OVER SHADOW !   作:みころ(鹿)

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よそおい、で装い

そろそろプロット制作してないツケが廻ってきた今日この頃…ツラいです(´・ω・`)
そして次回の事考えたらちょっと不自然なところで切ってしまった。

クオリティ上げてかないと(焦り)


 17 装い

 

 

・・・

 

 

 

「うー…うー…」

 

「…ルプスレギナ、そのうーうー唸るのをやめなさい」

 

「…いやだってめっちゃ臭いんすよ…」

 

 

龍との戦いから三日が経った。

山を下って法国の首都である「神都」を目指す旅は順調に進んでおり、現在は山と川の丁度中間地点にいるものと推測されていた。

 

――神都の正確な位置は解らない。

 

元々王国の冒険者ギルドの組長に作成させた地図は、手書きの上に曖昧であり、今までシズが作成してきた正確な地図と比べれれば寸法などはもはや児戯と呼べるものであり、組長の作った地図の神都の位置は信用に値するものでは無かった。

 

…だが偽の情報という訳でも無い。

 

特徴として、神都は川のすぐそばにある。

古来から文明は水場の近くで栄える…という事なのかは解らないが、少なくとも神都のすぐそばにはかなり巨大な河が流れている事は確かなようだった。

 

 

――つまり川さえ見つけてしまえば、神都も併せて見つけれるという事だ。

 

 

「もーやだー」

 

「…あと少しだから我慢しなさい」

 

 

しかし直線で神都に向かうわけにはいかない。

 

ルプスレギナの臭いの傷を完治させ、山から下り、少しばかりの森を抜けた先には草原と畑があった。

見ればかなり遠くには村があり、畑では人間達が農作業にいそしんでいた。

 

その農村はかなりの大きさがあり、畑にいる人間だけでもカルネ村いた人間の総数より多そうだった。

…主曰く、一つ一つの村に回せる兵の回せる量と質が王国とは段違いなのか、この村が特殊なのかのどちらかだとおっしゃっていた…意味は理解する事は出来なかった。

 

 

そして馬車が出るのを見かけた。

 

 

潜伏していたサナ達はそれを追いかけ始めた。

…追いかければ、何かしらの道に合流できるはずだという判断のもとだ。

 

そしてその判断は的中し、「街道」ような場所に出た。

 

石畳が敷き詰められた道は今までの獣道とは比較できない程に歩きやすく、()()()()()()()()()()()

…見つかり、法国に気づかれるのは主の望むところでは無いし、作戦にも支障をきたす。

 

 

つまるところ「街道」は使えない。

 

 

街道はいかにも法国に繋がっていそうだったが、だからこそ人は多く、そこを通る訳には行かない。

 

…サナ達はまず大幅に南下した。

 

街道は方向で言えば南西に向かっており、その方向に一応あの雑な地図に記されている川があるようだった。

 

なのでとりあえず南下し、そこから西に向かえば川に当たり、道が曲がっているという事の誤差を修正さえすれば神都に辿り着けるという算段を主がなさった。

 

そしてそれは人のいない道を選択して歩く旅になるのだが、なかなかに大変でこれまで以上に「危険」だった。

 

――国内で、かなり獣の脅威が抑えられているならば、人間は多いのだから。

 

人目を避けるということは必然的に獣道を通るという事であり、何もない所よりかは進行が遅れる。

浅い森は人間がいる危険性はあるし、草原などに至っては警戒するべき場所が多すぎて横断する訳にはいかなかった。

痕跡を残すわけにはいかないし、危険の絶対数で言えば法国の中に入るよりも多くなり、主もゴキブリという昆虫に例えてぼやいていた。

 

 

 

そして今サナ達は「沼地」にいた。

 

 

 

既に南下は終わり、ひたすら西に向かう工程の最中。サナ達は広大な沼地にぶち当たっていた。

 

広大な沼地には霧がかかり、視界は狭まっていた。

沼地特有の植物が群生し、入り組んだ木の洞にはキノコがまばらに生えていた。

灰色や茶色の泥は底なし沼の様相を呈し、コポコポと泡を浮かべては汚臭を発していた。

まともな足場はどこにもなく、一歩踏み出すごとに足裏にヘドロが張り付いてはぬちゃあと粘着し、サナ達の歩みを阻害していた。

 

 

時に、沼…とは、動物の死体や植物の死体が沈んでいる場合がある。

 

そういった死体は沼底に積もり、腐乱し、体内にあったガスなどを噴き出す。

結果として沼特有の汚臭に加え、死体の腐臭が臭う場合がある…継続的に臭うものではないのだが。

 

 

そしてそれが理由でか、ルプスレギナはまたも臭いで苦しんでいた。

 

 

「すー…はー…うぅ、口で息しても鼻に来るっす…」

 

「…じゃあ呼吸しなければ」

 

「いや普通に死ねるし索敵はしないといけないっすから!」

 

 

口で呼吸しているルプスレギナは顔をしかめると、ケホケホと咳をする。

そしてサナの軽口に対し、大真面目に手を振った。

 

…サナは頷くと、視線を前に戻す。

 

 

「主は…良かった」

 

 

今、主とシズは先行し、サナとルプスレギナはそれを追いかけている。

…今までとは反対の形だ。

 

 

なぜ変えたのか、その理由は簡単に1つ。

 

 

…人間が多いときは臭いで判断するよりもシズの瞳で体温を検知したほうが早い。

 

そして魔法で罠を張るのは基本的に()()()()()()()からだ。

 

森の獣の撃退用や狩猟用の罠、領地に踏み入るものがいないかの敵感知の魔法線。

流石に人がいない場所を選んでいるとはいえ、これだけの距離を歩いてくればそれなりにそういった類の罠に出会ってしまうのは仕方ない事と言える。

 

