遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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こっちが本当の第一話~。
てことで新章、行ってらっしゃい。



第一話 始まりと変化

視点:梓

「……痛ぅっ……!」

 

 ガバッ

 

 思わず飛び起きてしまった。いつもより顔が涼しい。どうやら顔中に汗が流れているらしい。

『……どうしたの梓? ポコチンが無くなる夢でも見た?』

「……」

 なぜだか素直に否定もできませんが、

「違います」

 一応、違うので否定して、その原因を見せつけました。

「それ……(むかし)の君が(じぶん)につけたやつ?」

「はい」

 実体化してきたアズサに、そう答えます。

 左手首。そこにできた、醜い噛み跡。軽く出血している。

 未来(かつて)の私が、過去(いま)の私に対してつけた、罪の象徴を。

「とっくに虎将の力で治したもんだと思ってた」

「治そうと思えば簡単に治せます。しかし……」

「しかし?」

「治すべきでない、残すべき傷もある、ということです」

「……」

 答えるとアズサは、なぜか俯いた。しばらく、胡坐を掻いた足下を眺めていましたが、

「梓」

 急に、私の名を呼びました。

「はい」

「……ごめん。やっぱいい。上手いこと言葉にする自信ないし」

 それだけ言って、姿を消しました。おそらく眠ったのでしょう。

 

「……」

 あの時、(わたし)は、(わたし)に対してこう言った。

 

 -「……忘れないで……その傷を見る度、思い出して……あなたを愛し……あなたに殺された……そんな人達のこと……忘れないで……」

 

 一度は愛おしいと感じておきながら、その凶行を目の当たりにし、決して許さぬ、倒さねばならぬと考えた。

 そんな男が、過去(みらい)で全く同じふうに変わるとは。酷い皮肉もあったものだ。もっとも、あの時はよもや、本当に同一人物だとはゆめゆめ考えませんでしたが。

 そして、それだけの凶行の罪を、私はどうやら、忘れかけていたらしい。

 未来(かこ)では現在(いま)ほど知らず、それでも少なからずあった愛情の全てを、ここでは溢れんほど総身に受け止めている、そんな、あまりの居心地の良さと、心の安らぎに、私は、私の罪を憎む意思を、忘れかけていたようだ。

 それを、眠りから覚ますほどの痛みとして、私に思い出させたくれたらしい。

「呆れたものだ。絶対に忘れぬと、誓ったはずなのに……」

 世界が違おうと、間違いなく私は、多くの命を奪った。自分一人の、自己満足のために。

 この傷は、私が決して忘れてはならない罪の証。

 仮に、この傷を消してしまう日が来るのだとすれば、それは、その罪が、何らかの形で許された時だけ。

 もっとも、そんな日は、永遠に来ないだろうけれど……

 

 

 

視点:アズサ

 しばらく傷を眺めた後で、やっと眠ったみたい。

 精霊は人とは違って、基本的に睡眠も食事も必要無い。それでも寝たいと思えば普通に眠れるし、普通に食事もできるんだけどね。

 それでも、僕は眠りたいとは思わない。

 だって、こうして、大好きな人の寝顔、間近で見られるから。

 

 何だか不思議だな。

 普通なら、目の前にいる人のこと、憎いって思うべきなんだもんね。

 僕の故郷をめちゃくちゃにして、大勢の仲間達を殺した挙句、僕の一番大切な人を、僕と一緒に滅ぼした張本人なのに。

 だけど、その滅ぼされた一番大切な人もまた、こうして今、目の前に眠ってるんだ。

 そして、そんな梓のこと、僕は今でも大好きだから。

 別の世界で人間だった僕が、どんな経緯で決闘モンスターズの精霊になったか、それは、正直分からない。まあ、大好きな決闘モンスターズの精霊になれたのは、ある意味僥倖ではあったけど。そして、そんな僕のカードを、梓が使ってくれることは、僥倖以上の僥倖だったけど。

 そう。僕の気持ちは、あの時から何も変わってない。

 僕のことを必死に守ろうとしてくれて、僕を、僕として受け入れてくれた、そんな、梓のこと、僕は今でも、大好きだから。

 梓の心が、あの時からどれだけ変わっても、僕が一度懐いちゃった思いは、消すことができなくなっちゃったから。

 

 そんな梓には、正直、昔のことは、もう忘れて欲しい。

 もちろん、梓は梓なりに考えて、昔のことを忘れちゃいけないって考えてるのは分かってる。

 けど、僕は梓と違って頭が悪いから、いつまでも昔のことばっか引き摺らないで、今感じてる幸せのことだけ考えて、ずっとずっと、幸せな気持ちでいて欲しい。

 どれだけ重い罪なのか、それは、目の前にいた僕が一番知ってる。絶対に、忘れちゃいけない罪なのも分かる。

 だけど、それでも、梓には、幸せになって欲しいから。

 ずっと、今の梓がどれだけ苦しんできたかを、梓の中で見てきたから。

 だから、どうか、梓だけは、幸せになって。

 お願いだから、幸せに生きて。

 どうか、幸せに……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:梓

 現在、私達はレッド寮の前にある岸壁から、その下の浜辺で決闘を行っている、十代さんと、プロ決闘者の『エド・フェニックス』さんの二人を眺めております。

 私、翔さん、明日香さん、準さん、そしてトメさんとファラオの五人と一匹です。

 と、先程から見ておりますが、あのエドさんという人、プロ決闘者という話しですが、どうにも本気を出しているようには見えません。トメさんの話しを聞くに、カードパック八つを組み合わせて即興で作り上げためちゃくちゃなデッキでは無理も無いでしょうが。

