昼休憩の時間
生徒が足早に教室を出ていく流れに乗り俺は一度図書室に寄り、上級生の教室を避けながら校舎の屋上に向かう。
俺の通う私立城ヶ崎大附属学校はこの近辺でも有数の名門校で、全国各地に姉妹校を持つ超進学校だ。
そんな格式のある学校ではあるが、校風はかなり自由で生徒を第一に考えている。
今向かっている屋上もその一つで、生徒のリフレッシュの為にテラスの様な構造になっており昼休憩等の時間には沢山の生徒で賑わう。
屋上に到着しテラスを眺め、士と那澄の姿を確認し二人の座っているテーブル近づく。
「兄ちゃん遅い!昼休みになったらすぐに来るように行ったのは誰だっけ!?」
「ごめん、ちょっと本の返却行ってから三年の教室通らないようにしてたから」
「あ~、もしかしてそれって中等部の生徒会長さんに見つからんため?」
「そう……昨日修学旅行から帰ってきて絶対に絡んでくるからな~。もし俺が三年になってもあの人高等部に行くから結局は弄られるけど」
「そんなん理由になるかあああああ!美少女二人を待たせておいて、それだけで済むと思うなよっ!」
「まぁまぁ、士ちゃん落ち着きなって。もし会長さんに見つかったら、またシュンさん女装させられてたんだよ?:
「そうだそうだ、俺だってもうあんなカッコしたくないんだよ。士は那澄位のおおらかな心を持ちなさい」
「ぐぬぬ……!那澄ちゃんめぇ……そういうところでポイント稼いでるのかっ!」
士が歯をギリギリしながらこちらを見てくるが、この際無視!いちいち反応してたらこっちが疲れるし。
そういえば話の中にもちょっとあったが俺はこの学校の中等部の二年生、対する士と那澄はこう見えてまだ初等部の六年生だ。
そして何故初等部である士と那澄が中等部の校舎屋上にいるのか。
それはこの学校の校舎が初等部から高等部まで、ちょうど漢字の『((日)』の様な構造によって繋がっているからだ。
理由としては、年齢という垣根のない交流を目的としている…らしい。
まぁ、私立だからこその造りなんだろうけど、まるで遊園地の建物みたいだから最初何がなんだか分からなかった。
ある程度話込むと、那澄がポケットから細長く、黒光りするものを取り出す。
その正体はXSBケーブルといい、ニューロリンカーの直結通信を行う為に使用されるものだ。
直結通信を行う場合、ニューロリンカーに設定されたセキュリティの九割が回避される。
そんなためか、学校等の公共の場において異性間で直結を行うというのは、二人が付き合っている事を公言しているような行為である。
最初の頃は那澄も直結に躊躇ったりしてたのに、今じゃ自分から差し出すようになったもんな。
那澄が差し出したケーブルを士のニューロリンカーに接続し、さらに士と俺のニューロリンカーを相互に繋ぎあわせる。
そこから思考発声により会議を始める。
『(さて、候補は見つかったか?)』
『(……それより兄ちゃん、先に一つ聞いていい?)』
話を切り出してすぐ、士が神妙な面持ちで俺に質問を投げかける。
いきなり出鼻をくじかれて内心へこむ俺だが、一応議長を務めている身なのできにせず進行していく。
『(なんだよ改まって、どうした?)』
『(何で急に”子”の話が出てきたのさアレ以来ずっとその事は話さなかったのに)』
『(え?いや、特に理由は……)』
『(嘘、どうせ昨日のエネミー狩りを見て、私達に加えてもう一人居たら……とか思ってるんでしょ)』
『(う……)』
流石は士、親の次に付き合いが長いだけの事はある。
『(うちらが頼りないから?頼りないから、新しく人を増やすんです?)』
『(いや、決してそんなわけじゃないぞ)』
『(まさか、また自分勝手に決めて居なくなろうとしてるんじゃないの?それだったらあたしは絶対に反対だよ)』
『(……)』
その言葉に対し俺は言葉を失い、思わず顔を俯ける。
去年の5月俺と士は母親の仕事の都合で東京からこの広島にやってきた。
その頃の俺は、ある出来事をきっかけに精神的に追い詰められ、全てを士に引き継がせ逃げ出そうとした。
だが士はそれを拒否し、俺にこのままでいろと諭した。
だが俺はそれでも納得出来ず、結果として那澄まで巻き込む結果となってしまった。
それから一年と少し経った今では全くその気持ちは無く、寧ろ今の心持ちは全く逆。
『(そんなことは無い。あれから少しは気持ちを落ち着ける事も出来たし)』
『(……そっか。なら良いや~)』
先ほどまでの真面目口調は何処へやら、いつものだらけた士に戻る。
それを見た那澄が笑みを溢しながら、俺に向かってデータを送信してくる。
ちなみに候補としての条件は最低条件は『(二人の友人であること)』だけだ。
理由は単純、二人の友達以外だったら俺も二人も中々信頼できないからな。
『(この子が”子”の候補なんじゃけど……)』
『(どれどれ……え゛)』
その候補のデータを見た途端、俺は思わず声をあげそうになるのを堪えつつ改めて聞き直す。
『(候補って、マジでコイツ?)』
『(マジです♪)』
滅茶苦茶良い笑顔で返された……こりゃ駄目かもな。
そう考えつつ椅子にのけぞり見上げた空は、梅雨時に似合わない晴天だった。