はい、お喋り回です。
しかし説明会も兼ねているッ!
でもねぇ…説明したいことが多すぎて難しい…。
長いけど流し読みでいいかなっていう今回。
タイトル中二病過ぎ、変えない。
・・・
どういうことだ?
シャルティアは困惑する。
私が投げた槍は
しかしそれは伏線で、さらに大きなダメージを与えるための布石だった。
走り出したのは「エインヘリアル」。
私の切り札であり、写し身である彼女は私の投げた槍の「軌道修正」を行った。
それによってスポイトランスが、避けて気の抜けた侵入者の急所を貫くはずだった。
そしてエインヘリアルは侵入者の急所を貫こうとして――消滅した。
エインヘリアルの消失時に輝く粒子が煌めき、晴れると、そこには侵入者の他に「もう一人」いた。
シャルティアは考え、推理する。
今まで侵入者は攻撃を一切してこなかった…つまりこいつがエインヘリアルを殺したという事だろうか?
そいつは今も野太刀を構え、侵入者を守るように立ちはだかっている。
性別は女。服装はプレアデス達と同じようなメイド服…に日本の伝統的な衣装である「狩衣」を足したような服装をしていた。
髪型は…腰ほどもある長さの髪を一房、後ろでまとめていた。
腰には鞘を差し、手には黒金で作られた野太刀を携えていた。
その構えは美しさすら感じさせる正眼…そして放たれている尖った雰囲気は正しく「刀」と言えるだろう。
彼女は…侵入者の味方だろうか。
不意打ちとはいえエインヘリアルを一撃で仕留められるだけの火力はあるようだし、実は戦闘ができない侵入者のサポート役…というのであれば納得ができる。
…まぁどちらにせよ危険なことには変わらない。
それに倒す事という事実は変わりないのだ。
そしてシャルティアは侵入者どもを駆逐しようと――
「そこまでだ」
――声が響いた。
(!?)
声の主は階段から歩いてきている。
硬い、乾燥した物が石と当たった時に鳴る独特な音が、静寂と化したこの場にも響いてきていた。
そして何より雰囲気が流れ出ていた。ゆっくりと、空気よりも重い「死」そのもののオーラが階段から立ち昇ってきていた。
シャルティアは驚きと共に恐怖を覚える。
(なぜアインズ様がここにいるの…!)
アインズ様がここにいては危険なのではないか、不安で胸が押しつぶされそうになる。
そしてこうも思う。侵入者を討伐するのに時間がかかりすぎてアインズ様がお怒りになったのではと…!
もしそれでナザリック地下大墳墓を捨てていってしまったら…?
それは守護者の…いや「シモベとしての死」を連想させ、身体がひび割れるかのような感覚に震えた。
そしてアインズが姿を現した。
骸骨に漆黒のローブを纏ったその姿は「死の魔王」。
普段ならば深い畏敬の念に駆られるその姿にシャルティアは今、純粋な恐怖を感じた。
そしてシャルティアには次の言葉が恐ろしく、ただその名を呼ぶことしかできなかった。
「アインズ様ッ!!」
大声で呼んだ名は廊下全体に響き、アインズに届いた。
しかし本当の意味では届いていなかったのかもしれない。
アインズの視線はシャルティアには向いていなかった…その先は「侵入者」
に向いていたのだから。
それは普通の対応だったのかもしれない、しかしその眼光には「畏れ」が足りない。
どこか訝しげなものが混じっていた。
「モモンガさん?」
その時侵入者の、液体の方が口を開いた。そしてそれはアインズ様の本来の名前…
なぜ知っている。
シャルティアの混乱はますます加速する。
シャルティアも馬鹿ではない、様々な可能性を思いついては消えていった。
しかしその中で去来するのはやはり「至高の御方なのでは」という考え。
だがこれはさっき考えた通り、絶対にありえないはずなのだ。
至高の41人にはこんな奴はいないのだから。
それでも、それでもなおシャルティアは考えてしまうのだ。
もし侵入者と思っていたコイツが、「至高の御方」だったなら、と。
ならば私はもう許されない。「死」も「生」も関係ない。「愛」の反対が「無関心」であるように「捨てられてしまう」だろう。
しかし――こいつが至高の御方である保証はどこにもない…だが―――?
