それでは、決闘のはじまりよ~。
アニメ効果やオリジナルの演出が満載だから、不快になったらごめんね。
そんじゃ、行ってらっしゃい。
視点:外
その決闘は、世界中の人間が見ていた。
もちろん、一人残らず見ている、というわけではなく、興味の無い人間や、見ることのできない事情がある人間もいる。それでも、世界中に生放送されていれば、世界中の人間がそれを見ることができる。
だからこそ……いや、放送はむしろ、目印に過ぎない。
そんな放送のもと行われた、たった一つの行為。
それこそが、全てのキッカケ。
始まりの、キッカケとなった。
エド・フェニックス
LP:4000
手札:3
場 :モンスター
『E・HERO フェザーマン』攻撃力1000
魔法・罠
セット
セット
ほんの数か月前、卒業する前まで、決闘アカデミアの
そんな彼の前に立ちはだかるプロ決闘者、エド・フェニックス。彼が召喚したのは、アカデミアで何度も闘い、卒業決闘で最後に闘った男、遊城十代の使ったデッキ、『E・HERO』。
何度も闘い、その対策も知り尽くしている亮からすれば、戦い易い、美味しい相手と言えるだろう。
だが、亮の表情に、そんな事実から来る余裕は無く、勝利への確信も無い。
ただ、決闘が始まった時から変わらない、揺るがぬ闘志と、そして、一つの決意を浮かべ、エドを見据えていた。
そして……
「俺のターン」
亮
手札:5→6
手札に伸ばし、発動させた一枚のカード。
「フィールド魔法『竜の渓谷』発動!」
「なに……?」
聞いたことのない魔法カードの発動に、エドは疑問を浮かべた。
「え?」
「なに?」
「は?」
それまで使ったことのないカードの発動に、アカデミアの生徒達に衝撃が走った。
そして……
「痛ぅ……!」
左手の傷を押さえる梓と、
「あ……?」
「なんや……?」
たまたま会場へ、決闘を見に来ていた、ある二人のプロ決闘者と、
「……え?」
「……ん?」
「……あれ?」
「……っ」
「……?」
「……!」
「……」
アカデミアからは遠く離れた、バラバラの場所にいる、計七人の者達。
彼らが、気付いた。
亮の、始まりの瞬間に。
「フィールド魔法、『竜の渓谷』……?」
エドが疑問を浮かべている間に、フィールド魔法の発動により、二人の立つ決闘フィールドは姿を変えた。
漂う霞に包まれた森と、その上に高くそびえ立ついくつもの岸壁、そして、それら全てをオレンジ色に染め上げる、美しくも雄大な夕日。
そして、それらの上を、夕日の陰に黒く染まりながらも、悠然と空を舞う、竜達の姿。
「何だ、このフィールド魔法は? 見たことが無い……いや、そもそも先輩、あなたはこんなカードは、今まで使ってこなかったはずだ」
「当然だ。俺も今日、初めて使うデッキだからな」
「何だと? カードだけではなく、デッキそのものが!?」
エドの驚きの声も無視し、亮は続ける。
「フィールド魔法『竜の渓谷』には、一ターンに一度、手札を一枚捨てることで、発動することができる二つの効果がある。俺は、第二の効果を選択。手札の『ドラグニティ-ファランクス』を墓地へ送ることで、デッキからドラゴン族モンスター『ドラグニティ-ブランディストック』を墓地へ送る」
亮
手札:5→4
「そして俺は、『ドラグニティ-ドゥクス』を召喚」
『ドラグニティ-ドゥクス』
レベル4
攻撃力1500
「『ドラグニティ-ドゥクス』の効果。このカードの召喚に成功した時、墓地に眠るレベル3以下のドラゴン族モンスターを、このカードに装備することができる。俺はこの効果で、墓地のレベル1の『ドラグニティ-ブランディストック』を装備」
亮がそう宣言した時、墓地に眠っていた仔竜が飛び出し、
「そして『ドラグニティ-ドゥクス』は、フィールド上のドラグニティと名の付くカード一枚につき、攻撃力を200ポイントアップさせる。フィールドには『ドラグニティ-ブランディストック』、更にドゥクス自身も合わせ、攻撃力は400ポイントアップする」
『ドラグニティ-ドゥクス』
