OVER SHADOW !   作:みころ(鹿)

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誤字じゃないです(とりあえず)
いやー・・・ユーチューバーになろうとしたりTRPGしようとしたり実な多忙な2週間だった(ニッコリ)
あー・・・もうこの糞クオリティ治せるはずなんだけどなぁ・・・やる気というか深夜テンションというか。





 12 義足の魔女(前編)

・・・

 

 

鬱蒼とした森。

影は落ち、湿気で苔が育ち、枝は入り組んで来る者を拒む。

どこかからカラスの鳴き声が聞こえ、不安で足が竦む。

 

…さながらメルヘン世界に登場する「魔女の住む森」のようだ。

 

邪悪にして暗黒。

魔女のテリトリーである森は、邪悪として扱われる魔女そのものを体現している。

静かで、ゆっくりとしていて…肌をぞわぞわと蜘蛛が這い上るように、瘴気が廻っている。

 

 

そしてメルヘンといえば…森の中を少女が駆ける、ともなれば最高だ。

 

 

魔女の領域から逃げる少女、追いかける魔女。

じりじりと迫る魔女の手から息も絶え絶え少女は駆け、恐怖しながら逃げ続ける。

入り組んだ枝が姿勢を制限し、水気を含んだ苔が滑り足元を制限する。

不快感と恐怖が背中に這いより、少女の身体から漂う死の匂いは濃厚になっていく。

 

それでもなお少女は逃げ切る。

 

陰鬱な森の切れ目は見え、光が差し込んでいた。

森の匂いが太陽の匂いに変わり、希望が生まれる。

後ろからは魔女の残念そうな溜息が聞こえ、追走を諦めた邪気が引いていく。

 

 

私は、逃げ切れたのだ!――今まで死の恐怖に震え、怯えた表情をしていた少女が初めて少しだけ笑顔を見せる。

 

この地獄を終わらせるため。

希望を胸に抱き、少女は足を早める。震えは止まり、助かるという思いが段々と確信に変わっていく。

 

 

そして森は終わり、眩い光の中に最後の一歩を――

 

閃光が走る。

 

――少女は膝から下が無くなっている事に気がついた。

 

 

どちゃり、という音と共に支えを失った身体が地に落ちる。

魔法によって切断された足が強烈な痛みを訴え、切断面からはドプドプと血が流れた。

勢いよく流れた血が血溜まりを造り少女の身体を包む。

 

…だが、光は目の前だ。

少女は助かりたい一心で、光に血まみれの腕を伸ばす。

再び震え始めた手で地面を掻き、這って森から出ようとする。

救いは目の前にあるのだから。

 

 

――しかし、「足が掴まれる」。

 

 

石のような、氷のような巨大な手が、少女のちぎれた太腿を握り尽くすほど掴んでいた。

それはドクドクと流れ続けていた少女の足の流血すら止めた。

 

そして少女は辺りに「また」邪気が流れている事に気がつく。

魔女の気配が濃厚になり、悪寒で少女の身体は震え始めた。

 

嘲笑いのような押し殺した哄笑が聞こえると、それと同時に少女の身体は引きずられ始める。

巨大で邪悪な手はゆっくりと、少女を引っ張る。

…まるで希望を長く見せるようにする、その為に。

 

 

それでも少女は希望に向かって手を伸ばす。

暖かい光の中に、救いの中に入る為。血で滑る指を地面に突き立てる。

 

 

…だが熱が引く。

 

 

前に出す腕に入れる力も、地面に引っかける指に込める力も…熱量が足りず力が抜けていく。

そして抵抗が…無くなる。

 

 

――少女の身体はズルズルと引きずられていった。

 

 

引きずられた跡には、血の道筋が出来上がっていた。

 

生臭い臭いが辺りに充満し、吐き気を催す。

瘴気が肌をぞわぞわとくすぐり、気持ち悪さが全身を包んだ。

掴まれた足が潰されそうになり、激痛で顔が歪む。

霞む視界はもう光しか見ることは叶わず、僅かな反射しか感じ取ることは出来なかった。

 

