OVER SHADOW !   作:みころ(鹿)

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オリジナル小説書いてた+ブランク=内容忘れた。
内容も酷いしオチこんなんだっけ…まぁもう次回から調整するんで許してください、何でもしますから!

あ、あとグロ注意。


 13 義足の魔女(後編)

・・・

 

 

「アンジュラ…義足のアンジェラ?」

 

「…は、はい」

 

 

サンコはアンジェラと名乗った魔女を見る。

鴉のような服を着て、漆黒の艶のある髪はカールしていた。

若く美しい顔も今は恐怖で強張り、涙の跡が残っていた。

 

そしてその脚は「長いスカート」によって隠されていた。

 

 

「義足?…足を見せてもらおうか」

 

「は、はい……っ!…でも…」

 

 

サンコが疑問に思ったのは、魔女の名乗った「義足」の二つ名。

義足…つまりは先天性後天性に足が不自由な人間の足を人工物でもって補填すること。

…実に合理的で幸せな解決方法だ。

 

しかしサンコのアンジェラへの命令は履行されない。

それは単純にアンジェラがサンコに対し「掌」を見せ続けなければいけなかったから…命令に違反する事が何を意味するか彼女は深く理解していた。

 

 

「チッ…」

 

 

興味が先行し、思考が疎かになってしまった。

己のミスを悟ったサンコは舌打ちをすると「液体粘状の分身(シャドウ・ドローン)」を操作する。

アンジェラ胸の上にかぶせてある容積の大体半分くらいを分離。そこから服の下を使って下半身に移動させ、腹の途中で更に分離させた。

胸の上にある液体粘状の分身以外に、二つとなったそれは腰を伝い、脚に到達する。

…肌の上を粘液が這いまわる感覚にアンジェラは苦しそうな顔をしていた。

 

そして膝の上で止まり、スカートを内側から掴んだ。

 

そこから上下に徐々に力をかけると、シルクで出来たスカートは紙のように裂けていった。

ビッー…という裂ける音が悲鳴のように静かな森に木霊し、引き裂かれたスカートが地面に落ちる。

 

そしてスカートが全て引き裂かれ、その「脚」が見えた。

 

 

(…金属か)

 

 

その足、いやその義足は総て「金属」で出来ていた。

見た目の色や質感は普通の人間の脚と何ら変わらないが、僅かな光沢があり膝には金属部品と思わしき「継ぎ目」があった。

 

…普通、義足は金属だけでは造られない。

 

ひと昔前は木造などの素材が使われていたが、最近ではシリコンなどの人体に優しい素材を使い、人体にかかる負担を軽くできるようになった。

しかし純金属となると…無いわけではないが身体への負担は大きい。

それに接続部まで金属となると金属アレルギーなどの症状が出てしまう…衝撃吸収などもし辛いだろうし重さなどの課題点は残る。

 

 

(外すか)

 

 

義足の継ぎ目の部分には巨大なねじのようなものが複数使われている。

義足と足を繋ぎとめている金属輪を、そのねじが留めている…そのねじさえ外してしまえば簡単に分離できそうだ。

 

…こんなことをしている暇は無いのは解っている。

それは興味の話だし、そんなことをする必要は無い。…あえて言うなら足を奪うことで行動の制限出来るだろうということだが…。

それにそれさえ罠という可能性すら十二分にある。

 

しかし止めれない、興味に抗えない。

サンコはアンジェラの脚に付けた「液体粘状の分身」二つを操作し、アンジェラの脚と義足を繋ぎとめるねじに「手をかけた」。

それに気がついたアンジェラは驚きと恐怖で顔を歪めた。

 

そして操作しながら、なぜ自分がこんなことをしようとしているのか考え始めた。

 

尋問で義足の事を尋ねること事態は悪くない。

しかし物事には順序というものがあり、今回はそれよりも優先すべきことがある。

 

そこまで理解していて自分はなぜこんなことを優先しているのだろうか?

