俺は地上を高速で駆け抜け、ヴァーリは空中で縦横無尽に動き回り、魔術師たちを蹴散らしていた。
いくらヴァーリが強いといっても無限にも等しいくらいに涌き出てくる敵に少々手こずっている様子だ。
当然、倒し損ねる相手もいるため、俺にも魔法の嵐が降り注いでくる。
ドドドドォォォンッ!
「うおっ!? この………お返しだ!」
俺に襲いかかる魔法を全て避けきり、左腕に『千鳥』を発動させる。
そのまま上空にいる敵に向かって腕を薙ぐ!
雷の針━━『千鳥千本』が空を埋め尽くすほど大量に放たれる。
これ、千本って言ってるけど、はるかに越えてる量だよな……。余裕で倍以上はある気がする。
今の一撃で魔術師の数がかなり減り、魔方陣からもまだ導入されていない。
今ならいける!
この場はヴァーリに任せ、俺は目にも止まらぬ速さでギャスパーの元へと向かった。
▽
一誠 side
秋夜とヴァーリのやつが鎧姿になって壁を破壊していってから10分くらい経った。
あのとき、部長の顔が滅茶苦茶引きつってたな……。
いや、それよりもギャスパーだ! 秋夜なら絶対に助けてくれる! ファイトだ!
心の中で秋夜にエールを送っていると、アザゼルが俺に1つの腕輪?のようなものを放り投げてきた。
うん? なんだこれ?
「お前、禁手に成れないんだろう? ならはめろ。短時間なら代価無しで禁手状態になることが可能だ。そいつが代価の代わりになってくれる。創雷師にもヴァンパイア用に1つ渡しておいた」
━━っ!? ま、まじか!! これがあれば、おれも禁手に……!
「そいつを使うのは最後の手段にしておけ。鎧を装着した時の体力の調節は出来ないからな」
「わ、わかった」
なるほど。たしかに、俺はヴァーリや秋夜みたいに体力とか基本スペックが違いすぎるんだよな……。
俺、ちゃんと禁手に至れるのかな。なんだか不安になってきましたよ………部長。
「アザゼル、このテロリストが何者か知っているかい?」
サーゼクスさまの問いかけにアザゼルは頷く。
「━━『禍の団《カオス・ブリゲード》』
「………カオス、ブリゲード?」
サーゼクス様も知らないのか、眉を寄せて聞き直す。
「うちの副総督のシェムハザが不審な行為をする集団に目をつけていたのさ。その集団の中には禁手に至っている神器持ちや神滅具持ちも数名確認されているぜ」
て、テロリストに神滅具持ちがいるのかよ! しかも禁手に至ってる奴等もいるなんて、俺も至ってないのに………。
「その者たちの目的は?」
ミカエルさんが訊く。
「破壊と混乱。この世界が気に食わないのさ。テロリストだ、最大級に性質が悪い。さらに驚くことに、親玉は『赤い龍』と『白い龍』の他に強大で凶悪なドラゴンだ」
「「「っ!?」」」
え、皆さんわかるんですか? 俺にはちんぷんかんぷんなんだけど………。
サーゼクスさまが顔を険しくして言う。
「そうか、彼が『無限の龍神』ウロボロス・ドラゴン━━オーフィスが動き出したのか………」
その瞬間、部屋中が光に包まれ、聞いたことのない声が響き渡る。
『そう。オーフィスが禍の団のトップです』
木場 side
突如光と共に現れた1人の女性。その時に用いられた魔方陣を見て、サーゼクス様が呟く。
「レヴィアタンの魔方陣………」
え、これがレヴィアタンさまの魔方陣?
セラフォルー・レヴィアタンさまの使っている魔方陣とはまったく違うため、僕は頭が混乱してしまった。
「ヴァチカンの書物で見たことがあるぞ。あれは旧魔王の魔方陣だ」
ゼノヴィアの言葉で謎が一気に解けた。
な、なるほど! そういうことだったのか!
「ごきげんよう、元魔王のサーゼクス」
その女性は胸元が大きく開かれていて、スリットも深く入っているドレスを着ていた。
こういうのにイッセーくんは反応しちゃうのかな?
