第4話 始まる学園生活
緊張する。
たった一人、見たこともない場所の廊下で待ちぼうけをくらい、教師から呼ばれるのを待っている。
こうなってしまった自分の不運を嘆いて、今すぐここから逃げ出したい気分になるが、逃げ出した瞬間、あの怖い先生に捕まって説教を受ける気がするので実行には移さない。
他所に行きかけた意識を引き戻し、目の前にある。教室へと視線を向ける。
先程に比べて騒がしく、『転入生?』『なんで一緒のタイミングでここに居ないんだろ』と言った声が聞こえる。
担任の教師が僕に対しての説明をしたのだろう。
そろそろだと自分に言い聞かせ、覚悟を決める。
「それじゃあ、入って来てください」
その数秒後に、担任の教師に呼ばれ僕は教室のドアを開く。
瞬間、甘ったるい匂いが鼻を刺激してきて、顔を歪めそうになるものの、表情を崩さないように耐えた。
「えっ!男!?」
「なんで、なんで」
僕の姿を見て騒ぎ出す生徒達、どの席を見渡してみても女の子しかいない。
彼女達を横目に見ながら、教卓の横へと進んで行き立ち止まる。
「先日全国行われた、男子のIS適性検査で新たに適性が見つかりました神原雪人です。この度、皆さんと一緒にIS学園で学習することになりました。知識も技術も皆さんに及びませんが、精一杯努力しますのでよろしくお願いします」
一人一人を視界に納めるようにして挨拶をした後、頭を下げる。
僕的には中々上手く出来た方だと思ったのだが反応がない。
疑問に思って顔を上げると、ほとんどの人が困惑したような顔をしていた。
「真面目そうでいい人そうだけど、何か足りない……」
「男子が来たのは嬉しいけど、織斑君の方が格好良くない?」
「なんかかたいなー」
それぞれ近くの席の子とそんなことを話している。
そういうのは出来れば本人に聞こえないように言って欲しい。
事実織斑君の方が格好良いけれど、流石に面と向かって言われると傷ついてしまうよ。
「はーいはい、事実だとしてもそういったことは本人の前で言ったら駄目よ」
「先生の言葉の方が傷つくんですけど・・・・・・」
苦笑いしながら指摘する。
先生は『あらごめんなさい。私嘘つけないの』とフォローにも何にもなっていない謝罪なのかもわからない言葉を僕に伝えて、その後席に座るように指示した。
ちなみにこの正直な担任の名前は迫田優花、元日本代表候補生の優秀なIS操縦者だ。
優しい花という名前の割には、そこまで優しい性格ではないらしいなんて考えながら、指定された教卓の正面の列の、最後尾の席に腰かけた。
「はい、それじゃあ早速、授業の方を進めましょうか」
テキストを開き、先生は授業を始める。
基礎的なISの知識の記載されたテキストから重要な部分を板書し、それについての解説が行われる。
初歩的な部分ではあったので、特に躓くことなく理解することが出来た。
「ここまでで分からない所がある人は居ますか?」
一区切りついたのか僕達の方を向いて先生が質問してくる。
特に挙手をする生徒もおらず、今のところは皆問題ないようだ。
「神原君はどうですか?」
「今のところ問題はないです。こちらに来る前に渡された参考書に記載されている内容ばかりですので」
「あら、なら平気かな。でも、一応念のために問題を出すから答えてね」
「はい、分かりました」
先生の問題の出題傾向が分からないので不安だが、そこまで難しい問題は出されないはず。
「じゃあ、問題です。ISの姿勢制御の際に使われる慣性の法則をコントロールする機能の通称は何でしょうか」
「PICですね」
「はい。正解です!ちゃんと聞いているようで先生安心しました」
僕の回答を聞いて先生は嬉しそうに頬笑む。
なんだかんだいって気にはかけてもらえているらしい。
無事に正解できたことに安心して、体の力を抜く。
授業も残り数分といったところで、先生もこれ以上進める気はないらしくテキストを閉じる。
「あぁ、そうだ!明日のホームルームでクラス代表を決めますので、皆さん立候補するかどうか、もしくは推薦したい人を考えておいて下さい」
ふと思い出したかのように僕らに告げる。
聞き覚えのない単語ではあるが、ニュアンスから学級委員の様なものかと考える。
すると疑問に思ったのか、女生徒の一人が質問する。
「先生、クラス代表とは一体何でしょうか?」
「えーっとですね。言葉通りクラスの纏め役と思っていただければ平気です。ただ、普通の纏め役と違うのは、当校におけるクラスごとの対抗戦において、代表として出場する義務を課せられるという点があることです」
どうやら、クラスの威信を一身に背負わなければならない責任の重い役職であるようだ。
自分でやるにしろ、誰かに任せるにしろ面白半分では選ぶことが出来ないのだろう、そのために一日考える時間を与えるというわけか、良く考えられているシステムのようだ。
そんなことを考えている間に授業終了のチャイムが鳴った。
「ねぇねぇ、神原くん、神原くん」
授業終了直後、隣の席の女子が話しかけてくる。
「ん?何でしょうか。えーと・・・・・・」
「あっ、ワタシの名前は佐山奏」
「ありがとう佐山さん。で、どうかしたのかな?」
名前を呼べないで口ごもってしまった僕に気づいて佐山さんは名前を教えてくれる。
「いやぁ、ちょっと神原くんに興味があってね。IS学園に来た経緯とかさ」