 少なくとも、十代さんと決闘がしたい、というよりも、十代さん自身を見ている、そんなふうに感じられます。

 他にも、決闘中に携帯電話に出たりと、気になる点は多々あるものの、それでも途中から、フィールド魔法の『天空の聖域』と、最上級モンスター『大天使ゼラート』を召喚して場を優位に立たせました。

 さすがはプロ、ということか。

 とは言え、十代さんもまた、その程度で終わるような人ではない。

 終盤、『E・HERO テンペスター』を融合召喚。その攻撃でゼラートを倒し、『融合解除』で素材である三体の『E・HERO』を特殊召喚しました。

 この三体の直接攻撃で、十代さんの勝利です……

 

「うわああああああああああああああ!!」

 

『……!!』

 と、いきなり隣の方から声が聞こえてきました。そちらを見ると、

「あずさ!?」

「何してるんだあいつ!?」

「いや、落ちてるんだよこの崖を!!」

「……まあ、あずささんなら大丈夫でしょう」

 

『……』

 

『確かに』

 

 

 

視点:十代

 

 ズカアアアアアアァァァン……

 

『……!!』

「な、なんだ?」

 これからエドにとどめを刺して決めようって時に、突然悲鳴が聞こえて、横に何かが落ちてきた音が聞こえた。そっちを見てみると、

「あ痛たたた……」

「ああ、あずさか」

 あずさがぶつけたらしい尻をさすりながら、立ち上がった。

「な、何者だ?」

 初対面のエドはそう聞いてきてる。だから答えることにした。

「こいつは平家あずさ。俺の友達だ」

「……ああ、邪魔してごめんなさい。フィールド魔法で足下が見えなくて、思いっきり足を踏み外しちゃって」

「足を踏み外した……? あの、崖から落ちてきたのか?」

「そう」

「……そんなの死ぬに決まっているだろう。下らない嘘を言うな」

「嘘は言ってないけど……」

 初対面ならあずさの強さなんて知らないよなぁ。俺達は慣れてるけど、多分これが普通の反応なんだろうな。

「……とは言え、確かにこんな足場の悪い場所の近くでの決闘で、フィールド魔法の発動はまずかったかも知れない。そこは謝罪しておこう。申し訳ない」

「いえいえ。こちらも足下ちゃんと見てなかったのが悪かったから。気にしないで」

 あずさは相変わらず笑って返してるしな。

「……と、話しが逸れたけど、決闘を続けるぜ」

「ああ」

 で、結局俺がそのまま三体のE・HERO達での直接攻撃が決まって、勝つことができた。

 ただ、その後あいつの使ったデッキが、適当に買ったパックのカードで組み合わせただけのデッキだって知らされて、ショックを受けたのは別の話しだ。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:万丈目

 現在俺は、ナポレオン教頭がセッティングした、『スター発掘決闘』とやらの舞台にいる。

 目の前にいる相手は、新入生トップの実力を誇る超エリートだという、『五階堂(ごかいどう) 宝山(ほうざん)』。勝てば、ブルー寮へと復帰することができる。

 この男、何でも俺にずっと憧れていたらしく、かつての俺と同じような思想、デッキ、決闘をもって、中等部のエリートとしてのし上がってきたらしい。

 確かに、自分の力に溺れ、選ばれしものとしての気負いと驕りに溢れた姿は、正に一年前の俺とダブっている。俺に憧れ目指すのは構わんが、そんな部分まで同じになる必要は無いものを。

 そのことを分からせるため、何より、ブルー寮へ復帰するためにも、この決闘、勝利してみせる。

 

 決闘は一言で言えば、順調に進んでいる。

 何度か逆転されて苦しい展開になりもしたが、『XYZ』と『おジャマ』を駆使した決闘で、有利に立つことができた。

 だが決闘以上に気になったのが、決闘中に突然キレてきた奴の言葉。

 おジャマという、醜悪なモンスターを駆使して闘う俺に、心底失望したふうな態度だった。

 まあ、確かにこの屑どもは間抜けにも見えよう。そして、レッドの決闘者が屑であることも否定はしない。

 慢心的で傲慢、そして、異常なほどの潔癖。本当に、似なくてもいい部分まで、とことん一年前の俺とダブっている。

 だが、今なら分かる。少なくとも、そんな格好と様式ばかりを気にしていて勝てるほど、決闘は甘くはない。

 そして、俺はそんな屑に囲まれたことで気付いたのだ。

 下には下がいることを!

