戦国†恋姫~とある外史と無双の転生者~   作:鉄夜

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第三話

三年前、稲葉山城。

 

「だから、(まつりごと)はちゃんとしなきゃダメだって!」

 

身長が190cmほどある大男が、小さな少女を叱りつけていた。

 

「ちゃんとやってるってば!」

 

「ちゃんとやってたらお兄ちゃんこんなに怒らないだろ。」

 

「もう、お兄ちゃんはいちいちうるさい!

いいから私に任せといて!」

 

「あのねぇ結花(ゆか)、君はこの国の国主なんだから、少しは国のことを考えてだねぇ。」

 

「(∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ」

 

「あのねぇ、こんなんじゃほかの国に攻められた時もたないよ?」

 

「大丈夫、だって・・・。」

 

結花と呼ばれた少女は、男の方を振り向いて、

 

「お兄ちゃんが守ってくれるでしょ?」

 

そう言った。

 

男、斎藤龍海(さいとうたつみ)は目の前の少女斎藤結花龍興(さいとうゆかたつおき)の頭に手を置いて言う。

 

「うん、守るよ、どんな手を使ってでも。」

 

結花は、龍海に満面の笑みを向けた。

 

#####

 

「詩乃、飛騨、待たせてごめんね。」

 

龍海は、外で待っていた二人の少女に近づいて申し訳なさそうにいう。

 

詩乃と呼ばれた少女が、微笑みながらいう。

 

「構いませんよ、また龍興様のお相手でしょう?」

 

「まぁね、全くわがままな姪を持つと苦労するよ。」

 

「そんなことを言いつつ、お前のことだからまた甘やかしたのだろう?」

 

「しょうがありませんよ飛騨殿、龍海殿は身内には甘味の様に甘いお方ですから。」

 

「2人とも酷いなぁ・・・否定出来ないけど。」

 

そう言って龍海が項垂れると、詩乃と飛騨は笑い、龍海もそんなふたりを見て、微笑む。

 

「それじゃあ行こうか。」

 

「はい。」

 

「ああ。」

 

龍海は、ふたりを連れて歩き出す。

 

#####

 

「ん〜♪」

 

食事処で詩乃は焼き魚を幸せそうに食べる。

 

「詩乃、魚美味しい?」

 

(コクコクコク)

 

「本当に詩乃は幸せそうに食べるねぇ。」

 

「普段はひねくれているのに、魚には素直だな、詩乃は。」

 

「よ、余計なお世話です!飛弾殿!」

 

「でも川魚もいいけど、清洲の海の幸も美味しかったなぁ・・・あ。」

 

龍海がしまったという顔をしたと同時、飛騨が食事の手を止め、箸を置く。

 

「龍海。」

 

「・・・はい。」

 

「・・・またこっそり清洲に行ったのか?」

 

「・・・はい。」

 

「まったく、お前という奴は・・・。」

 

飛騨は溜息を吐く。

 

「良いか?龍海。

今、織田と斎藤の関係は控えめに言って最悪だ。

そんな状態で可愛い妹が居るとはいえ、

お前が清洲に出入りしていると知れればどうなるか分かってるのか?」

 

「・・・はい、分かってます。」

 

「分かってない。」

 

飛騨は、目立たない様に冷静に、しかしたんたんと言い放つ。

 

「真っ先に織田の間者であると疑いをかけられ、良くて切腹、最悪斬首だ

それなのにお前という奴は・・・。」

 

と、飛騨の説教が始まりそうになったところで、龍海は言う。

 

「飛騨、ひょっとして俺のこと心配してくれてる?」

 

こういうことを言うと、飛騨はいつも説教をやめ、誤魔化そうとするのだが。

 

「・・・そうだ、悪いか?」

 

「・・・え?」

 

まさかの返答に龍海はポカンとする。

 

「おや、今日はいつにも無く素直ですね、飛弾殿。」

 

「詩乃、それはさっきの仕返しのつもりか?」

 

「さて、何のことでしょう。」

 

詩乃はそっぽを向いて茶をすする。

 

