今日は休日。辺りはすっかり暗くなった。
オカルト研究部の皆が緊張に包まれている。
そう、今日は三大勢力の会談の日だ。それぞれのトップも既に控え室で待機しているだろう。
校舎の周辺には結界が張られており、その外には悪魔、天使、堕天使の軍勢がずらっと並んでいる。この光景だけ見てしまうと今から戦争でも始めるのかと思ってしまう。
開始時刻に近づいたため、部長が手をぱんっと叩き合図をする。
「さて、そろそろ行きましょうか」
部長の指示で俺達は会場へ向かおうとする。
「ぶ、部長!皆さぁぁぁぁん!!」
段ボールに入ったままのギャスパーが、捨てられた子犬のような状態になっている。
ぐっ、なんて破壊力だ!
「まだ神器の制御が完璧じゃないんだから、仕方ないだろ? 」
「うぅ……でも…」
まだ不安が残っているのか、ギャスパーは涙目になり俯く。
でも、1人で残されるのは怖いよな。少しでも安心させてやらないと。
「俺と小猫が持ってきたお菓子と、イッセーのゲーム機も置いてあるから、それで我慢しててくれないか? もしギャスパーの身に何か起きたら直ぐに駆けつける。約束だ」
「は、はい…約束です……!」
俺はその場でしゃがみ、ギャスパーの頭をポンと撫でてあげる。
よし、いい子だ。
俺達は部長に続いて会場へと向かう。
「さすが秋夜だな。俺じゃ不安にさせちまうよ」
「秋夜君、やっぱり面倒見がいいね」
「まあ、1人でいる心細さとか俺も体験したことがあったからな。それに、後輩1人くらいなんとかするさ」
イッセーと祐斗が感心した様子で呟いてくる。
ギャスパーとは状況が違うけど、俺のところも似たような感じだ。だからこそギャスパーは放って置けないんだよな。
会議室へ到着し、部長がドアをノックする。
「失礼します」
そういって中に入る。目に映ったのは、既に三すくみのトップと会長が豪華なテーブルを囲んで着席している姿だ。
悪魔側は、サーゼクス様とレヴィアタン様、グレイフィアさん。
堕天使側は、アザゼルさんと白龍皇━━ヴァーリ。
天使側には、ミカエルさんと初めて見るとても綺麗な女性天使がいた。
「コカビエルの襲撃で活躍してくれた、私の妹と、その眷属だ」
「報告は受けています。改めてお礼を申し上げます」
サーゼクス様の報告を聞いたミカエルさんが部長に礼を言う。
「悪かったな。俺のところのコカビエルが迷惑をかけた」
もっと申し訳なく謝れないのか、堕天使総督さんよ……。 部長が口元をひくつかせてるじゃないか。
その後、サーゼクス様に促されて俺達は席に座った。
「全員が揃ったところで会談の前提条件を1つ。ここにいるものは最重要禁則事項である『神の不在』を認知している」
サーゼクス様の確認にこの場にいる全員が頷く。
「わかった。では早速始めよう」
それから、順調に話が進んだ………のかはよく分からないがたぶん大丈夫。俺みたいな一端の下級悪魔には難しすぎる話だよ。
隣にいるイッセーを見てみると、この話し合いを聞かずに部長の胸を凝視していた。
何してるんだよお前……。
途中でアーシアがそっと手を繋いできたので俺も握り返してあげる。恐らく、この場の緊張感に当てられたのだろう。握った手は少し震えていた。
そして、部長の報告の番だ。
「さて、リアス。先日の事件について話してもらおうかな」
「はい。ルシファー様」
部長は少し緊張しているように見えたが、淡々と起こったことをしっかりと最後まで言い切る。
さすが部長です。俺なら恐らく噛みまくっていましたよ。
「ありがとう、リアス。さて、この報告を聞いて堕天使総督の意見が聞きたい」
一斉に皆の視線がアザゼルさんへと向けられる。
しかし、アザゼルさんは不敵な笑みを浮かべて話始める。
「先日の事件は、我がグリゴリの幹部━━コカビエルが俺達に黙って単独で起こしたことだ。あいつの処理は『創雷師』が行って、『地獄の最下層』で永久冷凍の刑だ。その辺りの説明は渡した資料に書いてあったろう?」
アザゼルさんの話を聞いたミカエルさんが嘆息して言う。
「説明としては最低の部類ですが、あなた個人が大きな事を起こしたくないというのは知っています」
「ああ、その通りだな」
今度はサーゼクス様が質問をする。
「アザゼル、1つ聞きたいのだが。ここ数十年、何故神器所有者を集めている?最初は戦力増強を図っていると思っていた。天界や冥界に攻めてくるのかと予想していたが……」
「そう、あなたはいつまで経っても戦争は仕掛けてこなかった。『白い龍』を手に入れたと聞いたときには強い警戒心を抱いたものです」
サーゼクス様とミカエルさんの意見を聞いたアザゼルさんは苦笑いをして答える。
「神器研究のためさ。なんなら一部研究資料をそっちに送ろうか? 俺は宗教に介入するつもりもねぇし、悪魔の業界にも影響を与える気はねぇよ。━━ったく、俺の信用は三すくみの中でも最低かよ」
「それはそうだ」
「そうでしょうね」
「その通りね☆」
う、うわぁ…。皆さん即答じゃないですか。アザゼルさん、どんだけ信用されてないんだよ。
魔王様方の返事を聞いたアザゼルがつまらなそうな顔をする。
「チッ。神や先代ルシファーよりもマシかと思ったけど、お前らはお前らで面倒臭いやつらだ。あー、わかったよ。━━━なら、和平を結ぼうぜ。お前等もそのつもりだったんだろ?」
こんな突然言いやがったよ!
