

「何とか凌いだけど、このままじゃ……」

 

 このままじゃ、梓の負けだわ。このターンでどうにかせんことにはや。

「……」

 どうする? 別に降参は自由だけど、続けるかい?

「当たり前です。私はまだ、敗けてはいない」

 かっくいー。それでこそ梓。そこまでして今まで歩いてきた辛い現実を守ろうとはねー。

「そう。私は、あなたとは違う」

 ……

 

「え?」

 

 ……どゆこと?

「……私のターン、ドロー」

 

手札:1→2

 

「『強欲な壺』を発動。カードを二枚ドロー」

 

手札:1→3

 

「『天使の施し』。三枚ドローし、二枚を捨てます」

 一応、捨てたのは見せてね。

「……」

 

『フィッシュボーグ-プランター』

『ゾンビキャリア』

 

 良いの捨てよるなこいつ……

「……永続魔法『生還の宝札』。これにより、私の墓地からモンスターが特殊召喚される度、一枚カードを引きます。私は墓地の、『ゾンビキャリア』の効果を発動。手札を一枚、デッキの一番上に戻し、特殊召喚」

 

手札:2→1

 

『ゾンビキャリア』チューナー

 レベル2

 守備力200

 

「一枚ドロー」

 

手札:1→2

 

「そして、墓地の『フィッシュボーグ-プランター』の効果。デッキの一番上をめくり、それが水属性モンスターだったなら、特殊召喚します」

 

『フィッシュボーグ-ランチャー』水属性

 効果モンスター

 

『フィッシュボーグ-プランター』

 レベル2

 守備力400

 

手札:2→3

 

「墓地のモンスターが水属性のみの場合、『フィッシュボーグ-ランチャー』を特殊召喚」

 

『フィッシュボーグ-ランチャー』チューナー

 レベル1

 守備力100

 

手札:3→4

 

「そして、『死者蘇生』。アズサ」

 

『氷結界の舞姫』

 レベル4

 攻撃力1700

 

手札:3→4

 

『アイル ビー バック……』

 ……「I'll back(戻ってきた).」だろ、この場合。beはいらんぞ……

『良いんだよどうでも』

 あっそ。

「三人揃ったところで、質問に答えましょう」

 質問?

「どゆこと? あなたは今、私にそう尋ねた」

 別にわざわざ答えてくれなくてもいいんだけど……

「そうはいかない」

 あっそ。んじゃ好きにしたら。

「そうさせていただく。あなたは先程、辛い現実から私を解放してあげよう。そう言いましたね」

 うん。昔のことだからよく覚えてないがそんな意味合いの言葉だったかな。

「昔って……ついさっきのことでしょう」

 バカ野郎。決闘開始して何ページ捲ったと思ってんだ。

「いや、ページって……」

「げふん……私が言いたいのは、本当に今の状況から解放されたいのは、あなただ、ということだ」

 ほほう……

『え、そうなの?』

「どういう、意味?」

 聞かして聞かして。

「便乗しないで下さい……あなた自身気付いているはずだ。あなたは新たなお話を書いていく度……いや、もっと悪い。日が経ち、時間が経つにつれて、自身の文章力、表現力、構成その他、小説を書くための能力のことごとくが下がってきている」

 ……

「あぁ、まあ、確かにね……」

『それは僕も思ってたわ。強引にストーリーだけ進めてる感じしてたんだよね。台詞のクオリティも下がってきてるし、決闘も正直、鉄壁にしておいて、手札を使い切っての大逆転、て、お馴染みのパターンになってきてたし、戦術もパターン化してたし……』

