白狼隊の長屋。
白の寝室。
「・・・」
布団の中で、白はゆっくりと目を開く。
「すぅー、すぅー。」
目の前では白と一緒に寝ていた凛が静かに寝息を立てていた。
その寝顔からは邪気が感じられず、普通の子供のようであった。
凛が白と一緒に寝るようになったのは、
墨俣での戦の前、風呂で白が凛を養子にすると言ってからだ。
白も冗談を言ったつもりはないが、それからやたらと凛に懐かれた。
そして、今ではこうして、時折白の布団に潜り込むようになった。
「全くこの子は・・・」
白は寝たままの状態で、凛の頭を優しく撫でる。
「うーん・・・お母さん・・・。」
寝言を言った凛を見て、白も思わず笑みがこぼれた。
そして同時に思い出す。
凛が本当に裏切り者だった時、
自分が手を下さなければいけないことを。
「・・・」
「うーん。」
凛が目を開いて、白と目が合うとニッコリと微笑む。
「おはよう、白様。」
「おはよう、凛。」
凛が上半身を起こし、背伸びをする。
それに続いて、白も起き上がり、櫛を手に取る。
「おいで、髪をといてあげる。」
「うん!」
凛が背中を向けると、白は凛の髪を櫛でときはじめる。
結末がどうなろうと、今を楽しもう。
そう自分に言い聞かせながら。
#####
白と凛がいつもの装束に着替え、広間に行くと、彩華が食事を並べているところだった。
「おはようございます、白様、凛。」
「おはよう、彩華。」
「彩華おはよう!」
3人は席に座ると、手を合わせる。
「「「いただきます。」」」
3人は食事をしながら会話をしだす。
「彩華、今日は何か予定ある?」
「昼に近くの平原で演習をするくらいですね。」
「そう。
で、凛の方は大丈夫?」
「うん!今度こそネズミ一匹逃がさないよ。」
「ホントかなぁ?
次手ぇ抜いたらしばらくおやつにツクシを出すからね?」
「頑張ります!」
そんな会話をしていると、彩華がなにかに気づいたように顔を上げる。
「どうしたの?彩華。」
「いえ、今、やけに急いでいる馬の足音が聞こえたもので。」
「・・・行先は?」
「少々お待ちください。」
彩華は瞳を閉じで精神を集中する。
そして少しすると瞳を開けて言う。
「どうやら城に向かっているようです。」
「城ってことは早馬かなぁ?白様。」
「だろうね、しかもこの時期ってことは・・・。」
「美濃でなにか動きがあったのでしょうか。」
「・・・とりあえず、ご飯を食べてから城にいこう」
3人は急いで食事を終わらせると、清州城へと向かった。
#####
城に向かう道中、凛が彩華に羨ましそうに言う。
「それにしても彩華いいなぁ。
目も耳もすごくいいんだもん。
凛もその能力ほしいなぁ。」
「これは、もう一つの御家流の副作用のようなものですよ。
それに、あまりいいものではありませんよ?
