この素晴らしい世界樹の守り手に祝福を!   作:夏が好き

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第1話

 あたまはディセンダーである。

 世界樹の守り手として、世界樹が遣わした世界の救世主である。

 ルミナシアとジルディアの、文字通り世界と世界の戦いを無事終結させ、平和な世を取り戻した誇張抜きに救世主である。

 そんなあたまだが、現在頭を抱えて途方に暮れていた。

 石造りの町の風景が広がる景観に、忙しなく行き交う人々。そして燦々と照りつける太陽とその太陽光を吸収して発熱する石畳。

 紛れもなく外である。平和で活気のある良い町だ。

 だが、それが余計にあたまの頭を混乱させた。

 己の記憶が正しければ、バンエルディア号の食堂で長髪の剣士が作ったスイーツを片手剣と短剣を同時に扱う少年と共に食していたはずだ。

 それなのに、なぜ自分は見覚えのない土地に降り立っているのか。

 一分丸々思い悩み、それでも答えを得ることが出来なかった。出来なかったが故に、一つの解にたどり着いた。

 

 ──マッドサイエンティスト。

 

 なんの前触れもなく、常人には理解出来ない現象が起こったのならば、それすなわちマッドサイエンティストの仕業である。あたまがバンエルディア号で学んだことだ。今回のこれも、きっと彼女の実験の副産物なのだろう。

 疑問が解消したことでスッキリしたあたまは、帰るために行動を起こすことにした。あたまは切り替えが早いのである。

 まずは現状把握、これに尽きる。だからまず、ちょうど目の前を通りかかった女性に声をかけることにした。

 

「あら、どうかしたのかい? ……ここ? ここは駆け出し冒険者の町アクセルよ。……アドリビトム? 聞いたことないねぇ、ギルドならここを道なりに進めば着くんだけど……世界樹? アイテムかい、それは?」

 

 あたまが女性に尋ねたのは現在位置、ギルド・アドリビトムと世界樹の所在だ。

 あたまにアクセルという地名の知識はなく、ダメ元でアドリビトムの所在を聞き、それでもダメだったので最終手段として一旦世界樹に帰還し、そのままアドリビトムまで飛ばしてもらおうとしたわけだ。

 だが、その目論見は見事に外れてしまった。いくら世界的に有名になったとはいえ、空飛ぶ船を拠点とするアドリビトムの所在がわからないのは考えられるが、世界樹がわからないとはどういうことなのか。

 世界樹とは世界の象徴であり、世界そのものだ。いくら常識に疎くても世界樹を知らないというのはあまりにも無知すぎる。

 あたまは脳裏によぎる嫌な予感を振り切るために、同じ文言の質問を複数人にかけてみた。結果は最初の女性と変わらず、アドリビトムと世界樹を知るものは一人も居ない。

 まずい、非常にまずい。アドリビトムを知られていないのは自分たちの頑張りが足りないからだと笑い飛ばすことが出来るが、世界樹? なにそれアイテム? と返されるのは笑えない。それではまるで、異世界(・・・ )からやってきた金髪の少年たちと同じ反応ではないか。

 少年たちはマッドサイエンティストの実験によって異世界からルミナシアに連れてこられたわけなのだが、自分はルミナシアから異世界にはじき出されてしまったのだろうか。

 誰一人自分の望む答えを返してくれず、仮説が現実味を帯びていく中、あたまは右手に持っていたフォークを握りしめて途方に暮れた。

 

 

 

「あの、大丈夫ですか……?」

 

 フォーク片手に呆然としていると、後ろから声がかかった。優しげな女性の声だ。

 振り向くと、心配そうにこちらを見つめる長髪の女性がいた。

 意地を張る必要もないので、素直に困っていることを告げた。遠くから来たが土地勘がないため帰り道がわからない、とぼかしてはいるが。

 

