問題児たちと昆虫館が異世界から来るそうですよ?(リメイク)   作:薄翅蜉蝣

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どうも、七星天道です。

期間が開いたのは、再発した風邪と試験勉強のせいです。すみませんでした。

それでは、本編どうぞ


第三話 ガルド・ガスパー

 致命的なまでにピチピチなその男―――ガルド・ガスパー―――は、無遠慮にも大地たちの座っていたテーブルに無断で腰掛ける。その行動に苛立ちを覚えた者が一人。

 

「ねえ、あなた? 失礼ですけど、同席を求めるのなら氏名を名乗ったのち一言添えるのが礼儀ではなくて?」

 

 そう、飛鳥だ。

 『箱入りのお嬢様』という極めて特異な出生の彼女は、ことに礼儀作法の面では厳しかった。

 彼女に睨まれたガルドは、少し肩をすくめて自己紹介を始める。

 

「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である」

「烏合の衆の」

「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!! 誰が烏合の衆だ小僧!!!」

 

 ジンの茶々にガルドの顔は急変する。口は裂け、耳まで割れる。それはまるで肉食獣。

 その獰猛な瞳がぎょろりとジンに向けられる。

 

「口慎めや小僧ォ………紳士で通ってる俺にも聞き逃せねえ言葉はあるんだぜ………?」

「森の守護者だったころの貴方なら相応に礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの二一〇五三八〇外門付近を荒らす獣にしか見えません」

「ハッ、そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらんだろうがッ! 自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できんのかい?」

 

「あのさ、ちょっと黙ってくれるかな? 俺、お前らの喧嘩に興味ないんだよね」

 

 二人の間に割って入ったのは大地だった。

 彼にしては珍しくニヤニヤ笑いを消し、怒りをあらわにしていた。

 

「そんなしょうもないこといいからさ。一個質問してもいい?」

 

 大地は()()に視線を向ける。

 彼の眼に、初めて真剣な色が混ざる。

 

「ジンのコミュニティって、崖っぷちなんだよね?」

「ッ!!」

 

 まだそこに所属していない者の言葉としては、度が過ぎるほどストレートなものだ。場合によっては非礼ともとられかねない。しかし、間違っていないためにジンは何も言えない。

 そこに、飛鳥も声を重ねる。

 

「貴方は自分の事をコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティの説明をするのが道理ではなくて?」

 

 大地も耀も同調するように頷く。

 しかし、ジンはそれに反応しない、否、出来なかった。

 それを見て、ガルドはしたり顔で切りだす。

 

「それについては、私からお話ししますよ」

「あら、そう? じゃあ、お願いするわ」

 

 そしてガルドは、大仰な身振りで説明を始めた。

 

「コミュニティとは、読んで字のごとく複数名で作られる組織の総称です。コミュニティとして活動するためには、名と旗印を申告する義務があります。特に旗印は、自分たちの縄張りを主張する意味でも、非常に重要なものなのです」

「そうだろうね。ある程度の群れを組織しようと思ったら、それなりのシンボルは必要だろうし」

「その通りです。そしてその“群れ”を大きくしたければ、他のコミュニティに、両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいい。現に私のコミュニティはそうやって大きくしましたから」

 

 ガルドは自慢気に自分のタキシードに刻まれた旗印を指差した。

 そこには、街の各所に配置されているものと同じような、虎の紋様をモチーフにした刺繍が施されている。

 それはつまり、この付近のコミュニティがほとんどすべて彼の支配下にあるということを示していた。

 気分の良くなったガルドは、クックッと嫌味を込めた笑いを浮かべ、さらに続ける。

 

「さて、ここからが皆様方のコミュニティの話です。ほんの三年前までは、彼らのコミュニティはこの区画で絶大な力を持つ、この東区画最大手のコミュニティでした」

「へえ、それはちょっと意外な話だね」

「………とはいえ、リーダーは今とは違ってとても優秀な人間だったのですがね」

 

 話しながら、ジンの事を皮肉げにみる。

 しかし、ジンはますます表情を沈ませるばかり。

 気を良くしたガルドは、ますます語りに熱を込めていく。

 