食事中にも余計な音が聞こえるんですから。
慣れるまではとても嫌でした。」
「え?彩華の御家流って『
それはぜひ見てみたいなぁ。」
「私もできればお見せしたいのですが、
それは叶いません。」
彩華は白の方を見ると、ニコッと笑って言った。
「『あれ』を使うということは、白様と本気の殺し合いをすることになりますから。」
「・・・そっか、残念。」
そんな会話をしながら白の門の前まで行くと、
剣丞、ひよ、ころの剣丞隊3人、そして雛と和奏、疾風が集結していた。
凛は我先に駆け出すと、剣丞に後ろから抱きついた。
「うお!?」
「剣丞様!おはよう!」
「凛・・・急に抱きつくなっていつも言ってるだろ?」
「えへへ、ごめんなさい。」
白と彩華も剣丞に近づく。
「おはよう、皆。」
「おはようございます、皆様。」
「おはよう、白、彩華。」
「おはよう!」
「おはよう、白ちゃん、彩華ちゃん!」
「おっす。」
「おはよー。」
挨拶した白と彩華に、剣丞、ひよ子、転子、和奏、雛が順に返事を返すと、疾風が白に駆け寄った。
「姉貴!」
「おはよう、疾風。
疾風達も早馬に気づいたの?」
「ああ、雛と和奏連れて朝飯食いに行く途中でな。」
「剣丞達も?」
「うん、朝ごはんを食べに剣丞様ところちゃんと一緒に一発屋に向かってたの。」
「その時に早馬が走ってるのが見えたんだよ。」
ひよ子と転子が説明をすると、雛がのんびりとした口調で言う。
「この時期に早馬ってことは十中八九美濃関連だよねぇ疾風ちゃん。」
「だろうな。
ったく、飯もまだくってねぇのに。」
「犬子だったら絶対に我慢出来ないよなぁ。」
和奏の言葉で、犬子が居ないことに白は気づいた。
「そういえばあの犬っころどうしたの?」
「「(・ワ・)たぶんしんだー」」
「コラコラコラー。」
声を揃えてふざける和奏と雛にツッコンで、
疾風が説明する。
「犬子ならまだ寝てるよ。
まったくのんきな奴だぜ。」
「うわぁ、自由だねあの子。」
「白には言われたくないと思うぞ?」
剣丞が冷静にツッコむと、白の背後にいた彩華が口を開いた。
「皆様、とりあえず城内に入りませんか?
評定の間に行けば何かわかるかも知れませんよ。」
「そうだね、ここで話しててもラチあかないし行こうかー。」
他の者達と距離をとって、白と剣丞は話す。
「で?白。
実際なんなんだ?」
「何が?」
「白は歴史に詳しいし、何があったかだいたい分かるんじゃないか?」
「うーん・・・大体ね。」
「ホントか?一体なにg」
白は剣丞の唇に人差し指をそえて言葉を遮る。
「ダメ、教えてあげない。
城之内死す!みたいなネタバレされるより、
次回予告ない方が楽しいでしょ?」
「楽しいって・・・」
「それにね、剣丞。
なんでも歴史通りに進むとは限らないよ?」
「・・・それもそうか。」
白と剣丞がそんな会話をしている間に、評定の間についた。
和奏が襖を開けて中に入ると、麦穂と壬月がいた。
「あ、壬月様、麦穂様、ちぃーっす」
「2人ともお早いですねー。」
和奏と雛が軽く挨拶をする。
「お、剣丞隊に白狼隊。
それとバカ3人か。
ちょうどお前らを呼びに行かせようと思ったところだ。」
「馬鹿じゃない!僕達織田の四若!」
「ていうか俺もすっかりバカ扱いかよ。」
「御家流の修行を動けなくなるまでやる者を馬鹿と呼ばずしてなんと呼ぶ?」
「それは・・・うぅ。
ていうかなんで壬月さんが知ってんだよ!」
疾風の質問に、麦穂がニッコリと微笑んで答える。
「白ちゃんがお酒の席で楽しそうに語ってらっしゃいましたよ?」
「姉貴ぃぃぃぃ!」
疾風が顔を真っ赤にして白の方を掴む。
「なんで言ったなんで言ったなんで言ったァ!?」
「いやぁ、疾風にも可愛いところがあるんだよってことを知ってもらおうと思って。」
「余計なお世話だ!」
そんな2人の様子を見て、微笑んで麦穂が言う。
「そうは言いますけど白ちゃん。
『あの子は行き急ぐ所があるからいつか取り返しのつかないことにならないか心配。』って言ってたじゃないですか。」
「おいバカやめろ。」
「ははは、なんだかんだ仲のいい姉妹ではないか。」
壬月の言葉に、疾風と白は数秒目を合わせると、すぐにプイとよそを向く。
「それで、状況は?」
白の質問に、壬月は真剣な顔付きになって答える。
「今殿が使番から話を聞いている。
しばし待て。」
「そっか。」
「・・・白、どう思う?」
壬月の問に、白は首を傾げる。
「なんで私に聞くの?」
「お前なら殿のこれからの行動がわかるんじゃないかと思ってな。」
「あ!それ僕も気になる!
