撃墜王は地に堕ちる   作:綾春

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間が空きましたが、高藤学園との練習試合が開幕です。


高藤学園

 高藤の大きな正門をくぐると、これまた大きな校舎がそびえ立っている。高藤本校といえば画期的システムを導入するマンモス校として全国的に有名だが、この福留島分校もかなりの大きさ。本校がマンモスなら分校はゾウといったところか。

 

 校舎に囲まれた中庭は色とりどりの草花で彩られており、冬であることを忘れさせる華やかさがある。心地よい花の香りを感じながら中庭を通過する。

 

「私は顧問の先生に挨拶してくるから、皆は先に部室に行っててくれる?場所は……わかるよね?」

「はい、大丈夫です」

「ならよし。じゃあ、お願いね」

 

 汐留先生が職員室があるであろう本校舎へ。私たちはそのまま校舎から抜け、部室棟へと向かう。その間、私は前々から気になっていた質問を投げかけてみる。

 

「高藤とつながりがあるって聞きましたけど、どういうつながりがあるんですか?」

「それはね――――日向くんが昔、すごいスカイウォーカーだったのは知ってるでしょ?」

「今も、ですよ!」

 

 窓果さんに明日香さんが付け加える。

 

「それは、勿論。私も憧れましたからね」

「何だか恥ずかしいな、この話……」

 

 照れて顔を隠す昌也さん。窓果さんはそれを知りながら構わず続ける。

 

「高藤の部長だった真藤さんは……分かる?」

「それも分かりますよ。昨年度の全国大会覇者ですよね」

「うん。その真藤さんも、風翔ちゃんと同じように日向くんに憧れを抱いていたの。で、コーチとして日向くんが復帰したって聞いて向こうから連絡してきたのが始まりだね」

「へぇ……つまり向こうから迫ってきたってことですか?」

「そういうこと〜」

 

 それは驚いた。高藤ほどの規模の学校なら、練習試合などの申し込みはむしろ申し込まれ、施設を貸し出すのが一般的だろう。それが向こうから接触してくるとは、昌也さんの影響力、恐るべし。

 

「昌也くんがFCに復帰してからも、何度か練習試合してるんだよ。その度に引退したはずの真藤さんも参加してて……」

「真藤さん、やっぱり強いよねぇ。世界で戦うだけあるわー」

 

 真藤一成。私の知る限り彼より多様な戦いのできるスカイウォーカーは居ない。スピード勝負もドッグファイトも出来、メンブレンの操作や反重力を生かした戦法、あるいは荒っぽいラフなスタイルから相手を圧倒する圧迫的なプレイまで。

 

「あの圧力……正直、怖いです」

「でも、いい人ですよね。何考えてるのか少し分からないですけど、優しいですし……」

 

 そこで先頭を歩いていた窓果さんの足が止まる。どうやら着いたようだ。

 

「お、ちょうど皆出てきたところみたいだよ」

 

 どうやら準備は整っているようで、練習試合に出るのであろうメンバーはフライングスーツに着替えていた。その中でも目を引く、軽くカールしたブロンドのロングヘアを揺らす女性がこちらへ歩み寄ってくる。

 

「久奈浜学院の皆さん、お久しぶりですわ」

「お久しぶりです、佐藤院さん」

「えぇ、元気そうで何よりですわ、日向昌也」

 

 口調や声音、髪をかきあげるひと仕草に上品さが覗く、美しい女性だと感じた。佐藤院さんというそうだ。佐藤でなく佐藤院とは、珍しい名前……

 

「そちらの方が新しい部員ですわね?私は佐藤院麗子。高藤学園FC部の部長ですわ」

「あ、久奈浜学院FC部の道真風翔です。よろしくお願いします」

「道真さん……どこかで聞いた名前ですわね。以前もどこかでFCを?」

「瀬渡内の方でずっとやってましたね」

「へぇ、瀬渡内で。あちらの方もかなりFCは盛んでしたわね」

「ですね。四島ほどでは無いですけど」

 

 瀬渡内はグラシュ特区であるため、ほかの地域に比べてはるかにFCが盛んだ。四島はもはや聖地と呼べるレベルのため除外するとしても、一二を争うレベルの規模だろう。

 

「今日はお互いに有意義な練習試合にしましょう」

「はい、お世話になります!」

 

 佐藤院さん、いい人そうで良かった。人当たりがよく、相手の話題に上手く合わせられるタイプ。つまりコミュニケーションが上手い人だ。

 

「佐藤院さん、いい人ですね」

「そうだね。佐藤くんは、素直で周りの見れるいい子だよ」

「うわっ!?」

 

 突如後ろから低く渋い声が聞こえて思わず飛び上がる。そこには身長は高く細身、それでいて筋肉質な青年が立っていた。歳は私よりも少し上くらいだろう。

 

「いらっしゃい、福留へ、そして高藤へ。元部長の真藤一成だ。よろしくね、道真くん」

「あ、道真風翔です。よろしくお願いします……」

 

 真藤一成。現代のスカイウォーカーなら誰しもが一度は憧れるであろうプレイヤーだ。かくいう私も憧れた一人だが、私の場合はむしろ目指すべき指標だったと言えるかもしれない。

 

「キミのことは知ってるよ。勿論、プレイスタイルもね」

「それは……今は、封印してるんです」

「そうだろうね。日向くんならそうすると思ったよ。彼は王道的FCが好きだからね」

「まぁ、仰るとおりですよ。これは俺の我儘ですから」

 

 この真藤一成という人物は、何でもお見通しなのだろうか。人生経験がはるかに違うように感じる。

 

「今は時間が惜しいだろう?早く練習場に行こう。部室で着替えてくれて構わないからね」

「はい、ありがとうございます」

 