僕はチラッと見てみると、やっぱり鼻の下を伸ばしてガン見していた。
ははっ、相変わらずだね……。
「先代レヴィアタンの血を引くもの。カテレア・レヴィアタン。これはどういうつもりだ?」
旧四大魔王が亡くなり、新しい魔王を立てようとしたときに最後まで徹底抗戦を唱えたのがこの、先代魔王の血を引くものたちというわけだ。
「旧魔王派のほとんどが『禍の団』に協力することを決めました……。私たちは今日の会談とは逆の結論に至ったのです。神と先代魔王がいないのなら、この世界を変革すべきだと!」
っ!? 旧魔王派がテロリスト側に降ったのか!
「カテレアちゃん! どうしてこんなことを……!」
セラフォルーさまの言葉を聞いたカテレアは憎々しげにいい放つ。
「セラフォルー、私から『レヴィアタン』の座を奪っておいて、よくもぬけぬけと!私は正統なるレヴィアタンの血を受け継いでいるのです!私こそが魔王に相応しかった!」
「カテレアちゃん……わ、わたしは」
「安心しなさい。この場であなたを殺し、私がレヴィアタンを名乗ります。そして、オーフィスには新世界の神となってもらいます。彼は象徴であればいいだけ。あとの『システム』や法、理念は私たちで構築します」
カテレアが高らかにそう宣言する。
サーゼクスさまもセラフォルーさまもミカエルさまも、皆が顔を曇らせる。
━━━が、一人だけは違った。
「くっ……くっくっくっ」
そう、堕天使の総督だけは
「なにが面白いのですか?アザゼル」
不愉快だっなのか、カテレアは眉を吊り上げる。
「いや、なに、お前らの目的があまりにも陳腐過ぎたものでね。それに、レヴィアタンの末裔さんよぉ、そういう台詞って一番最初に死ぬ敵役のそれだぜ?」
アザゼルは小バカにしたようにカテレアに言った。
「アザゼル!あなたはどこまで私たちを愚弄する!」
カテレアは怒りで莫大な魔力を放出させる。
凄まじい魔力だ……次元がまるで違う……。
「サーゼクス、ミカエル、手を出すんじゃないぞ」
アザゼルも堕天使の翼を12枚広げ、薄暗いオーラを放出させる。
「カテレア、降るつもりはないのだな?」
最終警告を出すサーゼクスさま。しかし、カテレアは頷きはしなかった。
「ええ。サーゼクス、あなたはいい魔王でした。しかし、最高の魔王ではない。だから、私たちが新しい魔王を目指します!」
「そうか、残念だ」
そう言うと、アザゼルは瞬時に光の槍を展開し、カテレアを壁ごと吹き飛ばした。
ああ、本日二回目の壁破壊……。
もっと学舎を大切にしてほしいです………。
上空で行われる攻防に、僕は驚いた。
すごい、これがトップレベルの力……。
僕がこの戦いに見とれていると、サーゼクス様に声をかけられる。
「木場祐斗くん、悪いのだが、グレイフィアが魔方陣の解析が終わるまでの間、外の魔術師たちを倒しておいてくれないか?」
魔王様からの直々の命令! やる気がでるよ!
「はい!」
「ありがとう。妹の『騎士』が君でよかったよ。その禁手を妹と仲間のために奮ってくれ」
「はっ!ゼノヴィア、一緒に来てくれ!」
「了解した!」
僕とゼノヴィアは敵へと攻めこんでいった。
▽
秋夜 side
おし、見えてきた!
いちいちドアなんて開けてる暇はない!
俺は勢いをつけたまま部室の壁を突き破った。
ドゴォォォン!
