ストライク・ザ・ブラッド〜呪われた禍具〜 作:白い悪魔
さて、やっと1話目突入だぜ!
真夏の森―――
深夜の神社境内を煌々と燃える篝火が照らし、拝殿には月光が儚げに差し込んでいた。季節を忘れ去るほどに空気が冷たいのは周囲に張ってある結界のせいであろう。
虫の音すら聞こえなくなった完全なる静寂。
そんな社の拝殿の中央に、少女が座っていた。細身で華奢だが、儚げの印象はなく、鍛えられたような刃のような、しなやかな強靭さを感じさせる……そう、まるで名のある名刀の様な雰囲気を出している少女だ。
そんな少女の、その眼前には御簾に遮られて姿は見えないが、『三聖』と呼ばれる獅子王機関の長老たちが座っている。
いずれも最高位の魔術師、霊能力者である。少女は緊張しているのか、無意識に制服の袖口を強く握り締めていた。
「名乗りなさい」
三聖から少女へ向かって声がかけられる。口調は厳かだが、冷血さは感じない。だが、たったそれだけの言葉なのにもかかわらず、その威圧は計り知れなかった。
「姫柊です。姫柊雪菜」
緊張で震えたような声が一瞬遅く響く。だが、御簾の向こうにいる女は構わず質問を投げかける。
「良い返事です。――時間が惜しいので、本題に入りましょう」
「はい」
「まずは、これを」
御簾みすの隙間から一羽の蝶が現れ、雪菜の前で止まると、一枚の写真へ変わった。
映っている人物は、高校の制服を着た男子生徒だ。
「この写真は?」
「暁古城というのが、彼の名前です。 知っていますか?」
「いえ」
雪菜は首を左右に振った。
「そうですか……話を戻します。あなたが剣巫の資格を得るためには本来ならあと四ヶ月の行を修めねばなりませんが、事情が変わりました。」
「事情…ですか…」
「はい。事情です」
その言葉を一言も逃すまいと彼女は耳を傾け真剣な表情で三聖を見つめる
「第四真祖という言葉に聞き覚えはありますか?」
雪菜は息を呑んだ。まともな攻魔師ならばその単語を聞いただけでしばらく沈黙するのは必然だ。
「焔光の夜伯(カレイドブラッド)のことですか?十二の眷獣を従える、四番目の真祖だと」
「その通りです。 一切の血族同胞を持たない。 唯一の孤独にして最強の吸血鬼です」
「ですが、第四真祖は存在しないと聞いています。 ただの都市伝説の類だと」
「確かに、公に存在が認められている真祖は三人だけです。 欧州を支配する忘却の戦王(ロストウォーロード)。 西アジアの盟主滅びの瞳(フォーゲイザー)。 そして南北アメリカを統べる混沌の皇女(ケイオスブライト)。――それに対して第四真祖は、自らの血族を持たず、ゆえに領地も持たない。 では、第四真祖が、公に出現したらどうなると思います?」
「ま、まさか、聖域条約が破られると!?」
真祖たちの間には、無差別の吸血行為を禁止する条約が結ばれているのだ。
そしてこれは、三つの夜の帝国(ドミニオン)の力関係が、極めて絶妙なバランスで成り立っている。
しかし、そこへいままで存在しなかった第四真相がいきなり出現すれば……まぁ、想像は容易いだろう。
「真祖たちが聖域条約の締結の応じたのは、数十年の間、真祖同士が互いに牽制し合う三すくみ状態が続いたからです。 もしそこに、彼らと同じ力を持つ者が現れたら、呆気なく均衡は崩れ、最悪、人類を巻き込んだ戦争にもなりかねません」
雪菜は、緊張した声音で聞いた。
「で、では、この写真の彼が?」
「ええ、そうです。 この写真に写っている男性が、第四真祖で間違えはありません」
「……第四真祖の居場所は、わかっているのですか?」
「確認はとれていませんが、ほぼ間違いないでしょう。……といってもわかっているのは学園の住所ぐらいですが」
「では、彼は、どちらに」
「東京都絃神いとがみ市……別名を人口島、ギガフロートの“魔族特区”です。そこにある学園、私立彩海学園高等部一年B組、出席番号一番。それが第四真祖たる暁古城の現在の身分です。――姫柊雪菜。あなたにはそこへ転校してもらい、第四真祖の監視役を命じます」
静かだが、有無を言わせぬ口調だった。