 

興味を優先し、失敗する。

せねばならない事を見逃し、堕落する。

 

まるで人間のようだ。

…愚かで、短絡的な、自分の「核」。

その核が自らに沈み切ってしまう前の最期の抵抗なのかもしれない。

 

――あるいはそれもただの良い訳だろうか?

自分…というのがあるのか無いのかどちらなのか解らないが、それを言い訳に使っているだけというのも可能性として十二分にある。

 

 

(…なんて考えている時点で人間らしいっちゃ人間らしいけど)

 

 

サンコは…いや「中身は」客観視しながら苦笑する。

二重人格など謳う気は無いが、サンコは「離人症」のような神になったかのような錯覚に

襲われていた。

 

…そして。

 

 

「や、やめて――

 

 

ゴキリ。

 

 

――ああああああぃぃいいぁぁぁぁ!」

 

 

圧倒的な力でもってねじを取り外す。魔術的な抵抗があったが、サンコの触腕は物理でそれを上回った。

ねじで支えていた輪が地面に落ち、ボテと土煙を上げた。

 

それと同時に骨の折れたかのような音が響き、魔女が悲鳴を上げた。

 

 

そしてねじが落ちた後の穴から「血が噴き出した」。

 

 

…ねじを取り除いた穴からは「中身」が見えていた。

 

片足四個、両足で総八個の血穴が開き、溢れ出る血のせいで詳しくは見えないが崩れ切った筋肉が蛆のように蠢いていた。

流れ出た血が滝のように落ち、それに乗って崩れ落ちた筋肉が一部地に落ち、筋肉だけになって花のように咲いた。

 

 

 

サンコは「脚」と「義足」を液体粘状の分身で掴み、分離させる。

 

 

 

「ひっっ!!?ぎゃっぁあああぁぁっぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

…それは特に何の抵抗もなく離れた。

留め金があった下は綺麗な切断面になっており、そこから更に血が噴き出した。

流れ出た血が義足を濡らし、鉄臭さが拡散された。

ゴキリ、ゴキリという音が断続的に響き、その度にアンジェラは短い悲鳴を上げる。

 

 

――そして一点で止まった。

 

 

「脚」と「義足」を繋ぎとめている物は金属輪だけではなかった。

その合間には人間のそれと同じ無数の筋肉繊維が繋がっており、そこからもまた血が滲み出ていた。

そして筋肉繊維は限界まで引き伸ばされ…今にも引きちぎれそうになっていた。

というか何本かプチプチと千切れ、離れてしまっていた。

 

…千切れた筋肉繊維に注目する。

すると筋肉繊維の上と下で「色」が違う事に気がついた。

アンジェラの太腿…つまり「脚」の方の筋肉繊維は血色の良い「赤色」だったが、「義足」の方の筋肉繊維は金属で出来た「銀色」だった。

 

サンコは視線を戻す。

アンジェラの出血はなお続き、辺りには血だまりが出来ていた。

…それに血以外の油のような半透明な液体も噴出してきており、それが血と混ざってこの世のモノとは思えない腐臭を放っていた。

 

(死ぬ?…今、殺すのは不味いな)

 

人間ならとっくに出血多量で死んでしまうぐらいの血の量だ。

最初は勢いの良かった悲鳴も今は絶え絶えになり、肌色も悪くなっていた。

フラフラとよろめき、立っているのが不思議なくらいだった。

 

…このままだと間違いなく死ぬだろう。

 

しかしそれは様々な情報を引き出してからだ…いや、殺すのは確定でこそないが。

…まぁ余り合理的だと言えない、というのは確かだろう。

 

 

サンコはアンジェラの義足の中に液体粘状の分身の一部を忍ばせる。

 

 

そして液体粘状の分身で地面に落ちていた金属輪とねじを拾うと、「脚」と「義足」を繋ぎ戻すことにした。

金属輪を元あった切断面の上に合わせ、穴の開いた部分にねじを戻す。

 