各陣営の皆さんも驚きに包まれてるじゃないか。でも、ミカエルさんも和平を結ぼうとしていたから丁度いいのか?
案の定、ミカエルさんは微笑んで話す。
「ええ、私も悪魔側と堕天使側に和平を持ちかける予定でした。………我らが神は亡くなりました。しかし、いないものをいつまでも求めも仕方ありません。神の子らを見守り、導いてあげるのが一番大事なことだとセラフメンバーとも意見が一致しました」
アザゼルさんがミカエルさんの言葉を聞いて吹き出す。
「はっ!あのお堅いミカエルさまが言うようになったな」
サーゼクス様も意見を口にする
「我々も同じ意見だ。魔王がいなくとも種を存続させるために悪魔は前に進まなくてはならない。━━━今度また戦争をしたら今度こそ、悪魔は滅ぶ」
あまり悪魔事情には詳しくないが、今のサーゼクス様の話でどれだけ深刻なのかが伝わってくる。
アザゼルさんは先程までとは違い、一転して真剣な表情になる。
「ああ、間違いなく滅ぶだろうな。それに、神がいない世界は間違いか?衰退するか? 残念ながら違った。俺もお前らもこうやって元気に生きている」
一度間を空けてから、アザゼルさんは両手を広げて言う。
「━━━神がいなくても、世界は回るのさ」
………たしかに、もっともだな。 神がいないと知らずに生きていたけれど、今の今までまったく普通だった。
そのあとも政治やらの話し合いが始まって、一段落着いた。
そこで突然ミカエルさんから話を振られる。
「そろそろ創雷師殿のお話も聞いてよろしいかな?」
っ! このタイミングでおれか!
皆の視線が俺に突き刺さって正直辛いです………。
でも、ちゃんと約束覚えててくれたのか。ありがとうございます、ミカエルさん。
俺はアーシアを一度見てから、ミカエルさんの目をしっかりと見つめて話す。
「何故アーシアを追放したのか、その理由が知りたいです」
アーシアから前もってこの事を訊く許可はもらっている。
皆から驚いた顔をされたが、今聞いておかなければいつ聞けるチャンスが訪れるかわからないんだ。
こんなにも優しいアーシアを追放した天使側に怒りを覚えているのも事実だ。
ミカエルさんは真摯な態度で答える
「その事に関しては、申し訳ないとしか言えません……。神が消滅したあと、加護と慈悲と奇跡を司る『システム』だけが残されました。悪魔払い、十字架などの聖具の効果もこの『システム』の力です」
ミカエルさんはさらに続ける。
「正直、『システム』を神以外が使うのは困難を極めます。今は『熾天使』全員で起動させてはいますが、以前と比べるとどうしても加護や慈悲が行き届きません………。そのため、システムに影響を与えるものは教会から遠ざけることになったのです」
「それで、悪魔すら癒してしまうアーシアの『聖母の微笑み』は『システム』に影響を与えてしまうと?」
俺の問いにミカエルさんはうなずく。
「ええ、信徒のなかに『悪魔や堕天使を癒す神器』を持つ者がいると、周囲の信仰に影響を与えてしまいます。
それと、影響を及ぼす例として━━━」
「神の不在を知るものですね?」
ミカエルさんの言葉を遮ってゼノヴィアは話す。
「そうです、ゼノヴィア。あなたを失うのはこちらとしても痛手でしたが、私たち上位の天使以外の神の不在を知るものが教会に近づくと『システム』に影響を与えることになります。━━━申し訳ありません。あなたとアーシア・アルジェントを異端とするしかありませんでした」
て、天使長が頭を下げた……。それほど、自分達のしたことを悔やんでくれているってことなのか。
もし、アザゼルさんみたいな対応されたら、たとえミカエルさんでも全力で殴り飛ばすことになってたな。
謝られた二人は目を丸くして驚いたが直ぐに慌てて頭をあげさせる。
