遊戯王GX ~氷結の花~   作:大海

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うぇ~。
前の回、投稿した後に読んでみたら、決闘で結構な数のミスがあったことにへこんでいる、大海でございます。
今に始まったことじゃないけどねー、ちくしょう……
てことで、第六話ー。
今回はエドと、あの子が決闘しまする。
てなことで、行ってらっしゃい。



第六話 悲劇の既視、嘆きの花

視点:アズサ

 

「彼は……エドさんは、かつての私だ……」

 

 星華姉さんの隣で、小さくなりながら、決闘を観戦していた梓が、苦しそうな声でそう言った。

 その先にいるのは、十代と、テレビで『ドラグニティ』を使ったカイザーを倒した、エド・フェニックス。

 何でこの二人が決闘をしてるのか。それは……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 カイザーとエドが決闘をした後、エドはマスコミから勝利者インタビューを受けてた。

 そして、マスコミから秘蔵の『E・HERO』デッキを使った理由を聞かされた時、アカデミアにいる十代が、HERO使いとしてマニアの間で有名になったもんだから、そいつより強いことを証明するために、十代と引き分けたカイザーに対してHEROを使うことにしたらしい。つまり、カイザーは出汁に使われたってわけだ。

 そして、自分の方がHERO使いとして優れてるってことを示すために、十代に決闘を挑むことにしたらしい。

 

『遊城十代。明日僕は学園に行く。その時、本当の決着を着けよう。どちらが、HEROを使うのに相応しいのかを』

 

『相応しいもクソも、誰がどんなデッキを使うかなんて自由なんだから、そこまでこだわる必要も無かろうに……』

「確かにな……」

『でしょう……ん?』

「……」

『……』

 と、声を出した星華姉さんの隣で、梓はエドを見ながら、何だか暗い表情をしてた。

『ちょい、梓?』

「梓、どうかしたか?」

「……」

 僕や星華姉さんが声を掛けても、梓は元気が無い。元々、カイザーがドラグニティを使ったせいで傷が開いて、その痛みのせいもあってテンションは下がり気味だったけど、今は、決闘が終わった後の今は、ひょっとしたらそれ以上だ。

「……い……」

 と、元気が無いまま、声を出した。

「なに?」

「……怖い」

「怖い? 何が?」

「……今のエドさん、決闘を始める前に比べて、凄く、怖いです……」

「エド・フェニックスが……?」

『怖い……?』

 言われてもう一度、画面のエドを見てみる。エドは終始笑顔で、インタビューに答えてるだけだった。

 

 

 そして翌日の、夜も更けた頃に、エドはこの島にやってきた。カード強盗をしてた男を気絶させて。

 それで、その時のエドの印象は、正直、あんまり……いや、かなり、悪かった。

 前に十代と決闘した時に見せてた、礼儀とか丁寧さとかが全然消えた、不遜な態度だった。

 

「……」

 そんなエドを見ながら、梓はやっぱり、暗い表情。本当にエドのことを、どうしてか怖がってる、そんな顔。

『梓、本当にどうしたのさ?』

「……分からない。ただ何と言うか、今の彼を見ていると……胸が締め付けられるというか、心が痛むというか……けどそれ以上に、見ていられないというか、そんな気持ちにさせられて、凄く、苦しくなる……」

 ……

『恋ですかい?』

「違います」

 ならよかった。

「……一体、彼の何が、私をここまで怖れさせる?」

 

 そんなことがあった後で、早朝になって、決闘場に移動した。

 ギャラリーは、梓や翔君と言った、十代の仲間達だけの無観客試合。エドが指定したからだ。プロは無暗に、人に情報を与えないものだから、らしい。

 

 そして、決闘が開始された。

 最初、お互いにE・HEROを次々に召喚していって、互角の決闘を見せていた。

 けど、エドが途中から、『D-HERO(ディー・ヒーロー)』って名前のカード群を使い始めた時から、状況は変わっていった。

 十代が何をしても、それをエドは簡単にひっくり返して、優勢になったかと思ったら、やり返してまた劣勢にさせる。

 そして最後には、最上級のD-HEROを召喚して、次のターンで決められるってところまで追い込んじゃった。

 そして、そこでエドは、どうして自分がHEROデッキを使うのか、その理由を話した。

 昔、カードデザイナーだったお父さんを殺されたこと。その犯人が、今もずっと見つかってないこと。だから、そいつを見つけ出して復讐するために、プロになって、お父さんが最後に作り出した、D-HEROを使ってること。その犯人や、あらゆる悪を許さないこと。

 

「エドさんは、かつての私だ……」

 ……うん。梓の言った通り、今のエド、昔の梓にそっくりだ。

 

「……可哀想な奴だな。お前……」

「何だと……?」

 

 十代が、エドにそう話し掛けた。

 

「今のお前、俺の友達の、昔の姿にそっくりだ」

「友達?」

 

 そして十代は、正にそのことを語りだした。

 

