俺の毎週投稿ルールを守るため、質を下げて投稿するぜッ!
…マジごめんさい。
確認すらできないっていうね?
・・・
エンリ・エモットの家は広い。
かつて両親が住んでいた家は四人が住める、それ相応の家だった。
しかし…法国の騎士が攻めてきて、両親が死に、家が焼かれた。
再建はすぐ行われた。
二人だけならば小さい家があてがわれたろうが、ゴブリン将軍の角笛によって召喚された十九人のゴブリンが加えられればそうはいかない。
結果村の中で一番巨大な家が出来上がった。
とはいえゴブリン達はそこで衣食住をしている訳では無く、あくまで外でキャンプをしていた。
その上で家が大きいのは何故か――それはゴブリン達が「食事だけはエンリ家にとっている」からだ。
つまり「食堂」だけが異様に大きいのだ。
十九人…いや二十一人が収容できる食堂にはかなりの長さの机と相当数の椅子が用意されていた。
そして毎日食事の時間になるとその様はまるで「宴会」。
食べ物を奪い合い、笑い、怒鳴り、酒を飲み…騒がしかった。
―――そしてそれは今、湖面のように静かになっていた。
宴会のようなバカ騒ぎは何処へやら、まるでお通夜のように皿の上のジャガイモをつついていた。
その顔は様子を伺う狼の様であり…静けさに耐えられない子供の様でもあった。
そしてかなりある椅子を使わず、端から順番に行儀良く座り、片側に「寄っていた」。
原因は――もう片側。
ゴブリンが誰も座っていない区域がそこには存在していた。
瞼の裏にはいつものゴブリン達のバカ騒ぎが焼き付いている分、更に閑散としているように感じられた。
しかし誰も座っていない訳では無かった。
机の上には湯気の立ったジャガイモが乗った皿が三つ並び、水が入ったグラスも三つ並べられていた。
それはつまり――食べる者がいるということ。
静かな食卓に「騒がしい」影の化け物はご相伴に預かっていた。
・・・
サンコは香草の効いたジャガイモを口に当たる部位で噛みしめる。
「んー…優しい味!和風のが好きだけど西洋版お母さんの味やなぁ…」
しみじみ言うと、身体の中のジャガイモをぐしゃぐしゃと潰し、底なし沼に送った。
まぁ多分あのジャガイモは永遠に体の中を沈み続けるだろう。
隣に座っているサナはフォークでジャガイモを突き刺すと、差し出してくる。
「はい、主。アーン」
「無表情でやられてもなぁ…もっと萌えキャラみたいにできないの?」
「アーン」
「膝にいれるな!」
液体の身体なので無理に口から摂取しなくても問題は無いのを知っているからか、サナは膝にジャガイモを入れようとしてくる。
コイツいつも無表情でこういう事してくるからなぁ…まぁ別にいいんだけど忠誠心とは?
