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ナザリック地下大墳墓最高支配者の執務室。
ここはナザリック地下大墳墓の中でもとりわけ豪華だ。
まず部屋に入るとその足をカーペットが受け止める。
床に敷き詰められた赤色の絨毯は歩いても音が出ず、足を柔らかに受け止める。
次に目に入るのは、飾られた芸術品の数々だろうか。
和洋様々な装飾が施されたそれは、部屋の中に一種の神秘性と格の高さを与えていた。
それでも西洋の神を象った物が無いのは部屋の主である彼が、神を恐れているからだろうか?
答えは、否だ。強大な彼にとって神など恐れる対象ではないのだから。
事実彼は神と呼ばれるモノを倒したことだってある。
部屋の奥の執務席に座る彼の名前は「アインズ・ウール・ゴウン」。かつてモモンガとしてギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のリーダーとして活躍し、今は地下大墳墓の主であり、その身を執務机かかりつけの椅子に沈めていた。
その容姿は凶悪なアンデッド…つまり骸骨で、その体を漆黒のローブで包み、それぞれの指には九つの指輪を嵌めていた。
その姿を一言で表すなら「死の魔王」だろう。
しかし中身は「鈴木 悟」という名前の一般人だったりする。
「やれやれ、これからどうすべきか」
この世界にナザリック地下大墳墓ごと飛ばされてから早8日。
その間アインズは地下墳墓やシモベを見て回り、地下墳墓自体には変化が無いことを確認した。
そしてそろそろ次の行動を起こすべきだと判断していた。
しかし今日はいつもと違うことがあった。
そう、いつもなら「全てはアインズ様の御心のままに」とでもナザリック地下大墳墓守護者統括であるアルベドが言うだろう。しかし今日に限ってアルベドは傍に控えていなかった。
(休憩に出てからしばらく経つけど…何かあったのかな?)
執務を行い始めてから早三時間。アルベドには書類作業の手伝いをしてもらっていた、例えるなら優秀な社長秘書のような感じだろうか。
アンデッドになってから自分自身疲労は感じなくなったが、ブラック企業の辛さは知っているので、試しにアルベドに休憩を勧めてみた
そこでアルベドは非常に複雑な顔をした。
この時、アインズは知る由もないがアルベドの中では二つの気持ちが争っていた。
一つはシモベとしての気持ち。
片時もアインズの元を離れたくはないという女の気持ちは彼女にあった。
しかしもう一つも重要なのだ。
それはナザリック地下大墳墓守護者統括としての務めを果たさなくてはという存在意義か、呪いにも似た思い。
今のアルベドにはアインズから離れてでも明かさなければいけない謎があったのだ。
だからアルベドはアインズに深く頭下げると急ぎ足で執務室から出て行った。
(今のところ特に問題はないけど…)
今アインズがしているのは部下から送られてくる報告書の書類整理なのだが…アルベドがいたら便利くらいで、いなくとも…まぁ普通に業務はできるのだ。
とはいえもちろんメリットはある。
箇条書きにするならば。
アルベドのような美女が部屋にいるだけで仕事の効率があがる。
なんなら世界が平和になる。
戦争がなくなる。
喧嘩が無くなる。
そして世界中が笑顔であふれる。
世 界 平 和
(とはいえ長い合間いなくなられると不安だな…)
アルベドがいなくなってから30分…さすがに墳墓から出てはいないと思うが、流石にここまで長い時間離れられると何かトラブルが起きたものかと不安になっていた。
何分後に戻る予定か、とか聞いておくべきだっただろうか?…いや女性にそんなこと聞くのは無粋というものだろう。
…まぁ自分は自分のやるべきことをやろう。
アインズは机に乗った次の報告書の束に手を伸ばすと報告者名を確認する。
「これは…アウラか」
万年筆で書かれた子供らしい丸っこい文字を微笑ましく思いながらアインズは報告書に目を通す。
(問題はないようだな)
どうやら命令した地下大墳墓周囲の探索は、滞りなく進行しているらしい。
現在アウラ達は地下墳墓近くの大森林を抜けた先の山脈の麓に広がる湖まで順調に調査している。そしてプレイヤーなどの脅威も確認されていないようだ。