様々な可能性の前にシャルティアは跪き、苦悩する。
だがとか、しかしという言葉が頭の中で反芻され、気づけば私は本当に膝をついていた。
そして体は動かなくなった。
・・・
(む…?)
視界の端でシャルティアが膝をついているのが見えたが…それよりまず目の前のこの人が本当に「サンコ」さんかどうかを確認すべきだろう。
しかしそれより先に、相手の方から声をかけてくれた。
「モモンガさん?」
メイド服のシモベの後ろから、影の化け物が自分の名前を呼んだ。
「サンコさん…?」
逆に名前を呼び返すと彼は(顔からは解らないが)歓喜の感情を露わにした。
「そうだよモモンガさ~ん!!」
そしてサンコはメイドの横をすり抜けると、アインズに向かって走り出した。
アインズは本当にサンコだったということを喜びながら、サンコの走っている様を見て、のっぴきならない事態が発生していることを悟った。
サンコの走り方、その様子はなぜか「夏休み明けの朝通学路で友達を見かけて走り始めた女子高生」そのものだった。
端的に言うと、自然とお花畑が出てくるようになるアレである。
そして両腕を横に広げているあたり、アインズに抱き着こうとしているのだろ――
( そ れ は い け な い ! )
アインズは間隔をあけて否定する。
考えてみても欲しい、アインズは骨の身だ。
そして液体などをかけると通過するわけだが…例えば、今抱き着こうとしているサンコも液体だ。
するとサンコのぬめっとした身体がアインズの骨をすり抜けていくことになる。
それはキモイ。
いやそれどころか立ち止まられてアインズの中にサンコが…!みたいな状況になる可能性もある。
それはもっとキモイ。
(何としてでも阻止しなければ…!)
アインズはいまだお花畑を作りながら女の子走りしてくるサンコを、少しだけ睨みつける。
その雰囲気はまさに「満面喜色」…!顔はないのだが。
アインズは短い時間の中でサンコを止める方法を思案する。
しかしどう止めれば…この際、少しダメージを与えてでも止めてでもいいかもしれない。
アインズはそれを第一案として考え始める…しかし相手もレベル100だ、中途半端な攻撃では止められないわけだし…
そしてアインズはあることを思い出した。
(確かサンコさんの弱点って…)
アインズは骨の指を、走ってくるサンコに向けた。
そして意識を集中すると魔法を発動させる。
「
発動したのは第四位魔法。
内容はバスケットボール程の大きさの光属性の球体が敵に真っすぐ飛んでいくというもの。
ここで液体粘状の影の特性を紹介したいと思う。
それは「光属性の攻撃に極端に弱い」という事だ。
無論、サンコ自身レベル100なのだから第四位魔法程度は無効化できる、「光属性以外であるならば」。
影には光が弱点…はいいのだが、もともと盗賊は装甲が薄いのに加え光属性は怒涛の二倍ダメージが入るという特性なのだ。だから下手をするとレベル30ぐらいの光属性専攻天使みたいなのにも負けた。
話を元に戻そう。
走ってくる光属性が苦手な人に、弱いとはいえ光属性の攻撃をアインズは与えた。
こうか は ばつぐん だ !!