攻撃力1500+200×2
「ドラゴン族に、鳥獣族……『ドラグニティ』だと? 一体何なんだ、それは……!」
『カイザー亮、これまで使っていた『サイバー』デッキとは全く違う、未知のカード群を使用。しかし、それにしても鮮やかなプレイングで、攻撃の布陣を整えている!』
未知のカードへの驚きに声を上げる、エドとMCの声をバックに、決闘は進む。
「バトルだ。『ドラグニティ-ドゥクス』で、フェザーマンを攻撃。竜勢の
その宣言で、仔竜を従えたドゥクスが、フェザーマンに向かう。
「罠発動『ドレインシールド』! 相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のライフを回復する」
エド
LP:4000→5900
ドゥクスの攻撃が、フェザーマンの前に出現した見えない壁によって防がれる。
「交わされたか。だがブランディストックを装備したモンスターは、一度のバトルフェイズで二度の攻撃が可能となる」
「なに!?」
「二度目の攻撃。竜勢の祝詞」
二度目の攻撃は防がれることなく、フェザーマンは破壊された。
エド
LP:5900→5000
「カードを二枚伏せる。これでターンエンド」
亮
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『ドラグニティ-ドゥクス』攻撃力1500+200×2
魔法・罠
効果モンスター『ドラグニティ-ブランディストック』
セット
セット
フィールド魔法『竜の渓谷』
エド・フェニックス
LP:5000
手札:3枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
「……少々驚かされたが、面白い。僕のターン、ドロー」
エド
手札:3→4
「魔法カード『強欲な壺』を発動。デッキからカードを二枚、手札に加える」
エド
手札:3→5
「更に魔法カード『戦士の生還』を発動。墓地に眠る戦士族モンスター一体を手札に加える。僕は墓地のフェザーマンを手札に加える。ここで、魔法カード『融合』! 手札のフェザーマンと、バーストレディを融合。出でよ『E・HERO フェニックスガイ』!」
『E・HERO フェニックスガイ』融合
レベル6
攻撃力2100
「フェニックスガイ? フレイム・ウィングマンじゃないのか?」
「……兄貴、ひょっとして知らないの?」
と、エドが召喚したE・HEROの解説を、翔が十代に行い、それに左右に座る仲間達が呆れている間にも、決闘は進む。
「バトル! フェニックスガイで、『ドラグニティ-ドゥクス』に攻撃。フェニックスショート!」
フェニックスガイが、右腕の爪を振りかざし、『ドラグニティ-ドゥクス』に向かう。
それを見ながら、亮はカードに手を伸ばした。
「カウンター罠『攻撃の無力化』発動。その攻撃を、無効にする」
亮のカード発動により、ドゥクスの目の前の空間に渦が生まれた。
「甘い。カウンター罠『トラップ・ジャマー』! このカードのエフェクトにより、罠カードの発動を無効にし、破壊する」
「……カウンター罠『トラップ・ジャマー』。この効果により、エドの発動したカードの効果を相殺させてもらう」
「なに!」
両者が共に発動したカード『トラップ・ジャマー』。その二つがぶつかり合い、最後に残ったのは、亮の発動した『攻撃の無力化』。それによって生まれた渦の中にフェニックスガイの攻撃が命中し、ドゥクスは無傷に終わった。
「く……僕はカードを一枚伏せる。ターンエンドだ」
エド・フェニックス
LP:5000
手札:1枚
場 :モンスター
『E・HERO フェニックスガイ』攻撃力2100
魔法・罠
セット
亮
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『ドラグニティ-ドゥクス』攻撃力1500+200×2
魔法・罠
効果モンスター『ドラグニティ-ブランディストック』
フィールド魔法『竜の渓谷』
「やるな、二人とも……」