「と・・・とにかくだ!」

 

飛騨が誤魔化すように話を戻す。

 

「あまり軽率なことはするな、なにかあってからでは遅いのだぞ?」

 

「・・・うん、気をつける、ありがとう、飛騨。」

 

と、礼を言うと飛騨が顔を赤くして目を伏せる。

 

「それにしても。」

 

詩乃が沈黙を破るように口を開く。

 

「龍興様はどうしたものでしょうね。」

 

「確かにねぇ、道三(お袋)義龍(姉貴)の時代に比べれば、明らかにこの国はダメになっていってる。

どうにかしたいけど、城主がアレじゃあね。」

 

「龍海が義龍殿の後を継げば良かったではないか。」

 

「俺は先の戦ではお袋側、敗軍の将だよ?

誰もついてこないって、無理。」

 

「そうかもしれませんが、結果龍興様は大名諸侯達に祭り上げられ、暴走してしまいました。」

 

「そうだな、今この国をどうにかする手立てがあるとすれば。」

 

飛騨は、龍海に視線を送る。

 

「国を、斉藤家を誰かがぶっ壊すしかない。」

 

「ま、そういう事だな。」

 

「やはり、それしかありませんか。

ですが・・・。」

 

詩乃はもう一度茶をすする。

 

「龍海殿がいる限り、それもあり得ませんね。」

 

「・・・そうだね、俺、強いから。」

 

「調子に乗るな。」

 

こうして、賑やかな朝の時間は過ぎていった。。

 

#####

 

龍海の館、その中にある龍海の部屋で、龍海は、飛騨と向かいあっていた。

 

「話というのはなんだ?龍海。」

 

飛騨が聞くと、龍海は神妙な面持ちで告げる。

 

「明日の夜、例の策を始めようと思う。」

 

その言葉に飛騨は一瞬驚いた様に瞳を見開くが覚悟を決める様に瞳を閉じて、開く。

 

「・・・そうか。」

 

「飛騨、最後にもう一度聞くよ?

後悔しないかい?」

 

「今更何を言っている。

私を誘ったのは貴様であろうに。」

 

「そうだけど・・・やっぱり詩乃には話した方が良いんじゃない?

友達でしょ?」

 

「・・・友だからだ。」

 

飛騨は悲しそうな微笑みを龍海に向ける。

 

「友だからこそ、詩乃にこんな役はさせたくない。」

 

「・・・そっか、それじゃあ明日、手筈通りにお願いね。」

 

そう言って龍海立ち上がり、去ろうとする。

 

しかし、その龍海の着物の裾を飛騨が掴み、引き止める。

 

「ん?どうしたの?飛騨。」

 

「いや・・・あの・・・だな。」

 

飛騨は言葉を発しようとして言い淀む。

 

その顔が微かに赤くなっているのを龍海は見逃さなかった。

 

「わ・・・私はこういう性格だ、だからその・・・こういうことを言うのもなれない。

だから・・・二度は言わんぞ!?////」

 

顔を真っ赤にして、動悸が激しくなる。

それでも飛騨は思いの丈を口にした。

 

「すべてが終わって、落ち着いたら・・・私を!//////」

 

龍海は跪いて、飛騨の頬に手を添える。

 

「ありがとう、飛騨。

でもそういうのは男の役目だよ。」

 

「龍海・・・。」

 

龍海は飛騨の手を取ると、手の甲に口付けをすると、

 

「飛騨、俺は絶対に、君を迎えに来る・・・だからその時は、俺の奥さんになってくれないかな?」

 

微笑んでそう言った。

 

「うん・・・私・・・も・・・。」

 

返事を口にしようとする飛騨の目から、涙が溢れ出す。

 

「あはは、飛騨泣きすぎ。」

 

「う・・・うるさい!あんまり見るな!バカァ!」

 

「あはは、ごめんごめん。」

 

龍海は、飛騨を優しく抱きしめる。

 

「ねぇ、飛騨。

俺さ、独占欲強いから、ちゃんと君が俺の物っていう証が欲しい。

だから・・・いいかな?」

 

