青眼高校を倒して1週間が経過した。私達は次の試合まで待つばかり。
私達、1年生のカズマ君と宮城とともにクーラーの効いた部室でこの真夏を過ごす。
「昨日、オナニーのしすぎて滅茶苦茶体がだるい。こんな風になるならしなければよかったよ……」
「………」
宮城が具合悪そうに見えたけど。
その言い方からオミニーっていうのはスポーツだと思った。私も中学生時代はバスケのしすぎて体中が痛かったことがあったっけ。
「なんか、飽きてくるなーー。エロ本見るの楽しいとか思ってたけど、やっぱ現実の女じゃないと楽しくねえ。くっそーー。俺も奈々川みたいにモテたら、エロ本みたいな展開できるのに」
「そういう思考してるから宮城、お前は女が寄ってこないんだよ」
「うるせーな。カズマ。俺だって、目の前に女がいたら、紳士的な対応するぜ。デュエル部には女がいないからこうやって好き勝手やってるんじゃないか」
宮城の目の前には、女の私がいるんだけどな……。
男の人ってみんな変態な人ばっかりで、私は宮城のことを哀れそうな目で見るしかなかった。
1年生だけ、今日は早く授業が終わって、先輩たちが来るのが遅いからこんなことをやってる。
でも、さぼる癖あるカイザーと、部活を掛け持ちしてる堀内先輩は今日も来ないんだろう。
今日、来るとしたら部長か。あの人、ほとんど無言だから部長が来ると、今までの空気が一気に落ちるんだよな。
「次の試合はようやく高校デュエル甲子園のトーナメントが進むんだってのに、緊張感ないよね」
私は、雑に赤ペンで書かれた2回戦まで進んだトーナメント表を広げる。
「抽選会で青眼の白龍高校になにもできずに、瞬殺された決闘筋肉高校意外に勝ってるな。決闘筋肉高校って強かったんだな」
私も意外だと思った。抽選会はあれだったから決闘筋肉高校は1回戦で負けたっていうイメージが強かったから。
「オレ、わざわざデュエルを見に行ったが意外にいい腕してた。先鋒では序盤から『マドルチェ・メェプル』と『マドルチェ・ピョコレート』のロックが決まって勝ち、中堅では最後のドローで引いた『スクラップ・コング』を『デモンス・チェーン』で止められて負けた。でも大将戦では『水精鱗-サルフアビス』の無差別破壊決まって後攻1ターンキルに成功して、勝ってたぜ」
「すごいな……」
カズマ君はわざわざデュエルを見に行ってたんだ。
デュエルの説明を聞いてなんとなくわかった。私達デュエリストはカードの名前を聞けば、なんとなくデュエルの展開がわかるから。
「そうそう。俺とカズマでやつらのデュエル部の練習風景見てみたけどすごかったぜ。部室でドローのポーズをそのままの姿勢で2時間やったり、上半身裸で腹筋、懸垂、ダンベル上げとか肉体を鍛えてた。それに、学校の裏にある山で野生のクマと対峙して、何をやるかと思ったらクマを一頭伏せてターンエンドといいながらクマをひっくり変えしていたぜ。滝修行みたいなこともやってたな」
「やっぱりデュエルしないんだね……」
「そうだよ。俺達1年の俺とカズマと奈々川でリアルファイト挑んだら、絶対瞬殺されるな。3対1でも無理だろあれ。あいつらリアルファイト最強すぎて、絶対歯が立たないよ。あいつら単体は何とか世界のリーダーよりも強いぜ絶対」
決闘筋肉高校、抽選会でもデュエルより肉弾戦のほうが強そうなイメージだっけ。
おい、デュエルしろよと突っ込みたくなる。でも私も見たかったなーーー。高校甲子園のデュエルとかその練習の日常。
「ねえ。僕らで次の試合の相手の英雄騎士高校覗いてみない?」
「はぁ? 嫌だよ。だって雑魚高校だろ。次の試合絶対ストレート勝ち確定の相手。決闘筋肉高校みたいにネタならともかく、行く意味ねえよ」
私が次の試合の相手の偵察をしようと提案したら、あっさり宮城に断られた。
確かに、私達冥界学園高校はかなり強い。無名な高校なら、苦戦なんて一切せずに先鋒の部長と中堅の私で大将戦まで持っていかずに勝つことができるだろう。
でも私は……。
◆◆◆
吊皮にぶら下がりながら、ガタンゴトンの音と窓の景色を堪能しながら外の景色を楽しむ。
ワイシャツ1枚に、ズボンという、いつも通りの夏服の男装の自分の姿の格好。誘っても宮城とカズマ君は一緒に来ないみたいなので、結局私一人で英雄騎士高校に偵察に行くことに。