 

故に、魔法感知が素で出来るサンコとシズが先行し、後ろからの敵を警戒していた。

 

 

ルプスレギナは歩きながら上を仰ぎ見ると、少し気まずそうな顔でサナを横見る。

 

 

「…私一度上から見てくるっすね」

 

「良いんじゃないかしら?誰にも気づかれないなら」

 

「…上なら臭いも薄い、っすよね…?」

 

 

ルプスレギナは沈んだ表情で呟くと、近くにあった適当な木に走り出し、幹に足底に付いた泥をつけると樹の頂上へと消えた。

魔術痕を残すわけにはいかないが、スキルによる瞬間移動ならばなんの痕跡も残さないので泥の跡くらいでなら追跡も不可能だろう。

 

 

サナはルプスレギナが行ったのを確認すると、また一歩を踏み出した。

 

 

…霧の中は視界が悪い。

どこかナザリック九階層の銭湯の中を彷彿とさせるが、あれは暖かく、こちらの霧は冷たく吸い込むだけで身体に悪そうだった。

周辺は朧気にしか見えず、灰色の沼から生えた足元の草がサナの白色の靴下に触れていた。

冷気をはらんだ風が霧に流れを作り、咳き込みそうなほどの汚臭が対流していた。

 

だが視界が悪くとも「直観」には関係ない。

 

見ずとも、例え瞳を閉じていても敵を斬れるのだから。

 

 

「…」

 

 

サナは一人で歩くことは大丈夫なのかという疑問を感じるが、例え襲われても返り討ちにすれば良いという結論に達し、特に不安などは感じなかった。

 

そしてサナは周囲を見渡しながら敵がいないかを確認する。

 

…少なくとも直観で索敵できる範囲には人間も敵性生物も無いようで、主とシズの様子も無事のようだった。

 

安全を確認したサナは警戒は緩めずに(少しサンコの真似をして)息を吐きだす。

それは疲れが混ざる溜息…なのだが疲れなど感じていないサナでは上手くサンコの真似をすることは出来ず、誕生日ケーキにふーと言ってしまう子供の様になってしまっていた。

 

真似が上手くできていなかったことを自覚したサナは慌てると、もう一度息を吐き出す。

 

 

「ふー…ふー…」

 

 

しかし息は吹けるもののサンコのような疲れから来る深みが出ない。

何が違うのか解らないサナは首を傾げると、息を吐き出しながら歩き出す。

 

息を吐き出す度、漂う霧に新しい動きが生まれ、様々な波紋を描いた。

 

 

暫く一人で歩く。

 

 

寂しいなどという感情は持ち合わせていないがルプスレギナのいない静寂はあまりサナには慣れるところではない。

そろそろ帰って来てもおかしくないだろう、と思ったサナは一度息を吐き出すのをやめると、振り返った。

 

――ルプスレギナが空から降ってきた。

 

…両手両足をまるで猫のように大きく広げた彼女は姿勢を制御しながらいつも通りの笑顔でサナに抱き着いて来た。

 

 

「…!」

 

「到着!っす!」

 

 

ボフッという音を立てて自らの胸に突っ込んできたルプスレギナをサナは見下ろす。

睨むようなそれをルプスレギナは無視すると笑顔で、目をキラキラさせると、嬉しそうな顔をした。

 

 

「聞いてくださいっすサナちゃん!」

 

「何?」

 

 

明るい声を出したルプスレギナにサナは首を傾げる。

サナは最初こそ高いテンションのじゃれつきにまた冗談かとも思ったが、今は先程までの暗いテンションがここまで変える何かに興味を持った。

 

 

「実は――」

 

 

ルプスレギナは息を大きく吸い、言い切る。

 

 

 

「――川を見つけたっす!」

 

 

 

・・・

 

 

 

「なるほど、ついにか」

 

 

サンコは頷くと、円形に立ちこちらに顔を向ける他三人の顔を見渡す。

シズは相変わらず無表情であり、ルプスレギナはニコニコと笑顔を貼り付けており、サナは真剣な眼差しでこちらのことを見ていた。

 

龍のいた山から下山してここまで歩いてきて三日。

川に向かって歩き続けていたが、ついにルプスレギナが目標である川が流れている事を発見した。

今まで何個か魔法の罠は発見してきたが人との接触はなく、魔物などの獣にもほとんど会わなかった。

 

…この程度の文明レベルで広大な国内のほとんどのモンスターを抑えているのは中々称賛に値する。

 

 

「このまま真っすぐ行くと小規模な林があって、その向こうに大河があった…ってことで良いな?」

 

「はいっす!かなり大きな川だったのでサンコ様の言っていた神都付近を流れる大河ってことで間違いないと思うっす!」

 

「そうか」

 

 

サンコは再び頷くと、少し考える。

そして顎に手を当てるとルプスレギナを見た。

 

 

「神都みたいなもの、あるいは人里みたいなものは?」

 

「うーん、人が住んでそうな場所は無かったと思うっすね。川に目がいってあんまり見てなかったすけど」

 

「…」

 

 

視線を落としたサンコはまたも考え始める。

そして割と早く、冷静に判断を下した。

 

 

「これより真の意味で潜入を始める」

 

「…!」

 

 

サナが目を見開いたのを見てサンコは少し苦笑すると、説明を始める。

 

 

「今までは人間を避けてきたが、これよりは法国の情報を集める為に人間と関わらなければならない。法国内部に侵入し情報を盗んだり、町レベルの噂を聞きだしたりしなければならない」

 

 

サンコは続けた。

 