 

 そして最後には、奴が屑だと呼び、バカにしたおジャマのカードで、勝利することができた。

「どうだ! 俺の一年間は無駄ではなかった。貴様が俺の境地に辿り着くのは、百万年掛けても不可能だ。貴様は所詮、中坊のトップで、レッドの決闘者にすら遥かに及ばんのだ。貴様に、レッドや屑カードを見下す資格などない!」

 

「いいか、よく覚えておけ! 俺様は……」

 

「一」

 

『十!』

 

『百!』

 

『千!』

 

「万丈目サンダー!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

「万丈目!」

 

 勝利した瞬間、十代が突然ステージに上がってきて、俺に抱き着いてきた。

「お前そんなに、レッドのことを愛していたのか、この!」

「え? あ、そういうことじゃ……」

 と、何やら誤解されてしまった。そして、そんなふうに誤解されたまま、俺はブルー寮に戻れるはずが、なぜだかレッド寮に居残ることになってしまった。

 

「ちがーう!!」

 

「……」

 

 

 

視点:外

 

「くそう……こんなの嘘だ。偶然、まぐれ、奇跡に決まってる、くそ……!」

 敗北したエリート君、五階堂宝山は、床にひざと手を着きながら、そう、言葉を続けていた。

 かつて、ずっと憧れ続けながら、再会した時には、自分が最も忌み嫌う姿へと変わってしまっていた、落ちこぼれの元エリート。そんな、万丈目に敗北した。そんな、彼のプライドに傷つけた現実を、必死に忘れようと。

「あり得ない……この僕が、あんな、屑カードを使う、屑が集まるレッド寮の屑な先輩に、こんなこと……」

 

「あの……」

 

 そんな、五階堂に、声を掛けたのは、

「……ああ!! あなたは!!」

「私をご存知ですか?」

「もちろんです! 決闘アカデミアで最も美しく、あのカイザー亮にも勝利した、二年生の中でも最強の実力者と名高い、別名、凶王……」

 

「水瀬梓さん!!」

 

「え、水瀬梓さん?」

「水瀬梓さん? あれが!?」

「うわぁ、噂通り、美しい……////」

 

 突然の梓の登場に、会場内は、先程までとは違う形での盛り上がりと、歓喜に包まれる。万丈目を囲んでいた、梓の友人であるレッド生達も、そちらの二人に目を向けた。

「最強になった覚えはありませんが、知っているというのなら、話しが早いです」

 そう、変わらぬ笑顔で話し掛け、話しの本題を切り出す。

「もしよければ、これから私と、決闘しませんか?」

「ええ!? ほ、本当ですか?////」

「ええ。ご不満ですか?」

「いいえ!! ぜひ、こちらこそよろしくお願いします!!////」

 興奮に顔を真っ赤に染めながら、直前までの屈辱を忘れたかのように、大喜びで立ち上がった。

 

「お、おい、梓……」

「はい」

 そんな梓に、万丈目が、顔をしかめながら声を掛ける。

「普通の決闘、だな? 決闘以上のことは、しない、な?」

 不安に顔を引きつらせながら、そんな確認を取るその顔には、彼自身もよく知る恐怖が浮かんでいた。

「……ええ。普通に決闘をします。それ以上のことはしません」

 万丈目の真意が分かっているのかいないのか、とにかく梓はそう返し、満面の笑みを浮かばせた。

 そして、その満面の笑みは、

(ヤバい、この笑みはヤバい……!!)

 梓をよく知る者達にとって、そんな、恐怖を生む笑顔だった。

 だが、分かっていても、この場に梓を止めることができる者など、一人もいない……

 

 

『それデーハ、急遽決まった、新入生トップと、二年生トップによる、エキシビジョンマッチを開始するのでアール!』

 マイクで拡大された、ナポレオン教頭の声に、会場は大いに盛り上がりを見せた。

『決闘するのは、先程と同じく、新入生の超エリート、五階堂宝山。相手は、二年生一の美貌と決闘戦略(タクティクス)を有する、凶王、水瀬梓なのでアール!』

 

『うおおおおおおおおおおおおおお!!』

「きゃーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 万丈目との決闘とは明らかに種類の違う、黄色い声援に包まれる中で、五階堂は、嬉しげに梓に声を掛ける。

「梓さん、あなたほどの決闘者と決闘できて光栄です。レッドの屑なんかよりよっぽど勉強になる」

「そうですか」

「それにしても分からないですね。あなたのような人が、どうして『凶王』だなんて物騒な名前で呼ばれてるんでしょうか?」

「さあ……この決闘で、もしかしたら分かるかもしれませんね」

「楽しみです!!////」

 

『それデーハ、決闘を開始するのでアール! 先行は、今度はムッシュ梓なのでアール!』

 

「参ります」

「はい!」

 

『決闘!!』

 

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

五階堂

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「では私から、ドロー」

 

手札:5→6

 

 ただカードを引く。それだけの動作でも、見ている者達から大いに視線を集める。

 五階堂含め、新入生の誰もが、梓の一挙手一投足に注目し、その美しさに期待を込める。

「……ところで、五階堂さん」

「はい! 何でしょうか?」

「一つ、こちらからも質問があるのですが」

「ええ! 何でも聞いて下さい!////」

 決闘中だが、その美しさの虜になっている五階堂に、拒否する理由は無い。

 それは、見ている者達にとっても同じだった。

「では……あなたはなぜ、準さんやレッド寮に対して、あのようなことを言ったのでしょう?」

「え? 嫌だなあ。レッド寮だなんてみんなそう思ってるじゃないですか。どうしてブルー寮であるあなたがそんなことを気にするんですか?」

「……私はそのようなことを聞いているのではありません」

「……?」

「……」

 

「なぜっ!!」

 

「貴様如きっ!!」

 

「泥土も知らぬ飼い犬が、準さんやレッド寮を愚弄するという……」

 

「暴挙に出たのか聞いているんだぁあああ!!」

 

 

「……っっ!!」

 

『……っっっ!!』

 