 

――嘘だ。少女は不思議と落ち着いていた。

 

 

もう彼女は冷たさしか感じておらず、痛覚は死んでいた。

虚ろながら視界はハッキリとしていたし、希望は「見えて」いた。

 

…しかし圧倒的に「欠けていた」。

恐怖で思考は制限され、胸には「希望」ではなく「絶望」が満ちてしまっていた。

 

故に少女は「一つ」だけしか気がつけなかった。

 

 

魔女は自分に「わざと希望を抱かせたということ」しか。

 

 

…恐らく魔女は…いつでも足を斬れた。

それでも魔女は少女を見逃した、希望の目前までわざと逃がした。諦めたように溜息を

そして少女が出口を目の当たりにし希望を抱いたタイミングで、それを刈り取る。

逃げられると思ったの?…と。

魔女の手から逃げていたのではない、魔女の手の中で逃げていたのだ。

 

希望を抱いた後の絶望は…美味しいから。

 

少女はそれに気がついて――何も出来ない。

死を覚悟し、恐怖し、身体が震える。

 

 

 

そして少女は手に引っ張られ、森の闇の中に消えていきましたとさ。

 

 

 

おしまい

 

 

・・・

 

 

「で、この魔女ちゃんどうするっすか?」

 

「さぁ…?」

 

「た、助けて!命だけは!」

 

 

ナザリック地下大墳墓から出発してから十二時間程度。

法国まで距離の五分の二程度をサナ達は踏破していた。

未だ深い森の中ではあるが、遠くに見えていた山脈も今では目前にまで迫っており木々の合間からその山肌が見えていた。

曇りということもあり辺りは大分暗くなっており、人間ならば一寸先は闇であった…人間ならば。

 

 

そして先行していたルプスレギナとサナは「魔女」を捕まえた。

 

 

…数分前、ルプスレギナは魔力を検知したと言った。

距離にして100mくらい前方から攻撃的な魔力を感じ、ルプスレギナはサナに相談する。

そしてこのまま攻撃魔法を放たれたらサンコに当たるやも、とルプスレギナに言われたサナが単独にて撃破に向かった。

 

そしてサナは野太刀を抜き、殺気を放ちながらルプスレギナに指定されたポイントに走る。

 

…だがそこには完全に戦意を失った格下の敵がいた。

それに困惑したサナはどうしていいかわからず…とりあえず刃を押し当てながら髪を掴み、ルプスレギナの元に引っ張り戻ってきたのだった。

 

 

「はぁ…はぁっ……」

 

 

サナの足元で刃を首元に当てられている魔女は脂汗をかいており、荒い息をしていた。

…それに死の恐怖に怯え、震えていた。

 

 

「とりまサンコ様が来るまで保留で良いんじゃないっすか?判断仰ぎましょうっす!」

 

「そうね」

 

 

そんな魔女の様子に特に何の反応を示さず会話する二人に、魔女は更に恐怖する。

そしてサンコという単語が人名だと気がついた。

 

…まず刀を持った巨女が()()現れた。女は凄まじい殺気を出しており、剣圧で足が竦んだ。

腰が抜け、その場にへたり込む。

すると女は困惑といった感じで首を傾げ、自分の髪を掴んで引っ張っていった。

 

恐ろしかった。今までの常識が覆された気がした。

 

そしてその恐ろしい女と仲間が様付けするサンコという人物…もはやスケールが大きすぎて、魔女は震えることしか出来なかった。

 

 

「サンコ様―!捕物っすー!」

 

「…はぁ?…今行くー…」

 

 

ルプスレギナは振り返ると、大声でサンコを呼ぶ。

すると彼方から、微かな声で返答が聞こえた。

 

姿は見えず、声音に恐ろしさこそは感じられないが、今から来るという予感は確実にした。

 