「わたしが……え?第四真祖が学生?それに、第四真祖の監視役?」
「ええ、もしあなたが監視対象を危険な存在だと判断した場合、全力を持ってこれを抹殺してください」
「ま、抹殺!?」
「ええ、そうです」
困惑から一変、雪菜は動揺して、言葉を荒げてしまった。何故なら、伝説や噂通りならその第四真祖はたった1人でいくつもの国と戦えるほどの実力とその身に眷属を持っているとされている。これまで数多の修行を耐え抜いた自身の力はあったとしても、所詮は巫女見習い。そんな自分なのに、そのような大きな大役が勤まるのか分からないし、仮に抹殺する事となっても自分が第四真祖と戦えるのかすらわからないのだ。
「受け取りなさい、姫柊雪菜」
巻き上げられた御簾の隙間から、何かを差し出された。
それは、一振りの槍だ。
「これは……」
「七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)です。 獅子王機関の秘奧兵器。 銘を、雪霞狼」
「これを……わたしに」
七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)……神格振動波駆動術式を刻印されており、魔力を無効化し、ありとあらゆる結界を斬り裂く破魔の槍。魔族にとっては天敵ともいえる凶悪な武装であり、吸血鬼の真祖をも殺し得るといわれている。
それは正しく魔族に対抗するために作られた獅子王機関が開発した武器だった。
ただし武器の核として古代の宝槍の一部が使用されているため、量産が効かず、世界に三本しか存在しない。いずれにせよ、雪霞狼は個人レベルで扱える中では間違いなく最強を誇る獅子王機関の秘奥兵器である。"人間の"が付くがな。
「これを…私に?」
差し出した槍を受け取りながら、雪菜は信じられないという表情で聞いた。
「真祖が相手ならば、もっと強力な武装を与えたいのですが、現状では、これが私たちに用意できる最強の武神具です。 受け取ってくれますね?」
「……っはい!ありがたく頂戴いたします」
そう返事をした雪菜の目にはやる気が溢れていた。厄介事ではあるが、誰かがやらねばならぬのである。
「……それともう一つ」
雪菜が早速動こうとして立ち上がりかけた時、また止められる。どうやら話は終わっていなかったようだ。
「それを見てください」
側近の召使いが雪菜に写真を見せる。
その写真に写っていたものは……切られた木々、あちこちにある大小のクレーター、崩れ落ちて形が変わった川、他の写真には何処かの崖にあった洞窟内で、コンクリートで作られた要塞の様な秘密基地、そこが無残にも砕かれ崩壊していた、その崩壊場所には何かで貫いたかのような跡、切り落とされた跡、砕き潰されたかのような跡などなど、まるで戦争でもしていたかのような痕跡が複数の写真に収められていた。
「それは全て同じ場所の違う角度から撮ったものだそうです。……何より、その跡を残した人物は1人だとか」
「……え?」
雪菜は驚いた。たった1人でこんな戦争跡のような状態を作ったのだなんて。いったいそれは何者なんだ…と。
「元々は世界でも有名な過激派テロ集団の一つだったそうですが、それが一夜にして壊滅。千人近い人数で獣人族で結成された組織がね」
雪菜はその言葉を聞いてさらに戦慄する。まず普通の人ならば獣人族で結成された部隊、それも千人もの相手を一夜で倒すなど攻魔士でも限られた人しか無理だろう。
「その様な相手が絃神島にいる可能性があります。充分気をつけてください」
「はい。了解致しました」
そうして雪菜の活動は開始された。
―――――――――――――――――――――――
八月最後の月曜日。天気は快晴である。
「熱い…焼ける。焦げる。灰になる…」
茜色に染まりかけた西の空から、午後のファミレスの中に向かって強烈な陽射しが降り注いでいる。そんな強烈な陽射しの影響で、窓際の席で男子生徒がぐったりと突っ伏していた。
「今、何時だ?」
苦悶の表情の男子生徒が洩らした。
「もうすぐ4時よ。あと3分22秒」
「……もうそんな時間なのかよ。明日の追試って朝9時からだっけか」
