今回の話で加速世界、四人のデュエルアバターの名前を出すことが出来ました
能力とかは次回以降ちょっとずつ出していこうと思います
次回は戦闘シーン…大丈夫かな?
『バーストリンク!』
俺たち4人がほぼ同時にその言葉を叫び耳元に衝撃音が響くと共に、自分の視界に移る物が蒼く染まり、さきほど飛ばした500円玉や俺たちの身体の動きが緩やかになる。
そして動きが緩やかになった俺の身体から、ローカルネット用アバターとして使用しているデフォルメされた二足歩行の狼が出て来る。
出てくるとは言っても、現在意識はアバターにあるので違和感のある言い方ではあるが、仕方がないということにしておこう。
他の三人も同様に各々のアバター、妖精、忍者、フランケンシュタインが現れる……いつ見ても威圧感が半端じゃないな、那澄のフランケン
BBをインストールする前からあのアバターだし、前に何故フランケンなのか聞いたら「可愛いじゃないですか」って真顔で言われたし。
やっぱり那澄の感性はいまいち分からん
「何これ!?どうしてうちが目の前にいるん!?てかなんで『完全
この情景を初めて見る颯が何やら騒ぎ立てている。こういう反応はなんだか懐かしい。
ちなみに颯が口にした『完全
しかし、今現在起こっている現象は『完全
「なんでうちアバターになってんの!?なんでこんな周りが青くなってんの!?結局さっきのプログラムって何!?」
「やかましい!これから説明するから一度に何個も聞くな!」
颯がここに初めて来た人として、普通の反応を見せるがちょっと五月蝿かったので音量を下げさせる。
さすがに自分が騒ぎすぎたことを自覚していたのか、少し静かになる颯
それを確認しながら俺は颯に少しずつ説明を始める。
「さて颯、今この世界について気づくことはあるか?」
「気づく事って……ただ周りが青くなってるだけじゃない?」
「いやもっと他にあるだろ、他に。例えば、この俺達の身体がゆっくりになってるとか」
俺が説明しながらアバターではなく、自分本来の身体を指差す。
しかしいまいち分からなかったのか、目の前の忍者は頭の上に『?』が出るくらい考え込んでいる。
だがそういう反応が来るのもある程度予測できていたので、先ほど飛ばし空中を舞っているコインを指差す。
先程飛ばしたコインはかなり緩やかに、だが確実に回転しながら重力に引かれながら落ちている。
「ほんとじゃ、コインがものすごい遅く落ちとる」
「……感想はそれだけか?」
「うん、それだけ」
「……はぁ、まぁ良いか。とりあえず話を進めるな?今起きてる現象は、さっきインストールした『ブレインバースト』によるものなんだ」
「え?じゃあ、今起きているこの現象もさっきのプログラムのせい?でもそこまで凄い事じゃあない気が」
「それは何でそう思うんだ?」
「だってさ、これってただリアルタイムで録画している映像をスローモーションで再生してるだけじゃろ?それなれ別に凄くもなんとも―」
「それは違うよ、颯ちゃん!」
いままで蚊帳の外で会話に参加していなかった士(妖精)が急に大きな声を上げながら、無理矢理会話に入ってくる。
あ、これはなんだか面倒くさい事が起こる予感
「これはリアルタイムをスローで再生してるんじゃなくて、あたしたちの思考が加速しているんだよ!」
「思考が加速?何いってんの?」
「颯、まずニューロリンカーの仕組みは分かってるか?」
現実世界の俺たちの首に装着されている『ニューロリンカー』の仕組み―
簡単に言えば、俺達が視界に捉えた情景をニューロリンカーが判別し、その情報を量子回線で俺達の脳細胞に直接送ってくる。
つまりは、俺達が今現在見ている物や喋ること、考えることは全てニューロリンカーを経由して送られてくるというわけだ。
BBはそれを利用し、ニューロリンカー内で脳内との量子通信を増幅させることにより思考を|加速≪・・≫させる。
思考が加速されることによって生成されるこの青一色の状態はブルーワールドと言われる加速の第一段階だ。
第一段階、と表現したのはこれよりも先の状態があるからこその言い回しなのだが、颯はまだこれより先には進めないので、説明だけにしておく。