「そいつも、お前と同じだ。誰よりも大切にしてた父さんを、殺された。目の前でな」

「目の前で……?」

「しかも、お前とは違って、その犯人の顔を、ばっちり見てた。犯人は、そいつにとって、一番の親友だったんだ」

「親友だと……」

「ああ。そいつは当然怒ったさ。怒って、悲しんで、その親友のことを心底恨んで、そして、そいつのことを探した。おまけに、そいつを徹底的にやっつけるために、強い力を求めて、それで、世界を滅ぼすことができるくらいの、めちゃくちゃ強い力を手に入れた」

「世界を滅ぼすほどの力……!」

 

「……」

 

「そして、その力を手に入れて、アカデミアに戻ってきて、そこで、その親友を見つけ出したんだ」

「……それで、どうなった?」

 

 正直、(はた)から聞いてたら胡散臭い嘘に聞こえるそんな話に、エドも、聞き入ってるみたいだった。

 

「結論から言えば、復讐は失敗した。そいつは親友との決闘に、負けちまった」

「……」

「けどさ、その決闘を通して、そいつも、親友がどうしてそんなことしたかとか、自分がその親友のことを本当はどうしたかったとか、気付くことができた。それで最後には、その親友を許して、仲直りすることができて、元の親友同士に戻ることができたんだ」

「……」

 

 十代は、途中でホッとしたような顔で話したけど、エドの方は、がっかりしたふうな顔に変わった。

 

「そいつも、復讐のために決闘モンスターズを利用して、たくさん傷ついてきた。それでも最後には、それが間違ってたって気付いた。お前も、せっかくお前の父さんが残してくれたHEROを、復讐のために使うなんて……」

「分かったような口を聞くな十代!」

 

 最後まで話しを聞かずに、エドはキレたみたいだ。

 

「ムカつくんだよ! お前のように、憧れだけでHEROを使う奴が。お前達のように、見ただけで分かったふうに勘違いしている連中が! 僕には必要なんだ! 奴を倒すために、僕に力を与える本当のHEROが。僕のターン!」

 

「……皆さん」

 うつむきながら座ってた梓が、星華姉さんや剣山君といった、あの時いなかった人達以外の、仲間達に向かって声を掛けた。みんな、梓の方を向いて、また、梓は言った。

「私はずっと……あんな目を、していたのですね……」

『……』

「では、十代が話した、友達というのは……」

 

 全員が黙り込んで、星華姉さんや剣山君が気付いたところで、エドはカードを一枚ドローして、バトルフェイズに入る。

 モンスターの攻撃で、十代のライフはゼロになった。

 

『十代!』

『兄貴!』

 

 仲間達が叫んだのと同時に、十代の持つ決闘ディスクからカードが散らかって、十代は、その場に倒れちゃった。

 

「消えろ。雑魚」

 

 最後にエドは、そう言って背中を向けて、その場を後にした。

「十代!」

 明日香ちゃんや翔君達が、すぐに十代の元へ駆け寄る。けど、梓はその場に座って、俯いてるだけ。動かない梓を見ながら、星華姉さんも、あずさちゃんも動けずにいた。

 

「さて、今回はもう一人、用がある奴がいる」

 

 と、明日香ちゃん達が十代を介抱してる間に、エドがそう言って、こっちに歩いてきた。

 そして、客席の、僕……いや、梓を見上げながら、

「水瀬梓。僕と決闘しろ」

「……私が?」

 梓が困るのも無理は無い。本当にいきなりの提案だった。今まで全然そんな空気じゃなかったのに。

「お前もHEROを使うらしいな。それも、他の誰も持っていない、HEROのカードを。既に情報は入っている」

「……」

 ……ああ、そっか。エドのお父さんを殺した犯人、世界に一枚しか無いHEROのカードを持ってるんだっけ? それで、この世界には存在しないHEROを使う梓を指名したのか。

 ……てか、どこ情報なんだろそれ?

「もっとも、さすがにお前が犯人だとは思わないが、それでもお前がそれを持っている可能性があるのなら、放ってはおけない」

 そして、もう一度、

「僕と決闘しろ。凶王、水瀬梓」

 わざわざ二つ名を使ってまで指名してる。何ていうか、強引な人だ。

「……」

 梓は、暗い表情を変えないまま、

「……お断りします」

 そう、言った。

「何だと?」

 これには、エドだけじゃない。気絶してる十代や、あずさちゃん、ナポレオン教頭以外の、みんなが驚いてた。今まで決闘を挑まれて、断ったことなんてなかったのに。

「なぜだ? まさか、僕と、僕のD-HEROを前に怖気づいたか?」

「そうです……」

 梓の声色は変わらない。あの放送の日から変わらず、エドを怖がったままだった。

「私は……あなたが怖い……」

 エドの顔をまともに見られずに、そう、言い切った。

「……ふん。二年生最強の決闘者だと聞いていたが、それがこんな腰抜けだったとはな」

「何だと!?」

 エドが笑いながら言ったことに、星華姉さんが声を上げた、その時だった。

 

