つまりサブタイに意味はない。(Q.E.D.)
吸血鬼の花嫁たんたそのポンコツ度が凄いことになった今回。
作者腱鞘炎につき内容が…ご察しください。
・・・
「何者でありんすか?おぬしは?」
第1,2,3階層。ナザリック地下大墳墓に来た侵入者がまず足を踏み入れる場所だ。
他の階層に比べ、特徴と呼べる特徴はないが、あえて一言で表現するなら「凶悪」だろうか。
この階層のギミックは侵入者を嘲笑い、
それだけではない、階層守護者である「彼女」が問題なのだ。
彼女の名前は「シャルティア・ブラッドフォールン」。第1,2,3階層を任せられた階層守護者で、銀髪の美少女だ…見た目は。
彼女の真の姿は「真祖(トゥルーヴァンパイヤ)」。信仰形の魔術を修めた吸血鬼なのである。
そんな彼女の戦闘能力はナザリック内でも上位を争い…いわゆる「
侵入者にとって、正(まさ)しく「悪夢」。彼女はそれを体現している。
そんな彼女は、今「侵入者」と対面していた。
「人に名前を尋ねる時は自分から言うのが礼儀らしいよ?お嬢ちゃん」
「…悪いんすが、あなたみたいな不愉快な侵入者には、名乗る礼儀も必要もありませんゆぇ」
「…不愉快?俺なんかしたっけ?」
第二階層、そこから第四階層に「徒歩」で行ける唯一の階段…のすぐ手前の石造りのロウソクが立てられた廊下、そこにシャルティアと侵入者はいた。
シャルティアは侵入者を阻むように階段の目の前に仁王立ちしており、一人で目の前の侵入者と相対していた。
純粋な距離で言えば第三階層に階段を作った方が早い。しかし迷宮のような構造上からか二階層から四階層に、三階層をぶち抜いた形で階段が設置されていた。
そして何より、二階層には「死蝋玄室」…「シャルティアの居城」がある。
場所は丁度ここ、四階層に続く石造りの廊下に隣接していた。
ちなみに四階層に続く階段はここにしか無い――
――つまり、第四階層に行くためには、シャルティアと闘わないことには進むことはできないのだ。
シャルティアはこぶしを握り締める。
「なんで不愉快か、でありんすかぇ?それは――
シャルティアは怒りに顔を歪めると、殺気と共に吼えた。
――貴様が姑息にもここまで誰にも気づかれずに忍び込んだからだ!盗人‼」
シャルティアの本気。
その「力に」髪は重力を無視して逆立ちし、空気自体が彼女に怯え萎縮していた。
その「目は」赤く染まり、全ての生あるものの魂を憎悪の炎で燃やしていた。
吸血鬼の殺気はこの場の全てを白く染めた。
もし一般人がこのレベルの殺気を受けたら卒倒、人間のいわいる強豪というヤツであれば、失禁した後に体が硬直し、
「シャルティア様‼」
そしてその殺気に反応したのか死蝋玄室のトビラが開くと、シャルティアのシモベである「
して、その顔面は蒼白。元々血の気を感じさせない顔だが、なおさら白くなっているように見えた。
「お、遅れてしまい申し訳ございませんでした。…シャルティア様お下がりください…!こいつ程度私達が…」
吸血鬼の花嫁はシャルティアの近くで膝まずく。しかしその肩は小刻みに震え、恐怖していることを覗わせた。
シャルティアはそれを煩わしそうに見ると、めんどくさそうに口を開いた。
「アインズ様から預かりもうしたこの階層で、ここまで侵入を許してしまいんした。こいつは私が直々に仕留めんす」
「で、ではアインズ様にご報告は…?」
「当たり前でありんす!グズグズしてないで早くいきんなまし‼」
シャルティアの怒号に、吸血鬼の花嫁達は飛び跳ねると第四階層への階段を走り去って行った。
そしてそれを見送ったシャルティアはグルっと振り返ると、侵入者にさっきと変わらない殺意に満ちた眼差しを向けた。
