遊戯王~デュエルキングを目指す少女の物語   作:魔法使い?

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第22話 『もうひとりの僕?』

「あーあー。部活終わったと思ったら、雨かよ……。ついてねえ……。傘なんて持ってきてねえよ」

「天気予報は今日は晴れっていってたのにねーー」

 

 宮城が溜息をつきながら言った。

 神崎さんと朝ごはんを食べながら、さりげなく見ていたTVでは「今日の天気は快晴が続く」ってキャスターが言ってたっけ。

 もちろん急な雨の変化に対応できるはずもなく、私も傘なんて持ってくるはずはない。

 長い長いデュエル部が終わって、外に出てみたらこんな有様である。

 

「雨止む気配しなさそうだな。こりゃ、ダッシュでいくしかねえかもな」

「ダッシュで行くのは危ないよ。水たまりで滑って怪我したらどうすんの?」

「おいおい……。奈々川。けがってガキじゃあるまいし……」

 

 私と宮城は屋根で雨宿りをしていたが、止む気配がしない。待ってるとだんだん大雨になっていく気がする。

 まだ季節は夏なのに、風が凍えるように冷たい。私は袖の中に手を隠しながら、どうやってお家に帰るか考えていた。

 すると突然、

 

「ユウヤーーー!!」

「あ、神崎さん!!」

 

 雨がポツリと落ちる姿をぼーっと見ていると、遠くで透明の傘を差して手を振りながら私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 ピンク色の長い後ろ髪を揺らしながら、いつもぶれることがない笑顔を私に見せる女の子。

 

「神崎さん。わざわざ来てくれたんだ!!」

「今日は、仕事が早く終わったんだ。だんだん雲行きが怪しくなってさ、あんたが心配になったからここまで来たわけ。今日は一緒に帰ろうよ」

「うん!!!」

 

 力強く首をかしげながら私はうなずいた。

 すると神崎さんは傘を伸ばして、人ひとり開けるスペースを作ってくれた。私が入れるように作ってくれたスペースだろう。

 

「ほら、濡れちゃうでしょ。入りなさい」

「でもこれって……。相合傘になっちゃうよ……」

「もうユウヤったら。私達付き合ってるんだからそんなの当たり前のことでしょ」

「……。そうだったね」

 

 傘は1つしかないから神崎さんの傘に入り、2人で1つの相愛傘。私は慣れない相愛傘に顔を真っ赤にしてしまう。

 

 私には彼女がいる。

 プロデュエリストをやっていながらも、学園生活と両立している神崎ミカ。

 最初は女と女同士は付き合うなんてありえないと思っていたさ。

 でも、今日のようにわざわざ迎えに来てくれるように、神崎さんは小さな気遣いができる子だって最近気が付いてくれた。

 仕事もあって忙しいはずなのに、彼女は私に対していつも気遣いをいっぱいしてくれる。

 いつからだろうか……。こんな彼女と一緒にいるのは悪くないと思ったりするようになったのは。

 

「……。リア充め……」

 

 私達のイチャイチャに一人取り残された宮城は何か呟いたような……。

 

「リア充爆発しろ~~~~~~~~~~!!!」

 

 この大雨の中、宮城は濡れるの覚悟で私と神崎さんの視界から消えるように、ダッシュでどんどん離れていった。

 

「ぐぇえっ」

「あっ!」

 

 勢いよく去ったのはいいけど、宮城は水たまりの上でびしゃりと水を勢いよく吹き飛ばした。。

 私はさっき注意したはずなのに、宮城は水たまりにつまずいてこけてしまうなんて……。

 あーあー。宮城の制服は水まみれになってしまっている。びしょびしょだ。

 

「爆発だ!! 爆発!!!! お前ら、木端微塵になっちまえ」

 

 私達の様子を振り返ることなく、こけたのにすぐさま立ち上がると「爆発」と告げてここから消えていった。

 

「私達の付き合いって、罪があるわけないのにずいぶんと恨まれているわね……。それにしてもまあ、あんたの周りって変わった奴多いわね……」

「まあ……」

 

 私の隣にいる神崎さんは傘を伸ばしながらそう告げた。

 宮城の言葉、それはきっと、嫉妬と羨望を込めて一方的に非難する台詞だったんだろう。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「やっぱり2人きりっていいわよね」

「そうだよね」

 

 慣れない相相傘で私と神崎さんは、通学路を一緒に帰っていく。

 雨は止む気配はなく段々と強さも増すばかり。風も強くて雨の軌道は斜めなもんだから、傘を差してもびしょ濡れなもんだ。

 

「えへへへへ」

「……ちょっ、ちょっと…!!」

 

 神崎さんは少しでも濡れるのを嫌っているのか、私のほうへとくっついてくる。それにしても相合傘のスペースは少ない。

 雨でも残っている女の子の微かな生暖かい体温と、制服についている水分の冷たさで何とも言えない変な気分だ

 

「ねえ。ユウヤ……」

「なぁに!?」

 

 神崎さんは首を傾げて、私の肩に体重を乗っける。

 顔を合わせようとしたら、角度がちょうど、服の隙間から神崎さんのセクシーなピンク色の下着が見えたから急いで見てない振りにする。

 私のほうをずーっと目線を変えずに、甘えたように呼んでいるもんだから、少し緊張して返事をする。

 