「見直しも満足にできてなくて、投稿してから慌てて直すってことも増えてたもんね。今回も、十代くん達の台詞、何だか無理やり進めてた感じしてたし」

 ……ふふ。

「おまけに日々の忙しい日常に押されて、続きを書く時間も、新たな展開を考える時間も無い。日常を過ごす中で、書き続けていくことが苦痛となってしまっている」

 ちょっと違うなそりゃ。無いのは書く時間と体力。続きはとっくに考えてる。まあ、違いはそこだけだ。実際、疲れて、書くのしんどいなーって思っちょるのは否定はせぬが。

「……そんなことでよく今まで書いてきたね」

 実体化しながら、アズサはそう問い掛けた。

 ……確かにね。俺自身、よくもまあここまで長くやってきたもんだって、自分で自分に呆れてるよ。

「それはそうでしょうね。ただ、いくら腕が落ちていようが、ここまで書いてしまった以上、もう後には引けない」

「失踪してセブンスターズに堕ちた梓くんも戻ってきて、一年目も終わったけど、あと二年分のお話と、アイデアがあるんだもんね。あっちの方もだし」

「それだけのお話を全部、文書にまとめて、お話や台詞や伏線の辻褄を合わせて、決闘までなるだけよく見えるよう考えて、か……働きながらじゃ、疲れるよねそりゃ」

 ……ああ。そうだよ。だから、ここらで適当な口実かーらーのお、リセットエンドー。そんなふうに他でもない、俺が考えた。

「なんてこった……」

「情けない……」

 だーけーど、梓を苦しめすぎちゃったかなーって気持ちも本当だよ。悲劇的なキャラを考えて、そいつが立ち直るところを書くのはある意味物書きの醍醐味みたいなものではあるが、キャラをさんざ苦しめることができるってーのは、ある意味物書きの傲慢だわな。

「……」

 無論のこと、全ては架空の世界だし、ラストにさえ救いがありゃ良いってのがフィクションだ。

 けどさ、君らだって感じたことはあらーな。いくら最後の目的が完遂されたとはいえ、これだけで救われるほどの軽い苦難だったのーって。犠牲だったのーって。

「その目的には、それだけの価値があったってことなんじゃないの? そりゃあ、いつだって、過程の中の犠牲と目的の大きさが比例する、とは限らないけどさ、苦難や犠牲の先に達成された目的は、それだけの苦労と同じだけの価値があるものなんじゃないの?」

 そうだね。そんなふうに見せるのが、物書きの仕事だろーね。

 じゃあ聞きたい。俺がここまで書いてきたやつには、それだけの価値はあったんかいの?

「……それは、私達の判断の及ぶところではない……」

「そうだよ。わたし達はあくまで、書かれた通りにしか動けないんだから……」

「それを決めるのは、僕らじゃなくて……」

 そう。それを決めるのは君らじゃない。まして俺でもない。

 そこがまた、辛いところだわな……

「……結局のところさ、どうしたいの? あんた……」

 それは、俺が一番聞きたいよ。今の話しも、結局は言い訳だし。

 

 最初はさ、単純に二次小説ってのが面白そうだと思ったのと、ちょっとした腕試しのつもりだったんだわ。けど、次第に普通に小説書くのとは違う感覚にハマって、気が付いたら書きまくって、止まらなくなってた。手が止まりだしたのは、書く時間が取れなくなって初めてのことだ。

 書きながら何度も思ったもん。このまま全部放り出して、打ち切って辞めっちまえばどんなに楽になれるか知れねーって。

 けどや、アイデアは後から後から湧いて出てくるし、その度に、こいつぁ面白い、こいつを小説にしたら読者は笑ってくれるかしら、とか思っちまう。何より、書くことが楽しくて仕方がない。

 それで気が付いたら、技術が落ちまくってるのも構わず続きを書いてる。

「そんなに……」

 まったく、情けないったらねーや。

 ちょっと周り見たら、しなきゃいけないことや、見なきゃいけないものなんてたくさんあるのによ。昔っから、他に楽しみを知らないからな。

 白紙のページを眺めつつ、思いついた話とアイデアを頭に巡らせて、この場面はこうかな。ここはこんな展開がいいかな。こうしたら面白いかもな。この場面を早く書きたいな。こうすりゃみんな驚くかな。これならみんな楽しんでくれるかな……