…魔女は計算する。

声の主であるサンコという者が後何分で到着するか、姿は見えず気配は遠い…足場の悪い森の中で長い距離を移動するには長い時間を要する。

 

そしてそれが魔女の余命となるだろう。

恐ろしい者が近づいてきており、後どのくらいの時間で到着するかは解らない…。

 

 

だが「そいつ」が到着してしまったら…常識で考えれば魔女の生存確率は限りなくゼロに近くなるだろう。

 

ルプスレギナがサンコに呼び掛けてからまだ数秒と経っていないが、残りの時間はそう残ってはいない。

そしてその残り時間までに魔女は逃げなければ…死ぬ。

 

 

(何をすれば…!?)

 

 

どうすれば逃げられるのか。

現在自分の首には巨女の刀がかかっており、少し動かすだけでするりと首が落ちてしまいそうだ。それに先程の殺意…仮に刃から逃げれたとして、瞬間殺意を放たれ足が砕けてしまうだろう。

それにもう一人の赤毛の女…どうやら巨女の仲間のようだが、殺気などは出していない。

しかし仲間というならきっと同じくらい強いはずだ。

 

…ハッキリ解る、状況は最悪だ。

遥かに格上の化け物二人に捕らえられ、そしてこれから更に恐ろしい化け物が追ってくる。

刻一刻とタイムッリミットは迫って来ており、その合間に逃げなければならない。

これを絶望と言わずしてなんと呼ぼうか?この状況で希望を抱ける人間はそうそういない。

 

だが魔女とて既に「人ならざるモノ」だ。

一般人の体験できないような摩訶不思議を体験してきたし、とっくのとうに人間の精神構造とはかけ離れた。

 

 

魔女は最大限恐怖しながらも、最大限冷静に逃げる方法を考え始めた。

制限時間を考えながら。

 

 

――だが「制限時間など無かった」。

 

 

ルプスレギナの呼び掛けた方向の森の影から「液体粘状の化け物」が出てきた。

身長2Mはあろうかというドロドロと溶ける人型の魔物。

見ているだけで心を奪われそうな、深淵を覗き込むかのようなそんな心地。

魔女は危機的状況にも関わらず、スッと魂を吸い込まれるかのように意識が遠くなった。

 

…魔女の失敗は一つ。

 

遠くから、ここまで来るまでの移動速度を「人間基準」で考えてしまったこと。

故に「猶予」が「ある」と錯覚した。

 

実質「数秒」、無理難題を遂行するのにその時間は少なすぎた。

 

 

(あぁ…)

 

 

魔女は理解する。

助かるなんて希望はどこにも無いということを。

死という事実が頭をガンガンと揺らし、絶望感が濡らすように染み込んでいった。

 

魔女はそれが解り――何もできない。

死を覚悟し、膝が震え、地に伏して影の化け物を見上げた。

 

 

そして化け物が声を発した。

 

 

・・・

 

 

「――つまり報・連・相は大事、業務進行及び事務関係を補佐してもらうシズちゃんにはそれだけは押さえてもらいたいんだよねぇ」

 

「…かしこまりました」

 

 

時間は魔女の前にサンコが現れる十分ほど前に戻る。

サンコとシズの二人は、先行するサナとルプスレギナの十m程後方を歩いていた。

 

…そしてサンコは歩きながらシズに様々な事を教えていた。

 

 

「まぁ今回は全員動くし、足で稼ぐわけだから報告書がメイン。水質調査地盤調査…成分調査とかだし書き込むことは多い。…まぁその点地図の作成はマッピングシステムをシズちゃんが持ってて良かったわ」

 

「…ありがとうございます」

 

 

つまるところシズは「スーパーコンピューター」を内蔵している。

…というのは流石に冗談だが、その身体はかなり有能だ。

 

 

例えばサーモグラフィーを内蔵した瞳は、映像記録と距離予測ができる。

本来ならばスナイパーライフルで狙撃する時に用いられる機能だが、サンコの命令によって「応用」することになった。

 

その新しい用途は「地図製作」。

 