 なまじ注目していたゆえに、その姿への衝撃は、十代や万丈目を除く、大勢の生徒に強烈に叩きつけられた。

 

「去れ!! 消えろ!! 許しを請え!! いっそのこと窒息しろおおおおおおお!!」

「な、な、な……」

「『手札抹殺』発動! 互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする!」

「あ、ああ……」

 互いの手札の総入れ替えを合図に、凶王、水瀬梓の、殺戮が始まる。

「永続魔法『生還の宝札』を発動。そして、自分の場にモンスターが存在しない時、手札の水属性モンスターを捨てることで、墓地のチューナーモンスター『フィッシュボーグ-アーチャー』を特殊召喚する!」

 

手札:4→3

 

『フィッシュボーグ-アーチャー』チューナー

 レベル3

 攻撃力300

 

「チューナー?」

 

「おい、梓の奴……」

「まさか、本気を出す気か……?」

 

「宝札の効果で一枚ドロー」

 

手札:3→4

 

「更にチューナーモンスター『深海のディーヴァ』召喚」

 

『深海のディーヴァ』チューナー

 レベル2

 攻撃力200

 

「『深海のディーヴァ』の召喚に成功した時、デッキからレベル3以下の海流族モンスターを特殊召喚する。『ニードル・ギルマン』特殊召喚」

 

『ニードル・ギルマン』

 レベル3

 攻撃力1300

 

「『ニードル・ギルマン』が場に存在する限り、自分フィールドの水族、海流族、魚族の全てのモンスターは攻撃力が400ポイントアップする」

「で、でも、それでも弱いモンスターばかり……」

「関係ない」

「え……?」

「レベル3『ニードル・ギルマン』に、レベル3『フィッシュボーグ-アーチャー』をチューニング!」

 宣言された二体のモンスターが宙を飛び、『フィッシュボーグ-アーチャー』は三つの星になり、『ニードル・ギルマン』の周囲を回る。

 

「凍てつく結界(ろうごく)より昇天せし翼の汝。全ての時を零へと帰せし、凍結回帰(とうけつかいき)の螺旋龍」

「シンクロ召喚! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!」

 

「なぁ……!!」

 五階堂の驚愕と共に、空から舞い降りた。

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300

 

「な、なんて、美しい、龍……」

「更に永続魔法『魔力倹約術』発動。これで魔法カードの発動に必要なライフコストを踏み倒す。カードを一枚伏せ、『命削りの宝札』を発動! 手札が五枚になるよう、カードをドローし、五ターン後、全ての手札を墓地へ捨てる!」

「いぃ!!」

 

手札:0→5

 

「魔法カード『簡易融合(インスタント・フュージョン)』! ライフ1000ポイントと引き換えに、融合デッキよりレベル5以下の融合モンスターを特殊召喚する。ライフコストは、『魔力倹約術』によって踏み倒す。来い、『深海に潜むサメ』」

 

『深海に潜むサメ』融合

 レベル5

 攻撃力1500

 

「レベル5の水属性『深海に潜むサメ』に、レベル2の『深海のディーヴァ』をチューニング」

 再び同じ光景が、目の前に繰り広げられる。

 

「冷たき結界(ろうごく)にて研磨されし剣の汝。仇なす形の全てを砕く、冷刃災禍(れいじんさいか)の刃文龍」

「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!

 

「あぁ……」

 今度は地面を突き破り、その巨体を持ち上げるように、現れた。

 

『氷結界の龍 グングニール』シンクロ

 レベル7

 攻撃力2500

 

「か、格好良い……」

「魔法カード『死者蘇生』発動! 墓地に眠るモンスター一体を特殊召喚する。私は墓地の、『氷結界の虎将 グルナード』を特殊召喚!」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「宝札の効果で一枚ドロー」

 

手札:3→4

 

「更に墓地に眠る『レベル・スティーラー』の効果発動! フィールド上のレベル5以上のモンスター一体のレベルを一つ下げ、墓地のこのカードを特殊召喚する。グルナードのレベルを下げる」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 レベル8→7

 

『レベル・スティーラー』

 レベル1

 攻撃力600

 

「一枚ドロー」

 

手札:4→5

 

「このカードは生贄召喚以外を目的とした生贄には使用できない。そして、墓地に眠るチューナーモンスター『フィッシュボーグ-ランチャー』は、自分の墓地のモンスターが水属性モンスターのみの場合、特殊召喚可能」

 

『フィッシュボーグ-ランチャー』チューナー

 レベル1

 攻撃力200

 

「一枚ドロー」

 

手札:5→6

 

「まさか、また……」

「『フィッシュボーグ-ランチャー』は水属性モンスターのシンクロ素材にしか使用できず、この効果で特殊召喚された後で墓地に送られた時、ゲームから除外される。レベル7となった『氷結界の虎将 グルナード』と、レベル1の『レベル・スティーラー』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ランチャー』をチューニング!」

 今度は『フィッシュボーグ-ランチャー』が一つの星となり、二体のモンスターの周囲を回った。

 

(いにしえ)の結界《ろうごく》において、慟哭せし激情の汝。永久(とわ)に拒むは命の全て、滅涯輪廻(めつがいりんね)の無間龍」

「シンクロ召喚! 刻め、『氷結界の龍 トリシューラ』!」

 

 何も言えない五階堂を前に、まるで幻が徐々に実体を持つように、現れた。

 

『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力2700

 

「出た! トリシューラ……」

 

