問題児たちと昆虫館が異世界から来るそうですよ?(リメイク)   作:薄翅蜉蝣

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どうも、七星天道です。

それでは、本編どうぞ


第一話 大地脱走と植物園

「――――あ、あり得ない、あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も……ってあれ? 終始ニヤニヤしていた殿方がいませんでしたか?」

 

 黒ウサギに問われ、十六夜達三人ははっとする。大地の姿が見えないのだ。

 先程までいたはず、と思い返してみる。しかし、いつまでいたか、という正確な情報は全く三人の頭には浮かばなかった。

 

(ハッ! アイツ、想像以上に面白いな)

 

 自分に気配を悟られず姿を消した者は初めてだった。十六夜は身体の内から沸き上がるような興奮を覚える。大地の身体能力に掛け値なしに感服した。感動に素直に生きるのが快楽主義者の生き方だ。

 黒ウサギはというと、心底慌てていた。この付近の森では外の世界よりも遥かにファンタジックなことがいとも容易く起こる。とても“ただの人間”が耐えられるような場所ではなかった。本来なら今すぐに助けにいきたいが、十六夜たちをおいていく訳には行かない。黒ウサギは腹を括った。

 

「仕方ありません。とりあえず今は皆さんだけでも安全地帯まで連れていくことにします。この世界についての説明は移動しながらにしましょう」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ふう、地球よりも空気が美味しいなあ」

 

 黒ウサギがあわてふためいている丁度その頃。大地は呑気に散歩を楽しんでいた。

 地球とは全く違う空気、景色、その他諸々。

 中でも彼の興味を惹いたのは、虫だった。ここの虫は本当にいきいきとしている。彼は早くも箱庭に来て良かったと感じ始めていた。

 ふと、自分を見る視線を感じ、振り返る。そこには、一人の小柄な少女が立っていた。

 大地は彼女に見覚えがあった。………と言うよりも、よく見知った相手だ。

 

「お、お久しぶりです、εντμα」

 

 その相手は控えめに声を掛けた。もともと引っ込み思案な性格なのか、声も小さい。

 

「その名前はもう捨てたんだよ、φυτον。とりあえず今は緑ヶ原大地って名乗ってる。改めてよろしく」

「なら私もちゃんと今の名前で呼んでください。私は瀧華(たきはな)花菜(はな)です」

「そう、じゃあ花菜って呼ばせてもらうね。よろしく、花菜」

「はい、よろしくお願いしますです、大地」

 

 花菜は笑顔を浮かべて軽く会釈をする。その笑顔はまさに花が咲いたような笑顔だった。

 そこではっと自分の目的を思い出し、顔を引き締める。

 

「その、本題ですが」

 

 気を取り直すように咳払いを一つ。

 

「大地。私たちのコミュニティに入るつもりはないですか?」

「コミュニティ? なにそれ?」

「ぇ?」

 

 聞きなれない単語に首をかしげる大地。花菜は一瞬きょとんとした顔になるが、大地がこの箱庭に来て間もないことを思い出して得心する。

 

「ぇと、コミュニティっていうのは、この箱庭で生活するための共同体みたいなものです」

「なるほど。じゃあここで生活する奴らはみんなどこかのコミュニティに属してるの?」

「絶対………とまでは言いませんが大半は何らかのコミュニティには属しています。コミュニティに入ることで箱庭で活動するための“名”と“旗印”が手に入ります」

「じゃあもう一つ。名と旗印があるとどんな利点がある?」

「主にギフトゲームで名があるほうが遥かにゲームをしやすいです。名無しはあまり好かれません」

「ギフトゲームって?」

「え、えーと、ギフトゲームはですね、要するに力のぶつけ合いです」

 

 もともと喋るのが得意ではない花菜は、大地の度重なる質問に頭がショートしかけていた。もともと彼女の任務は説明ではなく勧誘。ある程度の知識は持っているだろうと踏んでこれを引き受けたのだ。まさか完全に無知とは全く持って想定外である。

 

「ま、まあ、細かいことは私たちのコミュニティに来てからお話しますからっ」

「うーん、まあでも一応別のコミュニティ?に呼ばれたんだし、そっちに入るつもりだよ」

 

 花菜は少し困ったような顔になる。しかしすぐに厳しい眼差しを大地に向けた。

 