「…というかサナちゃんも食べたら?」
サンコは先程から続いている半ば強引な奉仕から逃れるため、サナが奉仕をしているばかりで彼女自身の皿にまったく食べていないことを指摘する。
どうやらうまくいったらしい。サナは次のジャガイモを運ぶ手を止めると、首を傾げた。
「液体粘上の影である私は食事によるエネルギー補給は必要ありません」
「でも味はわかるでしょ?」
サナの容姿は液体ではないが、サンコと同じ液体粘上の影だ。
極振りした結果、容姿変更などは出来なくなったが根本的なところは変わらない。
今回のこれもその一つだ。
液体粘上の影は食べ物も飲み物も食せるが、それは栄養補給の為ではない。
純粋に味を楽しむため、液体粘上の影は食べ物によるエネルギー摂取は出来ないのだ。
「味が解ったところで何かあるのですか?」
「あのなぁ…」
例えばアインズさん。
骨の身体には味覚というものは存在しないため、味を楽しむことはできない。
彼にとって人間の幸せは失われてしまった…まぁアンデッドとしての幸せはどうか知らないが。
その点サンコなどは味は解る…楽しむことが出来る。
そうでなくてもシモベとはいえ、やはり嗜好を持つのは良いことだと思うのだが…。
サンコはそれを伝えると、サナは傾げた首を元に戻し当たり前のように語る。
「いえ、私はサンコ様に仕えることが喜び…それ以外の事に愉しみを見出す時間があるくらいならサンコ様にご奉仕させていただきます。それになにより私は料理の美味しいところは解らないので…」
(あっ、これ深刻だわ)
アインズさんは気づいていない…いや、「人間感覚だからこそ気がつかない」危うさがシモベ達にはある。
至高の御方に仕えることが幸せ…大いに結構。
ただそれ以外に興味を示さず、理解しようとしない、理解できない…これはシモベ達が「人間に接する」時に大きな障害になるだろう。
アインズさんが何を目的とするかまだ確認していない以上勝手な行動はしたくないが、サナに対してはこれから徐々に調教もとい「調整」していこう。
という訳で早速調整の為の命令を下す。
「サナ」
「はい、主」
「命令。人間の作った料理を美味しいと思えるように味覚を形成する事。なおこれは常識のジャンルに部類され、食べたものを美味と感じ、同じものを人間が食べても美味であると感じた時に成就される」
「…主……具体的にはどのようなことをすれば?」
格式ばった命令にサナは困惑すると、尋ねてくる。
サンコはサナでも解るように、かみ砕いて説明する。
「あぁ。つまり人間の飯を食って人間の味覚を手に入れろ…ということだ」
いきなり全てを変えるのは不可能だ。
なのでここから変えることにする。
「…」
サナは姿勢を正すと自らのフォークに刺さったジャガイモを不思議そうに見た。
出来立てのジャガイモは微かな湯気を立て、香草と油の芳しい匂いが漂っていた。
見るからに美味しそうだ。
今のサナにその感覚は解らないのかもしれないが、美味しいものを食べていけば解っていくだろう。
サナは口を開けるとそれをゆっくり運んでいき――
「…!」
――止まった。
そして口を開けたり閉じたりすると困ったような顔をして固まる。
(そっか、生まれて初めて物を食べるのか…!)
ユグドラシル以前の記憶は無いようだし、以降も食事の必要は無かった為何も口にしたことは無かったのだろう。
人間ならば本能的なもので自然にできるのかもしれないが、サナはそうはいかないのかもしれない。
…つまり食べあぐねているのだ、彼女は。
(最初はみんなこうなのかな)
知らないことはできない、当たり前だ。
鳥の雛だって親鳥に餌を口移ししてもらう、サナに教えることは悪いことじゃないだろう。
サンコはサナの手を握ると、その手からフォークを取った。
「主、なにを…?」
サナはサンコの行動に若干目を見開いて驚くと、身体の向きを変えた。
サンコはジャガイモのついたフォークをサナの口に向けると、近づける。
「食わせてやる、お前は噛んで飲み込むだけでいい」
「…」
サナは少し考えた後、口を大きく開けた。
サンコは乳児に離乳食を与えるように、サナの舌の上にジャガイモを乗せる