「頭を上げてください。悪魔にはなったことに多少後悔はしていましたが、封じられていたことが解放され、現在の私の日常を華やかに彩ってくれています。私は、この生活に満足しています」
ゼノヴィア………大胆なことしてくるけど、いいこと言うじゃないか。
アーシアは手を合わせてミカエルさんに言う。
「私も、今を幸せだと感じています。大切な人たちがたくさん出来ましたから」
アーシアはこちらを見て微笑んでくる。
俺も幸せだよ、アーシア
そのあとも、ミカエルさんは再び二人に頭を下げて、この件は終了となった。
「ありがとうございました。ミカエルさん。俺なんかのお願いを聞いてくれて」
「いえ、こちらの責任ですから、このぐらいは当然ですよ」
やっぱいい人だよ、ミカエルさん。
「さて、そろそろ他の奴等にも意見を聞きたいな。まずはヴァーリ、お前は世界をどうしたい?」
アザゼルさんの問いにヴァーリは笑む。
「強いやつと戦えればいいさ」
ガチで戦闘狂じゃないかよ。━━ってかこっちに熱い視線を送ってくるんじゃない!
「じゃあ創雷師はどうだ?」
おれか……。うーん、なんて答えようか
「俺は………争いなんてしたくはありませんね。このまま和平をしてくれるならそれが一番だと思います」
アザゼルさんは俺の回答に頷く。
「創雷師はヴァーリとは正反対だな」
あいつと一緒にしないでほしいんですけど。
「んじゃ、最後に赤龍帝だ」
皆がイッセーの方に集中する。
「おれ、難しいことはちょっと………」
「なら、簡単に教えてやる。和平を結んで平和になればリアス・グレモリーと子作りしまくりだ。戦争になればそれは無しだ。どっちがいい?」
なんとも言い難い例え方だな……。
「和平でお願いします!ええ!平和が一番ですよね!部長と子作りしたいです!」
イッセーの即答の答えで皆も苦笑い。
部長なんて顔を真っ赤にさせてるじゃないか。はあ、ほんとにこいつは………。
━━━その瞬間
ゾワッ!
っ! な、なんだ今の感じ!?
俺は周囲を見回してみると、トップの方々、部長、イッセー、ゼノヴィア、祐斗、ヴァーリ以外が停止していた。
こ、これは………ギャスパーの神器だよな?
恐らく、俺とイッセーはドラゴンを宿してるから、部長は直前でイッセーに触れていて、祐斗は聖魔剣、ゼノヴィアはデュランダルで防いだって感じか。
「お、創雷師も動けるか」
アザゼルさんが感心したように言う。
「これは、一体?」
「テロだよ。どこの時代でも勢力と勢力が和平を結ぼうとすると邪魔をしてくる輩がいるもんだ」
俺の問いに、ため息をつきながら呆れたようすで答える。
俺は窓から外の光景を見てみると、そこには空が真っ黒に染め上がるほどの大量の人がいた。黒いローブを身に纏っていて、まるで魔法使いのようだ。
………え、これ全部テロリスト?
「こいつらは所謂、魔法使いってやつだ。人間だが、扱う魔法を見たところ中級悪魔クラスだろうな」
さっきからどんどん魔法で攻撃してくるけど、結界で全て防がれている。
すごい強度だ。 この魔力、魔王様たちが守ってくれているのか?
「恐らく、お前んとこのヴァンパイアの神器を強制的に暴走させて、禁手状態にさせたん
だろうよ」
あのテロリスト共がうちの後輩を傷つけてるのか……。
俺は怒りでからだから魔力がどんどんあふれでてくる。
「しゅ、秋夜くん、今は落ち着いて」
祐斗に言われて俺は慌てて魔力を抑える。
あ、あぶない。 確かに腹が立つけど、冷静にならなきゃな……。
「はははっ、やる気十分じゃねぇか! 俺もいっちょやるか!」
アザゼルさんはそう言って、腕を天へと掲げる。
すると、大量の極太の光の槍が外に展開される。腕を下に下ろすと、それが一斉に掃射され、テロリストを一瞬で壊滅させた。
なっ!? なんて力だよ……!!
これが堕天使総督の力か!