『わざわざ偵察しに行くもんじゃないだろ。次の対戦相手は雑魚高校なんだろ。せっかくの夏休みが無駄だぜ』
「でも、気になるじゃん。私、デュエルがもっと強くなりたいんだから、たとえどんな高校でも偵察しにいくのは参考になると思うんだよね」
私の隣に、短い茶髪に私そっくりの細身の体系で睨んだような目つきが悪い男の人が立っている。とっくの昔にこの世にいないユウヤお兄ちゃんだ。
『電車賃もったいね。往復しなければそのお金でカード6パックくらい買えたじゃねえかよ』
「別にカードばかり買うのがデュエリストのお金の使い道じゃないと思うんだ。たまにはこういうのもいいよね。お兄ちゃんも暇でしょ。私の暇つぶしに付き合ってよ」
『暇っていって一人でこんなことしていいのか? ナナの愛しの彼女ちゃんとのデートは?』
「でででで、デート……?」
『なに、お前顔が赤くなってんだよ。キスまでした仲だったんだっけか』
「ば、馬鹿にしないでよ!! ミカとの関係がこれ以上発展しないようにしてるんだから」
『そうだもんなー。このままいくと本当に女同士で結婚が実現しちゃうぜ』
「結婚なんてしないってば!!」
私の人生がお兄ちゃんに見られてると思うと本当に腹が立つ。
なんだか、私の全てが見られてるって感じ。幽霊って気楽で本当にいいわよね。私はまだ死にたくないけど。
『お前、本当にお袋そっくりだよなーー』
「何急にいいだすの?」
『御人良しでさーー。断るってことを全く知らないって感じ。同性同士付き合うってありえないぜ。俺が男に告白されたら、キモイっていって二度とそいつと関係なくなるからな。気持ち悪すぎ。お前、今の彼女以外にもさー。清水っていう黒髪美人のガチレズ女にも好かれてたじゃん』
「ラムレーズン女?」
『ちげーよ。ガチレズ女。お前の彼女はまだ、お前のことが男だって信じ切ってるからわかるけど。あのガチレズ女はお前のことを女だってずっと知ってたんだぜ。それに、女同士で子作りなんてできないのにお前のことマジで犯そうとしてたんだぞ。あんな女気持ち悪いのになんで、お前は仲直りにして許してんだよ』
「ああ。清水さんのことね。女の私のことが好きって言われて最初は驚いたさ。でも、話をしてみてあの子は必至さが伝わったんだ。私に恋して自分を変えて見せた。その結果私をも超えたからね。清水さんは何を考えてるかわからないのが怖いけど、本当はいい人だから。悪くは言わないで」
『おふくろみたいなことを言うなーー。マジで。そう言われると全然反論できねえ。人のことを悪く言わないし、その馬鹿っぽい天然っぷりもそっくりだぜ』
「お母さんか……」
お兄ちゃんにお母さんのことを言われて、私は考える。
死んでこの世にいないお兄ちゃんと、犯罪を犯して警察に捕まったお父さんとは違って、お母さんは生きている。
もしかしたらいつか会えるんではないかという、私は小さな望みを持っているんだけど……。
◆◆◆
「あっ!!」
目的の英雄騎士高校に付いた。
グランドでは野球部が素振りやキャッチボールの練習をしている。サッカー部も練習試合のようなことをしている。
でも、中で活動しているデュエル部はここからは見えない。門は閉まっていて、関係者以外は入れないようになっている気がする。
「あーあー。入れないのかーー? せっかくきたのに」
『おまえ、やっぱり天然だな。デュエル部偵察するんだったら、校舎の中に入らないと行けないって何も考えてなかったのかよ』
「それ、考えてなかった」
『やっぱお前、馬鹿だろ』
中学生時代のバスケ部は体育館とはいえ、換気の為にと扉があいている為、外のフェンスから練習風景は見れた。
けど、デュエル部はおそらく校舎の中のどこかだ。窓をここから見ているけど全くデュエルしている姿が見えない。外から見えるはずがないってこと考えてなかった。
「電車賃もったいなかったけど、帰ろうかな」
私は諦めかけていたその時、
『ナナ、ちょっと体貸せよ』
「え?」
突如、ユウヤお兄ちゃんは私のことを手で突き出すように押し出した。
幽霊で実態がないと思っていたのに、私は押し出されて尻餅をつき、私の視界にはもう一人の自分? その姿はお兄ちゃんじゃない?