舌が反応し、ピクリと動いた。
「そのまま口を閉じろ」
「らりろらりらりら…」
「…物を口に入れたまま喋るな」
サナは「かしこまりました」とでも言いたかったんだろうが…マナーは大事。
そして命令に従い口を閉じると、どうすればいいか解らないという視線をサンコに向けた。
「……歯でフォークからジャガイモを引き抜け…?まぁとりあえず口の中をジャガイモだけにするんだ」
「…」
サナがフォークからジャガイモを引き抜いたのを確認すると、サンコはサナの口からフォークを引き抜く。
そしてサナの皿の上に置くと、次の命令を下した。
「すぐには飲み込まずに、ちゃんと二十回噛んでから飲み込むんだ。開始」
「…(もぐもぐ)」
「いいか、そもそも噛むという行為は人間が食べ物を食べ易くするための手段だ。まぁ俺は噛まなくても問題ないが、噛めば噛むほど味が解るというケースもある」
「…(もぐもぐ)」
「例えば米だな。噛めば噛むほど甘みが出てくる…と、もう噛み終わったか?」
「…(コクコク)」
「よし、それじゃ飲み込め」
サナは命令に従い、飲み込もうとする。
だがなにぶん初めてだ。どうやら上手くいかないらしい。
軽いパニックになってしまったようで、サンコに助けを求める視線を送った。
「焦る必要はない、ゆっくり飲み込め」
「…!」
サナはサンコの言葉に安心したようで、落ち着いた。
そして喉に手を当てると、ゆっくりと飲み込んだ。
「…無理にとは言わんが感想はあるか?」
サンコも少し安心すると、尋ねる。
まぁ初めてだし、なにか掴めたとは思えないが聞く分には問題ないだろう。
「…」
そしてサナは目を閉じて少し考え込むと、口を開いた。
「私にこの感情は解りませんが、主がおっしゃることならば遂行したいと思います…」
「うん、頑張って!」
サナはまだ変わってはいない。
だが、その表情には今までには無い影のようなものが差していた。
(…これは兆候か?)
それが何なのかサンコでも解らない。
だがなぜだろうか?まるでサナは我が子の様じゃないか。
…成長が楽しみで仕方がない。
しかしシモベは問題児たちが多い。
ぜひとも歪んで育たないように自分が矯正しなければ。
サンコはそう決めると次のジャガイモをサナの口に運ぶのだった。
・・・
「主、もう自分で食べれるのでお構いなく…」
「いや食えってオラオラ」
「…わざわざ主の手を煩わせる訳には…」
「オラオラ」
「…わぷっ……」
五分後、サンコとサナの立ち位置は完全に逆転していた。
理由はサナが我が子に見えてきて、物をあげるのが楽しくなってきたから…サナとしては命令を断ることは出来ずいい迷惑になっていた。
「…(もぐもぐ)」
「とはいえもうジャガイモもないですし~…そろそろ本来の仲良くなろう大作戦をば」
サンコは振り返ると、ゴブリン達の方を向く。
エンリちゃんは未だ厨房だし、戻ってくるまでゴブリンと世間話でもして暇を潰すのがいいだろう。
と思ったのだが――
ギロッ
――食事中のゴブリン達は揃ってサンコの事を睨みつけていた。
(仲良くお喋りって感じじゃないなぁ…)
多分喋りかけようものなら「オ゛ン゛コ゛ラ゛」あるいは「ア゛ン゛コ゛ラ゛」が発動され、不良が気弱な生徒を吹き飛ばすように反射的に「アッゴメンナサイ」と引き下がってしまうだろう。
…いや過去のトラウマとか無いけどね?一般人はアレに弱いんですよ!
何の話だ。
「…ん?」
しかし刺すような視線の中、殺気などは感じられない妙にキラキラした視線が一組だけあった。
姿こそ見えないが、子供の興味津々な視線が自らに向いていることをサンコは気がつく。
「…んん??」
サンコはそれの出所を辿っていく。
殺気の中で大分薄れてしまっているが、サンコに辿っていくのは容易であった。
そしてとあるゴブリンに視線が行きついた。
あれ?あのゴブリン私に興味津々?やだ…恋?
――じゃなくてそのゴブリンの背中には小さい女の子が隠れていた。
「…!」
サンコからの視線に気づいたのか、女の子の方も目を輝かせる。
子供の興味って旺盛ですよね。
というかこの女の子は…どんな家族関係だったかは覚えてないが、エンリの妹だろうか?
