ノック   作:サノク

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第13話 相対的に良い

私は学生服のままボーダーに入る。

茶野隊の作戦室へ向かっていると、途中風間隊のメンバーである歌川さんと菊地原さんの二人とすれ違ったので私は二人に軽く会釈をした。

歌川さんは同じように挨拶を返してくれたが、菊地原さんは嫌なものを見た、とでもいうような顔をした。あえて何かする必要もないかと思い、そのまま行こうとしたが、「あれ、無視?」という嫌味な声が聞こえてきたので振り返る。

 

菊地原さんはこちらに目を向けずあらぬ方向を向いたまま、「いやぁ、こんな礼儀知らずなオペレーターがいる部隊はA級昇格は望めないかな。」と大きな声で言う。

 

ぴくり、と眉を動かした。これは明らかな嫌味だ。止めてくれようとする歌川さんを視線で制して私はにっこりと笑った。

「二人いる戦闘員は有望。オペレーターは優秀。そんな部隊がどうして強くならないでしょうか。」

 

いや、強くなるはずだ。そういう意味を込めて私が言うと、負けじと菊地原さんも言い返してくる。

 

「優秀で有望なのは見かけだけでしょ?」

 

「袋だけ立派なプレゼントをご覧になられたことがございますか?」

 

私たちお互いに挑発をし合う。言葉は嫌悪で溢れているが、私と菊地原さんの間にある雰囲気はむしろ軽かった。菊地原さんはフランクな、私は華美なほど丁寧な物言いをしていたのでお互いが本気で言ったわけではないと理解したのだ。

 

そういった機敏に聡いであろう歌川さんが苦笑いしながら見守っているのが確かな証拠だろう。

 

「 肉を買ったときに包み紙の方が立派で侘びしくなることはある思うけどね。」

 

私はこの言葉にピンときた。確か、かの有名なアインシュタインが服装に気を使った方が良いと言われた時にこれ似た言葉で言い返したのだ。

なるほど、菊地原さんはずいぶん博識な人らしい。見た目によらず、といえば失礼だろうが。期待に応えてここはシャレでも入れるべきだろう。

 

「そんな"相対的"な評価をしていただきたくはありませんね。見た目と実力は全く別のものですから。」

 

菊地原さんが一瞬不意を突かれたように目を開いたのが見えた。私が知っていると思っていなかったのだろうか。鼻をあかせたようで気持ちが良い。

 

さて、こんな風にし合う言い合いは初めてで楽しいのだが、そろそろこの遊びを終わらせなければいけないころだろう。作戦室に集合する時間に遅れる。そのために私は口を開き、

 

「まぁ、菊地原先輩のように身も実も釣り合っていたらいうことはありませんね。」と付け足した。

私の希望ではここで言い合いの流れを止めたいのだが、果たして。

 

「あれ?これは二宮隊に負けた僕への嫌味かな?」

 

ぐ、うまく伝わらなかったか、と一瞬思ったが、「ま、せいぜい僕みたいになれるように励んでよね。」とつけたされる。

しっかりわかっていたようだった。博識なだけではなく、賢い人のようだ。

私がほっとしながらも感心していると後ろから「おい。」という声がかかった。それもその声は二人の声色が混じったものだった。

 

菊地原さんがかすかに顔をしかめてから、その表情をさっきより緩めたのが見えた。不思議に思い声の主を知るため、私も振り返るとそこには二宮さんと落ち着いた雰囲気の男性がいた。

歌川さんが「二宮さんに風間さん?」といった。

その中で私は声を潜めて、菊地原さんだけに聞こえるように言う。

「 relatively short of stature. (相対的に低い)」

「……He is one year older than the man next to him.(隣にいる人より1歳年上だよ。)」

 

私はそれを聞いてもう一度二人を見た。隣にいる人とはつまりは二宮さんのことだろう。落ち着いた雰囲気の彼、風間さんという人はどう見積もっても私より10cm以上は高くない(私は150前半だ)。対して二宮さんはこの前聞いた時確か180cmは超えていたはず。

私も決して人のことを言えるほど身長は高くないが、これは相対的に低いと感じるわけだ。

いや、彼の場合相対的ではなく、絶対的にも……と思ったが確か菊地原さんと歌川さんは風間隊だったはず。つまり彼は二人の隊長だ。そういうことを言うのは決して良くないだろう、ということを考えていると菊地原さんがこちらを軽く小突く。