しかし突然、妖艶な笑みを浮かべた。
「…ちなみにでありんすが」
「なんぞ?」
シャルティアは侵入者に尋ねる。
「今、降伏するならできるだけ苦しまずに殺してあげんしょう」
これはいつか、侵入者が来るたびに私が言っていたセリフだ…まぁそれがいつかはよく憶えていないが。
しかし、侵入者はそれを笑う。
「いやーホントに
「そうでありんすか…じゃあ徹底的にぶち殺させていただきんす!!」
シャルティアは強く踏み込むと、石段を砕き「滴る影の化け物」に飛びかかっていった――。
・・・
「…第一から第八までの全シモベ達と守護者達に通達、各員持ち場に戻り最大警戒…敵は戦闘能力は低い可能性が高いが絶対に油断はするな」
「ハッ」
「次、第九階層の一般メイド達は一時隔離場所である食堂に避難。セバスと
「ハッ」
侵入者の報告に伴いアインズは司令官として各階層に命令を送っていた。
そして通達役は、本来アインズを影で護衛している
(しかし…)
先ほどのメイドの侵入者の報告が気になる。少ない情報だったが「一気に二階層最奥まで忍び込まれた」といった内容が含まれていた。
つまりそれは――それまで誰にも気づかれず、トラップにも引っかからなかったということだ。
もしこれを第六階層までしようとするなら…最低でも「盗賊系レベルが70以上」あった上でかなりの「種族的優位性」を持っていない限り不可能だろう。
しかし第三回層のシャルティアに発見されたとも報告された。というぐらいであれば実際は盗賊系のレベルは55~60くらいだろう。万能型か…種族盗賊特化型のどちらかだろうが…
だが「囮」という可能性もあった。
(だとしたら目的は…宝物殿か)
ユグドラシル時代、「山の翁」という盗賊系ギルドがあった。
盗賊系ギルド一位だったそのギルドは、盗賊系暗殺系のレベルを持った者が多く所属しており、上位ギルドの本拠地に忍び込み、恨まれない程度に少量の高価な物を盗んでいった。
盗賊というより怪盗に近かっただろうか。
ここで問題なのはそこじゃない、彼らのよく行っていた戦略が結構特徴的だった。
まず…少しは戦闘ができる斥候が一人で潜入。その時点でばれないようなら後続部隊と入れ替わり、潜入スキルの高い後続部隊が盗みに入る。
もしばれるようなら斥候がそこで時間を稼ぎ、後続部隊がそのどさくさに紛れて侵入して宝を盗み出す。
という戦略を行っていた。
であるならば…現在確認されている侵入者以外にもいる可能性があった。
勿論模倣犯という可能性や、たまたま似た戦略という可能性はある。
山の翁ではない可能性の方が高い。
つまりここで言いたいのは「敵に高レベルの盗賊がいるかもしれなという情報を手に入れた時点で宝物殿への侵入を許してはならない」ということだ。
だからこそここにアルベドはいなかった。
自由に階層間を移動できるリングオブアインズ・ウール・ゴウンを今あるだけ持たせ、防衛させに行った。
それにアルベドは猛烈に反対したが、却下した。
確かに本来の司令官である彼女の方が向いているのかもしれない…が経験で言えばアインズでもなんとかなるだろう。
それに今回はそもそも敵の戦闘力は問題でなく、盗まれる心配の方が大きい。であるならば直感力が僅かでも軍配があがるアルベドを送った方がいいだろう。
何より…宝物殿内では魔術師のアインズより、戦士職のアルベドの方が戦いやすいだろう。
(というより情報が早すぎる)
こちらの世界にやってきてからアインズ・ウール・ゴウンは何の行動も起こしていない。
確かに村での一件はあったが…
どこから情報が漏れたのだろうか?
プレイヤーの可能性も――?