そして液体粘上の影に興味を持っていることも明白だった。
ならあの子から切り崩し、懐柔していくのがいいだろうウェヒヒ。
そしてサンコは声をかけようと――
「…ダニィ!?」
――ゴブリンの巧みな体捌きで女の子が隠されてしまう。
椅子の上での身体の向け方であそこまで奥の物を隠せると言うのかッ!?
しかし少女もサンコ見たさでゴブリンの体捌きの反対側に体を寄せようとする。
が、またもやゴブリンの体捌きでサンコの視線から隠してしまう。
それに女の子の方はむくれると小声でゴブリンに喋りかけた。
「…ちょっとジュゲムさん!見せてよ!」
「…いえ、ネムの妹君…あれは危険です。見るだけでも危ないです…!」
「…なによそれ!…いいじゃない別に!…」
何やら争っているようだが…まぁ俺の目的が達成されればそれでいいし…ゴリ押すか。
サンコは机の影に「接続」すると潜った。
「…!」
サンコを警戒していたゴブリン達に驚きが走り、立ち上がるとそれぞれの武器を持って緊張状態になる。
だがそれより先にネムが声を上げた。
「わぁ!小さいお馬さんだ!」
見ればネムの机の上には「影で作られた小さい馬」が本物のように走っていた。
今は皿の脇を抜け、力強い脚で机という大地を疾走していた。
ネムはそれを見るとキャッキャッと喜び、満面の笑みを浮かべた。
「凄い!凄い!!」
「気に入った?」
机から液体が噴き出し、球体を形作るとサンコの頭になる。
エンリはそれに驚きもせず、逆に喜ぶとキラキラとした目をサンコに向けた。
「うん!気に入った!…もしかしてさっきまであそこに座ってた人?」
「そうだよー名前はサンコ。よろしくねー」
「よろしく、サンコさん!私の名前はネムって言うの!」
「ネムちゃんだね。よろしく」
子供は先入観を持たない。
故にサンコのような化け物にも普通に接することができる。
純粋で綺麗だが、危ういところであるのも確かだろう。
そしてゴブリン達。
未だに武器を構えているが、なまじネムが近くにいるため手が出せないでいるようだった。
勿論計画通りだ。
なによ!計画通りなんだからねっ!?
…まぁそんなことはどうでもいい。
サンコはネムに意識を戻すと、会話を続ける。
「他になんか見たいものある?」
「えっーとね…ウサギさん!」
「ほい」
サンコは馬を一度潰すとその容積で小ウサギを作る。
毛並みの表現が難しかったが、触ってもモフれるようにした。
「ウサギさんだ!」
ウサギはピョンピョンと跳ねるとネムの手に近づいていく。
そしてそのままネムの手の甲に乗っかった。
「モフモフ!可愛い!!」
「…ネムちゃんは可愛い子だからねー、ウサギさんがなにか一つだけ芸を見せてくれるって」
「ほんと!どんな?」
「えっーとね…ジャグリング、反復横跳び、発情期、爆発…どれがいい?」
「んー…爆発!」
「なかなか渋い選択するね…」
サンコは苦笑すると、本当にウサギを爆発させようとする。
そしてウサギが爆発する寸前で、シャルティアとエンリが「厨房」からやってきた。
「ふむふむ…そう作るんですりんすぇ」
「はい、自慢できるほどのものでは無いんですが…」
今までシャルティアはエンリからこの昼ご飯の調理法を教わっていた。
まぁ利用価値があるとは思えないが、一応だ。
「あっ、おねぇちゃん!」
ネムはエンリの方に振り返ると、手を振る。
エンリはそれに気がつくと、駆け寄ってくる。
「ネム、今日のお昼ご飯味は大丈夫だった?」
「うん!前みたいに焦げ臭くなかったよ!」
「あ、あれは初めてだったから…!」
エンリは顔を赤らめると、否定する。
…がその顔に一瞬だけ影が差していた。奇跡的にも誰にも見つからなかったようだが…。
そしてすぐに元に戻ると、机の上のウサギに気づいた。
「ネム、なにこのウサギさん?」
「サンコさんが遊んでくれてたの!」
「え?」
エンリがネムの指さす方向を見ると、そこにはサンコの頭だけが机から出ていた。
