それは、万物の支配者にして超越者。
形無き混沌から『世界』を創造し、天地を分け、万物を創りたもうた偉大なる者達である。
物理の法に縛られず、寿命の定めからすらも解き放たれた神々は、時に迷える者を導き魂を救済し、時に背徳の都を焼き傲慢の塔を打ち壊し大陸すらも海に沈めた。
信じる者には幸いを。信じぬ者には災厄を。名君よりも慈悲深く、暴君よりも容赦無く。
天地万物を統べ、支配する絶対者。――それが《神》である。
だが、そんな彼らであっても六日間ぶっ通しで世界創造すれば疲れて休むし、ストレスで職務放棄して引きこもったり、恋に悩んで美少女浚ったあげく大飢饉到来させたりする。
そう、たとえいくら人知を超越し天地創造することが出来ようとやっぱり人の子(いや神の子か? でも意味合い的に一番近いのはこっちだしなあ……)。泣いて笑って恋をして、悩みもするし挫けもすればプッツンしておにゃのこを『ピー』したりする。力はともかくその心は我々人類と大して変わらないのだ。
そして現代、日本は東京都《秋葉原》
人種や思想の区別無く、宗教宗派の隔て無く、日本いや世界からあらゆる人と物が集う場所。魔都とも趣都とも呼ばれる混沌の街に、その居酒屋はあった。
混沌の街の更に奥深く、隠された聖域の如き路地裏にひっそりと佇む一軒の居酒屋。
人生ならぬ神生に疲れた神々が、今宵もここにやって来る。
心を癒し悩みを忘れさせてくれる―― 一杯の酒を求めて。
☆三大処女神さま(+中古)のご来店☆
暖簾をくぐると、芳醇な酒の香りが四人の女神を出迎えてくれた。
料理を焼く煙でくすんだ天井。酒の臭いが染みた壁。漂う香ばしい香りと客たちの賑やかな喧噪。
そんなどこか懐かしい、昔ながらの居酒屋といった店内は、こじんまりとした外観とは裏腹にかなり広めだ。
そこには、様々な者達がいた。カウンター席に六人仲良く並ぶ六地蔵や、ビールがなみなみと注がれたジョッキを手に赤ら顔で乾杯する天狗達。その隣ではエジプトの神々だろう獣頭の一団が酔っぱらって踊り出し、一方で座敷席では八百万の神々が穏やかに談笑している。
古今東西のあらゆる神々、いや精霊や幻獣までもが共に集い、争うでも滅ぼし合うでもなく、酒を飲みかわし料理に舌鼓を打ち笑い合う。
そんな光景に、来店した四人の女神たちの一人(※ ちなみに神を数える際に使う『柱』という単位は日本でしか使われないので、この作品では『~人』と数えることにします)、優しい桜色の髪に一輪の青いアネモネの花を挿した、品のある美しい女神――ギリシア神話における冥府の女王《ペルセポネ》は思わず声を漏らした。
ペルセポネ「うわぁ……。話には聞いていたけど、本当に色んな神がいるんですね」
???「ふふ、初めて来たら驚くわよね。アタシも最初は目を丸くしちゃったわ」
水晶のような瞳を丸くするその姿を、あどけない顔で微笑ましく眺めるのは、隣に並ぶ赤毛の少女――いや幼女。
そうロリだ。ロリコンの前にはけして出してはいけない、ろりっろりのロリである。本来ならばこんな居酒屋には間違っても入れない筈のロリであるが、店員は誰も咎めようとはしない。なぜなら彼女はれっきとした成人。生まれた瞬間父親に呑み込まれたけど体内で成人を迎えている立派な大人のレディーなのだ!
