戦国†恋姫~とある外史と無双の転生者~   作:鉄夜

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第十四話

飛騨は城の中を抜き身の刀を手に疾走していた。

 

立ちはだかる敵の群れを斬り伏せながら進む。

 

「クソ!キリがない!」

 

そう言葉を漏らしている飛騨の顔は、敵の返り血で汚れていた。

 

「龍興様!いたら返事をしてください!」

 

しかし返事はなく、

 

「居たぞ!」

 

現れるのは敵だけであった。

 

「くっ!」

 

飛騨は踏み込んで一気に接近する。

 

敵は咄嗟に刀を振るうが、飛騨の逆袈裟に弾かれて隙がてきたところで袈裟斬りにされる。

 

次の敵も刀を振るうが、飛騨は背後に滑るように移動、回避し即座に接近すると背後に回り込み背中を逆袈裟。

 

背中見せた飛騨に敵が刀を縦に振るうが、

飛騨は体を横に逸らして回避すると、

敵の懐に入り込み腹を突き刺しそのまま刀を捻り、トドメをさした。

 

飛騨は敵から刀を向き、倒れている死体を見て思う。

 

(なんなんだこいつらは。

近頃噂になっている鬼・・・なのか?

だが言葉を話すほどの知性を持っているなんて聞いたこともないぞ・・・。)

 

この謎の敵に襲われて、はたして結花は無事なのだろうか。

 

そんな不安を振り払うように頭を振る。

 

(たのむ・・・無事でいてくれ、結花。)

 

飛騨は願いながら走り続けた。

 

少しすると、城の外が騒がしくなる。

 

窓から外を除くと、さきほどの化け物たちが人間の兵士と戦っていた。

 

「あれは・・・木瓜紋!織田か!」

 

飛騨は織田信長が結花からの手紙を読んで来たのだとおもった。

 

織田軍は城の入口が閉まっているため、門の前で足止めをくらっている。

 

「・・・急ごう。」

 

飛騨は再び結花を探して走り出した。

 

#####

 

剣丞とひよころは城内に進入し、敵と戦いながら正門に向かっていた。

 

中から門を開き、味方を中に引き入れるためである。

 

だが、次々と出でくる敵に道を阻まれいた。

 

「あぁもう!うっとおしい!なんなんだこいつらは!」

 

剣丞は愚痴を漏らしながら異形の敵を斬り伏せる。

 

一方ひよ子と転子は、

 

「はぁ!やぁ!」

 

「とりゃあ!」

 

向かってくる敵を蹴散らしていた。

 

とくに転子は複数の敵を一気に切り飛ばしている。

 

ひよ子も白によってに鍛えられた剣術で敵を斬り伏せていく。

 

「ひよ!大丈夫!?」

 

「うん!こいつら白狼隊の皆さんに比べたら剣術が粗末だし!

でもこの数はきついねころちゃん!」

 

「うん!全然減らないもんね。」

 

3人は敵と交戦しては隙を見て走ってを繰り返していた。

 

「よし!今だ!」

 

そして今も、一瞬の隙を見つけて一斉に走り出し敵の群れから抜けた。

 

しばらく走り、後ろを確認して敵がいないのを確認すると立ち止まって息を整える。

 

だが、

 

「剣丞様!上です!」

 

剣丞が顔を上げると、刀を振り上げた敵が飛び降りてきていた。

 

剣丞は反射的に目を瞑る。

だが、体に痛みは走ることはなく。

 

「ぎゃ!」

 

代わりに短い断末魔が聞こえてきた。

 

「・・・え?」

 

剣丞が目を開けると、身長が190センチはありそうな男が巨大な槍を持って立っていた。

 

「油断しちゃダメだよ少年。

君が死んだらうちの妹達が悲しむじゃない。」

 

男は飄々とそう言うとやりを背中に担ぐ。

 

「あんたは・・・」

 

剣丞が名前を尋ねる前に、ひよ子が言葉を漏らす。

 

「龍海・・・さま?」

 

「ん?お?おぉ?」

 

男・・・龍海はひよ子近寄ると、槍を捨てて両手でひよ子を持ち上げる。

 

「ひよ!ひよじゃないか!