その言葉に飛騨は顔を赤くして龍海の胸に顔を埋めるが、すぐに顔を上げていう。

 

「うん、私を、龍海の物にしてくれ。」

 

そう言って微笑む飛騨の口に、龍海は口付けをする。

 

#####

 

事が終わった龍海と飛騨は、寝巻き姿で一つの布団に入り、幸せそうに身を寄せあっていた。

 

「不思議だ・・・なんだか私の中にお前がいるようだ。」

 

「ははは、そりゃ嬉しいねぇ。」

 

龍海は飛騨の体を抱きしめる。

 

「俺、初めて自分の体がでかくて良かったって思ったよ。」

 

「どうしてだ?」

 

「こうやって、大切な人をしっかりと抱きしめることが出来るからね。」

 

「う・・・うつけめ////。」

 

そういった飛騨だが、決して抱擁から逃げようとはしない。

 

「ねぇ飛騨、やっぱり今回の件、降りない?」

 

「・・・龍海。」

 

「いやだってさぁ、自分の恋人ってなるとやっぱり辛い役させたくないしさぁ・・・」

 

「それ以上言ったら怒るぞ? 」

 

「いや・・・でもなんか、これじゃあ俺、

飛騨の俺への思いを利用してるみたいで嫌でさぁ。」

 

その言葉に、飛騨は優しく微笑むと龍海の頬に手を添える。

 

「それでいいじゃないか。」

 

「え?」

 

「私が、お前の為にしてやれるのはそれぐらいしかない。

それなら利用されても本望だ。

・・・それに。」

 

飛騨はそっと触れるだけのキスをする。

 

「迎えに来てくれるんだろ?」

 

「・・・うん。」

 

龍海はうなづくと再び飛騨を抱きしめる。

 

「飛騨、明日はお互い、後悔のないようにしようね。」

 

「あぁ、そうだな龍海。」

 

「・・・愛してるよ。」

 

「・・・私もだ。」

 

二人は抱き合ったまま、静かに眠りについた。

 

#####

 

翌日、清洲、久遠の屋敷。

 

「もう、先触れもよこさないで来るなんて、

普通はありえないわよ?」

 

結菜は腰に手を当てて、縁側で優雅に茶を飲む龍海に言う。

 

「いやぁ、これでもお兄ちゃん幹部職だからねぇ。

敵国に遊びに行ったってバレたら首飛ばされんのよ、言葉どおり」

 

久遠が笑っていう。

 

「それでも遊びに来るあたり、流石は兄上と言ったところか。」

 

「笑い事じゃないわよ、久遠。

義兄妹とはいえ、敵国の将をもてなしてるなんて家中に知れたら、久遠がうつけって噂が更に広まっちゃうわよ?」

 

「今更であろう?

それに普通は警戒するべきだろうが・・・兄上だぞ?」

 

「あはは、信頼してくれてるようで有難いねぇ。」

 

「その代わり敵になれば根まで絶やすがな。」

 

「やだなにこの子怖い。」

 

龍海は空になった茶碗を置くと立ち上がる。

 

「それじゃあ、妹達の元気な姿も拝めたし、今日はもう帰ろうかな。」

 

「え?もう。」

 

「うん、あんまり長居すると悪いからね。」

 

龍海は結菜に近づくと、頭に優しく手を置く。

 

「お兄様?」

 

切なげに自分を見つめる兄に、結菜は不安そうに聞く。

 

「じゃあね、結菜。

久遠と幸せにね。」

 

「う・・・うん。」

 

小さくなっていく背中を、結菜はただただ見つめていたのていた。

 

#####

 

「詩乃、いるか?」

 

飛騨が呼びかけると、詩乃が奥から出てきた。

 

「おや飛弾殿、どうかなさいましたか?」

 

「出かけるぞ、少し付き合え。」

 

「それは構いませんが・・・飛騨殿。」

 

「ん?なんだ?」

 

詩乃ニッコリと微笑んで言う。

 

「昨夜はお楽しみでしたね。」

 

「なっ!?////」

 