ならこのまま進めても問題ないだろう、アインズはそう判断すると書類に「そのまま命令を遂行するように」と書き込んだ。
後でまとめてアルベドが各部署に命令を伝えてくれるだろう。
そして書類を書き終わったタイミングでドアがノックされた。
「守護者統括アルベド、ただいま参上しました」
「アルベドか…入れ」
どうやらアルベドが戻ってきたらしい。
しかし仕事熱心なアルベドがここまで席を外すのは珍しい。
別段怒っている訳でもないが…純粋な好奇心は残る。
はいはいデリカシーデリカシー。
そして許可に従い、アルベドは扉を開けると部屋に入った。
「大変申し訳ございませんでした!」
――そして土下座した。
「は?」
アインズは驚きのあまり素の声を出してしまう。
アインズはアンデッドになったが「鈴木 悟」としての人間の残滓というものがある。それのおかげというかアインズは驚くことができる。
しかしこの時のように、余りにも大きすぎる感情は強制的に「抑制されて」しまうのだ。
…自分の大切な部下が入室してすぐに土下座した場合などがこれにあたる。
(とりあえず理由を聞かねば…!?)
「あ、お、ご――ゴホン、アルベド…なぜ頭を下げる?答えよ」
アインズは膝をつき頭を地につけたアルベドに理由を尋ねる。そしてアルベドは顔をあげるとその美しい顔が最大限緊張していることをうかがわせた。
「ハッ!この度はアインズ様の補佐という立場にありながら、アインズ様の比類なき優しさに甘え、あまつさえアインズ様の貴重なお時間を無駄にしてしまったことを謝罪させて頂きたく存じます。いかなる処罰も受ける覚悟でございます故、何なりと…!」
「…なるほどな」
(どういうこと!?)
あ、いや…冷静に聞けばわかる。
どうやら休憩が長すぎたことを謝っているようだ。
(いや怒ってはいないんだよなぁ…)
どうも守護者含め部下たちは大袈裟なところがあるように思える。
休憩時間が長かったくらい全然問題ないというのに…
なら正直に許せばそれでいいだろう。
「よい、アルベド。ゆる」
「その上で!お聞きしたいことがあります‼」
「す」
(て、えぇぇぇえ!??)
今まで、これほどアルベドが意見したのは初めてだ。
正直、珍しいどころの話ではない。
なぜなら彼ら部下たちににとって、アインズに意見することは下手をすると「反逆」になりかねないからだ。
そしてアルベドの顔は真剣そのもの。
…つまり、彼女にとって、反逆を覚悟の上でアインズに意見しているということなのだ。
アインズはそのことに気が付くと、真剣に話を聞くことを決意する。
「…そうか。聞きたい事か。」
「ハイ……!アインズ様に不敬な行いをしたうえに不躾な質問をする愚かな私を許していただけるというのなら…是非にでもお教えいただきたいと…!」
アルベドの目は爛々と光り、ナザリック地下大墳墓守護者統括としての本気が見て取れた。
「どうでしょうか…?」
「…よい。お前と、その質問を許そう」
「ハッ、寛大なお心遣い、嬉しく思います!」
アルベドは恍惚といった表情を浮かべると、再び頭を下げて服従の姿勢をとった。
アインズは一応ホッとする、そして居住まいを少し正すと次の言葉を勧めた。
「してアルベドよ…いつまでそのように這いつくばっている?それともそのまま質問するのか?」
「…アインズ様は至高の御方、許してくださるのであればいつまでもその御足の下で這いつくばっていたいのですが…お言葉に甘えせて立たせていただきます」
「あ、はい…」
そう言って立ち上がるアルベドに、若干素で引きながらアインズはゴホンと咳ばらいをした。
咳ばらいの意味をくんだアルベドは、静かにそして早く執務机に近づいた。
「まずはこちらをご覧ください」
そう言ってアルベドが取り出したのは書類の束。
「これは…アインズ・ウール・ゴウンのNPCについてまとめた書類か」
アルベドが取り出したのはナザリック地下大墳墓のNPCと自動POPするキャラについてまとめた書類だった。量が多いため簡略化されているがシモベ達の「名前」「レベル」「想像したプレイヤーなどetc」が書かれているのだが…
ならば聞きたい事というのはシモベについての事なのだろうか?