「彼はただの人類でありながらさまざまな功績を残しました。もう嫉妬を通り越して尊敬してしまったほどでしたよ。しかし彼らは、ついに敵に回してはいけないものに目を付けられた。そう、彼らは箱庭最悪の“天災”に滅ぼされたのです」

「天災?」

 

 事情を知らない飛鳥、耀の二人は、同時に聞き返す。そこまで巨大な組織を滅ぼしたのがただの天災というのは、些か不自然に思えたのだ。

 

「此れは比喩にあらず、ですよ。彼らは箱庭唯一にして最悪の天災、俗に魔王と呼ばれるものたちです」

 

 思わず大地は手に持った杖―――花菜―――を見る。

 

〈わ、私じゃないですよ! 私は基本的にコミュニティを襲うなんてことはしませんからっ〉

「そう、ならいいよ」

「………大地、どうかした?」

 

 大地の独り言を不審に思った耀は、少し首を傾げる。

 耳もいいんだな、と大地は少し苦笑して首を振った。

 

「いや、なんでもない。ところでガルド、お前に聞きたいんだけど、魔王って強いの?」

「それはもちろん。差異はあれど、本来ならとても人類が勝てる相手ではないのです」

「ふーん、そう。魔王ってそんなになんだ」

「いえ、少し語弊がありました。訂正しましょう。彼らが恐れられている所以、それは彼らの直接的な強さだけでなく、彼らの持つ特権階級『主催者権限(ホストマスター)』によるものも大きいです」

「ホストマスター?」

 

 三人は聞きなれない言葉に、再度声を揃える。

 

「はい。ホストマスターとは、ギフトゲームの強制権のようなものです。これさえあれば、どんなに相手に不利なゲームでも強制的に参加させることができるという代物です」

「なるほどね。大体理解したわ。つまり“魔王”というのはこの世界で特権階級を振り回す神様etc.を指し、ジン君のコミュニティは彼らの玩具として潰された。そういうこと?」

「そうですレディ。今や彼らのコミュニティは、魔王のゲームに敗北し、旗印も主力陣の全てさえも失った名も無きコミュニティの一つでしかありません」

「はぁ。もう御託はいいよ。で、結局俺たちにどうして欲しいの?」

「それは話が早くて助かります。では単刀直入に言いましょう。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」

「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー⁉︎」

 

 怒りのあまりテーブルを叩いて抗議するジン。

 しかしガルドも負けじと獰猛な瞳で彼を睨み返した。

 

「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残っていたはずだろうが。それを貴様の我が儘でコミュニティを追い込んでおきながら」

「あ、もういいよ。今さらどれだけ貶めたって、初めから評価なんて最悪なんだし」

「っ………」

「では、私の案をご快諾頂けると?」

 

 ジンは唇を噛み、後悔の色を見せ、ガルドは満面の笑みで勝利の余韻に浸る。

 大地はそんな二人の姿を不思議そうに見て、得心いかずに首を傾げる。

 

「バッカじゃないの? そんなわけないじゃん。お前ら、なんか取り違えてない?」

 

 は? とジンとガルドは大地の顔をうかがう。

 大地は二人のことなど気にも止めずに飛鳥と耀に振り返った。

 

「二人はどう? 俺の意見に賛成してくれる?」

「ええ。だって私はジン君のコミュニティで間に合っているもの」

「私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」

「だったら俺が友達第一号ってことでどうかな?」

「あら、先をこされたわ。なら私は第二号でいいかしら?」

 

 大地は笑顔で、飛鳥は気恥ずかしそうに耀に問う。

 耀は無言でしばし考えた後、小さく笑って頷いた。

 

「………うん。二人は私の知る人たちとはちょっと違うから大丈夫かも」

『よかったなお嬢………お嬢に友達ができてワシも涙が出るほど嬉しいわ。ありがとな、大地の旦那、飛鳥の姐御』

「あはは、俺も耀と友達になれて嬉しいよ」

「私もよ。これからよろしくね、春日部さん」

 

 完全にリーダー達そっちのけで盛り上がる異世界組。ガルドは顔をひきつらせながらも、取り繕うように咳払いをして尋ねる。

 

