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~霊夢~
半日ほど幻想郷を飛び回り、ようやく件の妖怪を見つけることができた。
他の妖怪の返り血で鎧を真っ赤に染めた鎧姿の妖怪は、右手に持った剣を構えるでもなく静かに私を見つめている。
「で、話す気が有るか無いかの確認を取りたいんだけど。
もしその気がないというのなら、痛めつけてからもう一度同じことを聞くけどね」
鎧の妖怪からの返答はない。私は内心で小さく舌打ちをした。
血の海に沈んでいる妖怪たちは、妖怪としての格は高いわけではないが凶暴性、残虐性共にこの森では群を抜いて高く、危険な存在だった。
それらを複数相手に勝利し、また鎧の妖怪の体に傷跡一つないところを見ても圧倒的な勝利で場を収めたのだろうと推測される。
「……ふん。喋る知性も持たない妖怪ってこと」
けれど私の心と体は、目の前の脅威に対して微塵も臆したりはしなかった。
自分が持つ力への自信と誇りがある。またその力を振るうことへの責任も承知している。
そしてなにより、博麗の巫女であるという自覚がある。博麗の巫女は、妖怪たちから人間を守る最後の砦だ。その砦が貧弱であっては話にならない。
故に、この程度の相手に負ける道理はない。
「恨むなら、軽率な行動をした過去の自分を恨むのね」
空中に札を展開し、攻撃と防御の両方の布陣をとる。
魔理沙には、追い詰めた標的が逃げ出した時のために少し離れたところで待機してもらっている。
つまらない役割に愚痴を吐いていたが、彼女自身も自分の役割の重要さは理解してくれているだろう。
犠牲が出てからでは遅いのだ。先の一件では幸運なことに被害者は出なかったが、次があるとすれば────。
「だから、ここで仕留める……!」
霊力によって形を成したエネルギーの塊が、無数の弾幕となって空を覆い尽くした。
すっ、と腕を振り下ろすと同時、弾幕の嵐が目前の敵をうち滅ばさんと迫った。
~other~
爆撃にも似た攻撃の嵐の中で、不死は左手に紋章の盾を構えながら地を駈ける。
彼が愛用しているこの盾は、魔法やその他の非物理攻撃に対し高い反射性を誇る。次々に飛来するエネルギー弾を盾で防ぎ、またあるときはロングソードで切り裂きながら突破口を探していた。
空に浮かぶ少女の口ぶりでは、どうやら自分を妖怪だと認識しているようだった。まぁ不死という人から外れた身であるため、似たようなものであることは否定できないが。
瞬間、エネルギー弾の隙間から一枚の札が飛来し、不死の左腕へと張り付いた。札が強烈な光を放ち、爆発。衝撃は鎧を貫通し、不死に確かなダメージを与える。
さらにその衝撃によって、盾が吹き飛ばされてしまった。その隙を見逃さず、少女は次々にエネルギー弾を形成し、弾幕はさらに濃いものへとなっていく。
「……!」
咄嗟に己のソウルから新たな盾を取り出す。塔のカイトシールド、こちらも不死が昔から愛用してきた盾であるが、魔法のカット率は先ほどの紋章の盾に比べてはるかに劣る。
エネルギー弾を防ぐ度、盾が悲鳴を上げる。金属の割れる音と共に、盾の表面に亀裂が走った。
とうとう耐え切れず、不死の体が大きく宙を舞った。背中から地面に叩きつけられ、ごろごろと転がっていく。
「これで終わりよ」
空に浮いていた札に、霊夢が手をかざす。数にして百を超えるだろう札はそれぞれが共鳴し合い、光を放つ。
刹那、全ての札から眩い閃光が放たれた。一つ一つはか細く、弱々しく見えるそれらは空中で一つになり、巨大な光の濁流へと変貌した。
不死はそれを見て、あの光が直撃すれば死を迎えると悟った。まぁ、死んだところでまた生き返ることになるのだろうが。
それでもやられっぱなしは面白くない。不死は膝をつきながら起き上がると、手元に月光剣を具現化させた。
魔力の結晶で出来た刀身が、翠色の光を放ち始める。それに合わせ、不死は大きく剣を振りかぶった。
轟、という音を立てて、月光剣から放たれた魔力の波動が迫り来る光の濁流に衝突した。
最初は拮抗していると思われていた両者の力は、やがて翠色の波動が押し始めた。
「っ、嘘……!?」
その光景を見て、霊夢は珍しく表情を変えた。
まだあんな奥の手を隠し持っていたなんて、と唇を噛み締める。
もしこれが返されたら、あの魔力の波動を受け切る自信は、あまりない。
頭をフル回転させながら、この状況をどう打破しようかと策を練っていた、その瞬間。
ふと、押されていた感覚がなくなり、光の濁流が力を取り戻した。
「いったい何が……」
見ると、先ほどまで霊夢が放った光に対抗していたはずの翠色の光が消えている。
そして障害を失った光は一直線に不死の元へ────
「あいつ……!」
不死は月光剣を地面に突き刺し、腕組みをしながらただ迫る光を待っていた。
その光景を見た瞬間、霊夢は気づいた。勝たせてもらったことに。
そして着弾。爆発。地面に大きなクレーターを作りながら、光の濁流はそこにあったもの全てを飲み込んだ。
砂嵐が吹き荒れ、視界が霞む。霊夢が目を開いたとき、そこには何もなかった。
あの距離から逃げることは不可能のはずだ。おそらくは消滅したのだろうが……。
「こんな勝ち方、納得いかないわ。
博麗の巫女が、妖怪に手を抜いてもらったなんて……納得できるわけないじゃない!」
握り締めた拳から血が流れる。こんなに感情が荒ぶるのはいつ以来か。
「もし生きていたなら、次こそは私が勝ってみせる」
三度、先ほどまで不死がいた場所を睨みつけ、霊夢は反転して帰っていった。
途中で霊夢を待っていた魔理沙は、見たこともないほど不機嫌な霊夢の様子を見て、生きた心地がしなかったとか。
とにもかくにも、これにて不死異変は終了したかに思われた。
しかし……不死が幻想郷に本当の意味で大きく関わってくるのは、これより少しだけ経った後の話である。