やっぱり稲葉山に攻めんのかな!」
壬月に便乗して聞いてきた和奏に、白は言う。
「美濃で何があったにせよ、まだ動くのは時期尚早じゃないかな。
久遠ならもう少し時間置くと思うよ?」
「そう思いますか?」
麦穂が聞くと、白は頷く。
「だって本当に好機なら、あの子は何も言わずいきなり出陣をかけるでしょ?」
「・・・まぁ・・・そうだな。」
「ま、あくまで私の予想だからアテになるかわかんないけどねぇ。」
そう言って白が笑うと、襖が開き久遠が入ってきた。
それと同時に皆が自分の席に座る。
久遠は皆を見渡すと口を開く。
「うむ、皆揃っているな。」
「・・・四若の一人がまだ来ていないようですが」
「犬子はまだ寝てまーす」
壬月に視線で問われた雛はのんびりとした口調で答える。
「ふむ、まぁ寝かしておけ。
今すぐにどうという話ではない。」
久遠はそう言って上座に座り、
その横に剣丞も座る。
「それで殿、一体何があったんだ?」
疾風の質問に、久遠は腕を組んで答える。
「うむ・・・それがよく分からんのだ。」
「わからない?
それってどういう事だよ。」
疾風が聞き返すと久遠は神妙な面持ちで答える。
「どうやら・・・稲葉山城が包囲されたらしい。」
「な!?」
久遠の言葉に、壬月は驚愕する。
「あの堅城を!?
い・・・1体何人で攻めたというのですか!?」
「・・・16人だそうだ。」
「・・・・」
帰ってきた答えに、麦穂はぽかんと口を開ける。
「へーたった16人でやっちゃうなんて凄いですねー。」
雛も呑気に言っているが、やはり動揺しているのか、微かに額に汗が滲んでいる。
そんな中、白だけは冷静に久遠に問う。
「それで久遠、誰がやったか分かってるの。」
「それを調べたいんだが、白狼隊の忍部隊は今は周囲を警戒していて使えない。
・・・剣丞、頼めるか?」
「うん、任された。
ウチはそういうの向いてるしな。」
「助かる。
・・・えっと、その。」
久遠は顔を赤くすると剣丞に言う。
「き・・・気をつけてな//////」
そんな久遠を見て、白はニヤニヤと笑う。
「久遠ったら、剣丞が心配ならそう言えばいいのに。
恥ずかしがっちゃって可愛いなぁ。」
「う・・・うるさい!////」
「あはは、でもそんなに心配なら私もついていこうか?
剣丞の護衛として。」
「・・・いいのか?」
まだ頬の赤い久遠が聞くと、白は笑顔で答える。
「うん、久遠の愛する旦那様はしっかり守らせてもらうよ。」
「だ・・・だからそういうことを言うな!////」
白は久遠をからかって笑ったあと、剣丞に言う。
「というわけで、私もついて行っていいかな?剣丞。」
「もちろん、白がいてくれれば心強いよ。」
「なら決まりだ。
凛、君もついておいで。」
「いいの!?」
「うん、せっかくだしね。」
「やったー!」
はしゃいでいる凛に微笑んで、白は彩華に言う。
「彩華、留守は頼んだよ。」
白の言葉に、彩華はため息を吐く。
「畏まりました。
まったく、自由な主を持つと苦労しますよ。」
「ありがとう、いいお土産があったら買ってくるよ。」
白はそういうと、久遠の方を向く。
久遠は、意を決したように言う。
「剣丞隊、並びに白、凛よ。
そなたらに、美濃での情報収集を命ずる。
美濃で何が起きているか、探ってくるのだ。」
「「御意に」」
白と剣丞は、同時に返事をした。
#####
白は長屋に帰ってすぐに準備を始めた。
準備が整い剣丞隊に合流すると、美濃に向けて出発。
途中町によったりしながら進み、美濃についた時には夜になっており、情報の収集は明日からという事になり、宿に入った。
そんな中、白は剣丞を呼び出して宿の外で話していた。
「白、話ってなんだ?」
「凛についてだよ。」
白は神妙な面持ちで言う。
「今回、凛を連れてきたのはね、
あの子が斎藤の間者だって疑いがかかってるからなんだ。」
「え?凛が?」
「うん、夜中にこそこそしてるのを見つけた。
それでここに連れてくればボロを出すかなぁって。」
「・・・それで、もし本当に凛が裏切ってたらどうするんだ?」
「殺すよ。」
白はさも当然と言うように即答した。
「・・・あっさりしてるなぁ。
凛のことは気に入ってるんじゃないのか?