「最初から、高度なチェーンの押収ドン」
「本当の闘いは、ここからだ……」
「……」
「梓、本当に医務室に行かなくて平気なのか?」
「……大丈夫です。既に出血は止まっております」
「なに? ……確かに」
「それに、この決闘だけは、最後まで見届けなくてはならない。そう思うのです」
「……そうか」
『梓……』
「俺のターン、ドロー」
亮
手札:1→2
「『強欲な壺』を発動。カードを二枚、ドローする」
亮
手札:1→3
「……俺は手札から『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』を捨てることで、『竜の渓谷』の第一の効果を発動。デッキから、『ドラグニティ-レギオン』を手札に加える。そして、『ドラグニティ-レギオン』を召喚」
『ドラグニティ-レギオン』
レベル3
攻撃力1200
「レギオンの召喚に成功した時、墓地に眠るドラゴン族、レベル3以下のドラグニティを装備できる。レベル2の『ドラグニティ-ファランクス』を装備。更に、ドゥクスの攻撃力もアップする」
『ドラグニティ-ドゥクス』
攻撃力1500+200×4
「確か、フェニックスガイには、戦闘では破壊されない効果があったはずだな」
「……」
「ここで、レギオンの効果を発動。魔法・罠ゾーンに表側表示で存在するドラグニティと名の付くカード一枚を墓地へ送ることで、相手フィールドに存在する表側表示のモンスター一体を破壊することができる
「なんだと!?」
「俺はレギオンに装備されたファランクスを墓地へ送り、効果発動」
亮のその宣言により、レギオンは腰を落としながら、右手を大きく下げる。その右手に、レギオンの周りを飛び回っていたファランクスが飛び乗った。
そして、その右手をレギオンが前へ突き出したと同時に、ファランクスはフェニックスガイに向かって飛んでいき、その身を貫いた。
「このカードは、自分フィールドに表側表示で存在するドラグニティモンスター一体を墓地へ送ることで、手札から特殊召喚できる。『ドラグニティ-レギオン』を墓地へ送り、『ドラグニティアームズ-ミスティル』を特殊召喚」
『ドラグニティアームズ-ミスティル』
レベル6
攻撃力2100
「『ドラグニティアームズ-ミスティル』が手札から特殊召喚に成功した時、墓地に眠るドラゴン族のドラグニティ一体を装備できる。俺は再び『ドラグニティ-ファランクス』を装備する」
『ドラグニティ-ドゥクス』
攻撃力1500+200×4
「バトルだ。『ドラグニティ-ドゥクス』で、エドにダイレクトアタック。竜勢の祝詞」
「ぐぅ……!」
エド
LP:5000→2700
「更に、装備されたブランディストックの効果で、二度目の攻撃が可能。『ドラグニティ-ドゥクス』、竜勢の祝詞」
「ぐああ……!」
エド
LP:2700→400
「これで最後だ。『ドラグニティアームズ-ミスティル』の攻撃。ヴァニッシュセイント・ミストルテイン」
攻撃の命を受けた、剣を携えし竜人。その剣が輝きを宿し、エドに斬りかかった瞬間、エドの体を爆炎が包んだ。
「やったか!」
「お兄さん……」
その光景に、アカデミアの生徒達も興奮を叫ぶ。
そして、爆炎が徐々に、晴れていき、そこからエドが姿を現した時、
エド
LP:400
「なに……?」
「そんな……」
「どうして……?」
周囲が疑問を声に出す中、エドは平然と、墓地のカードを示した。
「僕は攻撃を受けた瞬間、罠カード『ホーリージャベリン』を発動させていた。相手が攻撃した瞬間、その攻撃力分だけライフを回復する」
「つまり、回復されたことでダメージもゼロとなった、というわけか」
「そういうことだ」
『エド・フェニックス、残りライフは400! ギリギリで踏みとどまっている!』
(ギリギリだと? 違うな。奴はまだまだ余裕を感じている……)
「俺はこれでターンエンド」
亮
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『ドラグニティアームズ-ミスティル』攻撃力2100
