彼岸の花   作:かんべ~

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第4話 流魂街の異変―参―

「――以上が、今回の任務の詳細な報告です」

 空木達が任務から帰隊した翌日の護廷十三隊四番隊隊長室。現在ここには、四番隊隊長『卯ノ花烈(うのはなれつ)』を筆頭に同隊副隊長『虎徹勇音(こてついさね)』同隊三席『伊江村八十千和(いえむらやそちか)』三席次官『空木総一郎(うつぎそういちろう)』七席『山田花太郎(やまだはなたろう)』が在室している。

 数刻前に帰隊した空木と花太郎の任務の完了報告の為、以上の五名が集まっていた。

 空木達がまとめ上げた報告書を読み上げた伊江村が、卯ノ花へ報告書を提出し一歩下がる。受け取った卯ノ花は確認の為今一度報告書に目を通すと、空木と花太郎の二人へ視線を向ける。

「空木三席次官、山田七席。今回の任務ご苦労様でした。詳細は私の方から山本総隊長に報告しておきます」

 卯ノ花は二人の労をねぎらうと、虎徹勇音へと視線を向ける。

「……では、次の話しに移りましょうか。勇音、彼女たちをここへ」

「はい、わかりました」

 勇音が部屋を出て数分、連れられて来たのは空木達が助けたあの少女達だった。

 死神が五人もいる状況にさすがに緊張しているのだろう。少女たちはおぼつかない足取りで勇音の後に続き、卯ノ花の前に出る。

「今回は大変でしたね。私は卯ノ花烈といいます。貴女達の名前を聞かせてもらえますか」

 穏やかな口調で少女たちに質問する。

 少女達は、卯ノ花の表情に多少の安堵を覚えたのだろう。おそるおそるといった感じで自分の名前を卯ノ花達に伝える。

「……あの、私は……『(かえで)』です」

「『紅葉(もみじ)』……です」

「楓と紅葉ですか……。よい名前ですね」

 微笑む卯ノ花に少女達もぎこちないながらも笑みを返す。

 二人の緊張が少し解れたと感じた卯ノ花は、いくつか少女達に質問をしていく。

「貴女達は、姉妹ですか?」

「いえ、……青鈍(あおにび)の町で、同じ位の年の子達数人で集まって生活していました」

 ……流魂街ではよくある話だ。卯ノ花も別段驚いた様子もなく、楓の話を聞いている。

「成程、では他の皆さんの行方は分かりますか」

 楓の顔が曇る。――そういう事か。ここにいる者達は、楓達が話すまでもなく現状を理解した。

「……皆、……殺されました」

 紅葉が更に強く楓の手を握る。二人の肩が小刻みに震えている。

 どこから鼻をすする音が聞こえる。空木が横を見ると勇音が涙をこらえている様が見えた。

 勇音が二人へとしゃがみこみ、ゆっくりと抱えるように肩を抱く。

「頑張ったんだね。……もう、大丈夫だよ」

「う……ぐすっ……うぁぁあああん」

 堰を切ったように少女達は勇音の懐に顔をうずめ泣き出した。空木達はしばし、その姿を眺める。空木の後ろで伊江村が涙を拭いている気配がするが黙っておこう。空木は苦笑いを浮かべた。

 

「さて、楓さん紅葉さん。貴女達の今後についてお話ししなければなりません」

 二人が落ち着くのを見計らい卯ノ花が話し出す。

 二人に再び緊張が走る。当然だろう、身寄りの無い二人の事、これからの未来など何も想像できるはずがない。せめて二人離れる事がないように願うだけだろう。それは、空木にしても同じ事。少女達がこれからも離れる事なく過ごしてくれればそれが一番良いことだと思うのだった。

 

「お二人はこれから――」

 

 

 

― From this the girls ―

 

 

 

「お待たせしましたー。白玉餡蜜ですー」

 明るい間延びした店員の声が店内に響く。四人掛けの座卓に座る楓と紅葉の前にキラキラと輝く白玉餡蜜を一つずつ置いていく。――ごゆっくりー。お決まりの文句を言い終えた店員は店の奥へと姿を消す。

「……あ、あの、……これは」

 おずおずと上目使いに楓が目の前に座る二人へと尋ねる。

「……気にすんな、とりあえず食え」

「そうだよー、これは、楓ちゃんと紅葉ちゃんのだから遠慮しないで食べてねー」

 二人の目の前、ニコニコと笑顔を見せる長身の女性、虎徹勇音と憮然とした表情の男性、空木総一郎がそれぞれ楓に答える。

 

「は、はあ。あの、それじゃあ、その……い、頂きます」

「いただきまーす!」

 楓と紅葉はそれぞれにぺこりとお辞儀をして餡蜜へと匙を入れる。

「――! おいしい!」

「……甘くて……美味しいです」

 