「いつも思うんだけどさ、どうしてユウヤはサラシを巻いているの!?」

「!?」

 

 神崎さんの一言であわてるように急いで自分の姿を確認する。

 私のワイシャツが雨の影響で透けているのだ。最悪だ。彼女の様子をぼんやりと見ていたせいで、言われるまで気が付かなかった。

 幸い、サラシはぐるぐる巻きにしていたのでずれていることはないし、胸も不自然に膨らんでいるってことはない。

 雨でも吸水性、耐洗性に優れていてくれたおかげで、女を隠すという役割を果たしていてくれたようだ。

 

「ちょっとサラシを巻いてるって大げさすぎない? 別にあんたは大けがをしているわけじゃないしさ」

「………」

 

 私はばれるんじゃないかという緊張のあまり言葉が出せにくくなってしまう。

 

「全く……。女子コスプレイヤーが胸を潰して男装するとか、巨乳がコンプレックスの女の子が隠すために胸を潰すとか、そういうわけじゃないんだしさ。それにしてもサラシを巻くって大げさすぎない?」

「べ、べつにこれは深い意味はないんだよ……」

「へぇーー。そうなんだーー」

 

 語尾を伸ばされる、その神崎さんのさり気ない人ことでも心臓の鼓動は高まるばかり。

 今、私が不自然な動きになってしまっているのも神崎さんに、変な風に思われているのではないだろうか。

 

「あんたと付き合っていろんなことがあったけどさ、ほんといやでもあんたの性格とか行動ってわかってくるってわけ」

「……。それってどういう意味?」

「そりゃ、あんたはこれでもかってくらいスキンシップ多い気がするし、線が細いし声も高い、髪の毛サラサラだし顔立ちも整ってるし、時折妙に艶っぽい表情を見せるし、匂いも男特融の臭さが全くないのよ。まるでユウヤが女の子だっていうくらいに」

「え……!?」

 

 一言一言、女の特徴を上げられて、言葉が文字になって巨大化したかのように潰され、私は歩くのを止めてしまう。

 神崎さんが、とっくの昔に私のことを女の子だと気が付いていた、というまさかだと感じてしまう。

 

「なんだか、男の娘と付き合ってるって感じ」

「……!?」

「あんたは女装大好きのコスプレマニアなんだから、どうしても女風に見えちゃうってこと。そこを意識してるから、いつも私の目がそういう風に見えてしまうのかな? それにしても私の制服よく盗むわよねー。変態なんじゃないの?」

「変態ですみません……」

「別に嫌いってわけじゃないし……。ユウヤの為だったらいくらでも私の洋服とか貸してあげるわよ」

 

 私は弱弱しい言葉で謝る。

 特徴を上げられて、私の心に突き刺さるものはいくつかあったが、いつもと同じで変態の一言だけで片付けられるのは安心した。

 女だとばれずに変態で済むんだったら、いくらでも変態キャラを突き通す。これしか私に隠す精いっぱいできることだった。

 

「僕を女っぽいって馬鹿にしてるのか!」

「冗談よ。全く、女の子っぽいっていうと怒っちゃって」

「当たり前だろ!!」

 

 私は感情をあらわにしながら、からかう神崎さんをかっと怒る。

 神崎さんのはこのしゃぎっぷりから、勘づかれていることは100パーセントないだろうと安心した。

 

「ここまでは本当に冗談。ユウヤは大人しくて優しいし、かっこいいから好き。ほんと、私好みの男の子」

「ちょ、……ちょっと! 急に褒めるのやめてよ」

「いいじゃない。こういう遠慮しがちな性格がとっても大好き。あんたってたまに天然で馬鹿だなって思うことあるけど、私は好きだよ。いつも明るくて活発でデュエル大好きな所が応援したくなる感じ。あんたの夢。彼女として最後まで応援してあげるわ」

 

 ここまで細かく丁寧に褒められたのは初めてだ。付き合うことは一緒にいる時間が長い。

 こうして、私のことを多く神崎さんに知らされていたっていうこと。私は神崎さんの彼氏としていい男を演じることはできていたのだろうか。

 

「僕だって神崎さんの性格とか行動パターンよく知ってるよ」

「へぇーー。言ってごらんなさいよ!」

 

 話の流れを変えるため、私はごまかし含めたことを言った。

 私も神崎さんと同じようにいいとこ探しで、無理やり言ったために少々恥ずかしかったが……。

 

「神崎さんはいつも僕によくしてくれるよね」

「ふむふむ。それで?」

 

 気安く顔を近づけて問いかけてくるようにしてくるから、話しかけにくい。

 なんというか……、自分に自信を持っているようなやり方だったから。

 

「僕の為にさ、身の回りの世話をよくしてくれるんだ。洗濯、掃除、料理など忙しいのにわざわざ僕の為にしてくれる」

「そりゃ、あんたのことが好きだからいつもやってるだけよ」

「それがすごいんだよ。理想の女の子って感じ。いつも笑顔たっぷりで、辛いことを一切見せつけない。ほんと君の笑顔にはいつも憧れるよ。プロデュエリストだからデュエルも強いし、スポーツも勉強もなんでもできるから人に自慢したくなるくらいの理想な女の子だよ!!」

「へぇーー? それで?」

 

