「ぜぇっ、ぜぇっ、重い……」
「おいおいイッセー、まだちょっとしか登ってないんだぞ?」
俺は隣で息切れを起こしている変態━━━イッセーに向かって呆れた様子でそう言う。
ライザーから10日間の期間をもらったオカルト研究部一行は、特訓をするために部長の別荘へと向かっている。
その途中にある山道をせっせと登っているんだが、すでにイッセーはギブアップ寸前だ。
部長からは、これも修行だと言われ俺とイッセー、祐斗と小猫は大量に物が詰まったリュックを背負っている。一体なにを詰めたらこのサイズになるのやら。
イッセーは一歩一歩ゆっくり踏みしめながら呟く。
「なんでお前は平気なんだよ………」
なんでと言われても、平気だから平気なんだよ。日頃から修行してるお陰だ。
「イッセー君、お先に行ってるよ」
「なっ!?イケメンこの野郎!」
涼しげな顔で登っていく祐斗。
あいつもけっこう体力あるんだな。『騎士』の駒だからスピード重視で筋力は余り無いと思ってたけど、祐斗も修行を欠かさずやってるってことか。
祐斗のすぐ後ろから小猫がイッセーを追い抜く。
「お先に失礼します」
顔色ひとつ変えない俺の後輩。体より何倍もでかいリュックを背負ってるっていうのに、疲れが微塵も感じ取れないぞ。
「さすが小猫だな。体のどこにそんな力があるんだか」
「秋夜先輩に言われたくありません」
小猫からジト目で冷たい一言を頂きました。先輩は悲しいです。
「俺だって小猫と同じ『戦車』だからな、これくらいはやらないと」
まあ、おれが持っているリュックのサイズは小猫のよりも一回り大きいんだけどね。後輩に、しかも女の子よりも小さいものを持つのは俺的に悔しいものがある。
それに、まだ重くなっても余裕かも。これくらいならティア姉のしごきの方が断然つらい。
俺がティア姉の修行を思い出して震えていると、クローゼが頭のなかに話しかけてくる。
『(流石は主。ティアマットとの修行に根をあげるようなことはしないな。歴代の中でもここまで根性のある者は中々いなかった)』
お、おう。なんか恥ずかしいな。
ん? 歴代の中でもってことは、俺以外にも誰かいたのか?
『(ああ、俺が神器に封印されてからいろんな人間を転々としていた。まあ、そのほとんどが悪魔や堕天使にすぐ殺されたり俺の雷を制御しきれなくて自滅したりと、情けない者ばかりだったがな)』
へえ、クローゼにそんな過去がねえ。
『(もちろん、俺の力を十二分に引き出すやつもいた。歴代最強と言っても過言ではない)』
クローゼにそこまで言わせるなんてすごい人だったんだな。俺も是非会ってみたかったよ。
クローゼに最強と言わせるほどの人物。俺はその人に興味が湧いたのでクローゼに訊いてみようとしたが、そろそろ目的地に着きそうだ。これはまたの機会に。
「これが、部長の別荘....でけえ」
イッセーがそう漏らすのも無理はない。だってこれ、別荘っていうかお屋敷じゃん。グレモリー家ってやっぱり相当な金持ちなのか。
この調子でいくとグレモリー邸は一体どれくらいの大きさなんだ?