『ドラグニティ-ドゥクス』攻撃力1500+200×3
魔法・罠
効果モンスター『ドラグニティ-ファランクス』
効果モンスター『ドラグニティ-ブランディストック』
フィールド魔法『竜の渓谷』
エド
LP:400
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「僕のターン、ドロー」
エド
手札:1→2
「僕は『E・HERO スパークマン』を召喚!」
『E・HERO スパークマン』
レベル4
攻撃力1600
「更に装備魔法『スパークガン』を装備。そして速攻魔法『ガード・ペナルティ』を発動。このカードは対象となったモンスターが守備表示となった時、カードを一枚ドローする。僕が対象にするのは『ドラグニティアームズ-ミスティル』。そして、『スパークガン』のエフェクト発動。『ドラグニティアームズ-ミスティル』を守備表示に変更」
「……」
亮が何も言わぬ間に、スパークガンから発せられた光がミスティルにぶつかり、構えていたミスティルの膝を着かせた。
『ドラグニティアームズ-ミスティル』
守備力1500
「『ガード・ペナルティ』のエフェクトで、一枚ドロー」
エド
手札:0→1
「更に、『スパークガン』のエフェクト発動。ミスティルを攻撃表示に変更」
『ドラグニティアームズ-ミスティル』
攻撃力2100
「そして、最後のエフェクトを使い、再びミスティルを守備表示に変更」
エドが展開する、モンスターの膝を何度も着かせる光景に、観客席からは笑い声が上がり始めた。
「ママ! あのモンスター、あの人のペットみたい」
「先輩自慢のモンスターは、面白いね」
「そうだな」
「……三度使用した『スパークガン』は破壊。そして僕は、『ガード・ペナルティ』のエフェクトで、もう一枚カードをドロー」
エド
手札:1→2
「さて、手札の補強もできた。そろそろ本気でやろうか、先輩」
「好きにしろ」
「……魔法カード『ミラクル・フュージョン』を発動! フィールドまたは墓地に存在するモンスターで、E・HEROの融合召喚を行う。場のスパークマン、そして墓地のフェニックスガイを除外。現れよ! 『E・HERO シャイニング・フェニックスガイ』!」
『E・HERO シャイニング・フェニックスガイ』融合
レベル8
攻撃力2500
「このシャイニング・フェニックスガイもまた、戦闘では破壊されない効果を持つ。更に自分の
『E・HERO シャイニング・フェニックスガイ』
攻撃力2500+300×2
「バトルだ。シャイニング・フェニックスガイで、『ドラグニティアームズ-ミスティル』に攻撃! シャイニング・フィニッシュ!」
「……」
シャイニング・フェニックスガイの輝く突進が、ミスティルにぶつかる。ミスティルはそのまま破壊され、同時に彼の周囲を飛び回っていたファランクスも破壊された。
「僕はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」
エド
LP:400
手札:0枚
場 :モンスター
『E・HERO シャイニング・フェニックスガイ』攻撃力2500+300×2
魔法・罠
セット
亮
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『ドラグニティ-ドゥクス』攻撃力1500+200×2
魔法・罠
効果モンスター『ドラグニティ-ブランディストック』
フィールド魔法『竜の渓谷』
(それにしても……)
亮のライフも減らし、布陣も整え、ターンを終了する。ライフの差は開いたが、それでもまだ余裕の中にいる。
だと言うのに、エドは亮に対する違和感を拭えずにいた。
(未知のデッキと言い、挑発にも乗らず終始冷静なプレイングを行う。それだけなら、落ち着いている、の一言で済むが……何だ? 決闘開始から感じるあの、余裕とはまた違う、静けさは……)
「俺のターン」
亮
手札:1→2