まぁた随分と大きくなっちゃって。」

 

「ちょ!下ろしてください!お頭の前で恥ずかしいです!」

 

「おっとごめん。」

 

龍海はひよ子を下ろす。

 

「生きてたんですか!」

 

「俺が崖から落ちた程度で死ぬわけないっしょ。」

 

「いや崖から落ちたら普通誰でも死にますから!」

 

そんな会話をする龍海に、剣丞は恐る恐る話しかける。

 

「アンタが・・・斎藤龍海。」

 

「そういう君は新田剣丞君だよね。

できれば義兄弟同士話がしたいところだけど。」

 

龍海が目線を前にやると、こちらを探す敵の声と足音が聞こえてきた。

 

「そうはいかないみたいだ。」

 

龍海は槍を構える。

 

「門を開けるなら早く行きな。

ここは俺が食い止める。」

 

「・・・わかった。」

 

そう言って剣丞は立ち上がって走り去ろうとするが、ふと龍海の方をむく。

 

「お義兄さん!

結菜も久遠も、俺が絶対に幸せにします!」

 

「あたりまえっしょ。

泣かせたらただじゃ置かないからね。」

 

剣丞は走り出した。

 

「龍海様!ご武運を!」

 

ひよ子と転子も走り出した。

 

それを見送って龍海は嬉しそうに頬笑む。

 

「あれが新田剣丞か・・・なかなかいい目をするじゃないの。」

 

「龍海!」

 

剣丞達と入れ替わるように、夕霧が現れる。

 

「よかった、無事でやがったか。

はぐれた時はどうしようと思ったでやがるよ。」

 

「心配かけてごめんね、夕霧。」

 

「無事ならいいでやがるよ、それより何かあったでやがるか?

なんだか嬉しそうでやがるよ?」

 

「いや、ちょっとね。

会いたい奴に会えたから。」

 

龍海の言葉に夕霧は首を傾げる。

 

「居たぞ!」

 

そんなふたりの前に再び敵が現れた。

 

「さて夕霧、もうひと暴れしようか!」

 

「おう!」

 

二人は目の前の敵を睨みつける。

 

#####

 

「オラァ!」

 

疾風の一撃が敵の体を縦に真っ二つにする。

 

次から次へと敵の体を両断していく。

 

「荒れてるねぇ、疾風。」

 

そういった白は十文字槍を縦横無尽に振り回し敵の群れを斬り飛ばしていた。

 

「そりゃ荒れもするだろうよ。」

 

疾風は牙をむき出しにして怒りを露わにする。

 

「姉貴もなんで止めなかったんだ!

門を開けるためとはいえ剣丞を城の中に送り込むなんて!

危険にも程があるだろ!」

 

「しょうがないでしょ、剣丞がやるって聞かなかったんだから。」

 

「姉貴が言えば剣丞だって!」

 

「やめないでしょ?剣丞だよ?

こっちが何言ったって聞きやしないよ。

・・・それにね。」

 

白は微笑むと疾風に言う。

 

「正直期待してるんだよね。

剣丞ならやってくれるって。」

 

「でも・・・でも!」

 

未だ納得していない妹を白は正面から抱きしめる。

 

「ちょっ!姉貴!?」

 

「はいはい、剣丞が死んじゃうのやだよねー。

大丈夫だよー怖くないよー。

お姉ちゃんがいるからねー。」

 

「や・・・やめ・・・姉ちゃん!」

 

疾風は顔を真っ赤にして暴れる。

 

「おいコラそこの姉妹!」

 

そばに居た和奏が叫ぶ。

 

「イチャついてないで戦え!」

 

「イチャついてなんてねぇよ!