飛騨が狼狽えると、詩乃は楽しそうに微笑む。

 

「何やら幸せそうでしたのでカマをかけてみたのですが・・・フフ、その反応だと予想通り見たいですね。」

 

「ーーーーーーっ!//////」

 

飛騨は顔を赤くして詩乃の頬を引っ張る。

 

「ほ・・・ほへんははい!ひはい!ひはいへふ!」

 

詩乃は頬を引っ張られてジタバタとしていた。

 

#####

 

「飛弾殿・・・ちょ・・・ちょっと待って・・・ください!」

 

詩乃は息を切らしながら山道を登っていた。

 

目の前を歩く飛騨が呆れたようにいう。

 

「お前も武士なら少しは鍛えろ。」

 

「私は・・・頭脳労働・・・専門・・・ですので・・・」

 

「もう少しだから頑張れ。」

 

そう言って飛騨は詩乃の手を握って歩き出す。

 

そしてしばらくすると、目的の場所についた。

 

「よし着いた。」

 

「まったく、こんなところに何があると言うので・・・わぁ。」

 

詩乃は、目の前の景色に目を奪われた。

 

「すごいだろ、ここからなら美濃すべてが見渡せる。」

 

「えぇ、確かにこれはすごいですね。」

 

詩乃は静かに微笑んだ。

 

「いつか・・・」

 

「え?なんですか?」

 

詩乃が聞くと、飛騨は静かに言う。

 

「いつか、龍海も加えて、三人で日の本中を旅してみたいな。

そして、こんな景色を見てまわりたい。」

 

「・・・そうですね。」

 

二人は、そのまま暫く景色を眺めていた。

 

#####

 

夜、龍海の屋敷。

 

飛騨と龍海は昨日と同じく向かい合って座っていた。

 

龍海は懐から折りたたんだ書状を取り出すと、飛騨に渡す。

 

飛騨はそれを懐にしまうと立ち上がり、屋敷を出ていく。

 

こうして、龍海と飛騨、二人の戦が始まった。

 

#####

 

数ヶ月前。

 

「国を、信長に渡し、なおかつ龍興殿を生かす策・・・か。

・・・上手くいくのか?」

 

飛騨が聞くと龍海はいつものように飄々と言う。

 

「どうだろうね、正直危ない橋渡ってるとは思う。

でも、もうやるしかない。」

 

「・・・」

 

飛騨は龍海の言葉を静かに聞いている。

 

「強制はしないよ?

・・・やってくれるかい?」

 

「・・・龍海。」

 

飛騨は微笑んで言う。

 

「お前にとって、私はなんだ?」

 

「俺が信頼できるたった一人の親友であり、部下だよ。」

 

「なら何を迷うことがある。」

 

飛騨は龍海の目をまっすぐ見ていう。

 

「命令すればいいのだ。

やって欲しいではなく、やれと。」

 

#####

 

「お兄ちゃんが・・・謀反?」

 

結花は、目を見開いて驚いている。

 

飛騨は結花の目の前で跪いている。

 

「はい。」

 

「う・・・嘘だよそんなの!

お兄ちゃんが裏切るわけないもん!」

 

飛騨は懐から書状を出すと、結花に差し出す。

 

「龍海殿は、こちらの書状を大名諸侯達に渡すように私に命じました。」

 

結花は手紙を受け取り読むと、クシャッと握りつぶした。

 

その顔には怒りが現れている。

 

「許さない・・・許さない!」

 

結花は立ち上がると周りで控えている大名達に言う。

 

「誰でもいいから斎藤龍海を殺して来なさい!

それ相応の褒美を取らすわ!」

 

#####

 

龍海は自宅で茶を啜っていた。

 

傍らには、龍海の身長と同じほどの長さがある槍が置いてあった。

 

その穂先の形はまるで西洋の剣のようであった。

 

「そろそろかな。」

 

龍海がそう呟くと同時に、家の廊下を何者かが走っている音が聞こえ、龍海がいる部屋の襖が勢いよく開く。

 

「斎藤龍海!神妙にせい!」

 

「やぁ、待ってたよ。」

 

龍海は入ってきた兵士達を笑顔で迎える。

 

「丁度茶も飲み終わったところだし、始めようか。」

 

五人の兵士が龍海に斬りかかる。

 

龍海は置いてあった槍を持つと、それの一振りで五人の体をまとめて切り裂く。

 

その様子に、他の兵はたじろぐ!