ジュッ
「ぁぁぁあああ熱ぅぅい!!?」
液体が蒸発するような音がした後、サンコは廊下にひっくり返った。
いやスライムなのだし、液体なのだから自らの影に潜ったという表現が正しいだろう。
「…あれ?」
アインズ自身ダメージを食らう実験をした。
その時は寒気がしただけで「熱い」なんてことは無かった。
それが液体粘状の影とアンデッドの違いなのかは解らないが、サンコが本気で苦しんでいる声を出していたのでアインズは少し驚いていた。
「ミスったかな…」
元々シャルティアとの戦闘をしてHPは削れていただろうところに、効果的な攻撃をしてしまった。
アインズは安直な行動だったと反省する。死んだらどうする、という話だ。
…まぁ死んだらあんな叫び声をあげれるはずもないのだから結局のところ大丈夫なのだろうが。
そしてどうやらそれは正解らしく、程なくして影から影状の頭が出てきた。
「モモンガさん…酷くないですか?」
「あ…ごめんなさい」
アインズは…いやモモンガは素で謝る。
そしてサンコは影から全身を出すともう女子高生感は無く、ただ痛みに対してのイラつきのオーラを噴出していた。
そして右手を突き出すと威圧する。
「早速で
「あ、どうぞ…」
強調しているあたり本気で怒っているらしい、モモンガは虚空から上級ポーションを取り出すとぶすっとした態度のサンコに手渡した。
だが――そこでアインズは気づいた。いや思い出した。
なぜサンコが基本である上級ポーションすら持っていないのか。
そして自分がサンコに謝らなければいけないということも。
「サンコさんあの時は…本当にごめんなさい」
アインズはポーションを自分の身体に振りかけているサンコに謝る。
なぜ持っていないのか。その理由は――
アインズはサンコの最期について思い出していた。
プレイヤーとして「終わった」過程の事を
・・・
あれはユグドラシル時代後半。
アインズ・ウール・ゴウンを目の敵にしてきたギルドがあった。
その妨害は甚だしく、例えば狩場や、交渉、素材集めなど全てを妨害してきた。
というよりもはや「嫌がらせ」に近かった。
そのギルドは、レベル自体はアインズ・ウール・ゴウンには及ばないものの、確実にアインズ・ウール・ゴウンの行動を制限していた。
そしてアインズ・ウール・ゴウンはそのギルドを壊滅まで追い込むことに決定した。
そこで「盗賊」…もとい「スパイ」の職業についていたサンコがそのギルドに潜り込むことにした。
そのため、当時サンコは絶対に公に姿をさらさず、アインズ・ウール・ゴウンの一員だということも明かしていなかった。
そしてアインズ・ウール・ゴウンを抜けると、相手のギルドに入った。
液体粘状の影ということも明かさず、ただの盗賊として変装して潜入し、そこの情報をアインズ・ウール・ゴウンに送ることになったのだ。
何回も行ってきた手法だし、その時も成功したと言えるだろう。
アインズ・ウール・ゴウンはサンコからの情報を受け取り、その情報を元にそのギルドの攻略し、陥落させた。
ほぼ同格、とはいえ情報戦で言えば遥かに格下の彼らをアインズ・ウール・ゴウンは正直舐めていた…油断しても良かった。
…だが舐めすぎたのだろう。
追い詰められた敵ギルドのリーダーが、ギリギリでサンコがアインズ・ウール・ゴウンの手のものだと気づいたのだ。
…そこで奴らは世界級アイテム「封魔の釘」を使った。
「封魔の釘」というのは本来モンスターに使われるもので、使われたモンスターは封印状態を完全付与され、動きが止まったモンスターをタコ殴りにできるというものだった。
しかし回数制限は一回だけ、入手方法も困難…だが使えるアイテムだったと言えるだろう。
そして何より素晴らしいのが、封魔の釘が使える対象は「モンスター限定」という訳では無いというところだろう。
厳密に言えば「カルマ値がマイナスの敵」が対象なのだ。
それはサンコにも当てはまった。
…サンコが敵スパイだと気づいたそいつは逆上しサンコに封魔の釘を打ち込んだ。