離せ姉貴!」

 

疾風は、白を引き剥がす。

 

「ったく。」

 

不機嫌そうにする疾風に、白は言う。

 

「惚れた男なら信じてやりなよ。」

 

「・・・え?」

 

「たしかに剣丞のやってる事は無茶なことだよ。

でもそういう男だって知って好きになったんでしょ?」

 

「・・・」

 

白はニッコリと微笑んで言う。

 

「だったら信じて待つしかないよ。

こういうのは惚れた方の負けなんだから。」

 

「姉ちゃん・・・。」

 

「・・・っていうか。」

 

白は疾風の頬を引っ張る。

 

「脳筋は余計な事考えてないで戦えばいいんだよ愚妹。」

 

「いふぁい!ひっふぁんな!」

 

白は疾風を離す。

 

「ほら、分かったら行っといで。」

 

「・・・うん、ありがとう姉ちゃん。」

 

そう言って疾風は敵の方へ走っていった。

 

「まったく、手のかかる妹なんだから。」

 

そんなことを言っていると、白の隣にガラの悪い男達の集団が現れる。

 

それを率いる2人の女、そのうちの一人が楽しそうに口を開く。

 

「お、やってんなぁ。」

 

「おやおや桐琴、随分と遅い到着だねぇ。

真打ち登場ってやつ?」

 

「ま、そんなところだ。

急に斎藤を助けに行くって聞いた時は何事かと思ったが、こりゃあ随分と稼げそうじゃねぇかぁ。」

 

桐琴の隣にいた小夜叉は少し不満そうに言う。

 

「なぁ白、こいつら斬っても武功って稼げんのか?

そもそも大将首居んのか?」

 

「うーん、なんだかんだ統率は取れてるみたいだから、いると思うよ?

パッと見わかんないけど・・・でもね、小夜叉。」

 

白は華のような笑顔で言う。

 

「わかんないなら、全員首撥ねちゃえばいいんだよ。」

 

その言葉に、小夜叉はニヤリと笑った。

 

「それなら話は早ぇ・・・母!」

 

「おうよ。

行くぞ!野郎ども!」

 

男達の雄叫びとともに森親子が叫ぶ。

 

「森の鶴紋なびかせて!尾張が一の悪侍!

森一家たァ俺らのことだ!」

 

「森の一家の目前にあるは!

狩る頸狩る耳狩る武功!

荒稼ぎの邪魔する奴は味方といえどぶっ殺す!」

 

「ヒャッハー!皆殺しだああああああ!」

 

二人の口上と共に、森一家は突撃していった。

 

「元気だなぁ。」

 

そんな呑気なことを言っていると。

 

「門が開いたぞおおおお!」

 

と、大声が聞こえてきた。

 

「お、剣丞上手くやったか。

じゃあ私も働こうかな。」

 

白はそう言うと搦手門の方へ走っていった。

 

搦手門には白狼隊が陣取っていた。

 

「みんなお疲れ、調子はどう?。」

 

「白様!」

 

凛が嬉しそうに駆け寄る。

 

「命令通りにこのあたりの敵は殲滅して待機中だよ!」

 

「ご苦労さま、凛。」

 

白が凛の頭を撫でていると彩華が近寄ってきた。

 

「白様の予想通り、搦手門前は手薄でしたね。」

 

「あれだけ正門に敵が固まってればねぇ。」

 

「それでこれからどうするの?