「さあ、着いたわね。さっそく着替えて特訓を始めましょう!」
着いて早々特訓か、どんなことをするか楽しみだ。
特訓その1 祐斗との模擬試合
「1度祐斗と手合わせしてみたかったんだよな」
「奇遇だね、僕もだよ」
俺と祐斗は互いに向き合って構える。それぞれの得意な戦闘スタイルでやるということで俺の場合は徒手空拳、祐斗は木刀だ。
これは組手だから神器の使用は禁止ってことにしている。
先手は祐斗だ。
「それじゃあ、僕からいくよ」
「ああ、かかってこい」
━━━その瞬間、祐斗が俺の視界から消える。
「っ!?」
あまりの速さに驚くが、咄嗟に体を横に捻ることで祐斗の斬撃を避けることができた。少しでも避けるのが遅れていれば木刀でも相当なダメージを受けていただろう。
俺は表情には出さないが、冷や汗を流しながら内心焦る。
おいおい、速すぎじゃないか?しかもまじで殺りにきてるじゃねえか。
「この一撃で終わらせるつもりだったんだけどね、まさか全力の一撃を避けんなんてね」
「そういう割にはまだ余裕そうだな。んじゃ、今度はこっちから行くぞ!」
俺は地面を蹴り、祐斗に接近する。神器を使わなければ祐斗に及ぶことのない速度だが、それでも常人には速すぎる動きだ。
祐斗の木刀から繰り出される斬撃を何とか躱していく。しかし、全て避けきるのは至難の技だ。
俺は何回か当たってしまうが、痛みを我慢して祐斗の懐へと潜り込むことに成功する。
「くっ……!」
祐斗は急いで距離をとろうとするがもう遅い、俺は胸ぐらをつかみ、そのまま勢いをつけて一本背負いを決める。
「おりゃぁッ!」
「がはっ!」
祐斗は背中から思いきり地面に叩きつけられ、肺から空気が抜け出す。
この攻防が終わって緊張感が解けた俺は、地面にドサッと座り込む。
あ、あぶなかった。
祐斗のやつ、やっぱり滅茶苦茶強いな。ティア姉のしごきがなかったら確実に瞬殺だったぞ。
「大丈夫か、祐斗?」
「う、うん。大丈夫だよ。でもまさか負けるとは思わなかったな……」
俺は仰向けに倒れている祐斗に手を差し伸べる。
祐斗はそれを握って悔しそうな顔をして立ち上がる。
「まあ、普段の修行相手があれだからな。でも神器を使った勝負だったらどうなってるかわからない」
「じゃあ今度は神器有りでやるかい?」
それは面白そうだな。
祐斗の神器は多種多様な魔剣を作り出す事ができるから戦い方も変わってきそうだ。
「おう、時間があったらやろうぜ」
そのあとにイッセーが祐斗と勝負したんだが、まるで歯が立ってなかったな。 でも前に比べればだいぶ動きがよくなってる、これは10日後が楽しみだ。
特訓その2 朱乃先輩との魔力修行
新人悪魔の俺とイッセー、アーシアは朱乃先輩のもとへ行き、魔力について教えてもらう。
俺は戦うときに雷を使ってるが、あれは神器が俺の魔力や体力を糧として造り出しているものだ。だから純粋な魔力がどんなものがわからない。非常に楽しみだ。
「いいですか?魔力とは体全体を通して感じるもの。自分の中にある魔力を全体に流すようなイメージですわ」
朱乃先輩はそう言って水の入ったペットボトルに手をかざす。
すると、水が泡立ちさらに激しくなってペットボトルを突き破った。
「「「おお!」」」
「他にも炎や雷、今見せた氷など、様々自然現象を起こすことができますわ。」
それはすごい!俺の雷と組み合わせれば戦いの幅が広がりそうだ。
「では、はじめに簡単な魔力でボールを作ってみましょう」
朱乃先輩は、手のひらにソフトボールくらいの魔力の塊を出す。
「大事なのはイメージするとこですわ」
ふむ、イメージイメージ....。
「出来ました!」
「「え!?」」
まさかと思い、アーシアを見てみるとソフトボールくらいの大きさの緑色の魔力の球体を手のひらに出現させていた。
まだ始まって10秒も経ってないぞ?
さ、さすがアーシアだな。よーし、俺もだって……。
俺は目を瞑り、体に流れる魔力が手のひらに集まるようにイメージする。なかなかイメージが難しいが暫く続けているとアーシアより少し小さめの球体が出る。
「お、できた!」
「なにぃ!? くそー俺だって!」
ぐぬぬぬ! と唸るイッセー。だが出る気配がまったくない。
そのあと俺とアーシアは、別の練習に入り魔力に少し慣れることができたが、イッセーは魔力の塊を出すので精一杯だった。しかも豆粒サイズ。
特訓その3 小猫との格闘戦
「ぐほっ!?」
イッセーは小猫に腹を殴られ、木にぶつかる。
うわー、あんなの当たりたくない。戦車の力もあるだろうけど、まじでどんな力してるんだよ。
小猫はイッセーの安否を確認することなく俺にターゲットを変える。
「次は秋夜先輩です」
「お、おう」
無表情であんまり分からないけど、なんかやる気満々じゃないか?