 

「しかし我々の存在がバレるような事があれば今後の活動に支障が出てしまうだろう。…ではどうすればいいか?はい、ルプスレギナ君」

 

「え私っすか?…うーん、あ!拷問して聞き出せば…」

 

「確かに情報は聞き出せますけど確実に法国にばれます。はい次サナ」

 

「…!」

 

 

当てられたサナはまるで世界の終りのような顔をすると、慌て始める。

…手でぴょこぴょこと何かを表現しようとしながら。

 

 

「えーとそのあの…あれです」

 

「どれ?」

 

「…!!」

 

 

上手く表現できないサナは顔を赤らめると――刀を抜いた。

 

 

「死にます」

 

「待て」

 

「お座り(便乗)」

 

「…お手(便乗)」

 

「…」

 

 

サナは刀を抜いたまま中空に座りシズの差し出した手に右手を置くと、反射的な自分の行動に気がつくと立ち上がり、顔を赤らめたたまま刀を鞘に戻した。

もう出なさそうだなと感じたサンコはシズに視線を向ける。

 

 

「シズちゃんは?」

 

「…変装でしょうか?」

 

「正解!」

 

 

俯きながら答えたシズにサンコは親指を立てる。

するとシズは照れなのかは表情には出ていないが、更に迷彩スカーフに顔をうずめた。

 

…可愛らしい仕草にルプスレギナとサンコは若干ゃ和む。

 

だがしかし意識を取り戻したルプスレギナはサンコを振り返った。

 

 

「でー変装っすか?」

 

「…あぁ。お前らの服は目立ちすぎるからな。とりあえずその川の前にある林とやらに移動するぞ」

 

 

質問に頷いたサンコは歩き始めた。

 

 

 

・・・

 

 

 

ざっと15分後。

ルプスレギナの報告通りに沼地を越えた先には林があり、そこには洋服ダンスが設置された。

索敵によってこのさして大きくない林には、人間や魔法の痕跡は無い事は確認済みであり、生えた木に被って林の外からの視線も大分カットされていた。

 

よって布で簡単な迷彩色の囲いを作り、そこで変装をすることがサンコによって決められたのだった。

 

 

「うーんこれでもない…」

 

「あ、主…」

 

 

そしてサンコは自らの設置した衣装ダンスから服を取り出しては、サナの身体に合わせ、不機嫌そうな顔をして、自らの脇腹に体を変形させて作った止まり木のような擬似的な腕に投げ捨てていっていた。

既にその腕には洋服ダンスの見た目以上の量の服がかけられており、様々な色が混じったそれはまるで虹色の水たまりのようだった。

 

…とはいえ、その服の色の種類は偏りがある。

 

その服は全体的に茶色が多い。

すえたような茶色の服はこの世界における外套と呼ばれるものであり、その服のほとんどは旅に疲れたような色を演出していた。

 

変装は…一般的な「旅人」をモチーフに設定した。

 

擦り切れたような服は旅の疲れを演出し、その真の姿を隠す。

その服に付いた土くれは薄汚れた旅路を連想させた。

…そして目立つ、ということを完全に排斥した服といえよう。

 

 

これは、とある有名な大富豪の話だ。

 

 

ある日、大富豪が知らない富豪の豪邸で開かれるパーティーに招かれた。

親しい友人も多く招かれたパーティーだったので、パーティーの内容は無礼講という言葉が相応しい。

 

そこで大富豪はあえて、貧しい服を着こんだ。

…まぁ一種の悪ふざけと考えて構わないが、贅を尽くした大富豪の考えることなど解るはずも無い。

 

大富豪は用意しておいた貧相な服と、自らの着ていた服と交換した。

そしてできるだけよろよろとその富豪の豪邸に向かい、自らの顔をチラリとだけ見せ、パーティーに参加する者なのだと、門番に対して言った。

 

 

結果は、門前払いだった。

 

 

門番に追い払われた大富豪は、一度自宅に帰る。

そして自分が持てうる限りの一番豪華な服を着こむと、再度富豪の家に向かった。

 

すると、先程とは違い最高級のもてなしを受けた。

並べられたご馳走と、最高の酒は見ただけでもその時代一番での代物だという事は解った。

…勿論、その大富豪の顔は大富豪だったためその対応はおかしくはないのだが。

 

 

――だが、大富豪はその服に食べ物を食べさせ始めた…と表現するのが妥当だろうか。

 

 

服の裾に食べ物を入れ始めた大富豪に、パーティー主催者は慌てて「なぜ自分の服に食べ物を入れ始めるのか?」と尋ねた。

すると大富豪はこう答えたらしい。

 

 

「このパーティには私が招かれたのではなく、この服が招かれたのだ。故にこの服が食べるのに相応しい」

 

 

大富豪はこのことから自らではなく、自らの地位や金が招かれていたのだという事を確認した。

…そして、人は見かけがほとんどだという事も。

 

 

――つまり、服とは人を着飾ると同時にその人間という存在そのものを表しているのだ。

 

 

まぁその大富豪はどれだけ顔の特徴が乏しいのだ、としか思わないが。

 

 

 

その点、サナは違う。

顔は眩いばかりに美しく、高身長にもはや人のみでは無しえないプロモーションを持ち合わせていた。

いやおうなしに目を惹くそれは、もはや服では隠しきるには難しく、一般的な服などでは偽りきれなかった。

 

 

「んー…身長が高いのが一番問題かな…」

 

「…では余った分を斬り捨てます!」

 

「ゴリ押し!?」

 

 