まぁ勿論人間のなせる技ではないが、サンコは容易く繋ぎ止められた。

脚と義足を支え、金属輪ごとねじを脚に挿し回す…すると鋭い痛みが走ったようでアンジェラが短い悲鳴を上げた。

 

そして彼女の脚は元のように戻った…血まみれではあるが。

 

――と、同時にアンジェラは血だまりの上に倒れた。

…無理もない、これだけの出血で死なないという方が不思議だ。…サンコは立てと命令した手前、それを破られるのは少々癪とも思ったが、自分が原因なだけにそれを見逃した。

 

しかし、サナは不満気に吐き捨てる。

 

 

「主、いかがいたしましょう」

 

 

サナは刀を握りなおすと、そう言った。

恐らく命令を違反したことに対して、または危険性に対して「斬る」のが最善と判断しての発言だろうが…。

 

アンジェラは現在気絶している。

大量の出血で青ざめてはいるが、出血の割には無事のようだ。

気絶の演技という可能性もあるが、そこは心拍数で解る…間違いなく失神している。

 

囮に使われているにしてもここまで演技できるものか?

義足が離され、血が噴き出した時のアンジェラの脈拍は恐ろしいほどに早く、とてもじゃないが偽れるものでは無いような気がした。

 

全体として矮小だし、この程度であれば魔法無力化もできる。

弱い…弱すぎる。魔王を倒した後に旅立ちの村付近のスライムを目の前にしている気分だ。

…傷つかない点檜の棒を装備した村人だろうか…いや攻撃力2あるか。

 

つまりサンコは半ば、このアンジェラという魔女への警戒を解いていた。

囮なのではと思っていたが…奇襲ならば時間をかけすぎだし、義足なんていう変な要素も入れ過ぎだ。

…それに囮にしちゃ動揺しすぎだ…躊躇いというか違和感が無い。

 

安易に疑うことも重要だが、時には賭け事をするかのように信じる事も重要だ。

 

だからサンコはこう答える。

 

 

「いや、それより先にその靴洗っといで」

 

 

サナの靴はアンジェラの噴き出した血によってかなり汚れてしまっていた。

アンジェラの真後ろにも血は飛び散っており、広範囲を血に濡らしていた。

そしてサナの靴ももれなくその被害を被っており、また避けなかったため血がこびりついてしまっていた。

 

サナはそれに気がつき、関係ないとばかりに首を振った。

 

「しかしそれでは主の身が…!…この魔女もどうするのですか?」

 

サナは不安そうな顔でサンコを見る。

確かにサナにしてみればサンコが脈略も無く「警戒」を解けと命令してきたわけだ…困惑せざるを得ない。

それにサンコとしても確たる理由があるわけでは無く、ただの「直観」でそう判断した為、説明も出来ない。

勿論完全に疑いを解いた訳では無いため、襲う意思があるのか、仲間は他にいないのか…等は尋ねない内は無闇に行動することは出来ない。我々の存在を知っている組織があるのなら真っ先に潰すべきだからだ。

 

 

それにシズの「地図製作」のこともある。

紙とペンさえあれば作成自体は出来るがそれなりに時間はかかる為夜の合間は行動できない。

辺りはもうすでに明るさより暗さの方が勝ってきており、段々と夜になりつつあった。

 

(そろそろ拠点も造らんといかんし…)

 

そして行動できないとなると外敵に襲われないしっかりとした拠点作り…とまではいかなくても陣地造りは必要である。

睡眠が必要無い為常に警戒態勢でいるのも悪くは無いが、それはそれで居たたまれないというか趣味に興じてもらいたいというか…何ならレクリエーションを用意してもいい。

 

 

「…とりあえず縄で縛っときゃ良いんじゃないかなって…不満なら変えてもいいけど…」

 

「…いえ、主のお考えならば私はそれに従うのみです」

 

 