 そう思いつつ、文字に起こして、文章にも気を遣って、見直して、誤字脱字、抜けてる台詞、決闘のミスが無いかとかをひたすら見ていってや。

「……」

 そんで、現実を見るわけよ。

 誰が望んでんだそんなもの。UA数とかお気に入り数とか感想数とか、見れば一目瞭然。そして、書き上げて、投稿した所で自覚するんだ。お前の書いたもの、ぜーんぶ無駄な努力。他の誰も望んじゃいない。見えるのは、見直しで見つけられなかったミスと、虚しい自己満足、それだけ。

「……」

 何が楽しんでほしいだよまったく。結局は、自分が他に楽しみが無いから書いてるってだけなのに。そのくせ日常が忙しくて書く時間と体力が無いとなったらもう辞めたい、だよ。こんな情けない話し、ないわな。

 そんで俺自身に対してこういうわけさ。そのくらいの志しか持てないのに、最初っから話を書こうなんて考えんじゃねーよ、てや。

「……」

 あーあぁ、なーんで俺なんかがこんなお話思いついて、書いちゃったのかなー。俺なんかより、よっぽど上手で、よっぽど書く時間に恵まれた人なら、君らのこと、きちっと面倒みてあげられただろうにさー。

 

『……』

 

 わーりぃ、長くなった。君のターンだ。続けておくれ。

 ああ、やっぱ面倒だから、敗けても性別もお話も元に戻すよ。まあ、次のお話はいつになるか……そもそも続きはあるのか、保証はできかねるが。

「……確かに、情けないですね」

 ……ん?

「所詮は、二次創作だ。人気が出たところで何かの賞が出るわけでもない。まして、プロになれるわけでもない。その目的は、所詮、作家の自己満足に過ぎない。それだけのために膨大な時間を割き、知恵を絞り、話しや設定を考えている。そのくせ責任など無に等しいから、それに辛くなったなら、簡単に辞めると言い出す。そして、誰も咎めない」

 ……

「あなたの言う通りだ。格好悪くて、滑稽で、酷く情けない」

 ……

「そして……美しい」

 ……はい?

「あなたは先程、誰か別の人達のもとに、私達は生まれればよかったと、そう言った。確かに、私達は所詮、二次創作であることをいいことに、様々な作品から接ぎ張りして作られた者だ。作ろうと思えば、誰にでも作れるのかもしれない」

 ふふ……

「しかし、だとしても、元々存在しなかった私達を生み出し、ここまで育てたのは他でもない、あなただ」

 そりゃあ、そうだろうよ。

「そう。作者なのだから、当たり前のことだ。しかし、その当たり前を実現することこそが真の困難だと、あなたが一番知っている」

 おー、向こうの第一部での台詞。

「ええ。だがこれは、決して架空の世界だけに通ずる言葉ではない。当たり前を確立することが最も難しい。そして、あなたはその当たり前を作り出したんだ」

 そんな大層なもんじゃないぜ。ただキャラと話し考えるだけなんだから。

「けど、少なくともわたしにはできないことだよ」

「僕も、そんな器用な真似無理」

「私もです」

 そらやったことねーからさ。誰でもできるぜ。俺にできるんだから。

「そうなのかもしれませんね。だが少なくとも、私達が、あなた以外の誰かのもとに生まれたとして、ここまで来れたとは思えません」

 そうかー?

