この素晴らしい世界樹の守り手に祝福を!   作:夏が好き

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第3話

「おし、ご苦労さん! 今日はもう上がってもいいぞ! ほら、今日の日当だ」

「ありがとうございます。おつかれっしたー!」

「したー!」

 

 カズマとアクアを見習い、声を張り上げる。

 

「それじゃ、皆さんお先でーす!」

「でーす!」

 

 またもや見習い、先輩たちに挨拶を済ませる。

 カズマたちと出会って二週間。異世界に迷い込んで一月半。もはや日課と化した街の外壁拡張の作業が、今日もまた終わった。

 今日も疲れた、夕食はどうする、ハンバーグがいいなんてたわいもない会話で盛り上がりながら帰路につく。

 道中大衆浴場で汗を流し、宿屋で夕食をすませる。そして予定もないので、馬小屋にて就寝の準備を。

 綺麗な藁を取り分け、即席のベッドに仕立てる。

 

「じゃ、おやすみー」

「おう、おやすみ」

 

 二人に返事を返し、睡魔に身を任せ──

 

「……いや、ちょっと待ってくれ」

 

 カズマがむくりと身を起こした。

 いったいどうしたのだろうか。もしやトイレか、あたまも気持ち行きたくなってきたので、着いて行くのはやぶさかではない。

 

「どうしたの、トイレの行き忘れ? 暗いから着いて行ってあげよ……あら、あなたも行きたくなったの? なら二人で行って来なさいな」

「ちげーよ。いや、俺たちなんで当たり前のように労働者やってんだって思ってさ」

 

 冒険者としてやっていくにあたって、丸腰では不安で装備を揃えるために労働していたと思っていたのだが、違ったのだろうか。

 もし違うのであれば、働き口を紹介したのはおせっかいだったのではと罪悪感が生まれてくる。

 

「いや、お前にはいろいろ助けてもらって感謝してるからそんな顔すんなって! ……俺、当初の予定ではこう、モンスターとかとズバッと戦ってー、とか考えてたんだよ。でもなんなの!? こっち来てからモンスターのモの字もないんですけど!?」

『うるせーぞ、静かにしてろ!』

「すんません! ……こんな生活じゃ、なんのためにこっち来たのかわかんなくなるんだよ。俺はもっと手に汗握る戦闘とかしてみたいの」

「そ、そんなこと私たちに言わないでよ。それに、装備も整ってないのにモンスターと戦いたいの?」

「いや、確かにそうなんだけどさ……でも、いつまでもここにいるわけにはいかないだろ? 魔王も倒さないといけないのに」

「魔王? ……? あぁっ! そうよ、魔王よ! 魔王を倒さないと帰れないじゃない、私!」

 

 ……なるほど。魔王とやらは初耳だが、大体の事情は察せた。

 どうやらカズマたちは早く冒険をしたかったみたいだ。それならそうと早く言ってくれればよかったのに。はじめから事情を知っていたのなら、冒険者登録を済ませてすぐに討伐系の依頼を受けていただろう。同じ駆け出しとして助け合わなくてはと考えていたためか、どうやら保守的な考えばかり浮かんでいたようだ。

 

「え、なに? お前俺たちがいなかったら即モンスター狩り行くつもりだったの? 世界を旅? ああ、仕事紹介してくれた時親方が微妙な顔してお前見てたのはそういう……」

「なんにせよ、明日は早速最低限の装備を整えて討伐系の依頼をうけるわよ! 大丈夫よ、この私と、自信満々なこの子がいるんだから!」

「そ、そうだよな。アクアは仮にも女神だし、お前も冒険者初日に旅に出ようとしてたくらいだもんな! よーし、それじゃあ明日はレベル上げだ!」

「任せてちょうだい!」

『うるせーってんだろ! 何回も言わせんな!』

「すんません!」

 

 

   ◇

 

 カズマとアクアは今日が初めての戦闘らしい。

 あたまは遠いようで近いあの日に思いをはせる。

 忘れもしない、 ピンク髪の少女と出会ったあの日。ルバーブ連山を下りる過程で初の戦闘相手としてエンカウントしたのはオタオタだ。青と白を基調とした、まんまるのおたまじゃくし型のモンスター。