 

「怯むなぁ!全員で襲いかかれ!」

 

兵たちが、一斉に襲いかかる。

 

「まったく、短気は損気だよ?」

 

屋敷の中から、兵士達の悲鳴が響き渡った。

 

#####

 

龍海ひたすら森の中を駆け抜ける、後ろから追手の足音が聞こえる。

そして龍海は、()()()()崖の上まで来ると、後ろを振り返る。

 

そして、追いついてきた追手を率いている人物に声をかける。

 

「まさか君に裏切られるとわね、飛騨。」

 

飛騨はフンと鼻を鳴らし、侮蔑の目で龍海を見る。

 

「初めからこれが目的だったわけだ。」

 

「当たり前だ、龍興様に謀反など、恐れ多く愚かなことに誰が手を貸すものか。

・・・鉄砲隊!構え!」

 

飛騨の後ろに控えていた鉄砲隊が一斉に構える。

 

「選ばせてやる、斎藤龍海。

今ここで身を投げるか、鉄砲に撃ち抜かれ死ぬか、好きな方を選ぶがいい。」

 

「・・・呪いあれ。」

 

龍海は飛騨に向かって大声で叫んだ。

 

「斎藤に呪いあれ!

貴様らが死ぬるその時に我が名と怨嗟の声を思い出せ!」

 

龍海はそう言うと両手を広げて、後ろ向きに崖を落ちて行った。

 

飛騨は、崖下に近づき、覗き込んだ。

 

「・・・」

 

崖の遥か下で龍海が槍を岩壁に突き刺し、ぶら下がっているのが見えると、飛騨はほっとした表情をするが、一瞬で真剣な表情に戻る。

 

「城に戻るぞ、龍興様にこのことを報告せねばならん。」

 

そう言った飛騨に、続いて、兵たちが歩いていく。

 

(龍海・・・私は、信じて待ってるからな。)

 

飛騨は、心の中でそう呟いた。

 

#####

 

崖の下に降りた龍海は、先に用意されていた着物に着替える。

 

斎藤龍海という要を欠いた斎藤を飛騨が内側から崩す、いつか織田が攻めてきた時、容易く崩れるように。

 

そして、その襲撃の最中、結花と、可能なら詩乃も助け出す。

 

それが龍海と飛騨、二人の策であった。

 

龍海は、傘を被ると心で呟く。

 

(まずは連絡手段を見つけないとね。

・・・待っててね、飛騨。)

 

そう言って龍海は歩き出した。

 

#####

 

龍海を討ち取った褒美として、龍興の側近として仕えることになった飛騨は、自宅への帰路を歩いていた。

 

(まず第一段階は終わった。

後は、龍海が連絡手段を見つければ・・・)

 

そう心の中でつぶやき、家の扉を開けようとした時だった。

 

「斎藤飛騨!」

 

飛騨が後ろを振り返ると、詩乃がこちらを怒りと侮蔑が入り混じった目で睨んでいた。

 

(詩乃・・・)

 

詩乃は飛騨に詰め寄る。

 

「どうして・・・どうして龍海殿を裏切ったのですか!」

 

「・・・」

 

いっそこの場で全てを話して楽になろうかと思った。

 

だがそれは、自分と同じ辛い役目を詩乃にも強いることになる。

 

(詩乃・・・すまない。)

 

詩乃は飛騨の肩をつかむ。

 

「なんとか言ってはどうですか!」

 

「・・・離せ。」

 

「・・・え?」

 

「この手を離せと言っている!」

 

飛騨は詩乃の手を払いのける。

 

その拍子に、詩乃は地面に倒れ込んだ詩乃は、飛騨を見上げて睨みつける。

 

「この為だったのですか・・・あなたはこの為に龍海殿の(しとね)に潜り込んだのですか!」

 

「そうとも、全く馬鹿な男だ、自分が騙されているとも知らずに、哀れなことだ。」

 

「この!」

 

詩乃は脇差しに手を伸ばす。

 

「私を斬るのか?