サナは目を伏せると、刀を仕舞った。

…恐らく彼女の意見を飲み込んでのそれだ、サンコに意見は出来ぬと自らを殺したのだろう。

これではまかり通らぬ、教育の観点から「ここで」会話を終わらせては少女の成長に影響が出てしまう。

 

 

故にサンコは次の言葉を繋いだ。

 

 

「じゃあサナはどう思う?」

 

「!…」

 

 

意見を求められたサナは目を見開き驚くと、先程とは違う不安で服の裾をギュッと掴んだ。

 

 

「私が主に意見など…」

 

「命令」

 

「…!」

 

 

こういう時、自主性を軽んじるのは良くない。

ここで彼女の意見を押しつぶしたら、自ら意見するという事を恐れる…のとは事情が少し違うが意見を出さない事が癖になってしまうだろう。

ならば多少強引にでも…というと聞こえは悪いが、始めの一歩というのが重要であるからして突破口を作ってあげることが時として必要だと俺は思う。

 

 

…サナは思いつめたような顔をする。

どうやら意見をしてはいけないという思いと、命令を遂行せねばという想いが渦巻いているのだろう。

苦悩とは辛いものだが時として成長のばねになる時も多いし、何よりそういう経験とは何物にも代えがたいものだ。

 

しかし思いのほか早くサナは吹っ切れた。

 

またすぐに凛とした態度に戻ると、決意の火が灯った瞳をサンコに向けた。

なぜ吹っ切れたか…それは願わくば意見をしてもいいのだと解った故の吹っ切れだといい…のだがこの場合は恐らく「命令」の方の優先度が高いと判断した為だろう。

 

つまり迷う必要が無くなったから、というのが適切だろうか。

 

 

「…さて、どう思う?」

 

 

言うのであればと、サンコはもう一度催促する。

…教師が子供に再度諭すように。

 

そしてサナは少し…言葉を纏めた後喋り始めた。

 

 

「この魔女に危険性は無いと思います」

 

 

サナは地に伏すアンジェラを指さし、答えた。

…サンコはそれを微笑ましく見ていた。

 

 

「その心は?」

 

「…これに脅威は感じませんし、力も矮小でサンコ様を傷つけられるとも思えません。いざとなれば私が殺せば良いだけかと」

 

「フム、しかし囮という可能性もあるがそれはどうだ?」

 

「おと…り…?」

 

 

サンコは少し意地悪く、問題を続ける…思考力を付けさせる為に。

とはいえサナには「囮」という言葉の意味が解らなかったようだ。

 

首を傾げるサナにサンコは微笑み、説明する。

 

 

「例えばそうだな。美味しそうな餌に興味がいって、背中を向けている敵に背後から強襲すれば先手が取れる。この場合はその餌ってのが魔女で強襲するのは魔女の仲間だけどな」

 

「…感謝します」

 

 

サナは一応理解できたらしい。頭を下げると、感謝の言葉を述べた。

そして顔を上げ、何か言おうとして…止める。それから言葉を紡ぐためにサナは考え始めた。

 

…サナが考えている、という事をサンコは少し嬉しく思いながら悩む彼女を眺めていた。

 

 

「これに仲間は…」

 

 

そしてサナはそんなサンコの視線には気づかず、意見を述べ始めた。

 

 

「仲間はいないと思います」

 

「そっか」

 

 

結局。結局サナは自分と同意見であった。

サンコは仲間意識というか、意見が会ったというそれしきの事に少し喜びながら「なぜ」そう思ったかに興味を持った。

少しサナは自分を心配してくれていた…それはサンコの身を案じて魔女に危険性があると否定していたのだが、今は自ら出した先程の意見を否定するような形になっている、というのも気になる。

 

 

「何でそう思ったの?」

 

「それは…」

 

 

故にサンコは尋ねるが、またもサナは考え込んでしまう。

サナは脳筋故に思考は遅い…しかし思考が出来ないのと遅くとも思考できるのとではその差は歴然。

今は命令で、強制的に思考させているが、なかなかに良い兆候だとサンコは思っていた。

 

 

