――東流魂街三十二地区『
丑の初刻(午前一時)、漆黒の闇の中を蠢く一つの影があった。幸か不幸かこの日は新月の為月明かりさえ届かない。
昨日の戦闘の跡が生々しく残る廃寺。ここに先程の影の主である
あの男の謎の爆発によって、地面は抉れそこかしこに転がっていた死体もあらかた燃え尽きた。わずかに残っていた死体も、町の住民で処理をしたのだろう。空木の周辺に生物の痕跡たるものは何もなかった。
「綺麗さっぱり何にも残ってねえや」
ぽりぽりと後ろ頭を掻きながら、空木はつぶやく。一通り見て回った空木だったが、特にこれといったものも見つける事が出来なかった。
「しゃあねえ、やっぱこっちしかないか」
その場に座り込んだ空木は、目を閉じ集中する。まだわずかに残っているかもしれない霊子を探すため霊力を網の目の様に張り巡らせるイメージで、探査範囲を広げていく。
(くそ、やっぱ大分時間が経ってるからな、霊子がほとんど昇華しちまっている)
――深く、深く――更に深く。冷たい夜の冷気と混じり合う様に緻密に――。
(――! 見つけた!)
ほんの僅かな霊子の残りカス。しかし空木にとってはそれで十分であった。丁寧にしかし霊子が昇華してしまわない様に迅速に、空木がこれまで感じ取ってききた霊圧と照合していく。――そして、
「やっぱり、お前が絡んでいるのか――」
――今夜は月も見えませんか。
四番隊隊長室に一人、
一口お茶を含み、ホウっと息を吐く卯ノ花の姿は艶やかな色香を漂わせていた。
「……夜更けにあまり女を待たせるものではありませんよ」
誰となくささやいた言葉に、男の声色が返る。
「それは悪かったな。……ちょっと野暮用があったものでよ」
窓から外を眺めていた卯ノ花が振り返ると、そこには空木の姿があった。
「そうですか。それで、……その野暮用は終わったのですか
隊長席に座りなおした卯ノ花を見て、空木は卯ノ花の隣へと歩みよる。
「ああ、おかげさまで――。お前を待たせた甲斐はあった」
そう言って、空木はそっと卯ノ花へ顔を近づける。卯ノ花の潤んだ
――予想は的中だ。
卯ノ花の耳元で囁く。
「間違いないのですか」
「俺が……あいつの霊圧を間違えるはずがない」
「そうですか。……やはり関わっていたのですね」
机においていた湯呑へと視線を落とした卯ノ花は呟く。
チリチリと揺らめく行燈の灯りが、無音の空間に二人の濃影を映し出す。
「総一郎、この件は貴方にまかせます」
「……ああ。わかっている」
空木がもし今、卯ノ花の顔を見ていたなら、彼女の
夜の密度は増し、静寂が我が物顔で時間を支配していく。
チリチリと揺らめく行燈の灯りが、静寂の空間に一つの濃影を映し出す。
――今夜は月が見えないな。
「ああ、だがお前の姿ははっきり見えたぜ――」