エンリの瞳孔が見開かれ即座に頭を下げた。
「サンコ様、ネムが何かご迷惑をおかけしてないでしょうか!?」
「いや問題ないよー!俺こそこんな可愛い子に接待してもらえて嬉しいくらいだ」
「そ、そうですか…?」
「うん問題ない」
エンリは胸を撫で下ろすと、ネムを見る。
それは唯一の家族であるネムを失いたくないという、不安と思いが込められていた。
「…サンコ様?」
シャルティアがエンリに追いつき、そして机の上のサンコに気がついた。
「あーシャルティアー。調査は終わったかえ?」
「はい、滞りなく」
シャルティアは調理法が細かく書き込まれたレポートをサンコに渡す。
サンコはスライムらしく体内に落とすと、留めておいた。
「確かに…へぇ芋こんなに使ってんのか」
「あ、はい。うちはゴブリンさん達の分も賄ってますから…」
「ほーん。じゃあこのガラムマサ――」
そして気づけばエンリとサンコの料理談義は始まっていた。
トップ同士の穏やかな会話、それにゴブリン達の緊張も解かれ各々席に戻った。
そして安心ついでにざわざわとし始め、また元の喧騒に戻り始めた。
そんな中、ネムもシャルティアに喋りかける。
「あなたもサンコさんの友達?」
「様付けを…ごほん、そうでありんすぇ」
「やっぱりね!私の名前はネム!あなたは?」
「シャルティアでありんす、以後お見知りおきを」
シャルティアは仲良くお喋りというのを念頭に置きながら、ゆっくりと微笑みながら会話する。
「よろしくシャルティアちゃん!…ところでなんでそんな喋り方なの?」
「これは至高の御方から頂いた個性でありんす…そんな、なんて言わないで欲しいでありんすぇ」
「…!ごめんなさいシャルティアちゃん」
「……気を付けてくれたらいいでありんす」
暗い顔で頭を下げたネムにシャルティアは仏頂面で許す。
ネムはそれにパァッと顔を明るくすると、今度は遠くに座っているサナを指さした。
「あっちのおねぇさんは?」
「あぁ。あれは私と同じサンコ様の従僕でありんす。名前はサナ」
「サナさんね…」
ネムは頷くと、どこか尊敬の眼差しを向ける。
それにシャルティアとの呼称の差異を、シャルティアは見逃さなかった。
「ちょっと待つでありんす。なんでサナだけさん付けで私はちゃんなんでありんすか!?」
「え?嫌だった?」
ネムは大真面目に不思議そうな顔をする。
そして答えた。
「だってシャルティアちゃんって私と同じくらいの年でしょ?」
「違うでありんす!私の方が年上でありんす!!」
「そうなの!?私てっきり…それにあの人凄い大きな胸してるし…」
事実、サナの胸は豊満であった。
「ロリに一緒にされた挙句、貧富の差が…子供は正直…!」
「え…?なんかごめんなさい…」
ウガ―と悶絶するシャルティアにネムは訳も解らず謝る。
「別にいいでありんす!その謝罪で私の胸は膨らまないでありんす!」
「なんか良くわかんないけど…ドンマイ!!」
「や め る で あ り ん す !」
シャルティアはネムの純粋な慰めに心を折られそうになりながら、少しでた涙を拭ったのだった…。
・・・
「ご馳走様でした」
エンリは自分の昼飯を食べ終わると、少し食べ過ぎだったかと、お腹をさすった。
「あ、エンリちゃん食べ終わった?」
食べ終わったタイミングを見計らってか、サンコが声をかけてきた。
「はい、ネムと遊んでいただきありがとうございました」
エンリは頭を下げる。
サンコには今まで、エンリが昼ご飯を食べている合間ネムと遊んでもらっていた。
サンコは液体の身体で様々な物を作り、ネムを楽しませていた。
エンリが最後に見た時はウサギが爆発していたが…。
「それじゃ村の案内してもらえる?」
「はい!」
エンリは立ち上がると頷いた。
「ネムちゃんも来る?」
「うん!行く!!」
サンコと戯れていたネムは立ち上がると、目を輝かせて喜んだ。
サンコも人の形を作ると、立ち上がった。
