暗殺教室  ~Another Story輪廻のカルマ~   作:ひとみらくる

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12、過去の時間(5)

「な、なにそれ」

 おじさんが、上機嫌で大きな二つの段ボール箱を部屋に運んできた。とても大きいので二回に分けながら運んでいる。

「ふふふ、なんだと思う?」

「ワンダーコアってかいてある」

 段ボール箱を指さしながら、そう答えて差し上げる。

「えっ、驚かせようと思ったのに秒でバレちゃった」

 ちょっと手を滑らせそうになったけどなんとか持ち直したおじさんは、ゆっくりと部屋に段ボール箱を置いた。

「いてて、腰いてて。じゃじゃーん、りんちゃんが運動不足にならないように買ってきました。ワンダーコアとランニングマシーン。バランスボールもあるんだ。はやく出してみようよ」

 わたしよりおじさんの方が子どもみたいにはしゃいでいる。まぁ、わたしもわくわくしているけど。

「でも、下の人に迷惑じゃない? ランニングマシーンは」

「大丈夫。このアパート下も隣も住んでないから」

 やたら自信満々に答えるおじさん。

「そうなんだ。知らなかった」

「なぜなら、このアパートは僕のものだからです」

 出ましたドヤ顔。

「おじさんって大家さんだったの?」

「そういうこと。でも八部屋中ここともう一部屋、間反対の隅しか住んでいないんだ」

「人気ないんだね。もっと頑張ったら? 収入が危ういよ」

「でも僕大家だけど、毎日りんちゃんが見ている通り会社にも通っているからね。全然危うくないよ。まぁ、入居者は常に募集中なんだけど、隣と下は募集してないんだ。りんちゃんと静かに暮らしたいからね」

 きっと、おじさんの親から譲り受けたアパートなんだろうなと、アパートの築年数から推測する。

 それにしても、おじさんの生活がわたし大優先になっていて、とても大事にされているんだなぁと思った。

「理沙がいた頃ここは全部屋住んでいて、朝が苦手な主婦や若い学生さんの一人暮らしの部屋なんかには毎朝理沙がピンポン鳴らして起こしにいったりしていたんだよ。早起きが得意な子だったから。理沙を中心にみんな仲が良かったんだ。理沙も、住人さんみんなに良くしてもらってた。とてもアットホームなアパートだったんだよ」

 段ボール箱を開けて、一緒に組み立てながらおじさんは少し遠い目をして語ってくれた。

「学生の子たちはみんな卒業して離れていったし、若い夫婦は一軒家を建てた。住人さんはだんだん少なくなって、そして理沙もいなくなってしまった。理沙がいないこのアパートはとても静かだよ。次第に深かった住人さんたちとの関わりも薄れちゃってね。もちろん、挨拶くらいはするよ。でも、前はお互いの残り物を交換したり、僕と理沙の部屋に集まってトランプ大会をしたり、年末には近所のカラオケ屋さんで忘年会をしたり。年齢も育ちも違う人たちがこのアパートの住人ってだけで、みんな仲良くなってね。今は、ただの古いアパートだけど、昔は本当に暖かい場所だった」

「組み立てできたっ。おじさん、腹筋してみてもいい?」

「あぁ、やってみてよ」

 ちょっぴり話しを遮って、段ボール箱から出し終えたワンダーコアで腹筋をし始める。

 おじさんの話しを聞いていたら、徐々に胸が熱くなってきて、動かずにはいられなかった。体が動いていないと、心が動いてしまいそうで。

 悲しいお話しは、苦手。ううん、違う。おじさんの悲しそうな顔を見たくなかったの。

「今は一階の隅におばあさんがずっと一人で住んでいるんだ。自分の孫同然のように理沙をかわいがってくれる人でね。トランプが強くて、歌も上手で理沙の次にこのアパートのまとめ役だった存在なんだ。理沙がいなくなったとき、壊れてしまうんじゃないかってくらい泣いてくれた。でも、それから元気なおばあさんの姿を見ることがなくて。今は、たまに僕のことも一瞬忘れちゃうくらいにボケてしまったんだ。足腰も弱くて、ヘルパーさんがよく来てるよ。そのヘルパーさんが可愛いんだよね。えへへ、二十五歳くらいかなぁ。この前、お話ししたんだよねぇ。りんちゃん用のシャンプーとリンスを買うときにおすすめを聞いたんだよ。孫に買うんだって言ってね」

 悲しいお話しの合間にちょっと冗談を交えて場を和ませようとするおじさん。

 無理、しなくてもいいに。そのヘルパーさん、生きていれば理沙ちゃんと同い年くらいなんでしょ。だから、気になったんでしょ。おじさんは、本当に分かりやすい。純粋な人。

「まぁ、そんなわけで、ここにはほとんど人が住んでいないから思う存分ランニングマシーン使っていいからね。あ、たまには僕にも使わせてね」

「うん。腹筋のやつは、今度ポーカーの罰ゲーム用に使ったりもできるね」

「えぇ、おじさん腰痛が」

「ポーカーでわたしに勝てばいいのよ」

「りんちゃん強すぎるんだもん。どう考えても僕が腹筋する回数の方が多いよ」

「ムキムキマッチョなおじさんになっちゃうね」

 そう言って二人で笑いあった。

 その笑顔の裏で、わたしは強くなりたいと思った。おじさんが、もう悲しむことのないようにしたいと。

 おじさんの笑顔を守ることができる強さってどこから学べるのだろう。本や新聞には載っていない。テレビでも、強さは学べない。

 じゃあまず、肉体的に強くなろうと思った。おじさんがわたしのために買ってくれたこのマシーンたちで。

 走って走って、腹筋して。腹筋して腹筋して走って。

 おじさんが仕事へ行っている間は強くなるためのトレーニングと、この世の知識を全て回収してやるくらいの勢いで勉強に励んだ。普通の小学生の比ではないものを身に着けるんだ。

 

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