……ちなみにこう見えて神界オリュンポスの馬鹿ブラザーズもといゼウス兄妹の長姉である。ロリで合法で姉とか古代の俺達が考えたとしか思えない。恐るべきは合法ロリも完備しているギリシア神話であるマジパネェ。
そんなロリ姉ちゃんこと炉の女神《ヘスティア》だったが、すぐに店中から突き刺さる視線――主に彼女らの美しさに見とれる男神たちの――を感じ苦笑した。
ヘスティア「うわっ……やっぱめちゃくちゃ見られちゃってるわねぇ。ま、アタシ達は有名神だから仕方ないけど」
???「あーやだやだ。汚らわしい男共が野獣の様な瞳を向けてきていますわ」
一方、汚物を見るような目で可憐な顔をしかめるのは、月の光を編んだかのような銀の髪の幻想的な乙女――月と狩猟の女神《アルテミス》。
月下美人の花を思わせる儚げな美貌の持ち主だが、勝気そうな瞳には強い意志がある
処女神にして極度の男嫌いである彼女は、穢れ無きシルクの肌に鳥肌を浮かべ、背負っていた弓に手を掛けた。
アルテミス 「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ……っ! きっと頭の中で
ヘスティア「ちょっ!? 弓しまってアルテミス! 来たばっかりで流血沙汰は出禁になっちゃうから!」
ペルセポネ「それで殺された方々と冥府で顔を合わせるのはさすがに気まずいです……」
澄んだ瞳を殺意で濁し弓を構える処女神を慌てて止める処女神その2。ドン引きの冥界女王。そして美少女に殺されるならむしろ本望とさらに瞳をぎらつかせる男神たち。
一方、そんな彼女らに四人目の女神、同じく処女神である乙女はやれやれと溜息をついた。
それは獅子の鬣の如き黄金の髪と蒼穹の瞳を持つ乙女。
鮮烈にして凄烈。美麗にして勇壮。女性の麗しさと同時に、いやそれ以上に圧倒的な武威を放つ戦女神。男に生まれたのならば最高神ゼウスすら上回る力を持っただろうと語られし、戦いと勝利の女神《アテナ》はその碧眼に力を込めて男たちを一瞥した。
瞬間、彼ら全ての酔いが吹き飛んだ。
怒りと軽蔑に染まった、氷の刃の如きその眼差し。貫かれた者の背筋は凍り、恐怖がその身を震えさせる。メデューサに睨まれかの如く硬直する彼らの姿に、アテナは
アテナ「……失礼だぞ貴様ら」
全男神
「「「(ゾッッッッッッッ)!!!!!!!!!!!」」」」
結果、全ての男が一斉に目を逸らした。
だってマジで
ヘスティア「あらら……。助かったけどお通夜みたいになったわね」
アテナ「ふん。不躾な視線に曝され続けるよりはマシだろう?」
アルテミス「その通り! 流石ですお姉さま!」
ペルセポネ「ええ。とても凛々しかったですよ。アテナ様が女性の方に慕われる訳が分かりました」
ヘスティア「男が嫉妬するくらいモテモテだもんねえ」
バレンタインチョコの数で大敗した自称ライバル(笑)《軍神アレス》の血涙面を思い出して苦笑するヘスティア。
ヘスティア「じゃあ居酒屋に来ていつまでも立ち話はなんだし、どこに座る?」
アルテミス「あまり人の目がある所はちょっと……」
ヘスティア「おけ。なら奥に個室があるからそこにしましょ」
未成年に見えても常連客。勝手知ったる風に案内するロリ姉ちゃんに、女神たちもそれぞれついて行く。
店の奥へと向かう後ろ姿。纏うゆったりとしたトーガから覗く、その色っぽい
アテナ「――(ギンッ)!」
全男神
「「「サーセンっしたあああああああああ!!」」」」
振り返った戦女神の一睨みに再び全力で逸らしたのだった。
☆人内魔境☆
少し薄暗く、でも落ち着いた照明に照らされた通路を歩く四人の女神たち。
個室への移動中。やっぱり時折すれ違う男神たちが一々振り向いてくる。その度にアテナの眼力で撃退しているのはもはやお約束となっていた。
一方、桜色の髪を揺らして歩くペルセポネは、物珍し気に店内を見回していた。
ヘスティア「どう。面白いでしょ?」
ペルセポネ「ええ。面白いですし、それにまだちょっと信じられなくて……まさか下界にこんな場所があるなんて……」
ヘスティア「まあたしかに、他の所じゃできないわよね。その土地の神の支配領域では教義的に認められない存在は拒絶されるし、一神教系の場所は特に私達じゃ入れないしね。その点この国を統べる日本神族――八百万の神は寛容というか良い意味で適当だから、基本どこの神でも問題なく来れるってわけ」
ペルセポネ「なるほど。でもまさか格好も神界のままでいいというのは流石に驚きました。いつもなら下界に行く時は神であることがばれないように人の服を着るのに、ここに来るまで出会った人間は誰も私たちを怪しみませんでしたよ……?」
実はちょっと内心ビクビクしていただけに、秋葉原に入ってからまったくトラブル無くこの居酒屋に来れたことにペルセポネは今だ半信半疑で首を傾げる。
一方、そんな彼女に対してヘスティアは、あどけない顔にどこか申し訳なさそうな苦笑するような何とも言えない表情を浮かべて
ヘスティア「それはまあ何と言うか……ある意味そこがこの居酒屋がアキバにある理由と言いますか……」
言おうか言うまいかしばし迷い、やがてポツリと――