内側から鍵を開けられるまで待機?」

 

「そりゃあもちろん。」

 

白は門の前まで近寄ると、大槌を出現させる。

 

そしてそれを思いっきり振りかぶり、

 

「こうするのさ。」

 

近りいっぱい振ると、大槌の一撃で門の扉は吹き飛んだ。

 

「おお!」

 

「なんともまぁ大胆ですね。」

 

白は大槌を消すと、隊のみんなに指示を出す。

 

「彩華と凛は私と城内に散って龍興の捜索。

他のみんなは引き続きこの場を守備。

斎藤の兵が逃げてきたら保護してね。」

 

「御意。」

 

兵士の返事に頷くと白は凛と彩華と共に城内に入る。

 

「さぁて、私も暴れるか。」

 

その顔はとても楽しそうであった。

 

#####

 

その頃、城内の結花は元家臣の怪物に追いかけ回されていた。

 

「ふははは!逃げろ逃げろ小娘!

それでこそ嬲りがいがあるというものだ!」

 

「くっ!」

 

結花は必死に走っているが、距離が開くことは無かった。

 

(そうだ!)

 

結花は進行方向にあった部屋に滑り込んだ。

 

「ふん、諦めたか。」

 

敵も結花のあとを追って部屋に入ってくる

 

結花は、壁際で敵を睨みつけている。

 

「年貢の納め時だなぁ。」

 

「そんな姿になってまで富が欲しいの!?

変な力に頼ったところで、そんなの本当の強さじゃない!」

 

「吠えるな小娘、貴様にこの妖魔の力の素晴らしさは分かるまいよ。」

 

「・・・妖魔?」

 

「そうだ!

これこそあの方より与えられた力。

我自信が妖魔になるだけではなく、生み出し、操ることが出来る!

この崇高な力こそがこの日の本を強くするのだ!」

 

「あの方?

一体誰なの!あんたにそんな力を与えたのは!」

 

「これから死ぬ貴様が知る必要は無い。」

 

重い音を立てながら、妖魔は結花に近寄っていく。

 

しかし、4歩進んだところで妖魔が踏んだ場所に「光」と言う文字が現れ、足元からピカッと光が溢れ出す

 

「くっ!目がぁ!」

 

妖魔があまりの眩しさに目を覆いながら後ずさると先程と同じく地面を踏んだ瞬間、今度は雷と言う文字があらわれ、妖魔の体を足元から頭まで、電気がはしる。

 

「がぁ!」

 

妖魔が膝をつくと、結花は胡蝶夢幻で「爆」という文字を空中に5つ書き、

 

「これでも・・・喰らえ!」

 

妖魔に向かって飛ばす、敵に当たった文字は激しい音を立てて爆発し、その巨大な体を煙で包み込んだ。

 

「よし、今のうちに!」

 

倒しはできていないだろうが足止めにはなる。

 

そう思ってその部屋から出ようとした瞬間。

 

ヒュ!

 

ガシッ!

 

「がっ!」

 

結花の細い胴体が、大きな手に鷲掴みにされて持ち上げられる。

 

「この餓鬼があああああああああああああ!」

 

煙が晴れるとそこには鬼の形相を浮かべた妖魔の姿があった。

 

「そんな・・・全然効いてない・・・なんて・・・くっ!」

 

ミシミシと音を立てながら、結花の体は妖魔の手に締め付けられていた。

 

「か・・・はぁ・・・くるし・・・はなし・・・て・・・はなせぇ!」

 

自由な両手を使い、妖魔の手を叩いたり、

体と妖魔の指の間に手を入れ引き剥がそうとするが、少女の力が叶うわけもなく体にかかる圧力は更に増す。

 

「ケホッ・・・かひゅ・・・うぇ・・・。」

 

息ができなくなり、空気を求めるように口をパクパクとする。

やがて舌が反射的に飛び出し行き場を失った唾液が口の端から垂れる。

 

妖魔はトドメを指すために、力をさらに加える

 

「あぁ・・・あ・・・。」

 

結花の目が虚ろになり、手が力を失いだらりと垂れる。

 

握っていた胡蝶夢幻も手の平から床に滑り落ちた。

 

(あぁ・・・もうだめなんだ・・・頑張ったんだけどなぁ。)

 

結花の目から一筋の涙が流れる。

 