 神崎さんの目がキラキラ輝いた。私の言葉を待って期待しているように見えるからいいづらい……。

 

「それでって何?」

「ユウヤーー!! もっと言いなさいよ? もっとあるでしょ」

「えっ? 何それ?」

「もう~。恥ずかしやがりやなんだからーー。このこのーー!!」

「ちょ、ちょっと雨に濡れちゃうよ!!」

 

 あまりにも神崎さんは、私の肩をグリグリと肘でたたきながらはしゃぐもんだから、ついつい傘からはみ出しそうになってしまう。

 

「この後には、男の子が女の子に好きとかいうもんでしょ」

「へ!?」

「私に言わせるんじゃないわよ。ほんとにあんたってこういうのには鈍感なんだから!!」

 

 そんなくだらない話をしながら帰り道を歩いていく。

 これが私達の恋愛。いつもと同じで何でもないような時間だけど、不思議とこの子といると安らぐ。

 この子は本当によくしてくれる。同居してからこの子はいつも笑顔、笑顔で太陽の日差しのように明るい。

 なんていうか私と神崎さんの関係は友達以上、恋人未満なのかな? いや、付き合っているからそれは違うか?

 こんな関係がいつまでも続いて手放したくないと私は思った。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「やっとついたわね」

「あーあー。服までびしょびしょだよ」

 

 ようやく神崎さんの家に無事つくことができた。髪の毛は2人とも、雨でぬれてしまってせっかく朝、セットしたのが崩れている状態。

 それに、この学校の指定になっているから来ているワイシャツが水に濡れてしまった。肌にくっ付くのがとても嫌ですぐにでも脱いでしまいたい。

 

「先、お風呂入ってきなよ。ユウヤ!」

 

 雨が降るってことで、あらかじめ玄関に2つほど準備してあったんだろうか? タオルを拾うと神崎さんは頭にかぶる。

 そしてもう1つを私に渡してくれた。

 

「いや、遠慮しておくよ。こういうのは女の子から先に行かせてあげるもんだろ」

「何かっこうつけてんの? あんた。私は先にあんたの為に晩御飯作ってあげるから。私は後でいいのよ。いいから早く入りなさい。風邪引いちゃうでしょ」

「いいのか?」

「いいのよ」

 

 そういうと、タオルで髪の毛を拭きながら神崎さんはリビングにいってしまった。遠くなのに、ほんのりとカレーの匂いがする。

 料理もあらかじめ私の為に作っている途中だったのだろうか。本当にこの子は手際がいい。

 

 

 

 

 洗面所へ向かった。

 私は洗面所でタオルを被っている自分の姿を鏡で見ながら、学ラン、ワイシャツと順に脱いでいく。

 そして最後の一枚となったサラシを徐々に少し外していく。クルクルとサラシが回転しながら徐々に自分の姿が見えてくる。

 

「胸が大きくなってる気がする……」

 

 一人ごとを言いながら出てきた胸を鏡で確認しながら、触って右手で触る。

 気のせいだとは思いたいが、入学初日で確認したときより、横のふくらみの違いは明らかだった。

 15歳の思春期の時期だ。一般の女性の成長期の時期なんだから、おかしなことではないだろう。

 

「………」

 

 これを見ると罪悪感がする。男らしさを追求しながら今までを演じて続けてきたけど、これが女の子を表す特徴。

 これが、よけいに自分の心を苦しめた。

 

 神崎さんは私の為にここまで優しくしてくれる。

 一般の掃除、洗濯、炊事、買物すべてだ。彼女だって学校やプロデュエルの仕事があるのにも関わらずに、わざわざ私の為に主婦のようにこうやって面倒を見てくれる。

 「手伝ってあげるよ」と言っても、簡単だからいいと言って手伝うのを拒否する。ましては「あんたは部活やってるんだからいいのよ」といってやらなくてもいいという始末さ。

 忙しいはずなのに、あの子は苦しんでいる姿を見たことがないのだ。

 だからこそ私は心が痛くなってくる。

 私のことをとっても好きになっている女の子を、だまし続けていることを。罪悪感だけが残る。

 この恋愛はどこまで続くのだろうか……。いずれ限界がくるのではなかろうか。この体のせいで………。

 

 

 私はお風呂の扉を開け、まず最初にシャワーを浴びる。

 体を上から下にかけてゆっくりと洗っていき、最後に泡を流した。

 この時も、私は女であるということを悔やんだ。

 

「………」

 

 お湯につかり、私は目を瞑ってリラックスする。

 この時が一番、心が落ち浮く気がするのだ。辛かったときでもこの温かさが心が安心させてくれる。

 

「いつまで続くのかな……」

 

 お兄ちゃんの夢「デュエルキング」を果たすためにこうして、私は男装して冥界学園高校に入学した。そして彼女もできた。

 考えてみればあの子と付き合ってみるのは悪くない気がしてきた。

 私には、4人の家族がいた。父に、母に双子の兄。とっくの昔にみんな離れ離れになってしまい、私はもう一人ぼっちだ。

 だからこそ、「愛」に私は飢えていたのかもしれない。

 私の家族は崩壊してみんな離れ離れになってしまったから。神崎さんが素直に私を愛してくれるのは、昔の母親を思い出す。

 

 

 

 

