恋に落ちて ~彼女と僕の距離~   作:流離の素人

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はじめましての方、はじめまして
連載作品を目にしたことのある方、いつもお世話になっています。

流離の素人と申します。

まずは、謝罪を連載作品をお読みいただいている方に。
別の作品を更新していない中で、新しい作品を連載してしまい申し訳ございません。

息抜きに、鈴ちゃん可愛いなぁと思って書いてみたものが結構筆が進んでしまったもので、眠らせておくのももったいなと思い投稿させていただくことにしました。

こちらの作品も拙い文章で、更新が不定期となりますが、完結まで頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。




prologue 恋に落ちるまで
第1話 恋に落ちるまで


その笑顔から目が離せなくなっていた。

いつの間にか、彼女の明るい笑い声を聞くたびに幸せな気持ちになるようになっていた。

いつからか、彼女の事を目で追うようになっていた。

 

彼女や彼女の友人は、少数ながらも僕の通っていた中学では有名な生徒たちだった。

 

その中でも特に有名だったのは、フラグ乱立の貴公子と呼ばれる『織斑一夏』だろう。

整った甘いマスクに、正義感溢れる真っ直ぐな心根、分け隔てなくどんな人間とも親しくあろうとするその優しさ、思春期男子が手に入れたいと願うであろうモテる男の要素を、ほぼ全て備えている学校一のモテ男。

立てたフラグを回収しないどころか、全力でスルーするその悪癖がたまに傷だがそれも彼の魅力の内なのだろう。

 

まぁ、今は彼の話はあまり重要では無いので割愛させてもらい、彼女の話をしよう。

 

凰鈴音――

彼女の名前だ。

 

容姿は――

茶色の髪を、左右の即頭部からリボンで結うことで作られたツインテールの似合う小柄な美少女と説明すれば、彼女の事は大体の生徒に伝わるのではないかと思う。

 

性格は――

明朗快活で、織斑同様誰とでも分け隔てなく付き合える姉御肌な頼れる女子と言った感じだろうか。

 

そんな彼女の事を、僕は気にするようになっていた。

 

とかく目立つ彼女の事だから、目につくのは日常茶飯事だけれども、クラスが違うので話したことなど、ほとんど無い。

最初のうちはただの気のせい、目に入るから意識が向いているだけだと思っていたのだけれど、どうやらそうでないらしい・・・・・・

それに気づいたのは最近あった彼女との会話が原因なのだが、思春期の中学生の独り言と思って聞き流す程度にお付きあい頂けるとありがたい。

 

……

…………

それは少し前の長期休暇、夏休みのある日の出来事だ。

 

夏休みの課題をあらかた片付けてしまい、休暇後半の暇を持て余す事になった僕は駅前の書店で、受験用の参考書を購入し自宅へと向かい歩いていた。

その日は、急ぐ理由も無かったので少し遠回りする形で帰路についていたのだけれど、偶然、本当に偶々、人通りの少ない路地裏に目を向けたんだ。

 

「あれは・・・・・・」

 

僕の視線の先、数人の男が女の子を囲むようにして立っていた。

僕は、自然とその方向に向けて歩を進め様子を伺う。

 

「そんな不機嫌な顔しないでさぁ、俺らと遊ぼうぜ」

 

「君が知らない事沢山知ってるからさぁ」

 

「だからっ!友達と待ち合わせしてるって言ってるでしょ!!」

 

男達に絡まれている女の子は毅然にも臆することなく男達に言い放つが、下卑た笑みを浮かべる彼らには意味がない様だった。

運が悪い事に男達と彼女、そして僕以外の人は周囲には見当たらない。

それを彼女を助けられる人物が僕しかいない事を意味していた。

 

「そんな約束破っちゃいなよ」

 

男の一人が女の子の腕を掴む。

 

「やめてっ!」

 

反射的に抵抗する女の子。

その際に女の子を囲んでいた男達の間から、女の子の姿が見える。

ツインテールの髪、可愛らしいTシャツにローライズのジーンズに身を包んだ凰鈴音がそこには居た。

 

「すいません警察ですか!女の子が男の人たちに暴行を受けていてっ!」

 

彼女の姿を確認した僕は、すぐに行動を開始した。

携帯電話に向かって声を上げる。

男達に聞こえるくらいの声量で話す僕の声が、狙い通り聞こえたようで男達は慌て出す。

 

「なっ!テメェ!!」

 

僕の事を睨み、声を荒らげる男。

今にもこちらに飛びかかって来そうで足が震える。ここから逃げ出してしまいたい気分を必死に耐えて男を睨み返す。

 

「おいバカっ、逃げるぞっ」

 

その男に対し、慌てながらも逃げることを指示する仲間。

僕を睨んでいた男は、舌打ちをして振り返り、僕が居る方の路地とは反対側に向かって走り出した。

 

男達の姿が見えなくなり、僕は安心して息を吐く。

 

「あの・・・・・・大丈夫ですか?」

 

僕同様安心したのか、男達が逃げ出すと共に地面に座り込んでしまった凰さんに声をかける。

 

「はい、大丈夫・・・・・・です」

 

そう言って僕に視線を合わせた凰さんの瞳は僅かに潤んでいるような気がする。

それほど怖い思いをしたのだろう。

彼女を立たせるために手を差し出す。

 

「立てます?」

 

首をふるふると左右に動かす形で彼女は答える。

 

「分かりました。暫くここに居るんで休んでてください」

 