「…原因究明は後回しだ。今どうするべきか…」
アインズは呟くと椅子から立ち上がった。
「どちらへ!?」
残ったエイトエッジ・アサシンの一匹が、慌ててアインズに尋ねる。
アインズは骨の指を顎に当てると答えた。
「…第四階層に…いや、侵入者に会いに行く」
「しかし御身の御体は…!?」
「今回の侵入、推測でしかないが敵の戦闘能力自体は大したことはない…であるならばここで戦況をみて指揮するというよりも前線で敵の潜入を察知すべきだろう。」
「さ、流石アインズ様!そこまでのお考えがあってのことだったなんて…私の浅考をお許しください」
それを聞くと、エイトエッジ・アサシンは更に深く頭を下げた。
アインズはその横をすり抜けると自ら執務室の扉を開けた。
「許す…しかし私の気づかないこともあるかもしれない、その時は頼むぞ?」
「…!ハッ!!」
そしてアインズはエイトエッジ・アサシンを連れてナザリック内を歩き始めた。
・・・
第四階層。
第二階層へと続く階段の前の
「…む?あれは確かシャルティアの…」
見れば、階段の先を伺う吸血鬼の花嫁達がいた。
(シャルティアは戦闘中だったか…)
おおかた戦闘の余波を受けない為の退避なのだろうが…
(しかしまだ続いているとなると…手こずっているのか?)
上からはまだ戦闘音が続いている。それはつまりシャルティアがやられていない事の証明でもあるが、同時にまだ侵入者を葬れていないことも証明していた。
(やはりプレイヤーか…?交渉というのもいいが…)
アインズは考えながら階段に向かって歩き始めると、足音に気づいた吸血鬼の花嫁達が慌ててその場で服従の姿勢をとった。
「あ、アインズ様におかれましては…」
「ますますご盛栄のことと…」
「長い前置きはいらん、状況は?」
「「ハッ!!」」
そして吸血鬼の花嫁達は頭を地面に擦り付けると報告を始めた。
「現在第三階層にてシャルティア様と侵入者が交戦中!」
「聞き方がまずかったな、侵入者の情報を教えてくれ」
「い、いえ!申し訳ございません!アインズ様の意図をくみ取れずに…」
「…貴女ごときにアインズ様の海よりも深い意図をくみ取れるわけないでしょ…!」
「…貴女もアインズ様の御前よ!?…やめなさいって…!」
「…ことは一刻を争う、
「「たっ大変申し訳ございませんでした!!」」
アインズはため息をつくと、吸血鬼の花嫁達の話を聞き始めた。
「まずあれは…人間ではありませんでした」
「だろうな、外見的特徴を教えてくれ…解るかもしれない」
「は、はい!え、えーっと…液体のような…スライムでした」
「ほう、スライムか。他には?」
「色は黒くて…まるで影みたいでした」
「影みたいなスライムか…ん?」
「一応人の形はしていましたが…液体のように影が滴っていて、影に半分浸かっている感じでした」
「液体のような影のようなスライム…液体のような影のようなスライムだと…?」
「アインズ様?」
「どうかなさいましたか?」
報告を受けたアインズがプルプルと震え始めたのを見て、吸血鬼の花嫁達は慌て始めた。
そして伏した状態で争い始めた。
「…やっぱりあんたがなんかしたんじゃない?」
「…はぁ?」
「……大体、いつもシャルティア様にお叱り受けるのって大体あんたのせいじゃない」
「……大体を二回言ってんじゃないわよ…馬鹿なの?死ぬの?」
「………あ?やんのか?」
「………お?戦争か?」
「サン…」
「「ハッ?申し訳ございませんでした!」」
今までプルプル震えていたアインズが再び呟き、吸血鬼の花嫁達は慌てて口を閉じて頭を床に叩きつけた。
「ど、どうされたのですか…」
「サン…とは?」
緊張の一瞬。次のアインズの言葉に二人の吸血鬼の花嫁が注目する。
「サン…
…サンコさんかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
それがかつての、四十二人目の仲間の名前だった――!