「俺は墓地に存在する、『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』の効果を発動」
「前のターン、『竜の渓谷』の効果で手札から墓地に捨てたカードか」
「このカードは、自分フィールドのドラグニティを装備したモンスター一体を除外することで、手札または墓地から特殊召喚できる。俺は『ドラグニティ-ブランディストック』を装備した、『ドラグニティ-ドゥクス』をゲームから除外」
ドゥクスのカードを懐にしまったその直後、墓地から一枚のカードが亮の手に加わった。
「現れよ『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』」
そのカードを掲げたと同時に、輝く夕日と同じ、輝く橙色の翼が、天空から舞い降りた。
『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』
レベル8
攻撃力2600
「それが先輩の、ドラグニティデッキのエースというわけか」
「これが? ふ……」
「む……?」
「『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』の効果。このカードの特殊召喚に成功した時、墓地に存在するドラゴン族モンスター一体を装備できる。俺は墓地に眠る、『ドラグニティアームズ-ミスティル』を装備する」
その効果の宣言により、墓地に眠っていたミスティルが飛び出し、レヴァテインの周囲を旋回した後で、その足下に跪いた。
「更に永続魔法『竜操術』を発動。ドラグニティを装備したモンスターの攻撃力を、500ポイントアップする」
『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』
攻撃力2600+500
「だがそれだけでは、僕のシャイニング・フェニックスガイと攻撃力が並んだだけに過ぎない」
「ああ。だからこのカードを使う」
「最後の手札?」
「『竜操術』の更なる効果。一ターンに一度、手札のドラゴン族ドラグニティを、自分フィールドのモンスターに装備することができる。俺は手札の、『ドラグニティ-ピルム』をレヴァテインに装備」
最後の手札をディスクにセットし、新たに出現した仔竜が、再びレヴァテインの周囲を旋回し、その肩に止まった。
「ピルムを装備したモンスターは、戦闘ダメージが半分になることを引き換えに、相手にダイレクトアタックすることができる」
「何だと!?」
「バトル。『ドラグニティアームズ-レヴァテイン』で、ダイレクトアタック。ヘブンスフォール・レーヴァテイン」
レヴァテインが手に持つ剣を振りかざし、天高く上昇する。そして、シャイニング・フェニックスガイを無視し、真っ直ぐにエドへと向かう。
(この攻撃が通れば俺の勝利だが……)
「カイザー亮」
亮の思惑とは裏腹に、エドは余裕の様を崩さず、亮に対して言葉を掛ける。
「プロの先輩として一つ忠告してやる。どれだけ冷静でも、最後に勝負を急ぐようでは、プロの世界では生きていけない」
「やはり、その伏せカードは罠か……」
「ふ……罠発動『立ちはだかる強敵』! 相手モンスターはこのターン、シャイニング・フェニックスガイを攻撃しなければならない」
「……ならば、シャイニング・フェニックスガイを攻撃」
亮は、半ば分かっていたかのような口調で、攻撃対象を変更する。勇んでエドに向かっていったレヴァテインだったが、その散り様は、シャイニング・フェニックスガイの反撃による自滅という、呆気ないものだった。
「……ターンエンドだ」
亮
LP:4000
手札:0枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『竜操術』
フィールド魔法『竜の渓谷』
エド
LP:400
手札:0枚
場 :モンスター
『E・HERO シャイニング・フェニックスガイ』攻撃力2500+300×2
魔法・罠
無し
