この素晴らしい世界樹の守り手に祝福を! 作:夏が好き
あたまはディセンダーだ。
ディセンダーはなにものにも縛られない、自由な存在。ゆえにあらゆる可能性を秘めており、どんな存在にだってなることが出来る。
──そう、土木作業員にだって。
「坊主! それ終わったらこっち来てくれ!」
先輩作業員の声に了承の意を返し、あたまは作業に没頭する。
なぜあたまが土木作業に勤しんでいるのか。それは一月ほど前のことだった。
お金がない。
異世界に飛ばされた初日に気付いた事実は、重くのしかかった。ライマ王国の王位第一継承者ではあるまいし、物を買う対価として金銭が必要なことは知っている。ガルドは持っていたが、この世界の通貨であるエリスを持っていなかったあたまは、一食購入するのもままならなかったのである。
そんな時だ。今お世話になっている土木作業の親方に出会ったのは。
──金がねえならうちで働きな。
ガルドの詰まった財布を何度も覗いていたあたまを怪訝に思った親方が声をかけ、包み隠さず金がないと答えた際の言葉だ。日給五千エリスと薄給だが、働き口にあてのないあたまにとっては渡りに船だった。
一日中街の外壁を拡張する作業。なかなか身体に堪えるが、やりがいのある仕事だ。それに加え親方に拾ってもらったという恩義がより作業に熱を込めさせた。
だが、そろそろ次の行動を起こさなければならないだろう。あたまとて、毎日ただ労働していたわけではない。
冒険者。それはギルドに属し、冒険者カードに記載されているスキルなどの恩恵を受けることのできる者たち。冒険者とは文字通り冒険する者を指す。冒険とは世界中を旅することだ。冒険者の存在を知ったあたまは、冒険者になり、世界を旅して元の世界に戻れる術を探そうと考えているのだ。
そのためにはこの街を離れる必要がある。それは、助けてくれた親方の下で働けなくなるということを指していた。
一日の作業が終わり、皆が帰る中、あたまは親方に語りかけた。内容はもちろん自分が冒険者になりたいということ、そしてゆくゆくは世界を旅したいということだ。
「……俺とお前は一応上司と部下って関係だが、赤の他人ってことには違いねえよ。だからなにをしようとも俺に止める権利はねえ、どこへなりとも行っちまいな」
突き放すような親方の言葉。多少なりとも情が湧いていたあたまに、その言い草は深く突き刺さった。
仲良くなれていたと思っていたのは自分だけだったのだろうか。あの初めて会った時に声をかけてくれたのはただの気まぐれだったのだろうか。
思わず、視線が下へと下がる。
「……だが、冒険者ってのもいろいろ不安定な職業だ。世界を旅するんだったら辛いこともたくさんあるだろう。辞めたくなったら、いつでも戻ってこい。今以上の給料は出せないが、仕事は用意してやる」
達者でやれよ、と後手を振る親方に、あたまはなにも言わずただただ頭を下げ続けた。
◇
「そこの者よ、宗派を言いなさい! 私はアクシズ教団が崇める御神体、女神アクアよ! 汝、もし私の信者ならば……お金を貸してくれると助かりますっ」
ギルドにて冒険者として登録しようとしていたところ、なにやら訳がありそうな女性に絡まれた。
アクシズ教団やら御神体やら聞きなれない言葉があったが、どうやらお金がないらしい。同じギルドの建物で金欠で泣いた身としては、彼女の力になりたい。
アクアと名乗った女性に、同じく名を名乗り一万エリスを手渡す。返さなくてもいいという言葉も付け加えてだ。
「ほんとっ!? あなたよっぽど熱心なアクシズ教徒なのね! カズマ! やったわよカズマ! 見なさい、この私がちょろっと本気を出せばこのくらい容易くぷぎゃっ」
「バカ、このバカ! 見ろよ相手のこの顔! 何が何だか全くわかってないって顔だぞ! こんな子にカツアゲして心が痛まないのか!?」
「バカ!? ニートのくせに女神にバカって言った! それなら自分でお金稼いできなさいよ!」
聞くに堪えなかったあたまが、二人に割いって諍いを止める。