問題は身長だ。

必要分の栄養と、十分な睡眠で人間の子供は大分高くなり、現代で言えば人種にもよるが大体男性で170cm女性で160cm位が一般的だろう。

しかしこの世界、文明開化もしておらず十分な栄養などとれるはずが無いからか、その平均より大体十センチは低い。

 

その点シズは身長が低いため、平均丁度であるし、160cm程度のルプスレギナは少し高い程度で済む。

だが180cmはあるサナはもはや人間の中では「人では無い」扱いをされるだろう。

 

…外套という服の特性上、身体の起伏は隠されるし、フードを深く被れば性別も解らなくなる。

しかし身長は高くは偽造はできても、低くはできない。

服はその人を表せても、その人自体を変えることはできないのだから。

 

 

「幻覚もありだが…」

 

 

アインズさんのように身体が変化しているように見せる幻覚魔法は、使えない訳では事は無い。

しかし身長そのものを偽る程の幻術魔法ともなれば、その魔力量からして魔法探知対策の域を軽く超えるだろうし、魔力消費も考えれば現実的とは言えないだろう。

 

魔法による「幻覚」ではなく実際の「変身」もこれと同じ理由だ。

 

常に変身している訳にもいかないし、長期的にその変身状態で行動する訳にはいかない。

…それに何より、いざという時に変身した姿ではワンテンポ遅れてしまうだろう。

 

 

「…どうだか」

 

 

アインズさんは目立つことも目的だったため巨体でもなんら問題は無かったが、潜入の基本は目立たないということだ。

そのための変装だし、変装しても目立ってしまっては意味が無いというのはもはや言わずもがなだろう。

ほんの多少目立つことは込みだが、注目され過ぎてはサンコの考えていることもご破算の予定だった。

 

――サンコは今までで一番目深いフードをついた茶色の外套を取り出す。

 

 

「うーん、一回着てみて」

 

「かしこまりました」

 

 

サンコの手渡した外套を受け取ったサナは、丁寧にその服を自らの体に着ている服の上に押し当てる。

すると服に付与された略式詠唱が即座に始まり、若干の光エフェクトの後、サナの身体は先程まで手にしていた外套で覆われていた。

自動着脱式の魔法がかけられた服は、高レベル帯であっても隙が生まれないように自動で脱げ、ナーベラル・ガンマの服なども同じ魔法を採用していた。

 

 

…サナの格好は少々不釣り合いだった。

 

 

みずぼらしいという表現が間違いでないその外套は考慮通り旅の疲れの演出の為に所々に土埃や水に浸したかのような汚れが多々あり、引っかけたかのような傷やほつれたような箇所を何個か作っていた。

 

しかしそれ故にサナには似合わない。

 

焼け野原に咲いた一輪だけの花がひときわ美しいように、薄汚れた服からひょいと出たサナの顔はどこか滑稽だと思える程、そこだけ美しかった。

…もはや浮いて見えるそれは異常であり、ただでさえ目を引いてしまうだろう。

 

 

「…髪を中に入れてフード被ってみて」

 

「かしこまりました」

 

 

サンコはその恰好に少し唖然となったが、すぐに意識を取り戻すと服に付いたフードを指さした。

サナは命令に従い、自らの髪を掻き揚げ自らの服の中に入れると、大きなフードを被った。

 

…目深なフードはすっぽりとサナの頭を覆い隠すと、顔を隠す。

 

服を着こなすではなく、着られているとでも表現すべきそれではあったが、正面以外からサナの肌の一切を隠しており、偽装としての効果は充分と言える。

その姿はファンタジーにおける魔法使いや、幽鬼のようであり、その高身長が更にそれを助長していた。

夜道にふらりとこんなのが歩いていたら、妖の類と見間違える程度には高く、何も持っていないその様はまるで服だけが動いているように見えた。

 

…確実にすれ違った十人中十人が振り返り、怪訝な目を向けるだろう。

 

 

「あぁー…いや、待てよ」

 

 

残念そうな声を漏らしたサンコだったが、何かに気がついたように少し思案する。

そしておもむろに足元の影を隆起させると、下から物を吐き出した。

 

それは…何の変哲も無いカバンだった。

 

 

「ほい、着て」

 

 

またもサンコに手渡されたカバンを、サナは何の躊躇いも無く背負う。

そのカバンはサナの体躯にあったそれなりに大きいもので、シズのように布で出来たリュックサックではないこの世界で一般的なモデルで目立つこともなかった。

 

そしてサナがそれを背負う事によって、妙な人間感と、頑丈さだけが取り柄の荷物持ち感が出ていた。

 

 

「そうだよ…!そもそも旅人なんだから最初からカバン持たせとけば良かったじゃん…うごご」

 

 

印象が大分変わったサナを見て、サンコは少し頭を抱え、時間効率の悪さを悔いる。

が、誤差ではあると思い直したサンコは自らの腕に持っていた服を空いた洋服ダンスの中に投げ入れた。

…洋服ダンスに投げ入れられた洋服は、洋服ダンスの中の闇に消えていった。

 

 

――サンコは改めてサナの姿を見て、違和感が無いか確認する。

 

 

茶色で目深のフードの外套は全身を隠し、覗き込まない限りはその顔を確認することは出来ないだろう。

背負ったカバンは人間の旅人感を演出し、その足取りを化け物のものでは無くした。

 

…それなりに目立つとはいえ不審には思われない程度には、変装できたんじゃないだろうか?