私は今や、龍興様の側近だぞ?

その私に手を出せばどうなるか、利口な貴様ならわかるであろう?」

 

その言葉に詩乃は俯く。

 

「全て嘘だったのですか。」

 

そう言った詩乃の表情は一転、悲しみを帯びていた。

 

「いつか三人で旅をしたいと!

いろんな景色を見て回りたいというのも!

全て嘘だったのですか!」

 

飛騨は、敢えて侮蔑の表情を作って言う。

 

「そうだ、すべて嘘だ。

誰が貴様らのような者達と好き好んで旅などするか。」

 

そういうと飛騨は踵を返す。

 

「今日の私は機嫌がいい、此度の無礼は見逃してやろう。

だが今後、少しでも長生きしたければ、私には逆らわぬことだな。

竹中半兵衛よ。」

 

そう言って飛騨は入口の扉を開き屋敷内に入っていく。

 

「斎藤飛騨・・・私はあなたを許さない!

裏切り者・・・裏切り者ぉ!」

 

後ろから聞こえてくる詩乃の罵倒に、飛騨は振り返ることなく扉を閉めた。

 

(後悔などしない・・・すべて私が決めて選んだ道だ・・・だから・・・だから。)

 

「止まれ・・・たのむ・・・止まってくれ・・・。」

 

いくら声に出しても、溢れ出る涙は止まることは無かった。

 

#####

 

現在、飛騨の家。

 

「・・・いつの間にか寝てしまっていたか。」

 

飛騨が瞳を開くと、一人の少女がこちらの顔を心配そうに覗き込んでいた。

 

「・・・凛か。」

 

飛騨は起き上がる。

 

「すまん、待たせたな。」

 

「ううん、それより大丈夫?」

 

「ん?何がだ?」

 

「だって、飛騨ちゃん、泣いてたから。」

 

凛にそう言われて、飛騨が顔を拭うと確かに指の先が濡れていた。

 

「気にするな、少し嫌な夢を見ていただけだ。」

 

「そっか・・・。」

 

飛騨は凛の頭を優しく撫でる。

 

「そんな顔をするな・・・私は大丈夫だから・・・な?」

 

「・・・うん。」

 

飛騨は真剣な顔付きになって聞く。

 

「それよりどうだ?織田の動向は。」

 

凛は申し訳なさそうに首を横に振る。

 

「そうか。」

 

「でも、要注意人物が増えた。」

 

「なに?」

 

凛は白と疾風の事を飛騨に話した。

 

「颯馬白・・・それに妹の疾風・・・か。」

 

「うん、特に姉の方は本気で用心した方がいいよ?」

 

「うむ、分かった。」

 

飛騨は、引出しから手紙を取り出す。

 

「それじゃあ頼む。」

 

「うん、部下に届けさせるね。

・・・あのね、飛騨ちゃん。」

 

「ん?」

 

凛は、目に微かに涙を浮かべて言う。

 

「凛、知ってるからね!

飛騨ちゃんが頑張ってるの知ってるから!

凛だけじゃない!龍海様だって分かってるから・・・だから・・・飛騨ちゃんは1人じゃないよ!」

 

飛騨は気がつくと、目の前の少女を抱き締めていた。

 

「まったく、お前のように感情的な草など見たことがないぞ。」

 

「うぅ・・・だってぇ・・・。」

 

「ありがとうな、凛。

そう言ってくれるだけで私は嬉しいぞ。」

 

「・・・うん。」

 

飛騨は凛を放した。

 

「じゃあ私もう行くね!」

 

「あぁ、またな。」

 

「うん!」

 

凛は元気に頷くと音もなく消えた。

 

「きっと・・・もうすぐだよな・・・龍海。」

 

空に浮かぶ月に、飛騨は静かに呟いた。

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