あれ? 目の前にいるのって私なの?
「よいしょっと」
軽々とフェンスを上って通りこした。校舎の中に私の体は侵入に成功したのである。
「やっぱり、ナナの体は軽いな。流石、運動神経抜群!! こんなに軽々なのかよ」
腕をぐるぐると回して、私の体の心地よさを図っているように見えるユウヤお兄ちゃん。
私はフェンスの外から向こうには行けないのでその姿を見るしかない。
「でも、胸の所が苦しいな。お前、こんな苦しいのによくサラシを巻いてるな。おっぱい滅茶苦茶固い。なにこれ!」
『私の体触らないでよ変態!! 死んじゃえ!!』
サラシを巻いている私の胸を触っているさり気ないセクハラがすごいむかついた。
でも、私はユウヤお兄ちゃんに体を奪われてしまって何もできない。私が代わりに幽霊になったのか?
『返してよ!! 私の体を返してよ。ユウヤお兄ちゃん!!』
「生身はないからフェンス超えないでもそのままいけるぞ」
『え?』
ほんとうだった。お兄ちゃんに言われた通りに、幽霊になった私はフェンスを触る。するとフェンスを腕が貫通した。
確認した通りに、フェンスに当たるようにすると体が貫通してそのまま通過できた。これって私は死んでしまったの?
「別に、俺はお前の体を使って暴れようとするわけじゃないからな。体返してやるから俺がさっきやったみたいに押し出して見ろ」
『こうだよね! えい!!』
私はお兄ちゃんがやったように押し出した。すると、
「はぁ……。ようやく戻った。本当に死んだとおもちゃったじゃない」
自分の指を動かして動くのを確認する。どうやら私は元の体に戻ることができたようだ。
「お兄ちゃん、私の体勝手に行き来できるみたいだけど、デュエル中に入ってこないでよ。勝手にカードを使われたら困るから。お兄ちゃんデュエルよわいくせに」
『お前……。こんな苦しいのに、男を演じるつもりなのか?』
「何言ってんの?」
『だってお前のおっぱい無理やりサラシで潰してまで……。苦しいはずなのにどうしてわざわざ? こんなの、俺耐えられないよ。息が苦しくないのか』
「たしかに苦しいけど。もう慣れたよ。だってこうしてまで男装しないとデュエルキングになれるって夢、かなえられないからね」
『でもよぉ。お前のことずっと見てるけど、ナナはおっぱい日に日に成長してるじゃねえかよ。だんだん苦しくなるってのにどうして……』
「さぁ……。自分でもよくわからない……。でもそうもしないとかなえられないから。だって、これが私達家族を繋げる唯一の希望なんだから……」
お兄ちゃんに言われたように確かに、初めは胸を潰すのは苦しかったさ。
でも、毎日やっているうちにその苦しみは慣れ、何も感じなくなった。この苦しみは慣れないと私の願いはかなわないのだから。
「でも、毎日見てるってどういう意味? 私の胸毎日見てるってこと?」
『そうだよ』
「変態!!! 死ね!! 妹の裸を見るってどういう神経してんのよ!!」
『別に同じ顔なんだから文句はねえだろうよ。別に、俺はお前のおっぱい見て興奮してるわけじゃないし、お前の彼女目当てなんだから』
「知るか!! もう一生お兄ちゃんの口効かないから!!」
お兄ちゃんに見られるなんて最悪。お兄ちゃんはいい話だと思っていただろうけど、私にとっては全然最低な話。
こういうのは知ってても、女の子には言わないでほしかった。
「「侵入者発見!!! 侵入者発見!!!」」
「!?」
学校のスピーカーからそれは放送された。それは学校全体に聞こえるような放送。
不法侵入したことがばれた? 学校のグランドで練習している運動部は全員、私のことに気が付き、こちらを見ている。
「ひどいよ。お兄ちゃん何してんのよ? お兄ちゃんが勝手に学校に入ったせいで大変なことになってるじゃない」
『し、知らねえよ。俺のせいじゃないから』
「何、他人に押し付けてるのよ」
もうとっくの昔に死んでるからって、自分のせいではないって言いながらお兄ちゃんは知らん顔してる。
どうして私がこんなことに……? お兄ちゃんが勝手にやったせいなのに……。
「「奴らをデュエルで拘束せよ!! ただちにだ!!」」
今度は先生らしき人が集まってこっちに向かってる。私、これって犯罪をしたってこと?