シズを中心に半径1kmの範囲を瞳で観測、保存することで地図を作ることが出来る。

高低差、木、洞穴などの構造上、地形などをサーモグラフィーで透視し、データとして保存する。それを元に地図を作成する。

 

…まぁ流石に印刷などの機能は付いていない為手書きということになってしまうが。

 

 

それにもう一つデメリットがある。

 

 

それはデータ容量が小さいということだ。

流石にこの地図製作が本来の用途ではなかったからか、一日中歩き続けてマップデータ収集を行えばショートしてしまう程度のようだ。要実験。

 

だからサナとルプスレギナには伝えていないが我々の移動は「日が昇ってから日が落ちるまで」の期間に限定されてしまうだろう。

つまり人間レベルに落ちる…昼間の移動速度が異常なため人間基準ではないが、夜間の移動は原則しなくなるだろう。

まぁ夜は索敵能力も落ちるし理には適っているが。

 

とはいえ十分すぎるほど便利だ。

正直なところ今回の旅を始めようと計画した際に真っ先に思いついた目的が「地図製作」だった。

やはりかの黒船のように攻め入るにも占領するにしても地図は必要…重要だろう。

 

 

だが悲しきかな、ナザリックに測量なんて技術は無かった。

 

…ユグドラシルに測量士という職業は無い、というかゲームなのだから必要が無いというのが正しいのだろうが。

 

 

しかし全てが「現実」となった今、「応用」という技術が使える。

 

 

例えば水を吐き出す能力、と電気を出せる能力を持つシモベがいるとしよう。

…普通の人間ならば水をかけた後感電させるという合わせ技を思いつくだろうが、その流れが技として確立していなければ、シモベは偶然以外にはその行動をすることはないだろう。

 

自分で測量技術を学習?…知らない子ですね。

 

それに今はシズがいる。

…能力を聞いたときまさか、とは思ったが「応用によって」案の定測量に近い事が出来た。

一応それが解ってからここまでデータ収集はしているが、横2kmの範囲で地図データを集めることが出来た。

…まぁ何に必要かは解らないが一応。

 

 

「纏めたデータはナザリックに転送…@アルベドでいいかな。まぁそれは俺がやるけど」

 

「…?…では私は何をするのでしょう…」

 

「んー…データの書き込み」

 

「…はい、了解しました」

 

 

応用…合わせ技。

ゲームとは即ち限られた可能性の中で模索することだ。

ユグドラシルは無限大の可能性を提唱し、事実人類で模索不可能な域の可能性を創り出した。

…だが所詮「0」と「1」だけで構成された世界に可能性はそこまでない。

 

その点この世界は「無数の原素」で構成されている。

可能性は無限大、「今まで出来なかった事が出来るようになる」ということが十二分にありえる。

 

そういう意味でユグドラシル運営はこの世界においてのみ無限大の可能性を実現できたといえるだろう。

…あれ…核心ついた?

 

 

まぁつまりこれから強くなるためには「応用」が重要なのだ。

…かなり例えが強引のような気もするが。

 

 

そして一度会話に区切りがついたと判断したサンコは次の話題を作る。

 

 

「それじゃ次は何を調査するかだけど――

 

 

「…サンコ様―…!…捕物っすー…!…」

 

 

――と、先方から高めの声が聞こえた。

声音的にルプスレギナのようだが…?

 

 

「はぁ?…今行くー!!」

 

 

捕物…つまり罪人を捕まえたという意味の言葉にサンコは面食らいながら返事をする。

一瞬大声で辺りに気づかれるのでは?という考えが頭をよぎるが索敵係りのルプスレギナがそれを破るのだから問題ないだろう。

 

…しかし捕物…?…罪人…いや、言葉の文だろうか?恐らく語呂だろう。

だとするなら敵性生物を捕らえたということだろうか?

まぁ言葉の端々に余裕が見られるうちは大丈夫だろうが…?