「変なこと考えてるでしょ。」

「なんでですか。」

心を読まれたような正確さにびっくりして、思わずそうたずねると菊地原さんはいった。

「心臓が変な拍とってる。」

そうか、耳だ。菊地原さんのサイドエフェクトは確か犬並みの耳の良さ……分かったとしても不思議ではないだろう。

「高橋。」そこで二宮さんからそう声がかかる。「はい。」と言って近寄ると「茶野が探していたぞ。」と言われ腕時計を見ると約束の時間が少し過ぎてしまっていた。

しまった、という思いが顔に出たのだろう。二宮さんは呆れたようにため息を吐いて「行くぞ。」と言うと歩き始めた。その長い足で置いて行かれたらたまらない。私は少し早足で後を追ったが、ペースはそんなに速くなく、すぐに追いつくことができた。

私は二宮さんを見上げる。これは、もしかして合わせてくれているのだろうか。そう思っていると、二宮さんは前を向いたまま呟くように言う。

「菊地原と仲が良いのか。」

「……まだ会って2回目です。」

「……あんな軽口を言い合ってたのにか。」

言い合いの応酬を聞かれていたらしい。

もしかしたら今二宮さんは呆れた顔をしているのかもしれない。窺い知ることはできないがそう思った。

「そうですね。豊かな知性を持っている人で、好ましくは思いますが。」

言い訳をするようにそう言う。実際菊地原さんは賢い人だし、なんだか性格も合いそうだとおもったのは事実だ。ちょっと嫌味だが、そこはそれで良いアクセントかもしれないと思うほどには今日会って印象が上がっていた。

「……そうか。」

機嫌が悪いような少し低い声が返ってくる。あまり興味がないのだろうか?

私は話題を変えるため、周りに人がいないのを確認してから「体調はいかがですか。」と言った。

「普通だ。」

「本当ですか、あれから倒れてませんか?」

「ない。くどいぞ。」そんなぶっきらぼうな言葉の後、「……お前もいないのに倒れるわけにはいかないからな。」と小さい声が聞こえた。

私がいてもいなくても倒れないで欲しいが、無理をしていないのならなによりだ。

 

私は歩きながら少し前のことに思いを馳せていた。

"二宮さんを支えて欲しいんだ"

犬飼さんの言葉が耳に残っていた。

 

作戦室の前まで来た。これで二宮さんはもう自分たちの隊の所へ帰るのだろう。二宮さんがこちらに背を向けた。一瞬、躊躇する。でも、言わないと。そう思って、その手を掴んだ。

 

彼が驚いた顔でこちらを見る。なんだ、とその口が言葉を作る前に私が声を出した。

「二宮さん、もっと頼ってくださいね。私にできることがあれば、力になりますから。

心配なんです。」

そう言い切ると、気まずい雰囲気になるのが嫌で、「送ってくれてありがとうございました。」と言って作戦室へ逃げる。きっと二宮さんはポカーンとした顔をしているだろう。それはそれでみたいような気もするが。

 

「サキ、遅いぞ!」

気持ちを切り替え、部屋の奥へ行くと藤沢さんと茶野さんはとっくの前にいたようだった。

今回は私が悪い。素直に「すみません。」と謝るとお二人はあっさりと許してくれる。この優しさがなんだか先輩と呼んでみたくなるようなイメージを私に持たせている。

なんだか呼ぶタイミングもなくて保留にしているが。

 

まとめておいた各トリガーの性能が書かれている資料を取り出す。二人は興味津々でそれを覗き込んだ。

 

「やっぱカメレオンとかロマンだよなぁ。姿が消えるっていうのもそうだけど、ちゃんとデメリットがあるっていうとこが特に。」

「分かる。そういう癖のあるトリガーを使いこなすのは夢があるよ。風間隊とか超かっこいい。」

 

風間隊か。私は頭の中で菊地原さんを思い出す。

確か、彼らは犬飼さんによると"本部の警備に当たっている部隊"で鳩原さんが起こした例の事件では"鳩原さんを追跡した"のだ。

隊長の風間さんは二宮さんより一つ上だから……21歳。大学生のはずだ。まぁボーダーに所属している関係上、おそらく文系か理系の比較的拘束がない学部だろう。それなら納得がいくのだが、菊地原さんたちは高校生のはずだ。

私が引っかかったのはここだ。風間隊はカメレオンを使うことで有名だから、隠密部隊の適しているというのはわかる。だが、学生だということを考えるとそれにどうしても穴が開くはずだ。私はちらりと部屋の隅を窺う。

 

そこには監視カメラが一台天井の隅にポツンと設置されていた。

 

沢村さんについて回った時にも軽く監視カメラの位置を探ったが、それほど多くもなく、死角は充分に存在するようだった。

そこまで内部の監視は強くないということだろうか?