大丈夫だと確認したサンコは頷くと、振り返った。

 

 

「…よし。シズちゃん、この囲いしまってくれ!」

 

「…かしこまりました」

 

 

そして呼び掛けると、生えた木々の枝に渡されたロープに吊るされた迷彩柄の布の一枚が取り払われる。

外された背の高い布の向こうにはシズがおり、自らが外した布をクルクルと腕に巻きつけていた。

 

…その姿は既に変装済みである。

 

その外見はいつもの甲冑のようなメイド服ではなく、冒険者のような服装をしていた。

サナのように外見をすっぽりと覆うような外套ではないその服装は、どこか狩人のようであり、緑色のマントは膝の辺りにまで伸びている。

そのピンク色の髪は無造作に外に出され、眼帯はいつもの鋼鉄製のものではなく皮をなめしたような出来は良いがあまり目立たないものを使用していた。

しかしいつも身に着けている迷彩柄のスカーフだけは首に巻きつけており、顔の下半分を隠すと同時に、恐らくこの世界では一般的でない(・)その柄だけが目を引いていた。

 

 

「…サナ、ルプスレギナ呼んできて」

 

「かしこまりました」

 

 

そしてサンコに命令されたサナは、シズの引いた幕の隣をすり抜けて歩き始めた。

着慣れない姿だからか、それともその新しい感覚を楽しんでいるのかサナは、いつもより少しゆっくりと歩きながら首をくいくいと左右に動かしていた。

サンコはシズに視線を向ける。

 

…シズは背負っていた軍風のリュックサックを下ろすと、グルグルに丸めた迷彩柄の布をそのまま押し込んでいた。

勿論、普通のリュックサックでは無いため見かけ通りの容量よりかは遥かに多く入るだろうが、もう少し折りたたんで入れた方が幅をとらないだろう。

というかメイドとしてどうなのかと思うのだが、そういうところはシズはサナと似たところがあるのかもしれないとサンコは思い、逆にそういうことは解るルプスレギナとの違いは何だろうと推敲して、後回しにすることに決めた。

 

サンコはシズの扱っていない、まだかけられた状態の布の一枚を手に取り、シズに近づいた。

 

 

「ほら、見てみ」

 

「…」

 

 

軽くしゃがんだサンコはシズの目の前で大きく手を横に伸ばして、その両手に布の端を持った。

そしてそれを合わせるように二つに折りこみ、それを何度か繰り返して畳み込んだ。

 

…シズはそれを無表情のまま、その瞳にどこか興味深そうな色を出したままじっくりと観察する。

そして自らが押し込んでいた雑に巻かれた布に視線を移すと、掴んでいた手を引いた。

 

 

「…」

 

 

シズは立ち上がると、両腕をいっぱいに伸ばし、先程のサンコを真似するかのように折りたたもうとし始める。

…別に命令したわけではない自発的な行動に、サンコは興味深そうに見守る。

 

しかし、サンコとは違い大きな布を折りたたむにはシズの腕は長さが足りなかった。

布は中腹ぐらいで垂れてしまっており、そのまま最初に綺麗に畳むことは出来なくなっていた。

シズは明らかに不可能なそれに、ぐいぐいと布の端を引っ張り対応しようとするが、どうやってもできずに無表情のまま目に困惑の色を浮かべた。

 

 

「一度折ってみ?」

 

「…了解」

 

 

流石にと思ったサンコはシズに助け舟を出す。

そしてサンコの助言に従ったシズは一度強引に折りこむ。

 

 

「そこから合わせた端二つを片手で持って、合間に手を入れて伸ばして持てば…」

 

「…」

 

「あー…」

 

 

口頭での説明に固まってしまったシズにサンコは声を漏らすと、一度手に持った折りたたまれた布をシズのリュックサックの上に置くと、未だかかった二枚の囲いの布の内の一枚を掴んで下ろした。

そして一度畳む。

 

 

「こうして…こう」

 

「…」

 

 

実演することでやっと伝わったようだ。

シズはこくりと頷くとサンコの実演したとおりに畳み始め、サンコの一個目に畳んだものと同じ形にすることが出来た。

それを尻目にサンコも十分なまでに布を畳むと、先程置いたリュックサックの布の上に重ねる。

 

 

「…」

 

 

そしてその上にシズも自分の折った布を置く。

両手で恐る恐る置くようなその仕草には、やはりどこか幼児性が感じられ…感情があるようにも感じた。

 

…シズはかけられたもう一枚の布の囲いを、背伸びして取り外すと折り始めた。

 

 

(もう大丈夫かな?)

 

 

フーと息を漏らしたサンコは、振り返る。

そこには渡された囲い用の縄と、洋服ダンスが残っていた。

 

サンコはそれ以外に痕跡が無い事を確認すると、洋服ダンスに近づき、その右手で触れる。

すると右手が捕食するかのように大きく開き、洋服ダンスを身体に取り込み、その大きさ分膨張した後グプンと足元に飲み込んだ。

 

 

(…手からだと身体が膨張して目立つけど、小物だったら逆に便利だな)

 

 

龍の死体なども手から身体を伝って足元に落とすことも出来ただろうが、その分の身体を膨張させる必要の無い足元を薄く伸ばした吸収方法の方が遠目で目立たないため、大きい物を取り込むときはそちらで、小さい物の時は膨張も小さく気づかれにくいので、直接触って身体の中を伝わせた方が良いだろう。

直接的な吸収方法は「触って身体の中を通らせて落とす」方法と、「足元を薄く伸ばして沈ませてから落とす」方法の二つしかないが、使い分ければ問題は無い。

しかし、足元を薄く伸ばす方法に関して言えば円形にしか伸ばせないなど、まだ改善の余地はあった。

 

大きなものが身体を通っていく少し喉を食べ物が通るような感覚に近しいそれに、サンコは少し圧迫感と懐かしさを感じる。

普通に食べ物を食べても同じような感覚はするが、全身で大きなものを飲み込んだ方が刺激が大きく、穴が開いた心にはそちらの方が丁度良かった。

 

