彼岸の花   作:かんべ~

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第3話 流魂街の異変―弐―

「はぁ、空木(うつぎ)さん大丈夫かなぁ」

 霊圧を感知して調査に向かった空木を心配しながら、山田花太郎(やまだはなたろう)は治療の任務をこなしていく。一応町なだけあって、多少の自衛機能があるらしく、先に回ってきていた村に比べれば負傷者の数も少ない。

「……よしっと、これで大丈夫です」

 最後の町民の治療を終え、地医療道具や薬品等の片づけをしていると、花太郎の前に小さな女の子がやって来た。

「どうしたの……って! 傷だらけじゃないか。今治してあげるからちょっと待っててね」

 あちらこちらに傷のある少女に驚いた花太郎だったが、とにかく治療をしようと、少女を治療に使っていた椅子に座らせ、傷の消毒を始めていく。

「もう大丈夫だ――」

「死神のお兄ちゃん!」

「はいぃっ!」

 突然の大声にかざしていた瓢丸(ひさごまる)を落としそうになる花太郎に、少女は目に涙を浮かべながら懇願する。

「お願い! お姉ちゃんを助けて!」

 

 

 

―Warfare Encounter―

 

 

 廃寺の境内を眼下に収めた空木は驚愕する。そこには、無数に転がる死体とどこかで攫って(さら)きたのだろう娘を、今まさに切らんとする一人の男の姿あった。

(やらせるか!)

 境内に着地と同時に瞬歩で間合いを詰める。娘に向かって振り下ろされる刀と娘の間に入り込んだ空木は、斬魄刀を抜き打ちおろしてくる刀を防ぐと、すかさず娘を抱き再び瞬歩で間合いを外す。

「怪我はないか?」

 恐怖で引き攣っているのだろう、声が出せない娘はゆっくりと首を上下に降る。――そうか、安心させるように笑顔をみせた空木は、ゆっくり娘を降ろし頭をぽんぽんと撫でる。

「すぐ済むから、ちょっと待ってろ」

 そう言って空木はすぐさま、男の前へと向かう。その様は娘の目には瞬間移動してるようにしか見えないだろう。

 

 ――酷い有様だな。

 境内には無数の死体が転がっていて、血と死臭の入り混じった異様な臭いが立ち込めている。

(しかし……。妙だ、死体の損傷が激しすぎる)

 空木が懸念するように、境内に散らばる死体はどれもひどく損傷している。目の前にいる男の体格と持っている刀から鑑みればどうにも腑に落ちない。

「おい、これはお前がやったのか」

 空木は男に問いかけるが返答は返ってこない。唸り声のような奇声を時折発しているだけで、男の視線は宙を彷徨い、体はだらしくなく弛緩している。明らかに目の前の男は異常である。

「野盗が、変な薬でも使って同士討ちでもしたって所か――!」

「……あ……あぁ。……うぅぅぅぐるぁああ」

 無防備に立っていた男が、突如奇声と共に空木へとの間合いを詰め刀を横薙ぎに力任せに振りぬく。

「――早い!」

 男の刀を斬魄刀で受け止める。

 ――何!

 予想外の斬撃の重さに、空木はそのまま横へ飛ばされ二回転程地面を転がる。しかしすぐさま受け身を取り立ち上がると油断なく斬魄刀を構える。

 今の斬撃を受けた衝撃で、斬魄刀を握っていた左手に痺れが残っている。

(やはり、おかしい。一介の野盗程度の力じゃない)

 予想通り何かの薬の影響か、明らかに異常な男への認識を改めた空木は、一つ息を吐き霊圧を高める。

 

「何やったのかは知らねえが、そんなドーピング野郎には負けられねえなあ!」

 瞬歩により、男との間合いを殺した空木は、(ふところ)に入り込み逆袈裟(ぎゃくけさ)に切り上げる。そしてすぐさま刃を返し、切り上げた反対の肩口から袈裟切りに切り下す。高速で行われた一連の斬撃に男は反応することも出来ず、一拍の後体に赤い十字の傷を浮かび上がらせる。

「ぐぅぅううう」

 男は斬撃の衝撃でたたらを踏むものの、斬られたことなどお構いなしに刀を振り下ろす。

 空木はそれを体を捻って躱し(かわ)、そのまま男の脇腹を斬りながら横へ抜ける。すぐさま追い打ちをかける為、その場で半回転した空木はよろめく男の両(もも)、両前腕を連続で斬りつける。四肢から鮮血が舞うが男は意に介さないとばかりに再び空木へと斬りかかる。

「くっ、浅かったか」

 力任せに斬りかかる男の刀を斬魄刀で受けながら、自分の斬撃が思った程ダメージを与えてない事に訝しむ(いぶか)

(普通なら、動かせなくなる程度には深く斬ったはずだ。何故こいつは平然としていられる?)