 今となっては一撃で屠れるが、当時は幾度となく切りつけた覚えがある。

 思えば、あの時は世界を巡ることになるなどとは考えもつかなかった。人生なにがあるかわからないものだ。

 

「うぉおおおおおおっ! たすけてっ! どっちでもいいからたすけてくれぇええええっ!」

「プークスクス! カズマったらうけるんですけど! 顔真っ赤で涙目で超うけるんですけど!」

 

 あたまが物思いに耽っているうちに、なにやらカズマが大変なことになっていた。

 身の丈をゆうに超えるでっかいカエル。それに追いかけられ、絶体絶命のカズマ。そしてその光景を笑うアクア。

 なかなかカオスだが、戦闘経験がない場合は逃げ回るのも仕方がないだろう。

 いつでもサポート出来るように準備をするあたま。だが、それを必要ないと言わんばかりにゆったりとした足取りで、余裕そうな表情を浮かべながらアクアはカズマの方へと足を進める。

 

「しょうがないわね、助けてあげるわ! その代わりこれから私を崇めなさい! アクシズ教への入信はもちろんのこと、私が欲しいと言ったおかずは素直に寄越すこと! そして──ひゅぐっ!?」

 

 アクアが消えた。片足だけを残してアクアが消えた。残りはカエルの口の中だ。

 つまりはカエルにアクアが食べられたわけなのだが、あたまは慌てなかった。

 あれだけ豪語していたのだ。でっかいカエル──ジャイアントトードを倒す術を持っていたに違いない。あたまが使う術技の中にダウン中の相手にしか使えないという、特殊な環境を必要とするものがある。アクアも、食べられることによって真価を発揮する技を持っているのだろう。

 いったいなにが起こるのだろうかとワクワクしながら観察していると、さっきまで追いかけられていたカズマがワナワナと震えだした。

 

「……お、おま、食われてんじゃねぇええええ!」

 

 

 

「ぐすっ、うぅっ、うぇええええっ、ぐすっ……」

 

 別に策があってカエルの口に飛び込んだわけではなかったようだ。

 アクアを捕食して、身動きが取れないところをカズマによって頭をかち割られたカエルを見ながらあたまは反省する。次からは自信満々でも危なそうならフォローするとしよう。

 

「汚されたぁ……私、カエルに汚されたぁ……!」

「し、しっかりしろよアクア。あれだ、今日はもう帰ろう。依頼は五匹討伐だけど、こんな調子じゃ命がいくつあっても足りない。せめてもっと装備を固めてから出直そう。……悪いな、アクアがもうちょっと出来ると思ってたんだが、これじゃ荷が重い」

 

 ぬめぬめで傷心のアクアを気遣ってか、あたまにしか聞こえない声量で謝るカズマ。

 そう謝られては、こちらとしても心苦しい。カズマが追いかけられている時も、アクアが飲み込まれた時も自分はただ突っ立っていただけだったのだから。

 カズマに依頼を続行する気力はなく、アクアもこの有様。あたまとしては残り四匹まとめて自分が相手をしてもよかったのだが、その間に二人が危険な目にあうのは本意ではない。

 実質リーダー的存在のカズマの提案に依存はない。……依存はないが、どうやらアクアだけは違うようだ。

 

「この私がたかがカエルにこんな目にあわされて引き下がれるもんですか……! 信者であるこの子の前でこんな醜態晒したままじゃ、信仰心ダダ下がりよ!」

「いや、そもそもこいつお前の信者じゃないから。お前が勝手にそう思ってるだけだぞ」

「神に刃向かったこと、後悔させてあげるわ! 地獄で懺悔なさい! ゴッドブローっ!」

「ちょ、アクアっ!?」

 

 カズマの制止も聞かずに、ゴッドブローなる技を繰り出すべくカエルに詰め寄るアクア。

 素晴らしい加速、素晴らしいフォーム。神の名を冠すにふさわしい一撃だ。……相手が打撃系の攻撃に強くなければ、の話だが。

 ボヨンと間の抜けた擬音と共に、アクアの拳がカエルの腹にめり込む。だが、厚く柔らかい皮膚に覆われた相手は何事もなかったかのようにアクアを見つめている。

 図らずとも見つめ合う形となったアクアたち。アクアは冷や汗をかきながら、

 

「……か、カエルってよく見ると可愛いのね」

 

 本日二度目の捕食が決まる瞬間であった。

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