それこそ養子にしたいくらいに。」
「うん、凛なら私の娘にしてもいいって思ってるし、出来ればそうしたい。
でも、それでもけじめはつけなきゃダメなんだよ。
だから私は・・・
その目からは、一切の迷いや、憂いは感じられなかった。
「・・・そっか。」
「幻滅した?」
「いや、むしろ白らしくて安心した。」
「なにそれ。」
「・・・なぁ、白。」
剣丞は白にほほ笑みかける。
「辛かったらいつでも頼ってくれよ?」
「なに急に、私のことは心配しなくても大丈夫だよ?」
「心配するよ、だって・・・白は俺にとって大切な女の子なんだから。」
「・・・」
「俺だけじゃない。
白は久遠にとって大事な友達だろ?
白が傷ついたら久遠だってきっと悲しむ。
俺だって嫌だ。
なんの力もない俺だけど、できる限り力になりたいって思ってるから。
だから・・・何かあったら頼ってくれ。」
「・・・うん
ありがとう、剣丞。」
白はそういうと振り返って歩いていく。
「どこ行くんだ?」
「散歩。
ちょっと夜風に当たってくる。
剣丞は先に宿に戻ってて。」
「あぁ、分かった。
おやすみ、白。」
「うん、おやすみ、剣丞。」
剣丞が宿の中に入っていくのを見送ると、
白は壁にもたれかかってに右手を胸の間に持っていき、服をぎゅっと掴む。
激しくなる胸の鼓動を確かめるように。
「ヤバかった・・・今のはズルい・・・。」
月明かりに照らされたその顔は、ほのかに赤く染まっていた。
#####
翌朝。
「それじゃあ皆、情報収集を始めようか。」
「「はい!」」
「「おー。」」
剣丞に返事をするひよころ、そして白と凛。
そしてもう1人。
「よーし!皆!張り切っていこう!」
犬子が声を張り上げた。
「ちょっと待って、なんで犬子がいるんだ?」
「もうみんな水臭いよ!
討ち入りするのに犬子を置いてくなんて!」
「いや、討ち入りしないから。」
「わふ?」
首を傾げる犬子に、剣丞はことの詳細を説明する。
「へー、そうなんだー。」
「流石にこの人数で討ち入りはしないって。」
そう言って苦笑いする剣丞の後ろで。
「討ち入り・・・その手があったか!」
白は呟いてガタッと立ち上がる。
「は・・・白?」
「待ってて剣丞、ちょっと城落としてくる。
行くよ凛!」
「ガッテン!」
「待て待て!おつかい感覚で何しようとしてんだ!」
剣丞が白の腕を掴んで止める。
「大丈夫、ちょっと城内でらんらんしてくるだけだから。」
「しなくていい!しなくていいから!
出荷するぞ!」
「(´・ω・`)そんなー」
白は一通りはしゃぐと再び座り、剣丞に尋ねる。
「それで剣丞、どうするの?」
「うーん、そうだなぁ。」
話し合いの結果、白、凛、ひよ子、犬子が町で聞き込み。
剣丞と転子が城の様子を探るということになった
「聞きこみかぁ。
なら持ってきて正解だったかな。」
白は横にある風呂敷をポンポンと軽く叩く。
「ずっと気になってたんだけど、何なんだ?
