アクセル・ワールド ガーネットの輝き   作:ニヒト

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今年最後の『アクセル・ワールド』投稿です

書いているうちにどんどんシリアスチックになってきて心の中で「ドウシテコウナッタ…ドウシテコウナッタ…」と巡り巡っております

それでは最新話どうぞ&また、来年


Ripple 波紋

『(いてぇ……あのスパイクシールドってこんなに痛かったか?)』

『(まぁ、重力+あたしの体重+煉獄ステージの地面とのサンドでいつもの倍近くのダメージが通ったからねぇ)』

『(仮想のダメージとはいえ、痛覚はあるからきついわ……あぁ、顔がグチャグチャになってるような痛みだ)』

『(兄ちゃん心配しないで!その可愛い童顔は潰れてないから!)』

『(うっせぇ、良く言われるがこの顔結構コンプレックスなんだよ!この前は小学生に間違われたわ!制服着てんのに!)』

「(……そのルックスが実は上級生に人気なのは黙っておこう、そうしよう」

 

 四人のバトルロワイヤルで俺が一番最初に脱落した後、「つまんない」という士の一言により対戦はドローで終了された。

 いや、颯のアバターと闘い方が想像以上に良かったので個人的にはポイントを渡しても良かったのだけど。

 ……いや、駄目だ。こんなんじゃ甘過ぎる。あんなことを颯や那澄に味あわせないためにも、もっと厳しくいかないと……。

 

「いえ~い!!うちらの勝ちぃ~!!いきがってたくせにシュン弱すぎぃ~♪」

 

 なんかめっちゃ颯がはしゃいでる……ウゼェ、ただひたすらにウゼェ

 あと、大声で話すな。喋るなら思考発声で喋れ。周りの連中が何事かとこっちを見てるから。

 言葉にはしていないがおれの冷たい視線に気付いたのか大声を出すのをやめ、顔を赤く染めながら着席

 

『(まぁ、勝ったとは言っても兄ちゃんはアビリティを一つも使ってないから、明らかに本気じゃないんだよねぇ~)』

『(……え?)』

『(たしかに、どちらか片方でも使われた時点でうちら、蜂の巣やろうし)』

『(は、蜂の巣!?)』

『(過大評価過ぎるだろ、お前ら。第一、今更そんなこと言っても負け惜しみにしかならねぇよ)』

 

 二人の言葉に俺は呆れ気味に言葉を返すが、颯は納得出来ないと言わんばかりの表情を見せる。ええい、鬱陶しい

 

『(あのな?お前と俺とじゃ戦いの経験値もレベルも全然違うんだから、差があるのは当然だろ)』

『(あのさぁ、話の腰折るようじゃけどええ?)』

『(なんだ?)』

『(レベルって何?)』

『(……おい士、説明しとっけって言ったろ)』

『(テヘペロ♪)』

『(テヘペロ♪じゃねぇよ殴るぞ)』

 

 もうやだこの妹、なんでこんな面倒くさがりに成長してしまったんだ。妹じゃなかったら絶対に付き合わないわ。

 ……でもこれで加速世界では策士でなかなかの実力者だから、人間って分からないモンだよ。

 

『(ほら、よくゲームとかで経験値が一定値に行くとレベルアップするだろ?そのレベルと一緒だ)』

『(……ゲーム苦手だからよう分からん)』

『(そういえばそうだった。お前、何でか分からないがゲームにすぐ酔うもんなぁ)』

 

 そうそう、颯はゲームとかやるとすぐ酔ったとか言うから、あんましゲーム自体やらないんだよ。

 まぁ、元々ゲームとかのインドアな事よりもスポーツとかのアウトドアな事の方が好きらしいから関係無いだろうけどな?