「なんて、綺麗で……格好良い……」

「自身の効果で特殊召喚された『フィッシュボーグ-ランチャー』は墓地に送られた時、ゲームから除外される。トリシューラのモンスター効果。このカードの召喚に成功した時、相手の手札、フィールド、墓地に存在するカードを一枚ずつ除外する」

「何だって!?」

「滅涯輪廻!」

 

『グオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』

 

『……っっ!!』

 

 効果を叫んだ瞬間、トリシューラの強烈な咆哮がこだまする。その声に、その美しさに惹かれていた者達は、皆一様に身を怯ませた。

「うぅ……!」

 

五階堂

手札:5→4

 

「くぅ、まさか、見たことのない召喚で、三体ものモンスターを……だが、僕だって負けはしないぜ! 次のターンで必ず……」

「何を勘違いしている?」

「ひょ?」

「まだ私のターンは終わっていない。私はブリューナクのモンスター効果を発動。手札を任意の枚数捨てることで、フィールド上に存在するカードを一枚、手札に戻す。私は手札を一枚捨てる」

 

手札:6→5

 

「戻すのはトリシューラだ。凍結回帰!」

 そう宣言した瞬間、ブリューナクから発生した風がトリシューラを包み、その姿を消失させた。

「な、なんで、わざわざモンスターを……」

「貴様には、ただの敗北など生温い……」

「え……?」

「その身に受けろ。究極の生き恥と、屈辱の絶頂を。魔法カード『エレメント・チェンジ』。このターン、全てのモンスターは私の宣言した属性となる。対象は水属性。そして装備魔法『早すぎた埋葬』! ライフを800ポイント支払い、モンスター一体を蘇生させるが、『魔力倹約術』の効果でコストは無い。グルナードを蘇生」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「宝札の効果で一枚ドロー」

 

手札:3→4

 

「レベル8のモンスター……」

「墓地に眠る『レベル・スティーラー』の効果。グルナードのレベルを一つ下げ、墓地より特殊召喚する!」

 

『氷結界の虎将 グルナード』

 レベル8→7

 

『レベル・スティーラー』

 レベル1

 攻撃力600

 

「一枚ドロー」

 

手札:4→5

 

「『レベル・スティーラー』のレベルは1。そして本来闇属性だが、『エレメント・チェンジ』の効果で水属性に変更されている。自分フィールドにレベル3以下の水属性モンスターが存在する時、手札を一枚捨てることで、墓地のチューナーモンスター『フィッシュボーグ-ガンナー』を特殊召喚」

 

手札:5→4

 

『フィッシュボーグ-ガンナー』チューナー

 レベル1

 攻撃力100

 

「一枚ドロー」

 

手札:4→5

 

「そしてブリューナクの効果。手札を一枚捨て、今度は『早すぎた埋葬』を手札に戻す。凍結回帰!」

 

手札:5→4→5

 

「え、そんなことしたら、せっかく特殊召喚したグルナードが……あれ、破壊されない?」

「『早すぎた埋葬』の効果で特殊召喚されたモンスターが破壊されるのは、このカードが破壊された時。これは手札に戻す効果のため破壊はされない」

「そ、そう言えば……」

「貴様、エリートとか抜かしておいて、こんな常識も知らないのか……」

「そ、それは……」

「貴様如き、準さんやレッド寮の皆さんの足下にも及ばない! 『フィッシュボーグ-ガンナー』はシンクロ素材とする時、他のカードは全て水属性でなければならない。レベル7となった『氷結界の虎将 グルナード』と、レベル1の水属性となった『レベル・スティーラー』に、レベル1の『フィッシュボーグ-ガンナー』をチューニング!」

「シンクロ召喚! 再び刻め、『氷結界の龍 トリシューラ』!」

 

『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力2700

 

「そして、効果発動! 滅涯輪廻!」

 

『グオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』

 

「うあぁ……」

 

五階堂

手札:4→3

 

「まだだ!! 手札を一枚捨て、トリシューラを戻す。凍結回帰!」

「はぁ!?」

 

手札:5→4

 

「装備魔法『早すぎた埋葬』! グルナードを蘇生! ドロー! レベルを下げ『レベル・スティーラー』特殊召喚! ドロー! 手札を一枚捨て『フィッシュボーグ-ガンナー』特殊召喚! ドロー! 手札を捨て『早すぎた埋葬』を手札に! 凍結回帰!」

 

手札:3→4→5→4→5→4→5

 

「レベル7、『氷結界の虎将 グルナード』と、レベル1、『レベル・スティーラー』に、レベル1、『フィッシュボーグ-ガンナー』をチューニング!」

「シンクロ召喚! 『氷結界の龍 トリシューラ』!」

 

『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力2700

 

「滅涯輪廻!」

 

『グオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』

 

「ぐああああああぁぁぁ……」

 

五階堂

手札:3→2

 

「手札を一枚捨て、トリシューラを戻す。凍結回帰!」

 

手札:5→4

 

「こ、これって……」

 

「これは、無限ループか!?」

「手札を捨てながら、その枚数を一枚も減らすことなく、蘇生とバウンスを繰り返し、トリシューラを何度も呼ぶ。そして、手札と墓地のカードを除外……」

「そうか、これが正に……輪廻の如く、生涯の滅びを繰り返す……滅涯輪廻……」

「梓の奴、なんてコンボ考えるんだ……」

「この一ターンで、エリート君の手札も、『手札抹殺』の効果で落ちた墓地のカードも……」

 

