問題児たちと昆虫館が異世界から来るそうですよ?(リメイク) 作:薄翅蜉蝣
正体不明のただの風邪にてしばらく投稿できませんでした。申し訳ありません。
それでは、本編どうぞ
「で、どうやって帰ればいいんだろうね」
とりあえず花菜に勝利した大地だが、箱庭の地理に詳しいわけもなくただただ立ち尽くす。
と、その横から小さく声がかかった。
「だ、大地」
そう、先ほど大地に敗北を喫した花菜である。
大地は一瞬身構えるが、花菜の目に敵意がないことを確認し、臨戦態勢を解いた。
「……なんでいるの?」
「え、えと。要約すると、大地が私に勝ったからです」
「もっと詳しく」
花菜は困った顔になり、うんうんと唸って頭をひねる。
「大地は隷属って知ってますか?」
「えっと、他の支配を受けてそのいいなりになること、だったっけ?」
「そう、それです。私は今大地に隷属しているんです」
「へ?」
「魔王のゲームに勝った場合、条件によって魔王を隷属させることができます」
「ふーん。で、俺はその条件を満たしたと」
「そういうことです」
ちゃんと説明ができて表情を明るくする花菜。
隷属ってそんなに簡単にできるものなのだろうか。首を傾げる大地だが、『花菜も嬉しそうだしま、いっか』と思ってしまう辺りこいつもなかなか変わった奴である。
――場所は箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベッド通り・噴水広場前。
箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段の前。
十を超えたばかりと思しき一人の少年が、これからやってくる同士の事を考えて期待に胸を弾ませていた。
彼の名前はジン。ダボダボのローブと跳ねた髪の毛が特徴的だ。
(これからやってくる同士は、僕らのコミュニティを救ってくれるだろうか)
現在、ジンのコミュニティは――身も蓋もなく言ってしまうと――崖っぷちだった。
コミュニティのメンバーは黒ウサギを除いてジンよりも幼いものばかり。
諸事情により黒ウサギはリーダーになれないため、必然的に彼がリーダーに就いている。
「ジン坊ちゃん! 新しい方をお連れしました!」
ジンははっと顔を上げる。見れば、黒ウサギの後ろから二人の女性が歩いてきていた。
黒ウサギの顔色は良くない。何かまずいことでもあったのだろうか。
「お帰り、黒ウサ――」
「ジン坊ちゃん! 殿方が一人がはぐれてしまわれたので黒ウサギは迎えに行ってまいります。ですのでこちらの皆さんを案内しておいていただけませんか?」
「分かった。じゃあ、そちらの女性
「はい。こちらのお三人様を――」
クルリ、と振り返る黒ウサギ。
カチン、と固まる黒ウサギ。
「……え、あれ? もう一方いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」
「ああ、十六夜君の事? 彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言ってかけだしていったわ。あっちの方に」
あっちの方。それは、十六夜が見た世界の果て。
街道のド真ん中で呆然となる黒ウサギ。
しかしすぐにハッと我を取り戻して飛鳥と耀を問い詰める。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!?」
「“止めてくれるなよ”と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」
「「うん」」
ガクリ、と前のめりに倒れる。新しい人材の二人ははぐれ、残りの二人も例外なく問題児だ。新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が妬ましい。
ここまで問題児ばかりを掴まされると何らかの悪意を感じてしまう。
そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは蒼白になって叫んだ。
「た、大変です! “世界の果て”にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣の総称で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。とても人間が太刀打ちできる相手ではありません!」
「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー? ……斬新?」
「冗談を言っている場合ではありません!」
ジンがことの重大さを訴えるも、二人は肩を竦めるだけ。
黒ウサギは召喚して早々二人の同士に逃げられたことに頭を抱えた。
「はあ……ジン坊ちゃん。流石の黒ウサギも我慢の限界です。今から問題児達を捕まえに参ります。ことのついでに――“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやるのですよっ!!」