しかし彼女には――

 

「…直観です」

 

――直観がある。

 

 

直観。勘。それは即ち真っすぐに観る事。

今あるモノ、状況、理、全ての本質を見透かし、本能によって答えを出す。

…というのは流石に奥義だが、何の根拠も無いのにただ答えのみが頭に浮かぶ…ということが生物にはままある。このまま歩いたら自分は死ぬとか、ここに銃を撃ったらメインカメラをやれるとか…まぁそういう事だ。

 

そして直観の強さに種族として差はなく、個体としての才能が大きくでる。

 

勿論ユグドラシルというゲームではステータスとして扱われるが、現実では鍛えることは出来るが才能ありきで、先程言った全ての本質を見透かす…みたいな域にはなかなか達することは出来ない。

 

 

しかしサナの直観は最高値に達している。

 

 

それは超直観と言ってもいいかもしれない。

戦士と相性の良い直観にサンコはステータスを全振り、INTにも多少振った方が必要ステータス的に武器が良いモノが使えるのだが、結局直観だけに振ってしまった。

 

それが現実に移植された結果、サナにINTである思考力は無くなった。

論理的な思考や学問は出来ないし、理解力が足りない場合もある。

 

…しかしそれを補って余りある直観。

計算式で答えだけ解るがその過程は導き出せないそれだ。

 

勿論思考力がついてくれるのであれば万々歳だが、無理に必要とするものでは無い。

それを察して焦って欲しくないし、過度な苦悩何てしてほしくない…というのが親心ではあった。

 

 

「うん、それで良い」

 

「しかし…」

 

「ん?直観も立派な過程だと思うけど?」

 

「…はい」

 

 

若干食い下がったサナだったが俺の言葉で素直に頷いた。

…そして先程の命令を思い出したようだ。

彼女の靴は魔女の鮮血で汚れており、

 

 

「…靴を洗ってきます」

 

「あ、ちょっと待って。ルプスレギナ!」

 

 

血と臓物のこびりついた靴に一瞥をくべたサンコは、木の上に居るであろうルプスレギナに声をかけた。

 

 

「シュタッ…」

 

 

すると木の上から忍者よろしくルプスレギナが降りてきた、というか口で言っていた。

 

 

「まさコンサ、うょしでんな」

 

「いやそれまにわにの人だから…じゃなくて、サナの靴が汚れちゃったから汚れを落としたいんだけど痕跡を残したくは無いからサナについて行ってくれるかな」

 

「そういうことっすか、了解っす!ほらじゃあ行くっすよサナちゃん」

 

「あ…失礼いたします、主」

 

 

そしてルプスレギナに(強引に)連れられてサナが木陰に消えた。

…近くに水場は無いが、砂で拭くなりタオルで拭くなりしてその後埋めれば何の問題も無いだろう。

 

残されたサンコは倒れ伏した魔女を暫く眺めた後、何をしようとしていたかを思い出していた。

 

 

「拠点作らんとだ、そうだ」

 

 

地図を製作しなくてはならないし、シズの活動限界の件もある。

その為には最低限の安全が確保できるぐらいの…キャンプ地のようなものが必要だろう。

 

 

「シズちゃん!」

 

「…シュタッ」

 

「え何それ怖い」

 

 

てっきり普通に降りてくるものとばかりに思っていたサンコはシズが通称「忍者降り」をしたことに困惑の眼差しを向けた。

 

 

「…大丈夫だ、問題ない…」

 

「え何それ怖い!?」

 

「…申し訳ございませんサンコ様…ルプーにやれと…」

 

 

ルプスレギナの先程の忍者降りも含め、シズにネタをやらせたのも全てがルプスレギナの仕組んだ事であった。

 

(天才か?天才なのか?)