目を爛々と輝かせて聞いてくる佐山さん。
そんなに凄い話でもなんだけどなぁと思いながらも話し始める。
「そう、あれは今年の二月だったかな・・・・・・」
……
…………
二月中旬、志望校である有名私立進学校への合格が決まっていた僕は、合格者の特権である自宅学習期間を満喫していた。午前中に進学先の高校から渡された課題を一日の目標分終わらせた僕は、自宅のリビングで少し遅めの昼食を食べていたんだ。
いつもと同じようにお昼の情報番組を観ようと思ったのだが、緊急放送とやらでやっておらず、仕方無しに別の局にチャンネルを合わせてみたものの、変えたチャンネル全てが緊急放送を行っていたのだ。
「男性のIS起動を確認かぁ」
表示されているテロップを読んではみたが、特に慌てたりすることはなかった。
この時は、どこかの研究所がそういった発見をしたんだと勝手に思い込んでいたから、見つけた人凄いな位の反応だった。ある人物の名前が読み上げられるまでは。
「たった今、情報が入ってきました。起動させた男性は中学三年生の織斑一夏さん。繰り返します、ISを起動させたのは、中学三年生の織斑一夏さんです」
「へっ!?」
知り合いと同じ年、同じ名前の人物がISを起動したと読み上げられ、思わず変な声を出してしまう。
まず自分の耳を疑い、その後は、ただの同姓同名の人間だと言い聞かせた。
「織斑一夏さんですが、第一回モンドグロッソの優勝者、織斑千冬さんの弟さんのようです」
「あぁ、駄目だ。完全に本人だわこれ・・・・・・」
確定的な情報が流され、知り合いではないだろうという希望は瞬く間に崩れ去った。
「織斑君、今日、受験だったんじゃないの?なんでIS動かしてるのさ」
五反田君から聞いた情報なので間違いはないだろう。
受験の日に全く違うことをしてニュースになってしまう織斑クオリティに愕然としてしまう。
彼の事を想う同級生の女の子も、きっと今頃、愕然としているんだろうなと思いながら、僕は、残っていた昼食を口に運んだ。
その数日後。
政府の意向で、全国でのIS適性検査が行われることになった。
僕らの中学は織斑君と同じで、かの有名な篠ノ之束博士や織斑千冬さんが過去に在籍していて、IS関連の主要人物との繋がりがあったことから、優先的に検査を受ける運びになった。
僕達男子生徒は各々指定された時間に検査場である体育館に集まり検査を受ける。
三年生は受験等の都合もあるので、夕方から時間が割り振られていた。
「織斑君も困ったものだね・・・・・・」
「そうだな。あいつはなんでいつも問題を起こすんだろうな」
「まぁ、一夏だし、仕方ないよね」
上から僕、五反田君、御手洗君の発言である。
偶々、検査場で出会い順番になるまで雑談に興じる事になった。
話題は主に織斑君関連、僕と彼らの認識はほとんど差がなく、織斑君が問題を起こしてしまいやすいというのは共通のようである。
「まぁ、僕達にISを動かせるとは思えないんだよねぇ」
織斑君が動かせたことにも何かしら裏、篠ノ之博士が何かしら関わっているので無いかと思っている僕は、端からこの検査に対してやる気がない。
「相変わらず神原はクールだなぁ」
「そう物事はうまい具合には働かないということだよ五反田君」
「まぁ、そうだよね。誰も彼もが弾みたく、IS動かせたらなんて思ったりはしないよね」
「おい数馬!」
こうして時間を潰していると、先に五反田君と、御手洗君が検査に呼ばれた。
検査終了後は速やかに帰宅と指示されているので、彼らとはここで別れる事になった。
一人で暇を持て余し過ごすこと数十分、人も疎らになってきたところで僕の順番になった。
順番待ちをしている生徒達とは隔離された、体育館脇にある控え室の様な場所に入る。
そこには一機のISと、担当者である数人の人間が居た。
「それじゃあこっちに来て、機体に手を触れてくれる?」
簡単な指示に従い僕はIS、打鉄という機体の前に進み手を触れる。
触れた瞬間に何か起こるということは無かった。
「適正なしですね。もう手を離して大丈夫です」
動くはずはないわよねと言いながら何かの用紙にチェックを入れている担当者。
彼女の興味は既に僕には無いようである。
あっさりと終わった検査に拍子抜けしながら、僕は手を機体から離そうとした。
その瞬間にそれが起こった。
「は・・・・・・れ、ないで・・・・・・」
頭に響く声、次いで機体が発光する。
眩い光に目を瞑り、それが無くなった後に目を開くと、僕の目の前にあった打鉄が消えていた。
「ISが起動した!?」
担当者の声が室内に響く。
戸惑いながら視線を下げると、僕の両手には見慣れない装甲が装着されていた。
徐々に慌ただしくなっていく室内の喧騒を他人事のように思いながら僕はただ呆然としていた。
こうして僕は世界で二人目の男性操縦者になったのだった。
お送りしました第4話いかがでしたでしょうか?
今回はストック分の話がありましたので早めの更新です。
今後は原作登場人物と接触させつつ物語を進めていく予定です。
話の中で、ISの設定や時系列など原作と異なる部分や間違いなどがあるかもしれません。
その際はご容赦下さい。
拙作を読んでくださった読者の皆様に感謝を……
また、お気に入り登録をして下さった方々にも同様の感謝を……