投稿遅れてすみません。
今回長めになってしまいました。
誤字脱字等あったら報告お願いします。
「あー、めっちゃ楽しかったーー!」
そういうと唯さんは大きく伸びをした。
時刻は午後5時近く。私たちは今荒川の河川敷に来ている。帰宅時の時間からか、近くの歩道をサラリーマンや学生たちがそれぞれの帰路へと歩いている。それぞれの顔には少なからず疲弊の色が見えており、すぐにでも家に帰りたいという心情が読み取れる。
かくいう私もさすがに疲れた。今日は終始唯さんに振り回されてばっかりだった。服屋を後にした私たちはレストランやゲームセンター、ペットショップといった様々な場所に立ち寄った。そのほとんどが唯さんの提案で何かしら興味の惹かれるものを見つけてはすぐに飛んでいくため、いつ迷子になってもおかしくなかった。そのため常に唯さんの行動を注意していたせいか今になって疲労がドッと出てきた。昔からの付き合いでこうなることは予想できていたがやはり疲れてしまう。
ふと唯さんの方に目を川の方を見つめていた。夕日に照らされてか、金色の髪に反射してより一層輝いており、キャップの影で目元がよく見えないため感情はあまり読み取れない。しかし、さっきまでの明るいオーラがない。
「ゆいね、この時間のここの景色好きなんだ。」
ポツリと…、川を見つめたまま唯さんが呟いた。
「埼玉にはさ、なーんもないけどさ……。ここだけは好きなの。夕日に照らされて凄いキラキラしてる。…もちろん晴れてる日ならいつでもキラキラしてるんだけど…。でも、この時間のキラキラはなんか違うの。うまく言えないけど……特別なキラキラなの。」
私は視線を川に向けた。
夕日に照らされて淡くオレンジ色に輝いており、これから来る夜の暗さも混じり合っている。それはこの時間でしか見れないもの。それはこの時間にしか合わさらない陽と影の神秘。揺れる水面がその神秘をより一層際立たせているような気がした。
「確かに……。凄く綺麗ですね。」
「うん………。きっと、アイドルの人たちもこんな感じなんだろーなーって。1人1人が特別なキラキラを持っていて、多くの人たちを魅了する……。そんな、特別な存在。」
そういうと唯さんは私の目を見つめてきた。
「正直な話ね、アイドルにならないかーって言われたとき凄く嬉しかったの。ゆいの友達にねアイドルの子がいてね、もう東京に引っ越しちゃったんだけど。ゆいもあんな風にないたいなーって思っててね……。だからスカウトされたときは本当に嬉しかった。アイドルになったら可愛い衣装も着れるし、美味しいものもたくさん食べれるし……。」
私は唯さんの話を口を出さずに静かに聞いていた。
「でね、その話を聞いてるうちにそのスカウトしてきた人がゆいの友達のプロデューサーってことがわかってね……、試しにその子の仕事風景でも見ないかって言われたの。ゆいもそれに賛成して見に行くことにしたんだ。そしたらビックリしちゃった。だってその子こっちの学校にいるときは絶対に見せないような顔で一生懸命練習してるの。トレーナーさん?みたいな人に怒られてもめげずに何度も何度も……。ゆい、それ見て怖くなっちゃって……、まだ保留にしてるの。」
唯さんの視線が地面に落ちた。それによって顔にキャップのツバが重なり、顔が見えなくなった。
「ほら、ゆいってさ…昔から勉強もスポーツも恋愛も…。そのほかのことにも本気でやってきたことないじゃん。どれも軽い気持ちでやってさ……。友達もそんな感じだったんだけどさ…。全然違くなっちゃって…。それ見てるとさ一生懸命やってる人に凄く申し訳なく感じちゃって…怖くなっちゃって…。」
そこで一旦間があり、唯さんが顔をあげた。
「Pちゃんはさ、こんなゆいにアイドルなんてできると思う?」
声が少し震えていた。瞳が揺れていた。表情からは儚さと諦めが滲み出ており、こんな弱々しい唯さんを見たのは久しぶりだった。アイドルになりたい、でも今のままではアイドルになる資格がない…。きっと今の気持ちでは多くの人に迷惑をかけてしまう。多くの人を失望させてしまう。そんな彼女の心の中からくる本当の気持ち。彼女の本当の弱さ。きっとアイドルとしてスカウトされたときからずっと心の中で葛藤していたのだろう。
「唯さんはアイドルになるべき存在です。」
だから私は語りかける。昔から知っている彼女に。家族とかを除いて、誰よりも彼女のことを知っている私が彼女の心に…。
「唯さんは昔からいつでも明るくて、元気で、笑顔で……、あなたの笑顔はあまりの多くの人たちを笑顔に変えます。それは簡単そうにみえて難しいことです。しかし、唯さんにはそれができます。あなたの心から見せるその無邪気な笑顔は……あなたにしかできない特別な笑顔です。」
「……………………ッッ!」
「夢を叶える理由は人それぞれです。例えそれが不純な理由から始めても、やることに意味があります。その過程の中で人は成長していきます。唯さんの可愛い衣装を着たいことや美味しいものもたくさん食べたいこともそれを始めるための理由に過ぎません。大事なのは"それを通してどう変われたか"です。」
唯さんは下を向いていて聞いていた。途中からは泣くのを堪えているのか、嗚咽が聞こえてきた。私は唯さんの肩を優しく掴み、唯さんと同じ目線と高さに腰を屈めた。一瞬ビクッと肩を震わせたが彼女が落ち着くのを待ってから最後の言葉をかけた。
「唯さん、どんな理由でも構いません。あなたが心からアイドルになりたいと思うのならそれに向かって走るべきです。辛いことや悲しいことがあったなら私がすぐに駆けつけます。私はいつでもあなたの味方です。」
唯さんの瞳からはたくさんの涙の粒が溢れ出ていた。涙で顔をくしゃくしゃにしながらも私の目をそらさず、意志の籠った目で……。
「唯さん……、アイドルになりたいですか?」
そしてーーーーーーーーーー
「ゆいッッ、……アイドルになりたいッッッ!!……たくさんの人を笑顔にできる……アイドルになりたいッッッ!!!」
それは心からの決意だった。唯さんの……本当の気持ちだった。緊張の糸が切れたのか唯さんは人目を気にせずに泣き出した。全てを吐き出して、心が軽くなったのだろう。だから私は彼女を優しく包み込んだ。泣きじゃくる彼女を優しく…優しく……。
そして夕日が沈むまで水面に映し出されていた2人のシルエットは静かに揺れていた……。
ーーーーーーーーーー
〈Yui side〉
夜10時頃。あのアイドル宣言の日の夜。ゆいはある人に電話をかけていた。
「もしもーし、おひさー。」
『おー、久しぶりー。唯から電話かけてくるなんて珍しいねー。』
懐かしい声。最近電話してなかったからなー。
「まぁね〜。今大丈夫?」
『うん、全然大丈夫よ。あれかな、アイドルの話?』
さすが、鋭い。
中学んときからそうだったからなー。
「うん……。報告はしとこうと思って……。ゆいね、アイドルになるよ。」
『やっと決心ついたか〜。じゃあ、これから先輩として張り切っちゃうから!よろしくね!』
そういって友達兼アイドルの先輩にあたる彼女がテンション高めに言った。
『うん!よろしく、美嘉ちゃん。」
346プロダクションを代表する"9人のシンデレラ"のうちの1人、城ヶ崎美嘉だった。
次回で埼玉県は終わりの予定です。
また、次回投稿も旅行で少し遅れるかもしれないのでよろしくお願いします。
感想評価よろしくお願いします。