しかし、すぐに魔方陣から同じくらいの人数が出てくる。かなりの人数がスタンバイされているっぽいな。
ゴキブリみたいだな……。
「あいつらがなんらかの妨害をしてきて外との連絡もつかないし、外へも転移できない。本当に面倒臭いぜ」
そう言いつつもテロリストを繰り返し壊滅させていくアザゼルさん。
「私たち首脳陣は下調べ中で動けない。だから、他の人がギャスパーくんを救出するのがベストだね」
サーゼクス様の意見にすぐさま部長が反応する。
「お兄さま、私がいきますわ! 彼は私の下僕。責任を持って奪い返してきますわ!」
「はは、そう言うと思ったよ。しかし、どうやってあそこまで行く? 外は敵だらけで正直危険だ」
「そ、それは………」
部長はアイデアが浮かばないのか、言葉を詰まらせてしまう。
迷う必要なんかないだろ、俺。ギャスパーに何かあったら駆けつけるって言っただろうが!
俺は一歩前に出て発言する。
「俺に行かせてください」
「「「っ!?」」」
アザゼルさんは口元を吊り上げ、他の皆は驚きに包まれた。サーゼクス様は真剣な顔で俺に問いかける。
「本気かい?あの中に飛び込むのは自殺行為だ」
「確かに自殺行為かもしれません。ですが、ギャスパーと約束したんです……守るって。俺はこの約束を破るわけにはいきません! 行かせてください!」
俺は頭を精一杯下げる。
俺の様子を見ていたアザゼルさんが意外なことを言ってくる。
「へっ、いい根性だ。俺はそういうの嫌いじゃないぜ。━━━おいヴァーリ! 外で敵を引き付けとけ!」
「………はあ、了解した」
ため息をして了承するヴァーリ。
「まったく、仕方ない。 秋夜くん、くれぐれも気をつけてくれ」
サーゼクス様、すみません。
「シューヤさん!」
アーシアが俺の胸に飛び込んできた。いきなりで驚いたがしっかり受け止めてあげる。
「ごめんな、アーシア。また心配かけるようなことをしちゃって………」
俺の言葉にアーシアは首を横に小さく振る。
「……いえ、私、シューヤさんのこと信じてますから……!」
うっすらと涙を浮かべているが必死に堪えて笑顔を作っているのが分かる。……ほんと、自慢の彼女だよ。
「秋夜……」
「ゼノヴィア、すぐギャスパーを連れて戻ってくるから、その間にアーシアを頼んだぞ?」
珍しくゼノヴィアも不安そうな顔を見せている。俺は安心させるために頭を優しく撫でて落ち着かせる。
「っ! あ、ああ! アーシアは命に変えても守るさ!」
次に、俺はイッセーと祐斗の方に向く。
「お前ら! グレモリー眷属の男子の力で部長たちを何がなんでも守れよ!」
イッセーと祐斗は驚いた顔をするが、すぐに笑みを作って俺に言う。
「もちろんだ!秋夜こそへますんなよ!」
「グレモリー眷属の『騎士』として、皆は必ず守るよ!」
その言葉を聞けて安心したよ。
よし! それじゃあ行くか!今回も頼むぞ、クローゼ
『(相変わらず騒動に巻き込まれるな、主は……。だが、それでこそ主だ!ヴァンパイアの小僧なんぞ直ぐに助けるぞ!)』
「いつもあなたばかりに押し付けることになってしまうわね………。自分の力不足が悔しい……!」
部長は俺に近づいてそう言ってくる。歯を強くくいしばり、手は血が出るほど握りしめている。
「………部長。 そんな顔をしないでください。あなたは俺達の『王』なんですから、もっと堂々としていてください」
俺は部長に微笑んでそう言う。
「……そうね。私がうじうじしていても意味がない。ありがとうね、秋夜。 ……ギャスパーを頼んだわよ」
「はい!」
俺は大きな声で返事をし、最後にサーゼクス様に一礼して、ヴァーリの隣に立つ。
「ふっ、 君と戦う前に手助けをすることになるなんてね」
「わるいな、迷惑をかけるよ」
俺達は互いに顔を見合せて笑み、同時に言葉を口にする
「「━━禁手化!」」
『Lightning Dragon Balance Breaker!!!』
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!』
俺の体を緑色の光が、ヴァーリの体を白い光が包み込む。
光がやむと俺達はそれぞれ鎧を装着した。
「それじゃあ、頼んだぞ」
「君こそ、仲間をちゃんと助けるんだな」
その言葉を最後に、俺達は壁を突き破って外へと飛び立つ。
ドゴォォォン!!
あ……。壁、壊しちゃったけど…………。
ま、まあ! ヴァーリもぶっ壊したし、大丈夫か!
ヴァーリは敵に突っ込み、俺は部室へと逃げるように飛び立った。