すみません部長………後で土下座しますから………。
「な、なにが起きたの!?」
部屋の中には黒いローブを着た魔術師が6人。そして、ロープで縛られているギャスパーがいた。
………見たところ怪我はないみたいだな。無事でよかった。
俺は鎧の兜部分を収納させて、外気に顔をさらしてギャスパーに言う。
「ギャスパー、遅れて悪いな」
ギャスパーは俺の姿を見るなり、涙を滝のように流して泣き叫んだ。
「じ、じゅうやぜんばぁぁぁい! ごわがっだですぅぅ!!ぼぐ、死んじゃうがどおもいまじだぁぁ!!」
おお、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃじゃないか……。でも、あの引きこもりで泣き虫なギャスパーが俺が到着するまで泣かなかったのは誉めるべきことだな。
「一人で怖い思いさせてごめんな。お前のことは俺が絶対に守る。だから、安心してくれ」
俺はギャスパーに巻かれたロープを雷切で切断し、頭を撫でる。鎧越しだから痛いかもしれないけど………。
ドンッドンッドンッ!
突然横から魔法による攻撃が飛んできたため、俺はすかさず兜で顔を覆い、右腕を前に出して雷のバリアを張る。
「不意打ちなんてひどいな、当たったらどうするんだ」
俺は魔法が飛んできた方向━━━魔術師たちの方を向いて言う。
「あら残念。死んでくれればよかったのに」
「こんなショボい攻撃で殺せるはずがないだろう。自分と相手の力量差もわからないのか?」
俺の言葉に青筋を浮かばせるリーダーらしき女魔術師。
「ふんっ! たった一人でなにができるのかしら? こんなハーフヴァンパイアのために死にに来るなんてあなたバカね!」
この程度の挑発にのるとか……。仮にもリーダーなんだよな?
「こいつは俺達の大事な仲間なんだよ。それに、お前らごとき俺一人で十分ってことだ━━━ギャスパー!こいつを腕にはめとけ! 一時的に神器を制御出来るようになる!」
俺はアザゼルさんからもらった神器抑制腕輪をギャスパーに渡す。受け取ったギャスパーはすぐに腕輪を装着させる。
「あなた一人で私たちを倒せるとでも? なら、お望み通りに全員で殺してあげるわ!」
そう言って魔術師たちは俺たちに向かって大量の魔法を打ち込んでくる。 俺はギャスパーの前に立って再び雷のバリアを展開させる。
この程度なら防げるんだけど、後ろにギャスパーがいるから攻めづらいのが現状だな。
チラッと後ろを見てみると、ギャスパーがしゃがんでブルブルと震えている。
さっきは一人で十分って言ったけど、この状況を打破するにはやっぱりギャスパーの力が必要か………。
俺は雷切を構える。そして━━━
自分の腕を軽く斬った。
「っ!? な、なんで自分の腕を!?」
ギャスパーは俺の突然の行動に目を見開いた。
俺の血が付着した雷切の切っ先をギャスパーに向ける。
「俺の血を飲め、ギャスパー。 イッセー程じゃないけど、これでも伝説のドラゴンなんだぜ?」
「………で、でもっ、もし暴走したら……」
ギャスパーは自分に秘められている力に怯えている。でも、こいつだって必死に修行したんだ。いつまでも立ち止まっている訳にはいかない、前に進まなければならないんだ。
「俺が断言してやる。ギャスパー、お前なら出来る。暴走なんか絶対にしない━━━俺の言葉じゃ、信用できないか?」
俺は未だに襲いかかる魔法の嵐を防ぎながら、ギャスパーへ言う。
ギャスパーは首がとれる勢いで横に振る
「ぼく、秋夜先輩のこと信じてます……だから━━」
そう言ってギャスパーは、雷切に付いた俺の血を舌で舐める。その瞬間、この部屋全体に異様な空気が張りつめた。
俺はある変化に気づく。
あれ、魔術師共の攻撃が止んだ?………いや、これは停止しているのか?