封魔の釘を打たれたサンコはその敵ギルドの本拠地から身動きが取れなくなってしまった。
封魔の釘は抜くことができなかった、つまり事実上の「死」だった。
最初は心配したギルメンもそこに通っていた。
しかしもうサンコ自体がログインしなくなっていったのだ。
それ以来、彼とアインズ・ウール・ゴウンは接触を行っていなかった。
「本当に…」
その時のギルドリーダーはアインズだった。
つまり、作戦の立案はアインズが行っていた。
アインズはその時の事を悔やみ、ずっと心のどこかで引っかかっていた。
だからある意味、アインズにとってサンコに謝罪するチャンスが与えられたのは僥倖なのかもしれなかった。
「いいんですよ」
そんなアインズの長年の思いをサンコは一言で打ち砕く。
「あの時は自分から志願しましたし…確かにみんなと遊べなくなったのは寂しかったですけど…」
「だから自分は…!」
「それにあの時、自分も自暴自棄になってしまって別れすら告げずに逃げてしまって…それでモモンガさんも苦しんだんでしょう?それで、おあいこ…という訳にはいきませんか?」
「…」
子供のような理論。
一見ふざけているかのようなその喋り口に、アインズは否定感を募らせる。
しかし――サンコの優しさも無下にするわけにはいかない。
アインズはその優しさに救われながら、長く切り詰めていた息が自分の口から吐かれた…そんな気がしていた。
「…ありがとうございます」
「いいんですよ、ほんと…それより、この世界について教えてくれませんか?」
「そうですね、解りました」
サンコの提案にアインズは頷くと、アルベドに「伝言」を開いた。
・・・
「なるほど…つまり現実化したと」
ナザリック地下大墳墓、アインズの執務室。
いつもならば執務机しかないそこには、豪華な装飾がされたソファーが二つ、向かい合って置かれていた。その合間には花の装飾が施された茶机も置いてあった。
「…驚かないんですね」
アインズは向かい合って座っているサンコの態度に、ゆっくりとソファーに身を沈めた。
サンコが慌てふためいて狼狽するぐらいに思って緊張していたのだが、要らぬ心配だったようだ。
アインズとサンコは今、お互いに情報交換をしていた。
そしてアインズからは起こっていること、この世界のこと、今していること、これからしようとしていることを伝えていた。
「現実化説は自分も持ってたし…何より痛みとかは本当でしたしねー」
サンコはソファに前かがみに座り、指を前で組んで笑って言った。
ちなみにソファーにはアインズとサンコが座り、その後ろにはお互いの側近であるアルベドと…あのサナ・リムファティックというメイドが立っていた。
「痛み…ですか、自分はアンデッドになって無くなってしまって」
そういうとアインズは少しだけ寂しげな顔をした。
そして次の言葉を繋いだ。
「そういえばさっき光球に当たった時に熱いと言ってましたよね?」
「あー…あの余分なダメージですね」
「いやホントもうすいませんって…それで液体粘状の影について詳しく知りたいわけなんですが、ダメージ全般を熱いと感じるんですか?それとも弱点である光属性の攻撃だけ熱いんでしょうか?」
アインズの質問に、サンコは少し考え込むと口を開いた。
「…光属性だけだと思われ。まぁそれは確定情報でしょうね、ほらあの吸血鬼ちゃんの槍とかは冷たさを感じるだけで」
「ああ、シャルティアですか…」
あれは勘違いであったが、後で何かしらフォローを入れないと大変なことになるだろう。
まぁそれはサンコさんが言わなければならないわけだし、後で言いくるめておこう…。
アインズはしておくことリストにそれを追加しておくと、液体粘状の影についてさらに尋ねる事にした。
「他に何か液体粘状の影の、
「溺れる…とかはありましたけど」
「ほう?」
「そもそも、これはこちらに来てからことを話した方が早いですかね…」
・・・
「…で俺は水面から飛び出した訳です」
サンコは、ユグドラシルから水面から出たまで経緯を説明していた。
