ポケットモンスター ブラック・ホワイト・グレー 作:落ち葉
旅立ち
・リコside・
突然だが、私はごく普通の一般人である。
身長は平均だし、顔は悪くない。まあまあ器用でもある。人間関係も悪くない。知り合いには、どう頑張っても一般人とは呼べない有名人も居るが。
まぁとにかく、私は普通で普通な普通の一般人なのである。
何故こんな話を始めたかと言うと……。
数時間前の出来事である。
私は、小さい頃からずっと暮らしているカノコタウンにある研究所を訪れていた。
「こんにちは、アララギ博士」
「リコちゃん、ちょうど良かったわ! いえ、良くは無いんだけど……。あのね、あなたのお姉さん……誘拐されたみたいなの」
「へ?」
お姉ちゃん? お姉ちゃんが、誘拐……された?
私のお姉ちゃん……トウコは、今年で15歳になった。去年旅に出て、ポケモンリーグ準優勝。そして、プラズマ団とかいう悪の組織を破滅にまで追い込んだ、イッシュの二大英雄のうちの一人だ。今は、プラズマ団の幹部、通称七賢人を追ってイッシュ中を旅しながら、プラズマ団の被害の実態や残党の目撃情報を集めている。いや、集めていた。
リーグ準優勝だからアデクさんとは公式には戦っていないが、私的に申し込んだ試合では勝ったと言っていたことから、どれだけの実力かはお察しの通りだ。
そんなお姉ちゃんが誘拐された。それは只事ではない。
「トウヤくんが今、情報を集めてくれているわ。けど……わかるわよね?」
アララギ博士の言葉に頷く。
イッシュでトップ2の実力を持つお姉ちゃんを誘拐するリスクは、とんでもなく高い。それだけのリスクを見込んだ動機は、たぶん二つだろう。
一つは、莫大な身代金の要求。もしこれだった場合は、民家であるウチには到底払えそうにないが、そこはポケモン協会やら何やらが手助けしてくれるだろう。一応、プラズマ団の捕獲の協力者として、ポケモン協会に属する公務員なのだから。
もう一つ、こちらの方が頷ける動機がある。それは、恨みからの誘拐だ。お姉ちゃんはプラズマ団を解散させ、それによって沢山の人々が逮捕された。犯人は、逮捕された人の家族かもしれないし、プラズマ団の残党かもしれない。どちらにせよ、こちらの方が納得いく。
ちなみに、トウヤとは、お姉ちゃんと同年齢の幼馴染みでご近所さんである。ちなみに去年のポケモンリーグは優勝し、見事アデクさんを打ち破った現チャンピオンである。私は小さい頃からお姉ちゃんと彼に面倒を見てもらっていたため、トウヤのことはお兄ちゃんと呼んでいる。
「けど、こんなことを報道したら、その不安からプラズマ団に味方する人が増えそうですよね?」
「そうね。ポケモン協会の方は、最小限の人数の精鋭たちに捜査を依頼することにしたみたい。リーダーはトウヤくんよ」
「お兄ちゃんなら安心出来ますね」
「ええ。それで、リコちゃんに一つ申し出があるんだけど」
「何でしょう? またマコモさんにお届け物ですか?」
「違うわ。あなたのことだから、トウコちゃんが誘拐されたと聞いてジッとして居られないんでしょう? だから……これを機に、旅に出てみたらどう?」
「旅……ですか」
「トウコちゃんやトウヤくんは、14歳で旅に出たけど、あなたは恨みを買った者の身内として力をつける必要があるわ。今後、あなたが誘拐される可能性もあるから。幸い、あなたは年の割にしっかりしているし、10歳だから資格もあるし、ポケモンも持っているし」
「うーん……。お母さん、良いって言ってくれますかね?」
「あなたのお母さんがダメだと言ったことがあるのか不思議なくらいだわ」
そう。お母さんは、「何事にも挑戦!」を信念に私達を育てているため、「お姉ちゃんと一緒にヒウンシティに行ってきてもいい?」「いいわよ」、「今日野宿してみるから」「わかったわ」、「ああ、そういえば明日からソウリュウシティに一週間泊まることにしたから。途中、すごく危険な場所にも行ってみるの」「あら本当。怪我には気を付けてね。あ、あとお土産お願いできる?」とこんな具合である。どんな無茶ぶりも許可してくれる、子供としては是非とも欲しいおおらかなお母さんである。
ライブキャスターで一応聞いてみれば、二つ返事で許可を取ることが出来た。一日一回、お兄ちゃんかお母さんに連絡を入れることだけ守ればいいと言う。
「じゃあ、あなたの相棒のバチュルのメディカルチェックを一応していきましょう。あと、新人用のポケモンも一体あげるわよ」
「本当ですか? ツタージャでお願いします」
「言うと思ったわ。ちょっと待っててちょうだい」
私の肩に乗っていたバチュルを連れて、アララギ博士は研究所の奥に入って行った。その間に、急いで帰宅し、旅支度を整えて研究所へ戻る。
ちょうどメディカルチェックを終えたらしいバチュルが、肩によじ登ってくる。その足を軽く撫で、アララギ博士からモンスターボールを受け取る。
「お望み通り、中にはツタージャが居るわ。トウコちゃんの妹なんだし、特に手助けしなくても大丈夫そうね。じゃ、いってらっしゃい」
「ありがとうございます。じゃ、行ってきまーす」
私、リコは、このようにして旅に出ることになった。