「………そうですか。なら仕方ありません。好きではないですが『力づく』で行きます」

 

 突然花菜の霊格(そんざい)が肥大した。

 

「っ!」

「すみません、隠していたわけではないのですが。まだ大地に言ってないことがあります。それは、“魔王の存在”。我ら魔王は天災と呼ばれ、恐れられています。では、今からわれわれが恐れられている所以……『ゲーム』をしましょう」

 

 刹那、漆黒の契約書類(ギアスロール)が吹き荒れた。

 

 

『ギフトゲーム名“植物の社”

 

 ・プレイヤー一覧 緑ヶ原大地

 

 ・ゲームマスター 瀧華花菜

 

 ・ホストマスター側勝利条件

  プレイヤーの打倒

 

 ・プレイヤー側クリア条件

  一、ゲームマスターの打倒

  二、“植物園”の打倒

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します

                                   “ゲービオス”印』

 

 

「さあ、久しぶりの闘争。気張って行きます!」

「へえ、花菜(φυτον)はもっと賢明だと思ってたのになあ。……植物園()()()が五館最強とまで謳われたこの昆虫館()にいどむなんてね」

 

 大地はニヤニヤ笑いを消しはしないが、その目には闘志が燃えていた。

 『ごとき』とまで言われた花菜は少し怯むが、しかし明確な敵意を持った視線で大地をにらみ返す。

 

「私だって魔王のはしくれ。まだ自分の力すら理解していない貴方に負ける筋はない!!」

「ふーん、ずいぶん偉くなったもんだね、植物園(φυτον)。………俺もまだ()()()()()()()()()()()

 

 ぞくり、と花菜に悪寒が走る。

 ………もはやどちらが魔王なのかもわからない。それだけの威圧が今の大地からは窺えた。

 

「っ………! 先手はもらいます」

 

 おもむろに手を振る花菜。

 すると、地面から次々と柔軟な蔦が伸びて大地を襲った。が、

 

「こんなので俺が倒せると思ってるなら心外だよ。全然足りないね」

 

 その攻撃が大地に届くことはない。彼の前には、おびただしい数の()が姿を現していた。

 花菜の蔦はその虫の壁に触れると同時、その原形を保てなくなり消滅する。

 

「まだまだ!!」

 

 花菜もこれで倒せるとは思っていなかった。花菜は右手に鞭を顕現させ、大地に振るう。

 大地は先ほど同様虫の壁でうけ止めるが、今回崩壊したのは大地の盾の方だった。

 

「つぅ!」

 

 すんでのところで花菜の攻撃をかわす。

 得体のしれない武器に大地は戦慄した。

 

()花菜(植物)が突破した? ―――っ! 食虫植物か!!)

 

 大地に考える時間を与えては、花菜に勝ち目はなくなってしまう。本来ならそれほどまでに力の差はあるのだが、いかんせん突然の事である。大地は正確な対処を行えずにいた。

 

「このまま一気にたたみかけます!!」

「………。もういいや」

 

―――考えすぎる必要なんてないじゃん。

 そして大地は深く息を吸う。

 

「蠢け、幾千の蟲達よ」

 

 空気が、変わった。

 

「我らが地球に於ける最強の命よ」

「ま、まずい!!」

 

 花菜は大地のやらんとしていることを悟り、顔を青くする。

 次は自分のターンだと、大地は目でそう告げていた。

 

「己が力を持って、外敵を排除せよ!!」

 

 今回現れた虫は『バッタ(Locusta migratoria)』。その霊格は異様な広がりを見せる。

 それもそのはず、大地が呼んだバッタは一匹ではない。

 バッタの“群れ”。神話でも語られた、蝗害(こうがい)と呼ばれるバッタの群れは、時としてその総数が五百億を超える。そしてその道中にある田畑を食い荒らし、壊滅へと導く。

 

「………っ」

 

―――ああ、もうだめだ。

 迫りくるバッタの群れを見ながら、花菜は静かに敗北を受け入れる。いくら新しい植物を生み出したところで、相手の底が尽きることなどまずない。生物最高の絶対数は伊達ではない。

 

「終わりだよ、植物園(φυτον)

 

 花菜に飛びかかったバッタたちは、花菜の霊格を喰らい、植物園の力を貪った。

 そして、ギフトゲームの勝者が決定した。




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