「あのぉ……」

「……!」

 横からエドに声を掛けたのは、あずさちゃん。

「お前は、あの時の……何の用だ?」

「えっと……その決闘、わたしが代わりにやっちゃダメかなぁって……」

「何だと?」

 

「あずさ……?」

 

「誰だか知らないが、なぜ僕がお前なんかと決闘しなければ……」

「君に、会って欲しい人がいるんだ」

 文句を言うエドに対して、あずさちゃんは、そう声を重ねて遮った。

「会って欲しい?」

「うん。さっき、十代くんが話してたでしょう? 復讐に生きた友達の話」

「それがどうした?」

「だからさ……会ってみたくない? そのお話しの中の人」

 その話しに、エドは一瞬、興味を引いたみたいだったけど、すぐに冷静になったみたい。

「ふざけたことを。決闘でそんな奴に会わせるだと? 何を言って……」

「これなら、信じてくれる?」

「……? なぁ!?」

 いきなりのことに、エドは驚いて声を上げた。

 あずさちゃんの周りに、今までいなかったはずの五人の人間が現れたら、そりゃ誰だって驚く。

「何だ? こいつらは、どこから現れた?」

「消すこともできる」

「な……なぁ!?」

 今度は、その姿を消して見せた。もっとも、見える人には、さっきから変わらずそこに並んで立ってるようにしか見えないんだけどね。

「もちろん無理にとは言わないけどさ、興味が無い? 復讐する人が、どんなふうだったか、話しを聞きたいって思わない?」

「……」

 エドはいまいち納得できない感じではいるけど、

「良いだろう。そんなことができるというのなら、会わせてもらおうじゃないか」

「決まったね」

 そして、二人の決闘が決まった。

「……」

 梓がずっと、元気が無いまま。

 

 

 決闘はその後すぐに開始されることになった。

 十代は、明日香ちゃんと剣山君、翔君とももえちゃんの四人で連れていって、残りが観戦。四人もすぐに戻ってくるだろう。

 そんな中で、

 

『決闘!』

 

 

エド

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

あずさ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

 決闘が始まった。

「いいのか? 奴はお前との決闘を望んでいたのだぞ?」

「……私との決闘など、彼にとって何の意味も無い」

 聞いてきた姉さんに対して、梓は返事を返してる。

「私には、彼に言えることなど何もない」

「言えること……?」

「むしろ彼にとって、意味があるという決闘をするならば、それは、あずささん以外にいない……」

「……」

 

「僕の先行、ドロー」

 

エド

手札:5→6

 

「僕は魔法カード『融合』を発動! 手札のフェザーマン、バーストレディを融合。カモン! フェニックスガイ!」

 

『E・HERO フェニックスガイ』融合

 レベル6

 攻撃力2100

 

 一ターン目から融合召喚だ。

「更にカードを二枚伏せる。これでターンエンド」

 

 

エド

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『E・HERO フェニックスガイ』攻撃力2100

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「わたしのターン」

 

あずさ

手札:5→6

 

「早速いくよ。永続魔法『六武衆の結束』、『紫炎の道場』を発動。そして、相手フィールドにモンスターが存在する時、手札の『六武衆のご隠居』を特殊召喚する」

 

『六武衆のご隠居』

 レベル3

 守備力0

 

「『六武衆』が召喚、特殊召喚されたことで、二枚の永続魔法に武士道カウンターが乗る」

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1

 

「更にチューナーモンスター、『六武衆の影武者』を召喚」

 

『六武衆の影武者』チューナー

 レベル2

 守備力1600

 

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:1→2

 

「チューナー?」

 

 聞き慣れない単語に、エドが首を傾げてるけど、その間にも、あずさちゃんは、決闘を続ける。

 

「『六武衆の結束』に乗る武士道カウンターは最大二つまで。このカードを墓地へ送ることで、このカードに乗った武士道カウンターの数だけカードをドローする」

 

あずさ

手札:2→4

 

「永続魔法『六武の門』を発動」

 

 あずさちゃんが作るフィールド。門と道場がフィールドに出たところで、あずさちゃんが、動く。

 

「さあいくよ、エドくん……レベル3の『六武衆のご隠居』に、レベル2の『六武衆の影武者』をチューニング!」

「な、なんだ……!」

 

 影武者が二つの星に変わって、ご隠居の周りを回る、そんな光景。

 アカデミアの人間は全員知っているけど、エドは知らないその光景に、驚きの声を上げる。そして、遂に、

 

「紫の獄炎、戦場に立ちて(つるぎ)となる。武士(もののふ)の魂、天下に轟く凱歌を奏でよ」

「シンクロ召喚! 誇り高き炎刃『真六武衆-シエン』!」

 

 そして、現れた。

 白い着物と黒い長髪、逞しい男の人が。

 

「な、何だ、これは? シンクロ召喚? そんな召喚、聞いたこと無いぞ……」

「六武衆の召喚に成功したことで、武士道カウンターが乗る」

 

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:2→3

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

 知らない召喚方法に、エドはただただ唖然としてる。

 