「ユウヤーーーーーーー!!」

「……えっ!?」

 

 突如、勢いよくガタンと扉が開く音がして、女の子の声がバスルームに響いた。

 私はあまりにも予想外な展開に思わず体が勝手に反応し、背中を後ろにしながら胸を押さえ、今まで浅く入ってたお湯を深く入る。

 

「神崎さん。どうして!?」

「あまりにもびしょびしょだったから私も入りたくなっちゃったのよ」

 

 急に神崎さんがお風呂に登場するという展開に、私は心拍すうが一気にヒートアップしていく。

 入口のほうに神崎さんはいるわけだから私が、女だと悟られる前に逃げるという手段は一切ない。

 

「るんる、るるるーん」

 

 呑気に歌を歌いながら体をごしごしと洗う音がする。呑気な神崎さんとは反対に、私の緊張はどんどんと上がっていく。

 

「ねえユウヤーー」

「………」

「ユウヤったらーー」

 

 私がいるお湯は濁っていて体は確認できない状況だけど、いつばれてもおかしくないこの状況。

 いくら呼ばれようと私は危険を考えると言葉は出ない。

 

「私は今、生まれたての姿になっているのに興味ないのかしらーー? 全く女の子の体に興味ないのかしらねー。ほんと恥ずかしやがりさんなんだから」

 

 神崎さんの今の状況を言われてさらに絶望する。私は想定外なことだっから体を隠すようのタオルも持っているはずはない。

 恥ずかしいと、恐怖が交わった自分でもわけがわからない状態。穴があったら入りたい。今、それほど私は危機に迫っている。

 

 

「一緒に入ってもいいよね」

 

 私は返事はできなかった。

 体を洗うのが終わったのか、神崎さんは徐々に近づいてくる。もっと長くしていると思ったのに、私の半分くらいの時間で終わらせたからびっくりだ。

 神崎さんがお湯に入ると、そのしぶきが私の背中に掛かったことですぐにわかる。

 そして、私は隠れようと後ろを向いているのにも関わらず、神崎さんは背中に抱きついてきた。

 

「ほんとに緊張しているのね」

「……っ!?」

 

 私の背中に柔らかいものがぐいぐいと押し付けられる。

 今まで味わったことのないような、生の胸を押されているという慣れない感覚に私は戸惑う。

 それに、今神崎さんが私を触っている手の位置、その位置がちょうどおなかを包むように触っている状態。

 少しでも手の位置が上や下にやらされるだけでも、女の子の物や、男の子にあるものがないというのが分かってしまう。

 

「私ね。ユウヤと付き合ってから毎日楽しいの。辛いことがあってもいくらでも頑張れる」

 

 私の耳に直接、神崎さんの声が響く。

 私は今、羞恥と緊張が混じっている精神の為、おかしくなってしまいそうだ。

 

「毎日毎日、プロデュエルで忙しくても頑張れるのよ。デュエルでたとえピンチになったとしてもあんたのことを思うと、いくらでも頑張れた。だってあんたの笑顔がこうして家で見れると思うと、辛くても頑張らないとって思ったもの。今まで生きてきて、こんなの味わったことないの。これが恋愛なのかしら?」

 

 神崎さんが言った「好き」。なんて温かい言葉なんだろう。言ってくれるだけでとても安心する言葉。

 この子は負けず嫌いだ。一度もデュエルで負けた姿を見たことがない。確かプロでは58連勝まで現在も記録伸ばしている最中だっけ?

 私が清水さんに襲われたときもデュエルで助けてくれた。この子は私よりも力強い。

 この思いに答えてあげるべきだと思ったが、私はそれに答えられる自信がない……。

 

「私ね。すごく緊張しているの。なんでだと思う?」

「ちょっ、ちょっとっ……」

 

 背中に乗っていた神崎さんの胸が離れる。

 そしてすぐに私の手を動かして、神崎さんの胸にあてられる。手のひらに肌が吸い付くような感覚、そして柔らかい弾力がある。

 その膨らみは私とは違う柔らかさがした。

 

「私の胸の鼓動聞こえるかな? ほんと、心臓バクバクで今でも爆発しそうなくらい。なんでだと思う?」

「………」

「恥ずかしくてほんと、死にそうなくらいなのよ。男の子と一緒に入るって初めてのことなんだから」

 

 言われている通りに、胸からバクバクと心臓の鼓動が手に染みていくのがわかる。

 神崎さんもこの行為がとても緊張しているようだ。だが、私のほうがもっと死にそうなんだが、それはとても言える気配はない。

 

「ユウヤの背中綺麗……」

「………」

 

 突然、私の背中をなでるように上から感じの一を描くように触られる。

 

「ほれ、ほれ二の腕ぷにぷにーー」

「ちょっと神崎さん、やめてよ!!」

 

 右腕をおもちゃにしているかのような触り方をする。遊んでいるような触り方だったので、私は思わず声が出たが神崎さんはやめない。

 

「可愛い……」

「ひぃ……」

 

 何を考えているのか突然、右耳をなめられた。

 ぞくぞくとした、感覚がいやだったのか私は体が反射して、肘を右に回転してしまう。

 そしてその肘が勢い余って神崎さんの顔にぶつかってしまった。

 

 

「やめてっていってるじゃないか。どうしてわかってくれないんだ」

 

