暗殺教室 ~Another Story輪廻のカルマ~ 作:ひとみらくる
昨日の放課後のことはすっかり忘れていた。カルマはいつもどおり学校に向かう。E組の校舎は山の上にあるけれど、通い慣れた山道だ。軽快に進んでいく。今日はどうやって殺せんせーを殺そうか。ナイフでの暗殺はよほど上手くやらないと簡単にかわされてしまう。やはり、精神的なダメージを与えて動きが鈍くなったところを狙うのが得策か。今まで使ってきたネタではあまり効果が無さそうだ。何か、新しい弱みでもあれば。
「よーっす、カルマ」
「あぁ、前原。おはよー」
もうすぐE組校舎に着くというところで、後ろから声を掛けてきたのは同じクラスの前原陽斗。気さくな性格で、スポーツが出来てルックスも良い。学級委員の磯貝悠馬とは親友同士だ。
「あのさ、昨日、市立図書館の近くでカルマっぽい人見たんだけどさ」
「あー、それ俺だわ」
忘れていた昨日のことを思い出して、少しげんなりとした表情になる。
「やっぱりそうだったのか。遠目だったからちょっとしか見えなかったけどさ、めちゃくちゃカワイイ子と歩いてたよな? ツインテールの」
「さぁね。なんか最近絡まれてて困ってんだよ」
「あんなカワイイ子、なかなかいないぞ。もしあれだったらオレに紹介してくれてもいいんだぜ」
「やめときな。けっこうイカレたやつだよ」
「おいおい、カルマがそれを言うのかよ」
談笑しながら、昇降口にたどり着く。チャイムが鳴るまで。あと五分といったところだ。靴から上履きに履き替えているところで、カルマが廊下の先の異変に気づく。
「なー、前原。教室、なんか騒がしくね?」
「本当だ。なんだろーな。ついに誰か殺せんせー殺ったのかな」
「だったら、笑えるね」
少し早足で教室へと歩を進める二人。
教室のドア付近で、うろたえる女子学級委員がいた。責任感が強く頼れる存在の片岡メグだ。そしてその隣には、ゆるふわという言葉がぴったりの癒し系女子、倉橋陽菜乃がいる。
「あ、カルマ君。これ、どういうこと? とりあえず、私たち烏間先生呼んでくるから」
片岡は真面目な顔でそれだけ言って、倉橋とともに職員室へと行ってしまった。まだ状況が読めないカルマと前原。
教室の中から聞こえてきたのは、最近知り合った年下の少女の声と、担任教師の声だった。
「カールーマー! 助けてわたし、食べられちゃうぅ」
「いやいや、先生人を食べる習慣はありませんから、落ち着いてください」
「来ないでしゃべらないで、妖怪! おばけ、にょろにょろ!カルマ、カルマーーー」
「カルマ君をお探しなんですね。もうすぐ登校すると思いますから、だから、少し大人しくしてください」
「いやっ、大人しくさせてどうする気? この宇宙人っ!」
教室の中は、騒然としていた。
宮森輪廻がなぜかE組の教室にいるし、殺せんせーは必死に彼女をなだめている様子だ。
前原は「あれ、昨日の」とかつぶやいているし、クラスのみんなはどうしたらいいのかわからず、うろたえていた。
バレてしまったのだ。一人の一般人に、殺せんせーの存在が。だから先ほどの片岡たちは烏間先生を呼びに行ったらしい。
やってきたカルマの存在に気付いたリンネが、教室を飛び出して勢いよく彼の後ろに回り込み抱きついた。少女の体重を感じて、一瞬カルマの表情が驚きに変わる。
みんなの視線が一気に赤髪の少年に集まった。その後ろには黄色い生物を睨みつけている美少女。
そこへ中性的な顔立ちの少年、潮田渚が緊張を含んだ声音でカルマに告げる。
「あの、僕、一番に登校したんだけど、先にその子が教室にいて・・・・・・なんかすごい勢いでカルマ君に会いたいとかなんとか・・・・・・そこへ殺せんせーが通りかかっちゃって。先生のことがバレちゃったというか」
重たいカルマのため息。それに構わず少女が後ろでヒステリックに叫んでいる。
「カルマ、なんなのよ、ここ。こんな生き物が、先生? ねぇ、わたし、夢見てるの?」
「ってかさー、君こそなんでここにいるわけ。学校は? 俺に用事?」
大層イラついた表情でカルマが問い詰める。少女はビクっと肩を震わせて一歩下がったところで背中が何かにぶつかる。教室にやってきた、E組の体育教師兼防衛省の烏間先生だ。ぶつかったことにも驚いた様子だったが、振り返った先の黒いスーツに身を包んだ仏頂面の男教師にもかなり驚いたようだ。目をまるくしているリンネとは対象に、表情を一ミリも変えずに烏間先生は告げる。
「おっと、失礼。君は、笹塚学園の生徒かな?」
「そ、そうよ」
驚きを隠せないでいるが、いつもの強気で答えるリンネ。
烏間先生は、この非常事態にいつも以上に厳しい表情になっていた。普段から一緒に過ごしている生徒たちにしか分からないくらいの微量な変化ではあるが。
「笹塚学園の生徒がどうしてこんなところにいる?」
少し乱れたツインテールをさらりと整えながら、目を合わせることなく彼女は言い放つ。
「答える義理はないわ」
大人にまで強気な態度だ。
「他校の生徒は、学校の許可がないと入ってはいけない規則になっている。許可は本校舎での手続きが必要になる」
「わたしには必要ないわ。カルマに会いに来ただけだもの。それより、この生き物はなんなの?」
「話せば長くなる。もしよければ職員室で話しをきいてもらえないだろうか」
リンネは無表情で烏間先生と殺せんせーを一瞥して、にっこりと口を弧に歪めてからカルマの方を見た。
「カルマが一緒なら」
「そうか。では赤羽、一緒に来てもらおう」
三人が教室を出て行くと、みんなの口からため息がこぼれた。殺せんせーもホッとしたのか、触手で胸を撫でおろしている。
「なぁ、すっげー美少女だったよなー」
それぞれが自分の席に向かう中、いち早く口を開いたのは全てがエロで構成されている岡島大河。
彼の左斜め前の席のギャル、中村莉桜が続く。
「それ、アタシも思った。カルマとどんな関係なんだろうね?」
教卓に一番近い席の磯貝が心配そうに殺せんせーに話しかける。
「殺せんせーの正体、バレちゃったけど、どうなるのかな」
「うーん、彼女次第かもしれませんが、記憶消去という手もありますし・・・・・・」
「うわ、それはちょっと怖いな」
「先生ちょっと無防備すぎました。いくら慣れたE組校舎だからといって、気を抜かないよう気をつけます。後の判断は烏丸先生に任せるとして、我々は授業を始めましょう。少し時間が過ぎてしまいましたので、朝の出席確認は無しです」
クラスが重たい雰囲気のまま、一限目の授業が始まった。