「んじゃあ…行くよサナ、シャルティア」
サンコは自分の分を食べ終えていたサナとシャルティアに声をかける。
ずっとつまらなそうにふてていた二人は起き上がると立ち上がる。
「「サンコ様の御心のままに」」
そしてお辞儀をすると、サンコの傍に付きしたがった。
「それじゃあカルネ村観光改めて行ってみよー」
サンコの号令。
エンリを先頭にサンコとネム、その後ろにシャルティアという奇妙なパーティはエンリ宅のドアを抜けて外に出る。
――しかし、そこにゴブリンが一人走り込んでくる。
「エンリの姐さん!」
「どうしたんですか!?」
ゴブリンの表情はとても険しく、息も荒い。
そして緑色の肌から汗が零れ落ちると、要件を告げた。
「敵です!」
・・・
村の入り口。
そこには麦畑があり、ゴブリン達がこの前の法国騎士の襲来のような事態に備えていた。
そして先刻、カルネ村に向かってくる武装した集団を確認した。
数は六…馬車を引いていて中に何があるかは解らないという話だった。
そしてとりあえずの交渉を目的とするためエンリが呼ばれたのだった。
「…はっ…はっ…サンコ様はお隠れください…」
エンリは先に走るゴブリンを追いかけながら、並走するサンコに声をかける。
「襲われてる人は見過ごせないよぉ…まぁこっち側としてもそれが望ましいし」
今走っているのは三人のみ、シャルティアとサナにはネムちゃんの護衛を任せた。
危険ではないかと心配されたが、いい加減シャルティア以外の戦闘経験を積んでおきたかった。
「だけどまず交渉でしょ?邪魔になる可能性もあるし、そん時まで姿隠してるかも」
「はい…!」
サンコは訝し気な視線をエンリに送る…しかしそれは無用だったようだ、エンリの眼には確かな闘志が沸き立っていた。
(まぁ俺的にはこじれて全員殺させてくれたら嬉しいんだけど…平和主義になっちゃうかぁ)
サンコはため息まじりに苦笑する。
そしてすぐに麦畑の黄金が見えてきた。
「こっちです!姐さん!」
ゴブリンの指示に従い、敵を留めているであろう場所にエンリは誘導される。
サンコもまだ潜らず、そのままついていく。
「村が襲われたって…!彼女は無事なのか!?」
村の入り口付近に辿り着いた、その時麦畑から大きな声が聞こえた。
見ればゴブリンに囲まれた馬車と何人かの武装した集団がいた。
そしてどうやら声の元はその中心にいる目元の隠れた少年のようだが…?
そしてその少年がこちらに気づくとまた吼えた。
「エンリ!!」
その咆哮にエンリは目を見開き驚く。
そして名を呼んだ。
「ンフィーレア!?」
それは友達であり、とても敵ではない人物。
エンリは嬉しくなり、その一団…ンフィーレアに駆けよろうと――
「ちょい待ち」
――サンコに止められた。
「どうしたんですか?」
「いや…もう帰るってのと、俺たちの事は誰にも喋ったらダメだぞ?それじゃ」
「あッ!」
急にサンコは自分の影に潜ってしまった。
「…?」
エンリにその行動の意味は解らなかったが、特に気にせずンフィーレアに近づいて行ったのだった
・・・
「なんでアインズさんがいるんですかねぇ…!」
影の中を全速力で泳ぎながらサンコは焦りながら、ぼやく。
さっきの集団。
敵意はなさそうだったので半ば安心していたのだが、「黒い大鎧をきた大男」を見た瞬間その考えは無に還った。
アインズさんは現在、冒険者として行動している。
そして情報隠蔽の一環なのか、本来の魔法職ではなく戦士として活動しているようなのだ。
…つまり、アインズさんがこの村に来た…来てしまった。
一緒にいるのがいなければよかったのだが、なにかコネクションを作っている途中なのかもしれない…ならばアインズさんと関係があると思われるのは不味いだろう。
流石にアインズさんもそんなことは気づいているだろうし、急げば問題は無い。
(というかアインズさんにカルネ村に行くって連絡したよな…?)