「魔法カード『サルベージ』! 墓地に眠る攻撃力1500以下の水属性、『氷結界の水影』二枚を手札に加える」

 

手札:3→5

 

 仲間達が驚愕する中でも、梓の手が止まることはない。

「『早すぎた埋葬』! グルナードを蘇生! ドロー! レベルを下げ『レベル・スティーラー』特殊召喚! ドロー! 手札を一枚捨て『フィッシュボーグ-ガンナー』特殊召喚! ドロー! 手札を捨て『早すぎた埋葬』を手札に! 凍結回帰!」

 

手札:4→5→6→5→6→5→6

 

「シンクロ召喚! 『氷結界の龍 トリシューラ』!」

 

『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力2700

 

「滅涯輪廻!」

 

『グオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』

 

「うわあああああああ!!」

 

五階堂

手札:2→1

 

「凍結回帰!!」

 

手札:5→4

 

「これが最後だ。『早すぎた埋葬』! グルナードを蘇生! ドロー! レベルを下げ『レベル・スティーラー』特殊召喚! ドロー! 手札を一枚捨て『フィッシュボーグ-ガンナー』特殊召喚! ドロー!」

 

手札:4→5→6→5→6

 

「シンクロ召喚! 『氷結界の龍 トリシューラ』!」

 

『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力2700

 

「滅涯輪廻!」

 

『グオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』

 

「うわあああああああああああああああ!!」

 

五階堂

手札:1→0

 

「これで手札も、墓地のカードすら無くなった。『強欲な壺』を発動。カードを二枚、ドロー」

 

手札:5→7

 

「再び『サルベージ』発動。『氷結界の水影』二枚を手札に加える」

 

手札:6→8

 

「既にこの二枚も用済みだ。グングニールの効果。一ターンに一度、手札を二枚まで捨てることで、フィールド上のカードを捨てた枚数分破壊する。私は二枚の水影を捨てる。冷刃災禍!」

 

手札:8→6

 

 グングニールの二枚の翼にカードが吸収される。その光る二枚の翼から発生した風が、永続魔法である『生還の宝札』、『魔力倹約術』の二枚を切り裂いた。

「そして、ものはついでだ。魔法カード『ミラクル・フュージョン』を二枚発動! 墓地に眠るモンスターを除外し、『E・HERO』を融合召喚する!」

「E・HERO!?」

「墓地の『E・HERO アイスエッジ』と、水属性『フェンリル』、『E・HERO オーシャン』と、水属性『氷結界の水影』を除外! 『E・HERO アブソルートZero』二体を、特殊召喚!」

 

『E・HERO アブソルートZero』融合

 レベル8

 攻撃力2500+1500

『E・HERO アブソルートZero』融合

 レベル8

 攻撃力2500+1500

 

「な……攻撃力、4000……」

「『E・HERO アブソルートZero』は、フィールド上のZeroを除く水属性モンスター一体につき、攻撃力を500上げる」

「ぐぅ……」

「カードを四枚伏せ、ターンエンド」

 

 

LP:4000

手札:0

場 :モンスター

   『氷結界の龍 トリシューラ』攻撃力2700

   『氷結界の龍 グングニール』攻撃力2500

   『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300

   『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500+1500

   『E・HERO アブソルートZero』攻撃力2500+1500

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

    セット

 

五階堂

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「あ、ああ……」

 先行の一ターン目で、フィールドを埋め尽くしたばかりか、こちらの手札、墓地のカードまでも全て除外してしまう。

 

「マジ、かよ……」

「嘘、でしょう……」

 

 あまりの出来事に、五階堂も、他の新入生達も、言葉を失い、思考が途切れ、その身を硬直させていた。

 

「私の手札は0」

 

 そんな五階堂に、梓が、静かに声を掛ける。口元に妖しい笑みを浮かべ、見下す視線を向けながら、挑発か、はたまた更なる屈辱のためか。

「貴様の次のターンで、この状況をどうにかしてみせれば、私に勝つことも可能かもしれないなぁ。なあ、エリートさん」

「くぅ……」

 できるわけがないだろう。

 そんな言葉を飲み込みながら、デッキに目を戻す。

 もう、このドローに賭ける以外、五階堂には残されていないのだから。

「ぼ、僕のターン、ドロー!!」

 

五階堂

手札:0→1

 

(……『強欲な壺』! よし、これなら……)

「僕は……!」

 

「速攻魔法発動!」

 

「へ?」

「『時の女神の悪戯』! このターンをスキップし、私のバトルフェイズとなる」

「えぇ!!」

「どんなカードを引いたのだ?」

「あぁ……」

 掴みとった一縷の希望。

 それを使うことすら許されず、目の前に広がるのは、圧倒的な力を持った、冷たい五体のモンスター達だけ。

 

『氷結界の龍 トリシューラ』

 攻撃力2700

『氷結界の龍 グングニール』

 攻撃力2500

『氷結界の龍 ブリューナク』

 攻撃力2300

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+1500

『E・HERO アブソルートZero』

 攻撃力2500+1500

 