「つまりその溺れるようになった、というのが液体粘状の影の特性という訳ですか」
「…まぁ、溺れたのは俺の思い込みでしたけど…「潜れる」という方が正しいですかね」
アインズは頷くと、活用について思案を始めた。
「なるほど…底なし沼みたいだと言っていましたが、他のものも入れられるんですか?であるならば積載量はどの程度ですか?」
「うーん、それも含めて近いうちに調査してもいいですかね?」
サンコは癖なのか顎を搔きながら許可を求めた。
掻かれた液体の顎がぽちゃぽちゃと鳴っていた。
「あぁ構いません。自分にそんな束縛権はありませんし…ですが後で教えてもらえるとありがたいです。…それで水面に出て、それからどうやってここまで辿り着いたんですか?」
「そもそもユグドラシルで一キロぐらいの距離にまで迫っていたんですけど…方角は変わらないかなと思って、おっかなびっくり進んだら…ビンゴ」
「それはよかった…!」
「でも実際の距離は三キロに増えてましたね…単純にこの世界がユグドラシルの三倍の大きさになったのか…それとも
「それに自分との時間のずれも気になります。8日だけですけど…なんせユグドラシルのマップは大きかったですからね」
「そもそもなんでこんな事態になったのか…とかは解ってないんですよね」
「はい…情報が足りないのは問題ですよね…」
本当に謎だらけで調査すべきことが多い。
アインズとサンコは一時議論をやめると、お互いゆっくりと長い息を吐き出した。
そして暫くお互いの沈黙は続いた。
ただそれは、これからに対しての「不安」では決してなく「期待」であったようにも思えた。
そして沈黙は、サンコの思いついたかのような呟きで崩れた。
「そういえばここに来る途中、遠目で村を見かけたんですけど…」
「あぁ、それがさっき言った、助けた村のカルネ村です」
何んとない会話…滑り出しはこんなものだ。
サンコは腕を組むと首を傾げた。
「おー…そこで国の情報とかもらったんですよね?」
「あ、はい国名とかは。だけど地図があった訳じゃないので位置関係は微妙で…やはり当面の目標は情報収集になると思います」
「お金はどうでしたっけ?」
「共通の金貨というものがあるらしいのですが、ユグドラシルの金貨一枚につきそれが二枚だそうです」
「一応確認ですけど…金貨一枚につき銀貨十枚、銅貨についても同じでいいですか?」
「いいえ、金貨一枚につき二十枚です。銅もこれで同じです」
「金の価値は…?」
「銀の十倍…ですけど二十枚必要なのは金貨の大きさの問題でしょうね。でもこの世界では金よりアダマンタイトといった金属の方が価値が高いようです」
「ふーん…」
サンコは解ったような解っていないような返事をすると、飽きたのか力を抜いて頭を下げた。
そして再び頭を上げると、議論を再開させる。
「敵性…いや倒した人間から強さの上限は解ったんですよね」
「…えぇ。油断は禁物ですが、自分が出会った奴らが伝説と呼んだモノはただの雑魚でした」
「そうですかー…蹂躙…嫌いじゃないですよ」
「基本は平和的にいきましょう?」
「…それは興味が無いからですか?それとも元人間としての残滓ですか?」
アインズはそこで唐突にサンコの目の妖しさが増していることに気が付いた。
アインズは恐ろしさなどは感じないが、にわかに緊張感が漂い始めたことを感じていた。
「…そういうサンコさん…いや
これもユグドラシルとの違いだ。
例えばだ。
別にアインズ自体、人間が何人死のうが何万人死のうが殺そうが何も思わないだろう。
しかしそれはいまだ生きている一般人としての「鈴木 悟」としての感情ではなく、「アインズ・ウール・ゴウン」というアンデッドの思考がそれを可能にさせているのだけなのだ。
「俺は…」
そしてサンコが「どうか」を確かめておく必要がある。
サンコの人間としての性格、残滓がどこまで強いのか?
そして液体粘状の影としてのサンコの「化け物としての本懐」は何を望むのか?