 

 

「んじゃシズちゃん行くぞよ」

 

「了解致しました」

 

 

とりあえず行ってみない事には解らないとサンコは覚悟をしてシズに告げる。

その意図を汲んだシズも頷き、少し背負っているリュックサックの位置を直した。

 

 

そして二人は小走りに走り始めた。

 

 

正確にはサンコは水平移動な訳だが10m程を一気に駆け抜ける。

枝や葉が体に当たるのをお構いなしに二人は疾風の動きで走ると10mなど一瞬で埋まり、僅か数秒でサナ達のいるであろう場所になっていた。

 

 

そこは特に何の変哲もない森の一部だった。

木々が育ち、その狭間からは夕日で赤くなった空が見える。

 

…あえて奇妙な点を挙げるなら、ここから先の森から唐突に魔力が「無くなっている」ということだろうか?

 

 

そしてそこにはサナとルプスレギナが立っていた。

ルプスレギナはどこか楽しそうに、サナは無表情に立っていた。

だがサナは刀を抜いており、気を抜いてはいないようだ。

 

そしてサナの刀の先には「カラスのような女」が項垂れていた。

 

鴉羽のマントを羽織り、漆黒の皮のブーツを履く。

カールした髪には艶があり、その隙間からは緑色の目が見えていた。

見た目の齢は二十歳かそこらであり、服の隙間から見える肌は透き通るように白かった。

 

正しく「妖艶」。

そこには化け物のソレと解る妖しさがあるが、それを上回るほどの危険と解っていても手を出さざるを得ないような艶やかさがあった。…あるいは危険だからこそ手を出すのかもしれないが。

 

 

しかしその女は今、その美しい顔を歪めこちらを見上げていた。

…恐怖によって。

 

 

(捕物っていうか…魔女?)

 

 

まずその容姿をみて真っ先に思いつくのが童話で描写される魔女だ。

使い魔として鴉を使役し、魔法で人を殺す。

 

邪悪にして凶悪な存在…そしてユグドラシルではモンスターとして登場した。

 

(魔女ってPOPすんのかなぁ…)

 

POP、つまりは自動生成。

モンスターは基本、既定のマップ上に周期的に現れる。

…まぁこれはもはや説明する必要はないだろうが、つまりNPCであり敵であるモンスターはプレイヤーに倒されるために「生成」される。

 

 

そして恐らくその設定(システム)はこの世界では…作用していない。

 

 

ゾンビなどアンデットは特殊だが、どうやらそれ以外の大多数のモンスターは普通の動物よろしく生殖によって繫殖する。

つまり「プログラム」から「自我を持つ生物」に昇華できた…というわけだ。

 

 

だが問題は魔「女」。

レズでは子供は出来ない、ホモなら出来るが…ん、何の話だ。

 

つまりモンスターとしての魔女はどうしたら繫殖できるのか?という話だ。

同じモンスターとしての魔法使い…はユグドラシルにはいない事を鑑みるに同族での交尾は望めない。

しかしPOPできない以上、その数は増える事は無い…?

 

 

…可能性は三つ。

 

 

一つは他種族の精で妊娠すること。

自然界では滅多にないことだが、構造上人間と酷似している為卵子なども普通に存在しているだろう。故に人間の精があれば繫殖できるのかもしれない。

 

二つ目はそもそも繫殖行為を行う必要が無いという可能性。

寿命という概念が無く、不老不死。世界の始まりから終わりまで数が減ることなく存在しているのかもしれない。

事故死や他殺はあるかもしれないが…いや、全体数が解らない以上変な憶測はするべきでは無いか。

だがその場合初めにこの世界にどうやって魔女が誕生したかは気になるが。

 

 

…そして三つ目は――

 

 

「んー…取り敢えず状況を説明してくんない?」

 

「畏まりましたっす!」

 

 

百考えるより、一訊いた方が早い。

予測しておけば精神的動揺は無い、が自分のモットーだが今回は素直に尋ねた方が早いだろう。

 

…そして尋ねられたルプスレギナはビシッと敬礼すると、答えた。

 