 私は思わず、怒りにまかせて口にしてしまった。そして急に静かになるお風呂場。私の背中の様子が変だ。

 

「………」

「ごめん……」

 

 私は、誤りながら後ろをゆっくりとちょっとだけ振り向くと神崎さんは、肘に激突した痛みからなのか自分の顔を押さえている。

 さっきまであんなに騒いでいたのに、急に表情を変えて黙り込んでいる。

 ムードが完全になくなった瞬間だった。

 

「ユウヤって私のこと本当に好きなの?」

「………」

 

 神崎さんは私達の関係について語り始める。女の子2人の雰囲気が段々と暗くなってくる。

 

「ひどいよ……。私達って付き合っているのよね」

「付き合ってるにきまってるじゃないか。だから一緒にこうして暮らしているんでしょ」

「ウソつき。私はこんなにもアピールしてるのに、ユウヤは全く興味がなさそうにしている。心から好きって感じが伝わってこないもの。心から好きって言われたことないもの」

「いや……、僕も神崎さんのことが好きだよ」

「ウソウソ。だって今さっきこうして私は一生懸命アピールしてたのに、私の顔すら見ようとしてなかった。本当に興味なさそうにしているもん。私のこと興味ないんでしょ。どうでもいいと思っているんでしょ!!」

「ごめん……。これには……」

 

「もういい……」

 

 神崎さんに対して、恋愛の勢いがない理由を考えようとしたが、その返事を言う前に断られてしまった。

 私の背中のあったかかった女の子感覚がどんどんとなくなっていく。そしてガタンと扉がしまった音がした。

 私は後ろを急いで振り返ったが、そこには神崎さんの姿はなかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 濡れた体をタオルで拭き、ドライヤーで髪の毛を乾かし、着替えの『虹クリボー』が描かれたパジャマを着てすぐにリビングへと戻る。

 リビングの中央にあるテーブルの上には、神崎さん特製のカレーが置かれている。

 

「………」

 

 無言でスプーンを使い、カレーを口にする。

 カレーの絶妙な辛みと、隠し味の蜂蜜が混ざって「おいしい」と感想を誰かに言いたかったが、ここには誰にもいない。

 

 いつもだったら神崎さんと一緒に、他愛もないくだらない会話を楽しみながら食べる夕食。

 毎日のようにアーンと食べさせてくれることもあったけ。一緒にお笑い番組を見て愉快に2人で笑っていたっけ。

 愉快だった夕食がもうここにはない……。私は今、一人ぼっちだ。

 

 

 私は食べ終わった食器を洗ってから自分の部屋へと向かった。

 

 

『美人高校生アイドル神崎ミカ選手の登場だ!! 未だに連勝記録を伸ばしているぞ!! その強さはプロの中でも上位クラスだ!!』

 

 テレビをつけるとピンク髪ロングで、凛々しい顔付きの女の子がカメラに映った。

 私がちょうどつけたタイミングでプロデュエルの試合がやっていたようだ。

 いつも私に対してデレデレの神崎さんではなく、完全にプロデュエリストとしての顔をしながら真剣にデュエルを取り組もうとする姿だ。

 対戦相手のプロも一緒にデュエルディスクを向けて、対戦を始めようとする。

 普通とは違ったソリットビジョンの演出をしながらお互いにデュエルが始まる。

 

『私は手札から「ソーラー・エクスチェンジ」を発動するわ。手札の「ライトロード・メイデン ミネルバ」をコストにデッキから2枚ドロー、そしてデッキからカードを上から2枚墓地に送る。墓地に送られた「ミネルバ」の効果でデッキからカードを1枚墓地へ。さらに「七星の宝刀」を発動。手札の「巌征竜-レドックス」を除外してデッキからカードを2枚ドローよ。除外された「レドックス」の効果で「レドックス」をデッキから手札へ。今度はデッキの上からカードを3枚送って「光の援軍」を発動!! デッキから「ライトロード・サモナー ルミナス」を手札に加えるわね。このとき、墓地に送られた「エクリプス・ワイバーン」の効果でデッキから「裁きの龍」をゲームから除外よ』

 

 神崎さんの後攻4ターン目。ライフはもう100しか残されていない。絶体絶命のこの状況にも関わらず神崎さんはあきらめている顔をしていない。

 ましてはピンチの状況を楽しんでいるにも見える。大量の手札交換カードを使い、一気に手札のカードをチェンジしていく。

 合間合間にいろいろなカードが墓地に送られて効果が連鎖していく様子は、神崎さんが私と付き合ってから強くなったと言っていたように運はかなり強いようだ。

 

『「ライトロード・サモナー ルミナス」を召喚する。効果で手札の「巌征竜-レドックス」を墓地へと送り、墓地の「ライトロード・メイデン ミネルバ」を蘇生。そしてエクシーズ召喚。ランク3「機装天使エンジネル」』

 

 白服を纏った女の子の召喚師が呪文を唱え、フクロウを肩に乗せた同じライトロードの仲間の乙女を呼び寄せる。

 それを使って神崎さんはエクシーズ召喚の布石へと使う。

 

『墓地の「焔征竜-ブラスター」の効果発動といきましょうか!! 墓地の「レドックス」と「エクリプス」を除外して特殊召喚。そして「エクリプス」が除外されたことにより、除外されていた「裁きの龍」を手札へと加える。そしてライトロードが4種類墓地に存在することで「裁きの龍」を特殊召喚するわ!!』