正直アクシズ教団やら女神アクアやらに覚えは無いが、自分も困っていたところを色々な人に助けてもらった身として二人の力になりたいこと。お金はまた稼げばいい話なので返す必要はないことをカズマと呼ばれた少年に伝えると、渋々ながら引き下がってくれた。
「悪いな、こいつが無理言って。冒険者登録したかったんだけど、一人千エリスが必要だったんだ。俺はカズマ、それでこっちがアクア。おかげで助かったよ」
なるほど、どうやら二人は自分と同じ目的を持っていたらしい。それならば、同じ駆け出し冒険者として仲良くしておきたい。あたまはカズマに名乗りをあげ、これから冒険者登録をするところだと告げた。
「へえ、いい名前だな。どうせなら一緒にやろうぜ、駆け出し同士手を貸し合えることもあるだろうし」
願っても無い申し出に、あたまは頷いた。
カズマ、アクアを伴い受付へと足を進める。
「あの、登録料持ってきました」
「……はい、それでは説明の方に移らせていただきますね」
カズマが率先して登録を進めてゆく。
冒険者とは街の外に生息する人に害を与えるモンスターを討伐するなどをして生計を立てる人たちの総称であること。冒険者には様々な職業があり、経験値を貯めて強くなることが出来ること。目に見えない経験値を見るためには、特別なカードを用いること。
大まかだが、受付のお姉さんは丁寧に教えてくれた。……先ほどの騒ぎを聞いていたのか、こちらと視線を合わせてはくれなかったが。
次に手渡された用紙に、必要事項を記入していく。
身長、体重、年齢に身体的特徴。
年齢については適当に書いて誤魔化しておいたほうが得策だろう。
「はい、結構ですよ。それではこちらのカードに触れてください。それであなたたちのステータスが分かりますので、数値に応じた職業を選ぶことが出来ます」
最初はカズマ。
「筋力生命力、魔力に器用度敏捷性……どれも普通ですね。知力がそこそこ高く……おや? 幸運が非常に高いですね、まあ冒険者にはあまり関係のない項目なんですが。でもどうされます、これだと基本職の冒険者しか選べませんよ? 幸運が高いので商売人をオススメしますが……」
「ぼ、冒険者で……」
次はアクア。
「えっ、なんですこの数値!? 知力が平均より低いのと幸運が最低なことを除けば、全てのステータスが平均を大幅に上回ってますよ!? これだと知力を必要とする魔法使い職は無理ですが、クルセイダーやソードマスター、アークプリーストなどのほとんどの上級職に最初からなることが出来ます!」
「え、なになに? それってすごいことなの? まあ、私くらいになれば当然よ当然。女神って職業がないのが残念だけれど、私の場合はアークプリーストかしら?」
最後にあたま。
「これはっ!? 全てのステータスが最高レベルと言っても過言ではないほどです! まさにどんな職業にだってなることが出来ますっ!」
どれになさいますかっ!? と掴みかからん勢いのお姉さんに、あたまは若干引いていた。
いったいなぜこんなにも熱くなっているのだろうか。
カズマは遠い目をしているし、アクアも「流石アクシズ教徒、これも私のご加護ね」と頷いている。
希望もないため、とりあえずはカズマと同じ冒険者となることに決めた。
「本気、ですか……? 冒険者は全スキルを扱えますが、スキルポイントが多く必要になるのでこれといった特徴のない人がなる職業なんですよ……? 巷では最弱職なんて言われてますし」
「いるから、ここにいるから。たった今その最弱職になった特徴のない人がここにいるから」
再三にわたる受付のお姉さんの説得。
それでもあたまは首を縦に振らなかった。
あたまはディセンダー。ディセンダーはなにものにも縛られないのだ。
「うっ……で、でも後に職業を変更することも出来ますのでっ! 気が変わりましたらいつでも相談に来てくださいね!? ……こほんっ、それでは冒険者ギルドへようこそ。スタッフ一同、皆様の活躍を期待しています!」
──かくして、あたまの新たな地での冒険が幕を開けたのである。