『初めまして。エド・フェニックス』

「……なに?」

 

 と、また驚き。シエンがエドに話し掛けたからだ。

 

『決闘モンスターズの精霊は初めてかな?』

「普通誰でも初めてだと思うよ」

 

 シエンの言葉に、あずさちゃんはそうツッコミを入れてる。

 一気に空気が軽くなったけど、それでもエドは驚いたままだ。

 

「何なのでアール!? どうして、仮想立体映像のモンスターが、決闘者に話し掛けて……」

「ナポレオン教頭、少し、黙っているのーネ」

 

 向こうじゃ先生二人が何か話してるけど……まあ、どうでもいいか。

 

『……ま、いいけどな。それよりさっきの話しだけどな、私がその登場人物だ』

「……! つまり、お前が目の前で父親を、親友に殺されたという……」

『違う違う』

 

 手を振りながら、否定したその声と顔は、軽いノリだけど、その中にははっきり、真剣さと、悲しさが見える。

 

『逆だ。追い掛ける側じゃなくて、追い掛けられる側だ』

「追い掛け、られる……?」

『そう。私が、十代の友達の、親父さんを殺した親友だ』

「……!」

『更に言うと、その友達は人間。この平家あずさの前の、私の持ち主、主だった奴だ』

「……!!」

 

 さっきから何度目の驚きかな。まあ、全部種類は違うけど。

 と、そこでちょうど、明日香ちゃん達が帰ってきた。

 

「お前が……精霊のお前が、人間の、それも、お前にとっても親友の、父親の命を!?」

『ああ、そうだ』

 

 聞き返して、驚いてた顔は、段々、怒りが宿っていった。

 

「お前が……本当に殺したというのなら、なぜ今、のうのうとここに立っている?」

『そう言われてもなぁ……精霊だから警察に捕まることもない。だから、社会的に償うことはできない』

「償うことができないから、平気な顔をしているというのか!?」

 

 エドがそう怒声を浴びせてる。

 ……そりゃあそうだよね。梓が何も言わないから僕も何も言わないけど、正直な話し、シエンのこと、僕は許せてない。

 他のみんなも、思い出して複雑そうな顔になってる。

 

『この顔は元々さ。別に平気なわけじゃない。信じなくても良いけどな、今だって、自分のやったことには後悔してるさ。そいつから父親を奪ったことにも、そいつを苦しませちまったことにもさ』

「後悔か。だったら最初からそんなことしなければよかっただろう。なぜ殺した?」

『他でもない、その、殺した親父さん自身の頼みだったからさ』

「頼み? その友達の、父親から?」

『ああ、そうだ。親父さんは、死ぬことを望んでいた。だから、親父さんに頼まれて、私が殺す役を買って出た……』

 

 そう言うと、シエンは視線を落として、悲しそうな顔になった。

 

『もっとも、あいつからすれば、そんなことは言い訳でしかない。例え、病気で長くない身で、親父さん自身があいつにとっての足枷になっていたんだとしてもだ。あいつは、そういうこと全部ひっくるめて、親父さんのことを大切に思っていた。誰よりも親父さんに恩義を感じて、親父さんの息子でいることに誇りを持っていた。それほど大切な存在の命を奪ったんだからな』

「……」

『今でも時々、その時のことが夢に出てくる。親父さんを殺して、その直後、その場面をばっちり見られて、あいつは復讐鬼に変わって、暴走した。何度も思ったさ。いくら頼まれたからって、何も殺す必要は無かったんじゃないか。もっと強く拒否するべきだったんじゃないか。殺す以外に方法があったんじゃないか……今となっては、遅すぎるけどな』

「……」

 

『……』

 

 平気そうな顔して、毎日楽しそうにあずさちゃんと話してるの見て、その時のこと忘れてるんじゃないかって、思ってた。

 けど、覚えてた。忘れることなんて、できるわけがなかったんだ。

 シエンにとっての親友が、変わることになった分岐点。その時の出来事を。

 

「……それで、何が言いたい?」

 

 言葉を止めたシエンに対して、エドがそう話し掛ける。

 

「まさか、お前の友達がお前を許したように、僕にも父さんを殺した犯人を許せと言うんじゃないだろうな? お前がそうされたように、その犯人も後悔しているかもしれないから、犯人を許せと、そう言う気か!?」

『そんなことは言わないよ……てかさぁ、十代もそうだったけど、どうにもその辺誤解してるっぽいんだよな、お前ら……』

「誤解……?」

 

 誤解か。その意味は、僕には分かる。多分、あずさちゃんも、分かってるだろうね。

 

『確かに、私はあいつと和解することができた。けどな、私はあいつから、許す、なんて言葉は一度も聞いちゃいない』

「なに……?」

『あいつは、確かに分かってはくれた。けど、いくら分かったとしても、それでも私のことを、許してなんかいないのさ。今でもな』

 

「え、そうなの? 梓さん」

「梓、お前……」

 