「ふーん」
「さっきから反応薄いな、お前」
「え、結局のところあれじゃろ?ただ視界が青くなって、物事の速度が遅くなるだけじゃろ?」
「……身体と同じで貧相な考えしかないのな」
「誰が貧相じゃ、誰が!うちはまだ成長期だ!」
「そうだそうだ!颯ちゃんはまだ成長しきってないだけだ!」
「士、それフォローになってないし。第一うちよりスタイル良いお前が言うか!?」
「ふふふ、やっぱり二人とも面白いね♪」
「那澄は何笑ってんだぁぁぁ!」
「あーうっせぇ」
相変わらず三人が同時に喋ると、各々テンションがかなり違うから疲れる。
だが、説明を全て行わないと次のステップに進めないので、自分の身体に鞭をうちながら説明を続ける。
「ちょっと俺の机の下を見てみ。面白いもんが見れるから」
「……面白いもんって何?はっきり言いんさいや……」
そう言いながらも机の下に潜り、ちゃんと確認する颯
そんな素直な部分をいつも見せてほしいよ……まぁ、言っても無駄だろうけど。
そう考えていると颯が確認し終えた様で、少し不思議そうな顔をしながら戻ってくる。
「何これ、机の下がウネウネして気持ち悪い事になっとるけど?」
「さっき言ったように、この世界は仮想的なものだと言ったよな?じゃあ、どうやって仮想的なこの世界を作ってると思う?」
「なんか小学生に聞くような話じゃない気が「それはだな…」おい!うちに聞いてたんじゃないんか!?」
いや、元よりその方面の知識が無い小学生に聞くほど俺もバカじゃないし。
颯がまだ何か喚いているが、大分時間も押しているのでスルーしつつ、自分の部屋の一点を指差す。
「それって……もしかしてソーシャルカメラ?」
ソーシャルカメラ、正式名称はそこそこに長いので割愛するが、現在の日本では治安維持を主目的としてかなりの数が設置されている。
このカメラ設置は私学でも拒否することは出来ず、そのデータは国家レベルの厳重な警備に守られている……はずなのだが、『ブレインバースト』はそんなソーシャルカメラをハッキングしている。
かなり大層なことをしているが、それを利用してやっていることは結構しょぼいことなんだがな……。
「簡単に言えば、この世界はソーシャルカメラをハッキングして得た画像情報を元に再構成された仮初めの世界だ。だが、ソーシャルカメラの死角になっている部分は再現する事が出来ないから、そんな感じで曖昧に写るんだ。つまり、ソーシャルカメラの視界内に入ってさえいれば、全て再現されるって訳だ」
「ハッキングって大層な話をさらっと言うんか。にしても、視界内に入ってさえいればねぇ……ん?
俺のやる気のなさげな説明を聞いた上で、何かに気づいたのか急に顔を赤くしながら現実世界で正座している士の膝の前で仁王立ちになる。
「……颯、お前何してんだ?」
「視界に入ってるのが再現されるのなら、スカートの中も見えるんじゃろ!?見せてたまるか!」
「誰が見るかって」
そう言いながら颯のデコの辺りにデコピンをかまし、その衝撃で颯(忍者)が倒れこむ。
その後ろで士が「別にあたしは見られても良いけどな~」と言っているがスルーで。
てか、士。お前は恥じらいという物を覚えろ、精神年齢は無駄に進んでいるくせに。
最近で言えば風呂に入った後に下着姿で徘徊するのとかはほんとにやめてくれ。
……それは母さんにも言える事か。
「ほら、痛がってないで早く立て。今日の所はここまでだ」
「え?終わり?さっき言っとた次のステップは?」
「だ~か~ら~、今日の時点じゃお前にゃまだ無理なんだって。はぁ、それじゃ、現実世界に戻るからこれから俺達が言うコマンドに続けよ?『バーストアウト』」
やる気のなさげなコマンドの発声と共に、先程まで青に被われていた世界に色が戻り俺達の意識が自身の身体に戻ってくる。
そしてつい先程説明のために弾いたコインを落ちきる前に右手で掴む。
「…ん?あれ、戻ってこれた?」
「お帰り。早速で悪いが、時計を確認しろ」
「命令口調で言われると腹が立つんじゃけど。……うわ、さっき5分位喋ってたはずなのに全然時間が進んでない」