「そうです。その人もまた、もっと早い段階で逃げ出していたかもしれない。生み出したところで、全く別の境遇や過去を背負わされていたでしょう。それが今、ここにこうして、愛しい人達に囲まれている。それは、あなたの作り出したお話の中でだ」

 ……

「例え、架空や自己満足、傲慢だとしても、世界を作りだすことだけは誰にでもできる。けど、それを形作ることは容易ではない。まして、まるで相手にされない人達もいる中で、数少ないお気に入り数、感想数という形で、誰かに認められながら、それだけのことを成し遂げるのは、並大抵のことではない。私達がここまで歩んでこれたのも、ここまでの世界を作り上げたのも紛れもない、あなたのしてきたことだ」

 ……(ポリポリ)

「逃げ出そうと考えたあなたは、確かに情けない。しかし、これだけのことを成し遂げるために、書き続けることができたあなたの今の姿は、とても、美しいです」

 ……(ふぅ……)

 

 わざわざお話の中まで出張って、自分の書いたキャラに慰められるとか、つくづくダメな作家だよなー。俺。

 ……ま、いいや。

 疲れても、辛くても、本当に楽しいものは、それも全部ひっくるめて、いつまでも楽しいんだから。

 今はただ楽しみながら、この決闘を最後まで書き上げることを考えるさ。

 

「……では、続けます」

 ちなみに忘れとろうけど、今、梓のメイン1で、こんな状況。

 

 

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『氷結界の舞姫』攻撃力1700

   『フィッシュボーランチャー』守備力100

   『フィッシュボーグ-プランター』守備力400

   『ゾンビキャリア』守備力200

   『バトルフェーダー』守備力0

   魔法・罠

    永続魔法『ウォーターハザード』

    永続魔法『生還の宝札』

 

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『ダイガスタ・イグルス』攻撃力2600

   『ガスタの賢者 ウィンダール』攻撃力2000

   『ガスタの疾風 リーズ』攻撃力1900

   『ガスタ・ガルド』守備力500

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

 うむ……こりゃ、アズサの言葉は『I'll be back(戻ってくる).』で合ってたわ。

「参ります。レベル4の『氷結界の舞姫』と、レベル1の『バトルフェーダー』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ランチャー』をチューニング」

 上空へ飛び上がった『フィッシュボーグ-ランチャー』の身が一つの輝く星となり、共に上空へ飛び上がったアズサと『フィッシュボーグ-ランチャー』の周囲を回る。

 

「凍てつく結界(ろうごく)より昇天せし翼の汝。全ての時を零へと帰せし、凍結回帰(とうけつかいき)の螺旋龍」

「シンクロ召喚! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!」

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300

 

「出た! 梓くんのエースカード!」

「『フィッシュボーグ-ランチャー』は自身の効果により、ゲームから除外されます。ブリューナクの効果。手札を任意の枚数、墓地へ送ることで、フィールド上のカードを捨てた枚数、手札に戻します。私は、手札の3枚のカードを墓地へ送ります」

 

『フィッシュボーグ-ガンナー』

『フィッシュボーグ-アーチャー』

『キラーラブカ』

 

手札:4→1

 

「そして、あなたのフィールドの『ダイガスタ・イグルス』、『ガスタの賢者 ウィンダール』、『ガスタの疾風 リーズ』を戻していただく。凍結回帰!」

 あいやー……

 

手札:0→2

 

「更に魔法カード『命削りの宝札』発動! 手札が五枚になるよう、カードをドローし、五ターン後、手札を全て墓地へ捨てる」

 

手札:0→5

 

「魔法カード『簡易融合(インスタントフュージョン)』! ライフを1000支払い、エクストラデッキのレベル5以下の融合モンスターを特殊召喚する。私はエクストラデッキより、レベル5の『深海に潜むサメ』を特殊召喚します」

 

『深海に潜むサメ』融合

 レベル5

 攻撃力1900

 

「レベル5の水属性『深海に潜むサメ』と、レベル2の水属性『フィッシュボーグ-プランター』に、レベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング」

「冷たき結界(ろうごく)にて研磨されし剣の汝。仇なす形の全てを砕く、冷刃災禍(れいじんさいか)の刃文龍」

「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!」

 

『氷結界の龍 グングニール』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500

 

「効果により、『ゾンビキャリア』をゲームから除外。グングニールの効果。一ターンに一度、手札を二枚まで捨てることで、相手フィールドのカードを捨てた枚数だけ破壊できる」

 

『E・HERO アイスエッジ』

『E・HERO オーシャン』

 

手札:4→2

 

「私が破壊するのは、二枚の伏せカード。冷刃災禍!」

 『次元幽閉』! ミラフォオオオオオオオ!!