それ。」
「それは後でのお楽しみ。
というわけで剣丞、ちょっと部屋の外出てて。
あ、転子は残ってちょっと手伝って。」
「え?
う・・・うん。」
剣丞は言われた通り部屋の外に出る。
閉めた襖の向こうから、女性陣の会話が聞こえてくる。
「というわけでみんな、脱ごうか。」
「何がというわけなの白様!?」
「しかもなんか手の動きがイヤらしいよ!?」
「凛もひよも心外だなぁ。
別に何もしないって。
というわけでそのでかい乳揉ませろや犬っころ。」
「わふ!?
一瞬で自分の発言を覆した!?」
「ちょっと待って!白ちゃん!
何する気!?私たち女の子同士だよ!?」
「女の子が女の子に下心を抱いて何が悪いの!?」
「逆ギレ!?ていうか開き直った!?
ちょっ!いや!助けてころちゃん!」
「ごめん、私まで巻き添え食いそうだからいや。」
「ころちゃあああああん!」
部屋の中から聞こえる会話(主に悲鳴)を剣丞はしばらく聞いていた。
#####
「剣丞、入っていいよ。」
白に声をかけられ、剣丞は襖を開けて室内に入る。
「白、性的嗜好に文句言うつもりは無いけどあんまりそう言うのは・・・おお。」
剣丞は目の前の光景を見て感嘆の声を上げる。
そこには、可愛らしい着物姿に着替えた転子以外の4人がいた。
髪の毛も、凛はそのままだが、白は簪を指し、
ひよ子は長い髪をお団子にして後ろで結び、
短い髪型の犬子は髪の左側で可愛らしい三つ編みを結んでいた。
「本当はもうちょっと髪型ガッツリ変えたほうがいいんだけど、ウィッグとかないからねー。」
「・・・・・」
「剣丞?」
「お・・・おう!?」
思わず見蕩れていると、白に顔をのぞき込まれ、剣丞はつい変な声を出してしまう。
「なにキョドッてんの?」
「いや・・・えっと・・・なんで?」
剣丞の質問に白は答える。
「変装だよ。」
「変装?」
「徒士に目をつけられたりしたら厄介だからね。
これならどっからどう見てもただの町娘でしょ?」
「な・・・なるほど。」
「剣丞様ー!」
凛が剣丞に駆け寄って目の前でくるりと回る。
「ねぇねぇ剣丞様!どうこれ、似合ってる?」
「うん、とっても似合ってるよ、凛。」
「えへへー。」
「えっと・・・お頭・・・。」
心配そうにこちらを見るひよ子に剣丞はほほ笑みかける。
「ひよもとっても似合ってて可愛いよ。」
「うん!剣丞様の言うとうり!すっごく可愛いよ!ひよ!」
「あ・・・ありがとうございます////」
剣丞と転子に褒められ、ひよ子は頬を染める。
「・・・」
ゲシッ。
「痛っ!な・・・なんで蹴ったの白。」
「・・・べっつにー。」
「???」
首を傾げる剣丞をよそに、犬子は一人が不満そうにしていた。
「うぅ・・・動きにくいー。
それにこんなの犬子が着ても似合わないのにー。」
「そんなことない!可愛いよ!犬子ちゃん!」
「えー、そうかなー。」
「うん!似合ってる!すごく可愛い!」
「こ・・・ころまで!?」
「確かに・・・いつもと雰囲気が違っていいなぁ。」
「け・・・剣丞様・・・うぅ。」
その後も自信を持てない犬子にみんなで可愛い可愛いと言い続けた結果。
「ガルルルルルルル!」
犬子は部屋の隅に行き、顔を真っ赤にして犬のように唸り出した。
「なんで!?なんで威嚇!?」
「あはは。
普段言われ慣れてないからどうしたらいいか分かんないじゃない?
ほら犬子、せっかく可愛いのに着崩れしちゃうよ。」
白はそう言って犬子に近づきなだめる。
「うーん。」
「どうしたの?ひよ。」
「いや・・・お頭に褒めてもらうのは嬉しいんですよ?
