NANAMI 作:鑢八茎
七実が暗部数人を殺した日から一週間程経ち、新たに七実の監視についていた暗部は何時の間にか消えていた。
「証拠なんて残すわけ無いもの。あなたもそう思うでしょ七花」
うちはの移住区の池の近くで七実は嘗ての弟の名を名付けた野良猫の顎を撫でながら呟く。猫は気持ち良いのかにゃーと一声鳴いた。と、その時一匹の蝶が飛んできて七花が追いかける。
「あ、こら七花」
そして池に落ちた。七実はもう、と呟きながら溺れている七花を引き上げ陸においてやる。
「全く。あなたのせいでずぶ濡れよ……気をつけなさい」
「にゃー」
七花が申し訳無さそうに鳴くと素直でよろしいと七実は頭を撫でてやった。
「………最近暑いし、この池の水も綺麗なようだからちょうど良いわ」
七実は濡れた服を確認し暫く考えた後そうつぶやくと近くの木の皮を素手で紐のように切ると別の木に結び服を吊す。火遁で火を起こし自身は池の中に入った。
蒸せるような熱気の中からヒンヤリした水の中に入り七実は思わずほぅ、とため息をはいた。
「昔なら、こんな事をしたらすぐに体調を崩してたわね」
病的なまでに白い肌を水滴が滴り、父母どちらにも似ない黒髪が濡れて艶を一層際立たせる。左腕の肌を濡らした右手の平で撫でながら不意に茂みを見つめる。
「アナタは誰でしょう?失礼ながら、覗きにしても対象が幼すぎると思いますが?」
「………驚いたな。気づいていたのか」
「ええ。未だ人を欲情させるほどではないとはいえ、女児の裸を見るのはどうかと思われますが?」
「そう思うなら、服を着てくれ………」
「あら、これはお目汚しを……」
茂みから現れたのは七実とは少し年の離れた少年。少年の指摘に七実は自分が裸だったことを思い出す。顔を逸らしている少年は見えないだろうが謝罪の一礼をして、池から上がると水遁の応用で肌と髪についていた水を落とし渇いている服を着直す。
「……大したモノだな。その年でそこまで忍術を……親に教えてもらったのか?」
「生憎。今世、私の最初の記憶は両親の死に顔でしたので」
「……すまん」
「謝られても……別に気にしていませんよ。所で、こんな幼子の水浴を覗いていたアナタは結局誰なのですか?」
「覗く気は無かった!これは本当だ。この近くに俺の修行場があって、珍しく人の気配がしたから………すまなかった」
七実としてはただからかっただけなのだがここまで素直に謝罪されるとからかう気も失せる。
「まあ良いでしょう。どうせ魅力に欠ける体ですし。それに、アナタがうちはだということはわかりましたしね」
「そういう君は、うちはの者じゃ無さそうだが何故ここへ?」
「七花……猫の縄張りがここなモノで。ね、七花」
「みゃあ」
七実が呼ぶと七花は七実の下まで走り寄った。
「そういえば、お名前を伺っても?あ、私はうずまき七実と言います。両親がいないので、一応は家長と言うことになるのでしょうか……」
「うずまき……?だとすると親は……ん?なら物心ついたのって………」
少年は七実の言葉に何か思い当たることがあるのか首を傾げ、次に何かに気づいたように目を見開く。目の前の少女はそんな少年の様子をただ観察していた。
「それで結局あなたの名前は?」
「あ、ああ……うちはイタチだ」
「ではイタチさん。私の裸をみた償いとして、七花の世話をお願いできますか?餌はあげているのですが野良だといつ死んでしまうか解らなくて」
「…………………」
「あ、断るのでしたらあなたが私の水浴を二分ほど見ていたことをバラします」
完全に脅しだ。しかもそうとうたちの悪い。
「………わかった」
「ありがとうございます。ほら、七花……イタチさんに付いてきなさい。これから毎日餌を運んでくれる奴隷程度に思えばいいから」
「にゃん!」
イタチはせめてこの猫が七実の言葉の殆どを理解せず、餌をくれる存在としてだけ捉えたことを祈った。