「まあ、デッキの試運転としてはこんなところか」
「試運転?」
亮が何気なく呟いた一言。向かい合うエドにしか聞こえないその一言が、エドに反応を与えた。
「カイザー亮、まさか貴様、勝つ気が無かったのか?」
「ほう……それが本当のお前の姿だな」
「な……!」
素の自分を出してしまっていたことに気付き、エドは慌てて口を閉ざす。
そんなエドに対して、亮は再び、エドにしか聞こえない言葉を紡いだ。
「当然、初陣である以上勝つ気はあった。だが同時に、初めての対人戦、それも、真の力を封じた上での決闘だ。正直、お前ほどの決闘者を相手に、それで勝つことの方が不思議に感じていたほどだ」
「力を封じて……? なら、今までのプレイングは本気ではなかったと!?」
「こんな
「なんだと……?」
その言葉に、またエドは疑問を覚える。
力を隠している。それはまだいい。だが、それを見せたが最後、大騒ぎになる。
特別なカードやデッキを使うことなど、特に珍しくはないこの決闘の世界で、そんなことを断言してみせる。そんな亮に、エドは疑問を抱いた。
「なんだ……一体、何だというんだ、そのデッキは……」
「答えることはできない。ただ、お前なら、話しても良い。そう思ったから話した」
「……」
「さあ、お前のターンだ。お前なら、次のターンで決められるだろう」
「なに……?」
「悪いが、現時点でこのデッキでできることはこれが限界だ。本気が出せないとは言え、まだまだ調整が必要らしい。すぐにでも調整に入りたい。早く終わらせてくれ」
「くぅ……!」
ここまでの言葉で、亮の終始変わらなかった態度の全てに、納得した。
亮は最初から、勝利など二の次だった。
必要だったのは勝利よりも、今日初めて使用したという、あのデッキの力を試すこと。
公の場では使えないという、真の力を封じた状態でどこまでできるか。それで勝てば良し。敗けても、どこを改善すべきかをこの決闘から分析する。
亮がこの決闘で求めたのはそれだけ。まさしく、デッキの試運転のみが目的だった。
そのためだけに、自分との決闘を犠牲……いや、踏み台にすることを選んだ。
そして、そんな踏み台のお陰で、亮は、一つの結論に辿り着く。
(このデッキでの勝利を得るためには、あのカードが必要だな……)
「……僕のターン!」
エド
手札:0→1
込み上げる怒りを抑えながら、エドはデッキからカードを引く。そして、亮の言った通り、このターンで勝負を決めるための一手を投じた。
「魔法カード『天使の施し』を発動。カードを三枚ドローし、二枚を捨てる。僕は手札から、クレイマンとバブルマンを捨てる。更に『おろかな埋葬』発動。デッキからネクロダークマンを墓地へ。墓地のE・HEROが増えたことで、シャイニング・フェニックスガイの攻撃力がアップ!」
『E・HERO シャイニング・フェニックスガイ』
攻撃力2500+300×5
「バトルだ。シャイニング・フェニックスガイで、ダイレクトアタック。シャイニング・フィニッシュ!」
破壊された二体の『ドラグニティアームズ』達と同じように、亮も、シャイニング・フェニックスガイの攻撃を受けた。
亮
LP:4000→0
『決まったー!! 勝者は、エド・フェニックスだー!!』
『……』
大画面から流れるMCの声。だが、生徒達のほとんどには、その声は届いていなかった。
アカデミア最強の男、カイザー亮の敗北。
それもあるが、それ以上に彼らの驚愕を引き出したのが、亮が長年愛用していた、『サイバーデッキ』に変わる、それとは形態も戦術も全く異なるデッキ、『ドラグニティ』に対して。
「……これが、今のこのデッキの限界か」
攻撃を受けた後も、変わらず直立の姿勢を崩さず、亮がそう呟く。だが、
「いいや」
そんな亮に対して、エドが、更に声を掛けた。
「闘う前からお前の運命は決していた」
「……」
エドのその言葉に、亮の記憶が一日前まで引き戻される。
倒れていた男を見つけだし、その周囲を見渡した時、見えた、人とは違う影と、声。
「まさか、お前が……」
「……」