「……」

 翔君達からの問い掛けに、梓は、相変わらず俯いてるだけ。けど、その顔は、それが事実だってことを示してる。

 

『そして、それで良いんだって思ってる。実際に、許されないことをしたんだ。一生掛かったって許されないことを。むしろ、許されることこそ、私にとっては苦痛だ』

「……」

『正直、今でもあいつが、今すぐ腹を切れって言えば、喜んでそうする。それじゃ気が済まないっていうなら、嬲り殺しでも何でも、あいつが望むなら、どんなに苦しみだって、甘んじて受けてやるさ。そうして、どんな形であれ、あいつの前で死ぬこと。そのくらいしか、私のできる償いなんて、無いんだって思ってた……そんな私にさ……』

 

 シエンは表情を変えないまま、エドの目を、真っ直ぐに見据えた。

 

『そんな私に、あいつは決闘が終わった後、生きろって言ったんだ』

「生きろ……?」

『ああ。自分の天寿を全うするまで、生きろって。それだけだったけど、それは暗に、生きることが、本当の償いだって、言ってたんだって、私は思ってる』

「生きることが……」

『償いとして命を捧げるのは、ある意味一番簡単さ。けどな、私の命一つが無くなったところで、親父さんは帰ってこないし、まして、あいつの心が本当の意味で、救われるだなんて思わねえ。だから生きて、あいつの心が、本当の意味であの日の苦しみから解放される。そんな日が来るのを、一生掛かってでも見届けてやる。それが、私にできる償いであり、今私がここに立っている理由さ』

「……」

「もっとも、それだって、君達にとっては言い訳にしか聞こえないかもしれないけどね」

 

 ずっと黙ってたあずさちゃんが、そう話しを始めた。

 

「シエンの言った通りだよ。どれだけ反省して言葉を尽くしたって、大切な人を奪われた事実は変わらない。シエンが今言ったことだって、結局は、本人にとっての、一つの自己満足でしかない。結局、君達にとって、本当の意味で救われるのは、復讐を成し遂げた時。それしかないんだって思う」

「……分かっているなら、なぜわざわざそんな男を僕の前に出した?」

「……はっきり言って、わたしには、君達の気持ちなんて、本当の意味で理解してあげられる日なんて、来るとは思わないよ。ただ……」

 

 一度、悲しそうに視線を下げた後、また、エドを見た。

 

「……わたしが言いたいのはさ、今の君みたいに、復讐に取りつかれてる人の姿は、いつだって、見てられないってことだよ」

「見ていられない、だと……?」

「そうだよ。あの人がそうだったから……」

 

『……』

「……」

 みんなが、そして梓が、一斉に思い出しながら、暗い表情を見せた。

 

「復讐のためだけに、それまで大切にしてたもの全部捨てちゃって、毎日走り続けて、いつ死んじゃってもおかしくないっていうくらいボロボロになって、それでも、絶対に立ち止まることだけはしなかった。シエンを探し出して、殺すまで、彼はずっと走り続けてた」

「そうだ。それの何が悪い? それこそが復讐だ。僕だってそうさ。父さんを殺した犯人を裁くことができるなら、他に何もいらない! 立ち止まりもしない!」

「そりゃ君達はそれでもいいよ! 許せない奴を倒すためなら、命なんていらない。その気持ちはわたしにだって理解できる。だけどさ……だけど……」

 

 叫びながら、目に涙を浮かべた。

 

「そうやってボロボロになってく姿を見せつけられるのはさ、いつだって、周りにいる人達なんだよ!」

「下らない。周りが何と言おうが知ったことか。むしろ邪魔をするというのなら、そいつから順になぎ倒すだけだ」

「……君達はいつもそうだよ。こっちがいくら心配したって、そんなこと知ったこっちゃないって顔で目的にばっか走ってさ……そのためなら、命なんていらないって平気で言い出すしさ……もし復讐を成し遂げたらどうするか。あの人はそう質問された時、何て答えたと思う?」

「さあな。復讐が終わった後のことなど考えたこともない。だが少なくとも、最大の目的は成し遂げたんだ。それから先は、何物にも縛られることなく生きていけるんじゃないのか?」

「全然違うよ」

「なに……?」

 

 うん。やっぱり、そこがエドと、梓との、最大の違いかな。

 

「あの人は、シエンを殺して復讐を成し遂げたら……自分も死ぬつもりだった」

「自分も……? 自殺?」

「そうだよ。彼はシエンのことを恨みながら、それ以上にこう思ってた。お父さんが死んだのは、自分のせいだって。自分がシエンと親友だったから……いや、それ以前に、捨てられっ子だった自分が、お父さんに出会って、息子になっちゃったから、大切なお父さんを死なせちゃったんだって。そんな自分のこと、シエン以上に許せないって。だから、お父さんを殺したシエンを殺した後は、お父さんを死なせた自分を殺そう。ずっとそう考えながら、シエンのことを探してたんだよ」

「バカな……」

 

 エドにとっても、その答えは意外だったらしい。話しを聞いている中で、一番驚いてる顔に変わってた。

 