 

「先刻現地生物の匂いを検知!魔力が感じられたので攻撃かなと思い取り急ぎひっ捕らえたっす、オーバー!」

 

「ほーん…」

 

 

確かに魔女ならば魔法などによって遠距離攻撃ができるだろう。

そして無差別に攻撃するようなタイプであれば、こちらの戦力を図る前に詠唱なりなんなりを始めてもおかしくは無い。

 

…それに今の恐怖に怯える様子を見るにそれは正しいように思えた。

 

 

だが可能性として「囮」ということもありえる。

 

 

わざと発見され、弱者のフリをして油断を誘い奇襲を仕掛ける。

確実に一人二人は殺せるが、こちらの全滅の可能性は限りなく高まるだろう。

 

であるならば…

 

 

「ルプスレギナとシズ、二人で周囲の警戒」

 

「かしこまりっす!」

 

「…かしこまりました」

 

 

ルプスレギナは敬礼していた右手を元気よく挙げ、頭を大きく下げたシズはリュックサックに取り付けられていたアサルトライフルを外し、腰に付けたポーチから何個かパーツを取り出すとアサルトライフルに取り付けた。

 

そしてサンコの「上を指さす」命令に従い、高く伸びた「杉木の上」跳躍して消えた。

 

 

「次にサナ、大上段。そっちの方が袈裟に斬りやすい」

 

「かしこまりました、主」

 

 

サナは刀を持っているためお辞儀が出来ず頷くと、刀を頭の上に構えた。

…振り下ろせば魔女の身体が縦に斬れるように。

 

 

「おい」

 

「ひぃっ…!」

 

 

そしてサンコは最後に、未だ歯の根の合わない魔女に声をかけた。

声をかけられた魔女はブルブルと震えながら、異様に開いたり閉じたりしている瞳孔をサンコに向けた。

 

そんな様子をサンコはじっくりと観察しながら「命令」した。

 

 

「立て」

 

 

魔女は現在苔の上で地に伏せており、その身を震わせている。

それが演技か否かは解らないが、最大限の警戒をしても罰は当たらないだろう…というか罰が当たるのが怖いのだが。

 

…そしてサンコの命令を受けた魔女は、立てという命令に一際大きく震えた。

 

顔からは血の気が完全に引き、ピクピクと痙攣する瞼がかなりの本能的恐怖を受けていることを教えていた。手足はがくがくと震え、強く握りしめた手は地面に生えた苔を抉っていた。

 

 

そして「何と」立とうとした。

 

 

未だ力の入らない足を地面に引っかけ、震える腕で身体を支える。

汗か唾液か解らない物が地面に落ち、生きるか死ぬかのような必死な形相が辛さを物語っていた。

 

(んー…真意?)

 

最適の話をしよう。

もしこの「魔女」が「囮」だとするならば、サンコの命令を受けた時点で「手間取る」というのが最適解だ。

時間稼ぎすることで仲間の到着を待ったり、奇襲を仕掛けるタイミングを計りやすくできるからだ。

 

だが魔女はそれを選ばなかった。

 

何故、その訳は?

 

A.死にたくないから。

強大な敵の前になすすべなく、ただただ要求を呑む…反感を買って殺されないように。

 

 

(ピロリろりーん!サンコ の 魔女 への 警戒が 解かれた ! …ってとこまで計算してまでやってんなら策士だが)

 

 

飽くまでサンコは冷静、だが今までの魔女から得られる情報を「素直に」集約し結論を出すと自分の思考は「魔女に危険は無い」という結果を出す。

事実、今立ち上がろうとしている魔女からは大した魔力も感じられないし、装備が強いとかそういう訳じゃない。

 

…ただの弱者かもしれない。

ただそこにいたのを、ただ囮と勘違いして、ただ無闇に警戒してしまっただけなのかもしれない。

 

 

――と、そう思わせる。

 

 

パーティー内で一番弱い者を囮に使い、油断を誘い戦力を誤認させる。

…定石だ。

 