アインズは…いや、鈴木悟は至って普通の人間だ。
たとえ生命を憎むアンデッドになったとしても、嬉々として人間を殺そうとは思わない。
しかしもし、サンコが「人を殺すこと」を望むのであれば――
――その時は、アインズにはどうすることもできない。
自分に束縛権は無い。促すことはできても、最後にはサンコの自由意志なのだから。
だからこそアインズは次のサンコの言葉に緊張し、僅かながら不安になる。
…これからの方針が決まるかもしれないのだから。
アインズの視界の中、サンコは自らの液体である胸に手を当てると、ズブリ…と沈めた。
手はゆっくりと胸の中に入っていき、そして貫通する少し手前でその動きを止めた。
「…俺は!」
サンコは一気に自らの腕を引き抜く。
するとそこには「虚空」が開いていた。
ぽっかりと、サンコの液体状の胸に手のひら程度の大穴が。
「胸に…心にまるで大穴が空いたような気がして…!それがたまらなく辛い…!」
胸に開いた穴は、少しずつ狭まっていく。
満たすように、虚空を内包するように穴は完全に閉じた。
しかし心の穴は閉じない。
そしてサンコの言葉はもう一言だけ続いた。
「この大穴が何で満ちるかは解らない…だけど俺は、この心に開いた
渇く。
ユグドラシル時代、サンコは満ちていた。
仲間がいて、新しさがあって、楽しさがあって…満ち足りていた。
しかし再びユグドラシルを始めたら…どうだ?
現実化を知って、俺は正直楽しみにできるかもと思った。
だがこの胸の穴はそんな感情さえも「飲み込んだ」。
満たされない、満足は無い。
そんな予感が、サンコの空っぽの真っ暗な穴の中でこびりつくように光る。
「…それが
見れば、アインズの空虚な瞳の中でも赤黒い炎がチロチロと揺れていた。
腐敗したような死の雰囲気が濃く流れ出て、周囲の空気が比喩ではなく凍った。
サンコも本気だが、アインズも本気だった。
サンコは自分の考えていること、思うこと…この身体になってからの呪いを精査して口を開く。
自分のしたいことは何か…それをじっくりと考えて口を開いた。
「はい、この心を満たす。それが俺の
・・・
「ふむ…つまり「ブラック企業ナザリック地下大墳墓」ってことですか?」
「なっ!?違いますよ!?」
「だってそうじゃないですか!報酬も無しに24時間働かせてるわけでしょ!?」
「語弊があります!確かに疲労がないアンデッドとかは24時間働いていますが、それ以外は休憩時間を設けています!」
喋り始めてから数十分ほど、二人とも大分ユグドラシル時代の勘を取り戻しており…白熱していた。
「じゃあ報酬とかはどうなっているんですか!?」
「や…それは検討中で」
「ほらぁぁ!」
「だって聞いてくださいよ!働くこと自体が報酬みたいな事言っているんですよ!?…あ、アルベドこの会話は他言無用だ、そして忘れよ」
「御意」
「あーそういえば至高の御方?でしたっけ?NPCが感情を持つようになったというのは解ったんだけど…どんな命令でも迷わず聞くって…?」
「あ、はい。本当です」
「はー…絶対的な忠誠ってわけですね」
「…アルベド耳を塞げ」
「畏まりました」
そしてアルベドが耳を塞いだのを確認すると、小声で話し始めた。
「…でも実はちょっと重いくらいで……」
「ん?どういうことです?」
「あー…一言で言うならヤンデレに近いですかね」
「お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない!」
「あぁいやそんな感じではないんですが…」
上手い例えが見つからないアインズは腕を組んで悩む。
とその時サンコの方から思いついた。
「…深読みされ過ぎてマジ偽りの全知全能の神…ってこと?」
「あぁ凄いです!ドハマりです!」
アインズは納得して手を打った。
「あー…大変なんだなぁ」
その反応にサンコも何か察したのか、哀れみではないにしろ同情の視線を送った。
そしてそれを見たアインズは嬉々と悪い笑みを浮かべた。
「何言ってるんですか!これからはサンコさんも至高の御方になるんですから…畏まられますよ…?」