 そう言うと彼も練習場へと向かう。私たちは更衣室のある部室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海風が髪を撫でる。少し湿った心地よい風に私はうんと伸びをした。

 

「んっ――――ぅ」

「いい場所だろう?敷地内にこんな浜があって幸運だったよ」

 

 いつの間にか隣に立っていた真藤さんが言う。ここも学校の敷地なのか、すごいな……

 

「今日はあくまで合同練習ではなく練習試合だ。自分が試合をするだけじゃなく、ほかの人のプレイからも勉強しないとね」

「そうですね。誰かのスタイルから自分のものにできそうなモノを吸収しないと」

「楽しみにしているよ。『撃墜王』がどう変わるのか――――」

「――――っ!」

 

 後ろ手にひらひらと手を振って真藤さんは高藤陣営へと歩いていく。やはり私のことを知っていた。

 

「どうした?呆然とした顔して」

 

 昌也さんが私の顔を覗き込んで言う。そんな顔になってたか……

 

「何でもないですよ、真藤さんと話をしてただけです」

「真藤さん、たまにとんでもないこと言うからなぁ……変なこと言われなかった?」

「それは大丈夫ですよ。問題ないです」

「ならいいんだけど……」

 

 昌也さんの後から皆もついてきた。選手ではない窓果さんを除く皆、フライングスーツに着替えていて臨戦態勢だ。

 

「早速始めさせてもらおう。アップもしないといけないし」

「だね。話つけてくるよ」

 

 こういう時、窓果さんは率先して動く。マネージャーとしては文句なしの働きっぷりだ。少しお茶目が過ぎるシチュエーションもあるが。

 

「――――アップ、始めてもいいって。練習試合は2フィールドでさくさく回して、午後からレギュラーメンバーを集めて大会形式でやろうってさ」

「わかった、それでいいって伝えておいてくれ。選手は上がるぞ、フィールドフライでアップ。その後軽く動きの確認をして試合に備えてくれ」

「「はいっ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁああっ!」

「うっ―――」

 

 高藤の一年生の背中に白いポイントフィールドが発生する。これで1対5。道真くんとぶつけるにはあまりにも未熟だった――――いや、道真くんが強すぎるのか。

 

「このっ……あれ?」

 

 後輩が後ろを振り向いた瞬間には、もうそこに道真くんは居ない。白い尾を引き、振り返るよりも速い速度で背中に回り込む。

 気づいてももう遅い。再びポイントフィールドが発生し、点を奪う。

 

「……一方的な展開ですね」

「あんまり一年をいじめないで欲しいんだが……まぁ、彼女も葛藤しているからね」

 

 そう言うのは僕ともうひとり、桃色のショートヘアに犬の耳のように垂れ下がる髪飾りが特徴の少女。幼さの残る顔は生真面目そうな表情で空を眺めていた。

 市ノ瀬莉佳。高藤の次期エースで、真面目さが一番のウリの優等生だ。真っ直ぐな性格かつ努力家で、才能の不足分を勉強と努力で補おうとする。まぁ、それゆえに読まれやすい部分もあるが。

 

「にしても、すごいスピードですね。私が知る中では一番かも」

「いや、間違いなく一番だと思うよ。あのドッグファイト中の速さは」

 

 彼女の技術に加えて、あのグラシュ。常人なら飛ぶことも出来ないほどのシロモノだ。

 

「僕でも追いつけないだろうね。捕まらないことは可能かもしれないけど」

「珍しいですね?真藤さんがそんな自信なさげな」

「自信が無いからね。彼女の反応の鋭さはDVDとかで何回か見たけど、市ノ瀬くんも生で見れば驚くと思う」

 

 フェイントがまるで通じない。一度捕まると最期、その檻から逃れることは叶わない。

 

「彼女の本当の能力はそれだけではないんだけど……今日は、見せてくれないだろうね」

「本当の能力……?」

「市ノ瀬くんは知らなくていいことだ」

 

 そう言って目線を空に戻す。美しく弧を描く白いコントレイルは相手を包み込んだままで、試合終了のホイッスルが鳴る。

 

「また強敵が増えたね。もっと頑張らないと、インターハイは怪しいな」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆おつかれー。はい、お水ね〜」

「ありがとうございます……」

 

 午前の練習ではイマイチ掴めたものがなく、私は不完全燃焼だった。私のスピードについてきてくれないのでは作戦も何もない。速度で翻弄『してしまう』のだから。

 

「皆さん、お疲れ様です」

「あ、莉佳ちゃん。お疲れさまですっ」

「おつかれにゃ〜」

 

 柔らかな声音で挨拶に来たのは桃色のショートヘアの少女。全身をピンク色でコーディネートしているにも関わらずぶりっ子っぽさを感じさせず、むしろ派手な桃色を本人が引き締めているような印象を受ける。

 

「あ、初めまして。市ノ瀬莉佳です」

「道真風翔です。よろしくお願いしますね」

「莉佳ちゃんは、時々ウチの練習に付き合ってくれてるんだよ」

「いえ、私がお邪魔してるだけで……むしろ迷惑なんじゃないかって」

「何言ってるんですか、大歓迎ですよ!」

 

 久奈浜のみんなともかなり仲がいいようで、すっかりと溶け込んでいる。

 

「食堂に行きましょう。今日もご飯が出るみたいなので」

「わーい!高藤の学食美味しいんだよね〜」

「私も高藤の学食好きです!種類も多いですし、ヘルシーですし」

 

 みさきさんと真白さんはどうやらここの学食がお気に入りらしい。明日香さんや窓果さんも声には出さないながらも表情に出ている。女子の勘か、そう読み取れた。

 

「しっかり食って、午後に備えないとな」

「……ですね」

 

 午後が私の本題。新たな発見が、きっと待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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