「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」

「………それは、印象が最悪な理由? それともジンのコミュニティを選んだ理由?」

 

 大地は笑顔を崩さない。しかし、その笑顔は、何処か寒々としていた。

 言っても本当に後悔しないのか。

 大地は何も言わずにそう告げているようだった。

 

「え、ええ。ではこの小僧………ジン=ラッセルのコミュニティを選んだ理由をお願いします」

「そう。じゃあ言わせてもらうよ。理由は、飛鳥の言った通り“間に合ってる”から。だからお前についていく意味がない」

「っしかし………」

「まあ、普通それだけじゃ納得しないよね。じゃあ、特別にお前の評価が最悪な理由も教えてあげるよ。それは、お前が“殺し”をやっているから」

「っ!?」

 

 これには、その場にいた全員が息を呑んだ。

 気の強い飛鳥や表情をあまり出さない耀さえも顔をひきつらせた。

 周囲の視線がガルドに集まる。

 

「ねえ、お前、女の人とか子供とか殺したことあるよね?」

「し、失礼ですが、どこにそんな証拠があるんです?」

「証拠? お前の部下のお腹の中っていうのじゃだめかな?」

「っ! 黙れ黙れ黙れっ! お、お前が言っていることは全て妄想だっ!」

黙りなさい(、、、、、)

 

 飛鳥が声を上げたその瞬間、ガシャン、とガルドの口が不自然に閉じられる。

 彼女の放った言葉が、ガルドを締め付けているようだった。

 ガルドは不可解な現象に目を白黒させる。

 

「証拠なんて、貴方に直接聞いてみたらわかることだわ。そこに座って(、、、、、、)私達の質問に(、、、、、、)答え続けなさい(、、、、、、、)

「お、お客さん! 当店での揉め事は控えてくださ―――」

 

 異変に気がついた猫のウェイトレスがやってくるが、飛鳥はそれを手で制した。

 

「ちょうどいいわ、猫の店員さん。貴女も第三者として聞いていって欲しいの。多分、面白いことが聞けるはずよ」

 

 飛鳥は汚物を見るような目でガルドを見据える。

 そして軽く息を吸って、ガルドに正面から向かい合う。何があっても目をそらそうとしないところには彼女の心の強さを感じた。

 

「貴方はこの地域のコミュニティに“両者合意”で勝負を挑み、そして勝利したと言っていたわ。………ねえジン君。コミュニティそのものをチップにゲームをすることは、そうそうあることなの?」

「や、止むを得ない状況なら稀に。しかし、コミュニティの存続がかかるので、かなりのレアケースです」

 

 猫耳の店員も頭を振って肯定する。

 

「そうよね。訪れたばかりの私達でもそれくらいわかるもの。でもそれなら、なんで貴方はそんな大勝負を仕掛け続けることができたのかしら?」

「き、強制させる方法は様々だ。女子供を攫って脅迫すれば、大抵はのってくる。逆らえないようにするために、吸収したコミュニティからは、数人ずつ子供をとった」

 

 飛鳥は冷や汗を垂らしながらも、つとめて気丈にガルドに尋ねる。

 

「それで、子供達は今どこに?」

「もう殺した」

 

 ―――空気が凍った。

 猫の店員も、周りの客も、耀や飛鳥やジンさえも、呼吸すら忘れ唖然としていた。―――ただ一人、大地を除いて。

 

「うん。知ってる」

 

 その瞬間、彼の霊格(そんざい)は肥大し始めた。

 あまりの威圧に、飛鳥の命令通りに言葉をつづけようとしていたガルドも口を閉ざす。

 

「あー、もうだめだ。我慢の限界だよ。ここで始末しちゃってもいいんだけどさ、」

「っ!」

 

 刹那、ガルドの首筋にひやりとしたものが当たる。

 それは鎌のような鋭利な刃物。

 

「流石に迷惑掛かりそうだし、ここは、箱庭らしくいこうか」

 

 大地は鎌をおろし、一歩引く。―――その行動にガルドは幾分か安心した。

 そして鋭い目つきでガルドを見据え、

 

「俺たちとゲームをしようよ。お前の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を掛けて」




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