「ひぇっ?俺そういう畏まられる経験ないんですけどぉ!?」
「…思えば自分も最初は大変でした……」
「あぁっ!モモンガさんが遠い目をしているッ!?」
遠い目をして哀愁を放つアインズに、サンコは震えながらオーバーリアクションをした。
――と、その時、今まで秘書然と佇んでいるだけだったアルベドが質問という意味なのだろう。その白い手を挙げた。
「アインズ様、私の些末でつまらない質問にお答えいただけるでしょうか?」
「あぁ…こういう感じですか」
「そうですね…ゴホン、なんだ?アルベド、質問に答えよう」
アインズは首だけ振り返ると、アルベドの質問に許可を出した。
「…威厳が大事と……」
「サンコさん、ちょっと黙って」
「理解理解」
「…よろしいでしょうか?」
「う、うむ。続けよ」
アルベドはその言葉にお辞儀し、その微笑をたたえると指を唇に当てて少し困ったような顔をした。
…あざといその姿は正しくビッチ…妖艶だった。
「先ほどのアインズ様のお言葉…これから至高の御方になる、という話でしたが…サンコ様は至高の御方ではない…いや、四十二人目の至高の御方なのでしょうか?」
「ああ、アルベドは気づいていたのだったのだな。そうだ、彼が四十二人目のギルドメンバーだ。なる、というのは私の不手際でな…彼が一時的に辞める結果になってしまったのでな」
アルベドはその言葉を聞くと、ひとまず裏切りではない、と安心したようで胸を撫で下ろした。
そしてまだ思うところがあるようで、また口を開いた。
「ならばこの後に行われる全シモベの招集の際に、シモベ達に四十二人目の至高の御方として説明なされるんでしょうか?」
あの時、第二階層から第四階層へと続く階段の前、アインズはアルベドに「伝言」を開いた。
その内容を簡潔に説明するならば、預けたリングオブアインズ・ウール・ゴウンをここに持ってきた後、連絡網を活用して一時間後に玉座の間にシモベが全員集まるようにすること…それを命令させた。
気持ち時間を長めに設定したのは、外に出ているシモベが帰ってくるのに時間がかかるであろうという配慮と、こうしたアインズとサンコの情報交換の時間が必要だと思ったからだ。
そしてアルベドはその全体会議の場で、アインズがサンコの事を紹介するのだと思っているようだが…
「いや違う」
アインズはそれを否定する。
「ではどうするのでしょうか?」
アルベドの問いに、アインズは骨の指を組んで答える。
「下手に四十二人目の至高の御方だと説明すると混乱するかもしれないし、サンコさんに敬意を払いずらいだろう。だからとりあえずは至高の四十一人の内の一人だと説明する…至高の四十一人の姿を知っているのは階層守護者だけだからな。全体会議の後に守護者のみの会議を行い、そこで四十二人目だと説明をすることにする」
「全てはアインズ様の御心のままに…いや少し待ってください、もしかしてそれがサンコ様がいらす前にアインズ様のおっしゃっていた二人だけの秘密というやつでしょうか!?」
アインズの答えに頷き、質問を終えて一歩元の位置に戻ろうとしたアルベドは何かに気が付いたようで、疾風の速さでソファーから身を乗り出すと、アインズの顔を覗き込んだ。
そしてソファーを握る手にはかなりの握力がかかっているのか、ソファーの枠である木をメキメキと粉砕していた。
そして美しい黄色の目には必死な眼光が迸っていた。
その様子にアインズは若干驚引きながら、威厳を保ったままの声で答えた。
「そ、そうだが?」
「では二人だけの秘密は!」
更に身を乗り出してくるアルベドにアインズは更に引いて、身も引いた。
「…まぁ状況が状況だ。二人だけの秘密という訳にもいくまい?」
「ッ!!?」
アインズの至極もっともな言葉に、アルベドはのけぞって痙攣する。
二人だけの秘密を共有したかったアルベドとしてはこの事体は「想定外」…!
そうアルベドの計画では!
二人だけの秘密を共有したアインズとアルベドは恋人以上嫁以下になるはずだったのだ!
(そもそも二人だけの秘密を共有できるように特に興味もない御方の推理もしたのにッ!)