・・・でも。」
ひよ子の視線につられるように、転子と剣丞は白の方を見る。
「あれには勝てないなーって」
「あー。」
ひよ子の言葉に、転子は納得したように頷く。
「え、なに?」
見つめてくるひよ子と転子に訝しげな視線をおくる白の着物姿は、白の元々の美しさもあいまって、どこか気品か感じられた。
「いや、なんというかこうやって見ると透明な箱に入れて飾っときたいくらい綺麗だよね。」
「いや、何怖いこと言ってんのひよ。
ていうかころもなんで顔赤くなってんの?」
「えっと・・・その・・・。」
ころは染まった頬に手を添える。
「実は一緒にお風呂はいった時も思ったんだけど、白ちゃん見てるとなんか性別とかどうでも良くなってくるなーって/////」
「おいバカやめろ!
ずっと前それで熊みたいな女に襲われかけたことあるんだから!」
「白ちゃんって一体どんな人生経験してるの!?」
白の発言にひよ子が驚きの声をあげる。
「男が欲しい男が欲しいってうるさい子だったんだけどね。
一緒にお風呂に入った時に『もうこの際あんたでもいいわ!』って言って押し倒された。
とりあえず、目がまじだったから絞め落として黙らせた。」
「うわぁ。」
白の言葉に、剣丞は少し引き気味になっている剣丞に、凛が補足で付け加える。
「白狼隊の女性隊員の中でも白様結構人気だよ。」
「凛はたまに捕まって着せ替え人形にされてるよね。」
「アイツら絶許。
いつか仕返ししてやる。」
「ふ・・・二人共大変なんだな。」
白はパンと手を叩いて全員に言う。
「さて、雑談もこの辺にして、そろそろ動こうか剣丞。」
「そうだな・・・白。」
「ん?」
剣丞はにっこりと笑って言う。
「白も、すごく綺麗だよ?」
「そういうとこが卑怯だっての!」
「なんで!?」
剣丞の尻に、白の蹴りが炸裂した。
#####
街に出た白達は白と凛、ひよと犬子の二手に分かれて聞き込みをすることになった。
「なーんか大きい割には閑散とした町だねぇ、白様。」
「城が包囲されたのはもうみんな知ってるだろうし、ピリピリしてるんじゃない?」
「うーん、でもこの状態で聞き込みって難しいんじゃない?」
「それだよねぇ。」
案の定なんの収穫もなく、白達はほかの二人を見つけて合流することにした。
犬子とひよ子の二人を探しながら歩いてると。
「だから何回も言ってんじゃん!」
どこからか叫び声が聞こえてきた。
「白様、今のって・・・。」
「・・・犬子だね。」
声のした方に走っていくと、犬子が徒士と言い争いをしていた。
「私達はただ出稼ぎに来ただけなの!
何回言ったらわかるの!?」
「ちょ・・・犬子ちゃん!」
「本当か?お前らどこぞの回し者ではなかろうな?」
「さっきから違うって言ってんじゃん。」
その様子を見て、白は呆れたように溜息を吐く。
「全くあのバカ犬・・・。」
「白様、ここは凛に任せてよ!」
凛は自信満々にそういうと、犬子達の前に出て、
「ウチのもんになんか用かぁ?あぁ?」
そう言って下から男を睨みつけた。
(何やってんのあのバカ!?)
凛のまさかの蛮行に白は驚愕していた。
凛はそのまま犬子と徒士の言い争いに参加した。
(あー、ひよが涙目で助けを求めてきてる。)
白はめんどくさそうにため息を吐いた。
(しょうがないなー。)
白は犬子達と言い争っている徒士に横から話しかける。
「お侍様!!」
「む?何用・・・だ。」
話しかけてきた白の姿に、男は見蕩れて言葉を詰まらす。
そんな姿に内心、
(うわ、チョッろ。)
と思いつつも表情には出さず、白は迫真の演技で続ける。
だが、こうなっては白の思う壷であった。
「妹たちがなにか粗相を致しましたでしょうか!」
「いや・・・その・・・。」
不安そうに訪ねてくる白をチラチラと見つつ、男は言葉を濁す。
「白、なにやってんの?