「そんなこと、絶対にさせたくなかった。だから、わたしはシエンと手を組んだ。彼のことを止めるために。彼のこと、絶対に死なせないために。シエンが殺されずに、今も生きてる理由の一つがそれだよ」

「……」

「彼にとっては、そういうの全部、余計なお世話だったと思う。実際、それは命を懸けるだけの価値があって、なのに、自分の命は、何の価値も無いって決めつけてたから。だから止めたんだよ。止めなきゃ、本当に死んじゃってたから。そのために彼と決闘して、何とか勝って、その時にやっと、彼はシエンと、自分を死なせないって思ってくれた」

「……」

「君はどうなの? エドくん」

 

 あずさちゃんからの、突然の問い掛け。エドはあずさちゃんを見た。

 

「君は復讐を成し遂げたら、それでも生きていけるの?」

「どういう意味だ……?」

「彼は最初から、復讐を終えた後の自分を殺す気でいた。けど、復讐が終わったら、どの道それまで復讐が生き甲斐だった自分は死んじゃう。それまでの自分じゃいられなくなる。そうなった後も、君は、君のままでいられるって、そう言える?」

「それは……」

「もう、誰も傷つけずに、誰にも心配掛けずにいてくれるって、そう言ってくれるの?」

「……」

 

 復讐は麻薬であり、毒薬。

 そんな言葉を、どこかで聞いたことがある。

 そいつに恨みを持って、殺したいって一度でも思ったなら、それを果たすためにどんなことでもしようとする。そのせいで傷ついて、傷だらけのボロボロになっても、気にせずに、ただ、それを求め続ける。

 そして、いざ求めたものを手に入れたとしたら、それは本当は、それまで歩いてきた自分を殺す猛毒で……

 大抵ドラマなんかじゃ、復讐を遂げた人達は清々しそうにしてるけど、実際は、そんな単純な話しじゃないよ。復讐心のせいで、それまでたくさんのことを犠牲にしてきたんだから。もしかしたら、その相手以上に、酷いことだってしたかも知れない。

 梓が、はっきり言って、そうだったから。

 そんな自分が、普通に生きていくことなんて……

 

「……黙れ」

 

 しばらく黙った後、エドは、そう声を出した。

 

「お前達の言う男が誰かは知らない。復讐を遂げたらどうするかなど、そもそも今考えるべきことじゃない。ただ、それでも復讐を遂げる以外に、僕が安らぎを得る方法は無い! それを、お前達に否定される覚えは無い!!」

「……」

「ああ分かってるさ。復讐など、ただ醜く残酷なものでしかないことくらい。それで父さんが帰ってくることはない。父さんが喜ぶとも思わない。だが、それでも成し遂げることができなければ、僕の心は、父さんを失ったあの夜のままなんだ! あの夜から解放されるためには、復讐を遂げる以外に無いんだ!」

 

 エドも、そう泣きそうな声で叫んできた。

 その気持ちも、梓だった僕には、理解できた。

 シエンでもあるあずさちゃんは、理解してるのかな……

 

「僕は決して立ち止まらない……お前のターンだ! さっさと決闘を進めろ!」

「……シエン」

『ああ』

 

 あずさちゃんがシエンに話し掛けると、シエンは白の着物姿から、真っ赤な鎧姿に変わった。

 

『真六武衆-シエン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2500

 

 

あずさ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-シエン』攻撃力2500

   魔法・罠

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:3

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

 

エド

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『E・HERO フェニックスガイ』攻撃力2100

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「攻撃力2500……これが、モンスターとしてのそいつの真の姿なのか……」

「『紫炎の道場』の効果。このカードを墓地へ送って、デッキからこのカードに乗った武士道カウンターの数以下のレベルを持つ六武衆を、特殊召喚できる。わたしはデッキから、レベル3の『真六武衆-ミズホ』を、特殊召喚」

 

『真六武衆-ミズホ』

 レベル3

 攻撃力1600

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「『六武の門』の効果。武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキから『真六武衆-シナイ』を手札に。そしてシナイは、自分の場にミズホがいる時、手札から特殊召喚できる」

 

『真六武衆-シナイ』

 レベル3

 攻撃力1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「ここでミズホの効果。フィールド上の六武衆一体を生贄に捧げることで、相手の場のカード一枚を破壊できる」

「なに!?」

「シナイを生贄に捧げて、フェニックスガイを破壊するよ」

「ぐぅ……」

 

 あずさちゃんのその宣言で、フェニックスガイは消えた。

 戦闘破壊されないだけで、効果破壊には耐性無いからね。

 

「く……罠発動! イッツ『D-タイム』!」

「シエンの効果! 一ターンに一度、相手の発動した魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する」

「なに!?」

 

 説明してる間に、表になった『D-タイム』は破壊された。

 

「シナイの効果。このカードが生贄にされた時、墓地からシナイ以外の六武衆一枚を手札に加えられる。わたしは墓地から、『六武衆のご隠居』を手札に加える」

 