「魔法カード『サルベージ』! 墓地に眠る攻撃力1500以下の水属性モンスターを手札に戻します。墓地のアイスエッジとオーシャンを手札に」

 

手札:1→3

 

「そして、『魔法石の採掘』。手札を二枚、墓地へ送り、墓地の魔法カード一枚を手札に」

 わー、嫌な予感……

 

手札:0→1

 

「再び『命削りの宝札』発動!」

 ひいいいいぃぃぃええええええええええええ。

 

手札:0→5

 

「墓地の守護陣と『深海に潜むサメ』をゲームから除外。現れよ冷狼……『フェンリル』を特殊召喚」

 

『フェンリル』

 レベル4

 攻撃力1400

 

「『フェンリル』をリリース。『氷結界の虎将 ライホウ』召喚」

 

『氷結界の虎将 ライホウ』

 レベル6

 攻撃力2100

 

「墓地の『フィッシュボーグ-プランター』の効果。デッキトップを墓地へ」

 

『スノーマンイーター』水属性

 効果モンスター

 

『フィッシュボーグ-プランター』

 レベル2

 守備力400

 

「宝札の効果で一枚ドロー」

 

手札:3→4

 

「そして、レベル3以下の水属性モンスターが存在することで、手札を一枚捨て、『フィッシュボーグ-ガンナー』を特殊召喚」

 

『氷結界の水影』

 

手札:4→3

 

『フィッシュボーグ-ガンナー』チューナー

 レベル1

 守備力200

 

「一枚ドロー」

 

手札:3→4

 

 疲れてきた……

「もうすぐです。参ります」

 

「レベル6の『氷結界の虎将 ライホウ』と、レベル2の『フィッシュボーグ-プランター』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ガンナー』をチューニング」

(いにしえ)結界(ろうごく)において、慟哭せし激情の汝。永久(とわ)に拒むは命の全て、滅涯輪廻(めつがいりんね)の無間龍」

「シンクロ召喚! 刻め、『氷結界の龍 トリシューラ』!」

 

『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力2700

 

「そして、召喚時の効果。あなたの手札の一枚、フィールドに残された『ガスタ・ガルド』、墓地の『ガスタの静寂 カーム』を除外します。滅涯輪廻!」

 あうぅ……

 

手札:2→1

 

 除外されたのは、リーズだ……

「魔法カード『ミラクル・フュージョン』! 墓地に眠る『E・HERO アイスエッジ』と、水属性『氷結界の水影』を融合。現れよ、氷結の英雄『E・HERO アブソルートZero』!」

 

『E・HERO アブソルートZero』

 レベル8

 攻撃力2500+1500

 

 うぅぅぅえぇ……

「魔法カード『魔法再生』。手札の魔法カード二枚を捨て、墓地の魔法カードを一枚、手札に加える」

 なにぃ!? まさか、また命削り……?

