凪のあすから Another story ~狭山のあすから~   作:ひとみらくる

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2、てるてる坊主、作った方がいいかな

 

 季節は六月。太陽がよりいっそう元気になってくる季節。今は日が傾いてきた頃合いだから暑くはないが、初夏らしいぬるい風が四人の間を駆け抜けていく。

 光と、まなかと、要、そしてちさき。

 ちさきは狭山との会話を、学校帰りの三人に報告した。みんな嬉しそうに話を聞いている。

「わーい、遊園地。ちーちゃん、わたし行きたいっ」

 まなかが嬉しそうにその場でジャンプした。

「まなかが行くんなら俺も。こいつが勝手にどっか行かないように見ててやらねーとな」

 クールに装っている光だけれど、若干頬が赤く染まっているので、一緒に行きたいことは明白だった。

「ひぃくん、それどういう意味?」

「そのまんまの意味」

 ぷくぅと頬をふくらませるまなか。

「二人が行くなら、僕も。タダで遊園地なんて、ラッキーだね」

 要も賛成のようだ。

「じゃあ、決まりね。次の日曜と、今月末の日曜、どっちがいい?」

 みんなの同意が得られたので、さっそく日付を決めていく。

「月末だと、テストが近くにあるからあんまり出掛けるのはよくないかも。とくに光が」

「な、要それどういう意味だよ」

 要の冷静な言葉に若干うろたえる光。

「そのまんまの意味」

「うるせー。最近はちゃんと授業理解してるっつーの」

「でもひぃくんこの前、漢字の小テスト、初めて0点取ったって言ってたよね」

 まなかの一言で、一瞬場が凍り付いた。

「おい、それ言うなっつったろ!」

 慌てている光に、追い打ちのように冷静な要の一言。

「へぇ、光、0点だったんだ」

「この時期で0点なんて、大変だよ。みんなで美濱高行くんでしょう?」

 少し呆れ気味なちさきの言葉に観念したのか、光がまなかに懇願する。

「あーはいはいわかりましたよ。次はまともな点とるから、まなか、今度教えてくれ」

「うんっ。いいよ」

 明るく答えてくれるまなかのおかげですぐに場が和んだ。

「じゃあ、遊園地は次の日曜ね。狭山くんに連絡しなきゃ。あ、紡にも」

「紡くんも来るの? ちーちゃん」

「確定ではないんだけど、来てくれたらいいなぁって思ってるよ。だって、要はいいとして、まなかと光がそれぞれはしゃいでどこか行かないように見ておくのって、狭山くんと私じゃ無理でしょ」