あずさ

手札:2→3

 

「そして、私の場には、六武衆と名の付くモンスターが二体。この時、手札から『大将軍 紫炎』を特殊召喚できる」

 

『大将軍 紫炎』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「なるほどな。『真六武衆-シエン』とは、『大将軍 紫炎』の若かりし頃の姿というわけか……」

 

 へぇー、よく分かったなあの子。

 

「バトル。『大将軍 紫炎』で、エドくんにダイレクトアタック。獄炎・紫の太刀!」

 

 あずさちゃんの宣言で、紫炎がエドに向かっていった。けど、エドはカードに手を伸ばした。

 

「罠発動『攻撃の無力化』。その攻撃を無効にし、バトルフェイズは終了する」

「……カードを伏せる。これでターンエンド」

 

 

エド

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

あずさ

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『真六武衆-シエン』攻撃力2500

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

 

 

「その力で、復讐を止めたということか……だが、僕はそいつとは違う! 僕のターン!」

 

エド

手札:1→2

 

「そいつがどんな力を使ったかは知らない。だが、僕には父さんが残してくれた、無敵のD-HEROがいるんだ! カモン『D-HERO デビルガイ』!」

 

『D-HERO デビルガイ』

 レベル3

 攻撃力600

 

「デビルガイの効果。一ターンに一度、相手モンスター一体を、二ターン先の未来へと送る。消えろ『真六武衆-シエン』! ディスティニー・ロード!」

 

 デビルガイがシエンを殴って、シエンはそのまま光になって消えた。

 

「魔法カード『強欲な壺』発動。カードを二枚ドロー」

 

エド

手札:0→2

 

「デビルガイの効果を使用したターン、戦闘を行うことはできない。僕はカードを二枚伏せる。これでターンエンドだ」

 

 

エド

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『D-HERO デビルガイ』攻撃力600

   魔法・罠

    セット

    セット

 

あずさ

LP:4000

手札:1枚

場 :モンスター

   『大将軍 紫炎』攻撃力2500

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

 

 

「わたしのターン」

 

あずさ

手札:1→2

 

「『六武衆-ヤイチ』を召喚」

 

『六武衆-ヤイチ』

 レベル3

 攻撃力1300

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「ヤイチのモンスター効果。場に他の六武衆がいる時、このターンの攻撃を放棄する代わりに、相手の場のセットされた魔法・罠カードを破壊できる」

「なに!?」

「君から見て、左側の伏せカードを破壊するよ」

「く……!」

 

 ヤイチが矢を飛ばして、その先にあった伏せカード、『D-シールド』が破壊された。

 

「そして、ミズホの効果。ヤイチを生贄に捧げて、その伏せカードを破壊するよ」

「ぐぅ……!」

 

 破壊されたのは、『デステニー・シグナル』。

 

「ここで、『六武の門』の効果。武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキから『六武衆の師範』を手札に加える。そして『六武衆の師範』は、自分フィールドに六武衆がいる時、手札から特殊召喚できる」

 

『六武衆の師範』

 レベル5

 攻撃力2100

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0→2

 

「く……」

「バトル。『真六武衆-ミズホ』で、デビルガイを攻撃。瞬切華」

「うぅ……!」

 

 ミズホが走ると、デビルガイはあっという間に細切れにされた。

 

エド

LP:4000→3000

 

 これで、エドのフィールドは空っぽだ。

 

「こんな……こんなことが……なんだ、この強過ぎる力は……!」

 

 エドが驚くのも無理は無い。十代を圧倒できる実力を持っていたのに、そんなエドの力を根こそぎ否定して、フィールドを、何も残らない焦土に変えちゃう、そんな、あずさちゃんの力。

 それは、ただカードが強いだけじゃない。あずさちゃん自身が、すごく強いんだ。

 

「言っておくけどさ……」

 

 呆然としてるエドに対して、あずさちゃんが、声を掛けた。

 

「彼の力は、こんなものじゃなかったよ」

「なに……?」

「彼は、決闘に勝って、シエンを殺すために、徹底的な決闘をしてた。禁止カードまで使って、ただ勝つためだけに、決闘者としてのプライドまで捨ててた。けど、そのことを差し引いても、すごく強かった。少なくとも、たった二ターンしかもたない決闘じゃなかった」

「……!! 貴様……」

 

「誰も勝てはしない……」

 突然そう声を出したのは、梓だった。

「六武衆達の力の全てを引き出し、自在に操ることができる。そして、相手を否定するために、その力の全力を振う。そんなあずささんに、勝てる決闘者など、どこにもいない……」

『……』

 相変わらず、顔は苦しそうだった。

 なのに、その顔をよく見ると、苦しそうだけど、あずさちゃんに向けてる目は、特別な感情の籠もった目だった。

「……」

 

「覚えておいて」

 

 何もできなくなって、肩を震わせてるエドに対して、あずさちゃんが、また話し掛けた。

 