デュエルキングになるっていうのに……、私もしかしてヤバイんじゃないか。私はダッシュで逃げようとする。
『ナナ、またフェンスを乗り越えて逃げればいいのにどうして校舎の方に向かってんだよ』
「あ、間違えた」
『なんで、わざわざ逃げ場がない所に突っ込んでるんだよ。ほんと、ナナは天然だな』
「ああああああああああぁああ」
何でそんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。
デュエル部の偵察にいくことしか考えてなくて、私はそんな簡単なことにどうして気が付かなかったのだろう。
「「捕まえたぞ!!!」」
逃げようとしたが、それはむなしく。私は教師複数に囲まれてしまった。もはや逃げるという手段が全くない状態。
ここはデュエルで片付けるしかないのか。でも、人数はとっても多い。デュエルには自信があるけど数が多すぎる。
私は持っているカバンとデュエルディスクを置いて、手を上げて降参のポーズをする。
「「お前、ここで何をするつもりだったんだ! 言え!!」」
「な、なにって別に部活の練習を見に来ただけなんです」
「「フェンス越しで練習を見ればいい話だろ。ウソをつくな!! 」」
「ほ、本当なんですよ」
怖い教師に捕まってしまい、私は言い逃れができない状態に。
「「伊藤先生。そんなに怒らないで?」」
「「校長先生? でもあいつは…」」
背後から現れた若い女の人が怒りっぽい男の先生を止める。
でも若い女の人が校長って……?
「「ここから先はわたくしに任せてください」」
「「で、でも……」」
◆◆◆
校長と名乗る落ち着いた雰囲気のボーイッシュ。20代前半に見える、茶髪の女の人に連れられた。
たくさんの書物に、いろんなトロフィー達。どうやら校長室に連れられたようだ。
「久しぶりね。ナナ」
「え? お母さんなの?」
全然気が付かなかった。
校長先生って聞いたから、全く別の人だと思ってた。でもそうだ。ニコニコっとした優しい顔付きに、見ているだけでも安心する落ち着いた雰囲気。
これは間違いなく正真正銘の私のお母さんだ。
「全く全然変わってないね。身長伸びたわね。ナナは」
「お母さん……。うわあああん」
私は感動の再開に、涙を浮かべながらお母さんの胸へと飛び込む。
もうずっと会えないと思っていた、けどこんなところで会えるなんて……。
「お母さんこそ全然変わってないよ。ほんと」
「あらあら。別に若つくりしたわけじゃないのに」
中学生以来の再開だが、全く全然お母さんは歳をとっていないように見える。
髪の毛サラサラで、肌も綺麗で、化粧も全然してなくて、笑顔が素敵で、いつも冷静な姿がかっこよくて。
「でも、どうしてナナは男の制服を着ているの?」
「いや、これはわけがあって……?」
私がお兄ちゃんのユウヤを演じているって言い出しにくい。って、よく私とお兄ちゃんはそっくりなのに、区別ができたな。
お父さんは私とお兄ちゃんをよく間違えたことがあったっけ。女物の服をお兄ちゃんに着せたこともあったな。
お母さんは流石わかっている。
「よかった。こうしてナナと再開できるなんて。でもよくわかったわねお母さんの場所を」
「たまたまだよ。私が高校デュエル甲子園の次に当たる高校は英雄騎士高校だったんだから」
「え? まさかはナナは冥界学園高校なの? へーー。次に当たる高校はお母さんの学校か」
まさしく偶然の再開。この学校はお母さんが教えていた学校だったんだ。
「私もびっくりしたよ。変な所で捕まったと思ったら偶然お母さんに会えるなんてね」
「この問題はあとでお母さんが解決してあげるから。でも、なんで、わざわざ犯罪みたいなことをしたの? ナナ?」
「何って……。これは……」
いえるはずもない。死んだお兄ちゃんのいたずらで、勝手にフェンスを乗り越えてこんなことになるなんて。幽霊の仕業って言っても信じてくれないだろう。
「ああ。なんか懐かしいな――。ナナの姿を見てるとお母さんも高校生時代だったときを思い出すよ」
「………」
「お母さんの高校生時代はすごかったのよ。女子高だったんだけどさ、お母さんスポーツも運動もデュエルもできたから、とにかくモテまくって。女の子にラブレター、下駄箱から出したら溢れるくらいにもらったのよ」
「ふぁっ?」
お母さんの言っていた過去話、私にも見覚えがある光景。私が高校生になってから女の子にモテるようになったのは、お母さん似だったのか……?