「貴様、先程言ったな。私の敬愛する準さんに向かって、雑魚カードに入れ込む落ちこぼれには、レッド寮がお似合いだと」

「そ、それは……」

「そして、レッド寮の人達は、屑ばかりだ、と」

「……」

「ならば問おう。何もできずただ目の前の光景を傍観している貴様が屑でないのなら、何だと言うのだ?」

「それは……」

「まさか、エリート、などとは言うまいな。その落ちこぼれや、屑以下の決闘しかできていない貴様が、エリートだ、などと……そんなおかしな話はあるまいなぁ?」

「う、ぐぅ……」

「……答えられないなら、独りよがりでしかない大口を叩くな! 落ちこぼれも屑も、私一人で十分だ!! バトル!!」

「ひ!!」

「『E・HERO アブソルートZero』で、ダイレクトアタック! 瞬間氷結(フリージング・アット・モーメント)!」

 

「うわあああああああああああああ!!」

 

五階堂

LP:4000→0

 

「そんな……一撃で……」

「二体目のアブソルートZeroで攻撃!」

「え……?」

瞬間氷結(フリージング・アット・モーメント)!」

「なっ、うわあああああああああああああ!!」

 

五階堂

LP: 0→-4000

 

「どうして……? 僕のライフは、とっくにゼロ、なのに……」

「これで幕とは思うな。償いはこれからだ……」

「えぇ……!!」

「『氷結界の龍 ブリューナク』、静寂のブリザード・ストーム!」

「うわああああああああああああ!!」

 

五階堂

LP: -4000→-6300

 

「『氷結界の龍 グングニール』、崩落のブリザード・フォース!」

「あぁああああああああああああああああああ!!」

 

五階堂

LP:-6300→-8800

 

「『氷結界の龍 トリシューラ』、終幕のブリザード・ディナイアル!!」

「うぅうあああああああああああああああああああああああ!!」

 

五階堂

LP:-8800→-11500

 

「ぐ、うぅ……けど、やっと、終わっ……」

「罠発動!」

「え……?」

「『マジカル・エクスプロージョン』! 自分の手札が0の時、私の墓地の魔法カード一枚につき、200ポイントのダメージを与える!」

「なにぃ!?」

「私の墓地の魔法カードは十三枚。よって、2600ポイントのダメージ!」

 墓地から放たれた光が、五階堂に向かい、ぶつかった。

「うわあああああああああああああ!!」

 

五階堂

LP:-11500→-14100

 

「ぐぅ……」

「罠発動! 『D.D.ダイナマイト』! 相手が除外しているカード一枚につき、300ポイントのダメージを与える! 貴様が除外したカードは十枚、ダメージは十の300倍!」

「うわああああああああああああああ!!」

 

五階堂

LP:-14100→-17100

 

「罠発動! 『ナイトメア・デーモンズ』! アブソルートZeroを生贄に捧げ、貴様の場に三体の『ナイトメア・デーモン・トークン』を特殊召喚する!」

「え?」

 その宣言の通り、アブソルートZeroが光に変わり、三体の悪魔へと姿を変えた。

 

『ナイトメア・デーモン・トークン』トークン

 レベル6

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』トークン

 レベル6

 攻撃力2000

『ナイトメア・デーモン・トークン』トークン

 レベル6

 攻撃力2000

 

「な、なんだ、このトークン……」

「同時にZeroの効果! このカートがフィールドを離れた時、相手の場のモンスター全てを破壊する。そして、『ナイトメア・デーモン・トークン』が破壊された時、一体につき800ポイントのダメージだ!!」

「あ、ああ……」

氷結時代(アイス・エイジ)!」

「ああああああああああああああああああ!!」

 

五階堂

LP:-17100→-19500

 

「そしてこれが最後だ。罠発動! 『破壊輪』!」

「え……?」

「私のモンスター一体を破壊し、その攻撃力分のダメージを、互いに受ける」

「た、互いに……?」

「破壊するのは、もう一体の、アブソルートZero!!」

 二体目のアブソルートZeroの首に、手榴弾の着いた首輪がはめられた。

「これで最後だ!!」

 その絶叫と同時に、アブソルートZeroの体は、吹き飛んだ。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「ははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

LP:4000→0

 

五階堂

LP:-19500→-23500

 

 

 ポッカーン……

 

 梓の豹変。凶暴なプレイング。そして、意外なる幕切れ。

 それら全ての事柄に、会場にいる者達全員が、言葉を失っていた。

「ぐ、うぅ……」

 常識外のダメージを喰らい、ひざを着きながら、それでも、疑問は消えない。

「どうして……どうしてわざわざ、引き分けになんて……」

 そう漏らした時、梓は、目の前に立っていた。そしてその目は、決闘をする時とは違う、決闘を始める前の、優しい顔になっていた。

「凄いですねぇ……」

 そして、優しい顔のまま、言葉を紡ぐ。

「あれだけ派手にダメージを受けていたにも関わらず、まさか、敗北ではなく、引き分け、という形で幕を下ろすとは。さすがはエリートさんだ」

「な……!」

 そして、顔を近づけ、

「その調子で、これからも頑張って下さい。あなたなら、今後も上手くやっていけますよ。なぜなら……」

 とどめの一言を放った。

 

「あの状況で、私と引き分けることができたのだから」

 

「……!!」

 その言葉に含まれた言外の意味を、五階堂は、理解してしまった。

 お前など、敗ける価値もない。

 巨大なダメージを受けようとも、敗北という、一種の安息さえ許さない。

 エリートらしく、引き分けという結果の名のもとに、不敗者として生きるがいい。

 たとえそれが、ボロボロの、圧倒的な、敗北でしかない、情けという名の引き分けだとしても。

「これが……究極の生き恥と……屈辱の絶頂……これが……凶王……」

 それを知ったところで、体中から力が抜け、その場に両肘を着いた。

 