 

『(とにかく、お前はまだ始めたばかりのレベル1で、俺のレベルが7だからかなりの開きがあるんだ)』

『(たった6でそんなに差ってできるもん?)』

『(6は6でもたった6ではないぞ?俺の知る限り、BBの最大値は8だからな)』

『(ふぅ~ん、そこまでレベルって高くないんじゃね。一回レベル8と戦ってみたいわ)』

『『(まず勝てないからやめとけ(やめた方が良いよ)』』

『(二人同時に言うなぁ!!)』

 

 俺と士の思考発生でのツッコミが同時に響く。

 いや、あいつらとガチでやりあったらまず勝てないし絶対にトラウマ植え付けられるから。

 撃ったビームが刀で両断されたのは今思い出しても背筋が凍るよ……うん。

 

『(さて話を戻して、そのレベルの上げ方なんだけどな?BBにはバーストポイントってのがあって、これが経験値にもなるわけだ)』

『(また新しい単語が……ん?経験値「にも」ってことは、他にも使うことがあるん?)』

『(颯にしては鋭い。そう、このバーストポイントは加速することの出来る回数も表している)』

『(……具体的に言ってくれんにゃわからんのじゃけど)』

『(今からするから待ってろ。バーストポイントはBBをインストールされた時点で100ポイントが渡される。んで、加速する度にポイントが1づつ消費されていくわけだ)』

『(え、あ、うん……)』

 

 おい、目を逸らすんじゃねぇよ目を。ここから結構大事な話になるんだから。

 

『(さて、ここで一つ問題だ。バーストポイントが無くなったら、一体どうなると思う?)』

『(うーん?ポイントが無くなったんなら、電子マネーみたいにチャージとか?昔のソシャゲ商法みたいで怖いわぁ)』

 

 ソシャゲ嘗めんな、それの儲けでリーグ優勝したプロ野球チームだっているんだぞ?

 ……うん、なんか今日はなんか調子悪いわ。変則とはいえ久々に対戦で負けたからか?

 ミラの特訓以外だと確か、東京で戦ったんだから……あっ

 

「そうか……最後の対戦はあいつか……」

『(おーい、シュン~?声に出てるけ―)』

「兄ちゃん!」

「!?!?!び、びっくりしたぁ」

 

 急に怒鳴んじゃねぇよ、突き刺さるような周りの視線が痛いんだって。

 ……あ、やべぇ。今なかなかにまずいこと口走らなかったか俺?

 あんましこの件については突っ込んでほしくはないんだが。

 

『(兄ちゃん、話ずれてる。時間ないんだから早くして)』

『(え、シュンさん今すごい気になるような事ゆうてたような…?)』

『(な~んのこ~とかなぁ~?あたしは知~らないなぁ~。ほらぁ~兄ちゃん早く早く~)』

『(あ、あぁ、分かった。……ありがとう)』

『(べっつにぃ~……)「見返りはジャンボパフェでいいよ!」

「調子に乗んな」

「イダァ!」

 

 調子に乗って思考発発声すら忘れた士におもいっきしデコピンをかます。

 うむ、"バチンッ"という音がするくらい凄まじいデコピンだ、我ながら怖いものがある。

 

『(さて脱線したが、結論から言おう。バーストポイントが0になると、BBを強制的にアンインストールされる)』

『(……へ?そしたらまたインストールしなおし?なんじゃそれ、めんどくさいなぁ)』

『(いや、一回アンインストールされたら、二度とインストールをすることは出来なくなる)』

『(はぁ!?じゃあポイントなくさないようにしなきゃいけないじゃん!そんなお金ないで!?)』

『(誰が現金をチャージするなんて言ったよ。ポイントはさっきみたいな対戦で手に入るよ。まぁ、ほんとはまだいくつか方法があるけど)』

「へ?」

 

 予想外の反論だったのか颯の口から間抜けな声が漏れる。

 それに対して士と那澄は含み笑いを颯に見せ、俺は少し厳しい顔を見せながら口を開く。

 

『(明日から俺達がレベルアップを兼ねてお前を鍛え上げる、覚悟しとけよ?)』

 

 

 

 

「士ちゃんお疲れさま!し、俊弥先輩もお疲れ様です!」

「おつかれー!また明日ねー!……兄ちゃん、ほら」

「ん?あ、お疲れさま。また明日ね」

「っ!は、はい!また明日!」

 

 そう言った女の子がなんか悲鳴に似た声を上げながら去って行く。いや、悲鳴を上げるならわざわざ挨拶しに近づかなくても……。

 

「兄ちゃんは女の子の気持ちが分かってないなー、そんなんだから彼女いないんだよ」

「異性の気持ちを理解しろといわれてもな?てか、彼女いなくても別にいいだろ」

「わーお、開き直りましたよこの兄貴は」

「急に呼び方を変えるな、違和感しかないわ」

 

 放課後、生徒会の活動が無い俺と帰宅部の士は自宅に帰ろうと学校全体共通の正門にいた。

 時々二人で並んでいると兄妹と知らない連中は俺達が付き合っているとか言ってるらしいが、俺はこんな面倒くさい奴とは付き合いたくないぞ?