 

シズちゃんというふざけない存在を用いる事による意識外からのネタは芸術点が高い。

何より自分が怒られない位置に逃げたのもできる。

 

 

「…ちゃんと索敵もやったよね?」

 

「…はい。ぬかりなく」

 

「ちなみに報告とかある?」

 

「…確認できたのは中型生物一匹と、小型生物の群れですが危険性は低いかと思われます」

 

「はいお疲れ様。今後は直近の索敵で構わないから…いや、それだとルプスレギナで良いから地図作成を始めてくれ」

 

「…かしこまりました」

 

 

サンコは頷いたシズに頷き返すと「足元」に意識を向けた。

まるでそれは指を動かすかのように奇跡的で、かなりの集中力をようした。

そしてかなり「下の方」に入れておいたものを手で掴んだ。

 

「よっこらせっと」

 

サンコの身体が一瞬膨張すると、中に入れておいたものが吐き出された。

 

「ここでやっていいよー」

 

「…感謝します、サンコ様」

 

 

森には木組みの机が置かれていた。

飾り気のないそれだが広さだけは充分にあり、頑丈そうだった。

一礼したシズはその机に近づくとポーチから丸められた羊皮紙を取り出し、その机の上に広げた。

 

 

「…記録領域を解放。これより地図作成コードを実行します」

 

 

本来地図作成のスキルなど持っていないシズに、地図作成のコードなるものがあるのかは甚だ疑問ではあるがこういうものは気分であり雰囲気だ。

 

つまりカッコいいから全て許される。

 

 

「さて俺は…」

 

 

キャンプをすると思ったのだが、寝る必要はないのだからテントは必要ない。

だがキャンプ感は演出したい…なら――

 

 

「火をつけよう」

 

 

――キャンプファイヤーが最善と判断した。

 

 

 

・・・

 

 

 

「踊れ」

 

「え?ちょっ、なんすか」

 

「踊れよルプスレギナ…全員が真顔の中羞恥にまみれて踊れよッ!」

 

「パワハラだこれ!」

 

「ルプスレギナ…命令に背くということの意味くらいあなたにも解るわよね?」

 

「…」

 

「くそっ…せめてシズちゃんが喋れれば…!」

 

「…ルプー。サンコ様のいう事はちゃんと聞かないと」

 

「助けなんてなかったんや!」

 

「はーいあと三秒以内に踊り始めなければ反逆とみなしまーす。さーん、にー」

 

「アァァァァ!!!?」

 

 

などといった感じに(シズは未だ地図につきっきりだが)一行はキャンプファイヤーを囲んで談笑していた。

サンコの出したプラスチック製の椅子は森には少し違和感があったが、軽く腰掛ける程度には便利だった。

 

 

「はいワンツーワンツー」

 

「えっ、あっ、やだっ、恥ずかしっ!」

 

 

サンコが手を叩くのと同時にルプスレギナはぎこちなく腕と足を動かし始めた。

そして周りは努めて真顔だった。

というかこれは完全に羞恥プレイだった。

 

 

「ワンツーワンツースリーワンワンスリー!↑↑↓↓→←→←〇×▽◇一回転して五目御飯!」

 

「絶対に幸せになれるコマンドォ!」

 

「ムリゲー?ムリゲーなのん?」

 

「あ、やめていいんすか?」

 

「たとえ手足千切れても踊り続けろ、いいな?」

 

「ふぁい…」

 

 

若干泣き顔で踊り続けるルプスレギナに俺は真顔ながら僅かにだが嗜虐心をくすぐられていた。

思えばサナにも恥ずかしいという感覚はあったし、何かしらプレイを…いや愛娘にそんなことは…うごごごご。

 

目の前では落ちていた枝や丸太を使って作られた簡易的なキャンプファイヤーが煌煌と燃えていた。

小さい火がチロチロと揺れており、辺りをぼんやりと照らしていた。

周りの暗い森は人の眼では見通せないが、液体粘状の影の眼では昼間のごとく見通せ、誰もいない事を教えてくれた。

 

…キャンプファイヤーの近くには魔女が一人転がされており、その瞳を閉じていた。

 

 

しかし――

 

「ゴホッゴホッ…」

 