そしてその腹は真っ黒であった。
アインズによって歪められたアルベドであったが、着実に確実にアインズを(愛の対象として)狙っていた。
「ぐふっ」
そして愛の化け物は作戦が失敗したということに、心とかその他もろもろが折れるとその場にふさぎ込んだ。
「…大丈夫か?」
「……私のことは床に落ちているゴミとでも思って頂ければ…しくしく…」
床で泣いているアルベドにアインズは声をかける、が――
(めんどくさいし放置でいいか)
――正直めんどくさかった。
という訳でアインズは後ろに向けていた体を、元のサンコさんに戻した。
のだが――
「アインズさん…俺空気…」
――こっちもこっちでめんどくさかった。
アインズが体の向きを戻すと、サンコが(´・ω・`)ショボーンとソファーに縮こまっていた。
そして何故か、その頭をサナ・リムファティックが撫でていた。
(とはいえアルベドを放置するのとでは優先度が違うか)
アインズはシモベとはいえアルベドにかなり失礼なことを考えながら口を開く。
「あぁごめんなさいサンコさん、来て早々事務的な話に巻き込んでしまって…急で悪いんですが、二言三言挨拶を紹介の時にお願いできますか?」
事実、シモベ達はアインズがそうだと言えば何の疑問も抱かずにサンコの事を至高の御方として認識するだろう。
とはいえ姿と声、くらいは一致させておくべきだろう。
「あー解りましたアインズさん」
「よろしくお願いしますね…ってそうだ」
まだ片づけていない問題があった。
それは名前のこと。
何の違和感もなくサンコも自分のことをアインズと呼び始めたが、そもそも自分がアインズ・ウール・ゴウンと名乗り始めたのはギルドメンバー全員を背負うためで、サンコが来た以上それを名乗るのは…許可がいるだろう。
「サンコさん、自分はアインズ・ウール・ゴウン全員を背負う覚悟をしようとアインズ・ウール・ゴウンを名乗り始めたのですが…」
「胸中お察しします…ってわけですね。まぁ今さらモモンガに戻すってったら示しがつかないでしょう」
「そんなことは…」
「アルベド、慎め」
既に泣き止んで立ち上がっていたアルベドがそれを否定しようとしたのをアインズは制する。
「…失礼いたしました」
アルベドが頭を下げたのを確認したアインズは、サンコに意識を元に戻すと言葉を促す。
「では…」
「いいんじゃないでしょうか?アインズって名前もお似合いですよ」
「そうですか、では変わらずにアインズ・ウール・ゴウンを名乗らせていただきます」
アインズはとりあえずそれが通ったと安堵すると、視線を下げた。
そして他に話すことはあったかと頭の中を整理し始めた。
「ちょっと、サナやめろって」
考えを整理し、視界を床に向けていたアインズの耳に、唐突なサンコの声が聞こえた。
そしてアインズはサンコに注意を戻すと、サナ・リムファティックは未だにサンコの頭を撫で続けているのが見えた。
(ふーん…)
シモベにしては大胆だ。
他のシモベはアインズにこんなことは絶対にしないだろう。
そしてまだサンコに尋ねることがあったと気づく。
それはサナ・リムファティックについての事。
サンコさんのシモベというのは確定なのだが、いかんせんどういうシモベだったかは思い出せないし、命令する上で何が可能かというのも解らない。
急遽必要というのではないが、聞けるうちに聞いてしまうのがいいだろう。
アインズは未だ撫でられ続けているサンコにそのことを聞こうと――
「アインズ様、お時間です」
――その前にアルベドに耳打ちで報告される。
「…うむ、解った」
どうやらシモベが全員集まったようだ。
サンコとの話し合いも一時間が経過していた。
「サンコさん、そろそろよろしいですか」
アインズはサナの腕を掴んでいるサンコに声をかけると立ち上がった。
着ていた漆黒のローブは翻り、手に取った宝杖についた宝石が怪しげな光を放った。
「はーい」
そしてサンコも立ち上がると、その身体から何滴かの雫をたれた。
影であり、液体でもあるその身体は影を液体にし、それを自らのものにしていった。
そして二人はそれぞれの従者をたずさせて、シモベ達が集まる「玉座の間」に向かったのだった。
・・・
サンコの最終目標。
「満たされない心の穴を埋める」
最悪これだけでもわかってくれたら幸いです。
最期らへん深夜に書いたから…多少はね。
あとシャルティアがどうなったか解らないスタイルね、次回出すので…!
ではではー。