 

「ぐるぁあああ!」

「しまっ――!」

 思考に気を取られた一瞬、防御が遅れた空木を男は横一閃に斬り飛ばそうとする。

(間に合わない!)

 

――は、破道の一『(しょう)』!

 衝撃波が男の手に直撃し、刀の軌道が逸れる。空木はその隙を見逃さず一旦間合いをとり、先程の声がした方を振り向く。

「花太郎!」

 寺の門の所に、小さな女の子を連れた山田花太郎がいたのだった。

「……あ、ぁぁああああ!」

 男も花太郎に気付いたのだろう、空木を無視して花太郎へと襲い掛かる。

「う、うわぁああ!」

「きゃぁああ!」

「行かせるか! 縛道の四『這縄(はいなわ)』」

 霊子で出来た縄で男の腕をからめ捕り動きを止める。

「花太郎! 今の内にあの本殿に走れ! そこに捕まっていた女の子がいる。二人まとめて守ってろ!」

「は、はぃいいい!」

「お前の相手はこっちだ!」

 

 這縄を一気に手前に引くと同時に間合いを詰める。よろけながらも刀を振るう男と切り結ぶ。一合、二合、三合――。

 四合目、――キィンと甲高い音と共に、男の刀が二つに折れる。力任せに振るう男の力に耐えられなかったのだろう。

 男の動きが一瞬止まる。しかし、空木にとってはそのわずか一瞬で十分であった。霊力を瞬間的に高め、瞬発力を引き上げる。

「……腕一本、我慢してくれよ」

 切り上げ一閃。男の体から離れた右腕が、弧を描き後方の地面に落下する。

「ぐぅううおおおおおおお!」

 男の悶絶の声が上がると同時に、切断された腕から血渋きが飛び散る。

「縛道の六十一『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

 間髪入れずに光の帯で男を拘束し、動きを封じる。とりあえず、これで花太郎を呼んでも大丈夫だろう。早く処置をしないと、失血で死んでしまう。

「花太郎! もう大丈夫だ。こっち来て応急処置を頼むわ!」

 本殿にいる花太郎へ呼びかける。壁の影から顔を出した花太郎が駆け寄る。その後ろからは、先程助けた娘と花太郎と一緒に来た女の子も付いて来ている。

 完全に男を背に花太郎の方を振り向いた空木は、右肩をぐるぐる回し霊圧を落ち着かせながら花太郎に目をやると、そこには青ざめ顔で立ちすくむ三人の姿があった。――本気かよ! 首筋が霊圧でちりつく、何事か瞬時に感じた空木は振り返る。

 先程まで地面に倒れていたはずが幽鬼の様に立ち上がり、空木達を焦点の合っていない双眸で見つめている。

「……うぅぅ……ぐがっぁ……」

 男の目が血走り、体中に血管が浮走る。

「――! まずい、伏せろおおお!」

 それを感じたのは空木の本能か、迷うことなく花太郎達の元へ駆け寄った。

「縛道の三十九『円閘扇(えんこうせん)』!」

 かざした両手に円形の防御壁が現れる。――刹那。

 男の体が倍ほどに膨れ、爆発。激しい爆風と男の全霊力を糧とした炎が廃寺全体に吹き荒れる。時間にすればほんの数秒の事であるが、周辺を破壊、焼き尽くすには十分な威力であった。

 

 爆発による煙が晴れていくなか、花太郎はゆっくり目を開ける。空木の叫び声でとっさに二人を庇うように伏せたが、あの子達は大丈夫だろうか。

 体をそっと起こした花太郎の下で、娘たちは強く体を寄せ合いうずくまっていた。恐怖で震え、爆風で埃まみれになってはいたが、どうやら問題はなさそうだ。

「二人とも、もう大丈夫だよ」

 優しくかけられた声に二人は恐る恐る体を起こす。

「……あ、あの、ありが、とう、ございます。……その、もう、一人の死神さんは?」

(もう一人の死神さん? ――!)

 弾かれたように後ろを振り返る。そこには三人に背を向け片膝をついたままの空木の姿があった。

「空木さん! 大丈夫ですか!?」

「……なんとかな。お前らは怪我とかは無いか」

 空木は立ち上がり、死覇装の埃を払う。鬼道を使う際に手放していた自身の斬魄刀を拾うと、一振り振り払い手元で一回転させ納刀する。

 他にも異変が無いか、霊圧の感知に一時集中してみるがこれといって異常はなさそうであった。

「花太郎、もう治療は終わったのか?」

「はい、町の皆さんの治療は終わりました」

「そうか。んじゃあ俺らも帰るとするか」

 そう言って、空木は体を伸ばす。そして、ふと気づいたように後ろにいる小さな女の子に振り返る。

 

「……ところで、その女の子は誰?」

  

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