「はい。そして聞きたい事というのが…」
アルベドは書類をペラペラとめくると、そしてある一つのページに行き当たったところで指を止めた。
「こちらです」
アルベドはめくったページのところを取り出すと、執務机の上に置いた。
「ふむ…」
「そしてこちらをご覧ください」
アルベドは前かがみになると白く伸びた指で書類の一部を指した。
そこに書かれているシモベの名前は…
「サナ・リムファティック…?」
アインズは指を頭に当てると少し考える。
あまり名前に覚えがないシモベだ…。八日のうちに全シモベとあったはずだが…いただろうか?
しかし憶えていない割にはレベル80代とかなり高かった。
そして…
「…!」
「アインズ様ならお気づきだと思われますが…こちらを」
次にアルベドが指さしたのはレベルの隣、創造者の欄。
「これは…!」
創造者の欄は「真っ黒」に塗りつぶされていた。
「…」
「…アインズ様。ナザリック地下大墳墓守護者統括の身である私は、戦力になる者は知っておかなければなりません。その者の戦力、レベル、可能なこと、配置場所…あらゆる状況に対応し、防衛ができるようにしなければなりません。全てはナザリックとアインズ・ウール・ゴウン様のために!」
「…うむ」
「なので墳墓内を独自に調べました。どこかに配置されているのだとすれば、会って黒く塗りつぶされている理由も解ると思ったからです。」
「そうだったのか!」
調べていたからさっきも遅くなったのか。アインズは一人納得すると頷いた。
そんなアインズに心当たりがありそうだと判断したアルベドは続けた。
「ですが…どこにもこんな者はおりませんでした」
「…」
「第一から第八まで及ぶ階層の全ての階層守護者、領域守護者、自動POPするモンスター、そして戦闘はしない一般メイドにわたるまで、名前の確認と聞き込み調査を行ってきましたがそんなものは知らないと」
「ん…?いやちょっと待て、もしかして今の三十分の間に、外に出ているアウラ達にも聞いてきたのか?」
「?えぇ、はい」
訂正。遅れてなかった、普通に考えて十分に早い。
どうやら全力疾走でナザリックの者たちに聞いて回ったようだ、物理法則超えてるような…?
しかしシモベがナザリック地下大墳墓にいないとはどういうことだろうか?
それに創造者の欄も書かれていないのも異様だった。
(いやあの人か…)
思い当たることはある。ギルドから「抹消」されたあの人なら…!
「ではアルベド、その者は何処に行ってしまったのだろうな?いや、そもそもそんなシモベはいるのか?」
アインズは答えを思いついた。じゃあ何故こんなことを聞くのかというと…アルベドの「答え」を知りたくなった、からだろうか?
