つまり、暇で暇でどうしようもない方のみお読みください。
人通りの多い道に面したオープンカフェのとある席。俺はそこで見知らぬ美女と向かい合って座っていた。
「私はアイスティーを。ほら、君も早く決めるといい」
いつの間にか現れたウエイターに今しがた注文を済ませた美女は俺にメニュー表を突き出してきた。それを受け取り、そこに記された品目に目を通す。そこにはコーヒー、紅茶、オレンジジュースといった喫茶店でよく見かける名前が、等間隔に縦一列で並べられていた。が、メニュー表の隅々まで探しても値段を示す表記が見つからない。
「細かいことは気にせずに飲みたいものを飲むといい」
気になって対面に座る美女に聞いてみたが何故かはぐらかされた。不審に思いながらも傍らで待機していたウエイターにオレンジジュースを注文する。注文を受けたウエイターは恭しく一礼をすると店内に入って行った。それと入れ替わるように店内から出てきた別のウエイターがアイスティーとオレンジジュースを俺達の座るテーブルに置き、また一礼をして店内に戻っていった。いくらなんでも早すぎやしないか?
「まあいろいろ思うこともあるとは思うが、とりあえず飲むといい」
そう言って美女は彼女の手元に置かれたグラスに差し込まれているストローを咥えた。それにならい、俺も自分の手元に置かれたグラスに差し込まれているストローを咥える。軽く吸うと、口いっぱいにオレンジ特有のさわやかな酸味とほんのりとした甘さが口の中に溶け込んでいった。
「うまいだろう? このカフェの飲み物はどれもうまいんだ」
美女は右手で頬杖をつきながら悪戯っぽい笑みを浮かべながらどこか誇らしげにそう言った。
なるほど、たしかにうまい。俺は今まで飲んだオレンジジュースの中でこれと同じぐらいうまいオレンジジュースを飲んだことはない。
だが。
「どういうことだ?」
「なにが?」
「とぼけるのか?」
「…………驚いた、覚えているとはね」
「そう簡単に忘れられるとは思わないけどな、あんな衝撃的なこと」
「……まあ、それもそうか」
美女はまたストローを咥えた。
氷がグラスに当たって出た、カランという音が音のない世界に響いた。
「それで、死人の俺に何の用だ?」
「なに、大したことじゃない。君に転生してもらおうと思ってね」
「転生? 仏教のか?」
「そうだよ。あの転生だ。いわゆる、神様転生ってやつだよ」
長い歴史の中で戦争やらなんやら色々あったわけだが、結局正しかったのは仏教だったようだ。
「いや、それは違うよ。正しい宗教なんてものは世界中のどこを探したって存在しない」
「辛辣だな」
「まあ、神だからね」
「それにしてはずいぶんと世俗的なところに住んでいるんだな」
「好きなんだよ、そういうのが」
「へえ。でもいい趣味してると思うぜ。ヨーロッパのオープンカフェをモデルにしてる辺りが特に」
「まあ、神だからね」
カランッという音が再び、音の無い世界に響いた。音の発信源を見てみると、先ほどまでアイスティーが入っていたグラスが空になっていた。
「さて、そろそろ君を送るとしよう」
「どこへ?」
「次の世界へだよ」
そう言って女神は伝票を差し出した。受け取った伝票を見てみると、品目の名前だけが左詰めで縦一列にならんでいた。
「これは?」
「それをあそこにいるウエイターに見せてから店内に入るといい。そうすればこの先どこかで得をする」
女神の指差した方には、先ほど注文を取りに来たウエイターが店内への入り口の扉のすぐそばで佇んでいた。
「わかった。それじゃあ、また」
「次はアイスティーを頼むといい。あれは私のオススメなんだ」
「ああ、そうさせてもらうよ。じゃあな、神様」
「ああ、さらばだ人の子。次の世界では君が世界を受け入れられる事を祈ってるよ」
女神の手から伝票を受け取り、立ち上がる。
普段よりも心なしか軽く感じる足が店の入り口の前でその動きを止めた。
すぐ横にいるウエイターに伝票を渡す。ウエイターはなにも言わずに伝票を受け取り、丸めて口に含み、飲みこむと、恭しく頭を下げた。
もう一度女神の方を見たが、先ほどまで座っていたテーブルには誰の姿もなかった。
振りかえり、扉と向き合う。扉は何の変哲もない木製の扉だった。
俺は震える手で扉のノブを掴み、押した。
個人的に神様転生って大好きだったりする。あれを最初に考え付いた人は間違いなく天才だと思うんだ。
そんなこんなで第一話。作者の技量が足りないため、一話一話の長さはだいたいこんなもんだと思う。
誤字とか脱字とか改善点とかがあったら教えてくれるとうれしいです。
ではまた次回。