「今夜一睡もしなけりゃ、まだあと17時間と3分はあるぜ。間に合うか?」
暁古城(あかつき こじょう)。それが彼の名前だ。この男はとある事情で第四真祖…つまり吸血鬼へと変わった。しかし、そんな古城は当時の、つまり吸血鬼になった以前の記憶が無く、詳しいことは誰にもわからない。
それプラス、いまは訳あって補習の課題を片付けている。友人に手伝ってもらいながらだが
「くそ~何でこんなに追試があるんだよ…」
「そりゃお前がサボってばっかりだからだろ」
古城の呟きに短髪をツンツンに逆立てて、ヘッドフォンを首にかけた矢瀬 基樹(やぜ もとき)という男子が答える。
「あんだけ毎日毎日、平然と授業をサボられたらねェ。舐められてるって思うわよね、フツー…おまけに夏休み前のテストも無断欠席だしィ?」
優雅に爪を手入れ等をしながら、藍羽 浅葱(あいば あさぎ)という女子が笑顔で基樹に便乗する。二人とも古城の友人である。
「つーか無断欠席したのは不可抗力なんだって。色々事情があったんだよ。だいたい今の俺の体質に朝イチのテストはつらいって、あれほど言ってんのにあの担任は…」
苛ついた口調で古城が言い訳を始める。その目がかすかに血走っているのは、怒りではなく、単に寝不足だからである。
「体質って何よ?古城って花粉症かなんかだっけ?」
余計なことをいった古城の発言に浅葱が疑問を感じたので、慌てて誤魔化している古城を尻目に、ファミレスの料理を次々と口に頬張っていく人物がいた。
腰まである長い水色の髪に赤い瞳。見た目はまさに美少女な人物。だがしかし、彼女……いや、"彼"は男である。
「にしても相変わらず、良く食うよなお前…いったいその小さな身体の何処に栄養が回っているのやら」
基樹が彼(?)の食いっぷりに、感心しているのか呆れているのか解らない表情で話し掛けてくる。
「……モグモグ…ゴクン……そんな事言われても、これぐらい食べないと力でないもん」
美少女の様な少年…夜知響は頬を膨らましながらそう言った
「少なくとも、ハンバーグセットを一度に3皿食う奴はお前しか見たことねぇよ………それに、既に食べおわった料理が60皿を超えてるし」
彼…響の手元には残り4分の1となったハンバーグセットと、3分の2程残っているチーズ入りハンバーグとおろしハンバーグのセットがある。そして、そんな彼の周りには皿が山のように詰まれていた。
「そんだけ食べてそのスタイルなんだから、女として嫌になっちゃうわよねぇ」
「…………?」
浅葱が渇望の眼差しで響を見てくるが、見られている本人はなんの事だかわかっていないのか首を傾げている。
「……ああ、もう、本当に可愛いんだから。なんで男なのにもかかわらずこんな普通の仕草ですら萌えちゃうのだろう? それにしても、本当に性別を間違えて生まれてきたとしか言いようが無いわね」
「だよな。さすがは”戦姫(せんひめ)”だな」
基樹がそう言った瞬間――
ヒュン――スカッ!
「…………」(;・∀・)
基樹の顔をスレスレで何かが通り過ぎ背もたれに刺さった。基樹が恐る恐る振り返ると、そこにはファミレスのナイフが突き刺さっていた。
「……次、そのあだ名で呼べば当てます…よ?」
響が基樹を軽く殺気を放ちながら無表情で見つめる。そう言いながらも、また別のナイフを取り出し構える。
「は、ハハハ。話せばわかる。だからナイフを離してくれ」
「……………………フン」
基樹が冷や汗をかきながら諸手を挙げて降参の意を示すと、鼻を鳴らしながらナイフを離す響。
そもそも戦姫というのは、去年の文化祭のイベントにて夜知響のご家族提案のもと行われた模擬戦と、夜知家の巫女の舞を披露した事から、その戦う姿と見た目を敬う連中が勝手につけた名で、響にとっては実に不名誉であるようだ。ちなみに内心、もっと男らしいカッコイイ二つ名が良かったと思っていたりしている。
「でも実際校内じゃ先輩、後輩問わずにファンが多いぜ?ファンクラブもあるしな」
そう、夜知響はその容姿に加え華麗な戦いを見せ、さらに攻魔士の資格も持っている人物だ。そんな彼のファンクラブは校内は勿論のこと校外でも多くのファンクラブがある。