ヘスティア「……アタシ達、何かのコスプレだと思われてるから問題ないのよ」
ペルセポネ「ああ……」
何とも言えない顔で言うロリ姉ちゃんに、同じく何とも言えない顔で納得する冥界女王。
多少変な格好でいても『まあアキバだし』で済まされる。それが人界の魔境《秋葉原》である。
☆セクハラ。ダメゼッタイ。それはそうと乾杯だ☆
何だかんだあって辿りついた落ち着いた内装の個室で、店員に注文を出し終えた後、女神たちはようやく一息ついた。
ヘスティア「ふぅ……。なんか妙に疲れちゃたわねえ」
アルテミス「それもこれもいやらしい男共のせいですっ。……やっぱり今からでも駆除しましょうか。ええそれがいいですそうしましょう……」
ヘスティア「やめなさい。少なくとも初見で襲いかかってこないだけオリンポスの奴らよりはマシでしょ」
アルテミス「……まあ確かに。でも所詮は五十歩百歩です! 下半身で犯るか視線で犯るかの違いです!」
アテナ「その通りだ。奴らは所詮●●●に手足が生えただけのケダモノにすぎん。脳など飾りで、常に思考の中心は●●●の方だ」
ヘスティア「相変わらずの男嫌いねえ。別に全員がケダモノという訳でも無いわよ。あと一応処女神なんだから●●●とか言わないの」
ペルセポネ「そうですよ。それに殿方が皆そのような方々ではありません。少なくとも私の夫は紳士的ですよ」
アルテミス「むぅ……分かってますよ。中にはそうでない方もいることくらいは……」
消え入りそうな声でそう言って、アルテミスはその瞳を僅かに伏せる。まるで過ぎ去った、もう二度と取り戻せない何かを思い出すように。あるいは後悔に耐えるように……。
アルテミス「――で、でも99%はケダモノなのは事実です。大体今日だって仕事中だっていうのに周りの男共がジロジロ見てきて、おかげで集中出来ずにポカしちゃったんですよ!」
ヘスティア「あーそれはあるわね。確かにあれは鬱陶しいわ」
アテナ「アルテミス、また同じ事があったなら直ぐに教えてくれ。私が全員切り捨ててやる。セクハラ殺すべし慈悲は無い」
ヘスティア「やめなさい。それやったらオリンポスから男神消えるから。……あとせっかくたまの女子会なんだから、仕事の事は置いときましょう。ね?」
穏やかに嗜めるその言葉に、アテナは暫し押し黙った後、ふっと苦笑した。肩の力を抜き表情を和らげて
アテナ「……そうだな。こうして集まるのも久しぶりだしな」
アルテミス「私とお姉さまはオリンポス十二神のメンバーですから多忙ですものね」
ペルセポネ「私は年に四ヶ月は冥府にいますから、あまり顔を合わせる機会がありませんし」
ヘスティア「でしょ。なら嫌な事は全部忘れて楽しみましょう。アタシたちの女子会を」
ニッと笑ったその時、個室のドアが開かれ店員が入って来た。
その手には注文した四つの生ビール。あまりにもタイミングの良い登場に皆が微笑み、そして各々の前にキンキンに冷えたジョッキが置かれる。
並々と注がれた黄金色の液体の上に、溢れるきめ細かな白い泡。漂うほろ苦くも美味そうなアルコールの香りに、皆が思わず唾を飲み込んだ。
そして、それぞれが手を伸ばし取っ手を掴み
ヘスティア「それじゃ――」
最高の笑顔で
「「「「乾杯!」」」」
鳴り響く乾杯の音色で、女神たちの女子会が始まった。
解説
*以下ほぼ全て、神話の設定改編曲解しまくった結果の、本作だけのインチキ設定なのでガチに神話好きの皆さまは怒らないで下さい。
《ギリシア神族》
ゼウスを主神とする《オリンポス神族》ともう一つの《ティタン神族》からなる神々。女は犯して父より優れた子は丸呑みして泥棒猫は呪うむしろ殺す。丸呑みされても体内で育って体を割ったら出てくるエイリアンみたいなやつら。年中昼ドラしてる。
《オリンポス》
ギリシア地方随一の高峰。ギリシアの神々のすむ山。ようは住みかで職場で聖域。作中ではここにギリシアの神界が異空間的にあるとして扱います(こう妖精境とかマヨイガ的に)。
《秋葉原》
魔境。現代に甦ったマニアックなソドム。21世紀なのにメイドさんが生息し不夜城というイメージなのに夜8時にはほぼ真っ暗になり余所者の度肝を抜く、健全なんだかそうでないんだかよくわからない混沌の街である。
ここまで読んでいただきありがとうございます。作者です。
突然ですが言い訳おば
ほら、小説執筆してるとどうしても行き詰まる事ってあるじゃないですか。そんな時に気分転換に読んだ某うさぎとか異世界居酒屋とか食堂ついでに美味しん某を見て「お、おもろいやん」と衝撃を受け「オラもこんなの書いたみたい!」という衝動のままこの物語を書きました。
なので各方向からの影響受けまくりです。でも料理はとくに描きませんよ。というか描けません作者が料理なんてできないもの。
というわけでこの物語は基本キャラクターの会話がメインです。
今話は解説の必要上、地の文が多くありますが基本は台本形式でお送りします。
ではでは酒が全く飲めず居酒屋にもろくに行ったことの無い作者が無謀にも描く居酒屋物語。よろしければ今後ともよろしくお願いいたしますm(_ _)m