・・・
時は吸血鬼の花嫁達が報告に行ったすぐ後、シャルティアと侵入者が向かいあう廊下に戻る。
「チョコマカとォ!」
「鬼さんこちら?」
シャルティアの爪の斬撃を、侵入者はその液体のような体を使い、人ならざる動きで躱していた。
そして侵入者が露骨に口で煽っているためか、シャルティアは血の狂乱でも無いのに半ば半狂乱のようになっていた。
「ほっはっ…危なッ!?」
「…くそがァっ!」
シャルティアの右爪、左爪のほぼ同時に見える連続攻撃を紙一重で躱すと、右爪のフェイントからの回し蹴りをギリギリ躱した。
侵入者の言葉には余裕があったが、しかしその動きには余裕がない様に見えた。
しかし余裕がなくとも再びシャルティアを煽る。
「…いや~…アインズ・ウール・ゴウンでNPC傷つけずに踏破!…無理ぽ?」
「貴様ッ!どこまでアインズ・ウール・ゴウンを愚弄するきダッ!?」
シャルティアは吼えるが、侵入者は笑うように手を振り否定する。
「いや馬鹿にする意図はないよ?でもせっかくアインズ・ウール・ゴウンを抜けたわけだし…俺も一応盗賊の端くれだったりするわけで」
そして少し距離をとった侵入者は、影の滴を垂らしながら考え込み始めた。
そんな態度にシャルティアの神経を更に逆なでし、怒りが増す。
しかし侵入者はそんなシャルティアの怒りさえも無視し、ブツブツとつぶやき始めた。
「しっかしこんなにNPCって感情的だったっけ?パッチきた?……いやそんなことより…こんな騒いでギルメンが出てこないのはどういうことだ…?」
「考えごとをするのもいい加減にシロッ‼」
「!」
考え事をしながらズブズブと沈んでいた侵入者の背後を、シャルティアは目にも止まらぬ動きで取った。
そして腕を大振りする。
「ああー…くっそ」
(やはり効果は薄いか)
シャルティアは、ぼやきながら距離をとる侵入者を睨みながら、同時に侵入者の体を切り裂いた自らの爪を見た。
(かすっただけか)
確かに長く伸びた爪からは、奴の「一部」らしきものがポタポタと滴っていた。
「あぁこれダメージ入ったってことなのかな…いや盾はギリギリ間に合ったか?」
「…何?」
見れば滴った奴の一部は地面に落ちると、移動して近くの影に溶けていった。
盾というのは解らないが、やはり浅かったようだ。
(…本気になりにくいでありんす……)
シャルティアは体こそ火照っていたが、頭は冷静だった。
そして相手について頭の隅で考え始めた。
種族は謎…言動も不明だ。
しかし相手は絶対に「本気」ではない。
どこかふざけた調子だし、なにより攻撃をしてこなかった。
絶対にこいつを仕留めるのは変わらない、しかし…こうもやる気を出されないと、私としても「本気」は出ても「殺る気」は出せなかった。
だからこそ自らの神器級アイテムである「スポイトランス」や、「鎧」や「翼」も出せていなかった。
守護者としては失格…しかし――
(ホントなんなんでありんすかコイツは!?)
――侵入者はアインズ・ウール・ゴウンに居慣れ過ぎていた。
動き、立ち方、目のやり方、呼吸…シャルティアは全てに気づき、全てに困惑し、やる気を削いでいた。
「…まさか……!?」
「考えごと?」
「ッ!?」
どうやら考え込みすぎたようだ、気づけば目と鼻の先に侵入者の顔があった。
慌てて距離をとったが、侵入者はコチラを見るだけで、追尾ということはしてこなかった。
(なんだあれは…)
侵入者の顔を間近で見た。
液体のような影の顔には「鼻」も「口」もない。
ただ…「目」のみが妖しく光っていた。
そこには殺気は無く、少しの「狂気」とどこまでも落ちていくかのような「虚無感」
のみがあった。
殺気とは違う恐れ…いや、ただ不安を煽るような「懼れ」があった――まるで溺れるような、沈められるような不安で、足元が急に崩れるような気がした。
それにさっきの考え――至高の41人の誰かなんじゃないかという考え。
(違うッ!)