「それは大変ですね……力になりたいのはやまやまなんですけど、そろそろお店に戻らないといけませんし……。 この先にギルドがあるので、そこで相談してみてはいかがでしょうか。道のりを聞くだけでは依頼料も取らないでしょうし、もし一人で帰ることが難しいのであれば冒険者の方に依頼を出して護衛をお願いすることもできますし」

 

 アテがないのであればひとまずギルドへ行くことをおすすめしますよ、という女性の言葉にあたまはなるほどと頷いた。

 ギルドがあるということは最初に声をかけた女性が言っていた。ギルドならば周辺、もしくは世界地図を置いているだろう。情報が少ない今、思い込みだけで行動するのは早計というものだ。

 女性の意見を全面的に肯定し、感謝の言葉を述べる。

 それに対し、女性はにこやかに笑って返した。

 

「いえいえ、困った時はお互い様ですから。無事お家に帰られるといいですね」

 

 人の良い笑顔で送り出してくれた女性に、再度礼を述べてから教えてもらった道のりを歩いて行く。目指すはギルド、目的は帰るための情報収集。

 その足取りに迷いはなかった。何度も言うが、あたまは切り替えが早いのである。

 ディセンダーは恐れを知らぬ存在、ゆえにあたまは前に進む。縁あれば先ほどの頭からプスプスと煙を発していた優しい女性にもう一度会いたいと思いながら。

 

 

   ◇

 

 

 目の前に広げられている世界地図を前に、あたまの思考は止まっていた。

 手にとって逆さにしたり、灯りに透かしてみたりしても結果は変わらない。

 女性の助言通りにギルドへ赴き、ひとまず地図を借りることにしたあたまだったが、新たな問題に直面していた。

 文字が読めない。別にあたまの頭が弱いわけではない。一般教養は生まれ落ちた直後に出会った少女や仲間たちに教わっているので読み書きは問題なくこなすことが出来る。

 だが、目の前の文字らしきものを読むことが出来ない。ところどころ読めないのではなく、全てが理解不能。まさかの展開である。

 文字は読めなかったが、一つ収穫があった。やはりここはルミナシアではない世界のようである。世界中の地理を写す地図の中に、見知った地形はおろか世界樹の記載すらなかった。

 さて、異世界に飛ばされたと確信したわけだが、これからどうすればよいのだろうか。もちろん帰る方法を探すべきなのだろうが、ハッキリいってどうすれば帰ることが出来るのかサッパリだ。現状思いつくのはアドリビトムが誇るマッドサイエンティストたちの科学力による救助を待つことくらいだろうか。

 とりあえずは保留、現状維持。地道な情報収集で帰還方法を探って行く。

 当面の目標を新たに定め、不要になった地図を受付のお姉さんに返却する。そしてギルドを出ようとしたところでお腹がなった。

 先ほどまでスイーツを食べていたわけだが、中途半端な量だったので余計に胃袋が食料を欲しているのか。

 幸いにもギルドには酒場が併設されており、食事をとることが出来る。ちょうどいいタイミングだとあたまはそこで腹を満たすことにした。

 外食なんて滅多にしないあたまにとって、料金の相場がわからない。一個人が持つには過ぎた所持金をもつあたまではあるが、アドリビトムに帰還出来る日がいつになるのかわからない今、一ガルドたりとも無駄に消費することは許されない。

 そこで、あたまは違和感を覚えた。

 どこに違和感を覚えた。アドリビトムに帰還出来る日がいつになるのかわからない? その通りだ。一ガルドたりとも無駄に消費することは許されない? あたりまえだろう。……ガルド?

 ただの杞憂であってくれ。そう願いながらすぐ近くのテーブルに腰掛ける男に尋ねる。

 

「ああ? 金の数え方はエリスに決まってんだろ。エリス様のエリスだよ、変なこと聞く坊主だな」

 

 あたまはディセンダーである。

 世界樹の守り手として、世界樹が遣わした世界の救世主である。

 ルミナシアとジルディアの、文字通り世界と世界の戦いを無事終結させ、平和な世を取り戻した誇張抜きに救世主である。

 そんなあたまだが、現在無一文で異世界へと飛ばされていた。

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