気持ち悪r(ガンッ!)キャン!?」
余計なことを言ってきた犬子の額に裏拳を御見舞して、白は男に畳み掛ける。
「私達は田舎から出稼ぎに来た身でして、
何分無礼がすぎたことと存じます。
・・・ですが。」
トドメに白は男の手を両手で握り、目に涙を浮かべて見つめながら言う。
「何卒・・・ご容赦いただけないでしょうか!」
ひよ子は、
(うわぁ。)
と少し引きながらその様子を見ていた。
「ま・・・まぁ私も鬼ではない。
子供のしたことだ、今回は多めに見よう。」
「子供ってむぐっ!?」
子供扱いされて文句を言おうとする犬子の口をひよ子が塞ぐ。
(ふむ・・・丁度いいか。)
白は何かを思いついたようで、話を続ける。
「ありがとうございます。
この様な田舎娘の無礼を許してくださるとはなんと慈悲深いお侍様でしょう!」
白は花が咲いたような笑顔で男の腕に抱きつく。
「お・・・おい・・・やめないか。」
「・・・お侍様。」
白は腕にしがみついたまま、上目遣いで男に言う。
「私、お侍様にちゃんとお詫びがしとうございます。
そこの店で・・・一緒にお酒などいかがでしょうか。」
白に軍配が上がった瞬間だった。
#####
酔わすだけ酔わし、情報とその他もろもろ吐かせた白は、寝落ちした男を店に放置して出てきた。
「よし、情報収集完了。」
と、清々しい顔で言ってのけた白に。
「悪女だ・・・。」
「悪女がいる・・・。」
「白様すっごーい!」
と、他の3人はそれぞれに感想をもらした。
「ひよも犬子も失礼だなー。
こういうのは策の一つだよ。
・・・さて、それはそれとして。
犬子、凛、ちょっとおいで。」
「はーい。」
「わふ?なに?白。」
「とりあえず二人共、片手をグーにして出して。」
二人が言われるがままに差し出すと、白は二人の小指の先を親指で抑え。
「ソオイ!」
第一関節を曲げるように一気に押し込む。
「ぎゃあああああああ!!」
「痛い!白様!それ超痛い!」
「痛くやってんだから当然でしょうがバカ犬共!
徒士と喧嘩にならないように変装したのに意味無いじゃん!」
「で・・・でもそのお陰で情報集まったんだからいいでしょ!?」
「いいわけあるかバカ犬子!」
「わふぅぅぅぅぅ!!!」
白は一分ほどそれを続けると二人を解放する。
「以後気をつけるように。」
「・・・はい。」
「・・・すいませんでした。」
キツイお仕置きを受けたふたりはしょぼくれる。
「白ちゃん、とりあえず宿に戻って手に入れた情報を整理しようよ。」
「そうだね。」
白達は宿に戻ると4人で円になるように座って話す。
「手に入れた情報によると、城を占拠したのは竹中半兵衛、
そして龍興の側近、斎藤飛騨と西美濃三人衆。
竹中と飛騨の二人は元々親友同士だったけど、最近まで仲違いしていた。
理由は半兵衛が兄のように慕っていた斎藤龍海が謀反を企て、当時彼の部下だった飛騨が龍海を裏切って死に追いやったから。
ひよ、犬子、斎藤飛騨と斎藤龍海のこと知ってる?」
「ごめん白ちゃん、飛騨って人のことはあまり知らない・・・けど。」
顔を俯かせるひよ子に変わって犬子が続ける。
「
義龍の双子の弟で・・・結菜様のお兄ちゃんだもん。」
ひよ子が暗い表情で話す。
「龍海様は、『斎藤の大盾』って呼ばれるほどの猛将で、その武勇は日の本中に轟いてたんだよ。
斎藤龍海と大槍
「斎藤と敵対した後も、ちょいちょい抜け出して遊びに来るような人だったんだ。
犬子も何度か稽古つけてもらったよ。」
「結菜の兄貴だからって敵国の人間を入れるのはどうなの?」
「それは・・・まあ。」
「龍兄だからとしか言いようがないワン。」