 

 赤い紅蓮の龍と白く光り輝く龍がフィールドを覆う。

 次から次へと攻撃力2800、3000と上級モンスターを並べる神崎さんの展開に、テレビの前の私は釘づけとなった。

 あれだけの展開をしているのに、ほとんど手札の消費が少ないのだ。

 

『私のライフは100だから「裁きの龍」のコストは払えないわ。だけどあなたのライフも同じで「ブラスター」か「裁きの龍」のどちらかの攻撃が通ればあなたは敗北する。もしあなたが破壊効果を持った罠を仕掛けていたとしても、「エンジネル」の効果で私のカードは守られる。これで終わりよ』

 

 神崎さんは宣言通り、ピンチながらもプロの試合に勝利する。相手の伏せはモンスターを手札に戻す効果がある「強制脱出装置」。

 破壊効果ではないが、どちらにしろ、この状況を守るのには不可能なカードだ。

 

『おーっとまたしても神崎選手が勝利した!! 連勝記録また更新だ!! 』

 

 実況のマイクが会場全体に響くのと同時に、観客にいた声援が一気にヒートアップしていく。

 

『みんなありがとう。勝つことができたのはファンのみんなのおかげだよ』

 

 そして、勝利時に花吹雪が舞った。神崎さんは勝利のマイクで自分のことをしゃべり終えると、このリングから退場した。

 最後に流れる番組のエンディングも私は最後まで見終えると、私はテレビの電源を切った。

 

 

 

 あの子はとてつもなく強い。高校入学して数か月でわかったことだが、私とのデェエルの強さの壁の差は全く届かないものだ。

 平凡な高校生である私では神崎さんの関係は釣り合わないのではないかと考えてしまう。あの子の彼氏として、私はふさわしくない。

 それに神崎さんには男だと思われているが、私は女なのだ。

 さっきは急に私のお風呂最中にあの子が勝手に入ってきたが、何とかあれこれして女ということを隠すことができた。けど私が今度神崎さんに今日と同じようなことがあったと思うと……。

 だから私はあの子を傷つけてしまう前に、早めに別れるべきではないのだろうか。

 今だったら喧嘩している最中だから、問題ないだろう。縁を切ってしまえば、少しだけ傷つけるだけで済む。

 ちょっと心残りがあるけど、そうするべきだ……。でもそうしたら私の居場所は……。

 

 

「レスキューキャットNSユニフォリア2体SSユニフォEFレスキャSSEFホーットケーキユニフォSSユニフォEFレスキャSSEFエアベルン2体SSユニフォEFレスキャSSホーットケーキEFジェラートSSホートケーキとベルンでパルキオンSSジェラートベルンでナチュパSSレスキャEFベルンとダーク砂バグSS2体でナチュビSS」

 

 私は机の上で壁相手にぶつぶつとしゃべりながら禁止カード1枚で、どんくらい展開できるか遊んでいた。

 それにしてもさみしい……。いつもだったらこの時間は寝る時間帯がくるまで神崎さんと夜遅くまで徹夜でデュエル。

 それなのに、一人でカードを回しているなんて……。こんなにさみしい夜は久しぶりだ。いつもだったら温かいはずなのに。

 

 

 

 

『彼女と喧嘩して一人ぼっちになっちゃって一人デュエルとかさみしいな』

「ユウヤお兄ちゃん!?」

 

 横を振り返ると短い茶髪に整った顔付きの高校生くらいの子が、私の隣にたっている。

 一瞬鏡で私かと思ったがどうやら違った。この男は奈々川ユウヤ。私が学校で名乗っている名前の持ち主だ。微妙にお兄ちゃんの体は透けて見えるので生身の体ではないようだ。

 

『ナナ、最近大きくなったよな。さっき風呂場で俺は見てたけどとくに胸のあたりが……。毎日幽霊になってお前のこと見てるからな』

「変態!! 死ね!! 何それ、それが妹に言う言葉?」

『おいおい。死ねっていっても俺はとっくの昔に死んでいるんだぜ』

「ぐぬぬ」

 

 ユウヤお兄ちゃんはとっくの昔にこの世にはいない。

 言い忘れていたけど、たまに私一人っきりで話せそうになる時間になるとこうして幽霊になって出てくる。

 死人の癖に軽いノリなのがむかつくが。私にとっては正直早く成仏してほしい。幽霊なのに変態とかないわ。

 お兄ちゃんの前では私は男装のときの一人称「僕」から、女の自分を言う「私」へと変える。

 

『俺は近親相姦に興味はない。だって俺が妹に発情するか? ないない。同じ顔なんだぜ』

「きんしん……。そうだー……?」

『お前の彼女はナナよりスタイル抜群で色っぽいよな。とくに胸が』

「私と比べるなよ……。女の子を胸で比べるのは失礼だよ……」

『おっぱいが見たかったんだよ。それなのにどうしてお前は風呂場のとき後ろを振り向かなかったんだよ。俺はお前の視界と共通になってるんだからな!! くっそ……』

「なんでって女の子が女の子の胸に興味あるわけないだろ……。いや……」

 