 

「ただいま戻りました」

 そう、満面の笑みで、梓は十代達の前へ戻ってきた。

 その顔は白く輝いており、どことなく、肌艶も増しているように見える。

「え、ええ……お帰りなさい、梓……」

「さすが梓、強えな、相変わらず……」

「容赦ないっすね、決闘でも、何でも……」

 明日香、十代、翔。三人とも、その顔を引きつらせ、蒼白に変わっていた。

「ですが、あれだけやれば、もうレッド寮の人達を見下すことは、永遠に無いでしょう。五階堂さんも、そして、新入生達も」

 後ろに並ぶ、未だ衝撃から抜け切れない新入生達を見据えながら、そう話した。

「そう、だな……」

 その言葉には、万丈目が返した。

「もっとも、同じような人々が現れたなら、また同じ目に遭わせるだけですが」

 また、満面の笑みで、そう言う。

『……』

 

(二度と、梓の前で、仲間の悪口は言えねえな……)

(僕も、梓さんを怒らせるようなことするのやめる……)

(ええ。私達ならまだ大丈夫でしょうけど、キレたら手が付けられないのは同じだものね……)

 

「……?」

 三人の変化に疑問を抱きつつ、梓は、別の疑問を感じていた。

「……あの、あずささんの姿が見えませんが」

「あずさなら、結果は見えてるからって、決闘が始まる前に帰っちまったぜ」

「そう、ですか……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 そして、その決闘をきっかけに、様々な変化がアカデミアに生まれていた。

 

(くそ! 俺が少々手こずった相手を、梓は完封してしまうとは。梓はどんどん強く、先へ行っている。俺ももっと、もっと強くならねば……)

 新たな決意を胸に抱かせた者。

 

 

「私は今日の決闘を見て思ったのでアール! 我がアカデミアから、スターを送りだそうというのなら、更なるエリート教育を。そのためにも、オシリスレッドは潰すべきなのでアール!!」

 オシリスレッドへの不信を募らせた者。

 

 

(……今回も、僕の出番は無かったな。それに、梓は決闘してて、ただ怒ってるだけで、全然楽しそうじゃなかった。梓にはもっと、楽しくて、幸せな決闘をして欲しいのにな……)

 梓の幸福を切に願う者。

 

 

『見たかったんだがな。梓の決闘』

「嫌だよ、もう。怒った梓くんの決闘なんて。梓くんには、ただ、普通に楽しい決闘をしてほしいよ」

『まあ、それもそうかもしれないけどね。けど、決闘だからまだ良かったんじゃない?』

『確かに。本気でキレた梓なら、あの新入生の男の子を、細切れにしていたでしょうし』

「いくら梓くんでも、友達を悪く言われたくらいでそこまではやらないよ。梓くんだって、昔と違って、ずっとずっと優しくなったんだから」

『ああ。確かに、あいつは変わった。よく笑ってよく楽しんで、前よりずっと明るくなった』

『お前と、お前達仲間のお陰で……』

「私は何もしてないよ。それに多分、梓くんは変わったっていうか、元に戻っただけ、じゃ、ないかと思うし」

『そうかもな……』

「今の梓くんは多分、幸せを感じてると思う。わたし以外にも、大勢の仲間がいるから、幸せなんだよ」

(……わたしは、梓くんにとっての、幸せになれてるのかな……)

 梓を心より思う者達。

 

 

 そして……

 

「……遊城十代以外にもいるのか。私の運命を左右する者。怒りと、悲しみと、憎しみ、それらを懐きし、魔王。負の感情に包まれ、それでも愛する者の幸福を願う、孤独の王。そして、愛する者のためならば、血と殺戮に彩られることも厭わぬ、狂王……」

「だがそれも、脅威ではあるが、私の運命にとっては何の関わりもない。私の運命は、決して歪むことは無いのだ……」

 自らの運命への確信を貫こうとする者。

 

 

 それぞれの変化を生み出しながら、梓達の、決闘アカデミアの二年目は、幕を開けた。

 

 

 

 




お疲れ~。
いやあ、禁止と原作オリカを駆使すると無限トリシューラもやり易いなぁ。
そんなことをしみじみ感じつつ、オリカ行こう。


『エレメント・チェンジ』
 通常魔法
 属性を一つ宣言して発動する。
 発動したターンのエンドフェイズまで、フィールド上の全てのモンスターは宣言した属性として扱う。

漫画版GXにて、十代が使用。
一ターン限定の『DNA移植手術』。速攻性がある分色々と使えそうではあるが、まあ、一長一短かな。
ちなみに漫画での表記はなぜか通常罠でしたが、普通に「手札から魔法発動!!」と宣言してたので、通常魔法ってことで。


『時の女神の悪戯』
 速攻魔法
 このターンをスキップし、次の自分のターンのバトルフェイズになる。

遊戯王DMでジーク、GXでオージーンが使用。
他に使ってた人いたかな? 何やら金持ちが使ってる印象が強いんだけど、ひょっとして高額なレアカード?
なんて談義は置いといて。先行ワンキルし放題。壊れ。欲しい。以上。


これで全部ですな。
そんじゃあ、次もいつかは分からんが、次話まで待ってて。

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