「入学初日にさ、告白までされちゃってさーー。女の子の癖に彼女までできた。ほんと、高校3年間ずーっと彼女と一緒だったのよ」
「あっ!?」
女の癖に彼女だって。お母さんも高校生時代に彼女ができたってこと?
それはまさしく今の私とミカとの関係そっくり。
「それってどこまで関係行ったの? お母さん!?」
「最初はさあ、女の子同士ありえないって思ってたんだけど。もう、その子が可愛くって可愛くって……。その後の関係は秘密だよ」
「………」
「何でそんなことを聞くのナナ? 女の子同士気になる?」
「いや、そういうつもりじゃ……」
お母さんの話で、何で私まで恥ずかしくならなければいけないのだ。私もこれからどうなるってかわからないのに。
「そこからさーーー。私はお父さんと出会ったのよ」
「!?」
「長い昔になっちゃうけど聞く?」
「………うん」
もう出会えないと思っているお父さんの話をお母さんがしてくれると言ったので、私は首を下へと動かして返事をする。
「お母さんさーーー。高校生時代はデュエルの腕はめちゃくちゃ強かったからさーー。学校の推薦で卒業してからプロデュエリストに進んだのよ」
「………」
「プロに進んでもそれでもお母さんは強かったわよ。どのデュエルでも無敗でさあーー。お母さん、世界中で有名なデュエリストになっちゃった」
「やっぱりお母さんは強い……」
「お母さん、世界中のデュエリストの中でも1番とか2番とかってうわさされていた時期もあったっけ。時期のデュエルキングになるってうわさされていたこともあったっけ」
「デュエルキング……!?」
私の夢と同じデュエルキングと聞いて、さらにお母さんの話に夢中になる。
お母さんがデュエルキングになれそうだっていう話は私が生きていた中で、初めて聞いた話だ。お母さんってこんなに強いデュエリストだって知らなかった。
そういえば、私は一度もお母さんとのデュエルで勝ったことなかったっけな。
「プロに入って月日が立つと、そんなときお父さんに会ったのよ。お父さんはさーー。プロデュエリストの癖に勝率は4割っていう落ちこぼれだった。勝率100パーセントだったお母さんと違って、確か、プロの資格がなくなり掛けそうってうわさされていたっけ」
「でもどうして……」
「そうね。ある日お母さんとお父さんとのデュエルマッチが決まったのよ。もちろん世間ではさ、次期デュエルキング候補のお母さんを応援する人がいっぱいいて、ダメダメ人間のお父さんを応援する人なんてほとんど0に近かったのよ」
「……えっ?」
「そんな中、デュエルが始まったんだけど。普通にやっててお母さんはお父さんに負けてしまった。お父さんすごかったのよ。今でもお母さん覚えているわ。お母さんはもうお父さんを積みの場面に追い込んだと思ったらさ、奇跡のディステニードローでさ、一瞬でその場面をひっくり替えした。もうすごかったのよ」
「お父さんが!?」
「絶対負けないと思っていたお母さんは、勝てる確率は0とか言われたお父さんに負けたわけだから、世間での手のひら返しが酷かったわね。お母さんの私生活まで深夜までのいたずら電話や暴言が掛かれた手紙、ネット上での書き込みがひどすぎた。お母さんさ、おばあちゃんと2人暮らしだったからとても耐えきるものじゃなかったのよ」
「そんなことがあったんだ……」
「お母さんを救ってくれたのはお父さんだった。今まで女の人と話なんてしたことないって言ってたのに、噛み噛みながらお母さんを『大丈夫』かって言ってくれて救ってくれたんだっけ。お父さんのおかげでお母さんは持ち直すことができた。告白もされちゃったわ。おばあちゃんはお父さんとは釣り合わうはずはないって言ってたけね。でもなんでかなーーー。お母さんはなんで、あんなダメ人間なんかに恋をしちゃったんだろう?」
今まで話してくれなかったお父さんとお母さんとの出会い。それは運命にも感じる奇跡的な出会い。
私は男の人に恋したことないけど、恋ってこんなロマンチックな物なんだろうか。
「お母さん、女性初のデュエルキングになれそうって言われたけど、こんなことがあったから諦めちゃった。それにユウヤとナナを生む為にプロデュエリストもやめちゃったしね」
「デュエルキングになるって大変なんだ……」