「彼にそうしたみたいに、君がもし、復讐のせいで何も考えられなくなって、暴走して、死んじゃいそうなくらい危ないことになったら、その時は、わたしが止める」

「止める? 僕をか……?」

「そう。現に今、止めてることだし」

「く……!」

「復讐を遂げるために走り続けるのを悪いことだなんて言わない。けど、そのために、命を投げ出そうとしたら、その時は、絶対に許さないから。君にどれだけ恨まれるとしても、絶対に、許さないから」

「……」

「バトル!」

 

 あずさちゃんが叫んで、師範と、紫炎が刀を構えた。

 

「『六武衆の師範』、『大将軍 紫炎』、ダイレクトアタック!」

 

エド

LP:3000→0

 

 

「くそ!!」

 

 敗けたエドはひざを着きながら、大声を上げていた。

 

「僕は……僕は認めないぞ! D-HERO以上の力など……! D-HEROが負けたんじゃない。僕が未熟だった。それを、覚えておけ!!」

「……うん。覚えとく」

 

 あずさちゃんは返事しながら、笑顔を浮かばせた。

 

「またいつでも、決闘したくなかったら、相手してあげるからね」

「……! く……!」

 

 そしてエドは、立ち上がって、出口の方へ歩き出した。

 

「……」

 

 バッ

 

 

 

視点:外

 

『……!!』

 

「なっ!」

 突然の光景に、大勢の者達は驚き、エドは声を上げた。

 決闘中ずっと、俯きながら、元気なく座っていた梓が、突然観客席から飛び出し、エドの前に舞い降りていた。

「何だ貴様、この期に及んで……!」

 文句を言おうとしたその口を、エドは閉ざす。梓が何も言わず、カードを五枚、エドの前に差し出した。

「……私の持つ、HEROのカードの全てです。この中に、あなたの探し求めるカードは、ありますか……?」

 その声は、消え入りそうなほど小さく、崩れ落ちそうなほどに震えた声だった。

「……」

 そんな声に、エドは何も言えなくなった。

 ただ、差し出されたカードを手に取り、それを、表にして確かめる。

「これは……!」

 表になり、現れた絵柄に、また驚きの声を上げる。

「何だ、このE・HEROは……? HERO使いの僕でさえ、見たことのないカード……」

 驚きながらも冷静に、それらを確認する。

「E・HERO、オーシャン、アイスエッジ、そして融合モンスターである、アブソルートZeroが三枚。全て水属性か……確かに未知のカードだが、これは僕の探しているカードじゃない」

 そう結論を出して、梓に差し出す。だが、

 

 グッ

 

「……?」

 差し出した右手を、梓は、両手で掴んだ。

「な、なんだ……?」

「……」

 変わらず体を震わせながら、目は固く閉じている。声を出せそうにない状態にありながら、それでも、

「……私は……」

 精一杯の声を、エドに向ける。

「私は……あなたが怖ろしい……」

「……?」

「かつての自分の姿を、目の当たりにすることほど、怖ろしいことは、無い……」

「……!」

「このままでは……かつての自分がどうなるのか……どうするのか、知っているから……」

 この瞬間、エドは、十代やあずさが誰のことを話していたのか、瞬時に、理解することができた。

 そして梓は、目の淵に涙を溜めながら、エドの目を見た。

「あなたは……かつての私だ。だから、私と同じようにだけは、絶対にならないで下さい……」

「……」

「あんな悲劇を引き起こすのは……私一人だけで、十分だから……」

 

『……』

 

 事情を知る者と知らない者。梓の引き起こした、悲劇を知る者と、知らない者達。

 そんな、それぞれ思いの違う彼ら全員、それ以上の言葉を発することができなくなった。

 ただ、目の前に立つエドに、涙ながらに訴えかける梓の姿に、言葉を失うしかなかった。

 

 ポン

 

 そんな梓の肩に、あずさの手が置かれる。

 

「……」

「……」

 

 しばらく無言で見つめ合った後で、やがて梓が、涙を流しながら、あずさの肩に顔をうずめた。

「よしよし……」

「……」

 梓の頭を撫でてやりながら、あずさはエドに手を差し出す。

 エドは、手に持っていた五枚のHEROカードを、あずさに手渡した。

「わたしや、梓くんが言ったこと、忘れないでね」

 そして最後に、念を押すように、語り掛けた。

「もし、復讐のために、何でもしようとして、暴走なんてしたら、絶対にダメだからね。それに何より、そのために簡単に命まで投げ出そうとしたら、承知しないからね」

「……」

 

『……』

 

 そしてまた、誰もが言葉を失う。

 ただ、エドがそのまま決闘場を出ていき、フィールドには、未だ泣き崩れる梓と、それを抱き締めるあずさの二人が残されただけだった。

 そして、そんな二人を、観客席の者達が、見ているだけだった。

 

「梓……」

『あずさちゃん……梓……』

 

 

 

 




お疲れ~。
やっぱこの子は強え~なぁ~。
そんなことを改めて思い知らせるための回でした。
てなことで、次話まで待ってて。

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