俺の返事を聞くや否や直ぐ様襲いかかってくる小猫。
「えい」
ブォンッ!!
「うお!?」
ひぃっ!今の当たったら絶対骨砕けてたよな!?
しかもなんつー拳圧だよ!
でも俺だって戦車なんだ。
負けるわけにはいかない。それに、悪魔では小猫の方が先輩だけど、年下に負けるほど俺も柔じゃないんだよ。
「やあ」
「ふっ、よっ」
小猫が俺の体を抉るように拳を放ってくる。俺は冷静に避け、小猫の後ろに回り込んで軸足を払う。
「あ・・・・」
「俺の勝ちだな、小猫」
倒れた小猫の顔すれすれに拳を放ち、そう宣言する。
「むぅ、負けました」
か、可愛いな・・・・・・。
ぷくっと可愛らしく顔を膨らませる小猫に、不覚にもドキッとしてしまった俺であった。
「次は勝ちます」
「お、おう。俺だって次も勝ってやる」
▽
今日の特訓が無事に終わり、俺たちは部長たち女性陣が作ってくれた夕食を食べている。
うまい! 箸がとまらないぞ!
「3人共、今日の特訓はどうだったかしら?」
俺以外にも、イッセーと小猫が凄まじい速度で料理を完食しているとき、部長が今日の結果を聞いてきた。
今日の特訓か。あれから祐斗と小猫と組手を何回かしたけど、勝ったり負けたりの繰り返しだったな。組手はティア姉ともやってたからまずまずだったけど、魔力の方が微妙だったんだよなぁ・・・・・・。
「祐斗や小猫との組手は勉強になりました。でも魔力云々がまだいまいちだったので、そこをなんとかしていきます」
俺に続いてアーシアとイッセーもそれぞれの感想を言っていく。
「・・・・・・私は戦うことができません。皆さんのサポートしか出来ませんのんで、魔力のことをもっとお勉強します!」
「俺は....この中で一番弱かったです。魔力も戦闘もからっきし駄目で、結局誰にも一本取れませんでした。 ・・・・・・でも諦めません! 俺はいつか最強の兵士になってみせます!」
イッセーの決意を聞いて、部長は驚いた顔をするがすぐに微笑んで言う。
「イッセー・・・・・・。ふふっ、期待してるわよ?」
「はい!!」
イッセー、お前ならなれるさ、最強の『兵士』に。
夕食を食べ終えて俺たちは、屋敷にある温泉に入っている。
「ふぅ〜!気持ちいいぜ!」
「ああ。温泉なんて久しぶりだからテンション上がるな」
「そうだね。 それにしても秋夜君、凄い筋肉だね....」
俺ら3人で湯に浸かっていると、祐斗が突然俺の胸板を触ってくる。
「うひゃ!?」
こ、こいつ・・・・・・突然体を触ってきやがった! 思わず変な声だしたじゃねえかよ!
それに目が何時もと違ってなんかこう・・・・・・狙ってきてる感じだ。
俺は壁際まで慌てて逃げて、恐る恐る確認する。
「祐斗お前・・・・・・まさかそっちなのか?」
もしイエスと答えたら神器を使ってでも即行追い出してやる。
祐斗は冗談だといった様子で笑う。
「ははっ、冗談だよ。僕は普通に女の子の方が好きだよ。 ・・・・・・でも、ほんとうにいい体してるよね」
ひぃぃぃっ!?