ひよ子は懐かしむように話す。
「私のことも、まるで妹みたいに扱ってくれて、本当にみんなのお兄ちゃんみたいな人だったんだ。
・・・だから死んじゃったって聞いた時は、みんなすごく落ち込んで。」
「結菜様なんて、しばらく家から出てこなくなっちゃったんだよ。」
「なるほど、そりゃ今まで話を聞かないわけだ。
話すと思い出しちゃうからねぇ。」
白はそう言うと、顎に手を添えて考えて言う。
「・・・そこまでの事をしたのに、
なんで半兵衛は飛騨と手を組んだんだろう。」
「え?」
ひよ子が首を傾げる。
「尊敬していた人間を殺されて、
そんな人間と手を組むなんて余程のことがない限りありえないでしょう。」
「余程のことって?」
凛が問いかけると、白は立ち上がる。
「それを今から調べに行く。」
#####
白達は着物からいつもの装束に着替え、とある崖の下に来ていた。
「白ちゃん、こんなところに何があるの?」
「斎藤龍海は崖から落ちたって言ってたでしょ?
地図的にこの辺だと思うんだけど・・・ん?」
白は岩壁をジィーっと見つめる。
「ひよ。」
「なに?白ちゃん。」
「これなんだと思う?」
「これは・・・何かが刺さってそのまま引きずった跡・・・かな?
でもなんでこんな岩壁に?」
「あ!これ槍の跡だ!」
横から覗いていた犬子が声を上げる。
「槍?」
「うん!それも大きさ的に大身槍だと思う!」
「な・・・なんでこんな所に槍の跡が?」
「例えばだけど・・・。」
何が何だかわからないという顔のひよ子に白は淡々と告げる。
「崖の上から落ちてくる途中で槍を壁に突き刺して落下の勢いを殺した・・・とか?」
「そんなこと出来るわけないよ!」
「出来るんじゃない?
強者ぞろいの美濃で、猛将って呼ばれるほどの将ならね。」
「・・・まさか・・・
「結菜様に教えてあげなきゃ!」
嬉しそうにそう言ったひよ子と犬子に、伯は首を横にふる。
「ただの仮説だよ。
違った時結菜をさらに落ち込ませちゃう。」
「そっか・・・そうだよね。」
「じゃあ仮に龍海様が生きてたとして、
それを飛騨が竹中さんに教えたから仲直りしたの?
それでも裏切ったことには変わりないよね。」
「これ以上はわからない。
ただ・・・関係してるのは確かだろうね。」
白はそう言うと、もう一度岩壁の傷跡を眺めた。
#####
夜、戻ってきた剣丞に城の状況を聞いた後、
白は手に入れた情報を話した。
「ってことくらいかな。」
「それは・・・大変だったな。」
「本当ですよ!白ちゃんがいなかったら今頃どうなってたことか!」
剣丞は事の当事者である犬子と凛に視線をやる。
「だって急に絡んできたんだもん。」
と、犬子は口をへの字に曲げ。
「あそこでああやった方が面白いと思ったからやった!反省も後悔もしていない!」
と、凛はドヤ顔で言った。
「よーし凛、ちょっとこっちおいでー。
キミにはさらにきついお灸が必要みたいだねぇ。」
「小指むぎゅー!は勘弁してつかあさい白様!」
「でも白の言う通り、反省しなぎゃダメだぞ、二人共。」
「はい・・・。」
「すいませんでした。」
犬子と凛は頭を深々と下げる。
「それで白、明日のことなんだけど。
俺とひよは残って情報を集めるから、白達は先に帰っていてくれないか?」
「うん、わかった。
あとは任せたよ、剣丞」
「ああ、任された。」
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時間を遡って、剣丞たちが情報収集を始めたころ。
「着いたか。」
飛騨は美濃の清須城下に来ていた。