エドはそれに応えることなく、背中を向けて去ってしまう。
エド自身、今掛けた言葉は事実の指摘以上に、得体の知れない強さを隠す亮への、皮肉と、強がりだった。
(カイザー亮……何を隠しているのかは知らないが、関係はない。僕が敗けることなど決してない。僕の運命は決まっているんだ……)
そして、その決闘を、会場で観戦していた二人は……
「竜崎」
「ああ。ワイも感じたで、羽蛾。カイザー亮の使ったあのデッキ、あれこそが、ワイらのこれと同じ力を持つデッキ。そう見て間違いなさそうやで」
「ああ。まさか彼がこんなタイミングで使ってくるとは思っていなかったが……」
「せやけどワイらも、ずっと隠しとくんもさすがにアレやろう。前に調整してデッキにしたこいつで、お互いにテストプレイしたのが最初で最後やからな」
「ああ。調整に時間が掛かり過ぎて、決闘ができたのは夜中だったっけ?」
「せやけど、テストプレイの結果は上々や。ワイらも、そろそろこのデッキを解禁しても良え頃やろう」
「そうだな……まあ、今日のカイザー亮もそうだったように、アレは使えないがな」
「ああ。もちろん、大勢の人間が見とる決闘では、アレは絶対に使わんわ」
「仮に使うとしたらそれは、僕らと同じカードを使う決闘者に出会えた時」
「おお。ワイらの知る限り、それはワイら、カイザー亮、そして、アカデミアの、水瀬梓……」
「……他にもいるのかな? この『チューナー』と、『シンクロモンスター』を使う決闘者が……」
「さぁて……」
羽蛾と竜崎が、会話をしながら、窓から星空を見上げているその時。
各々別の場所にいる、七人の決闘者。
「彼から感じた。俺のカードと、同じ匂い……」
「消えた。けど、今の感じ……すごく、懐かしいような……?」
「おー……何だか、凄いことになりそうな予感がするな……」
「今の感じ……前にもあったな。あの時と同じ……」
「今の……何だったんだろう……僕のデッキ、君は分かるか……?」
「……破壊? 壊すのか? 何を壊したい? 何がそんなに、憎い……?」
「……何だか、楽しいことになっているようね。そんな感じがするわ。決して退屈しなさそうな、凄いことに……」
そして、決闘アカデミアで、ある意味それに最も衝撃を受けた人物。
(さすがは亮さん。本領を発揮できないながら、あれだけの決闘をしてのけるとは。それにしても、この、左手の傷……)
出血が止まり、それでも醜い傷痕が残る手首を、じっくりと眺めながら、梓はある結論に辿り着く。
(反応しているのか? 自分達の仲間……同じ世界の住民達。彼らの姿に対して……)
確信は持てない。だがそれでも、目の前で起きた現実を、事実として受け入れることは容易だった。
そして、梓、亮、そして他九人のメンバーが、同時に同じことを考えていた。
――何かが起こり始めている……
――とても大きな何かが、もうすぐ始まる……
そして、その何かの気配をその身に受けながら、決闘の放送は終了していった。
お疲れ~。
まあこんな感じで、亮が梓からもらったデッキの正体は、『ドラグニティ』でした~。
ん? 分かってた? だよね~。
まあいいや。とりあえず、オリカは無いからアニメ効果で。
『トラップ・ジャマー』
カウンター罠
OCGではバトルフェイズ限定だけど、アニメでは『マジック・ジャマー』と同じく、発動できるタイミングを選ばずに無効にできる。
おまけに手札コストも無し。
ただ、アニメ版のテキストを見る限り、本来はあるはずなんだろうけど、アニメでもコストは払ってないので無しにしとります。
ご注意をば。
『ガード・ペナルティ』
速攻魔法
知ってる人も多そうだけど、OCGでは無限ループを防ぐために、一ターンに一枚しかドローできなくなっております。
違いはそこだけですな。
以上。
本来とは違うデッキを使わせつつ、極力原作再現もしてみました。
お陰で使ってないカードまで使わせる羽目になったが、ごめんね。
まあそんな感じで、次もいつになることか。
それでも言う。ちょっと待ってて。