そんなファンクラブでつけられたあだ名は『戦姫』以外にも、『舞姫』『軍神』『現代の巴御前』『水色の攻魔士』『彩海学園の巫女様』等など……これ以外にも多くのあだ名をつけられているのだ。
「……ふーん」
「なんだ? 興味ないのか?」
「全然」
しかし、響はどうやらそこら辺はどうでもいいようだ。響にとってはそんな事よりもいま目の前にあるご飯の方が大事らしい。
「ま、俺は帰るわ。 宿題も写させて貰ったし」
「私も帰るわ。 てか、バイトの時間だし。 んじゃ、古城、響、またね」
「二人共、バイバイ」
「ああ、じゃーな響」
「あんたも早く帰りなさいよ?暗くなると危ないんだから。特に目の前には獣もいるしね」
「誰が獣だよ!?」
「アンタ以外に誰がいるっていうのよ、古城」
古城と浅葱がコントの様な言い合いをしている中気にせず帰った基樹。暫く言い合いしていたが最後は何を言ったのかはしらないが、浅葱に足のスネを蹴られ悶絶しているなか、『フン』と鼻を鳴らして帰っていった浅葱。そんな2人を仲良しだなぁ〜なんて呑気な考えで見ている響がいた。
―――――――――――――――――――――――
街が茜色に染まる夕方、太平洋のど真ん中にある絃神島にとってまだまだ蒸し返すような暑さが続く時刻である。
ファミレスから出てきた響と古城の2人はそんな暑い中を、古城のなけなしの小銭を消費しないために響も一緒に徒歩で帰宅していた。彼らは今、海沿いのショッピングモールを歩いている。
「にしても、この暑いのだけは勘弁してくんないかな、くそっ」
パーカーのフードを眼深に被って、日差しに抵抗しながら、古城は悪態をつく。
「ま、造られた都市だからな。仕方が無いぞ」
そして何気ない仕草で後ろの通りを確認し、古城が不快そうに眉をひそめた。
二人の視線にはファミレスから出た時に見かけた、ギターケースを背負った少女が、約十五メートル後方を歩いていた。
この少女は、彩海学園の制服を着ていた。 襟元がネクタイでは無くリボンという事は、中等部の生徒だろう。
つけられているのはわかっていても、流石に相手が何者かまでは判別出来ないか。
「尾けられてる……んだよな?」
古城が疑問形で言うのがよく分かる。
おそらく、彼女からしてみれば、気づかれていないつもりなのだろう。しかし、姿や尾行をしているということがばっちりわかる。むしろ、わからない方が間抜けと言えるようなお粗末な尾行であるほどだ。
「ん、それならあそこで様子を見る?」
「ゲーセンか、そうだな」
目に付いたゲームセンターに入って筐体ごしに入り口を覗く響達。尾行少女が慌てて入り口まで駆け寄って途方に暮れたように立ち止まっている。
「入ってこないね」
「ああ、何か警戒してねぇか?」
まるで得体の知れない物の見るよう警戒している尾行少女。
「「……」」
数分その状態が続き。やがて罪悪感に襲われた様子の古城が『はぁ』と長い溜め息をついて入り口へ歩き出す。
すると尾行少女が意を決したような表情で店内に入り、ばったりと鉢合わせした。
「「……」」
無言で見つめ合う両者。実にシュールである。響はちょっとそれをどういう結果になるのか面白そうに見ながらも、親友の古城が大丈夫か心配だった。
そして、どうにか先に反応したのは尾行少女の方であった。
「だ、第四真祖!」
彼女は上擦った声でそう呼ぶと、重心を落として身構えた。響もそれを見ていつでも出れるよう"武器"を取りだそうとすると古城が……
「オゥ、ミディスピアーチェ!アウグーリ!」
と大げさなアクションで両腕を広げだしたので思考を停止し固まる響。
「は?」
同じように予想外の事態に呆然と見上げてしまう尾行少女。
「ワタシ、通りすがりのイタリア人デス!日本語、ムツカシクテよくわかりマセン!アリーヴェデルチ!グラッツェ!」
エセイタリア語……いや、もはやイタリアどころか英語や日本語ですらない言葉で少女を言いくるめようとしてそのまま逃げる古城。そんな彼の姿を見た響は、『英語と国語…那月先生に頼んで補習増やしてもらおう』……彼の馬鹿さ加減に呆れながらそう思っていたのだった。