――魔女の気管が正常な活動を再開した

 

 

サナとルプスレギナ、地図を作っていたシズさえも一斉に意識を魔女に向けた。

それは殺意では無いが、それに近しいものであり、主に危害を加えようものならすぐさま攻撃できるように身構えるものであった。

 

 

「おはようアンジェラ」

 

「!?…ッ!!?」

 

 

アンジェラは声にならない悲鳴を上げると上半身を上げた。

その身には服は一枚も纏っておらず、胸部には液体粘状の分身を貼り付けていた。

一応の体裁なのか、胸の部分を手で隠したがサンコには正直そんなものに…興味がないわけでは無いが今の俺には興味が持てなかった。

 

 

「すまないが服を調べさせてもらったよ、アンジェラ。君の身体には装備も無いし、危険性も無かった。それでもそれをつけてるのは…保険だと思ってくれれば構わない」

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

「そこにある服を着ても良い。夜が明けたら俺達はここを去るから元の生活をしてくれ。二、三個ほど質問に答えてもらう事にはなるけど危害は加えない」

 

「あぁぁ…」

 

 

サンコは出来る限り柔らかな言葉でアンジェラに声をかけたが、アンジェラは泣き出してしまった。

…思えば気絶の原因は出血多量だったし、脚と義足の分離というのは相当にショックだっただろう。その原因が目の前にいるならなおさらだろう。

 

 

「…んー、まぁ答えなくても良いか?いや良くないけど」

 

 

彼女の精神は崩壊してしまったようにも見える。

そんな状態になってしまったことはもはや仕方ないが、彼女の精神状態を考えれば回復はすぐにとはいかないだろう。

 

つまり彼女からの情報収集は難しい。

…聞きたい事はあるが、無理に聞かなくてはならないことは何もない。

彼女に期待する事は何もなく、彼女がこのままの状態でも何の問題もなかった。

 

しかしサナは不満気に野太刀に手をかけ、口を開けた。

 

 

「主、命令を」

 

「いや、彼女は悪くない…無理に癒す必要も無いだろう」

 

「んー…精神疾患のまま放置ってのもなかなか鬼畜だと思うっすけど?」

 

「…って言ってもな」

 

 

サナに続いて不満気なルプスレギナだったがサンコには彼女の精神的ダメージを癒す手段は思いつかず、する必要のない事にはあまり労力をかける必要を感じなかった。

 

 

「拷問?」

 

「それ根深くなるやつ」

 

「誅殺?」

 

「それ普通に死ぬやつ」

 

 

ルプスレギナとサナは首を傾げて(片方笑顔でもう片方腰の刀に手をかけながら)何か案を出そうと頑張っていた。

 

 

「うー…こういう時に安易に魔法に頼るのは良くないと思うんすよね」

 

「え…まぁそれはそうだけど…」

 

 

と唐突にルプスレギナが言った。

内容は…まぁ正しい事を言っていた。

魔術の痕跡というもの少し調べればわかる事だし、些末事に使ったMPに泣くことだってある。

それにすぐ魔法に頼るのではなく、様々な考えを思いつくことは…柔軟な発想を持つうえで必須だとは思う。

 

 

「ん?ルプスレギナって魅了系の魔法持ってたっけ?」

 

「あーいや別に持ってないっすけど…」

 

 

アンジェラは別に精神汚染を受けている訳では無い。

ただショックな出来事により、自我が崩壊してしまっただけだ。

つまり魔法によりよって精神攻撃を受けている訳では無い。

 

魔法による精神攻撃の反対は、つまるところ精神的な癒し。

魔法には魔法でというのが一番いい…ので、本来魔法精神攻撃以外への魔法の精神の癒しは効果が無い訳じゃないが…本来の威力に比べると薄い。

 

しかしその点魅了は便利だ。

というか癒すのが目的ではなく、ただ命令を聞かせるだけなのだから当たり前と言えば当たり前だが。

つまり上書きと言うか、強制的に相手の精神を支配し、その効力が切れるまで相手に服従を強いる。

…それが例え壊れた精神でも。

 