つまりPvPにおいて、弱いから油断するということはあり得ないという事なのだが…。

 

 

(最大警戒―…)

 

 

と危険性を再認識しながら見ていた視界の隅で、魔女は順調に立ち上がっていた。

ブルブルと震えながら、猫のようにゆっくりと身体を伸ばして…涙を零しながら立ち上がった。

 

…そして立ち上がった魔女は神に祈るかのように手を胸に当てる。

涙の流れた跡が軽く赤くなり、固く閉じられた眼は恐怖で竦んでいた。

 

 

「ちゃんと立て、そして手のひらを見せろ…後舌の裏もな」

 

「…は…は、はい…」

 

 

かなりどもりながら魔女は頷き、サンコの命令に従った。

気をつけのように背筋を伸ばし、両手を挙げて手の内を見せる。口を大きく開けると舌の根を見せた。

 

…この時のサンコの真意は二つ。

 

まず一に「身体検査」。

基本的ながら何も持っていない事の確認だ。何か隠し持っていられても困る。

…それに昔見たスパイ映画で舌の裏に剃刀を隠し持っていたのを思い出した。

 

そして二つに「詠唱阻害」。

ぶっちゃけ後付けだがもしこの女が魔女だとした場合、「魔術詠唱」を用いる可能性はある。そしてもしそうならば舌を元に戻すというワンアクションで殺すことが出来るだろう。

 

 

…サンコはじっくりと何も持っていない事を確認するとひとまず頷き、次のフェイズに移行する。

舌を上げたまま「尋問」は出来ないのだから。

 

サンコはゆっくりと手を正面に立つ魔女の方向に持ち上げる。

 

 

そして――

 

「!?」

 

――魔女の胸を掴んだ。

 

 

「ぇ…ぁ…!?」

 

 

舌を上げ続けなければならない魔女は驚きによる声も出せず、舌のもつれたような声しか出せなかった。

そして瞬間的に慰み者にされるのかという恥ずかしさと、本能的恐怖を感じるもの「そのもの」に触られた衝撃で涙を零した。

 

 

「サナ、集中力を乱すな」

 

「…はい、申し訳ございません」

 

 

胸を揉んだ事に驚いたのかサナの剣先がぶれる。

しかしサンコが諫めたからかすぐに迷いを断ち切った。

 

…というか普通、いきなり主人が理由を説明もせず他の女の胸を揉んだら驚くものである。

超常識的に考えてサンコの行動は常軌を逸していた。

 

 

しかし理由が無い訳じゃない。

 

 

――ヌルル。

 

 

「!?」

 

魔女がまたも驚く。

両目を見開き、相貌を強張らせ驚愕する。

 

しかし今度は先程の驚きとは明らかに違っていた。

 

先程の驚きが驚きと恐怖の半々だとするならば、此度の驚きは恐怖を驚きが塗りつぶしたかのような驚きを持っていた。

 

 

その理由は自らの胸の上を「這った」液体。

 

 

「もう舌は下ろして構わない…あ、手はそのままな」

 

「…!」

 

 

未だ驚いている魔女は自らの胸の上を蠢く「ソレ」を眺める。

不定形の「ソレ」は主から離れてもなお、独りでに動き続け「鼓動」を探す。

そして魔女にとっての心臓がある左胸を覆うように張り付いた。

 

――液体粘状の「ソレ」は。

 

 

(位置はここで良い…()()()も何時でも打ち出せるし)

 

 

液体粘状の影は、液体が本体である。

本体は人型のような(カタチ)をしており、基本それを壊すような事はしない。

 

だが人型を守らなくてはいけない訳ではない。

人型であるが故に液体粘状の影という訳でも、液体粘状の影であるが故に人型という訳でも無い。

 

…ただ基本(ベース)となったモノが人間だったが為に人型でいるというだけに過ぎないのだ。

 

 

そして液体であるというのなら「分離」することもある意味一つの(カタチ)である。

…否、(カタチ)が無いからこそ「分離」が可能なのだ。

 

 

しかして前者も正解、後者も正解。

両方が正解にて、互いが互いを否定するとなれば――

 

――「矛盾」しかあるまい。

 

 

 

つまり、そもそも液体粘状の影とは「矛盾」した存在である。

故に分離もできるし、(カタチ)も持てる。

 

 

 

しかしそれを身体とするサンコの精神はどうか?