 変態なお兄ちゃんに対抗するべく、自分で言っておいて噛んでしまった。

 興味がないっていっていたけど神崎さんに、私は生の胸を押し付けられてとても緊張していた。ちょっとだけ……。よかったのかもしれない……。

 私と比べてお兄ちゃんは全く女の子に縁がなく、モテなかったから羨ましかったんだろうな。

 

『お前さ、女の子同士で付き合うってどう思ってんのかよ正直』

「なんでってあの子に無理やり私は彼氏にされちゃったのよ。私は最初は嫌だったけどさ。付き合っているうちに別にわるくはないと思うようになったんだ。あの子、とっても優しいし、可愛いところがたまにあるし」

『ってか思ったら女同士なのに彼女かよ。ナナはレズビアンっていう衝撃の真実ぅーー』

「うん。レーズンパンおいしいよね」

『お前は馬鹿か』

 

 お兄ちゃんは私になんていったんだろう。全然意味がわからない。

 

「ところでお兄ちゃん。私の男友達がよく、どうていって言葉をよく使ってくるんだけどさ、これってどういう意味なの? 辞書で調べても出てこなくて」

『童貞っていうのはな。男の子が一番大事にしているもんなんだよ。そう簡単に渡せるもんじゃないんだよ』

「友達にもうとっくに私はどうてい捨ててるって言われてるの。宝ってことは男の子が大事なものなんでしょ。私は男の子になるんだから取り替えさないと」

『いいか、それは男の子の一番の宝物なんだ。そう簡単に渡せるものでは……』

「ずるいよー。私もほしいぃー! 男の子の童貞ほしいよーー」

『お前、男の前でそんなこと言うなよな。女がそう簡単に口にしていいものではない』

「え?」

 

 お兄ちゃんが哀れそうな目で見られたけど、結局その宝物ってどういう意味だったんだろう。

 

「ありがとう。お兄ちゃん。おかげで元気が出たよ」

『いや、俺は何もしてないんだが』

 

 今まで暗い表情をしていたのにお兄ちゃんが来て急に私は元気になれた。溜め込んでいた悩みなんか全て吹っ飛んだ気分だ。

 

「神崎さんと仲直りしてくるよ」

『俺だったら夜這して彼女を襲うつもりだな。おっぱいもみてーー?』

 

 神崎さんどうしちゃったかな…。私のことどう思ってるのかな…? もうすぐ時計の針が明日になっちゃうけど会いたい。会って謝りたいそんな風に思った。

 いつまでも私はメソメソしている気分ではだめだ。謝らないと気分は晴れない。あの子とあってもう一度仲良くしたいから。

 

「それって女の子に対する最悪な行為だから…。神崎さん寝ちゃったかなぁ…ー?」

『おまえ、立ち直り早すぎだろ。俺はナナの別人格であるもう一人の僕とか、デュエルを勝利へと導くためにアドバイスしてくれる精霊っていうわけでないんだよ。何がお前をそこまで勇気つけられるんだ?』

 

 よくある幽霊が出るマンガでたとえられたけど、全然ユウヤお兄ちゃんは意識したことがなかった。

 同じ人間を作ったクローンとかそういうのではない。私とお兄ちゃんはただの双子の兄妹だから。

 多重人格とは全く違うし、デュエルだってアドバイスするときもあった。

 けど「このタイミングで『サイクロン』を使え!」っていっても全然私のプレイングと違ったから使わなかったけど。お兄ちゃんは生存前もデュエルはへたくそだったから。

 便りになる存在では全くない。

 

 

『俺達、奈々川家の家庭はとっくに崩壊しているんだぞ。糞親父は豚箱行きでもうまともな人生を送れる気はしない。お袋は親父があれだから離婚してどっか遠くへ行っちまった。それに俺だってこの世にはもういない存在だし……』

 

 お兄ちゃんが暗い表情をしながら私に現実を押し付けられる。

 私の家庭は複雑な状況に置かれていた。だから私はこうして危険を冒しながら男装をして今日まで生きてきた。

 

「でもお父さんとお母さんは生きているじゃないか。私が生きている限りいつか会える。捕まってしまったお父さんだって面会すれば会うことだってできる。それにお母さんだってデュエリストを育成する教師をやっているんだ。学校関係で会えるかもしれない。それにお兄ちゃんだって今、こうして幽霊としてだけど会えてるじゃないか。私は全然さみしくないよ」

『なんでナナはそんなに強いんだ……。何がお前をここまで強くさせるんだよ……。さみしくないのか?』

「さみしい…!? 全然だよ。私は今、人生の中で一番楽しい! 男装して入学した学校ではデュエルを通して私は友達ができた。デュエル部ではデュエルを尊敬する先輩がいっぱいできた。それに私のことを好きだと言ってくれる女の子もいるし、さみしくなんてないよ。それに……お兄ちゃんとお父さんを繋ぐものだった、デュエルキングになるっていう夢があるから」

 

 全然辛くなんてない。むしろ学校では人との関わりがいっぱいできて人生の絶好機。

 夢をかなえるために日々努力だってしているし、何も不安なことは私にはない。

 

『夢って言ったって、俺がガキの頃に適当にいったデュエルキングだぜ。今はなりたいとか思ってなんかないよ。死んでしまった俺の夢だったものをかなえたい? 馬鹿か。どんだけロマンチストなんだよ』