「でも、お母さんは今までの人生は損したってことは一度もないよ。人生の選択枝は一度も間違ったことはないと思ってる。お父さんと出会ったから、ナナとユウヤが生まれた。そして、ここでも教師としてうまくやることができて校長先生にもなることができたしね」
いろんな伝説を作ってきたお母さんでも慣れなかったデュエルキング。
もう少しお母さんの精神が強かったら慣れたのではと思ってしまう。でも、お母さんは不安そうな顔を見たことがない。きっとをプロやめたことが後悔してないんだろうか。
「……まさか、ナナもデュエルキングになろうとしてるのもしかして。それだから男の格好を? ナナは男装を…」
「うん」
「そうなの……」
この後、私は男装をしていることに怒られると思ったけど、お母さんはいつも通りのニコニコっとした表情を見せる。
「うん。頑張って。お母さん応援してるから。ナナならきっと慣れる。だってナナはお母さんの自慢の娘だもん。お母さんそっくりでいつも笑顔で優しくて……」
「ありがとう……」
「お父さんそっくりのダメダメに育ったユウヤとは違ってナナはお母さんによく似たわね。運動神経も良かったし頭も良くてデュエルもできるし、ほんとそっくり」
お母さんは急に瞳に涙を浮かべる。
「ほんとにごめんね。お母さん、弱かったから、何もできないと思ってしまって、お父さんの目の前であなた達を見捨ててしまった。ほんとにごめんね」
「大丈夫だから。お母さん……。でもこうして会えたじゃないか。お母さんは何も変わってなくてびっくりしたよ。これから失った時間を取り戻そうね」
「ありがとう……。ナナ……。お母さんみたいに育ってくれてうれしい……。本当にそっくり……」
私はお母さんに抱きつかれる。小学生以来の家族に抱かれるという温かいという感情が、私を安心させられる。
私達は今まで、失っていた会話を取り戻すかのようにこの後ずっと話をした。
◆◆◆
それからしばらくして、感動の余韻を終えると。
「でも、どうしてお母さんは英雄騎士高校の教師をやってるの? それになんでまた校長先生?」
「ああ。それね。お父さんと離婚した後に、弱小高校って所に私はたまたまやって来てさ、生徒を教えていたんだけど。お母さんの前の校長先生にさ、君は私よりデュエルは強いからって言われて、辞めた後に任されちゃった。てへ」
「えっ。えーーーーーーーーー!!」
お母さんは30代とはいえ、見た目は20代前半って言っても間違えられるくらいに若い。
若者が校長先生をやっているように見えて、私はとても不自然だ。
「お母さんそれに、この学校のデュエル部の顧問もやってるのよ」
そうだ。高校デュエル甲子園の次の対戦相手はお母さんの学校だったんだ。感動の再開で忘れていたけど、全く敵同士だっていうこと忘れてた。
「お母さんねーー。校長先生やっててもモテるのよーー。可愛い女子生徒達からラブレターもらったりしてさーー。お母さんの若い頃を思い出すわーー。それにお母さん、この学校の制服を着たってコスプレじゃなくて、生徒だって間違えられるのよーー」
「ふぁっ!?」
何で、お母さんはまた男子じゃなくて女性からモテるんだよ。それが今の私と同じってことを思い出してしまう。
「ナナ。デュエルをしてみる? お母さん、見てみたいなーーー。ナナが強くなった姿を」
「望むところだ」
私はカバンの中からデュエルディスクを取り出す。そしてそれをお母さんに向ける。
お母さんもデュエルディスクを校長室の引き出しから飛び出てくる。黄金に輝く物だったので、これは校長専用の物なんだろうか。
「最初に言っとくわねーー。お母さんは生まれてからデュエルは3回しか負けたことはない。1度目はデュエル覚えたてのときにおばあちゃんに挑んで負けた。2度目は高校生時代に付き合っていた女の子。3度目はプロデュエリスト時代にお父さんに逆転負けしたってこと。お母さん校長先生をやってるだけあってとても強いのよ」
「……。わかってる。だから強敵と戦うのは燃えるんだろ」
かつてプロデュエリスト時代は無敵で、デュエルキングに近いとも言われた私のお母さん。
私の夢もデュエルキングになるっていうこと。お母さんを倒すことができれば、私はデュエルの腕に自信がついて、その夢に近づくかもしれない。
だからこそ私は負けない。
「デュエル!!!」
私達家族は試合宣言を初めて、戦いの舞台は整った。