ふと気がついて後ろを見ると、尾行少女が不良と思われしチャラい男2人組に絡まれていた。
「ねぇねぇ、君。どうしたの?逆ナン失敗?」
「退屈してるんなら俺たちと遊ぼうぜ。俺ら、給料出たばっかで金持ってるから〜」
軽薄そうな声が後ろから聞こえた。どうやら響と古城と別れた少女…雪菜のことをナンパしようとしているらしい。雪菜は冷ややかな態度で男たちを追い払おうとしたが、そのせいか少々険悪な雰囲気になっていた。男の一人が荒っぽい声で怒鳴り、雪菜が刺々しい表情で言い返すのが見える。
「…ったく、いい歳こいて中学生に手ェ出してんじゃねぇよ……オッサンたち」
「仕方が無いな。男はみんな獣だと言うからな!だって、彼女可愛いじゃろ?それに、ああいう少女が古城の発情する対象なのだろう?」
「え゛なんで!?」
「…那月先生が言ってました」
あの二人は腕輪からして魔族である。ならば、大事に発展しないとは限らない。そういう意味でも、二人は少し焦っていた。
二人はため息を吐き、雪菜の方へ駆け戻ろうとする。
彼女のスカートがふわりとめくれ上がったのはその直後だった。
お高くとまってんじゃねぇ、という意味の暴言を吐き男のどちらかが雪菜のスカートをめくったのである。
突然目の前に出現したパステルカラーのチェック柄の布きれをガン見してしまった古城はビキリと動きを止める。響は男の手がスカートに向かっていたのを見えていたので咄嗟に目を瞑る。そうすることでスカートの中を見ることは避けたのだ。しかし、そんなことスケベの古城にできるはずがない。
「若雷っ‼︎‼︎」
雪菜が悲鳴のような口調で呪文を叫び、掌底を雪菜のスカートに手をかけていた憐れな魔族へと叩きつける。そしてその次の瞬間、事案を引き起こしたけしからん魔族はトラックやバスが直撃したかのようなスピードで吹き飛んだ。
古城には何が起こったのか理解しきれていない。古城がわかっているのは、雪菜がつきだした腕が男を一撃で吹き飛ばしたことのみであった。
「(ふ〜ん。あの動き、やっぱりただの少女じゃなかったんだな。あの年齢であの掌底――普通の少女ならあんなにも綺麗に決まらないぞ。それに僅かに感じる聖なる力……あのギターケースの中身から感じる。しかも、武器の形状は槍…かな?この波動の力なら真相クラスの吸血鬼でも倒せるぞ。いったい彼女を送り込んだ組織は何を考えているんだか……おおかた、彼女を送り込んだ奴らは獅子王機関あたりかな?…ふむ。と、いう事は獅子王機関から来たならあのギターケースの中身は七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)なのだろうか。)」
しかし、響はたった一撃の動作で相手の実力を把握。さらに雪菜が持ってきていた七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)を隠し入れていたギターケース。その中身も当てており、さらに雪菜の所属機関さえもあてていた。
「このガキ、攻魔師か!?」
ポカンとしていた軽薄な男の片割れが、ようやく我に返ったように怒鳴った。攻魔師とは魔族の天敵である。だが、攻魔師ならば道端の女子に声をかけたくらいでは攻撃されない。さっき吹き飛ばされた獣人種の男性は事案を引き起こしたので仕方ない。そもそも、乙女のスカートをめくった罪は重いのである。
本来ならばこの場面は投降する場面である。だが、男は突然の出来事で動揺していたのであろう。彼は恐怖と怒りに顔を歪ませ、彼本来の力を解放する。
真紅の瞳、そして牙――そう、吸血鬼である。この世界における吸血鬼とは、常人を遥かに超える身体能力と、対魔力、凄まじい再生能力を保有している。そして、吸血鬼にはもう一つの力が存在する。その力こそ、吸血鬼を魔族の王と言わしめる力であった。
「――灼蹄(シャクティ)!その女をやっちまえ!」
吸血鬼の男から鮮血にも似た黒いナニカが噴き出される。それは、陽炎のように蠢くドス
黒い炎のようであった。