「これで分かったか?思考が加速するって言った意味を。続きは明日の昼休憩の時に話すから、屋上に来る様に。それじゃあ今日は解散」
言葉の最後に「今日寝るときはニューロリンカーを絶対に外さないように」と付け加え、この日は解散した。
翌日──
この広島に記念すべき4人目のバーストリンカーが誕生した事に、隠しきれない程喜んでいた俺はこの日も通常どおり屋上に向かっていた。
しかし、前日わざと上級生の校舎を避けていたのがバレたのか、待ち伏せしていた生徒会長に捕まってしまった。
しかも修学旅行帰りだったためか異様にテンションが高く、鬼気迫る表情をさせながら俺に女装を強要してきた。
なんとか一瞬の隙を見付逃げ出したが、あの人の怖さを再認識した……あの人には勝てないわ、うん
アラート画面が表示され息が絶え絶えの状態で屋上に上がると、既に士達三人がイスが四つあるテーブルに座っていた。
「う、うっす……」
「…会長に、捕まったでしょ、悲惨だね」
「悲惨て言うな、悲惨て。五七五で言われたら余計に腹が立つわ」
溜息混じりに士の言葉に対して応答をしながら頭を抱える。
抱えていた手を離すと(一瞬目を閉じていたために気づけなかったが)、三人は着々と直結の準備を進めていた。颯だけは嫌がってたけど
そして士のニューロリンカーから伸びたXSBケーブルを自分に接続すると、他の三人とアイコンタクトでタイミングを合わせ小声で囁く。
『バーストリンク』
再び世界が青くなり、隣のテーブルでこっちを指差しながら笑っている同級生の女子や、屋上端にあるベンチでイチャイチャしてるカップルの動きが緩くなる。
そして俺達のアバターが出てきて直ぐに颯が口を尖らせながら不満を漏らしてくる。
「で?結局寝る時もニューロリンカー付けとったけど、これでどうなるん?」
「まぁ落ち着け。まずは左側に増えている『燃えているB』ってアイコンがあるだろ?それを確認してくれ」
「えっと、ほい!あ、何個かのメニューが出てきた」
「それが『ブレインバースト』のメニュー画面だ。とりあえず一番下のマッチングリストを確認して、上から順に名前を読んでいってくれ」
「いちいち指示が多いなぁ…えっと『ネイビー・ブリッツ』、『メイズ・ミラージュ』、『ティール・スパイク』、最後が『アントラクス・イェーガー』?何これ、最後の奴なんかめっちゃ読みづらいんじゃけど」
ちょっと"むっ"としたが、颯の言い分にも一理あり。
正直自分の名前である『イェーガー』なんか最初読めなかったし。せめて英語にしてくれ、ドイツ語は無理。
さて、今名前を読んだ順からして『ネイビー・ブリッツ』というのが颯のあの世界での名前なのだろう。
しかし、颯にはなんのことか理解できるはずが無いので、こちらも『ブレインバースト』のメニューを開き『対戦』の画面に移行する。
「えーっと、士、那澄、いまから颯に対戦を申し込むけど、めんどくさいから『バトルロイヤルモード』で良いか?」
『良い(です)よ~』
「何?またうちだけ置いてけぼりか?今度は何する気や?」
「まぁ、見てれば分かるから」
そう言いながら画面を操作し続け、対戦するか否かのメッセージ文の『YES』を押す。
すると蒼い世界が少しずつ移り変わると共に俺の身体が光に包まれ、赤紫の装甲を持ったデュエルアバター『アントラクス・イェーガー』へと変貌する。
そしてデュエルアバターに変わりきるのとほぼ同時に、世界も様変わりする。
視界の両端の上側には旧時代の格ゲーのような体力ゲージが表示され、体力ゲージに挟まれる形で『1800』という数字が現れる。
ちなみにこの『1800』という数字は、この加速世界で活動できる30分間(こちらでは現実世界の1000倍で時間が進むので現実世界換算で1.8秒)の制限を表している。
そして数字の表示が減ったところで、足元の浮遊感が無くなり地面に足をつく。
「さて、今回のフィールドは……うへぇ、『煉獄ステージ』かよ。くじ運ないなぁ」
ため息をつきながら思わず肩を落としながら俯く。
煉獄ステージは、ブレインバーストが生み出す対戦フィールドの一つで、特徴としては"硬い"、電気が限定的ではあるが通っている、そしてもう一つ―