それをシャルティアは、頭を軽く振って否定する。
至高の41人の全ての御方の名前も容姿も熟知している、こんな奴はいない!
きっと私は精神攻撃か何かを受けているのだろう。
だからこんな不敬なことを考えてしまうのだ、だから守護者としての務めを果たせないのだろう。
シャルティアは自分の弱さを呪う。足りない自分を、迷う自分を拒んだ。
それでも私は――
「ウアァァァァァアァァ!!!!!」
――アインズ・ウール・ゴウンの為に尽くしたいから。
そして殺意は形になり、シャルティアに「槍」と「鎧」を纏わせた――。
・・・
「ファ―――――!!?」
「シネシネシネシねぇぇぇぇぇ!!!」
シャルティアが槍を装備した後、流石に俺も本気で避けざるを得なかった。
スポイトランスでの連続刺突、常人の目で見ればただの白い光の束が浮かんでは消えるようにしか見えないそれを、体さばきとしゃがみこみ、あるいは体に穴を開けたりして躱していた。
それでも槍は俺の体の端をかすって、徐々にHPを奪われていった。
HPバーもバグか何かで見えなくなっているため、感覚でしかないが…残り六割ほどしか残っていなかった。
(
シャルティアはぴったりと俺に張り付いて刺し、槍の射程外に出してくれない。
動き自体は見切れるが、流石は戦士職といったところか、逃げることはかなわなかった。
というか傷つけないことを縛っている時点で負け確定。
唯一の抜け道は逃げる事…だったのだが、もう逃げることは出来なかった。
ということは詰んでいた。
このままジリジリと体力を削られて死ぬのだろうが…普通リスポーン地点で蘇生されるはずだけど…なんかこの相当の現実味といい、マジで死にそうで怖いっ!
(ギルメン来てくれたら止めてもらえるんだけどッ!?)
フェイントを読みながら、体をへこませて槍を躱す。
シャルティアは舌打ちすると、また次の一撃を放つ。
(どうしよ!?どうすればっ!!?)
今にも死にそう、ギリギリ躱す事の連続…戦場で綱渡り?全裸で昼間3時の町を全力疾走?
つまり一瞬でも気を抜いたら「死ぬ」!
逆に一瞬でもシャルティアの気を逸らせれば逃げ出せるかもしれない…!
俺はそのことに気が付くと、何か利用できるものはないかと周りをチラと見た。
(馬鹿かッ!自分も気を抜いたら死ぬって言ってただろ!?)
気を逸らそうとして気を抜いた、そんな愚を犯す。
そしてシャルティアもその「一瞬」を見逃さなかった。
シャルティアは「距離をとる」。
そして槍を構えた。
(投げるつもりか!)
シャルティアの槍を頭の後ろで地面に垂直に構える。
それは投擲の構えだった。
そして段々と穂先がこちらに向いてくる。
今までの動きとは違う遅い動き…力を溜めていた。
シャルティアの筋肉という筋肉が縮小し、膨張して、槍を投げることに特化していった。
縦にした足が両方地面を砕き、その無表情な瞳が標的である俺を正確に射止めていた。
そして弓のように、肉体が最大まで引き絞られると槍を撃ち出した。
(避けられるか!?)
槍の軌道は胸のど真ん中に向いている。これが当たったら一気に体力が削れる…そうなったら逃げられるチャンスは失われるだろう。
槍の速度から考えても、突き刺さるまで凡そ0.3秒もない。
避けられるかは…正直微妙だ。それを判断するほど俺はこの身体には慣れていなかった。
体を全力で横に動かす。液体のような身体を滑らせて避ける。
加速した思考の中で槍が動いていくのが解る。
(……よし!)