アルベドが答えに辿り着いているか気になったのだ。
「アインズ様これから私が申しますのは推測の域を出ない戯言でございます。しからばアインズ様を不快にさせてしまうかもしれません…その場合は」
「良い、よいのだアルベド。私はお前が答えに辿り着いているのか気になった。いかなる結末だろうと間違っていようと誰がお前を処断できようか」
「感謝します、アインズ様」
アルベドは再び頭を下げてアインズに感謝の意を表した。
「では…」
アルベドは頭を上げると微笑み「推理」を始めた。
「まず確認なのですが、アインズウールゴウンには他のギルド、プレイヤーがNPCを作ったりなどは行われましたか?」
「いいや、そんなことは世界級アイテムでない限り不可能だ。ありえない」
「ありがとうございます、アインズ様。これで可能性を排除することができました。」
アルベドは更に笑顔になる。
「…ところでアインズ様、この掲げられた旗なのですが」
そしてアルベドは、アインズの後ろに掲げられた41の旗を指さした。
「ああ、これはギルドメンバー一人一人を表している」
「えぇ存じております。至高の41人の御方々のそれぞれの個性を表した素晴らしい旗だと思います。しかし…」
「なんだ?」
「はい…この旗は至高の41人そのもの…しかしその旗を差す
「…!」
そう、壁にたててある旗は「至高の41人」…つまりギルドメンバーの数だけある。
それは旗立の数も同じ…のはずだ。
しかしこの部屋には旗立が「42」あった。
何も差さっていない42個目の旗立、それはつまり――?
「黒く塗りつぶされた創造者様の名前…そして42個目の旗立…私はこれを
「完璧だ!アルベド!」
「感謝の極み…」
アインズは立ち上がると称賛の意を表した。
まさかこの少ない情報でその真実に辿り着くとは…!アインズは素直に感嘆していた。
「いやはや…アルベドは凄いとは思っていたがここまでとはな!」
「そんな…アインズ様に比べたら私など虫けらほどの知恵も持ちません」
「いや本当にそんなことは――ゴホン、しかしいつから気づいていたのだ?」
「旗立が42個あったのでそういう事もあるのかもしれないと可能性だけ考えておりましたが…今回のことでその可能性が高いと気づきまして」
「流石だな…」
そしてアインズは再び椅子に座ると、その身を椅子に深く沈めた。
「他に誰かに言ったりなどは?」
「いいえ、しておりません」
「ではこれよりこの事は口外することを控えよ」
「ハッ」
アルベドが傅き、そしてアインズは「どこまで」話をしていいものか悩む。
「そしてアルベドよ…」
「ハッ」
アインズの呼びかけにアルベドは顔を上げた
「これから話すことも口外をすることを禁ずる…二人だけの秘密というやつだな」
「はひぃっ!?」
「ど、どうした?アルベド」
突然のアルベドの奇声に、アインズは何事かと身構えた。
「もっ申し訳ありません。アインズ様!私には構わずお続けください」
アルベドは恍惚の表情をすると腰をブルッと震わせた。
「な、なら続けるぞ」
アインズはそれを極力無視すると続けた。
「これはアインズ・ウール・ゴウンに
そしてアインズはかつて「アインズ・ウール・ゴウンにスパイに入って仲間になった」彼の事を話し始めた。
「彼の名前は――
しかしその時、扉が勢いよく開け放たれた。
「報告しますッ!!」
開けたのは一般メイド。
しかし彼女にはいかなる理由があっても許可なしに、それもこんな勢いよく扉を開けていいはずは無かった。
…一つの理由を除いては。
「貴様ッ!!ここがアインズ様のおわす場所と知っての狼藉かッ!!!」
瞬間、アルベドが最大の殺意と共に吼えた。
しかし、一般メイドはそれを無視すると部屋に入って跪いた。
「待て」
アインズの待ての声に、アルベドは動きを止めた。
アルベドはメイドへの距離5mを一瞬で詰めて、そしてその手はメイドの胸先の1cm前にあった。
もしアインズが待てと言わなければアルベドの手はメイドの胸を貫いていただろう。
「しかしッ!?」
振り返るアルベドを手で制すると、アインズはメイドに向き直った。
「…報告と言ったが、なんだ?」
「アインズ様、ご無礼をお許しください。現在1、2、3階層にて…」
そしてメイドは息を整えると言った。
「
「二人だけの秘密」で興奮するアルベドェ…
あと侵入者が侵入しましたっって日本語大丈夫なんだろうか?
NPCタグというものもあったのですが、再編集したのを書類にまとめた感じですね