「煉獄ステージかぁ、相変わらず気持ち悪っ」
「何度来てもここだけは慣れませんね」
―フィールド全体が触手の様な物で覆われている、言ってしまえば内臓のような様相で気持ちが悪い。
女子のバーストリンカーにとっては、不人気といえる部類のフィールドだ。
今回は学校内のローカルネットにつなげた状態で加速したので、今いる屋上を始めとした学校全体が内臓の様な見た目になっている
「……なんかもう、驚くのも飽きた」
そんな颯の呆れ声が俺の後ろから聞こえ、俺は身体をそちらの方向に向ける。
颯と思われるアバターは(名前を聞いた時点で分かってはいたが)、濃い紺色を纏っていた。
半袖半ズボンと、ソフトボールのユニフォームを思わせる見た目に、右手には肘まである大きめなガントレットを持つ小柄なアバターだ。
鏡が無いため本人は確認することが出来ないが、自分の手のひらや俺たち三人の見た目が変わっていることにたいして少し疲れ気味な声をあげる。
「ローカルネットアバターの次は何これ?明らかに普通のアバターじゃないじゃろ。三人とも明らかに人間の見た目じゃないし」
「ああ、これは対戦格闘ゲーム『ブレインバースト』で使用される対戦用のデュエルアバターだ」
「あのプログラムって格ゲーだったんか?!ハッキングまでして、ほんまにしょうもない…」
「正論だけどな、これやってると現実がつまらなくなるぞ、まじで」
俺が話すことに対し表情を確認することはできないが、明らかに呆れの感情を向けてくる。
最初は信じらんないよな~、士も那澄も、俺でさえもかなり戸惑った記憶があるわ……かなり昔になるけど
ずっと胡散臭そうな視線を送る颯……いや、イビー(今命名)の横に濃い緑色の『ティール・スパイク』となった士と、薄い黄色の『メイズ・ミラージュ』となった那澄が近寄り、べたべたとイビーを触りまくる。
「ちょ、二人ともやめぇ!くすぐったいじゃろ!」
「おぉ~、期待通りの青系のアバターだ!」
「しかも純色に近い紺色ですね。これは期待大です」
「それで?今日は颯ちゃんの初御披露目で終わり、って訳じゃないでしょ?」
「エネミー狩りをするにも、まだ颯ちゃんは上には行けんよね?」
「お前ら無視かぁ!」
「だからこそのバトルロイヤルだよ。今日は颯が増えたことだし、『鬼狩り』久々にやるぞ」
『え?やったあああ!』
『鬼狩り』という単語にイルとミラが大袈裟に万歳をする。
『鬼ごっこ』と名前こそ似ているが、鬼狩りはほぼ正反対
簡単に言えば、『鬼』に指定された奴をそれ以外のメンバーが全力で狩ってくるという軽いいじめみたいな訓練だ。
元々はイルを戦いに慣れさせるために始めたほとんどお遊びのものだったんだが、イルが異様に気に入った上ミラや東京にいた頃の知り合いのバーストリンカーなんかに言いふらしまくっていた。
正直な所ダサいとか言われたほうがまだ気が楽だったんだが、意外と好評で軽い黒歴史にしてしまいたいくらいだ。
「もち、兄ちゃんが鬼だよね?」
「なんだ?もしかして今日はイルが鬼やるのか?俺がやるつもりだったんだが」
「いや!鬼は兄ちゃんに任せるよ!……よしっ!」
本人としては見えないようにガッツポーズしてるんだろうが、全部見えてるぞ、おい。
ちなみに何故二人が面倒くさい訓練に対してこんなにも喜んでいるかというと、合法的に俺に攻撃することが出来るからだ。
まぁ、攻撃が当たったとしてもこいつら二人の攻撃くらいなら問題はないが、懸念材料があるとすれば、イビーの能力
見た目からして近接系のアバターであることは間違いないのだが、右手につけられている大きなガントレットがなんなのか、見当もつかない。
だが、三人の親兼師匠として無様なところは見せられない
視線を上に向けると、丁度制限時間の表示が『1500』になる所だった
「三人とも、5分やるからここから移動しろ。制限時間が『1200』になったら鬼狩りを開始する」
おー!と声を返すイルとミラに対し、いまいち理解ができていないイビー
イビーの能力がこの訓練で分かるとは思うが……まぁ、久々の対戦だ。難しく考えず、楽しくいこう!