凪のあすから Another story ~狭山のあすから~ 作:ひとみらくる
財布から出したチケットを配る。
「ほい、これ中学生組の無料チケットな」
「わーい、狭山くんありがとう」
「わりぃな、狭山」
「今度、狭山のお父さんにもお礼言わなきゃだね」
四人のやりとりを横目に、ちさきが財布を取り出そうとしたところで狭山がそれを止めた。
「ちさきの分は俺がおごるって言ったろ」
「え、そんな、けっこう高いし・・・・・・」
「誘ったのは俺なんだから遠慮すんなって」
「でも」
「いいって。代わりに、今後もサヤマートをひいきにしてくれよ」
「うーん、分かった。狭山くん、ありがとうね。お言葉に甘えさせてもらいます」
ちさきが狭山に、はにかんだ笑顔を向けたところで光が冷やかしてくる。
「なに狭山、下心?」
図星です。
「ちげーよ! 紳士な俺だよ」
「え、紳士がどこにいるって?」
「はい光の分のチケット没収」
一連のやりとりをしながら五人はゲートをくぐる。
さっそくまなかが園内マップを指差しながら目を輝かせている。
「けっこう海水の設置場所が多いから、エナが乾かなくて済むね。ねぇねぇ、まずは水族館の方行ってみたいなぁ」
「はぁ? 魚なんて毎日見てんじゃん」
「ひぃくん、シシオじゃイルカは見られないでしょ。わたしイルカが見たいの」
「あ、イルカは僕も見たいな」
「さすが要。ほら、ひぃくんもイルカ、見たいでしょ?」
「だー、もうしょうがねぇな。まなかが迷子にならないように見張っててやるよ」
「やったぁ。ちぃちゃん、狭山くん、一番最初はイルカイルカ」
少し離れたところで歩いているちさきと狭山を手招きしつつ、人混みの中を進んでいく。
そんな中学生組を見つめながらちさきがつぶやく。
「元気だなぁ。まなかたち」
「ちさきだって本当はあいつらみてーにはしゃぎたいんじゃねーの?」
「そ、そんなことないよ。私だって、もうハタチなんだから・・・・・・」
「なんだよ、無理すんなよ。俺はちさきにも楽しんでもらいたいんですけど」
「狭山くん・・・・・・」
「あいつら早いからいそがねーと。のんびり歩いてると、はぐれちまうぞ」
ちさきのテンションを上げようと、狭山が先に早足で光たちを追う。
「あ、待ってってば」
それを追いかけるちさきの表情は、ついさっきよりもキラキラしていた。
◇
シーパークは遊園地と水族館が一緒のテーマパークで、どちらも極端に大きいわけではない。
水族館の方は、いくつもの小さい水槽コーナーの次はふれあい水槽、海洋ごとに分けたメイン水槽、そしてイルカのプール。
そう長くはない距離を早足で進み、すぐに目的のイルカプールまでやってきた。イルカプールは簡易的な屋根が取り付けてあるだけの屋外にある。扇状にイスが設置してあり、時間ごとにイルカのショーが行われるようだ。
ぬるい風が頬をかすめていく。
先に到着していた中学生組が、すでにイルカプールの最前列を陣取っていた。やっと追いついたちさきに 、指をさしながら光が話しかける。
「今日一番迷子になりそうなの、ちさきだな」
「みんなが早すぎるのよ」
ちさきが頬をふくらませたところで、まなかと要が言う。
「ちぃちゃん、イルカ、たくさんいるよ。みんなかわいいねぇ」
「あと十分くらいでショーの時間みたいだよ」
「まったく、イルカでそんなに目を輝かせるのは小学生とお前達ぐらいじゃね」
冷めたツッコミをしたにも関わらず、イルカのジャンプや泳ぎに一番興奮していたのは狭山だった。