無論元人間、矛盾などしていない。

 

当初はそれに困惑し、大分手間取った…というか現在進行形で手間取っている。

それは旅の目的の一項目に加えられていることだが、これまでの一週間何もしてこなかった訳では無い。

 

シャルティアとの修行…一週間で「慣れた」ことはそれなりにあった。

 

 

その一つが「遠隔操作」だ。

 

 

簡単に説明すれば自分の身体の一部を任意で「切り離す」なり、足元から「掬うなり」して動かせる。

今のところ最大でサッカーボール程の大きさで切り離すことができ、かなりぎこちないがかなりのスピードで動かせるようにはなった。

 

素材としては液体粘状の影そのものなのでカモフラージュ率も高い。

単独潜入としては最高…かもしれないが、それは繊細な動きを習得してからだろう。

 

それから可能性として考えていた、切り離した影からの五感…視界や聴覚といった情報を取得できるかということが「兆し」として現れていた。

…しかし触覚のみは有効だった、()()()()()()()()痛みが伝わる。

 

そして殺傷能力なのだが…単調な動きしか出来ない為、単純な「突き」しか出来ない。

丸い円筒型に全方位に突き出し、貫ける。威力としては…ただの鉄程度ならば容易に貫ける程度にしか無い。

 

しかしこれが「液体流用・影――(パイル)」なのかというと…微妙だ。

本体からの液体流用が液体流用なのであって、切り離したパーツからの液体流用は液体流用ではないのではないか?

ゲシュタルト崩壊が起きているが、この突きはまだ未完成だから技と言っていいものか…というのが本音だった。

 

 

…ここで解って欲しいのはサンコが元は人間だという事。

人間には身体の一部を切り落としたり、切り落としたパーツを動かしたりする機能は無い。

慣れるのは至難。

アインズのように本能が訴えかけてくれば多少マシだったのだろうが。

 

 

 

そして便宜上この「切り離したモノ」と「切り離す行為そのもの」を「液体粘状の分身(シャドウ・ドローン)」と呼称することにした。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

…そう表現すべき新たな強さだ。…扱いは難しいが。

 

 

 

 

・・・

 

 

「…じゃあ質問に答えてもらう。嘘はつかない方が身のためだ」

 

「……はい」

 

 

サンコが魔女の胸に「液体粘状の分身(シャドウ・ドローン)」を貼り付けた後、サンコは胸から手を離し冷めた視線を魔女に送っていた。

その視線を向けられた魔女はサナに命綱握られているというのもあるだろうが居心地が悪そうに荒い息をしていた。

 

そして魔女の胸に付けた「液体粘状の分身(シャドウ・ドローン)」は服の上から微かに解る程度に膨らみ、現在は動きを止めていた。

しかし魔女の体温、脈拍、発汗状態などといったデータは本体に送られており、常に計測していた。

 

 

そこで思いついたのが「嘘発見器」としての利用方法。

人体にそこまで見分があるわけでは無いが、ここまで詳細なデータがあれば嘘をついた時の区別ぐらいはつくだろう。

 

 

「…お前の名前は?」

 

「……あ、アンジュラ…義足のアンジェラです」

 

 

義足の魔女は答えた。

 

 

 

 




ー種族応用ー
シズ・・・「地図製作」
サンコ・・・「液体粘状の分身」


オチの改善?
ほ、ほらこれ前編だから!?

ていうか後編に書く事ねぇ!…ってこんなこと前にもあったなー。
じゃあ纏めて投稿すりゃあ→期間空き過ぎて死亡確認される。

ではではー
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