ショックから立ち直った黒ウサギは、怒髪天を衝く勢いで怒りのオーラを噴出させ、その髪を緋色に染め上げていく。外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆けあがり、外門の柱に水平に張り付く。
「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能して下さいませ!!」
柱から全力で“跳び”立った黒ウサギは、あっという間に三人の視界から消えた。
残された二人はジンと軽い会釈をし、箱庭の中に足を踏み入れるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「花菜、ちょっと相談が」
「? どうしたんですか?」
花菜はコクン、と首を傾げる。
「俺たちって今までどこに向かって歩いてたの?」
「――へ!?」
花菜、絶句である。それもそのはず、大地は今までまっすぐ、ひたすらまっすぐにここを歩いていたのだ。……それこそ明確な意思があるかのように。
今まで進んで来たのが真反対の方向だったら、と思うと思考がフリーズするのも仕方ないだろう。
「さて、どうしたものかな」
「どうしたものかなじゃないで―――っ誰かきます!!」
言うと同時、花菜は一瞬にして一本の杖へとその姿を変える。その早業に思わず大地も驚嘆の声を漏らした。
「すごいね、素直に感心するよ」
〈まあ、私たち魔王は正体がばれるのをよしとしませんから〉
「見ィィつゥゥけェェましたよ一人目のお馬鹿様っ!!」
―――杖に変わってもしゃべれるんだね。大地の声にかぶさるように赤い何かが地面にめり込まんとする勢いで落下してきた。
無論、我らが黒ウサギである。
黒ウサギは足早に大地に歩み寄り、猛烈に、それはもう猛烈に抗議の声を上げる。
「大地さん!! 何で逃げたのですか!!」
「んー、なんとなく?」
スパアアアアン!
どこからか取りだしたハリセンが大地にクリティカルヒット。
大地は頭をさすりながら、
「ここ、どこ?」
「ここは箱庭の外側にある森です。はぁ、なんでこんな問題児ばっかりっ……!」
何やら黒ウサギはお疲れの様だった。
「どんまい?」
「誰のせいですか!?」
「自業自得とか」
「そんなわけないでしょうお馬鹿様!!」
再び黒ウサギのハリセンがヒット。扱いが雑ではないか、と不満に思う大地だが、それこそ自業自得なので仕方がない。
「で、俺はどうしたらいいの?」
「大地さんはひとまず先に箱庭に向かってください。ここをまっすぐあちらに向かえば分かるはずです。くれぐれも! 不用意にギフトゲームに挑まないでくださいね!」
さすがにもう挑みましたとは言えない。とりあえず大地は言葉を濁した。
「わかったわかった、わかったわかった」
「なんで四回も言ったのですかっ!? 全く信用できないんですが!?」
「大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫」
懐疑的な視線を向けられるも、張り付いたニヤニヤ笑いで表情を読ませない大地。
諦めた黒ウサギはため息をつき、くれぐれも気をつけてくださいね! と言って去っていった。
黒ウサギが去っていくと同時、花菜は姿を現す。
「て、テンションの高い人でしたね」
「俺たちも行こう。でも歩くの疲れたから翔んでいこう」
「え……?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いいいぃぃぃぃいやあぁぁぁぁあ!?」
「ははははは! やっぱ翔ぶと速いねえ!!」
大地と花菜は箱庭に向かっていた。………付け加えると、限りなく光速に近い化け物じみたスピードで飛ぶ、鞍も手綱もない“トンボ”に乗って。更に補足すると、二人が振り落とされることはなかった。真の化け物は二人の方である。
並の絶叫マシンでは到底味わえないスリルを伴う飛行機(仮)は、瞬く間に箱庭の入り口にたどり着いた。
「さ、入ろう」
〈うぅ……ひっく……もうあんな乗り物は二度とごめんです……ぐす……〉
多大なるショックを受けた花菜は杖に姿を変えて元に戻ろうともしなかった。
箱庭に一歩を踏み入れる。そこには、外側ではありえないほど整備された街並みが広がっていた。
大通りにはたくさんの人が行き交う。人間でない種族も多くいるようだ。
ふと空を見上げると、天幕で覆われているはずのそこに太陽が燦々と輝いていた。
「すごいなぁ、これってどうやってんの?」
〈箱庭の天幕は内側からは不可視なんです〉
ふむ、と納得する大地。その目には純粋な好奇心の色が浮かんでいた。
「とりあえず二人を探しながら見物でも―――」
「あら、大地君じゃない」
箱庭に入って僅か数十秒。飛鳥と耀はいとも簡単に見つかった。大地は内心で少し肩を落とした。
二人と共に小柄な少年が歩いている。彼が黒ウサギのコミュニティの関係者なのだろうか。
「ジン君、彼は私たちと一緒に召喚された大地君よ」