いや、それなら鳩原さんの事件の時に追ったということへの説明がつかない。

私はこの事件に関して、ある程度の推論をもっている。

まず、未来視のサイドエフェクトは何らかの形でうまく作用せず、鳩原さんが事前に事件を起こすことは察知できなかったというものだ。もちろん、鳩原さんが迅という人物と取引をした可能性も考えたが、迅という人物の立場を考えるとそれは考えにくかった。

そういう風に考え、鳩原さんの事件を見ると"ボーダーに鳩原さんの起こす未来は伝わっていなかった"というのが自然だろう。

しかし、風間隊はそんな状況下で"鳩原さんの後をつけている"。鳩原さんのやった行為はトリガーの持ち出しだ。でも、その行為自体はさほど不自然ではないように思える。少なくとも、オペレーターが同様の行為をするよりは。つまり、これはすなわち、未来視以外でボーダー側、もっと言えば風間隊が"何らかの形で"そういうことに関する情報を得ることができるということなのだろう。私はそれが学生が所属し、穴ができるはずの風間隊が本部を警備する隠密部隊に選ばれた理由だと考えた。

カメレオンを扱うだけなら他にも適した候補はいるはずなのだ。

だけど分からない。

それが何なのか。どうやって彼らは独自の情報を得ているのか。それがなぜ彼らだけなのか。

途切れ途切れのヒントに私は歯がゆい思いになる。

 

「ガンナーが扱う弾の種類はアステロイド、ハウンド、メテオラ、バイパーなんだよな。」

「俺らが今使ってるのはアステロイドとハウンド……。サキ?どうした?」

「え、なんですか?」

「いや、珍しく難しい顔してたから。」

茶野さんが心配そうにそう言ってくれる。考え事に集中しすぎたのだろうか。

そういえば、さっきも菊地原さんに同じようなことを言われたような……。

「私、そんなにわかりやすいですか?」

「いや、むしろ普段は分かりにくいな。なんていういうか、サキ賢いやつ独特のなんかがあって。」

「なんですか、なんかって。」

私はふぅっと息を吐く。難しい顔が外に出てしまうほど不注意になっていたらしい……いや、ちょっと待てよ。菊地原さんとの会話を思い出す。

"なんでわかったんですか。"

"心臓が変な拍とってる。"

これだ!

未来視ではない、風間隊が手に入れることができる情報は菊地原さんのサイドエフェクト、つまり心臓の鼓動だ!

どんな人でも嘘をつくときは心臓が普通よりドキドキするだろう。これは交感神経が働くからだ。そしてその交感神経を含めた自律神経系は"その人の意思とは無関係"に働く。だからこそ菊地原さんはそれを聞き分けることで不審な動きをする人を察知することができるのだ。これが風間隊が隠密部隊として働く理由。

 

なるほど……。確かにこの方法ならば穴が開くかもしれないという不安などないだろう。そんなことをしようとする人がいるときにだけ動けばいいのだ。

 

私は軽く笑った。

 

「二丁銃のスタイルを貫くんでしたら、ガンナーのお二人の場合1番真価を発揮するアステロイドは外せないでしょう。そうすると、残りのトリガーを入れることができるのはお二人の場合各々6個のみです。

これにバックワームをいれると残り5個。」

「シールドもサブとメインどっちにも入れたいから実質3個か……。」

「でも、全部を埋める必要もないんじゃないか?それだけでトリオンは消費するわけだし。」

「確かにそうですが、私たちの隊は戦闘員が二人しかいません。

人数が少ないということはそれだけで手札の少なさに直結します。それを補うために3個は欲しいですし、慎重に選びたいです。」

「そうか、手品みたいなもんだもんな。タネがわかりやすいっていうか。」

藤沢さんがそう納得したように頷く。この人もなんだかんだで頭がいいのだ。

 

「はい、そうなるとやっぱり大切になるのは戦術ですね。」

 

そう、タネが分からないということほど難しいことはない。

逆に言えば、仕掛けがわかって初めてそれの攻略には入れる。

 

タネはわかった。あと対策を立てるだけだ。

 

 

 

 

 




今日のハイライト

・菊地原と仲良く(?)なる
・二宮さんに順調なフラグ立てをしている主人公(自覚なし)
・風間隊の謎をとく
・茶野隊パワーアップなるか?

お久しぶりです。
今までの話を見返して付け足したり消したりしました。
内容は変わっていません。

だんだんと文字数が増えていることに恐怖を覚えている今日のこの頃。
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