ISを動かしてから数時間後、僕は都内にあるホテルの一室に軟禁されていた。
ここに来るまでの間に見た、大人達の慌てる表情から自分が仕出かしたことの大きさを認識する。
「男が、IS動かすって思ってたより凄いことなんだな……」
ここに来るまでの経緯を思い出しながら、ひとりごちる。
ISを起動させた後、展開された打鉄から降ろしてもらった僕は、別室で待機していたらしい黒服のSPの様な雰囲気を纏う男達に、体育館脇に停車された車に案内され、何も告げられないままに移動を開始した。
いきなりの出来事に不安を感じていると、その表情を読み取ったのか助手席に座る男性が振り返り、僕に話しかけてくる。
「男性操縦者に接触するために、過激な行動に出るものもいるかもしれないので、一時的に君を保護したいのだが問題ないかい?」
世界に現状、二人しか居ない存在に対して、無理矢理にでも接触を図ろうとする者が居るだろう事は納得できたので、僕は首を縦に振った。
「じゃあ、保護するためのホテルに行くね。一度、君の家に寄るから、着き次第必要なものだけ揃えて来て欲しいんだが・・・・・・」
「分かりました」
再度肯定の意を示す。
そこからしばらく自宅への行き方を運転手に説明しながら、車内で過ごし、自宅に車が着いたところで、自宅にある駐車場に車を停めて貰い、僕は家の中に入った。
「ふぅ……」
玄関に入り、扉が閉まったのを確認した後、ひとつ息を吐き出す。
混乱する頭を落ち着かせた後、廊下を進み、階段を登った先にある自室へと入る。
必要なもの、そうでないものを頭の中に思い浮かべながらまずは、それらを入れる為の鞄を取り出すためにクローゼットを開いた。
しまわれた旅行用のドラムバックをクローゼットから取り出して、洋服や、携帯の充電器など生活に最低限必要なものを詰め込んでいく。
学習用の参考書なども併せて持って行こうと思ったが、荷物が嵩張って迷惑をかけるのも悪いと思い止める。
一通り自室にある必需品を纏めた後、一階に降りて、両親の位牌と、二人の写った写真、小さい頃から大事にしていたガラス玉の様な石の入ったオルゴールを持って家を出る。
念のため、戸締りしたのを数回確認して、車に戻った。
「もう大丈夫なのかい?」
十数分ほどで出てきた僕に、助手席に座っている男が聞いてくる。
どうやら、彼らの想定よりも短い時間で出てきたらしい。
「ええ、着るものがあれば問題ないので」
簡単に質問に答える。
助手席の男は、僕の返答を聞くと、運転手に合図を送った。
車が動きだし、景色が流れていき、その景色を眺めながらぼうっとしているとホテルへと着いた。
車両がホテル内の地下駐車場に入り、館内に入るための通用口の前で停車する。
そこには二人の女性が立っていた。
一人は顔見知りで、もう一人は初対面の相手である。
「久しぶりだな。神原」
「お久しぶりです。織斑君のお姉さん」
僕に声をかけたのは、織斑君のお姉さんである織斑織斑さんだった。
織斑さんは、僕を連れてきた黒服の男達に視線を向け、頭を軽く下げると、再度僕に向き直った。
「わざわざすまないな。とりあえず部屋まで案内するから着いてきてくれ」
ここからの案内は織斑さんが行うようで、僕は何も言わずに織斑さんの後に着いていった。
エレベータを使い、ホテルの最上階へ上がる。
部屋の前でカードキーを通し、扉が開けられる。
その部屋は僕がこれまでに見たことのないような広さと、豪華な装飾が施されたスイートルームだった。
「今日からしばらくお前にはここで過ごしてもらう」
決定事項だと、反論をさせない声音で織斑さんはいい放つが、僕は戸惑いを隠せない。
一介の男子高校生が過ごすには豪華すぎるし、ホテルと聞いて、ビジネスホテル位のレベルの場所だと思っていたので、動揺はかなり強い。
「えっ、ちょっと、なんでこんな部屋で」
僕が慌てているにも関わらず、織斑さんは説明は終わりとばかりに黙ってしまう。
仕方なく、名前も知らない女性に視線を向けると困ったような顔をして説明を始めてくれる。
「えーっとですね。神原君には今後、IS関連の検査や、国内の政治家や、研究施設に会っていただく事になっています。その面談の場所として相応しいということと、神原君の精神的な疲労の軽減のために、こちらの部屋で過ごしていただく事になりました」