 

「――おほほ…何すかサナちゃんその恰好…」

 

 

その時遠くからルプスレギナの声が聞こえたような気がしたが、恐らく呼びに行ったサナと喋っているのだろう。

 

一番先に変装させたルプスレギナには周囲の索敵をしてもらっていた。

順番などに特に意味は無かったが、シズとサナの着替えに何かしら口出ししてくると、また時間がかかる故の措置だった。

 

 

「さてと…」

 

 

サンコは腕を物理的に伸ばすと、いまだ木にかかった縄を纏めて取り外す。

元は一本だった素縄は枝にかけられており、森の中を四角に囲っていた。

 

それを軽く引っ張ると結び目が解け、ピンと張っていた縄は力なく垂れる。

サンコは体内で手繰るようにしてスルスルと引っ張ると、体内に落としていく。

そして足元で掴んでおくと、色々な場所が置いてある場所に固定しておいた。

 

そのままざっと見渡すと、他に痕跡が無いか改めて確認する。

 

 

「あ…まぁ、一応ね」

 

 

すると洋服ダンスの下の雑草が大分しなりと倒れている事に気がついた。

正直すぐにでも戻るだろうし、それを見て何か危機感を感じる人間もいないだろうが、何かしらの障害に…なる可能性はある気がした。

 

サンコはしゃがみこむと、雑草の一本一本を丁寧に直し始める。

…そしてすぐ背後に立ったシズに気がついた。

 

 

「…」

 

 

少し不自然とも言えるサンコの背後という場所に立ったシズは黙ったままサンコの背中を見つめる。

目の前のことを続けながらサンコは、何か喋りそうなシズを見守った。

 

そしてシズは軽く口を開け――少し逡巡した後、述べた。

 

 

「…ありがとうございました」

 

 

そういって頭を下げる彼女にサンコは「何故ありがとうございました、なのか?」と尋ねたくなるが、一瞬のうちにその考えを捨てる。

そして無粋なその質問の代わりに軽く片手を上げると、返した。

 

 

「よし」

 

 

そのまま数十秒ほどもすれば林の中に、一切痕跡は無くなっていた。

そして立ち上がり、シズに振り返ったサンコは、遠くから歩いてくるサナとルプスレギナの姿を見つけた。

 

歩きながら二人は仲睦まじげに会話しており、ルプスレギナはいつも通りにニコニコと、サナは少し困ったような表情をしていた。

 

サナは今は長い外套のフードは外しており、ルプスレギナはいつも通りの戦斧のような錫杖を背中に背負っていた。

しかしその恰好はいつものようなメイド服では無かった。

 

 

その恰好は…長旅の中でも最低限できるオシャレと言った表現が適切だろうか?

 

 

丈夫そうな布地の端には所々レースがあしらわれ、スカートの端には白い華の刺繡がしてあった。

裾は少し涼し気に開き、中に着ている真っ白なワイシャツの首回りは少しボタンが外されていた。

そして全体的に見れば赤と白が半々と言ったその恰好は着るものが着れば高貴さを演出し、同時に他二人に比べるととても動きづらそうだった。

その服装は目立ちはしなさそうだが顔の一切は隠されておらず、あまり潜入だけの目的向きでは無いような気がした。

 

 

――どこか貴婦人の様ですらある。

 

 

そしてその頭には柔らかな赤色をしたつば広帽が乗せられていた。

 

深く被れば正面でも顔が見えづらくなりそうなそれは顔を隠すことは出来るが、目は引いている…がわざわざそんな目立つものを身に着けているにはそれなりの理由があった。

 

簡潔に言って――獣の耳を隠すためである。

 

普段は髪の中に紛れているルプスレギナの耳だが、物をよく聞こうとするときはそれは多少なりとも動いてしまうし、何かの拍子に目に触れてしまうかもしれない。

いつもは修道女のつけるようなキャップを被っているため問題は無いが、この服装にはそれにとって代わる何かしらの措置が必要だった。

 

そこで一般的な帽子を選び、しかも耳の色と同じ赤色を選択することで一目では解らないように、見辛いように細工した。

遠目でも近くでも一瞬は、帽子の色と勘違いするだろう。

 

 

…あえて問題を提示するならば褐色のその肌だろうか?

 

 

どうやらこの国、いやここら一帯の大地では所謂白人の方が一般的らしく、黒人や褐色といった人間は少ないようだった。

…服装で多少目立つくらいは良いが、その中身にまで興味を抱かれるのは危険かもしれない…が、改めて考えてみればここいらに住んでいるという設定ではないのだから問題は無いと勘繰った。

 

 

――サナとルプスレギナが合流し、四人になる。

 

 

サンコは向けられる三つの視線に少し息をつくと、改めて言った。

 

 

「これから法国による情報収集活動を開始する。…まずはここまでの行軍ご苦労、諸君」

 

「いえ、全ては主の導きあっての事です」

 

 

サナの返しにルプスレギナが噴き出しそうな顔をする。

頬の膨らんだその顔にサナは睨みを聞かせると、ルプスレギナはニコニコと微笑み始めた。

 

 

「…仲が良くて結構。だがふざけていられるのも今の内だぞ?」

 

「え、マジっすか」

 

「あぁ、これから本格的な潜入が始まるからな」

 

 

頷いたサンコにルプスレギナは少し眉をひそめるが、すぐにそれは笑みで流された。

そんなルプスレギナの様子を一瞥したサンコは、教師然一指し指を立てると、振り始めた。

 

 

「まず目的についての再確認だが、情報収集が主だ。地形、情勢、国力、脅威…上は国家機密から下は町の噂まであらゆる情報を収集し、来るべき時まで蓄積する。しかも情報収集している事を気がつかれないようにな」