アルベド辺りに頼んだはずなんだが…なぜ来たし?
まぁそんな裏方の話はどうでもいい、今大事なのは急いでここから離れないとマズイということだ。
「ここらへんか?」
そして今、サンコはサナとシャルティアを回収すべく、エンリ宅に向かっていた。
一度繋いだ影はある程度の時間「窓」を開き続ける。
自分の影は常に開き続けているが、大体三十分くらいで閉じてしまう。
今回の場合目指すのはエンリ宅の食堂の長机…それが作った影だ。
そしてサンコは浮上すると頭だけだして確認する。
「よし」
大当たり、サンコは目的地につけていた。
そして体ごと持ち上げると、再びエンリさんちに立った。
「サンコ様!?」
そこにはネムとサナ、そしてシャルティアがいた。
「おい、アインズさんが来てる。逃げるぞ」
時間がないので単刀直入に伝える。
「アインズ様が!?挨拶を…」
シャルティアが慌てる。
その様子にサンコは若干イラつくと、動こうとしたシャルティアを制止した。
「アインズさんは現在アインズさんじゃない…意味は解らんくていい。とりあえず逃げんぞ!」
サンコはシャルティアの返事を聞かずに「自らの影に落とした」。
「サナ」
「御意」
サナに声をかけると、迷わずサンコの影に飛び込む。
「あーネムちゃん?いる」
そして後処理。
ネムの名前を呼ぶと、二階からネムが降りてきた。
「なに?サンコさん」
「今から帰らなくちゃいけないんだけど…俺たちのことは秘密ね?」
「帰っちゃうの!?ヤダー…帰ったら秘密ばらす!」
「凄い端的に脅迫してきた!?…今度またきてウサギ爆発させてあげるから!」
「うん!解った」
「…じゃあね」
「じゃあね!」
サンコはネムの将来が少し恐ろしいと思いながら、再び影に潜ったのだった。
・・・
「やり残しないよね!?」
「大丈夫かと思われ」
「サンコ様申し訳ありませんでした」
「いいのよー、ただ規則に縛られないようにね」
サンコは影ごと分離し、泳いでいく。
エンリ宅の壁の下を通過し、森と村の境界…エンリと初めて出会った道に入る。
人気はないし、このまま森に入ってしまえばシャルティアの「転送門」を使い、ナザリックまで一気に戻ってしまおう。
そして早足にならないよう、気配を消しながら森の中に入ろうと――
――漆黒の大剣が飛んできた。
「ひえっ」
大剣はサンコの進もうとした進路の目と鼻の先に深々と突き刺さった。
そして轟音と共に炸裂する。
見れば200m先、弓の修練場付近に漆黒の鎧を纏った大男がいた。
その姿勢は見事な投擲の後…振りかぶった後であった。
「モ、モモンさん?何を…!?」
アインズ、もといモモンの突然の行動にエンリは驚き、駆け寄る。
モモンは首を傾げると、謝罪する。
「いやすいません…なんかかなりの邪気を感じたもので…」
(おいいいいいい!!?ばれたらどないしてくれんねんわれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!)