怖がらせないように微笑みながら、彼女に告げる。彼女は、頭をコクンと動かして頷く。

僕は彼女の横に、壁に背を預けて止まる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

沈黙が路地裏を包む。

凰さんの様子を伺うが、座り込んで地面を見つめたまま動かない。

余裕がないのであろう。

恐らく、僕が同級生であることも気づいていないと思う。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

特に話題もないこの状況で、僕は彼女を見つめることしか出来ないで居た。

俯く背を見つめ、普段と様子の違うその姿に儚さを感じ、抱き締めたい気持ちにかられる。まぁ、絶対にやらないし、出来ないけれども。

 

そうして沈黙の中過ごすこと数分、サイレンの音と共にパトカーが僕らの居る路地裏に接する道に止まった。

 

ドアを開き、中から男性警官が二人降りてくる。

 

「通報があって来たんだけど」

 

二人の内の一人、割と若い印象を受ける警官が口を開く。

 

「僕が通報しました。絡んでいた男の人達は逃げてしまって・・・・・・」

 

現状を若い警官に説明する。

それを聞いた警官は嫌な顔ひとつせずに僕に笑顔を向けてくれた。

 

「よく通報してくれたね。君のお陰で彼女は助かったんだよ」

 

そう言って凰さんの方に目を向ける。

僕もそれにつられるように視線を動かす。

彼女の元には年配の警察官が付いており、当時の状況を聞かれているようだった。

 

それから暫くの間、その場で調書を作るために、今日の出来事をあらかた聞いた後、警察官の二人は帰っていった。

僕と凰さんはその場に残り、パトカーが消えるのを見送る。

沈黙が再び僕らを包むが、それを凰さんが破った。

 

「あの・・・・・・」

 

身長差のせいで凰さんが見上げる形になり、その上目遣いにくらっと来たが気を取り直して応える。

 

「何でしょうか?」

 

「今日はありがとうございます。貴方のお陰で助かりました」

 

「気にしなくていいよ。当たり前の事をしただけだから」

 

彼女のお礼の言葉に、ありきたりな返答をする。

我ながら無愛想かも知れないと思ったが、言ってしまった以上は仕方ない。

 

「何かお礼をしたいんですが・・・・・・」

 

「いや、そんな、お礼なんて別に」

 

彼女の提案に戸惑う。

別に見返りが欲しかったわけではないし、恩着せがましいので遠慮したいところではあるのだが・・・・・

 

「アタシがそうしたいんです」

 

先程の潤んだ瞳とは違う、意思を感じる眼差しを向けられては断りにくい。

ただ、何かしてほしいということも思い付かないのでその事をありのままに伝えると『なら、今度アタシの家に来てください!中華料理店をやっているんで』と言われて、住所が書かれた紙を渡されてしまった。

とりあえず渡されてしまったものを返すのは失礼なので確認した後、財布の中にしまう。

 

「機会があったら伺います」

 

そう言って返す。

 

「はい!絶対に来てくださいね」

 

僕の返答を聞いた彼女は、惚れ惚れする程の笑顔で笑う。

その笑顔を見た瞬間、胸の鼓動が強くなるのを感じた。

 

「友達と約束してたんじゃなかったんですか?」

 

赤くなっているだろう顔を見られたくなくて、話題を変える。

彼女は今思い出したという表情をして、慌てて携帯を取り出す。

 

「やばっ。もうこんな時間!一夏からメール来てるし・・・・・・」

 

時間は世間でいう所のおやつの時間を過ぎていて、彼女の表情を見る限り、かなり時間をオーバーしているようで、焦っているのが分かる。

 

「僕も帰るから。友達の所に行った方がいいよ」

 

「えっ、でも・・・・・・」

 

「心配してるだろうし。僕も用事あるからさ……」

 

躊躇う彼女を後押しするため、用事もないのに、あると告げる。

 

「すいません、引き止めちゃったみたいで。今日は本当にありがとうございました」

 

そう言って腰を折る凰さん。

嘘の用事で気を使わせてしまい、罪悪感を感じたけど仕方ないよね。

 

「ううん。それじゃあまた次の機会に」

 

再度のお礼に返事をした後、路地裏を後にする為、彼女に背を向けて歩き出す。

十数歩程進んでふと振り返る。

さっきまで凰さんが立っていた場所にはもう誰も居らず、数メートル先に彼女の走る姿があった。

 

「・・・・・・」

 

彼女の走る姿を見つめる。

後ろ姿、それも遠くにある姿を見ているだけなのになぜか体が熱くなる。

彼女の姿が曲がり角で消える。

僕は息を深く吐き、頭を乱暴に掻く。

 

「あれは反則だよなぁ・・・・・・」

 

凰さんの笑った顔を思い出し呟く。

これまでの短い人生で感じたことの無い胸の高鳴りに戸惑いながら、自分の知る知識の中にある言葉と照らし合わせる。

 

「はぁ・・・・・・これが恋ってやつなのかなぁ」

 

気になっていた彼女との思いがけない邂逅で、この日、僕は自分の中にあった恋心を自覚したんだ・・・・・・

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・

なんて少し格好良く言ってみたけれど、ただ単純に好きな子ができたというだけの話で、聞いてもらって悪いけど今のところ特に進展はない。

 

今度、彼女の家の中華料理店に行ってみようかとは思う、行った所で何かあるとは思えないけれど。

 

織斑一夏や友人達と廊下で騒ぐ彼女を見て『あぁ、今日も元気そうだなぁ』なんて思いながらまた僕は一日を無駄にする。

 

いずれ来るに、彼女との突然の別れを知らないままに。

 




いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけましたら幸いです。

それではまたいつか会う日まで!
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