『すいません』と言いながらペコリと頭を下げる彼女につられ、僕も頭を下げ返す。
「わざわざありがとうございます。ただ、検査や研究員は分かるのですが、政治家というのは?」
「神原君は先に見つかった織斑一夏君と異なり、後ろ盾と言える存在が居ませんので、各国の政府や研究機関が無秩序に接触してくる可能性があります。それを防ぐために、政府が現在、神原君との接触などに対しての取り決めを行っています。そういったルールや、今後の神原君の立ち位置といったものを外務省の方々などから説明をしてもらう形になっているんです・・・・・・」
「あぁ、そう言うことなんですね」
話を聞いて何となくだが理解できた。
織斑君には、ブリュンヒルデである織斑さん、ISの開発者である篠ノ之束博士といった繋がりがあり、手を出しづらい状況が既にできている。
僕はそういったものがない為、取り決めをしなければならないといったところだろう。
多くの人に迷惑をかけてしまっている現状に、申し訳ない気持ちで一杯になる。
「ご説明ありがとうございます。えぇっと・・・・・・」
「自己紹介がまだでしたね。私は山田真耶と言います。IS学園で教師をしています」
「自分は神原雪人です。重ね重ねありがとうございます山田さん」
そう言って頭を下げる。
「いいえ!私は先生ですからっ!教え子になる神原君に困ったことがあったら何でも教えますよ!」
得意気に胸を張って、山田さんは嬉しそうに笑う。
そのせいで、彼女の他人よりも優れている部分が強調され、一般男性が喜ぶか、目のやり場に困るような状態になる。
ただ、僕は、先程の山田さんの言葉の中に入っていた単語の方が気になってしまい、彼女の強調された体の一部分に興味を示す余裕はなかった。
「あの・・・・・・教え子って何ですか?」
「あぁ、伝えるのを忘れていたな。神原、お前のIS学園への入学が決定した。この決定はお前の安全を守る意味合いもあるので、変更は出来ない」
僕の問いかけに答えたのは織斑さんだった。
辛かった受験勉強の日々が、走馬灯の様に浮かんでは消えていく。
「あはははは・・・・・・冗談、ですよね?」
「私が冗談をこんな時に言うと思うのか?」
質問に質問で返される。
出会ってからこれまで、織斑さんが冗談を言っているのを聞いたことがない僕は、否応もなく、それが事実であると理解させられた。
「あぁ、ショックだ・・・・・・」
進学先での充実した高校生活を描いていた、僕の未来予想図が、激しい音を発てて崩れていく。
将来の夢も同じように消えていく。
「あの・・・・・・大丈夫ですか?」
落胆する僕を心配して、山田さん改め、山田先生が覗きこむようにして声をかけてくる。
「えぇ、大丈夫です・・・・・・。色々重なりすぎてショックが大きいだけで」
「すいません。こんなことになってしまって」
「山田先生が謝る事じゃないですよ。僕がISを動かしたことが原因ですから」
頭を下げる山田先生に声をかける。
織斑さんは何とも言えなさそうな顔をしてこちらを見ている。織斑君が最初に起動しなければ、僕がショックを受けることもなかったとでも思っているに違いない。
「まぁ、もう何を言っても変わらないことでしょうし、その内折り合いをつけますよ・・・・・・」
現実をしっかりと受け入れることを決めて、ぎこちなくだが笑ってみせる。
「先生も出来る限り協力しますね」
「あぁ、私も協力しよう」
大人二人の優しい言葉に胸が少し暖かくなる。
何か困ったことがあったら相談しようと決めて、感謝の言葉を口にする。
「ありがとうございます。何かあった時は頼りにさせて貰いますね!」
「はい、喜んで!」
山田先生は満面の笑みを浮かべた後、僕の手を握る。織斑さんは、僕を見て、ゆっくりと首を縦に振っていた。
「それじゃあ、私達は一旦学園に戻る。日程が決まり次第またここに来るから、それまではゆっくりしていろ」
「入学までに読んでおいて貰いたい資料などは、こちらに置いておきますので確認をお願いします」
資料などを置いていった二人は、間もなくして部屋の扉から出ていった。
彼女達の姿が見えなくなり、扉が閉まるのを確認した僕は、持ってきた荷物から、両親の位牌と写真、オルゴールを取り出してテーブルに並べた。
「父さん、母さん。大変なことになっちゃったよ」
二人の位牌に手を合わせ呟く。
両親が無くなってから、僕は二人の位牌に話しかける事が日課になった。