 

「…というか別に聞きたい事も…そりゃあこの付近に強力なモンスターはいるかとか人間はいないかみたいな情報は欲しいけど、優先順位的には他のシモベ達に回すべきだ。俺たちの目標は法国なのであって、ここはまだ法国領内じゃないからな」

 

「うー…でも」

 

「執着する理由が解らん。何か他に理由があるのかルプスレギナ」

 

「…いや、別になかったっすね。忘れてくださいっす」

 

 

一瞬悔しそうな顔をしたルプスレギナだったがすぐに笑顔を貼り付けた。

サンコはその一瞬の表情の変化を見逃さなかったが、どうしてそんな顔をしたまでかは解らなかった。

シズの地図へ書き込むカリカリとした音が絶え間なく鳴り、興味を維持できなくなったのかサナはパチパチと爆ぜる火を眺めていた。

 

そして魔女は再起不能なまでに壊れており、意味の無い言葉を永遠と吐き続けていた。

もはや回復はみこめず、情報は聞き出すことは出来ない。

 

…もはや彼女を癒すのは痛みか時間でしかなく、サンコにはどうする事も出来なかった。

 

 

――夜は幕を引いた。

 

 

 

・・・

 

 

 

――三つ目の生まれ方は「人間が魔女になる」こと。

 

魔女とはユグドラシルではモンスターだったが、この世界の人間は魔法を「覚えること」が出来る。

 

 

…ユグドラシルでのモンスターとしての魔女の定義は「魔法を操る邪悪な存在」。

 

 

しかしこの世界でその定義は曖昧なものになる。

例えば普通の村娘に魔法の才能があったとして、魔法の教育を受け、魔法を使えるようになったとしよう。

 

だがそれは…「邪悪」になるとは限らない。

 

魔法を受け継いだうえで、邪悪に染まればそれはユグドラシルの定義で言えばそれは魔女というモンスターになる。

 

…では邪悪に染まらなければ…何になる?

 

 

勿論、魔女になる。

 

 

故にこの世界での魔女の定義は善悪関係なしに「魔法を使える女性」という事になる。

つまり魔女とは邪悪に落ちるか、正義に生きるかでモンスター扱いを受けるか否かになる非常に珍しい生物…人間?と言えるだろう。

 

もしかしたら指名手配などで、モンスター扱いもしていないのかもしれないが、それは国でも違うだろうし、そもそも「魔女と言う名前のモンスター」はいないのかもしれなかった。

 

物語にあるように寿命が長くなるなどのモンスターとしての魔女の種族スキルを取得できているのかは解らないが、それは要検証すればいいだけの事だろう。

 

 

その善悪を判断する手段は話さない限り無い――

 

 

 

 

 

 

――じゃあルプスレギナは?

 

 

 

 

 

 

魔術の内容で善悪は判断できない。

魔力の大きさで善悪を判断できない。

匂いの内容で善悪の判断は出来ない。

 

…ならなぜルプスレギナは「敵性生物」と言ったのか?

 

現地生物では駄目だったのか…いや、万全を排すことは悪くない。

生き物を索敵し、それを敵と読んで行動する分には何の問題も無い。

 

 

しかしルプスレギナがただ現地生物と言えばサナが迎撃に向かう事は無かっただろう。

いつかの幽霊犬のようにまずルプスレギナが敵にばれないように敵の事を調べ、サンコに報告し、それから判断を仰ぐべきだった。

 

…そう行動しろと言われていたはずだ。

 

 

善悪が判断できなかったならば、まだ敵と解っていなかったならば、とりあえずの迎撃としてなんてサナを行かせるべきでは無かった。

 

 

ならなぜそうしたのか……

 

 

 

…それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そちらの方が〇〇〇〇〇から。

 

 




…更新頻度遅いから低評価つくのんか?逆効果なんだよなぁ…
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