「な、何よこれ!?なんで空中で停まってるのよ!」
魔術師共が一斉に慌て始める。
それよりも、ギャスパーはどこにいったんだ? この部屋には見当たらないが……。
そう思ったとき、無数のコウモリが部屋に突如現れた。その全てが敵に襲いかかり、噛みついて攻撃をしている。
『もう、先輩を傷つけさせません!』
部屋中からギャスパーの声が響き渡る。
「な、このコウモリ!血だけじゃなくて魔力もすいとってる!?」
「こんなもの、まとめて吹き飛ばすわ!」
魔術師たちが魔法を辺りに撃ちまくるが、その全てが空中で停止させられている。
『無駄ですよ。あなた達の動き、攻撃は全て見ています』
コウモリの目がギラギラと赤く光っている。
これがギャスパーの力。このコウモリは吸血鬼としての力だろう。それと神器の力を組み合わせて使うなんて、さすが俺の後輩だ。
『秋夜先輩、今のうちに!』
「ああ、でかしたギャスパー!」
俺は体の動きが停められている魔術師たちにゆっくりと近づく。
「さーて、うちの後輩を怖がらせた罪を償ってもらおうか」
「「「ひっ!?」」」
リーダーらしき女は一番最後にしよう。仲間が一人ずつやられていく姿を見せつけてやる………。
『(主よ、怖いぞ………)』
クローゼの言葉はスルーして、取り敢えず1人目だ。ってか、こいつら全員女かよ。だからって手加減はしないけど。
俺は怯える1人の頭を右手で鷲掴みにする。
「お、お願い!………助け━━━」
「まずは1人目」
敵に情けなんてかけます? ━━━かけるわけないだろうが。
俺は右手から雷を発生させてそれを魔術師の頭に流し込む。流石に殺すわけにはいかないので気絶程度で済ませてあげる。
「ぎぃゃぁぁぁぁぁ!?!?」
それでも痛いのには変わりないんだけどね。
頭からプスプスと煙を上げてたおれこむ。その姿を見て残りの魔術師の顔が真っ青になってしまう。
「さあ、どんどんいこうか」
俺は最高の笑顔を見せて近づいていく。
もしこの場にギャスパー以外の誰かがいたら絶対に『鬼だ……』と言われる自信があるな。
「2人目」
「あぎゃぁぁぁああぁぁ!?!?」
「3人目」
「いぎぃゃぁぁぁ!?!?」
「4人目」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「5人目」
「いやぁぁぁああぁぁ!?!?」
そろそろリーダーの精神が崩壊しそうになってきている。 腰が抜けて、全身が地震でも起きているのかと思うほど震えている。
やばい………いけない扉が開きそうになってる!
これが朱乃先輩の気持ちか………わかる気がしてきた
「最後の1人になったけど安心しろ。すぐに同じところに連れていってやるよ」
「い、いや……!お願い……なんでも、なんでもするから……!」
本当に腹が立つやつだな……。さっきまで俺達を侮辱してきたくせに、自分がやられそうになるとこれか……。
「なんでも……ね。そんな言葉使って意味ないんだよ。ギャスパーが受けた辛さに比べたら塵に等しいんだよクソがっ! ━━━もしも、また俺の仲間に手を出したら………今度は気絶じゃすまないほどに潰すぞ?」
俺は魔術師に向かって殺気を魔力に込めて放出する。
その影響で窓ガラスにヒビが入ってしまったけど、まあ気にしない。
「あ………ああ……」
俺の圧力に押し潰された魔術師は一瞬にして意識を失ってしまう。
「………秋夜先輩」
「変なところ見せたな。すまん、ギャスパー」
はあ、後輩の前でやってしまった。 時々感情が爆発するときがあるんだよな、気を付けよう……。
「い、いえ、僕のために怒ってくれたんですよね? 何も謝ることはありませんよ」
「そう言ってくれるとありがたいな」
俺が微笑んでそう答えるとギャスパーが突然体勢を崩す。何事かと急いで近づいて顔を覗いてみると、寝息をたてて眠っていた。
恐らく、神器と吸血鬼の力の使いすぎによる疲労が襲ってきたんだろう。本当に頑張ってくれたよ。ありがとう、ギャスパー。
「たくさん頑張ったからな。あとはゆっくりと休んでくれ」
ギャスパーの救出を成功したわけだし、急いで部長達のところに戻らないと。
俺は突き破った壁からギャスパーを背負って外へ出て、新校舎の方へ向かおうとした時、突如空から物凄いスピードで何かが落下してきた。
ドゴォォォン!!
クレーターの中から出てきたのは堕天使総督━━アザゼルさんだった。
「チッ、この状況下で反旗かよ。ヴァーリ」
「ああ、そうだよ」
そして、上空には純白の鎧を身に纏ったヴァーリと見知らぬ女性がいた。
………え、なにこの状況?