 高揚した二人の表情をニコニコと眺める勇音と、しょうがないなあと薄く笑う空木。ようやく子供らしい笑顔を見せた二人に、まあこのくらいの出費は良いかと感じていた――。

「お待たせしましたー。特上宇治金時ですー」

「あ、はーい! 私で――」

「ちょっと待てー!」

 勇音の前に置かれた甘味に空木は盛大に突っ込みをいれる。

「もー何ですか空木さん、楓ちゃんも紅葉ちゃんもびっくりしてるじゃないですか」

 はっ、と二人を見ると確かに二人とも驚いて、食べる手を止めていた。

「んんっ、二人は気にしないで食べていていいからな」

 そう言って二人を促す。再び食べ始めるのを見て空木はふうっと息をはく。

「じゃあ、頂きま――」

「勇音、てめえはダメだ」

「えー、何でですかーせっかく空木さんの奢りなんですからー」

「誰もお前に奢るなんて言ってねえよ! しかも特上なんて頼みやがって!」

「もう、小さいですよー空木さん」

「なっ! 小さくなんてねえよ!」

「おいしいね! 楓お姉ちゃん!」

「……うん、そうだね。……美味しいね」

 

「あれえ、勇音じゃない」

 喧噪とほのぼのが同居している一角に向かって、店の入り口から声がかかる。――ん?と空木と勇音が振り返ると先程の声の主である女性、『松本乱菊(まつもとらんぎく)』がこちらに向かって歩いて来ていた。

 空木達の前に来た乱菊は空木達と楓達を交互に見ると、面白いものを見つけた様ににんまりと笑う。

「なあに勇音、家族でお出かけ中?」

  ボンっと音が聞こえそうな位に一気に勇音の顔が赤くなる。

「な、なな何言ってるんですか乱菊さん! これは、あの、そのですね」

 しどろもどろに答える勇音を見て、空木は呆れるようにため息をつく。この店につく前にも、顔見知りの死神達に同じ様にからかわれていたのに、まったく免疫が出来ていない。

()()()()()、あまり勇音をからかわないで下さいよ」

「えー、これからが楽しいのにー」

 悪びれる様子もなく乱菊は悪戯っぽく笑う。

「で、この子達は?」

「この前の任務の時に保護した子達ですよ」

「へえ、空木さんがあ」

 ――松本ぉ! 何処いったあ!

 店の外から乱菊を呼ぶ声が聞こえる。――もう終わりかあ。乱菊は肩を落としながら空木達に別れを告げる。

「隊長が呼んでるし――。じゃあねえ勇音、空木さん。――おちびちゃん達も」

「ったくあいつは。ほら、お前たちもぼーっとしてると俺が食っちまうぞ」 

 嵐のように去って行った乱菊をポカンと見つめていた楓と紅葉は、空木の声で我に返り食べ始める。

 その姿をにこやかに見つめる空木の横で、勇音は未だにぶつぶつと何か弁明していた。

 

 ――西流魂街一地区『潤林安(じゅんりんあん)』。瀞霊廷に隣接する流魂街で、最も治安の良い地区の一つである。空木達四人は、潤林安にある四番隊直轄の養生所(ようじょうしょ)へ来ていた。

 ここは、四番隊の席官以下の隊員達が持ち回りで滞在し運営している救護施設である。

「すいません。所長はどちらに」

 受付にいた隊員に勇音が声をかける。受付の隊員は始めは副隊長の来所に驚きはしたものの、すぐさま所長を呼びに席を立った。

「お待たせしてすみません。虎徹副隊長殿、空木三席次官殿」

 しばらくしてやって来たのは、幾分年を重ねた妙齢の女性だった。彼女に勇音は卯ノ花より預かった手紙を渡す。

「……なるほど。事情はわかりました」

 手紙を読み終えた所長は、勇音にそう告げると楓と紅葉の方へ体を向ける。

 自分達に視線を向けられ緊張で強張る楓と紅葉。フォローするように空木が二人へ声をかける。

「これからお世話になる場所の一番偉い人だ。ちゃんと挨拶しろよ」

「……あ、あの。……楓といいます。……これから、よろしくお願い、します」

「紅葉です! い、一生懸命頑張ります!」

 それぞれの挨拶を聞いていた所長は、二人をじっと見つめる。全てを見られているような居心地の悪さに二人は勇音へと救援の視線を向けるが、勇音は大丈夫だよと優しい笑みを返すだけだった。

「……八重久野(やえひさの)といいます。これから貴女達にはしっかり働いてもらいますので、そのつもりで」

「「がんばります!」」

 二人の決意のこもった返事は、八重に笑みを浮かべさせるのに十分なものだった。

 

「……空木さん、……本当にありがとうございました」

 養生所で別れる際、楓は空木に深く頭を下げる。

 空木は二人に視線を合わせ、交互に二人の頭をポンポンと撫でる。

「気にすんな。……お前たちはこれから頑張るんだぞ。俺もちょくちょく顔出すからよ」

 そう言って、勇音と隊舎へ戻ろうとすると紅葉が空木を呼ぶ。

「あの、小さいお兄ちゃんにもありがとうって伝えてね!」

 ――おう、必ず伝えておいてやる。振り返りながら空木は約束する。

 

「お姉ちゃん、がんばろうね!」

「……そう、だね。……一緒に、がんばろう」

 空木達を見送る二人、繋いだ手はこれから離れる事がないようにと強くしっかりと結ばれていた。

 

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