本気の動きでなんとか回避は間に合った。
このままの槍の軌道だと、身体の脇を通って廊下の壁に突き刺さるだろう。
…そうしたらその隙をついて逃げ出せるかもしれない。
そんな淡い希望を持った俺の視界の中。
本来なら投げられたスポイトランスとそれを投げたシャルティア、それと廊下の床と壁…しか見えないはずのこの場所に「異物」が見えた。
それはシャルティアに瓜二つな「彼女」――
――彼女の名前は「エインヘリアル」。
エインヘリアル。シャルティアのシモベであり、その身体能力は「シャルティアそのもの」。
シャルティアの切り札であるそれはつまり、レベル100の敵が二体に増えることを意味していた。
そしてエインヘリアルは――「シャルティアの投げた槍に追いつこうと走っていた」
エインヘリアルは投げられた槍に追いつくと「空中で掴んだ」。
「――!」
槍を掴んだエインヘリアルの身体は、槍に引きずられ、それでもなお踏みとどまろうとする足がガリガリと音を立てて、床を削りながら「刺突の構え」になっていく。
速度は先ほどと変わらず、風を纏っていた。
――そして「スポイトランス」の射程圏内に入ると、投げられた勢いのまま槍を突き出した。
そして弾かれた。
・・・
主が危険だ。
深い影の中で揺蕩いながら、そう直観した。
久しぶりに影の中で体を動かす。しかしこの中では主ほど私は自由ではない。
しかし私は主と「同じ」だ。
急いで影の中を泳ぐ。
主のお陰で私は「この城」の中をどこにでも行ける。
そして主のいる場所の天井に潜むと、覗き込んだ。
そこでは主が槍を持った…守護者というのだったろうか?と闘っていた。
久しぶりの主の御姿に気持ちが昂り、歓喜に身が震えた。
そして今すぐあの不敬な輩を誅殺し、主に頭を垂れたいという思いに駆られる…のだが、主からは一切攻撃をしていないように見受けられた。
のであれば主の意思に反してしまう可能性がある。
少し悩む。
私は主曰く「脳筋」というやつらしい…考えるのは苦手だ。
暫くボッーと見ていたが、主の体力が常に減り続けていることに気が付いた。
あぁ、なら迷うことはない。殺すだけだ。
そして降りようとしたところでちょうど「主の気が逸れた」。
敵はそれを見逃さずに主から瞬間的に距離をとった。
そして槍を主に投げた。
怒りで思考が真っ白になるが、同時に敵から「白い敵」が走り出したのを見た。
そしてその白い敵が投げた槍に追いついて、避けていた主の胸に槍を「軌道修正」したのを見た。
私は「白い敵」と主の合間に降り立つ。
白い敵の槍を「剣」で弾くと斬り返す。すると白い敵は光の粒子になると弾けた。
そしてかつてのように「主」に口上を述べる。
「サナ・リムファティック、ただいま参上いたしました。遅れてしまい申し訳ございません」
ついに明かされる主人公の名前!
その名を「サンコ」!
※作者の名前とは一切関係ありません。
~主人公のプロフィール~
名前・サンコ
種族・液体粘上の影
レベル・種族レベルが40。職業レベルが60で合計100。
容姿・黒い液体がヒト型をしている。
鼻と口、耳と髪は無く、卵のような形をしている。
ポタポタと常に液体が垂れており、自らの影に戻っている。
(某ピアノ音ゲーのキャラが滴っている感じ)
メモ・かつてアインズ・ウール・ゴウンにスパイに入り、捕らえられたが、なぜかたっち・みーにより「強制的」にギルドに入れさせられた。
そしてその後は普通にギルメンとして活動した。
その後なぜかギルドを抜けているが…?