 いたずらっぽく言うちさきに、光がツッコむ。

「ってか、狭山こそはしゃいでどっか勝手に行くんじゃね? 俺がしっかり見といてやんねーとよ。狭山とまなか」

「ひぃくんひどいよー。もう勉強教えないよ」

「……あー、わりぃ、いまの冗談な」

「完全に光の負けだね」

 要が笑い、ちさきも笑う。

「もう、ほんと、三人とも相変わらずなんだから」

「何言ってんだよ。ちさきもだろ」

 一人だけ年齢の違うちさきは、みんなとの距離感を感じていたから 、さりげない光の気遣いに心がキュンとした。

「・・・・・・光、ありがとね」

「そんな改まんなって。じゃあ、そろそろ俺らはシシオに帰るか」

「うん。またね、ちーちゃん」

「じゃあね、ちさき。時間とか詳しく決まったら連絡よろしく」

 こうして、みんなで遊園地に行く計画が進んでいった。

 その夜、狭山に連絡をした後。

 眠る前に、ちさきは大学の寮にいる紡に電話をかける。

「あ、もしもし紡? 今大丈夫?」

『あぁ、大丈夫だ。珍しいな、ちさきから電話なんて』

 研究の邪魔をしないようにと、ちさきは自身から連絡をとるのを避けていた。

「紡の、声がききたくて」

 ちょっと、ふざけてみる。

『・・・・・・そうか』

 少しの間があった。照れたのかな、なんだかくすぐったいような気持ちになる。

「なーんちゃって」

『冗談なのか?』

 若干残念そうな声音の紡に申し訳なくなるが、とりあえず本題に移る。

「半分ほんと。あのね、次の土日って、帰ってこられそう?」

『いや、厳しい。土日で空いてるのが今月末しかないんだ。それ以外は研究室を貸してもらえるから、どうしても』

「そっか・・・・・・。なら、仕方ないね」

 遊園地へ行く日が、今月末だったら一緒に行けたのに、と残念に思った。

『何か用事?』

「うん。次の日曜ね、狭山くんが光たちと私を遊園地に連れてってくれるの。シーパークなんだけど、紡も一緒にみんなで行けたらいいなって」

『そうだったのか。ごめん』

「ううん、いいの。こっちこそ突然でごめんね」

『心配だ』

 少し強め口調の紡。

「え? 光とまなかがはしゃぎすぎないかどうか?」

『そっちじゃない』

「あ、狭山くんと光ね」

 ちさきは紡の懸念に気づけないままだ。

『それも違う』

「もう、なんなのよ。もしかして、私?」

 やっと気づいたようだ。

『そうだ』

「そんな、はしゃいだり迷子になったりなんかしないわよ」

 電話越しに、頬を膨らませているであろうちさきの姿が目に浮かぶ。

『狭山と』

 諭すように紡が言う。

「狭山くんと? 迷子?」

『違う。俺のいないところで、ちさきが他のやつと出掛けることが・・・・・・嫌なんだ』

「そんな、紡も仲よかった狭山くんだよ? 光も要もまなかもいるし、大丈夫よ」

『・・・・・・そうか、でも』

「大丈夫だって。私、高校の頃、狭山くんと一緒に帰ったこととかあるよ」

 ちさきは無防備すぎると言いかけところで、紡の熱意がやっと伝わったのか、ちさきの声が少し甘くなった。

「紡、心配してくれてありがとう。でも、安心してね。私、紡のこと・・・・・・大好きだから」

『・・・・・・俺も、ちさきのこと、好きだから』

 いつもは淡々としている紡だが、今の言葉には今までにないくらい気持ちがこもっていた。

 紡は、狭山がちさきのことをずっと好きだったことに薄々気がついていた。だから、なおさら心配になる。

「なんか、ドキドキしちゃった。きっと、私今顔真っ赤かも。紡はいつも通りの表情かな?」

『秘密』

「秘密、って、女の子みたいなこと言うのね。じゃあ、そろそろ寝ようかな。明日もがんばってね。おやすみなさい」

 ちさきとは真逆の、心配で眉を寄せた悲しげな表情だということは、ちさきは考えもしないだろう。

『おやすみ、ちさき』

 名残惜しくも受話器をそっと置く。

 あと少しで大学生の一足早い夏休みがやってくる。そうしたら、しばらくは一緒にいられるんだと、ちさきは一人で頬を赤くするのだった。

「俺には代わってくれなかったのか?」

 急に後ろから声がした。

 そこには木原勇、紡の祖父がいた。

「え、あっ! お、おじいちゃん。ごめんね、代わればよかった・・・・・・」

「いや、いいんだ。元気そうか?」

「うん。休みの日まで研究に費やしてるみたい。いきいきしてたよ」

「そうか」

「夏休み、帰ってきてくれるの楽しみだね。ごちそう用意するから、リクエストがあったら言ってね」

「あぁ、考えておく。おやすみ」

「おやすみなさい、おじいちゃん」

 週末まであと少し。

 高校を卒業してから遠出をする機会がなかったから、わくわくしながらベッドの中でまぶたを閉じる。紡が一緒に行けないのは残念だけれど。

 あ、てるてる坊主、作った方がいいかな。

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