あの人気がついてやがらねぇ…。
サンコは情報連絡ミスを確信する。
「おかしいな…」
そしてアインズはゆっくり歩いてくると、大剣を地面から引き抜く。
サンコはじっと動かないように影を演じる。
「気のせいか…」
そして大剣を背中に戻すと、アインズは去って行った。
(この人…この人ォ!!)
サンコは無い心臓がバクンバクンと音を出すのを聞きながら、震えていた。
そしてゆっくりと森に移動すると、茂みに入ったのだった。
・・・
「はー…大冒険でしたなぁ…」
「そうでしたね」
ナザリック第9階層、サンコの私室。
サンコは良く整えられた高級ベッドの上でゴロゴロしていた。
脇にはサナが立っており、サンコと会話をしていた。
「アインズさんェ…」
「アインズ様にもやんごとなき理由があったのでしょう…多分」
「お前アインズさんのことどう思ってるの?」
「…サンコ様の次、です」
「……まぁそれならいいかなぁ…」
サンコは軽く笑うと、身体を揺らした。
そしてその時、自室の扉がノックされた。
「シャルティアとデミウルゴス、ただいま馳せ参じました」
「いいのよさー」
そして扉が開かれると、シャルティアとデミウルゴスが入ってくる。
「「失礼します」」
二人は服従の姿勢をとると、ベッドの前に頭を下げた。
サンコはベッドを荒らしながら転がっていく。
そして若干溶けながら寝そべりながら手を上げる。
「いやーシャルティアちゃん乙」
「いえ、当然のことです」
「んじゃ下がって良くてよー」
「御意」
シャルティアは立ち上がると、サナの隣に立つ。
サンコはシャルティアが移動しきったのを確認すると、デミウルゴスに向き直った。
「それじゃあデミウルゴス」
「はい」
「まずは来てくれてありがとうねー」
「いいえ、シャルティアも言っておりましたがサンコ様のご命令とあらば何をおいても馳せ参じます」
デミウルゴスは更に頭を下げる。
「いやね、伝言で教えてもらっても良かったんだけど…やっぱこういうのって直接聞いたほうがいいっていうか…」
「ほう…?」
デミウルゴスは顔を上げ、少し口角をあげる。
「ていうか本人に聞けばいいんだけどねえー…」
「なるほど…ではアインズ様に関係のあることでしょうか?」
「流石デミウルゴス!解ってるぅー!」
「お褒めに預かりまして…」
サンコは手でGJを作ると、デミウルゴスに送る。
それにデミウルゴスも一度頭を下げた。
そしてサンコはGJを人差し指に変えると、指を振った。
「それじゃ要件について早速」
「はい」
サンコは完全に溶けると再び人型を形成する、そしてベッドに座った。
指を組むと、笑いかける。
そして告げる。
「アインズさんの目的ってなんぞ?」
サンコの目的は「心の穴を埋める」こと。
そして前から聞こうとはしていたが、アインズさんの目的がハッキリとしない。
本人が情報収集をして立場を確立する。
というのがアインズが今行っていることだろう。
しかし情報が少ないし、なにか決められる訳じゃないだろう。
であるならばアインズの行動は…?
とりあえず立場を確保するということだろうか…何故?
「それは…」
デミウルゴスは眼鏡を押し上げると、さらに口角を上げる。
アインズに目的がないならそれはそれで良い。
しかし確認するのとしないのとでは違う。
そしてアインズがそれを言う可能性があるのは階層守護者クラスになるだろう。
だがシャルティアなどはダメだ。
言うとして…指揮官であるアルベドか、デミウルゴスに限られるだろう。
しかしアルベドはアインズ関連になると変に言葉で飾るところがある。
だからこそデミウルゴスを選んだ。
「それは?」
言葉を溜めるデミウルゴスにサンコは苦笑まじりに次を催促する。
この男、けして不快にならないレベルで遊んでいる…その為の苦笑だ。
そして長い間の後、デミウルゴスは告げた。
「それは…世界征服です」
はー…次回から本編でーす