アクセル・ワールド ガーネットの輝き   作:ニヒト

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Anxiety 心配

「ふぃ~……」

 

 そんな声を無意識のうちに漏らしながら俺、風見(カザミ)俊弥(シュンヤ)はBBの仮想世界から現実世界へと帰還した。

 先ほどまでの殺伐とした雰囲気ではなく、いつも見慣れた青を基調とした自分の部屋の心地よさを感じつつ目の前の様子を確認する。

 その目の前には俺と同じく意識が戻った様子の長い黒髪の少女と、いつも見慣れた茶色のセミロングの二人の女子がいた。

 俺の視線に気付いたのか、俺の妹である(ツカサ)がニヤニヤしながらこっちを見てくる。

 

「なぁに兄ちゃん、あたしらをじろじろ見てきて。もしかしてあたしの魅力に圧倒されて惚れちゃった?」

「あほ、残念系美少女に惚れるほど俺は落ちぶれてない」

「兄ちゃんひどい!那澄ちゃんのこといじめないでよ!」

「…え、うち?」

「那澄が該当するのは美少女だけだ。残念系には該当しねぇよ」

「何故だ!?あたしと那澄ちゃんの間に、そんな差はないはず!」

「そういう所が残念だって言ってるんだよ、自覚しろ」

 

 そう弁明すると、何故かもう一人の帰還者である斑鳩(イカルガ)那澄(ナスミ)は頬を朱に染めながら両頬に手を当てうっとりとした表情を作り出していた。

 

「そんな……まさかシュンさんが告白してくれるなんて……」

「あぁ、また那澄の乙女スイッチが入っちまった。俺はただ"美少女"って言っただけなのに……どうしよ」

「お~い、那澄ちゃ~ん?戻ってこ~い」

「えへへ~」

「あ、これは重傷だね」

 

 そんな感じで明るく戯れ合っていたが、少し雰囲気を真面目モードにしつつ会議を始めようとする。

 が、万が一うちの母親(別の部屋で作業中)に聞かれてしまう可能性が否めないため、ニューロリンカーの機能のひとつである≪思考発声≫によって会話を始める。

 

 

 ニューロリンカー─そう呼ばれる通信端末が登場したのが15年前の2030年、俺の生まれる前の年のことだ。

 これは人間の首に装着する通信端末であり、現在では旧時代の≪ケイタイデンワ≫なる通信端末のように一人一台に普及している。

 この端末により、脳細胞と無線通信を行うことで仮想空間を体験したり、医療の現場でも健康のチェックに利用されるなど多方面の活躍がされている。

 今俺の首に装着されている暗い赤のニューロリンカーも俺が生まれつき体が弱かったために、出生直後からの付き合いだ。

 そのおかげで身体のチェックを逐一行えたり、体を動かす際のアシストによって日常生活に支障がないくらいの動きが出きるようになっている。

 実際にはさっきまでの様にそれ以外の用途でも使用しているが、それは今現在では俺と士と那澄三人だけの秘密だ。

 

『(で?どうだった?初めて二人でエネミーを狩ってみた感想は)』

『(キツかったに決まってるでしょ……兄ちゃんと違って、あたしと那澄ちゃんはまだレベル5と4なんだし)』

『(それにシュンさんは遠距離型で攻撃力があるのに、うちと士ちゃんは間接と防御だから攻撃力は低い、ないしはゼロに等しいし……)』

 

 どうやら自分たちのアバターの攻撃力が低いことを気にしていたらしい。別にそれが個性なんだから関係ないと思うが。

 俺は慰めるつもりで二人に手を伸ばし、両手で頭を撫でる。

 

『(でも俺はよくやったと思うよ?初めてにしてはなかなか上出来だった)』

『(え、えへへ、そ、そうかな?)』

『(あぁ、頭を撫でられるなんて……これが愛の営みなのですね)』

『(いや、違うから)』

 

 那澄が憮然とした表情をこちらに見せてくるが、経験上スルーしておくに限る。

 他愛もない話しつつ、俺は思考発声にならないように一人で頭の中を巡らせる。

 

 先ほどの狩りでは、俺が長エネミーを倒した後に再び様子を見に行ったらかなり苦戦して二人共息がかなりあがっていた。

 結局俺がアシストでエネミーの足を止めて二人がトドメをさすという感じで収まった。

 まぁ、通常ソロでエネミーを狩る際は≪ハイランカー≫と呼ばれる部類(この部類には俺も含まれる)になりたての奴でも苦戦する位のレベルだし。

 那澄はおろか、士でさえまだのハイランカーの部類には入れるのはまだ先の事になるだろう。

 だから俺が今までは率先して前に出てエネミーに攻撃をして、二人には基本的に後方からの支援をしてもらっていた。

 

(だからこそ、俺が手助けできない状態になったら二人はどうなってしまう?)

 

 さっき言ったように、この二人のアバターはお世辞にも攻撃に向いてるとは言えない。

 もし今後二人でエネミーを狩るような事態になってしまった場合、そして可能性としては低いが強力なアバターに襲われたら……。

 一人でぐるぐると頭を回転させていたとき、ふと那澄の薄い黄色のニューロリンカーに目がいく。

 そしてある方法を思いつき、その事を話すため二人に声をかける。

 

「二人とも、ちょっと提案があるんだが」

『はい?』

 

 急に思考発声では無く、自分の口から言葉を発したのが不思議だったのか、心底不思議そうな顔をする那澄。

 士も驚いたのか、丸い目を大きく見開きこちらを注目してくる。

 

「那澄、『子』を作ってみるか?」

 

 その言葉を口にした途端、頬に衝撃を受けながら俺の意識は途絶えた。


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