 

 

情報収集されているという事に気がつけば誰だって何かしらの対策をしようとする。

したらば警戒度が上がってしまうので情報収集の効率が悪くなってしまうだろう。

 

サンコは一度息を切ると、続ける。

 

 

「そしてその手段には法国内の生活に自然に溶け込む方法を選択する。長期滞在となるためボロが出るのは怖いが、内部に居る分情報収集はしやすいだろう」

 

「…」

 

「故に諸君らには人間の変装をしてもらった。基本的にはその服装で任務にあたり、随時俺の命令を遂行できるように最大限の注意を払ってもらう!潜入とは一度のミスで全てが台無しになる危険な仕事だからな!」

 

 

言い切ったサンコは少し思案する。

そして三人を見渡した。

 

 

「この時点で何か質問は?」

 

「はいはい!サンコ先生はいっす!」

 

「はい、は一回!やり直し!」

 

「はいっす!」

 

「はい何ですかルプスレギナ君…」

 

 

沼地から出た事の反動なのかいつもより僅かにテンションの高いルプスレギナが勢いよく右手を上げる。

…サンコは少し呆れながら、ルプスレギナを指した。

 

ルプスレギナはゴホンと咳ばらいをすると、少しもったいぶったような表情で質問する。

 

 

「…えー、自然に溶け込むって言ってたっすけど…具体的にはどうするんすか!」

 

「…ほぅ…思ったより良い質問だな」

 

 

法国の生活に溶け込む、というのは口では言えても中々に難しい。

現代で言えば国籍はとらずとも家を買うことは出来るが、この法国ではどうか解らないし、部屋を借りるにしてもうっかり中を覗かれてしまったらと考えると危険だろう。

 

故に情報が無い今の状態で「自然に溶け込む方法」というのは予想のしようが無い。

だからこそ、それが気になったルプスレギナは尋ねたのだろう。

…当たり前と言えば当たり前の質問だが、当たり前故に気づき辛い良い質問だ。

 

サンコは感心すると、少し上機嫌に答える。

 

 

「自然、ということはつまり言い換えれば怪しまれない事と同義だ。そして先程も言ったが長期的に滞在するからには長い合間怪しまれないようにするのは中々に難しいだろう。ではその上で怪しまれない方法は…」

 

 

…そこでサンコははたと足を止め、空を仰ぎ見るとその動きを完全に止めた。

 

その茫然自失と言った様子に、笑みを浮かべていたルプスレギナすら困惑の表情を浮かべ、他二人は身構える。

そして実に長い時間が過ぎた後、サンコはグルンと首を回すと、困ったような笑みを浮かべながら三人に質問の答えを返した。

 

 

「…行商人のようにして町の中に入り、町に腰を下ろした風にするのが最適解…と思っていたのだが、これには論理性が無いことに今気がついた」

 

「…!…」

 

 

ルプスレギナが驚いたような顔をする。

しかしそれは「驚いたような顔」でありすぐにそれは少し小馬鹿にしたような含み笑いに変わっていった。

…それとは対象的に残りの二人はあまり話を理解できていないようで、いつもと変わらない表情を浮かべていた。

 

 

――サンコは顎に手をやると、その表情には目を向けず、語り始める。

 

 

「なんと言った物か。行商として町の中に入り、腰を落ち着けるという手法自体は悪くない…上手くやれば怪しまれないどころか信用が置かれ、情報収集がしやすくなるという可能性も十二分にあるだろう」

 

「ん…じゃあ何に論理性が無いんすか?」

 

()()()()だ」

 

 

人差し指を自らの口元に当て尋ねるルプスレギナに、サンコは両手の指を折り曲げるように「二つのモノ」を強調しながら即答する。

そして右手…「手段」を見ながら説明する。

 

 

「今回の目的は情報収集…だがその目的だけだったら俺一人だけで構わない」

 

「…あ!確かにサンコ様だったら…」

 

「そうだ。俺だったら誰にも気づかれず都市内部に潜入し、一般人の会話を盗み聞くことだって、最深部に潜り込んで重要書類を盗んでくることだって出来る」

 

 

サンコは元々潜入専門の盗賊…スパイだ。

大分その勘は失われてはいたが、持ち合わせた性格と能力自体は失われている訳では無いので、今言った内容に何ら嘘は無い。

そしてそうだったならわざわざ行商という手法をとる意味は無くなり、サンコの単独潜入という手法の方がリスクが無く、効率も良いと言えるだろう。

 

――もし目的が「情報収集」だけだったなら。

 

 

「だから俺は論理性を保つために、目的について変更を加えなければならない」

 

「…目的、っすか?」

 

 

またコロリと表情を変えたルプスレギナは、少し気楽な様子で尋ねる。

それに対しサンコは逆に、今度は左手の「目的」を強調し始めた。

 

 

「そうだ、俺は目的として情報収集と言ったな」

 

 

その目的の説明は先程もそうだが、旅を始める前に行ったブリーフィングの時も三人に対しサンコはそう説明した。

彼女達の中にそれ以外の理由は無いだろうし、それ以外の理由を彼女達が思いつくわけが無いだろう。

 

――「欠けている存在」が自分の欠点に気が付けることはあっても、それを自分で治すというのは難しいのだから。

 

 

彼女らに隠してはいるが今回の旅の目的は「情報収集」もそうだが、「彼女らの欠点を修復、あるいは調整する」という目的がある。

 

 

その「理由」は世界征服のためにシモベ一人一人に「支配者の資質」…あるいは元人間であるアインズと自分の命令を誤認識しないように。

そしてそちらの方が彼女らにとっての…恐らく「幸せ」のためになるからだ。

 