俺はイッセーを残してすぐさま温泉から退場した。
そのあとイッセーの悲鳴が聞こえてきたのは気のせいだろう。俺は知らない。何も知らない。
▽
外はもう暗くなり月明かりが辺りを照らす。
俺は気分転換に散歩しに行こうとするが、なにやら外で部長とイッセーが話をしていたので邪魔をしないようにと、散歩を中止して自分の部屋に戻った。
「そろそろ寝るか」
明かりを消してベッドに入ろうとすると、ドアがノックされる。
ん?こんな時間に一体だれだ?
ドアを開けるとそこには枕を胸に抱えたアーシアがいた。
「アーシア、こんな時間にどうしたんだ?」
アーシアはもじもじした様子で
「あの・・・・・・一人じゃ寝れなくて、その・・・・・・一緒に寝てもいいですか?」
頬を赤らめ、上目遣いでそう言ってくる。
ぐほぁっ!!
なんだこの可愛い生き物は!?
こんなの断れるわけないじゃないか!
「あ、ああ。もちろんいいよ」
「あ、ありがとうございます!」
今俺はアーシアと一緒にベッドに入っている。
ベッドは大きいので二人なら余裕で入れる。
だが問題はそこじゃない、問題はアーシアを意識しすぎて眠れないことだ。
なんでだ? 普段一緒に寝てるから慣れてるはずだろうが!?
心のなかで叫んでいるとアーシアが話しかけてきた。
「シューヤさん、まだ起きてますか?」
「━━っ、お、起きてるよ」
アーシアと俺は背中合わせの状態で寝ているが、まだドキドキが収まっていない。その時に不意に話しかけられると、心臓が突き破るかと錯覚してしまう。
「その....私の昔話を聞いて貰えませんか?」
「アーシアの昔話?」
「はい、何故私が協会を追い出されたのか・・・・・・」
そういえば、アーシアがなぜ協会を追い出されたのか聞いたことがないな。
自分から聞くのも失礼な気がしてたが、まさか彼女から話してくれるとは。
「でも、俺なんかでいいのか? 無理に話さなくてもいいんだぞ?」
「いえ、シューヤさんだから聞いてほしいんです」
顔は見えないけどどこか覚悟を決めたような声音だ。
「そうか。なら教えてくれないか?」
「はい...私は幼いときから神器を発動させることができていました。それを見ていた教会の人々が私を聖女と呼び初めたんです。それから毎日怪我をした人達を治療していたのですが、ある日偶然大怪我をした人がいて急いで治療したんです。でもその人が悪魔だったそうで、私は魔女と呼ばれるようになり、教会から追放されたんです。」
「そ、そんな・・・・・・」
アーシアはなにも悪くないじゃないか!
悪魔も治してしまうほど優しいのに、何故教会側はそれに気付かないんだ!
「でも私、後悔はしてないんです。それに、追放されたお陰でシューヤさん達と出会うことが出来ましたから」
アーシアは笑顔でそう言うが、どこか悲しさが見える。
俺は体を起こして、アーシアに向かって言う。
「アーシア、改めて言わせてくれ。俺は何があってもアーシアを守る、例え命に換えても。」
アーシアも体を起こして俺と向き合い、微笑む。
「シューヤさん・・・・・・。はい、私もシューヤさんが怪我をしたら命懸けで治しますから!」
「ありがとう、アーシア。 明日も早いからもう寝ようか」
「はい、おやすみなさい、シューヤさん」
今度は俺に背を向けず、向かい合うように横になる。俺もそれに答えるようにアーシアと向き合って横になった。
「おやすみ、アーシア」
俺はアーシアの過去を聞いて、本当の意味で彼女のことがわかった気がする。
さっきまでのドキドキも、いつの間にか収まっていた。
最初はアーシアを友達として守ってやりたい、そう思ってた。
でもいつの間にか、誰にも渡したくない。
一人の男としてアーシアを守りたい、そう思うようになっていたんだ。
アーシアと今この瞬間一緒に居て、ようやくこの想いがなんなのかわかった。
俺はアーシアのことが好きなんだ。
最後まで読んで頂き有難うございます。
これからも応援よろしくお願いします。