(やだ・・・死にたくない・・・まだ・・・何も・・・たすけ・・・て。)

 

結花は思い出していた、いつも自分を守ってくれていた家族のことを、

 

「龍海・・・お兄・・・ちゃん・・・。」

 

1人はもちろん龍海だが、

もう1人、姉のようにしたっていた相手のことを。

 

「飛騨・・・(ねえ)・・・。」

 

結花の意識が完全に消えようとしていた時。

 

「うがあああああああああああ!」

 

妖魔の悲鳴と共に、自分を掴んでいた腕から力が抜け、結花は地面に投げ出された。

 

「ゲホッ!ゴホッ!エホッ!

ハァ・・・ハァ・・・ケホッ・・・コホッ。」

 

窒息から解放され、結花は盛大にむせる。

 

「龍興様!ご無事ですか!」

 

息が整い、声のするほうを見ると飛騨が今にも泣きそうな顔で結花を見ていた。

 

「飛騨・・・姉ちゃん・・・。」

 

結花は飛騨に抱きつくと箍が外れたように泣き出した。

 

「飛騨姉ちゃん・・・うぅ・・・うああああああああああ!」

 

飛騨は結花の頭を優しく撫でる。

 

「そう呼ばれるのは久しぶりだな。

・・・遅くなって悪かったな、結花。」

 

「うぅ・・・死ぬかと思ったあああ!!」

 

そんな二人の背後で、片腕を斬り飛ばされた妖魔は立ち上がる。

 

飛騨はそれを察し、結花を自分の背後に隠すように立ち上がり、敵を睨みつける。

 

「斎藤飛騨・・・この裏切り者があああ!」

 

「他の奴には仕方ないが・・・お前だけには言われたくない!」

 

飛騨は怒りの表情で妖魔を睨み、刀の先を向ける。

 

「よくも私の家族に手を出してくれたな。

楽に死ねると思うなよ化け物が!」

 

飛騨は声高々にそう叫んだ。

 

#####

 

龍海と夕霧は城の庭で大量の敵と戦っていた。

 

「ったく!数が多いったらありゃしない!」

 

「一体どこから湧いてるでやがるか!」

 

「もしかしたらだけど、こいつらを従えてる首魁がいてそいつ倒さない限り無限に湧き続けるとか?」

 

「だとしたら・・・面倒でやがるな!」

 

二人は敵を倒していくが、一向に減る様子はない。

 

いくら武勇に自信のある2人でも体力には限界がある。

 

と、その時。

 

「そこの2人、死にたくなければ5歩分後ろに下がれ!」

 

「え!?」

 

突然の声に驚きながらも、二人は言われたとおりに下がる。

 

すると、

 

ドカァン!

 

先程まで自分がいた場所が爆発炎上し、敵が20人ほど消し飛んだ。

 

「い・・・一体何が起こったでやがるか!?」

 

火が消え、煙が晴れるとそこには1本の槍が突き刺さっていた。

 

槍は直立に突き刺さっていて、槍の底が上になっている。

 

そこに音もなく降り立ち、こちらを見据える者がいた。

 

最初はよく見えなかったが、やがてその姿が月明かりに照らされる。

 

白い髪に白い肌。

 

中性的な容姿は可愛らしくもあり、美しくも見える。

 

白を基調にしたマント付きの戦装束は、敵の返り血で幾分か汚れていた。

 

その少女、白は2人を見つけると返り血が着いた顔でニッコリと微笑む。

 

(おいおい、なんだよこりゃ・・・化け物なんてレベルじゃねぇぞ。)

 

(ひょっとしてあいつが・・・尾張の今奉先・・・でやがるか?)