「緑ヶ原大地だよ。よろしくね」
「こ、コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします」
「十一歳でリーダー。それはすごいね」
「い、いえ。僕はまだまだ未熟ですので」
大地は少年の謙虚さには好感をもった。―――同時にひとつの疑問も浮上した。
「大地君。これからお昼でも頂こうと思っているのだけど、一緒にどう?」
「うん、じゃあ俺も同席させてもらうよ」
「そう。じゃあジン君お勧めの店を紹介してくださる?」
「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので………良かったらお好きな店を選んでください」
「それは太っ腹なことね」
その時、杖から控えめな声が響く。花菜だ。
〈え、えっと大地、私はこのままの方がいいですか?〉
他の三人からの反応はない。聞こえなかったようだ。
不審に思われるのもアレなので、大地は小声で返す。
「体の状態の話なら、楽な方でいいと思うよ」
〈分かりました。じゃあしばらくこの姿でいます〉
あ、戻りたかったわけじゃないの、というツッコミをグッとこらえて大地は軽く首肯するのだった。
四人(花菜を含めると五人)と一匹は身近にあった“六本傷”を掲げるカフェテラスに腰を落ち着かせる。
注文を取るために店の奥から素早く飛びだしたのは、猫耳の少女だった。
「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」
「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと」
『ネコマンマを!』
「はいはーい。ティーセット三つにコーヒーセット一つ。それとネコマンマですね」
そこで飛鳥とジンは不可解そうに首を傾げ、大地は少し驚いたように眉を上げる。しかしそれ以上に驚いていたのが春日部耀だった。信じられない、といった表情で猫耳の店員を問い詰める。
「三毛猫の言葉、わかるの?」
「そりゃー分かりますよー。私は猫族なんですから。じゃあ御客さん、すぐにお料理お持ちいたしますね」
猫の店員は誇らしげに胸を張り、注文を伝えるために店内に戻っていく。
その後ろ姿を見送った陽は嬉しそうに笑って三毛猫をなでた。
「箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」
『来てよかったなお譲』
「やっぱり耀も猫と会話できるんだね」
「ちょ、ちょっと待って。大地君、今、“も”って言ったわよね?」
飛鳥は、何気なく大地が言った言葉に反応を示す。見れば耀もジンも興味を持ち、目で『どういうことなのか』と問いかけていた。
大地はやっちゃったなー、と舌打ちをする。なるだけ面倒くさいことは避けたい性格なのだ。
「あ-、うん。俺も動物と会話できるよ」
「ホント!?」
大地の言葉に一番食いついてきたのは耀だった。あまり感情を表に出さない彼女としては珍しく、熱のこもった目で大地を見る。
「あー、うん。だって俺もそこの三毛猫さんの言葉わかるし。よろしくね、三毛猫さん」
『ほう、よろしくな、大地の旦那』
ジンは興味を持ち、一つの疑問を口にする。
「えーと、大地さん、耀さん。もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」
「うん、生きているならだれとでも話はできる。えーと、緑ヶ原くんは」
「大地で大丈夫だよ」
「わ、わかった。大地はどう?」
「基本的に誰とでもしゃべれるかな」
「それは素敵ね。じゃあ二人はそこに飛び交う野鳥とも会話が?」
「うん、きっと出来………る? ええと、鳥で話したことあるのは雀や
「ペンギン!?」
「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカたちとも友達」
飛鳥とジンは耀の声を遮るように声を上げる。まさかペンギンと会話をする機会があろうとは思わなかったのだ。
「………二人は素敵な力があるのね。羨ましいわ」
飛鳥は少し
「ええと、飛鳥はどんな力を持っているの?」
「私? 私の力は………まあ、酷いものよ。だって」
「おんやぁ? 誰かと思えば東区画の最低辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はお守の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
品の無い上品ぶった声がジンを呼ぶ。振り返ってみれば、2mを超える巨体をピチピチのタキシードに包んだ変な男がいた。不覚にも………本当に不覚にも変な男はジンの知った者だ。
「僕らのコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」
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