その黒い炎はやがて歪な馬の形をとって現れた。甲高い嘶きが鳴り響き、炎がアスファルトを焼き焦がす。
「こんな街中で眷獣を使うなんて…!」
彼らの力は眷獣と呼ばれる使い魔である。だが、使い魔だと思って侮るなかれ。眷獣を持つからこそ、吸血鬼が魔族の王と呼ばれているのだから。姿は様々だが、弱い眷獣でも、最新の戦闘機の戦闘能力くらいは凌駕する。旧き世代ともなれば小さな村一つ丸ごと消し飛ばすことすら可能なのだ。そんじょそこらの攻魔師が敵うわけがない。
だが、雪菜には眷獣など関係ない。雪菜の持つ槍である七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)、雪霞狼には魔力による攻撃の一切を無効化する『神格振動波駆動術式(DOE)』と呼ばれる機能があるのである。雪菜は、この槍を展開し終えている。ならば、男の眷獣の灼蹄は消し飛ぶのは時間の問題の、はずであった。
「雪霞狼!」
対する尾行少女は臆した様子も無く、背負っていたギターケースから、一本の槍を取り出し構える。すると敵意を感じたのか馬が、尾行少女に視線を向けると突進を始める。
「危な…!?」
古城が慌てて助けに向かおうとするが、その足が止まってしまう。
「ば、馬鹿な…」
ナンパ吸血野郎が信じられない物を見るかのような表情になる。迫り来る馬に対して尾行少女が取った行動はただ槍を突き出す、それだけで槍は容易く馬を貫きその動きを止める。そして少女は槍を一閃し馬を切り裂く。
「お、俺の眷獣が…」
戦意を失ったナンパ吸血野郎が怯えたように後ずさる。だが、尾行少女の怒りは収まらないようで、ナンパ吸血野郎へ迫り槍で突き刺そうとしていた。
「……はぁ、まったく――」
フッ――
響は瞬時にナンパをして痴漢もした吸血野郎の前に移動した。
ガシッ!
「――やりすぎだぞ。それ以上は止めるんだな」
雪菜の槍の柄を掴んで止める。
「え!?」
突然の響の乱入に驚いた様子の雪菜の頭に、デコピンを放つ響。
パンっ!
……だが、到底デコピンの音とは思えない程の音がなる。その衝撃は音だけでも凄まじい事が分かる程だ。
「~~~~!!」
予想通りにかなり堪えたのか、槍を放して涙目でうずくまる尾行少女。
「す、すまねぇ。助かったよ」
「……これに懲りたら軽々しくナンパするんじゃないぞ。さぁ、今回はあなたが混乱していたと見て、この件は見なかった事にする。被害もまだ少ないからな。でも、同じことを次したら今回のも合わせて倍の罪で裁くから。そのつもりでいんるたぞ」
「あ、ああ。本当にすまねぇ」
ナンパ吸血男がコクコクと頷くのを確認し素早く仲間を担いで逃げていった。そして響は、尾行少女である雪菜に向き直すと、ダメージから回復したようで槍を拾って立ち上がり俺を睨みつけていた。
「どうして邪魔をしたんです?」
「どうしても何も、過剰防衛だからだ」
「…公共の場での魔族が、しかも市街地で眷獣を使うなんて明白な聖域条約違反です。殺されても文句を言えなかったはずですが」
あくまで自分には非は無いと言うふうに雪菜は反論する。
「それを言うなら、あいつらに手を先に出したのはお前だろうに」
響の隣に歩み寄って来た古城が雪菜にそう言った。
「それは…」
古城が雪菜に説教を始めたので響はとりあえず今回の件で怪我人がいないか周辺を探してみることにした。
暫く周辺を探索し、怪我人は1人もいないことを確認すると古城と雪菜の所へ戻ってきた。
「いやらしい」
何をしたのか知らないが、古城を冷めた目で一瞥し背を向けて走り去って行った雪菜。
「……いったい何をした暁古城」
「い、いやぁその」
響が問い掛けると、ばつ悪そうな表情をする古城。
「まぁ、さしずめデリカシーの無いことでも言ったのだろう。古城はそういう奴だと認識しているぞ」
「え!? 俺ってそんな認識なのか!!」
「そうだぞ。まぁ、いまはそんな事はどうでもいいな。那月先生に今回の事を報告しなくちゃならないからな、俺は先に帰るぞ?」
「ああ、また明日な響」
「うん。また明日、古城」
こうして、響は報告のためいったん南宮那月のいる場所へと戻るのだった。