 

龍海と夕霧の顔に、自然と冷や汗が滲む。

 

白は槍の上から降りて、2人に近づく。

 

そして、龍海の前に行くと、顔を見あげる。

 

「おいっすー。」

 

気の抜けた挨拶に、龍海と夕霧はずっこけそうになる。

 

それを盛大に笑った後、白は2人に言う。

 

「斎藤龍海だよね、私は織田軍の颯馬白・・・って自己紹介は必要ないよね、凛から色々聞いてる筈だし。」

 

「・・・凛から?」

 

険しい顔を向ける龍海に白は言う。

 

「そんな怖い顔しないでよ、あの子には何もしてないからさ。」

 

続いて白は、夕霧に顔を向ける。

 

「そっちは武田信繁ちゃんだよね。」

 

「・・・凛から聞いたでやがるか?」

 

「うん、でも安心して。

知ってるのは私と久遠だけだから。

そのかわり色々知ってるよ、

君たちの目的も。」

 

白は龍海の方を向く。

 

「君が年下好きの幼女嗜好だってことも。」

 

「ちょっと待って!?凛は俺のことそんな風に

思ってるの!? 」

 

「あ、これは私の解釈。」

 

「ロクでもない解釈しないでよ!」

 

「えぇ、だってさぁ。」

 

白は夕霧を後ろから抱きしめると、ニヤニヤとしながら龍海に言う。

 

「こんなちっちゃ可愛い娘手篭めにしといて説得力ないよ?

しかも飛騨も10歳以上年下なんでしょ?

いい趣味してるね。」

 

「いやいや違うから、惚れた女が年下と幼女だっただけだから。」

 

「夕霧は幼女じゃねぇでやがる!」

 

「やがる?何その語尾可愛い!

めちゃくちゃ愛でたい!」

 

「離すでやがる!血生臭いでやがる!」

 

白は一通りからかって満足したのか、夕霧を解放する。

 

「ま、そんなわけで私は君たちの味方だから安心してね。

個人的には一度殺し合ってみたかったんだけどね。」

 

「遠慮しとくよ、君を相手してたら命がいくつあっても足りなそうだし。」

 

「龍海の言う通りでやがる。

・・・それより今は」

 

再び敵がぞろぞろと集まってくる。

 

「こいつらを倒すのが先でやがる。」

 

白は、敵の群れを見てニヤリとわらう。

 

「なんか、久しぶりだなこの感じ。」

 

白は清正の鎌槍を出現させると、敵に突っ込んでいく。

 

「ちょっ!危ないって!」

 

龍海の忠告はどこ吹く風で白は敵の渦中で暴れまくる。

 

鎌槍を横に大きく振るい、10人の体を1片に両断する。

 

武器を1度振るう事に、最低でも6人をいっぺんに屠っていた。

 

そして、鎌槍に気を集め刀身が赤く染まるとそれを横に振るう。

 

奮った場所に火花が一瞬走ったかと思うと、その場が爆発し、敵を30人ほど吹き飛ばす。

 

「・・・えげつねぇ。」

 

「・・・あれが尾張の今奉先でやがるか。」

 

つくづく敵に回さないでよかったと思う二人であったが、そんな二人にも敵は押し寄せてきた。

 

「さて、俺達もやろうか夕霧!」

 

「あいつにだけいい格好はさせないでやがる。」

 

白の戦い方は、逆に2人の闘志に火をつけていた。

 

#####

 

「剣丞!」

 

内側から門を開いた剣丞は疾風に抱きつかれていた。

 

「馬鹿野郎!無茶しやがって!」

 

「ごめんな疾風、心配かけて。」

 

「ほんとにお前はいつもいつも。」

 

「でもちゃんと生きてるだろ?」

 

「そういう問題じゃねぇ!」

 

疾風は一変、顔を俯かせる。

 

「頼むから自分を大切にしてくれ。

・・・剣丞に何かあったら・・・嫌だ。」

 

剣丞は疾風の頭にポンと手を置く。

 

「疾風は本当に優しいな。

そんなに心配してくれるなんて。」

 

「・・・剣丞だから心配すんだよ(ボソッ)」

 