その日毎に話すことは毎回違うけれど、こうやって話すことで自分の中で煮詰まっていた考えや、ぐるぐるとした悩みが消えていくのだ。
今回も同じように、数時間前からの出来事を話していく。
時間が経つにつれ、考えが纏り、感じていたショックが薄れていく。
気持ちが切り替わったと思ったタイミングで話すのを止める。
「ふぅ、今日はここまでかな。父さん、母さんまた明日ね」
取り出していたものを袋の中に戻す。
そのついでに、着替えを取り出してお風呂にはいった後、僕は眠りについた。
次の日からは、面会ラッシュだった。
ニュースで顔を見たことのある政治家に会い、僕の身柄はとりあえず日本が預かる、ただし、IS起動時のデータ等は各国へと渡されるといった事。
世界情勢の混乱と、僕自身の安全のために、二人目の男性操縦者が見つかったということは、報道規制が敷かれ、一般の人にはまだ知らされていないことなどを伝えられた。
研究者のチームに会ったときは、始めにありとあらゆるデータを取られた。
その後、研究所に赴いた際は、僕のIS適性は低く、起動および基本的な操縦程度しか行えないだろう事が分かった。
その他には、他国の要人や、IS企業の代表者との面会、学園で僕の護衛を勤める先輩との顔合わせ等があった。
こういった面会の数々をこなす間、山田先生にISの基本的な知識の勉強を見てもらったりしていた。
こうして僕は、IS学園への入学準備を進めていき、現在に至るというわけである。
「これが僕がここに来るまでの経緯だよ」
佐山さんに話が終わったことを伝える。
いつの間にか僕らの周囲には人が集まっていて、各々が異なる表情をしていた。
その中でも同情の色をしたものが多いような気がするが。
「大変だったんだね・・・・・・」
「やることが多かっただけだよ。あぁ、それと僕の事は公式に発表があるまでは学内の人以外には話さないで貰えると助かるかな」
人の口に鍵をかけることは出来ないが、不必要に波風を立たせる意味もないので、聞いていた人たちには忠告しておく。
「ねぇねぇ、ちなみに本当の進学先ってどこだったの?」
「清苑高校だけど」
話の中にあった高校の事が気になったのか、質問してきた女子がいたので、何も考えずに答える。
「えっ!今、何て・・・・・・」
「清苑高校って言ったんだけど」
「ほんとに!あの清苑!?」
「あのが何を指すか分からないけど、清苑高校が2つないなら想像通りで合ってると思うよ」
「やばっ、すごっ!」
「神原君って頭いいんだねっ!」
「今度、一般教養の勉強教えて!!」
女の子の勢いが凄すぎて引いてしまう。
彼女達が何に興奮していたか分からないので、どうしたらいいのか分からない僕だった。
後々、その清苑高校が国内でもトップクラスの学力を誇り、卒業生の進路が国内に留まらず、世界へと進出している事から、女性優遇の世界にあってなお、通学する男子が女子人気ナンバーワンの高校であるということを知り、彼女達の行動に納得した。
ただそれは、未来の僕の話であり、今の僕は絶賛戸惑いの最中なのである。
このままでは勢いに殺されると思った時、救いの鐘の音である、チャイムが鳴り響き、急死に一生を得たのだった。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「それじゃあ今日はここまでです。入学初日で皆さん疲れているでしょうから、しっかりと休んでくださいね」
本日最後の授業が終わった。
あれからも内容で躓く事はなく、スムーズに授業を受けることができた。
ただ休み時間に女子の質問攻めに会い、そちらの方で疲れてしまった。
さらに、当初予定していた織斑君に挨拶に行くという目的が達成できておらず、この後も予定があるので会いに行く事が出来ないため、明日移行にチャンスを見つけて会いに行かなくてはならない。
「まぁ、まずは予定を終わらせようかな」
僕は指定された場所へと向かうためにたちあがり、帰り支度の済んだ鞄を手に取り教室を後にした。
お楽しみいただけましたでしょうか?
今回は、主人公の学園入学までに起きた出来事をまとめた形になりました。
楽しんでいただけたのであれば幸いです。
お気に入り登録をしていただいた方ありがとうございます!
今後も拙作をよろしくお願いいたします。
ではまた次回……