 ちなみに何故颯と那澄がいないのかというと颯はソフトボールの練習、那澄は定期検査で病院に行ったらしい。

 二人ともどうして外せない、と言ってたのでBBの話は明日に回す事にした。

 あ、那澄は別に重い病気じゃないからな?何年か前は相当酷かったらしいが、今は大分落ち着いてきてるみたいだ。

 時間も時間なので帰るか、そう思い歩き出そうとする。

 が、突然眼前に直結の警告表示が現れ足を思わず止める。まぁ、この状況だと誰がやったのか分かるけどさ。

 

『(士、急に直結すんなよ)』

『(えー別にいいじゃーん)』

 

 そんな満面の笑みを見せられると追求できないんだが、思わずそう口に出しそうになるのをぐっと堪える。

 言葉に出すと確実に調子に乗るからなこいつ、昼が良い例だよ。

 直結の状態でそのまま自宅に帰り始めるが、すぐに士から思考発声が飛んでくる。

 

『(で、今後どうすんの?兄ちゃんの希望通り近接系のアバターを颯ちゃんは生み出したけど)』

『(ん?どうするとは言っても、明日から徹底して鍛えるしかないだろ)』

『(鍛える、ねぇ……)』

『(士、お前さっきから何が言いたいんだ?)』

 

 そう言うと士は俺の横から正面へと移動し、普段の感じからは想像できない鋭い目で俺を睨んでくる。

 

『(はっきり言うけどさ、兄ちゃん弱くなったよね。いや、腑抜けたよ)』

『(……どういう意味だ?)』

『(そのままの意味だよ。東京でレギオンに入ってた頃よりも、ましてやフリーで活動してた頃よりもね)』

『(そんなことはない。俺はあの頃のままだ)』

『(じゃあ、何でさっきのバトルロワイヤルで本気出さなかったわけ?那澄ちゃんの言ったみたいに、あたしたちなんか一瞬で蜂の巣に出来たはずなのに)』

『(本気を出す必要が無かったからだ。どの程度の能力なのか確認するために―)』

『(わざと負けたって?それこそつまんないよ。加速世界で身体を動かせるってだけで笑顔になってたあの頃の兄ちゃんは何処行ったのさ)』

 

 ……全く、反論できない。士の言うことは全て、合っている。

 あの対戦の時、全く集中できなかった。理由は、分からない……いや、本当は分かってる。でも、それを口に出したら、俺は―

 

『(兄ちゃんさ、まさかとは思うけどさ?颯ちゃんの"色"を見て"あの人"の事を思い出したんじゃないの?)』

『(!?)』

『(明るさの違いはあるとはいえ確かに似ているよね、『群青色』と『瑠璃色』って。カラーチャートでもかなり近いし)』

 

 やめろ……

 

『(確かにあたしも未だにショックだよ?でも兄ちゃんの落ち込みようは尋常じゃないからさ)』

 

 やめろ……やめてくれ……

 

『(でも言ってしまえばだけど、明日は我が身かもしれないのに過去の事をウジウジと―)』

「やめろっ!」

「きゃっ!に、兄ちゃん?」

 

 士の小さな悲鳴が聞こえてくる。

 見れば、俺が無意識のうちに士の両肩を力一杯掴んでいた。

 我に返った俺は肩から手を離すが、まだ左手には力が抜けずに震えている。

 

「お前に何が分かるんだっ!あの時、あの場にいなかったお前がっ!」

 

 語彙が思わず荒くなり士をおもいきり睨みつける。

 俺は首筋の赤いニューロリンカーからXSBケーブルを半ば無理矢理引き抜き、士に投げるように手渡す。

 そして手渡した士の顔を見ず、横を通り過ぎながら駆け足で歩いていく。

 

「……兄ちゃん、ほんとにおかしいよ。あの時、一体何があったっての?」

 

 何か士が離れる時に呟いたが、今の俺の耳には入らなかった。

 


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