「え?なんか言ったか?」

 

「なんでもねぇよ!ていうか撫でんな!」

 

疾風は剣丞から距離をとると、

真剣な目で言う。

 

「剣丞、俺は今から城の中に入って龍興を探す。」

 

「俺も行くよ、疾風一人じゃ危ないからな。」

 

「いや、お前は・・・」

 

そこまで言って疾風は、白の言葉を思い出していた。

 

(こういうのは惚れた方の負けなんだから。)

 

疾風は目を瞑り、しばらく考えたあと剣丞に言う。

 

「分かった、俺から離れるなよ、剣丞。」

 

「凛も行く!」

 

「「うお!?」」

 

急に現れた凛に、疾風と剣丞は驚いた。

 

「急に出てくんな!」

 

「ごめんごめん、様子見に来たら二人の会話が聞こえてさ。」

 

「でも凛がいてくれるなら心強いよ。

・・・よし、行こう。」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

二人は城に向かって走り出した。

 

#####

 

飛騨は、片腕を失くした妖魔の攻撃を軽やかに避けながら戦っていた。

 

「おのれ!ちょこまかと!」

 

妖魔の体は飛騨の攻撃で、既に傷だらけになっていた。

 

だが分厚い筋肉が鎧となり、致命傷には至っていなかった。

 

「なかなかしぶといな・・・ならば!」

 

敵の大剣が飛騨に向かって叩きつけられる。

 

飛騨はそれを避け振り下ろされた大剣を土台にして飛び上がり、妖魔の肩に刀を突き刺した。

 

「ぐぅ!小癪な!」

 

妖魔は振り払おうと飛騨に手を伸ばす。

 

「飛龍一閃、迅雷(じんらい)!」

 

妖魔の体に、強力な電流が流れる。

妖魔はバチバチと音を立てながら青色に明滅していた。

 

「ぐがああああああああ!」

 

しばらく暴れ回っていたが、

やがて膝をつくと床に前のめりに倒れる。

そして、化け物の姿から元の人間の姿に戻った。

 

飛騨は刀を収めると、急いで結花に駆け寄る。

 

「すまない結花、遅くなった。」

 

「ううん、助けてくれてありがとう、飛騨(ねえ)。」

 

「私だけではない、龍海も来ている。」

 

「龍海お兄ちゃんが!?どういう事!?」

 

「・・・少し長くなるんだがな。」

 

飛騨は今までの経緯を結花に話した。

 

「・・・そういう事だったんだ?」

 

「騙しててすまなかった、だが仕方なかったんだ。」

 

「・・・実はね、なんとなく気づいてたんだ。

飛騨姉ちゃんが何かを隠してること。」

 

「・・・そうだったのか。」

 

「うん!これでも名君、斎藤道三の孫だからね!」

 

結花は自慢げにそう言ったあと真剣な顔で言う。

 

「でもごめん、飛騨姉。

私は信長にあってケジメをつけないといけない・・・だから!」

 

飛騨は、言葉を続けようとする結花の肩に手を置くと微笑む。

 

「お前の覚悟はわかった。

私は止めないし、龍海も分かってくれるだろう。」

 

「飛騨姉・・・。」

 

飛騨はそこまで言うと立ち上がる。

 

「だがまずは城の外に出るぞ。

ここは危険だ。」

 

「うん!」

 

飛騨は結花と共に、白を脱出するために走り出した。

 

#####

 

飛騨と結花が部屋から出たあと、男の体は黒い霧に包まれその姿を変えていった。

 

切断された腕は再生し、体が大きくなると共にゴツゴツとした筋肉が出来上がっていく。

 

顔はまるで猿のようになり、その表情は怒りに満ちていた。

 

背中から4本の腕が生え、蠢き出す。

 

「うがああああああああああああああああああああああ!!!」

 

獣が雄叫びをあげた。




次回、稲葉山城攻略戦、完結ッッ!

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