ではその「手法」は。

 

感情を学ぶには感情を持つものから…というのが基本だ。

人を傷つけられるのは人間しかいないし、また同じ理由で愛することができるのも人間だけだ。

…とはいえ全くのゼロの状態から傷つけられることも愛されていることに気がつくことも(・)難しいので、この場合は新しい環境に身を置かせることによる成長、と言った方が適切だろう。

 

 

――つまりサンコとしては「人間の中」という「新しい環境」に彼女達を置きたかった。

 

 

「あれは嘘だ」

 

「ウワーシンジテタノニー」

 

「…正直すまんかった」

 

 

だが、そのまま伝えるわけにはいかない。

「お前には欠点があるから今からそれを直す」なんて言えば、変に身構えてしまうのは常だろうし、傷つけてしまうだろう。

それでは自然に修正することは出来ないし、何より傷つける気などない。

 

 

「…実は、人間の中でもシモベが問題なく生活できるかのテストケースを実証するという目的も加えてあったんだが…言い忘れてたわ、うっかりうっかり」

 

「…えぇ」

 

 

元々これは言う気の無かった「誤算」だ。

その場凌ぎの嘘は矛盾が生じる可能性もあるし、気づかれやすい欠点もある。

とはいえ今ここでそれを言わなければ逆に怪しまれるだろうし、それ以外の理由も思いつかなかった。

 

ルプスレギナの困惑した表情にサンコは一抹の不安を抱いたが、後で何かしらのアプローチを加えるしかないと内心で腹をくくった。

そして他の二人の理解していないような顔に別の意味で不安を覚えた。

 

 

「人の中っすか…」

 

 

そして困惑したままポツリと呟いたルプスレギナは、またも尋ねる。

 

 

「論理性が証明されたのは解ったんすけど、じゃあその上で具体的にどうするんすか?」

 

「あぁ、目的が加えられてもその内容までは変わらない」

 

 

サンコは少し明るい声を出すと、空気をわざとらしいくらいに変える。

それをルプスレギナも感じ取ったのか、つられて少し微笑んだ。

 

 

「簡単に言って()()だ」

 

「薬師っすか?」

 

「…薬」

 

 

サンコの言葉に二人が反応する。

 

 

「そうだ薬師!彼らの言う事は正しいように見え、正しいように聞こえる!今はどうだか知らんが、昔の彼らのほとんどは詐欺師だった!」

 

「…何故でしょう?」

 

「薬と毒だよ。信用の獲得さえしてしまえば、少しおかしいと思う行為ですら看過される。人間とはそういうもので、薬師というのはそれがやりやすい」

 

「…偽りやすい職業…」

 

「そうだ。病気に関する知識なんかはこの世界よりナザリックの方が詳しいだろうし、そうなれば町の薬屋さんという表向きは確保できるだろう。なんなら奇病を蔓延させて自らでそれを治すというのもいいかもしれないな」

 

 

実のところ医者、薬師というのが法国でどんな立ち位置なのかは解らないが、自らの利益になるものに人間は悪い顔はしないだろう。

打算でしかないかもしれないが、現実においても医者が迫害される事態なんて数件くらいしか聞いた事が無かった。

 

サンコの力強い言葉に頷いたシズは、首に巻いたスカーフに顔を埋めた。

それを尻目にルプスレギナが首を傾げ、また次の質問をする。

 

 

「薬師ってのは解ったんすけど、じゃあこの恰好は何でっすか?」

 

 

ルプスレギナが自らのスカートの端をつまみ、翻した。

赤と白が踊り、フリルが可愛らしく揺れる。

 

その恰好は薬師とは言えないし、目立ちすらするだろう。

それどころか変装した三人の誰もが薬師のようには見えなかった。

 

――「薬師という設定」には即していないように思えるだろう。

 

ルプスレギナの真意を汲んだサンコは肩をすくめる

 

 

「別に全員が薬師であるという必要は無いし、行商だとも言ったろ?」

 

「ん…つまり旅をしながら薬を売っていて、たまたま法国に立ち寄ったって事っすよね」

 

「そうだ。そして不思議かな、人間は()()()の言葉を信じやすい傾向にあると俺は思う」

 

「…え?」

 

 

サンコの言葉にルプスレギナがその動きをぴしりと止める。

そして特に何の感情も浮かべていない二人にギギギと振り返った。

 

…そんなルプスレギナにサンコは追い打ちをかける。

 

 

「サナは荷物持ち、その巨体で旅の荷物を運ぶ少し頭が足りない役をやってもらう。次にシズは旅の護衛の無口な冒険者だ。ただの薬師、荷物持ちだけで旅をしているなどというのはこの環境下ではありえないだろうからな」

 

 

二人の格好はそれに適している、というか、最適化してある。

個々で見れば目立つかもしれないが、旅をしながら薬を売っている一団と考えれば、おかしくはない服装だ。

 

…それを首を細かく横に振って確認したルプスレギナは、ゆっくりと振り返り笑顔を見せる。

そして冷や汗を流しながら尋ねた。

 

 

「え、えーと一応聞くっすけど…私は…?」

 

「…ルプスレギナ」

 

 

サンコはニヤリと笑うと、ビシリとルプスレギナを指さし、言い放つ。

 

 

 

「君には俺の妻になってもらうぞ!!」

 

 

 

・・・

 

 




嫁スレギナ・ベータ。彼女の運命やいかに…!?

薬師のは偏見です。やあくまでこの世界線ではです。

次回はもっと早く投稿できるかな?やる気ありありだし。

うー☆

…ではではー
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