「いや、私もデュエルキングになるのは憧れていたの……。夢はあきらめるものなんかじゃない。かなえるものなんだから」 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 私はそのままパジャマの格好で廊下を歩いて神埼さんの部屋まで向う。部屋まで着いたあと、トントンと二回ドアを叩くが反応はない。

 寝てしまったのかと思ったけどハンドルを回すと鍵は掛かっておらず簡単に扉が開いた。

 布団の中からピンク色の髪の毛が見えた。

 神埼さんは私に気がつくと寝返りをし、窓の景色を見ながら私に背を向けてとても怒っているようだと言っているようだ。

 

「今日だけ一緒に寝ていいかな?」

 

 私は神崎さんを前へと押して、人一人ちょうど入れるくらいの開いているスペースを勝手に作って入る。

 だが、神崎さんは何も反応を示さない。

 神崎さんはそれにびっくりしたのか近くにあった『マシュマロン』のぬいぐるみを持って抱きしめる。

 

「本当にごめんよ…。ミカ…。本当は君のことが大好きなんだ……。もう離れたくない…。僕は…」

「何よ。急に私のこと名前で呼んで。絶対に許さないから」

「あれから僕は考えたんだ。君と付き合ってから楽しかった毎日。かけがえのない時間だった」

「………」

「いつも僕はドキドキしてたんだよ。証拠に今だってほら」

「…っ!?」

 

 私は神崎さんの手を勝手に触って自分の胸に近づける。私も神崎さんにやられた真似をしてみせたら驚かれた。

 女を隠し通す胸に近づけることは自殺行為だって自分でもわかってる。神崎さんに男の子だっていうアピールをしたかった。

 

「心臓の緊張が止まらないんだ。なんでだろうね。これって好きっていう意味なのかな? 自分でもさっきから同様して意味わかんない」

 

 体が勝手に反応してしまう。この子と今、こうして一緒にいるこの時間。ドキドキが止まらない。

 

「神崎さん。僕がサラシを巻いているの疑問に思っていたよね。君だけに特別に教えてあげるね。僕、小さいとき体に事故で大きな傷をつけてしまったんだ。だから人に見られたくなくてこうして巻いているんだよ」

「え……えっ!?」

 

 即席で作った嘘だけど神崎さんに驚かれた。

 こうして嘘を付くことで、神崎さんの彼氏としてまた一緒に居られるのだから。もう離れたくない。

 

「ごめんなさい。私もどうかしてた。ユウヤの過去なんて全く考えずに私は嫌われていたんだと勝手に思ってた。けど、こうして本当のことを明かしてくれるなんて私はとっても嬉しい」

「僕もごめん。どうかしてたよ」

「ううん。私が悪いの。ユウヤ、私に何でもしていいからゆるして」

「ん? 何でもしていいってことは本当になんでもいいの?」

「変なこと以外ね。嫌らしいことは駄目だから」

「そんなことするつもりはないさ。ミカ……。君のこと抱きしめていい?」

「私が駄目って言ったらどうするつもりよ?」

「駄目でも無理やり抱きつくから。いつもずるいよ。君から抱きつくなんて。だから今日は僕から抱きついてあげる」

「ちょちょちょっ。恥ずかしいよ」

「振り向かないで!!」

 

 私は神崎さんがいつも私にやってくれるように後ろから抱きしめてあげて安心させるようにした。

 神崎さんのことを後ろから見ると耳を真っ赤にしていることから、とても恥ずかしいことをされているのがわかる。

 振り向かないでと言ったが、こういう強がり神崎さんの意外性な可愛い所がたまたま見えたのが良かった。

 

「あったかい…。2人の心臓の鼓動を感じる。お互いに生きているって感じがするね。お互いの体温が交じり合って同じになる。気持ちいな……」

「あんた…。これ以上はあんたは風呂場は断ったんだから止めてよ。私に対してエッチなことするんじゃないわよ」

「うん。わかってるよ。今日は特別に僕はただ君と一緒に寝たかっただけ。抱きつくだけで何もしないから」

 

 布団の感覚と神崎さんの体温と私の体温が混じって温かい。

 なんて安心できるのだろう。これが付き合っている者同士しか味わえない「恋」の特典なのかな?

 

 

「がんばりなさいよ。高校デュエル大会もうじきなんでしょ。あんたは私の弟子なんだからね。負けたら承知しないから!」

「大丈夫だよ」

 

 

 このまま暗闇のまま私と神埼さんは抱きつきながら無言になり、気が付けば目を閉じて自然と眠りついた。

 この子も私の家族だ。守りたい…。だから家族にはこれ以上辛い思いもさせたくないし、悲しいこともさせたくない。

 お兄ちゃんもお父さんも私は大好きだ。夢をかなえることは難しいと思うけど、私は大会では負けられない。私はお兄ちゃんの夢を背負って強くなりたい。

 こうして応援してくれる人もいるのだから……。





【挿絵表示】



第1章完ですよ

長かった
今までキャラクター登場を抑えてチュートリアルっぽくやってたけど、次回から大会編です
にじファン時代は大会編で打ち切りになっちゃったからな
頑張りましょう(作者が)

こんな変態小説ですけど、ついてきてくれる読者さんよろしくおねがいします
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