「さすがにそこまで鬼ではありません。私が手札に戻すのは、『死者蘇生』」

 

『伝説の都 アトランティス』

『ウォーターワールド』

 

手札:2→0→1

 

「発動します。アズサ!」

 

『アイール バック!!』

 

『アズサ』

 レベル4

 攻げ……

 

『こら! 手を抜くな!』

 え? ……ああごめんごめん、間違えた。

 

『氷結界の舞姫』

 レベル4

 攻撃力1700

 

 どひゃ~……

 俺のフィールドがら空きにしておいて……

 

『氷結界の舞姫』

 攻撃力1700

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+2000

『氷結界の龍 ブリューナク』

 攻撃力2300

『氷結界の龍 グングニール』

 攻撃力2500

『氷結界の龍 トリシューラ』

 攻撃力2700

 

 自分で書いといて気持ち悪くなってきたよ。よくもまあ、元エースとエースと切り札と最終兵器と相棒を揃えるとか。何気にZeroの素材は過労死要因の水影だし……

「全てはあなたのくれた力です」

 いやぁ~、それ言っちゃお終いではあるが……

「あなたの言うように、普通はこんなふうに、上手く回るわけがない。というか、ここまでのカードを並べようと思うなど、異常なまでのこだわりが無ければできることではない」

 悪かったな異常で。

「悪いどころか、確かに、普通の人から見ればただの決闘好きなだけの異常者でしょう。しかし、決闘者である私達から見れば、よくこれだけのことをしてのけたと、尊敬に値します」

 決闘好きなら、誰でもできると思うけど……

「ですが、少なくとも、今これらをやってのけたのは、あなたの力だ」

 そりゃあ、そうだが……

 ……まあいいか。もうごちゃごちゃ考えるの面倒くさいし。

 褒められた通り、俺凄えって、思っておくことにするよ。

「ええ。そうして下さい」

 

 ……

 

 水瀬梓。

「はい?」

 平家あずさ。

「へ?」

 舞姫アズサ。

『そう呼ぶの?』

 まあ、今こんなことを言うのも何だが……ありがとうよ。俺のもとに生まれてきてくれてや。

「え? あぁ……」

「いきなりなに?」

『気持ち悪い……』

 別に。いつ言えなくなるかも分からないし、今言っとこうと思っただけさ。

 じゃあ、用も済んだし、ちゃちゃっと終わらしちゃってくれや。

「……」

 

「バトル! Zero、ブリューナク、グングニール、トリシューラ、アズサ。外に、ダイレクトアタック!!」

 ……

 楽しかった……

 

LP:4000→0

 

 

 決闘が終わり、三人の梓達は、再び向かい合った。

 

 んじゃ、約束通り、梓の性別は戻すでや。

「……外」

 んあ?

「次は、あるのでしょうか?」

 どうかな? まあまた、時間と体力と、やる気があればな。

「まったく、しょうがない人だなぁ……」

「まあ、それでも僕達は、あんたの元に生まれてきたこと、後悔はしないけど」

 そうかい。

 んじゃ、そういうことで、戻すから、まずは目をお閉じ。三人とも。

「あ、はい」

「分かった」

「はいはい」

 んじゃ、元に戻すでよ。

 

 三……

 

 二……

 

 一……

 

 パチ

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:梓

 

 パチ

 

 突然、布団の中で、目が覚めてしまった。

(今のは……)

 何やら、おかしな夢を見ていたような……

 疑問に感じつつ、部屋を見ると、暗い。窓に目を向けても、まだ夜中のようだ。

(……まあ、いい。眠り直すとしましょう……)

 不意に、無意識に手が伸びる。

 平たい。そして、着いている……なぜだかそんな当然のことに安堵しつつ、徐々に、意識は、眠りの中へ落ちていった……

 

 

 

 




お疲れ~。
てことで、日付に合わせた嘘回でした~。

あ~疲れた。こんだけ長いの書くと疲れる。
にしても既に書いたことだが、わざわざ二次小説の中にまで出張って、キャラに向かって愚痴こぼす作家なんて、大海以外にいるのかね~。
まあ、他に話せる相手も話す場所も無いんだけどよ~。
こう改めて見ると、やっぱ大海よりもダメな作家というのも世の中いないんだろうね~。
まあ、直したくとも直せないんだけどや~。

てことで、次はいつか、むしろ次があるのか分からんが、とりあえず、いつもの言葉で締めときますじゃ。
ちょっと待ってて。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。